◆和歌山大学経済学部卒業
  ◆神戸大学大学院修士課程修了
  ◆経済学博士―専門はドイツ経済学

  ◆関西大学名誉教授、大阪明浄大学観光学部長を経験
  ◆
2008年度より和歌山大学観光学部長に就任













    


 
   〈1〉『観光』という学問


 観光が、全世界的に注目されている。その理由は、人間が観光を通じて『自己実現欲求』を満たしたい、というような時代になってきているからではないか。たとえば、高度成長の時代であれば、仕事一本槍で、仕事を通じて自己実現欲求を満たすという人が多かった。しかし、仕事も大事ではあるが、それと並んで「自分でしたいことをする」ということも人間には必要であって、そのうちの一つが、20世紀終盤から21世紀に出てきているような、「旅行をして自分の人間性を豊かにしたい」ということなのだと思う。そのような時代の中で、国立大学としては初めて、和歌山大学に観光学部ができた。そこで本学においては、そのような観光の学問を充実させたいと思っている。

 しかし、観光について、いわゆる専門家が「観光とはこのようなものだ」と、主張するようなものは、今必要な『観光』ではないと思う。だから、観光をもっと広く、できるだけ広く考えて、そこから『新しい観光』というものを考えていきたいと思っている。観光についての考え方(=観光概念)、それが旧来のような古い考え方を持っている人たちの観光概念では、もうだめだ。新しい概念を作って、新しい観光の活動を推進していきたいと思っている。 


   〈2〉他大学との違い
 
 観光学部は全国にいくつかあるが、既存の観光学部の考え方は、旅行会社やホテルの経営に携わってきた人などの考え方だけであって、それでは私は観光産業は伸びないと考えている。当大学に観光学部を設置する際に、いろいろな大学を参考にしたが、観光学部を初めに作った東京の某大学でさえ、観光の考え方が狭いと思う。いわゆる専門家に言わせると、当大学にあるような、日本文化の授業や天文学・映像文化論・色彩が「どうして観光に関係しているんだ」というような感じなのだ。確かに、今までであれば他大学の観光学部の考え方でも十分であったかもしれないが、今ではそのような考え方では、全く足らない。他の大学は、「旅行をどのようにしたらいいか」とか「ホテルをどのように運営したらいいか」などだけを考えているように見受けられる。果たして、観光とはそのようなものだけだろうか? たとえば、「温泉学」と呼ぶものがある。古い考え方では確かに「温泉学」は観光学の大きな分野であったであろうが、当学部では、それを重要視していない。毛頭、そのような講義がないと言っていいくらいだ。「温泉学」が悪いというわけではないが、本学ではもっと広い範囲で観光を考え、学問としていこうと思っている。 
 

   〈3〉観光学部と学生

 しかしながら本学で、そのような『新しい観光概念』が出来上がっているわけではない。むしろ今、作りつつあるものだ。観光学部の諸君には、今我々が作りつつある『観光概念』を学んでもらっている。だから、私達には学生諸君と一緒にやりたいという思いが強い。そのために、学生達にはいろいろなフィールドに出て、現場の人たちとふれあってもらうことを大いにしてもらいたい。つまり、自分から自発的に活動し、観光に関して広く何でも学んで、『新しいこと』と言えるようなものを見つけてきてほしい。自分が『観光』と考えるものを、実際にそれを現場の人たちなどと一緒になってやってみて、4年間で、『自分の観光概念』というものを作ってほしい。実践を重ねて、たとえばA君であればA君の『観光概念』を作って、卒業論文を書いてもらえれば良い。そして、実社会に出てみて、「果たしてこれで本当に正しかったのかどうか」を判断してほしい。もしかするとそれは間違ったものかもしれないが、それでも『自分のもの』を作ってほしい。これは、観光学部だけに言えることではなく、すべての学部に言える事だ。大学を卒業するときには、ぜひ自分の考えをまとめてみてほしい。そのことが社会に出たとき、誰かを引っ張っていくときなど人生の様々な場面で、自分や他人に大きな影響を与えるはず。そしてそのことが、マイナスになることは決してないはずだ。 


   〈4〉観光と国際化
 
 日本人は、日本人自身のよいところに、気づいていないことが多い。茶道や着物など、日本文化の良いところをまず学び、その上に『観光概念』というものを築いていく。そうすれば、世界に通用するものとなるだろう。将来、国際化というのはもっと進んでいくだろうから、そのときに「あの人は日本人だなぁ」と言われるようなものがあれば、精神的に落ち着くし、有利になると思う。そのようなものがあれば、かえって世界的に評価される人材になり得るだろう。しかし、考え方や知識だけではいけない。そのため本学では、エクステンション講座として正規の授業以外に学生諸君から専門英語講師に来ていただいて、英語の授業を行っている。現に、英語が世界語になっている以上、言葉も日本語のままでは、世界に何も発信できない。学生諸君には、世界共通の言葉を十分に会得して、「精神は日本、言葉が英語」というような人材になってほしい。 


   〈5〉学部長の「観光」
 
 RelationshipMarketingという言葉がある。日本的な経営システムの中で、日本人は長期的な関係を大事にしてきた。部品や材料などを、同じところから長年買う。これが問題になったのが80年代頃。アメリカ通商代表部にいた、現在の国務長官であるライス氏が訪日された際、「日本人は、商品が悪くても昔からの付き合いを大事にする。このようなことをしていたのではいけない、これでは日本がだめになる。良いものを、新しい会社から買いなさい」と言った。彼女の言葉の裏には、アメリカから買ってほしい。という意図があった。ところが、長期継続的なことはやめて、どこの会社の製品でも買いなさい、と言ったわけだ。ところが、それに反してアメリカの学者たちは、日本の『長期継続的』なやり方が良いと考えた。アメリカの学者が考えたのは、「物だけを考えるアメリカ的なやり方ではもうだめじゃないか。日本のように人と人との関係を大事にすることが重要なのではないか」ということである。このことから生まれた言葉がRelationship Marketingである。アメリカのような、物の需要と供給の関係だけを考えて、仕入れの会社を頻繁に変えるという考えは、一見正しいようにも思えるが、決してそうではない。むしろ、長期的な友好関係・信頼関係を築くことが、企業戦略で大事で、結果的に売り手にも買い手にも大きな利益をもたらすことになる

 
そこで私は、Relationship Tourismを唱えようと思っている。観光は、地域や顧客などとの、つながりを大事にするものである。私は、そのようなところに『新しい観光』の糸口があると思っている。 


   〈6〉学部長の仕事
 
 新設学部のトップということで、何かと苦労が多いように見られがちだが、職員や先生の方々がとてもやる気のある方ばかりで、私の方で苦労するということはあまりない。「何でもいいからやりたい」と言う先生方が多く、それを整理することが私の目下の役割。つまり、先生方のやりたいことについて、邪魔になるようなものを取り除くのが、私の役目だと思っている。後は、先生方がやっていくのを見守るだけ。私が苦労することはあまりない。 
 

   〈7〉和大生へのメッセージ

 今の学生は、真面目というか大人しいと強く感じる。昔の学生は、事務室の中によく入ってきて、事務の職員と学生達が友達になるということがよくあった。それと同じで学生が先生の研究を手伝ったりすることなどもよくあったが、現在はそのようなことが少ないように感じる。今の学生諸君は、「教える」立場と「学ぶ」立場を、はっきりと区別してしまっているのかもしれない。

 学生諸君に言いたいのは、『自分の一番いいところ』を伸ばすようにする、ということだ。どんな人にも良いところや悪いところがあるが、他人の姿にとらわれず、我が道を行くということを考えた方が良いと思う。和歌山大学の学生諸君は、素直な人が多い。先輩達の現在の様子を見ても、『大器晩成型』が多いと思う。そのことを頭に置いて、コツコツと着実にやっていくスタイルを確立してほしいと思う。 


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