18.12.08

トヨタ式人づくりモノづくり − 異業種他業種への導入と展開

著者:若松義人氏/近藤哲夫氏 (出版社:ダイヤモンド社)



1.トヨタ生産方式の導入と定着

2.数値による改善成果の把握

3.改善と検証のモノサシ

4.改善の狙い

5.現場第一主義

 

1.トヨタ生産方式の導入と定着

 トヨタ生産方式において大切なのは「モノの見方・考え方」であり、その核心は人を活かすことにある。トヨタが重視する「人間性尊重」とは、人が持っている「考える能力」を尊重することであり、働く人にいかに「考える余地」を与えるかがポイントである。モノづくりの中心には、あくまでも人がいるべきであり、人の手によってモノづくりは進歩していく。トヨタ生産方式の真髄は、人の知恵・人の可能性をいかに引き出し、活用するかである。最も重要なことは人を育てることであり、そうして育った人が日々実践を重ねながらモノづくりをするのがトヨタ生産方式である。だからこそリバウンドもないし、いつまでも最強のモノづくりでいられる。基本は「モノづくりは人づくり」であり、その先に経営があり、事業がある。肝心の「人づくり」をなおざりにすれば、手法は定着せず、効果も期待できない。

 トヨタ生産方式は経営哲学であり、その考え方を取り入れたうえで、自社の環境に手法を合わせていけば、どんな業界でも通用する。ただトヨタ生産方式の導入は一過性のものではなく、全社員が参加して現場改善の実践をやり続けていくことが肝心である。それには基本となる「考え方」の理解が不可欠であり、同時になぜ導入するのかを明確にし、目標に向かって、トップと現場が自社流にアレンジし続ける必要がある。そして人を育て、育ったその人によって手法そのものを育て、常によりよいものを求めていく。こうした意識改革を通して初めて社員一人ひとりが成長し、企業の成長につながっていく。そして会社のあらゆる部門に隠れているムダを徹底的に排除し、改善をやり続けることによって、初めて競争に勝つ組織になる。

 経営トップは「改善は永遠に無限である」という信念をもつべきである。今日のように市場が変化する時代では、どんなに優れた手法を導入しても、改善の手を緩めれば、瞬時に陳腐化してしまう。どこにも負けない競争力を手に入れたいのであれば、徹底したスリム化と、絶えずゼロから見直す姿勢が欠かせない。会社のあらゆる部門に無数に隠れているムダを一つひとつ丹念に潰していく全社的な活動があって、初めて本当のコスト競争力が生まれ、強いモノづくり企業となる。これからの時代は目標を明確に設定し、手法は自分たちで作り上げていく時代である。自社のモノづくりの仕組みを借り物でなく、自前でつくる時代が既に来ている。

 トヨタ生産方式の定着を難しくする最大の要因は、本質を理解しないで手法だけを持ち込もうとするところにある。単に手法を真似しても効果は一過性であり、手法の背後にある本質を見落としてしまう。実効性のある改善を行うには、本当に解決すべき課題を把握しなければならない。また組織風土や企業環境を無視してトヨタ生産方式を導入できるものでもない。まずはモデルラインを動かして、解決すべき問題をはっきりさせる「問題の顕在化」の過程が欠かせない。それは、現場の問題を顕在化させ、共有化し、ともに改善していく考え方が、生産方式の改善には不可欠だからである。

 何かを本気で変えるには、人任せではなく、スタッフもラインの責任者もみんなが一緒になってフォローしていく姿勢が欠かせない。みんながやる気を起こすテーマを見つけ、テーマに対して毎日チェックし、経営トップ自身も現場を回る必要がある。そして生産現場の人間が、日々の改善を重ねてトヨタ生産方式から“トヨタ”が取れた、その会社独自の生産方式として定着させ、効果を発揮していくのである。どんな優れた生産方式であろうと、自社の風土に合わせる努力抜きには、成果は上がらない。トヨタ生産方式の真髄は、「社員一人ひとりが、自分の仕事のやり方について問題点を見つけ、解決し、改善していくチャンスが与えられ、より優れた企業をつくるために一体となって働く」という点にある。この組織風土こそがトヨタ生産方式導入を定着させる最大の鍵である。

 またトヨタは「価格はお客様が決め、利益はお客様の評価である」という考え方に立ち、お客様が満足する「適正原価」を追い求めるモノづくりを目指している。全社員がコストダウンの意識をもって仕事に取り組み、会社のあらゆる部門に隠れている無数の小さなムダを丹念に潰していく。これこそ競争に勝つ「全社一丸」のコストダウンである。それにはトップ自身が強い意志をもって、改革をやり続ける必要がある。何よりも大切なのは机上のプランを実際にどこまでやり、どこまで継続できるかである。一時しのぎでなく、不断の改善や創意工夫を積み重ね、絶えざるコストダウンを続ける、これこそがトップの役目である。そして働いている一人ひとりが、自分自身の手で改善に取り組もうとする「改善力」を身につけることが大切である。改善の結果として、人が育って、初めて改善は成功したと言える。これこそがトヨタ生産方式を自社の生産方式にできたかどうかの鍵である。

 トヨタの成功の秘訣は、人を中心においた働きやすい環境をつくり上げた点にある。働きやすさ=新しい工場・設備ではない。どれだけ作業がしやすく、自分の能力をフルに発揮できるかである。生産現場にとって大切なことは、改善の努力なしに最新鋭の機械を導入することではない。まずは作業手順を変え、生産の流れができるようにレイアウトをデザインし、既存の機械にあらゆる工夫を試みる。機械の価値は、新しさや値段ではなく、機械の動きに「現場の知恵」がついているかどうかである。作業者を訓練する一方で、それほど熟練していない人でも使えるように機械を改善していく。改善に改善を重ねた結果として生み出された「余力(人や設備)」は、内製化や新規事業を展開するための大きな力となる。

 トヨタ生産方式の導入に成功した中小企業は、お客さんに近い「後工程」から少しずつ改革を進め、社員の能力を100%引き出し、絶え間ない改善を続けている。その際「現在いる社員」を中心に考えるのが基本である。資金不足や人材難等のハンデを嘆く前に、まず持てる設備や人を100%活用する手法を考えるべきである。そこに利益を生む鍵も隠れており、新たな展開も見えてくる。現在の社員を中心に効率のよい生産を目指し、人や設備・技術をつぶさにゼロから見直していけば、必ず余力はあるし、それを活かせる分野もある。

 

2.数値による改善成果の把握

 トヨタには常に世界を意識する気風がある。トヨタの凄さは、考えるだけでなくそれを実際に形にした点にある。理想的なことをやろうと考え、何よりも実践を重んじ、何がなんでも成功させるという強い意思がみなぎっている。たとえば昭和30年代、トヨタの経営陣は経営上の問題が自然と浮かび上がってくるバランスシートを作る試みを行った。それはGMの原価を基準として「差額」をある種の「ムダ遣い」としてバランスシートにのせる試みであった。「問題の顕在化」を掲げるトヨタの経営陣は、さまざまな「差」をバランスシート上に具体的な数字で表し、改善を重ねて「ムダ遣い」を減らし、遂にはトヨタの原価を「基準原価」に近づけていった。このように改善が数字に表れることは、極めて重要である。これをどんぶり勘定でやると、ただの精神論やあいまいな努力目標に陥ってしまう。

 ライン長は「管理監督者」というよりも、現場における「経営者」として、品質を維持しながら、原価を低減し、いかに利益を出すかを徹底的に考えるべきである。これからの現場改善は、直接的に営業利益の改善につながることが求められる。だから改善計画も実績もすべて金額表示することによって、自分達の改善の効果を具体的に「数字」に表すことが重要である。たとえば一坪の低減は月一万円という「原単位」を決め、改善実績を日々把握することを可能とする。これはライン長の育成を目指したもので、財務会計の考え方とは異なる。

 経営者は会計資料であっても、経理部門に任せるのではなく、経営に本当に役立つものに作り変える工夫が必要である。在庫は資産などという経理の常識に囚われていると、黒字なのに肝心のキャッシュがどこにもないという事態に陥ってしまう。経理の常識よりも、時代感覚・現場感覚が大切である。

 いまは世界一高い人件費で採算をとり、世界と競争するモノづくりが求められている。世界と競争するには、世界のモノサシで「この仕事はいくらか」をはっきりさせ、モノづくりの仕組みを変えなければならない。たとえば仕入に問題がある場合、仕方がないとするか、対策をたてるかで大きな違いが生じる。購買担当者にとって大切なのは、世界の標準価格をきちんと掴み、その価格で作るにはどうすればよいのか、取引先と一緒に知恵を出し合い、より安い仕入を実現することである。また自社に余力があれば、内製化して原価低減への努力をすることも選択肢となる。

 トヨタは「売れるだけを作って、あとは機械を止めるのが有効だ」と考える。作ったものが売れてこそ、初めて工場は評価されるべきであり、「必要数」に従って、必要なモノを、必要なときに作る、これがトヨタ生産方式の基本的な考え方である。ただ必要数は市場の動向によって決まり、企業の都合で増減できるものではない。とはいえ「在庫は悪」と考えて、必要数は厳しく捉える必要がある。トヨタ生産方式でも需要予測を立てるが、「日単位」で予測のズレに対する軌道修正を行っている。また収支を毎日計算し、細かな原価まですべて把握することによって、生産工程に隠れているムダを一つひとつ取り除き、コストを下げていく。こうした必要数を前提にした「限量」管理によって、高い国際競争力をもつモノづくり集団が誕生する。

 

3.改善と検証のモノサシ

 トヨタ生産方式では、設備内容や機械配置、工具改良、運搬方法などの適正化を図り、ムダを徹底的に排除し、人間の知恵を加えることによって、不良品の発生を防止し、高い生産性を維持している。これを支えているものの一つが「標準作業」である。標準作業とは、人の動きを中心に仕事を進め、ムダのないもっとも効率的なやり方(基準)を指し、「タクトタイム」「作業手順」「標準手持ち」で構成される。この標準作業は、品質や安全、作業効率を向上させるだけでなく、改善の道具としてコスト削減に大いに役立つ。

 標準作業や生産工程を厳密に決めるのは、それが改善の前提だからである。現場の人間は、たえず標準作業をモノサシに、自分で考え、自分で解決していく、これがトヨタ生産方式を貫く基本的な考え方である。つまり標準作業が決まっているから改善すべき点も見えてくる。標準作業をこのように良くした、というのが本当の改善であり、働いている人自身の手で標準作業を書き換えていくことによって、ひとの成長を促すのである。

 1個あるいは1台を何分何秒で作るかという時間を「タクトタイム」という。決められたタクトタイムに対して遅れるのは、作業者の習熟度はもちろんだが、作業のやり方にムダがあるからである。つまりタクトタイムは、効率のいい作業ができたかどうかを検証するモノサシとなる。

 問題を常に「顕在化」させることは、トヨタ生産方式において極めて重要なポイントである。いかに「止めないか」ではなく、いかに「止めて、対策をたてるか」がより良いラインをつくる。何かあれば機械が自動的に止まり不良品を生まない工夫を機械に施すことをトヨタでは「ニンベンのある自働化」という。自働化は人が機械を見張るというムダを省き、仕事に100%専念できる役割を果たすトヨタ生産方式の大きな柱の一つである。

 トヨタ生産方式でいう「少人化」は、生産量に応じて人数を定員化させないやり方を指す。たとえば4,000個を8人で作るとすれば、2,000個は3人で作れるラインを初めから用意する。大きな生産量をいかに少ない人数でやるかが基本であり、チームワークを発揮しやすい環境整備が重要となる。すべては変動する市場のニーズに柔軟に対応するためである。そのために多能工を育て、標準作業によって、ムダを省いた効率のよい作業を目指すのである。

 またトヨタは、仕事をしていくうえで何をどのような形で学び、身につけるべきかを、また自分を含む誰がどのレベルにいるのかを、オープンな形でわかりやすく明示している。そして人の能力の差を無理に埋めるのではなく、それぞれのレベルで十分に能力を発揮できる工夫を施している。作業者は現在のレベルで100%の能力が発揮できるようになってから、もうひとつ上の仕事を身に付ければよいのである。こうして人の能力を引き出す工夫をするとともに、絶えず生産ラインをゼロから見直して、より少ない人数で生産できるように改善を進めるのである。

 

4.改善の狙い

 本当に必要なものを「働き」と考え、それ以外を「ムダ」と考えると、作業=働き+ムダという関係式が成り立つ。ムダをゼロにして働きの割合を100%に近づけていく、これこそが真の能率向上である。作業におけるムダを省くとは「意味もなく動いている時間を削ぎ落とし、付加価値を生む作業に集中できる環境を整備する」という試みである。決して無理な作業を要求しているのではない。肝心なのは、いかにムダをなくして100%付加価値を生む作業に専念できる体制をつくるかである。

 ムダを徹底的に排除して、100%能力を発揮することが理想である。今の自分の仕事をよく観察すると、付加価値を生む仕事の割合が案外低いことに気づかされる。慣れ親しんでいる仕事の中にムダはないか、改善の余地はないか、という考えからすべてが始まる。また一つの目的に対する手段や方法はたくさんあり、考えられる改善案をいくつも挙げて、事前にすべての案について評価・検討し、最善の策を選ぶべきである。

 新しいやり方と従来のやり方では、従来のやり方のほうが効率的で、何よりも慣れているというメリットが大きい。しかし従来のやり方は改善も進み、いま以上の利益を生むのは難しいことが多い。反対に新しいやり方は慣れるのは大変かもしれないが、改善によって新たな利益を生み出す余地がある。新しいやり方と従来のやり方で現時点のコストが同じであれば、新しいやり方を選択するのは当然であろう。

 改善の狙いは「品質基準を維持しながら、限りなく原価を下げて、利益を生み出す」ことである。ただ改善は、みんなが体を動かし、みんなで成果を味わい、みんなで喜ぶようでないと、どんな問題も解決できない。何かを変えていく時の基本は「楽しく実行する」である。愉快に楽しくゲーム感覚で新しいやり方に取り組んでいけば、問題の大半は解決できる。大切なのは「過去はすべてよし、善だ」という考え方である。その上で一度それを忘れ、新しいやり方にトライしようという気持ちになって貰うことが大切である。

 

5.現場第一主義

 トヨタ生産方式は「5回のなぜ」を繰り返して、原因の向こう側に隠れている「真因」を突き止めるという、極めて科学的な態度を積み重ねてつくり上げられてきた。「問題を顕在化」させたうえで、「5回のなぜ」を繰り返して「真因」を突き止め、現場の人間の知恵によって「改善」を施す。これこそがトヨタ生産方式最大の武器である。

 問題を身近に感じ、問題解決を実行または指示できる人が、問題のホルダーとして積極的に関与することが不可欠である。上の人間が率先して変貌し、現場の人間とともに多面的に問題を捉え、その本質に迫って解決していく。その時に誰かをスケープゴートしたり、一時しのぎでかわしてはいけない。

 変革への新しい体制をとるには、問題の原因をとことん探っていく企業風土が必要である。問題の大小にかかわらず、とにかく現場に立ち、白紙でじっくり現場を観察するべきである。特にスタッフは、解決に向けラインメンバーをサポートするのが鉄則である。理屈や仮説だけで物事を論じてはいけないし、数字だけを見て、現場に足も運ばないで口を出してもいけない。また現場を見る前に手法をあてはめて、それをベースに現場を観察してもいけない。謙虚になって、頭の中で「なぜ」を繰り返しながら、現場を観察する必要がある。

 解決策の効果は、現場で実行して初めてわかるものである。だからこそアイデアは思いついたら、すぐ実験し、実行する。一日一改善の実行によって、改善のスピードは速くなり、工場も会社も早いスピードで変化する。そうすれば設備投資にムダなカネが出ることもない。

 ライン長の仕事は、生産工程をよりムダのないものに変えていく「一日一改善」である。また標準作業を守れない人を支援して多能工に育成することであり、作業員一人ひとりが能力をフルに発揮できる環境をつくることである。生産現場のムダをひとつずつ潰し、改善活動を当たり前に続けてラインの競争力をアップする、これがトヨタ生産方式におけるライン長の仕事である。 

以 上

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