ヴィジョン・クエスト−−神話の海へ−−      
                               おおえまさのり




 日本という国は、今、『教育基本法』の改正をはじめとして、それに引きつづく『憲法』の改正を通して、「美しい国」の神話を作り上げようとしているのだと思われます。確かにわたしたちは神話を必要としています。神話の崩壊が今日の教育や社会や政治・経済の混乱や破綻をもたらしていることは否めません。神話を崩壊させられた先住民は、生きるべき世界を見失って、精神的に解体し、アルコール中毒や非行や自殺に追い込まれていってしまいました。同じことが、今、わたしたちに起こっています。

 しかし、かつての部族や共同体の、一つの民族や一つの宗教や一つの国の閉じられた神話をもってしては、今日のわたしたちの神話になり得ることはできません。

 閉じられた神話の対立の果てに、民族の殲滅や世界大戦があったことに目を向け、そして今再び、かつての閉じられた神話を求める圧力が強くなり、強弁な論争が高まりつつあることに警戒の目を向けなければ、世界は再び破滅の淵へと追いやられてゆく他ありません。

 今日わたしたちが住んでいる世界は、経済のグローバリゼーションやインターネットの普及によって、全地球的につながり合っています。環境問題一つを取って見ても、それは一国の問題に留まらず、全地球的な視野において取り組まれなければならないことは明白です。

 わたしたちに求められているのは、閉じられた神話の輪を開くことです。神話を、一つの民族や一つの宗教や一つの国の内に閉じ込めることは、今やナンセンスです。ナンセンスばかりでなく、対立と抗争を煽るばかりです。

 神話の本質とは、わたしたちがここに存在する宇宙の神秘を明かにし、宇宙の構造を解明し、社会の規範を示し、そして教育的機能を果たすことです。わたしたちは神話の象徴や隠喩を、即物的に捉えて、その故に、象徴を巡って、対立を繰り返してきたのです。象徴が指し示してきた神話の本質をこそ、わたしたちは捉えなくてはなりません。

 わたしたち、この宇宙に住むすべてのものたちは、それぞれ一人ひとりの宇宙の中に、それまでの宇宙のすべて(宇宙を形づくる原子のかずかずとその歴史)を宿しながら、互いに他を含み合いつつ、百数十億年の壮大な宇宙の時空を旅してきた"今"というところに立っています。

 "今"のそこで、人の胎児は、母なる羊水の中で、魚から両生類へ、そして爬虫類から原始哺乳類の顔へと、数億年の生物進化の歴史を夢見ながら、まさに生命神話を形として現わし出しつつ、人として生まれてくるのです。
 これらの夢見がわたしたちを作り、この宇宙を作ってきたのです。

  神話の輪を解き開いたそこには、汲めども尽きない"夢見の時間"が広がっています。夢見の時間への旅を通して、わたしたちは、世界を"見る"ことを学ぶのです。
 "見る"の中に、はじめて輪の開かれた、全地球的な神話が立ち現れてくることができます。それなくしてわたしたちは、新たな世紀を立ち現わしてゆくことはできようがありません。

 夢見の時間を旅し、見ることを学び、全地球的な神話の再生への道を辿ってみたいと思います。

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目次:

序章

  あなたのジャンピング・マウスになりたい   環の中に住み直す  神話の再生へ     神話の宝庫である夢見の時間   羊水の内で夢見る前に   
  付)「じゃんびんぐ・まうす」との対話

第一部 夢見の時間

  <死と再生の夢見の時間>夢見の技法――@  <アボリジニの夢見>夢見の技法――A   <ヴィジョン・クエスト>夢見の技法――B  <宮沢賢治の夢見の時間>夢見の技法――C   <祈りという夢見>夢見の技法――D     <メディスンの旅>夢見の技法――E   付)SEE     付)『チベットの死者の書』――神と個の、空性性の理解のために

第二部 神話の再生

  世界の夢  生態学という神話  神話としての日本国憲法第九条  火の鳥の神話    付)アース・ギャザリング   

第三部 神話を生きる

  あしたのくに  世界は恋人  大いなる神秘との合一としての死

終章――詩篇

  神話の海へ  すべては“わたし”が……  宇宙が生まれた    意識の旅路

あとがき 

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