18.06.25

トヨタ式人間力 − ものの見方・考え方と仕事の進め方

著者:若松義人氏/近藤哲夫氏 (出版社:ダイヤモンド社)



 ムダを見つけ、その問題の真因をはっきりさせて、現場の知恵を活かし、解決を図るという「ものの考え方」や「人中心のモノづくり」はトヨタ生産方式にとって変わることのない根幹である。トヨタ生産方式の特徴は「日々進歩する」であり、絶えず変化し続けることが、トヨタ生産方式の凄さである。その変化を可能にするのは「人の知恵」であり、トヨタ生産方式において大切なポイントは、知恵を出してより良いモノづくりを常に目指すことを当たり前と考える「人を育てる」ことである。

 トヨタ生産方式ではチームワークを重視し、その成功には、前工程が後工程のことを考えて提供する力が欠かせない。完璧に思える自分の仕事も、他部署の事情を無視すると、単なるひとりよがりになってしまう。本当によい仕事をするためには、すべての工程が一気通貫であることが不可欠である。「前工程は神様、後工程はお客様」は単なるキャッチフレーズではない。それぞれの工程が自分で品質を保証し、後工程に不良品を一切流さない、これがトヨタ生産方式の考え方である。このようにすべての工程が「次の工程のために、100%良品を、より仕事がしやすい形で届ける」という信頼・気配り・気遣いのもとに仕事をすることにより、初めてトヨタ生産方式は成立し、進歩していくことが可能となる。

 トヨタ生産方式が目指しているのは、マーケットの変化に合わせて、消費者の声を聞いてモノを作ることである。ただマーケットの先を読むことは困難であるから、日々の需要に応じてモノを作ることが現実的な対応となる。日々の需要に適切に対応するには、生産ラインは計画変更に即応できる体制である必要がある。現場レベルでの微調整可能な生産ラインを、トヨタ生産方式では「自律神経を備える」という。組織に変更を変更とも気づかせないような自律神経を通すためには、さまざまな仕組みも必要だが、現場の一人ひとりが知恵を発揮する「人中心のライン」である必要がある。

 トヨタが重視する「人間性尊重」は、人間の「考える力」を最大限に尊重することを指し、「人間尊重」があって初めて成り立つ。ここで言う「人間尊重」とは、安全はすべてに優先し、労働環境の整備も重要であり、勤務時間はその人の貴重な時間であって、ムダな作業をさせることはその人の人生を浪費することである、と考えることである。だからトヨタは安全・環境・時間を尊重した上で「考える能力」を重視し、いかに「考える余地」を与えるか、いかに「現場の知恵」を引き出すかに腐心する。それは知恵を出す環境づくりで、仕事のやりがいが大きく変わってくるからである。そして働く人すべてが100%の能力を発揮するにはどうすればよいか、また誰でもすべての工程で働けるようにするにはどうすればよいかと、改善を重ねる。というのも生産現場の仕事は、どれほど工夫をしても単純作業の繰り返しになりがちであり、さまざまな仕事ができる多能工に育てて、何よりも自分で考えて、自分で改善することが重要だとトヨタは考えるからである。だからトヨタが考える「人を大切にする」職場では「知恵」を使って仕事をする。「仕事に行くのではなく、知恵を出しにいく」はトヨタ生産方式を象徴する言葉である。このようにしてトヨタは人の持つ強さに注目し、人の力を十分に引き出すことに成功している。そしてこの視点は、人のもつ弱さにも着目し、行く届いた配慮を心掛ける姿勢をも作り出している。

 問題があれば、その日のうちに解決しようと努力をする姿勢が大切である。なかには一日では解決できない問題もあるかもしれないが、日々改善・日々実践を続ける情熱から解決策は見えてくる。また問題を隠す姿勢からは、決して進歩は生まれない。だからトヨタ生産方式では、働く人に問題がはっきり見えるようにする。ただ問題を表面化させるには、お互いの信頼関係や、より高いレベルを目指す気持ちが必要である。そしてちょっとした“気づき”も無視せずに、働いている人に刺激を与え「考える余地」を大切にする。「知恵を出しに行く」ことに「やりがい」や「喜び」を感じられる社員を育てるのが、トヨタ生産方式の目標である。こうしてトヨタ生産方式は、現場で働くすべての社員から発案される膨大な改善提案によって、日々進歩し続ける。知識や上からの指示に頼るだけでは、決して新しいものは生み出せない。仕事は「考える力」つまり「知恵」を使って、日々の革新を目指しながらやるものである。

 手段や手法を変えて原価を下げることは、さほど難しいことではない。しかし「知恵を使って働く人」を抜きにして、トヨタ生産方式の手段や手法だけを導入しても長続きはしない。トヨタ生産方式を定着させるには、働く人自身が「自らの知恵」と「自らの力」で、改善を当たり前のように続けていく「姿勢」こそ必要である。それはトヨタ生産方式が、単なる手段や手法ではなく「経営システム」だからである。つまりトヨタ生産方式は「知恵を使って働く人」をいかに育て、その「知恵を使って働く人」によって、どのようにモノをつくり、サービスを提供していくかという「経営システム」である。人の能力や可能性を信じて、それを引き出すことに腐心するようでないと、トヨタ生産方式の実践者とはいえない。

 また経営は「算術」ではダメで、知恵と訓練を働かせた「忍術」でなければならない。人間の知恵は無限であり、マンパワーは決して推し量れるものではない。トヨタ生産方式を実践する企業は、人を真ん中に置いて考える大切さ・有効性を実証し、人間の知恵をうまく引き出して、大きな成果を収めている。人間の能力を信頼し、無限の力を引き出すために、日々の努力を惜しまない、これがテキストなき時代の生き方である。企業やビジネスマンは自ら知恵をひねって、試行錯誤を重ね、オリジナルなものを生み出す気概が求められる。

 さて、市場が著しく変化する時代では、現時点で最適な手段や手法が、明日も最適とは限らない。市場が絶えず変動し、前工程も後工程も常に変化する中で、作り方も当然変化し、ムダの出方も変わってくる。慣れた手段や手法に固執すれば、変化する市場とズレが生じて問題が起こってしまう。手段や手法は無数にあり、最善のものも刻々と変化する。借り物の手段や手法で、安易にその場を取り繕うのではなく、その目的に対する手段や手法を常にいくつも考えた上で、自社にとって最善の策を選ぶことが大切である。

 たとえば「かんばん」はJITを達成するための手段であり、その目的はムダを省き利潤を上げることである。本来「かんばん」を効果的に使うには、生産の平準化などの基礎条件の整備が必要であり、徹底して自社でムダを排除することが大前提となる。もし生産の平準化ができなければ、「かんばん」を使わずに後工程引きという基本だけを守るやり方にすればよい。トヨタ生産方式が目指す目的を理解せずに、手段ばかりを持ち込もうとするケースがあるが、目的と手段の混同は最も危険である。トヨタ生産方式にとって、手段や手法は重要な問題ではない。「人を育てる」ことを忘れ、アイデアもひねらないで、手段や手法の一部だけを導入して、トヨタ生産方式をあたかも実践しているかのような「錯覚」を起こしてはいけない。

 トヨタ生産方式を実践するには、すべての人が「ものの見方・考え方」を変え、「仕事の進め方」を変えていかなくてはならない。意識改革があって初めて、モノづくりは大きく変わるし、継続が可能となる。それだけにトヨタ生産方式を実践できるかどうかは、経営者自身の取り組む姿勢(強い意志)にかかっている。トヨタ生産方式の導入当初は不具合の連続で、これはいくら頭で考えても「何が問題か」も「どうすれば改善できるか」もわからない。頭で考えてためらっているよりも、まずやってみることが、成果をあげる道である。求められるのは理論や知識を上手に語る「技述者」ではなく、行動する「技術者」である。基本スタンスは「できない説明より、実行する方法を考える」姿勢であり、トヨタ生産方式の実践は、実行力を持った人だけに可能となる。

 トヨタ生産方式では、現場の人間にはより良いやり方を求めて、標準作業を自分の力で書き換えていくことが求められる。つまり自らの提言をもとに「日々改善・日々実践」の継続を求められる。標準作業は最初からベストを目指す必要はなく、現状のやり方をきちんと標準にした上で、みんなで知恵を出し、改善に改善を重ねていく姿勢こそ大切である。人の動きのなかに隠れている小さなムダを見つけ出し、一つひとつ丹念に潰していく改善によって、動きは「働き」に変わり、生産性も上がっていく。標準作業が目指すのは、ムダを省いて人間の「考える力」を引き出すことにある。そして普通の人が、普通の動きで、あるレベルの仕事を無理なく、ムダなくできることを目指している。標準作業が守れない場合は、習熟度に問題があるのか、あるいは標準作業そのものに問題があるのかと、問題点を浮かび上がらせる仕組み「目で見る管理」が活用される。

 たとえばトヨタでは問題が起きたらラインを止め、あえて困った状態を作り出す。また、ひらめきに頼るのではなく「5回のなぜ」を繰り返す科学的アプローチがとられる。応急処置を施して、表面だけを取り繕っても、進歩はないし、いつ同じトラブルが起きないとも限らない。だから本当の原因(真因)がわかるまでは、何時間でも現場に立ち、「なぜ」を繰り返して「真因」を掴み、そこで初めて再発防止の対策を実施する。こうしてラインの改善を図り、より完成度の高いラインにもっていく、これがトヨタ生産方式の基本的な考え方だ。

 そして監督管理者には、部下の仕事に対する確実な監督が求められ、知恵を絞り、改善を日常化し、多能工を育成することが求められる。言葉だけで指導する人間ばかりでは、現場は思い通りに動きはしない。自らやってみせ、人を引っ張っていく能力・魅力が必要である。どうやって実現するかは、職場の知恵を結集し、現場で試行錯誤を重ねるしかない。大切なのは、どうやってみんなに知恵を出させるか、どうやって知恵を形に変えていくかというノウハウである。知恵は困った状況の中から出てくるものである。自分を追い込むことはなかなかできるものではないから、上司が部下にとって困った状況を作り出してやればよい。部下をただ動かすだけでなく、一人ひとりが知恵を使って働けるようにするのが、トップや上司の一番の役割である。

 トヨタはトヨタ生産方式を推進するにあたり、フォードやテーラーなど、随分と勉強もし、知識を吸収している。しかしトヨタはその知識に頼るのではなく、すべて現場での試行錯誤からトヨタ生産方式を確立してきた。理論も大切であるが、これを現場に応用する時は「現地現物」で事実を確認しながら仕事をする。一切の予断なしに、現場で起きた事象を素直に見ることは、大切であり、難しくもある。しかし、これが現場に密着し、地に足のついたトヨタ生産方式のやり方である。

 トヨタ生産方式では、新しい方法と既存の方法のコストがほぼ同じであれば、新しい方法の方が改善の余地が大きいと考え、新しい方法を採用する。そして導入した手段・手法に「現場の知恵」をつける作業を行う。知恵はひとりの天才によってもたらされるものではなく、地道な努力をコツコツとこなし、問題に対して根気よく「なぜ」を繰り返していくなかで培われる。高い技術力や創意工夫は、知恵のかたまりであり、それこそが本当の競争力を育んでくれる。それができないのは、単に「悩む力」が足りないだけである。上に立つ人の役割は「考え抜くこと」と「実行すること」である。困った中から知恵を巡らせて作り出されるモノが、世界に通用する商品となる。既成概念に囚われずに、まずは自分の頭をフルに使って考え抜くことである。ハンデを嘆く前に、自らの知恵で他とは違うモノづくり、生き方を実現する必要がある。全員が「昨日より今日、今日より明日」と、常に新しいやり方に挑戦し続ける姿勢によって、初めてトヨタ生産方式は真の意味で定着する。

 世の中には「業界の常識」とされるものがたくさんあるが、トヨタ生産方式は知識や業界の常識を否定するものではない。ただ業界の常識にばかり長けていると、ムダを抱えたまま、ムダをムダとも気付かないことが多い。たとえば、段取り替えのたびに試し打ちが必要であれば、何%かの不良品が常に出るのと同じである。こう考えると「調整は悪」であり、試し打ちなしに良品が出るにこしたことはない。また調整の巧みさや扱いにくい機械をうまく操作することを「熟練の技」と考えるのは、実際はおかしな話である。大変な調整はやさしく、難しい機械もやさしく扱えるよう、機械にさまざまな工夫を施す必要があり、これがムダを潰すことになる。過去の経験や実績は貴重であり、決して否定する必要はないが、常に「もっといいやり方はないか」と問い続ける分析力が必要である。一日に一時間だけでも「本当にこのやり方でよいのか」と考え、考えた改善をすぐに実行する習慣をつければ「問題意識」と「行動する力」が身についてくる。

 お金を使って良くすることは「改良」であり、知恵を使って良くすることが「改善」である。いくらお金をかけようと、知恵をつけずに人と同じやり方を続けていては、生き残ることはできない。まずは自らの目標を定め、その目標に向かって、日々の改善と実践を繰り返すことが大切である。地味に見えても確かな目標に向かって進めば、その先にオンリーワンが見えてくる。トヨタ生産方式最大の特徴は、現場で働く一人ひとりが「知恵」を出し、「改善」を続けて「日々進歩」する点にある。そして日々改善・日々実践できるのは、人間だけである。人の知恵や力を最大限に信じ、活用していく者だけが、これからの時代を切り拓いていける。「改善」は「日本独特の知恵の結晶」であり、知恵を絞って生み出したモノだけが、世界に通用する。

 今のやり方が悪いという気持ちで、毎日改善するのがトヨタ生産方式の考え方である。そして最後までやり遂げる意志がなければ、トヨタ生産方式をわがものとすることは不可能である。創意工夫の種やチャンスは間違いなくまわりにある。また改善は「思いつき」ではダメで、ニーズに基づいて行ってこそ、効果を発揮する。ニーズを感じているからこそ、知恵も出るし、やり抜いてみせるという強い意志も生まれる。またニーズは待っていて生まれるものではなく、こちらから掴み取りにいくものである。大切なのは「気づく視点」と、実際に「掴みとる熱意」である。トヨタ生産方式の実践を目指すなら、常に新たな目標を掲げ、新たなニーズを見つけ出す視点が必要である。目標を支えるのは「高い志」であり、志があるからこそ、改善を続けていくことができる。あくまでも日々改善・日々実践の積み重ねにより、着実に一歩一歩前進する。改善したところには、常に新たな改善の芽があり、そこを改善して、また改善することが、トヨタ生産方式を実践するための心構えとなる。

 成長のためには絶えざる自己革新が必要であり、改善するとかムダを見つけることは、死ぬまでの仕事である。ただ徹底したムダ排除を進めていくと、自分のやっている仕事そのものの否定になるかもしれない。しかし、そうならば今の自分に何が求められているのかを意識して、新しい仕事を見つければよい。ムダは人間が作るものであり、人がやっている仕事のように見える動作の90%はムダだと思えば、ムダは見つかる。常にこんな問いを自らに発しながら、自分の仕事のやり方を何よりも厳しい目で問い直し続けたい。

 新たな成功にとって必要なのは、新しい仕事や新しい環境が、求めているのは何かを考え、その課題に果敢に挑戦する意欲である。目標を掲げる時には、不可能と思えるような数字でも、その目標に意味があれば、果敢に挑戦する。そうした挑戦は、必ず大きな進歩を生むことになる。何よりも「成し遂げるだけの無限の能力が自分にはある」と信じる気構えが重要である。簡単な目標で100点をとるよりも、高い目標に向かって挑戦し、たとえ60点でもやり抜く。ともかく前へ前へ進む意思があれば、トヨタ生産方式は必ずものになる。

以 上

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