赤い。
 どこまでも赤い。
 所々にオレンジが混ざっているかもしれないが、それでもやっぱり赤かった。
 右も、左も、前も、後ろも、天と地さえも、網膜に焼き付いて離れないほどの強烈な赤に染まっている。


 そんな場所に、俺はいた。


 理解が追いつかない頭は、その赤が何なのか分からずに、少しだけ綺麗だと思ってしまった。
 だけれど、いくら混乱した頭であっても、同じ光景をじっと見ていれば落ち着くというもの。俺は段々と、その赤が何なのか考える余裕が出てきて――そして、綺麗だと思ったさっきの俺を殺してやりたくなった。


 赤は、炎。
 赤は、血。
 赤は、怒り。


 全てを、紅蓮の炎が包み込んでいた。
 先ほどまで一緒に公園で遊んでいた友達、公園の端で井戸端会議としゃれ込んでいた主婦、あまり遅くならないようにねと笑顔で俺を送り出してくれた母。
 一体、どこへ行ってしまったんだろう。
 見渡す限りは赤ばかりで、目がチカチカして、何も見えない。
 手を伸ばしてみても、なにも触らない。
 声を上げてみても、誰も答えない。
 返ってくるのは、轟々という何かが燃える音だけ。


 笑い声が響いていたのは、いつの話だったか。
 ――ほんの数分前。

 立ち入り禁止の場所に入ってみようと、俺が言ったのはいつの話だったか。
 ――やはり数分前。

 変な岩を見つけて、躊躇いもなくそれに触れたのは誰だったか。
 ――俺だ。

 この炎は、どこからやってきたのだろうか。
 ――俺が触れた岩から噴き出した。

 誰が、みんなを焼いたのか。




 俺のほど近くで炎が吹き上がり、天まで届かんばかりの炎の柱を作り出した。その音に少し驚いて、目を向けた。吹き上がった炎は、しばらく雲を焦がすと重力に従って地面に落ちてくる。
 それを見ながら首を上下させて――ようやく地面がドロドロに溶けていることに気付いた。川のように、真っ赤な水が渦を巻く。


 何も見えないのも、当然だった。
 何もなかったのだから。


 公園の遊具も、家も、遠くに見える高層ビルも、その隣に立つ電波塔も何もかも。
 真っ赤な炎に包まれて、真っ赤な地面に沈んでいった。
 見渡す限り、平らな世界。
 真っ赤な地面と真っ赤な空と、時折上がる真っ赤な柱がその世界。
 誰もいない、何もない。
 赤と俺しかない世界。
 俺と赤しかない世界。


 俺が泣こうと涙を瞼に溜めたその瞬間、誰かが俺の背に触れた。
 振り向こうとして、抱きしめられた。
 まだ小さな俺の体を、包み込まれて振り向けない。
 炎よりも熱い誰かの吐息が、俺の耳にふわりとかかる。
 不思議と、嫌な気分にはならなかった。
 そして――


 ――誰かが、何か、呟いた。
 ――俺は、うん、と頷いた。

トップへ  次へ