交易都市ランバンカは、別名『よろずの街』という。これは、ここに来れば手に入らないものは無いという意味の、ランバンカのキャッチフレーズだ。
 その名の通り、街を十字に切り裂く二本のメインストリートの両脇には、魔術装具の専門店から果物屋までありとあらゆる店が立ち並ぶ。
 そのメインストリートの交差点、街の中央には広場と大きな噴水があり、その噴水の前に、ユオとフェイリンは立っていた。
「相変わらず、凄い街ねぇ」
 右を見ても人、左を見ても人、前を見ても後ろを見ても人、人、人……。確かに色々な意味で凄い街だ。一体、どこからこんなに人が湧き出てくるのだろうか。
 ユオもここに来たことが無い訳ではないのだが、いつみてもこの人の多さと活気には驚かされる。
「それで、これからどうするの?」
「いや、どうって言われても……」
「まさか、何にも考えてないの?」
 ああ、とユオが頷けば、フェイリンはこれ見よがしに溜め息をついた。
「全く、計画性の無い男は嫌われるわよ」
 そう言うなり、フェイリンはユオの顔も見ずに歩き出す。
「おい、どこ行くんだ?」
「酒場よ」
 ユオは颯爽と歩き去るフェイリンの背中を追った。





 この街に人が集まるのは、偏に様々な物品が集まるからだけではない。戦時中でさえ中立都市としての立場を守り切りここまでの大都市に発展した背景には、警備体制の充実に伴う治安の良さが一つの要因となっている。
「うわ、酒場の中にまで警備兵がいんのか」
 そこは酒場という響きからは想像もできないほど清潔な空間だった。
 木で作られた店内は清掃が行き届いているのか塵一つ無く、金属製の丸いテーブルは曇りの一つも無い。そして客の中にもガラの悪い者はおらず、至って静かなものだ。酒場と言えば乱痴気騒ぎを思い浮かべさせられるものだが、ここはバーと言ったほうが近いかもしれない。とはいえ、壁際に赤いロングコートの警護術師がいるバーも無いだろうが。
 その悪く言えば異様な店内をユオが眺めているうちに、フェイリンはさっさとカウンターに歩いて行った。慌ててユオも後を追う。
「”返りの森”についての情報が買いたいんだけど」
 フェイリンが店主に声を掛けると、店主は何故か渋い顔をする。
「……悪いが、売るものはない」
「なんでよ、お金ならあるわよ?」
「そういうことじゃない。”返りの森”はな、情報そのものが全くと言っていいほど入ってこないんだよ」
「そんなバカなこと……こんなに近いところに変な森があるってのに、情報が無い訳ないでしょ!?」
 フェイリンが声を荒げても、店主の顔は渋いままで首を横に振った。
「その情報を欲しがるやつは多いから、こちらとしても手に入れたいんだが……先日の調査団からの報告でさえ、今分かってること以上の情報は聞かないんだ」
「今分かってることって?」
「どんなに進んでも山脈に出ることはできず、どんなに進んでも振り返って一歩進めば入り口に戻っている」
 確かに、ラルインから聞いたものと同じだ。いまさら聞いてもしょうがない。
「……他には?」
「これだけだ」


「で、どうするんだ?」
「それは本来アンタが考えることよ!」
 何の情報も得られずに肩を落とすフェイリンは、凹んでいるというよりも苛立っているようだ。
「……んじゃ、一回行ってみるか」
 聞き取れなかったのか、フェイリンが首を傾げる。
「は?」
「百聞は一見に如かずって言うだろ?」


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