新生代の気候

   目次

§0 新生代の時代区分

§1 第三紀の気候とその変動
 1. 深海底の堆積物
 2. 氷河期と間氷期

§2 第四紀の気候とその変動
 1. 貝殻(有孔虫)の分析
 2. 氷床コアの分析
 3. 地球の軌道要素
 4. 気候変動と地球軌道変動の関係
 5. 太陽放射量の変動とモンスーン

§3 後氷期の気候とその変動
 1. 時間スケールの小さな変動
 2. 海洋循環
 3. 熱塩循環の異変と気候変動
 4. 古気候の再現

§0 新生代の時代区分

恐竜は約6500万年前,中生代末期の白亜紀と新生代の第三紀の地質学的境界で絶滅した。
この時期に恐竜のみならず地球上の生物種の約70%が突然に絶滅したといいます。
これと気候の変化との関わりについては中生代の気候のところで話すことにしましょう。

地質学上,5億7000万年前までを先カンブリア時代,それから2億2500万年前までを古生代,
2億2500万年前から6500万年前までを中生代,そして6500万年前から現在
までを新生代に区分されています。
さらに,新生代は哺乳類が繁栄する時代であり,地質学上6500万年前〜200万年前までの
第三紀と200万年前〜現在までの第四紀に区分されています。


  §1 第三紀の気候とその変動

深海底の堆積物1 1 深海底の堆積物

過去の気候を推定する一つの方法は化石の記録を調べることです。というのは化石
になった貝殻はそれが生きていた海水からとり込まれた酸素原子を含む化合物であ
る炭酸カルシウムからできているからです。

現在ではこれらの酸素原子から、貝殻が形成された時の海水の温度を知る手がかり
が得られます。具体的には貝殻中に含まれる酸素の二つの同位体酸素16 と酸素18
の存在比(酸素18)/(酸素16)を測定します。

この存在比は海水の温度が低くいと増すことが分かっております。また,軽い分子
の方が蒸発し易いので海水から蒸発した水蒸気は酸素16 が多く,それだけ海水の酸
素18 が増します。
したがって,貝殻(有孔虫殻)に含まれる酸素18 は両方の効果によって著しく増すこ
とになります。

2 氷河期と間氷期

図1は深海掘削計画で採取された新生代のサンプルに存在する化石中での酸素16 に
対する酸素18 の濃度の相対的変化を表している。
この図で示された年代は、掘り出された岩石を用いて決定されたものです。

図1で酸素18 濃度の相対的変化の値が大きいと気候は寒冷,小さいと温暖を意味し
ます。
この図から,第三紀の4000万年前ぐらいまではかなり温暖(間氷期)であったこと
が分かる。約3500万年前に最後の氷河期が始まって,500万年前ごろから急激 に寒冷化が進行して現在に至っている。

他の資料とも併せて考えると,間氷期では中緯度まで亜熱帯となり気温は現在より
もかなり高かった
と推定されている。
また,極地方は亜寒帯気候で,寒帯気候は見られなかったし,北海道などは温帯に入
り,植物が繁茂した。石炭はこの時代の繁茂した植物が炭化したものである。

間氷期(温暖期)と氷河期の原因は明らかにされていないが,以下のことが考えられる。

 @ この時期は1億3500万年前に分裂し始めたパンゲア超大陸の分離が進行中であり,
    分裂した大陸が現在の位置へとゆっくり移動している時期にあった。
 A 4500万年前アフリカ,南アメリカ,インドがそれぞれヨーロッパ,北アメリカアジア
    に向かって北へ移動し始めた。
 B したがって,大陸移動は二酸化炭素の濃度を高める可 能性があり,気候に重要な影響を与えた。
 C 同じ頃,オーストラリアが南の大陸塊から次第に分離 し,3000万年前には
    南極大陸が孤立した。
 D 南極の周囲に南極海流が形成され、海洋循環の変化が起きた。
 E その結果,南極の氷床が発達したと考えられ,これが間氷期から氷河期への移行となった。
   
§2 第四紀の気候とその変動

深海底の堆積物2 約3500万年前に起きた最後の氷河期は,約500万年前に急激に寒冷化が進んで
現在に至っている。第四紀(200万年前〜現在)は急速に寒冷化が進行した時期に
あるわけです。
> また人類の時代でもあります。第四紀になると試料はだいぶ豊富になってきます。

1 貝殻(有孔虫)の分析

深海掘削計画では新生代初期と中期の堆積物サンプルが掘り出された。これらの堆
積物の中にある岩石により年代が決定され,化石化した貝殻中の酸素18 の含有量に
ついて分析がなされた。

図2は深海掘削計画により海底から掘り出された化石化した貝殻中の酸素18 濃度の
相対的変化を示していて,酸素18 濃度の相対的変化が正になる程寒冷に向かい,負に
なる程温暖に向かう
ように描かれています。

このデータから過去100万年間の気候は氷期―間氷期を繰り返していたことが分
かる。
数学的解析により図2の氷期―間氷期のサイクルは約10万年,4万1000年,
2万3000年,1万9000年
をもっていることが明らかにされている。

これらの周期は,地球の軌道要素が変動する結果生じる太陽放射の変動と関連して
いる。
南極の氷床コア したがって,上記の気候変動は地球の軌道変化によって説明できる。
これは地球軌道の変化の時間スケールが数万年で,この気候変動の時間スケールと
同じだからです。

2 氷床コアの分析

数十万年前の古気候を調べるのに氷床コアを用いる方法があります。南極大陸や
グリーンランド,山岳氷河からコアを掘削し,コアの中の気体やイオン濃度を測定
する。

地表に降った雪は最終的に極などのコアになるが,コアはその時の陸や海とから
蒸発した水でできている。
降水や雪に含まれる酸素16 に対する酸素18 の量は気温が高いほど大きいことが
分かっている。
したがって、コア中の酸素同位体の含有量を測定すれば蒸発した陸や海における
温度が推定できるはずです。

図3は南極ボストーク氷床コアから推定された15万年前〜現代までの気温であ
る。
氷床コアの年代は,約5万年前までは年々形成される氷の層を数えることで決定で
きるそうです。より古い氷にたいしては別の方法で決定します。

3 地球の軌道要素

地球を含む惑星の軌道要素は,離心率,歳差運動,地軸の傾斜角の三つあります。
地球の軌道要素

   離心率:軌道の楕円の程度を表す離心率で図4にある上図の
           a/b で与えられる。離心率が変動する効果は歳差運
           の変動の振幅に影響を与え,結局,地球―太陽間の
           距離の変化に帰着する。離心率の変動は約40万年
       と約10万年の周期をもつ。

   地軸の傾斜角:地球の自転軸と公転軌道面との間の傾斜角
                (地軸の傾き)で図4下図に示 す。24.5°
                〜22.1°の間を4万1000年の周期で
                図5下図のように変動する。
一般に,傾斜角が大きいと夏季日射は強く,冬季弱く季節変化は大きくなる。
反対に傾斜角が小さいと季節変化は少なくなると考えられる。

  
   歳差運動 :公転軌道面内における自転軸の向き
             これは地球の自転軸が歳差運動することによって
             引き起こされる。歳差運動は結局それぞれの季節
             における 地球―太陽間の距離を変化させる。
             この変化は約2万3000年と1万9000年の
             周期 をもつ。

図5は離心率,歳差運動,地軸の傾斜角について25万年前から現在までの変動の様
子を描いたものです。
軌道要素の変動
歳差運動による北半球6月における地球―太陽間の距離の変化が描かれている。
これらの三つの要素は地球に対する,太陽や月そして他の惑星からの引力によっ
て変動する。
ミランコビッチの仮説

セルビアの数学者ミランコビッチは1920〜1930年代に地球軌道の変化を定
量的に求め,彼は夏季北半球高緯度帯での日射の減少は大陸氷床の形成に重要である
とした。

夏季に日射量が減少すると,前の冬の雪が保存され易くなり,雪氷でおおわれた地域
の高いアルべド(地球で反射された放射量と入射太陽放射量の比)は正のフィード
バックをもたらして氷床の形成の前進をまねくだろうと考えた。

完新生気候図製作協力計画

古気候学の国際研究の一環として完新世気候図製作協力計画
(Cooperative Holocene Mapping Project : COHMAP)という国際研究グル
ープがある。
このグループの研究目的の一つは,過去2万年の古気候をシミュレートすることによ
り気候モデルを検証することである。
詳しい結果ついては後氷期の気候とその変動の節で話すことにします。

COHMAPや他の研究グループなどが得た研究成果から導き出された主要な
結論は,
「気候変動の大きな原因として,地球軌道の変化に起因する太陽放射量やその季節変化
の変動という自然要因がかなり重要である」
とのことである。

4 気候変動と地球軌道変動の関係

図2によると約13万年前,最も温暖(間氷期)であり,その後寒冷化して約2万年前に氷期を迎えている。
これを図3でみると約13万年前,気温は最高になりその後変動しながら気温は低下して1万8000年前ぐらいに最も寒冷(氷期)
になっている。

これは地球軌道要素の変動に伴う太陽放射量が変化したことが主な要因となって13万前の氷期から1万8000年前
の間氷期へ移行したことを示唆している。
これについてもう少し検討してみよう。

13万年前の間氷期(気温極大期)

13万年前の地球軌道は,図5より地軸の傾斜角は大きく24.5°ぐらいで(現在は23.5°),近日点(地球と太陽間の距離が最小となる日で,現在は1月)
が6月ぐらいになっていたことが分かる。また,離心率も現在より大きかった。

この条件では,北半球は現在に比べて夏期に多く,冬季に少ない太陽放射を受ける。
南半球は近日点が冬季になり北半球と逆位相になるが,地軸の傾斜角の効果は1年を通してみれば北半球とだいたい同じになる。

北半球と南半球の気候の相違は短い時間スケールではありうるが,数百・数千年のスケールでは大気や海洋の地球規模の大循環によって,
氷期・間氷期は両半球ともだいたい同じ時期に起きていたと考えられる。

太陽放射フラックスの変化 図6に15万年前〜現在までの地球軌道の変化に伴う太陽放射フラックスの変化が
描かれている。これは北半球夏季の平均太陽放射を,現在の値からの偏差(%)で示
したものである。

これによると13万年前の太陽放射は現在より20%近くも多い。夏季日射量の増
大は前年に降った雪を多く溶かすので,地球のアルべドの減少をもたらす。このこと
が正のフィードバック効果になって,冬季日射量の減少の影響を相殺するものと考え
られる。

このようにして約13万年前の温暖期が説明できるのではないかと思う。

図7は図3と同じ南極ボストーク基地の氷床コアの分析で得られた二酸化炭素濃度
とメタン濃度をしめす。
この図によると13万年前の間氷期に二酸化炭素とメタン濃度はピークを記録して
いる。
その後,二酸化炭素とメタン濃度は変動しながら減少して約2万年前の氷期に最小に
なっている。

図7と図3から気温と二酸化炭素濃度の間に強い相関関係があることが分かる。
二酸化炭素濃度は,海水温に依存して海中にある炭酸塩を多く含んだ堆積物から二酸
化炭素の気化が促進されるので,気温にほぼ連動した形で変化が現れたものと思わ
れる。

一方,メタン濃度が気温と平行な変化を示しているのは,
   ・氷河の発達や後退に伴って湿地帯が減少や増加を繰り返した
   ・メタンを生成する細菌の増殖が温度に大きく依存する
ことなどが原因と考えられる。
二酸化炭素とメタン濃度 1万8000年前の氷期

2万年前〜1万8000年前の軌道要素は現在とほぼ同じである(図5)。放射
フラックスは極小値に近く(図6),13万年前の間氷期と比べて20%前後も減少
しており,寒冷化をもの語っている。
一方,図3をみると13万年前の間氷期とこの氷期の温度差は8℃ぐらいである。
この氷期はヴュルム氷期に対応している。

ヴュルム氷期はアルプス山麓の氷河遺跡分布からの氷河の消長より割り出された
氷期の一つで,約7万5000年前に始まって最盛期の1万8000年前には地球
表面積の9%が氷床に覆われ現在の氷床(南極とグリーンランド)の3倍,
体積も3倍
に達していたという。

また,図7をみると二酸化炭素濃度は14万年前〜13万年前にピーク値
290ppmvであったが,以降変動はするものの減少に向かい
2万年前〜1万8000年前には190ppmvまで下がっている。

その後,産業革命前の270〜280ppmvまで増加するのに約2万年経過して
いる。ところが,現在の南極大陸の二酸化炭素の濃度は約360ppmvである。
80〜90ppmv増加するのにわずか数百年しか経っておらず,その増加速度は
産業革命前と比べて約100倍大きい。

最近の化石燃料の燃焼による大気中二酸化炭素濃度の増加率は年1%を超えている。
問題は,地球が過去に経験したことがない異常な増加が,近未来の気候にどんな影響
をもたらすかである。

COHMAPグループは、花粉や湖の水位や海洋プランクトンのデータなどを用い古気候の再現を試みた。
古気候の再現の結果は後氷期の気候のところでふれることにする。
1万8000年前の日本列島
1万8000年前の気候について,このグループや他の研究グループが得た研究結果をまとめると
以下のようになる。

   @ トウヒとナラの森は、ヨーロッパにはほとんど存在せず,地中海と
     その周辺の気候は現在よりずっと冷涼で乾燥していた。
    
   A 北アメリカの中西部ではトウヒの森が多く,南西部では湖の水位は
      高く,広大な森林が存在していた。
    
   B 大量の海水が氷床として陸上に固定され,海水面が大幅に低下した
      結果シベリアとアラスカが陸続きになり、インデアンやエスキモー
      がアメリカ大陸に渡った。
    
   C 日本列島も大陸と陸続きになり,人類やナウマン象などの動物
      が渡ってきた。

   D 日本海は湖水になり,暖流が入らなくなったので水温は低下した。
      その結果,季節風による降雪は少なくなったと考えられる。(図8)
   
5 太陽放射量の変動とモンスーン

夏のモンスーン(海から陸への風が強く,降水量が多い期間)は現在のアフリカ,アジア,オーストラリア
の気候の特徴となっている。
図9はモンスーンが運ぶ花粉量,モンスーンによる堆積があった年と太陽の放射フラックスがピークの
年(図9の縦の影線と図7の縦の影線は対応している)との関係を示している。

この図からモンスーンと関連した沈殿物およびモンスーンによって運ばれた花粉量が,放射フラックス
のピークとほぼ同期したピークを示していることがわかる。
図7と図9から軌道要素の変化が気候に対して相対的に影響を与えていることがこれで明確に
なった思われる。
モンスーンが運ぶ花粉量
以上まとめると,公転軌道変化によって太陽放射量が変化して

   ・周期的な気温変動
   ・氷床の前進と後退
   ・海陸風の循環パターンの変化
   ・降水強度と分布のパターンの変化
   ・植物の成長と衰退のパターンの変化
 
などの気候変動をもたらす。これらの変動は

    ・大気大循環の変動特に,偏西風帯の緯度・経度変化
  ・熱帯収束帯の北上と南下

と多いに関わりがある。


§3 後氷期の気候とその変動

1 時間スケールの小さな変動

最後の氷期は約1万8000年前にピークを迎えた。その後,気候は1万5000年前ぐらいから
温暖化し始め,約1万年前から間氷期(これを後氷期という)に入り現在に至っている。

図6によると太陽の放射フラックスは,1万5000年前ぐらいから多くなりはじめ約9000年前にピークに達し,
以降少しずつ減少して現在の値になっている。
特に,ピーク時の放射量は北半球では現在に比べ7月に10%ぐらい多い。
氷期から間氷期の移行は明らかに放射フラックスが増加に転じてから始まっている
ことが分かる。
測器による観測データと史実
図10と11には数十年から数十万年におよぶ時間スケールでの地球全体(中緯度)
の平均気温の変動が描かれている。
図10の上図は測器による観測データ,下図は史実から得られる情報による。図11
の上図は花粉のデータと高山における氷河の前進と後退から,下図は海洋プランクトン
から求めた。

右端の影の部分は,その上にある図で描かれた期間を示している。図11の上図をよ
くみると,1万8000年前の氷期から1万年前の間氷期の移行過程でより細かい
幾つかの変動
がある。また,間氷期に入ってからも細かい変動がみられる。

これらの変動の時間スケールは2000年程度であるが,原因はまだ詳しくは分かっ
ていない。様々に作用する多くの駆動力の含む気候システムが内包している変動
かもしれない。

しかし,これらの変動は海洋の深層循環と関係があるのではないかと言われている。
ここで海洋循環について少しふれておく。

2 海洋循環

表層循環
花粉のデータと氷河の前進と後退
世界をめぐる海洋循環には二つある。一つは表層循環で,深さ数十メートルまでの表
層を流れる。表層海流は海上を吹いている
風に従う傾向があるので,大陸のところで向きが変わるのを除けば,下層大気の風向と
ほぼ一致している。図12に主な表層海流が示されている。

海流は熱を輸送するので,気候にとってはきわめて重要である。
例えば,メキシコ湾流はヨーロッパに輸送しており,この海流がないとヨーロッパは数
度以上も低くなる。

北太平洋には,熱帯域の貿易風に駆動されて西に向かう北赤道海流が大陸の影響で
太平洋の西部で北上する黒潮につながり,北へ熱を輸送している。

もう一つは深海での流れで,深層循環といわれる。

深層循環

深層循環は2000年程度の時間スケールをもつ海洋である。この循環は図13に
示すように,北大西洋では冷たく乾いた北極の大気が,海洋から熱を奪い蒸発を促進
させるので,海洋の水温が下がるとともに塩分濃度は増加し,海水の密度が大きく
なって,海水は海中深く沈み込む。

この海水は水深数千メートルで南に流れ,その後東へ向きを変えてアフリカとオースト
ラリアを通りすぎ,北の方へ動いて行く。
北太平洋では,アジア大陸から運ばれてきた熱と真水をとり込み,そこで比較的高温低
塩分となり,数百メートルまで上昇して北大西洋へと戻る。

この循環は水温と塩分濃度で決まる密度差で起こるので,熱塩循環といい,一回りする
のに約2000年かかる。

図11に見られる間氷期への移行過程と間氷期での小さな気温変動は熱塩循環の
異変
が引き起こしたものかもしれない。
表層循環
3 熱塩循環の異変と気候変動

熱塩循環の異変はどのようにして起きたのであろうか。確証はないが推定はで
きる。
太陽放射量の変動によって大気循環の強さやジェット気流の位置の変動,熱帯収束帯
の北上南下
等などによる気候の変化が顕著に現れたことが気候モデルのシミュレー
ションによって確認されている(このことについては後にふれる)。
例えば,1万8000年前(太陽放射量は極小)の気候と9000年前(太陽放射量
は極大)の気候とでは著しく違っていた。

したがって,次のようなことが十分考えられる。


  ・太陽放射量が増える過程で,グリーンランドや大陸の氷床が大幅に後退
    して北極の冷乾気の南下が弱まった。
  ・その結果,大量の氷河が融けてできた淡水が北大西洋に流れ,
    海水の塩分濃度を低下させた。
このような理由で海水の沈み込みはなくなって熱塩循環が弱まった。その結果,暖流
は北大西洋を北上しなくなり寒冷化を引き起こした。特に,寒冷化はヨーロッパに
顕著に表れたと考えられる。

深層循環
グリーンランドの氷床コアの分析から約1万2000年前に寒の戻りがあったことが
発見されている。この時期,中部ヨーロッパでは気温は6〜8℃低かったと言われ,
この寒冷期(ヤンガードリアス期と呼ぶ)の出現は熱塩循環の弱まりが原因らしい
のである。

人類にとって運命的な1万年前

コンピューターシミュレーションによると約1万年前に大気循環の変化が生じ,
モンスーンに伴う降水量が増加することで,大陸内部が温暖化したことが示唆されて
いる。
人間と生物全般にとっての快適な高緯度での気候の出現は,人間の活動領域の拡大
を促進させた。その結果人類が文明化への歴史の道に歩むことになった。

1万年前の太陽放射量のピークにめぐりあった地球,そして温暖な気候にめぐりあっ
た人類,および人間生存の知恵が成熟したこと,これらすべてが1万年前に出会った
ことは人類にとって幸運であったし,運命的な事件だった。


4 古気候の再現

COHMAPは気候モデルを用いて過去2万年前からの古気候をシミュレートした。
その際,花粉や湖の水位や海洋プランクトンのデータを主として使用し,木の年輪や
岩石の構造から得られるデータを用いた。

古気候の再現 図14,15および16には過去1万8000年間の氷期から間氷期への遷移に伴う大
気圏,地圏,植物圏の変化が示されている。
図14と15は北アメリカとヨーロッパについて,図16はアフリカ,アジアそして
オーストラリアについて描かれている。

図の見方は以下の通りである。

 ・すべての図に、氷床の広がり,1年を通して海氷が存在する海域,および
   冬季にだけ海氷が存在する海域が示してある。
 
 ・図14と15には現在を基準とした,1万8000年前から6000年前
   までの, 図16には1万8000年前から9000年前までの水分量の
   分布状況が示されている。
          
 ・アメリカ東部とヨーロッパについては,花粉のデータから推測されたナラ
   とトウヒの分布状況が示されている。
  
 ・図に描かれている色の説明
     地球表面の状態
      白色    :氷床         
        濃い青色:1年中海氷が存在する                                      
      青色    :冬季のみ海氷が存在する 
     薄水色  :海
    過去の有効水分量
      褐色  :現在より多い  
       黄土色:現在より少ない
      黄緑色:現在と同じ    
         肌色  :不確定
    花粉
      茶色:オーク(ナラ・カシ)  緑色:トウヒ
       北アメリカ 20%以上    20%以上
       ヨーロッパ  5%以上    20%以上

古気候の再現 1万8000年前〜6000年前までの気候

以下において,主に図14,15,16を参考にして気候の変化を見ていく。

1万8000年前
氷床は最も南下して北緯50度以北のアメリカ,ヨーロッパの陸地は
   氷床に覆われ,グリーンランドと北米は氷床で繋がっていた。
   また,北緯50度以北の大西洋は一年中海氷が存在していた。
      
 ・トウヒとナラの森はヨーロッパにはほとんど存在せず,地中海周辺の低地
   には森林が存在しなかった。(このことについてヴュルム氷期の項で述べた)

 ・北アメリカの中西部ではトウヒの森があり,南西部はナラやカシの森林で
  覆われていた。        
   したがって,中西部は冷涼な気候で,南西部は乾燥気候であった。 

 ・この氷期にはサハラ砂漠の気候は現在と同様乾燥していた。
   また,アジア大陸および日本は現在より降水量が少なくて寒冷乾燥気候に
   なっていた。 (このことについてヴュルム氷期の項で述べた)

                       
1万2000年前

 ・北アメリカ,ヨーロッパの氷床は明らかに後退しており,氷床の南側には
   トウヒの森林地帯があり,気候は 寒冷から緩みだしている。 
            
 ・北アメリカ中西部は降水量が多く,湿潤帯であった。一方,フロリダ半島一帯
   にはナラなどの森林地帯が存在し, 気候は乾燥していた。
   
 ・地中海周辺にはナラの森が点在して,気候は比較的乾燥していた。
   
古気候の再現  
9000年前

 ・アメリカ,ヨーロッパ両大陸の氷床は大幅に後退しており,特に,ヨーロッパ 
    から氷床が姿を消した。また,北極海の海氷もかなり縮小した。
      
 ・北アメリカ南西部の湿潤帯は縮小し,フロリダを含め南東 部はナラなどの
   森林で覆われていた。また,高緯度でのトウヒの森はさらに北へ拡大した。
       
 ・ヨーロッパの西側と地中海周辺はナラなどの森林が多く,気候は乾燥化
   していた。
     
 ・アジア大陸の中緯度以南の地域は湿潤多雨であったが,北海道および大陸
   の北は現在より乾燥した気候であった。
       
 ・サハラ砂漠を含むアフリカの中央部一帯は湿潤多雨であった。
   また,アラビア半島とインド北西部も降水量が多かった。
       
 ・古代中国文明,インダス文明,エジプト文明はこうした温暖で湿潤多雨の
   環境の基で開花していった。

   
6000年前氷床の北への後退は最大限に達し,氷床は北極海に面した一部地域と
   グリーンランドのみになった。また,北極海の海氷もかなり縮小した。
          
 ・北アメリカ東部,西部の乾燥地帯は拡大し,地中海を含めたヨーロッパも
   乾燥帯が広がった。
   また,アメリカとヨーロッパの北部は冷涼で,トウヒの森林帯で占められて
   いた。
   これは熱帯収束帯の北上と亜熱帯高気圧が北偏したため中緯度に乾燥
   地帯が現れたことに関連している。
   
 ・反対に現在乾燥地帯であるアフリカから中近東は湿潤多雨で,
   サハラ砂漠は森林や草原で覆われていた。
     
 ・ナイル河の氾濫は天文の知識や測量術を育ませ,古代エジプト文明の繁
   栄をもたらしたと言えよう。また,オリエントやインダス文明も温暖で
   湿潤な気候の基で繁栄した。
   
       
 ・7000〜5000年前は気候が最も温暖で最適気候期と呼ぶ。
   現在より気温は2〜3℃高く,海面も数メートル高かったので,日本では
   縄文海進と呼ばれ,関東地方では海岸線が現在よりかなり内陸まで侵入
   していたことが貝塚の分布から分かっている。
   (これについては「気候と人間模様」の章で話す)

過去6000年の気候

太陽放射量は(北半球に入る7月の値を基準)約9000年前をピークに少しずつ減少して,
現在の値になっていった。
数万年の時間スケールで見ると,4500年前ぐらいから徐々に地球の気候は寒冷化に向かっている。
図10を見ても分かるように,過去数千年間にも気候は,地球全体として著しい変化はしているが,
この間の気温の変動幅は,先に述べたより以前の期間の変動幅に比べるとかなり小さい
これらのより小さい気候の変動は,数十年,数百年のスケールであり,その原因はよく分かっていない。

小さい変動といっても,気温1〜2℃の変化は降水量の分布を変える。それは植物圏,動物圏の変化に
はね返ってくる。人間の生活,経済活動や文化の形成の有り様などに必ず,その影響が現れてきた。
歴史上,民族の移動とか文明・文化の変遷なども含めて,このような観点から調べることは有意義だと
思う。
過去6000年の気候については,「気候と人間模様」と言う表題を設けて改めて議論
する予定にしたい。

     新生代の気候を編集するにあたって,下記の書物を主に参考にしました。図はこれらの本から
   拝借しました。
   「気候変動」日経サイエンス社
   「気候変動」東京堂出版
   「一般気象学」東京大学出版会
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