第四王政服属都市『リオネ』から東へ、距離的には歩き続けて一週間のところに交易都市『ランバンカ』はある。しかし、砂漠を越えていかなければならないので、徒歩では生きて辿り付けるかも怪しい。なのでリオネから竜車が出ていて、それに乗れば命の危険もそれほど無く三日ほどでたどり着ける。ただ、そんなことは転位石でランバンカまで移動するユオには関係の無いことだった。
 作戦会議?から一日、ようやく転位石の使用許可が下りたとのことで、ユオは転位室に呼び出されていた。
「さあ、大冒険の始まりですよ!!」
 転位石の操作盤の前でラルインが何やら騒いでいるが、構ってやる義理は無い。ユオは見なかったことにした。
 それよりも問題なのは、先ほどから壁にもたれているフェイリンだ。服装はいつもと同じ青いロングコートだが、足元に大きめの鞄が置いてあるところを見ればそれなりに行く気はあるらしい。ただ、その眉間には凄く皺が刻まれていた。まるで親の仇を見ているかのような目だ。
「……遅かったわね。というか、あんたが遅れてくるなんてどういうつもり?」
 呼び出される直前まで寝てました、と本当のことは言えない。言えば消し炭にされそうだ。
「す、少し準備に手間取っちまって……」
 ここは嘘で通すしかあるまい。
「……まあ、いいわ。いちいち怒ってたらキリが無いもの。さあ、行くなら早く行きましょ」
 そう言ってフェイリンは鞄を持つと、早々に転位石に上がった。ユオも、後に続いて転位石への階段を登る。
「それではいよいよ、フェイリン・キアエンヴィ君とユオ君の神龍をめぐる大冒険、その序曲が奏でられようと……」
「所長、早く起動させてください」
「……はい」
 肩を落としたラルインが、操作盤の上で指を躍らせる。そして、ユオの足元、転位石に刻まれている魔術印が淡く光りだした。
(可哀想に……)
 転位石から発せられる緑の光が、ユオとフェイリンの身体を球形に包んでいく。
 光に視界を遮られながら、ユオはいよいよ立場の無くなっていくラルインの未来を憂いていた。一秒くらい。





 ラルインの見守る先で、球を成した緑光が収縮し炸裂する。炸裂した光は霧散し、やがて辺りは元の薄暗い空間に戻った。転位石の機動は滞りなく成功し、二人は既にランバンカに到着しているだろう。
「……これで、約束の一つは果たせましたかね」
 ラルインは一人、小さく呟いた。


前へ  戻る  次へ