ファッションモデル

「西村さん、モデル志望の方が面接にいらっしゃってますよ」
西村「分かった、すぐ行くよ」

20代前半の女性に圧倒的な人気を誇るファッション雑誌、Pipin。この編集長である西村とおる(38歳)はコーヒーを飲み干すと、会議室に向かった。

コンコン。

西村「お待たせしまし・・・」

そこまで言いかけて言葉を失う。
ドアを開けると、はいつくばったおばさんが、パンツを降ろし、座薬を、まさに今、入れようとしていた。
山本妙子、57歳。

西村「わー!!」
慌ててドアを閉める西村。
ドア越しに妙子の声が聞こえる。

妙子「申し訳ございません。申し訳ございません」

ドア横に張ってある張り紙を確認する西村。

『専属モデル志望面接会場』

西村「・・・」

妙子「どうぞ、お入り下さい」

おそるおそるドアを開ける西村。
目が合うとお辞儀をする妙子。

西村「あの、さっきのは?」
妙子「お見苦しいところを・・・。吐き気があるときは、座薬は有効ですので・・」
西村「あの、た、体調が悪いのでしょうか?」
妙子「いえ・・・趣味でございます」
西村「はぁ・・・」
妙子「今日は・・・専属モデル募集ということで、お伺いさせていただきました」
西村「え?」
妙子「今日は、専属モデル募集ということで、お伺いさせていただきました」
西村「えっと・・娘・・いや、お孫さんがモデル志望、ということでしょうか?」

ハンカチを取り出すと、口に押さえつけ、笑みをこぼす妙子。

妙子「ご冗談がお上手ですわ。・・わたくし、でございます。なにがなんでも、でございます」
西村「何がなんでもて・・・。いや、あの、うちの雑誌がどういう年齢層を対象にしているか、ご存じでしょうか?」
妙子「存じております」
西村「それでしたら・・・。あ、お名前は?」
妙子「山本妙子と申します」
西村「妙子さん、そういうわけですので、申し訳ございませんが、お引き取り願えますでしょうか?」
妙子「ちょっと・・・おっしゃってることが、わからないのですが・・・」
西村「えーっとですねぇ・・・」
妙子「専属モデルとして不合格、とうことでしょうか?」
西村「はい、そういうことになりますね」
妙子「えっと、もう少し、私のお話を聞いていただけないでしょうか? モデルは昔からの夢なんです」
西村「妙子さん。申し訳ありませんが、私も忙しいので・・・」
妙子「お願いします! 5分、いや、1分でいいので!」
西村「申し訳ございません」
妙子「あら、そうなの! じゃぁ、こっちにも考えがあるわ!」

突然、はいつくばって座薬を入れようとする妙子57歳。

西村「た、妙子さん!」
妙子「2個連続で入れてやる!」
西村「わ、わかりました、話聞きますから、やめてください!」

おとなしくなる妙子。

妙子「なんだか、取り乱してしまって、申し訳ございません」
西村「ふぅ」

ハンカチを出して、汗を拭く西村。

コホン、と咳払いをして、話し始める妙子。

妙子「えぇっと、西村さんでよろしいですか?」
西村「はぁ・・」
妙子「西村さんも、すでにお気づきかもしれませんが・・・。あ、かもしれないなんて言い方をすると逆に失礼ですね。すぐにお気づきになられたと思いますが、わたくし、非常にファンシーです」
西村「は?」

妙子、真顔。

西村「ファンシーは、奇をてらう、という意味ですよ?」

妙子「ナンシーです」
西村「え?」

沈黙。

妙子「私、ナンシーです」
西村「ナンシー・・ですか?」
妙子「わたくし、女学校に通っていた頃は、鼻が高いことから、ナンシーと呼ばれていました」
西村「はぁ」
妙子「・・・」
西村「・・・」
妙子「・・・・・・」
西村「・・・・・・」


どうしようもなく、重苦しい空気が辺りを漂う。

西村「あの、もう、時間ですので・・・」
妙子「ナンシーって言えばいいじゃない!」

突然どなりだして、ビクっとする西村。

妙子「ナンシーって言ってみなさいよ!」
西村「え?」
妙子「ナンシーって言いなさいよ!」

突然、妙子、ポケットから白いゼリーのようなものを投げつけてくる。

西村「わ、な、なにをする!」
妙子「杏仁豆腐よ!」

杏仁豆腐まみれになる西村。
突然の出来事に、唖然とするしかない西村。

妙子「西村さんのおっしゃりたいことは、よぉく、分かります。専属モデル、断るような事言って、本当は俺と寝れば、モデルも考えてみよう、なんて事思ってたんでございましょう?」

西村「ございましょう?」

妙子「いやらしい!」

西村「あんた・・なにを言ってるんだ・・」

妙子「でもね・・あたしだって子供じゃないわ。夢のためならひと肌脱ぐ・・。それに、私だって嫌いじゃないのよ。そういうこと」

西村の膝に手を伸ばす妙子。

西村「や、やめろ!」

妙子「あらやだ。坊やには刺激が強すぎたかしら?」

妙に艶っぽい妙子。

西村「う、うわ・・・た、助けて」

口にコンドームをくわえている妙子。

妙子「思い出すわ。米軍基地に入り浸っていたあのころを・・・」

西村「うわぁああああああ・・・・」





半年後。





会社の給湯室でわいわい談話してるOLたち。
ファッション雑誌Pipinを広げている。

OL「専属モデルの妙ちゃん、良くない?」
OL「あー、いいよねー」
OL「私もこういう風なスタイルになりたいなぁ」
OL「無理無理!」
キャハハハ。
そこへお局様がやってくる。
お局「あらあら、なんだか楽しそうね」
OL「あ、先輩」
お局「なに、その妙ちゃんって」
OL「えーっ、先輩知らないんですか? Pipinってファッション雑誌の専属モデルですよー。今、妙ちゃんファッション取り入れてない若い子いないぐらいですよー」
お局「知らないわよ。ちょっと私にも見せてよ」
OL「いいですよ、どうぞ」

ページを見て、衝撃を受けるお局。
そこには、鮮烈なデビューを飾った輝かしい妙子がいた。