◇  ビジネストピックス
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 『ナレッジ・マネジメント(Knowledge Management)』

塩谷 勲 (2002/02)

 はじめに
 ナレッジとは
 ナレッジの蓄積(ストック)
 「形式知重視型」ナレッジ・マネジメント
 「暗黙知重視型」ナレッジ・マネジメント
 ナレッジの流通(フロー)
 ナレッジ・マネジメントへのアプローチ − 創発型マネジメント
 情報共有から知識創造を目指すナレッジ・マネジメントへ
 情報システムによるサポート
 ナレッジ・マネジメント成功のポイント
 最後に

 

はじめに

 個人の経験に裏付けされたさまざまなナレッジ(ノウハウ・スキル・情報)が、組織内に分散しているために、十分に活用されていないことがある。ナレッジ・マネジメントとは、こうしたナレッジを組織全体で共有して活用することにより、発想の転換を図って新製品やサービスを創出する、ひいては企業価値を高めることを目指す経営手法である。ナレッジの源泉は「人」であり、ナレッジ・マネジメントにおいては「人を活用する仕組み」を最大限に磨き上げることが求められる。

 

ナレッジとは

 ナレッジとは「知識(文脈をもつ情報)」である。ナレッジ・マネジメントにおいて登場する用語に「暗黙知」「形式知」「情報」がある。まずこの用語の意味の確認を行う。
 「暗黙知」(Tacit Knowledge) は、個人がもつ経験的・身体的な独自のノウハウであり、形や言葉になりにくいナレッジである。これは状況や文脈といったものを含むアナログ的な現在進行形のナレッジといえる。これに対して「形式知」(Explicit Knowledge)は書類やデータベースとして、目に見える形となっているナレッジであり、デジタル的な過去形のナレッジである。形式知からそのナレッジの所有者や状況・文脈を切り離して、ドキュメントやチャートにしたものが「情報」である。
 この意味で「知識共有」と「情報共有」が異なることはあきらかである。ナレッジ・マネジメントでは、情報や形式知の共有に加えて、暗黙知の領域にある状況や文脈を共有することが重要とされている。

 

ナレッジの蓄積(ストック)

 仕事を有利に進めて、相応の報酬を得るために、私たちは自分なりのノウハウを築き上げようとする。こうしたノウハウは自分の財産であり、そう簡単に人に教えることなどできない、と考える人がいても不思議はない。しかしそれを良しとすれば、目の前にナレッジを共有するシステムがあったとしても、いつまでたってもナレッジが蓄積されることはない。いかにして「個人の財産」という意識を「組織の財産」とし、ナレッジを組織として活用しようとする意識に変革するかがポイントとなる。
 自分が築き上げたナレッジを自発的に公表しようとするには何が求められるだろう。そのキーワードは「評価」「魅力」「共感」である。優れたナレッジを提供した時、明確にその個人の「評価」につながることが大切である。その「評価」は金銭であったり、名誉であったりする。また、ナレッジを提供することが自分の仕事に役立つといった「魅力」も求められる。評価されることよりも新しいナレッジを学べることが「魅力」となる。価値の高いナレッジは、同等の価値をもつナレッジと等価交換される性質をもつのである。同様にナレッジを共有するメンバーの間に、同じ想いが「共感」されていることが求められる。たとえばリーダーの意欲がメンバーに伝わらなければ、メンバーも本気にはならないということである。
 個人がもつナレッジを提供したくなる仕組みをイネーブラー(Enabler)と呼ぶ。日本ナレッジ・マネジメント学会の高梨理事によると、イネーブラーには「経験知」「自己実現知」「社会知」「環境知」「自己組織知」の5種類がある。「経験知」はナレッジを出すと得になるという経験からくる認識である。「自己実現知」は仕事に成功し当事者として喜びを感じるという達成感と満足感からくる認識である。「社会知」は自分のナレッジが利用されることによる参加意識と組織や社会に役立っているという認識である。「環境知」は組織が置かれている環境を打破しようとする状況認識である。「自己組織知」はナレッジを提供することにより自分の貢献を組織に認められたいという認識である。
 イネーブラーを形成するには、組織風土の変革が求められるわけであるが、組織の在り方によって、そのアプローチも異なることになる。個人主義型の組織ではインセンティブとの連動が欠かせない。メンバーが自分の貢献度をわざわざ主張しなくても、自動的に評価されるシステムづくりが有効となる。コントロール重視型の組織で問題となるのは前例主義である。問題が発生したときに責任を負うのであれば、積極的にナレッジを出すことに躊躇せざるを得ない。そうした不安を取り除くルールづくりが求められる。たとえば匿名でのナレッジ提供を可とし、誰がそのナレッジを見ることができるのかメンバーを限定し明確化する。またその範囲を超えてナレッジを公開する場合は、必ず本人の了解を必要とするなどである。小集団型の組織ではコラボレーション(協働)の相手を見つけることができれば十分であるケースがある。その場合は「人脈づくり」をサポートする各人のスキル情報を蓄積し、呼びかけに気軽に応え合う文化が必要となる。ベンチャー型の組織ではメンバーが常に能動的に情報を収集・発信するために、ナレッジが氾濫することがある。このケースでは蓄積は十分であり、検索系システムの整備が有効となる。
 キューピーは、社員が自発的に現場のナレッジを発信する仕組みの実現によって、企業風土の変革を行った。そのキーワードは「自立」「コミュニティ」「可視化」である。「自立」とは自立型人材の育成である。社員は自分のために活動に参加するのであり、自分の頭で考えて仕事に取り組むといった意識改革や雰囲気づくりを行った。「コミュニティ」は組織の壁を取り払ったコミュニケーションができる場を設けることである。それは旧来の飲み会に替わる新しいコミュニケーションの場の形成である。「可視化」は会社と社員の動きを見えるようにすることである。プロジェクトチームからの情報発信をトリガーとして、社員の情報感度を高めナレッジの創造を促そうという試みである。具体的には電子社内報・メールマガジンを通じて社内広報を行い、グループウェアの広場にて意見を交流させる方法で電子版の「ワイガヤ」を作り上げている。

 

「形式知重視型」ナレッジ・マネジメント

 一口にナレッジ・マネジメントと言っても幾つかのタイプがあることを知っておく必要がある。そして自社が目指すナレッジ・マネジメントがどのタイプであり、ゴールが何なのかを明確にすることが重要なポイントとなる。
 分業化や専門化の進展により、知識やノウハウが組織として蓄積・共有されにくくなり、現場の業務に重複や遅れが生じるといった問題が散見されるようになった。ナレッジ・マネジメントが注目される背景には、まさにこうした状況がある。初期のナレッジ・マネジメントでは「暗黙知」を可能な限り「形式知」化することを目指した。「形式知」化することによってナレッジは検索性に優れた情報システムに蓄積しやすくなる。こうして知識共有を実現することにより、既存業務の効率化に貢献することができると考えたわけである。ここに情報システムを中核とした「形式知重視型」のナレッジ・マネジメントが誕生することとなった。情報システムとしては、文書管理システム・グループウェア・イントラネット・テキストマイニングツール等が中核となる。こうした情報システムを介して、成功事例を共有し、問題のある部署に適用して再活用することにより、重複業務の排除や時間・コストの削減を目指すのである。つまりこれはベストプラクティスの移転を促進する「問題解決型」のナレッジ・マネジメントとも言える。
 このタイプのナレッジ・マネジメントを進めるに当たって直面する最初の課題は、如何にメンバーに貴重なナレッジを情報システムに登録して貰うかである。登録のしやすさを追求したシステムの作り込みと共に、ナレッジを公開することに対するモチベーションの向上・意識改革などの仕掛けが求められる。アサヒビールは営業日誌を書く際に送信ボタンを押すだけで「営業情報玉手箱」と呼ばれるイントラネットに「情報カード」として開示される仕組みを構築している。この「情報カード」に対して本社サイドで「必読」「お勧め」等のランクづけをすることにより、会社が求める情報が明確となり、登録される「情報カード」のクォリティが担保されるようになった。また「情報カード」が何回閲覧されたかという情報や「役に立った」等のコメント書き込み機能によって情報発信者の貢献度を公開している。また武田薬品は医薬情報担当者の報告書から、重要と判断したものに対して改めて詳細な取材を行い、担当者名を入れてイントラネットに情報を開示している。すぐれたナレッジは支店レベルの発表会を経て、全国大会での発表の機会と表彰の栄誉といったナレッジ提供の動機付けが行われている。
 また登録されたナレッジはその瞬間から陳腐化していく宿命を背負っている。そのためナレッジの鮮度を維持し、そのクォリティを高める仕掛けが必要となる。この役割を担うのがCKO(チーフ・ナレッジ・オフィサー)やナレッジ専任チームである。野村不動産は法制度の改正があった場合、グループウェアに蓄積したナレッジから変更が必要なものを抽出して修正を行う本部要員を配置している。
 加えて過去の成功事例であるがゆえに、それ以上の成果を得られないという限界に直面することもある。そこでは編集・体系化されたナレッジを単に適用するだけではなく、新たなナレッジの創造が求められることとなる。新たなナレッジを創造する有効な手立ては、同じテーマを共有するメンバーとの対話である。つまりナレッジのコンテンツである「ノウハウ」よりもナレッジの所有者である「ノウフウ(Know Who)」の重要度が増すことになる。そして誰と対話すればよいのかをサポートしてくれるのがノウフウ (スキル)データベースである。これはまさに「人脈」の機能を提供してくれるものである。NTT東日本は社員全員の個人ホームページを活用して、誰がどんなノウハウをもっているのかを共有し、対話を通じて新たなナレッジを創造している。

 

「暗黙知重視型」ナレッジ・マネジメント

 最近注目されているのが「暗黙知」のままナレッジを共有することに重点をおいた「暗黙知重視型」のナレッジ・マネジメントである。その中核は人的ネットワークであり、普段から気軽に情報交換ができる組織風土がベースとなる。そして経験や議論を通した学習によって「暗黙知」が他のメンバーに継承され、新たなナレッジが創造されることとなる。
 以下に3つのパターン、1.専門家ネットワーク型ナレッジ・マネジメント、2. 顧客ネットワーク型ナレッジ・マネジメント、3. 知識資本管理型ナレッジ・マネジメントを紹介する。

1.専門家ネットワーク型ナレッジ・マネジメント
 専門家がもつリアルタイムのナレッジを連携させて、対話による問題解決の場を組織的につくるナレッジ・マネジメントである。専門家が互いのナレッジを提供しあう体制や組織風土が前提となる。デジタル補聴器のオーティコンは補聴器の専門研究者に加え、聴覚学・ソフトウェア工学・工業デザインなどさまざまな分野の専門家のナレッジや患者の声などを縦横に集める手法で製品開発を進めている。

2.顧客ネットワーク型ナレッジ・マネジメント
 顧客がもつナレッジを共有すると共に、継続的にナレッジを顧客へ提供する場を組み込むことで企業価値を高めるナレッジ・マネジメントである。CRMと融合した領域でもある。デュポンは顧客を組織図に組み込む試みを行っている。またマイクロソフトはプロトタイプを顧客に提供することにより、製品開発において顧客とのナレッジ共有を行っている。

3.知識資産管理型
 社内の知識資産を体系化することにより、ナレッジの価値最大化を目的としたナレッジ・マネジメントである。知識資産を評価する場を設け、既存の知識資産に加えて現場から生まれるナレッジ(潜在的なものを含め)を管理し、企業価値の増大を目指す。ダウケミカルは技術者による知識資産の価値評価をベースにしてライセンス収入を大きく伸ばした。またモンサントはナレッジの体系を再編することにより、ナレッジの書き換えを行い、化学企業からバイオ企業に転身することに成功した。

 

ナレッジの流通(フロー)

 情報共有を目指したものの誰も使わないデータベースだけができた、という話は意外に多い。情報は蓄積しただけでは流通しないものである。また蓄積されたナレッジは流通しなくては意味がない。しかも流通のスピードが求められる。ナレッジを素早く流通させるには、整理・体系化して流通させるコントローラーが必要である。つまりナレッジのエバンジェリスト(伝道師)の存在が求められるのである。以下にタイプ別のナレッジ流通の事例を紹介する。

1.現場のナレッジ
 過去のノウハウが通用しなくなった状況では、まさにいま現場が創造したナレッジを吸い上げて流通させる必要がある。明治生命は300人のファイナンシャル・プランナー(FP)がナレッジをグループウェアに登録し、自由に相互利用できる仕組みを持っている。このナレッジを流通させるために、2名の専任者を置き、グループウェアに投稿されたナレッジの中から優れたものを、全社で利用可能なテンプレートに編集してイントラネットに掲載している。そして掲載情報をナレッジ・ニュースとしてメールを使ってFPに告知し、ナレッジの流通を促している。

2.専門家のナレッジ
 技術革新のスピードに、個人やチームの努力では対応することが困難なケースが増えてきている。また気付かぬうちに同様の調査・研究を重複して行うといった無駄も生じている。横河電機は専門的なナレッジを現場から吸い上げて集約し、再び現場にフィードバックするために「SIコラボレーションデスク(SICD)」と呼ぶ組織を設置した。SICDは次の3つの機能を提供する。ひとつは個人やチームではフォローしきれない専門知識を収集すること。次に現場が直面している問題を吸い上げ、解決策を調査すること。そして調査結果をすべての技術者が共有できるようにすることである。現場の技術者がSICDに相談を持ち込むと、その案件はメーリングリストでSICDのメンバー全員に同報され、対応できる専門家を選定して依頼者との打ち合わせに入る。この時、必要に応じて社外の調査も行う。打ち合わせの履歴はSICDのメンバーが閲覧できるグループウェアにすべて登録され、そのプロセスが共有される。相談案件のうち他の技術者にも役立つと判断したものは、編集し直して社員全員が閲覧できるイントラネットの掲示板に掲載する。現場の技術者はこの電子掲示板によって素早くナレッジを得ることが可能となった。また現場を巻き込んでそれぞれの事業部間の壁を取り払うため、SICDのメンバーは8人の専任者と20人の兼任者によって構成されている。兼任となった技術者の人事考課は、本業の研究のほかにSICDの仕事での成果も対象となり、モチベーションを上げている。

3.顧客のナレッジ
 従来のマーケティング手法によって平均的な顧客像を作り上げても、顧客のライフスタイルが多様化した現代では、結局それに当てはまる人は誰もいないということがあり得る。また集計分析に時間がかかり過ぎて、企画に活かせないということもある。三井不動産はホームページを使って顧客の新しいアイデア・生活実態を素早く企画に活かす取り組みを行っている。たとえば間取りに関するアンケートを行い、そのアンケート結果をホームページに発表した。加えてアンケートから導き出された間取り案を掲載し、好みのものを選んで貰うこととした。その結果、人気のトップは設計者が予想した通りの4LDKであった。しかしその次に人気が高かったのは、生活スタイルによって間取りを変更できるタイプであった。これは設計者の想定外の反応であった。こうして誕生した間取りは即日完売となり、完売の感謝報告をホームページに掲載した。このようにホームページを通して素早く顧客のナレッジを取り込み、その結果をフィードバックすることにより、満足度の高い商品開発に成功することができた。三井不動産は今後チャットなども取り入れて、顧客とのコミュニケーションをより進化させることを考えている。

 

ナレッジ・マネジメントへのアプローチ − 創発型マネジメント

 「創発(emergence)」とは物理学の複雑系理論で用いられる用語であり、「個々の自発性が全体の秩序を生み出す」という自然界の性質を指している。「創発型マネジメント」は、こうした性質を経営に取り入れ、社員一人一人の発想を支援し、やる気や創造性を向上させる手法である。そのためナレッジ・マネジメントを実現するアプローチとして注目されている。具体的には、組織の上下関係にとらわれずに、自由かつ活発に議論できる環境を整備することで、新たなナレッジの創造につなげることを目指している。
 ナレッジは人の中に存在しており、情報システムでは管理できない。確かに全社的な情報共有を実現する情報システムは、ナレッジ・マネジメント実現に不可欠な「情報を共有する場」となりうる。しかしそれだけではコード化された過去のデータやノウハウの共有にしか役立たない。ナレッジ・マネジメントは、情報システムを「導入」するようなものではなく「企業自身が組織のコミュニケーションを変える」「ナレッジを企業経営に活かす」といった創造的なテーマである。そうした意味で管理の対象とすべきは「知識を生み出すプロセス」となる。そこで求められるのは「暗黙知を共有・創造する場」(コミュニティ・オブ・プラクティス:実践の共同体)と「議論のルール」を作り上げることである。
 「暗黙知を共有・創造する場」という観点から、対話しやすいオフィス環境を整備する試みが行われている。たとえば座席を固定しないフリーアドレスの導入、植木をオフィスの仕切りに用いての変幻自在のスペースづくり、いつでもどこでもナレッジ・データベースにアクセス可能なインフラ整備等である。フィンランドのノキアは、2つの本社ビルをつなぐ通路に議論を行う「カフェテリア」の機能を与え、社内には重要な対話の場となる「サウナ」を用意している。
 また「議論のルール」という観点から3つのルールをあげることができる。第一は「組織の上下関係を持ち込まない」ということである。その工夫として、議論するメンバーを少人数に絞る、メンバーの在籍期間を5年未満とする、議論をする時のメンバーの配置は円形にするなどである。第二は「問題解決を明確に意識した議論を行う」ということである。ブレンストーミングのように発想を発散させるのではなく、収束させることをメンバー全員が意識することが大切である。何らかの問題解決が得られるまで議論を終わらせてはならない。第三は「メンバーの自尊心・プロ意識に訴える」ということである。議論の中から得られた結果を公表する時は、必ず発案者の名前を表示することをはじめとして評価制度の整備が求められる。

 

情報共有から知識創造を目指すナレッジ・マネジメントへ

 情報共有から派生した初期のナレッジ・マネジメントでは、蓄積されたナレッジが流通することなく(使われることなく)、陳腐化していくという問題に直面した。ナレッジは蓄積すればよいのではなく、組織内に流通して初めて共有されるのであり、そこから新たなナレッジの創造が始まるのである。
 現在はナレッジ・マネジメントを「知識管理」(Knowledge Management)と捉えるのではなく、「知識経営」(Knowledge-based Management)と捉えることが求められている。ナレッジの創造に力点をおいた知識経営では、経営トップによる力強い経営ビジョンとリーダーシップ、全社員の意識改革が不可欠である。
 また全社的な経営の視点からナレッジを捉え直し、ナレッジの活用によってナレッジの創造を繰り返すことが必要である。そのためには組織の変革が常に求められ、組織全体で学習することが求められる。ナレッジは人がつくるものであり、その核となるのが「文脈を共有する空間」としての対話の場やコミュニティである。
 そして知識経営を実現するには、情報技術の活用も不可欠である。具体的には、問題解決・ナレッジ創造のためのナレッジ・データベース、ナレッジを流通させるための情報検索システムが必要となる。情報システムの中核にはイントラネット、グループウェア、文書管理システム、ポータルサイトなどがあり、必要に応じて使い分けることが重要となる。

<< 備考 >>知識変換プロセスSECIの回転による知識創造
                         出典:NRI石野泰輝氏

S(共同化)
経験を共有することにより暗黙知を創造するプロセス

E(表出化)
暗黙知を明確なコンセプトとして表現するプロセス(形式知化)

C(連結化)
形式知を組み合わせて、一つの知識体系を作り出すプロセス

I(内面化)
行動による学習を通して暗黙知が他人に移転するプロセス
 

情報システムによるサポート

 情報システムは効率化の道具である。ナレッジ・マネジメントで求められる情報システムは、誰もがアクセスでき検索性と対話性に優れたデータベースである。もしこれがなければ時間をかけて文書を回覧したり、コピーを配布したりしてナレッジ共有を目指すこととなり、あちこちに文書の山を築き上げることになる。
 ナレッジを共有し検索する機能を提供するシステムとして、グループウェアやイントラネットが利用される。最近では最新情報を対象とする企業ポータルサイト(EIP)や過去情報を対象とする検索分類支援エンジンが中核システムとして利用されるようになってきた。検索の概念には全文検索・テキストマイニング・概念検索などがある。またこうした検索システムの中にはナレッジの評価ポイントや閲覧頻度で自動的に並び替えて表示する機能を提供し、ナレッジの質の向上をサポートするものもある。
 ナレッジの創造を目指す対話のツールとしては、電子メール・メーリングリスト・電子掲示板・個人ホームページ・WTBなどが利用され、コミュニケーションの活性化をサポートする。

 

ナレッジ・マネジメント成功のポイント

 ナレッジ・マネジメントを組織に根付かせるためのポイントをここで整理する。

1. 経営課題の特定
 なんのためにナレッジ・マネジメントに取り組むのか、そのゴールは何なのかを明確にする必要がある。経営トップのリーダーシップと明確なビジョンが求められる。

2. 組織風土の変革を伴うという理解
 ナレッジ・マネジメントは組織のコミュニケーションを変えることである。メンバーが自発的にナレッジを発信し、新たなナレッジを創造し続ける組織文化の形成が求められる。メンバーはこうしたことを組織全体の共通認識とする必要がある。またそうした変化への対応力を持ち合わせているか見極めることも大切である。

3. 有能なスタッフによるプロジェクトチーム作り
 プロジェクトを推進するスタッフは経営課題や問題解決力・情報技術の動向等を理解している必要がある。その上で優れたリーダーシップとコミュニケーション能力を通して、組織をリードしていく力量が求められる。

4. 徹底したナレッジ監査の実施
 最初から情報技術に答えを求めるのではなく、まず社内にあるナレッジの棚卸しを行う。資産として管理しているナレッジだけでなく、潜在的な(埋もれている・意識されていない)ナレッジを資産として明らかにする。これにより知識経営に必要なナレッジを視覚化した地図(ナレッジ・マップ)を作成する。

5.ナレッジ・データベースの構築
 情報システムを活用して、ナレッジを登録する負担を最小化し、ナレッジの登録が自分の仕事の効率化になる仕組みを構築する。またメンバーの啓蒙を通してナレッジの蓄積を促進する。そして蓄積したナレッジをいつでもどこでも閲覧できるインフラを整備する。

6.人間系の重視
 メンバーが持つナレッジを集中管理することにより人員配置の最適化を図り、ナレッジをもつ人を探す機能を強化する。またフェイス・トゥー・フェイスで話し合う場を設定する。

7.ナレッジ・マネジャーの配置
 収集するナレッジの質と量を維持する専任の担当者を配置する。図書館の管理を司書が行うのと同様に、ナレッジ・データベースの管理は専門の担当者に任せ、誰もが使いやすいシステムに作り上げていく。

 

最後に

 経営に最も大切なナレッジは「ヒューマン・ナレッジ」である。これが共有・活用されてこそ、業務が円滑にまわるのである。個人適正を考えた業務分担、メンバーの創造性の発揮、チームワークの強化、意思決定の迅速化などを実現するために、経営者や管理者には人材についての知識つまり「ヒューマン・ナレッジ」が求められる。
 従来からアフターファイブを使って相互理解を深めることがなされてきた。しかし最近は業務の多忙さや頻繁な異動、そして親睦よりもプライベートを重視する世代の増加によりアフターファイブの活用も難しくなってきている。そうした親睦に代わって、情報システムを使って社員同士が互いに深く知り合い、親しく対話を重ねる試みがなされるようになってきた。具体的には個人ホームページの開設やプライベートメッセージの交換という形をとっている。こうした電子コミュニティの登場が「人間的相性」や「能力的補完」の最適化を促し、「コラボレーション(協調)」の実現に寄与することとなってきた。
 今後このような動きが、より高度なレベルでの「ヒューマン・ナレッジ」の共有を進め、ナレッジ・マネジメントをより進化させることとなるであろう。


 

参考文献
日経ストラテジー
 1999.9
北欧の元気な企業に学ぶナレッジ経営
 対話を促す「場」を作れ
日経ストラテジー
 1999.10
ナレッジ・マネジメント・フォーラム特別レポート
日経ストラテジー
 1999.11
ナレッジ・マネジメントの新手法
 社員の知恵を引き出す「創発型」マネジメント
日経ストラテジー
 2000.1-6
今日から始めるナレッジ経営
 田坂広志氏
日経ストラテジー
 2000.6
必読キーワード50
日経ストラテジー
 2000.7-9
超入門ナレッジ・マネジメント
 紺野登氏
日経ストラテジー
 2000.9
実践!ナレッジ・マネジメント
 「知」が通う業務革新
日経ビジネス
 2001.4.30
勝者の経営術
 ナレッジ・マネジメントで知恵の交流
日経ビジネス
 2001.10.22
特別編集版 知を極める
 ナレッジ・マネジメントのススメ
日経ビジネス
 2001.12.10
勝者の経営術
 頭脳の最大活用でナレッジ型企業になる
IDGジャパン (http://www.idg.co.jp) ナレッジ・マネジメント進化論
NRI Research NEWS
 2001.4
ナレッジ・マネジメント実践上の課題
 石野泰輝氏




以 上