ゴッグ系MS

 ジオン公国軍が初めて開発に成功した水陸両用MS。MSM-01(MS-06M)水中型ザクから得られたデータを元に航行能力の強化と機雷対策として重装甲化を施したため、従来の人型から離れたスタイルを持つ機体となった。

 対潜水艦戦闘を含む水中戦闘や湾岸地区における奇襲上陸作戦では高い能力を示し、生産数こそ少ないが、一年戦争を通じてジオン軍の制海権を保持するのに貢献した。後発となるアッガイ、ズゴック、ゾゴックはゴッグ開発から得られたデータを元に開発が行われており、どれも人型から離れた特異なフォルムはゴッグから引き継いだものといってもいいだろう。

 ゴッグはズゴックと共に水陸両用MSの代名詞として知られるようになるが、大戦終結後以降の戦乱や低劣度紛争では主戦場のほとんどが宇宙空間や陸上だったこともあり、後継機や発展型の開発は頻繁に行われることはなく、MS開発史の中で埋もれていった。


 機種一覧

 MSM-02コング
 MSM-03Aゴッグ
 MSM-03Bゴッグ
 MSM-03Cハイゴッグ
 AMX-109カプール
 RMS-153オクトーズ


 MSM-02コング

 ジオン公国軍が開発した水陸両用MS第一号で、ジオニック社製MS-06M水中型ザクとは競作関係にある機体である。水中型ザクの欠点であった耐水性と水中航行能力を強化したため全体的に大型化し、流線型に近い機体形状を持つ。

 ジオン軍は戦前から地球にMS部隊を進駐させた局面を想定して、地上用の局地戦型MSの基礎開発を続けていた。これは宇宙用兵器であるMSが宇宙空間ではAMBAC肢として使用している脚部を用いて実際に陸戦兵器の一環として運用が可能なのか、実験的な要素を含んでいたと言われている。その中で地球上にひろがる広大な海洋上、及び海中でのMS運用も視野に入れた研究も行われていたという。

 しかし、自然の海を持たない宇宙国家であるジオンにとって、あまりにも不明な要素が多すぎた。そして、大戦緒戦でのブリディッシュ作戦失敗によって短期決戦を目論んでいたジオン軍は結局、当初意図していなかった地球侵攻作戦を実行に移すこととなり、研究段階にあった地上用局地戦型MSの必要性に迫られたのである。

 当初、砂漠戦用のD型などと共に開発されたMS-06M水中型ザクは海を知らないスペースノイド技術者が机上のデータのみで開発した機体であり、海洋上でテストする時になると潜水性能こそ良好だったものの、戦闘に重要な水中での機動性の低さが露呈することになる。
 
 そして、いち早く制海権を得るために本格的な水陸両用MSの開発が実行に移されることになるのだが、陸上や宇宙空間に比べて、水中──特に塩水である海中においては不明な要素があまりにも多すぎた。ジオニック社ではMS-06ベースで水陸両用機の開発が可能であると報告していたが、軍は水陸両用MSの開発をジオニック社だけではなくツイマッド社、MIP社にも命じ、三社による競作を行わせて、いくつかのプランを提出されることで保険をかけることにした。

 また、競作でありながら軍は各メーカーに対して水陸両用MSのデータを共有し、技術交流を行うことも命じている。これは水陸両用MSの研究が遅れていたことや、地球侵攻作戦が間近に迫り、短期間で水陸両用MSの完成を急いでいた軍の思惑があったものと思われる。
 ジオニック社はすでにザクベースで水陸両用機の設計を取りかかり、各メーカーの中では早期に試作機が完成していた。一方、ツイマッド社は水中型ザクの設計図を軍経由で提供してもらい、それを元にツイマッド独自の改良を加えたのがMSM-02コングである。従ってロールアウト時期は水中型ザクよりも出遅れているが、ほぼ水中型ザクとは競作の関係となった。

 コングは水中型ザクの低い水中航行能力を向上させるため機体外装の見直しから入った。結果、機体各部が流線型に近い形となり、水中航行時の整流効果を高めるなどの試みがなされているのが特徴的である。こうした流線型や人型から多少外れたMSMシリーズの原型が試作機コングの時点で完成されていたとも言えるだろう。

 外装の根本的な変更と同時に、水中航行時に邪魔となる武装は全て内装式とし、携行式は全て廃止とすることで整流効果を少しでも向上させるための試みを施されているが、コングの時点ではザク以来の人型MSの設計思想に囚われている一面もあり、ツイマッド社製MSMシリーズでは本格生産型となるMSM-03Aゴッグに比べると設計的にもまだ未成熟な面も見受けられた。

 腕部はバルカン・ポッドを内装し、後の腕部固定武装というジオン軍水陸両用MS特有のレイアウトがこの時点で見られるが、腕には従来型のマニュピレーターも併用して装備されており洗練されていない部分も多い。そのマニュピレーターも腕部本体内側に「おまけ」のように生えた形で付けられており、一方では携行武装そのものは開発されておらず、その用途は不明瞭であった。従来の人型や汎用性重視に囚われていた部分が色濃く残る部位と言えるだろう。この結果を受けて後発機は全てマニュピレーターは廃止され、代わりに破壊活動用のアイアンネイルやバイスクロウといった水陸両用MS特有の格闘戦用、及び破壊活動用の兵装へと変化していく。

 機体外装甲は内部への浸水を押さえるために強化され、重装甲化されると同時に関節部などの浸水しやすい可動部へのシーリングも施された。浸水は電子機器類の故障を引き起こす可能性もあるため、水に弱い電子機器への保護が重点的に施された。元々モノコック構造であるため耐水性、耐圧性には優れた構造であったことが幸いして主要部の装甲厚を増加させただけで、水中への対応は比較的容易であった。

 メイン武装は腕部六連装バルカン・ポッド、肩部ミサイル・ランチャーと背部バックパックに内装された30mmバルカン砲と対空/対艦ミサイル×四発と実弾兵器のみで、コングの時点ではビーム兵器搭載はまだ実現していない。しかし、冷却システムに水冷式を導入することが可能となったため、効率の高い冷却方式を採用したことによって1300kw代の高出力を得ることが可能となった。
 
 推進システムとして水中型ザクと同様、ハイドロジェット・エンジンを搭載し、水中航行時には90度傾く形で航行を行うため、パイロットへの負担を軽減するべくコクピットは進行角度に合わせて移動するシステムを採用した。これは水中型ザクで初めて試されたシステムで、後のゴッグ、アッガイ(アッグ系)、ズゴック、ゾゴック、ゾッグの各系列も全て、角度可変コクピットを採用している。これは後のリニア・シートなどのムーバブルなコクピットシステムに繋がるシステムとなる。
 
 大腿部は後のゴッグの腕部、ズゴックの四肢に採用された多重関節機構が部分的に採用された。しかしコングの時点ではあくまで試験的なものに留まり、可動範囲は従来のモノコック式構造MSと大して変わりはなったようだ。

 当初、実験機コングは水中戦と陸戦の双方を担えるように設計され、あまりにも多機能を求め過ぎたため、ザクから始まる人型兵器という概念から離れられなかったために水陸両用MSとしては極めて中途半端な機体となってしまった。特に腕部のマニュピレーターと固定武装の併存はその最たる例であり、整流効果を向上させるためには徹底した武装類の内装化を目指さなければならなかったのだ。
 また、後の後発機は全て水中での航行や機動力を優先されたが故に人型から外れ、気密性向上と機雷対策で重装甲化したことによって機体設計そのものが大型化しつつあった。

 水陸両用MSは水中での活動を優先したことでMSそのものの売りである汎用性を失い、後の連邦軍の内訌戦期よりも七年も前に早くも進化の袋小路、言わば「恐竜的進化」へと突き進みつつあったが、最初の水陸両用MSであるコングにおいてすでにその兆候が見られたといってもいいだろう。

 だが、潜水艦のような大型兵器と違い、小型で水中において高い運動性と機動力を発揮するであろう水中兵器は水陸両用MSにおいて他にないのもまた事実でもあり、大型化と機体構造の複雑化と戦いながら、ジオン軍技術陣は高い性能を持つ水陸両用機を開発していくことになる。これだけ水中用MSを開発し、これ以上の性能を有する機体を戦場に送り出したのはジオン公国軍において他にないのもまた、水中型MSの特色ともなっている。
 他陣営となるエゥーゴ/カラバのMSA-005M、ティターンズのRMS-153、時代は下るがザンスカール帝国軍のZMT-D15Mといった水中型MSは全て、可変機構などの独自色を有しているものの、系統的にはジオン軍のMSMシリーズの設計をどこかで引きずっているといっても過言ではないのだ。

 コングは水陸両用MSとしては中途半端な機体となってしまったが、テストベッドとして活用され、次の試作機開発のために各種データ収集が行われた。0079年1月に月面都市グラナダにある突撃機動軍の兵器工廠において試作機が4機ロールアウトし、2機づつが、サイド3・ムンゾの海洋コロニーと地球侵攻部隊の先遣隊に託され、地上の海とコロニーの海と同時進行でテストが開始された。
 
 テストの結果、コングより高い水中航行能力を得るために次の試作機では機体構造をより整理し、フォルムの流線型化とステルス性の向上、そして内装式ビーム兵器搭載という、次なるフェイズへと進むことになる。コングそのものは実験機の域を出ない機体であったが、次なる傑作機、ゴッグへと進むステップとして重要な役割を果たしたと言えるだろう。

 テスト終了とゴック実用化後、コングは実戦に投入された記録もなくテストを終えた機体がカリフォルニア・ベースの倉庫に留置されていたが、戦後、連邦軍によって捕獲され、評価試験が行われた。ティターンズではこのコングの設計を流用する形で内訌戦時にRMS-153オクトーズを開発している。

 MSM-03Aゴッグ

 MSM-02コングに続いて、ツイマッド社にて開発された水陸両用MS第二号が、MSM-03Aゴッグである。コングから得られたデータを元に機体設計を更に整理するため、全面的な再設計が施されて実質的な新規設計となり、武装の内装化と機体設計そのものの大型化が進んでいるのが特徴的である。

 先発機であるコングはMS-06ザクなどの人型汎用兵器の思想から離れられず、結果として水陸両用MSとしては決して成功しなかった。コングはまだ「ザク」の影響下にある機体だったと言えよう。宇宙空間と地上、双方とも違う別の空間である「水中」ではザクとは全く違う概念を持つ機体でなければならなかったのだ。

 しかし、初の水陸両用MSとして完成したコングはテストベッドとして有効に活用され、得られたデータは次なる機体へのステップアップとして重要な役割を果たしたこともまた事実である。コングから得られた各種データによって改良と再設計が加えられ、完成したのがMSM-03Aゴッグである。実際に戦線に投入されたタイプと違い、初期型のA型は先行試作機で俗にプロトタイプゴッグと呼ばれる機体である。

 ゴッグは機体フォルムが滑らかな流線型となった。コングも滑らかな流線型のフォルムを持つが、さらに洗練されたゴッグは水中航行時を考慮した構造に全面的に改良された。全武装を内装し、水中航行能力を高めるために頭身を低くした結果、頭部ユニットそのものを胴体に固定するなど、可能な限り航行時の水の抵抗を減らす努力がなされ、機体設計そのものが大型化し、人型から離れた構造となった。また、ビーム兵器を稼動させるために大型ジェネレーターを搭載したことも大型化の一因でもある。

 後発機が全て通常の人型フォルムからかけ離れているジオン軍水陸両用MSは水中航行の水の抵抗を考慮し、武装の全てを内装・固定式とし、汎用性よりも火力と攻撃力、及びステルス性を重視し、水中での稼動率を向上させることが優先されたのである。
 水中での一般作業はMSM-01水中型ザクに任せ、海上でのシーレーン確保や沿岸でのゲリラ戦、及び破壊活動ではもっぱらゴッグをはじめとする水中戦闘に特化した専用機に任せるという方法がジオン軍内部で広まりつつあったのも、水陸両用MSがザク系をはじめとする汎用型MSとは別の進化の道を辿った一因でもあった。

 また、ゴッグはビーム兵器を搭載、運用するために高い出力を引き出すジェネレーターと、それに見合った冷却システムを持つ必要があった。しかし、ビーム兵器のMSへの携行がまだ実験段階にあったジオン軍ではEキャップ技術が連邦軍よりも遅れており、実用化に手間取っていたが、ゴッグにおいては活動の場所となる水中に天然の冷却材が豊富に存在する特異な環境を逆手に取り、冷却システムに水冷式ラジエーターを採用し、高い冷却能力を持たせることでジェネレーターの出力を高め、ビーム兵器を充分に稼動させる程の出力を得ることに成功したのである。上陸時に冷却水を貯めるためのバラストタンクを内装するためのレイアウト変更もあり、人型から離れた特異なフォルムを持つ一因ともなった。

 こうして、安定した高出力と高い冷却能力を持つゴッグはジオン軍MSとしては初めて、ビーム兵器の搭載に成功した。後に普及するEキャップ式と違い、ジェネレーター直結型式のメガ粒子砲を腹部に二門装備する。連射は不可能だが、高い火力を持たせることが可能となったのである。メガ粒子砲は上陸時において前面の敵部隊や軍事施設の破壊に使用され、新装備アイアンネイルと共にその威力が期待されていた。

 腕部は従来のマニュピレーター式から、斬撃武装として使用可能なアイアンネイルを初めて採用した。アイアンネイルはチタン合金で形成された爪型マニュピレーターで、奇襲作戦時において敵水上艦艇や湾岸に点在する軍事施設の破壊にその威力を発揮し、マシンガンやビーム砲と異なり、出力や複雑な射出装置を必要としないローテク兵装でもある。
 アイアンネイルはコングのマニュピレーターと内蔵バルカン砲の併存という機構の複雑化に対する反省から生み出された水中用MS特有のもので、MSの売りの一つであった作業性は失われたが、単体での格闘戦能力は大幅に向上した。大戦後期に連邦軍がMS配備を開始し、MS同士による戦闘が頻発した後も対MS用格闘武装として使用することも可能だったため、パイロットからは概ね好評であった。
 アイアンネイルとは水上艦の船底を破壊して魚雷を使わずに破壊・撃沈させることや、航行中の敵潜水艦の外殻に穴を穿つ、といった芸当から上陸した湾岸での港湾施設やコンビナートでの破壊活動にも使える装備であり、魚雷などの装備に限界のあるゴッグにとっては最大の武器、といっても過言ではないだろう。

 プロトタイプゴッグと呼ばれるA型は機構的なテストを行うために3機がサイド3本国のツイマッド本社工場にて製造され、各種テストに供された。水中航行能力はコングより大幅に向上し、メガ粒子砲の試射なども好調であった。

 しかし、冷却システムを水冷式に限定したことから、上陸時の活動時間が短く限定されてしまうという欠点も浮き彫りとなった。特に多大な廃熱を発生させるメガ粒子砲発射後は早急にタンク内の冷却水を排水し、新たな冷却材を得るために早急に水中へ戻る必要があった。だが、ゴッグは水中での作戦や上陸時も湾岸地区にある連邦海軍基地の奇襲などと、陸上での活動時間が元々少ない作戦に投入されることが想定されていたため、問題とはされなかった。ジェネレーターの冷却が必要な時にはすでに奇襲作戦は終了して海中へ戻っているためだ。またこの頃は連邦軍にはまだMSはなく、海中へ戻るのを妨害する要素もなかった。

 プロトタイプから得られたデータは更に正式生産型となるB型への改良に活かされた他に、実戦データ収集のために地球侵攻部隊の第一陣に託され、北米カリフォルニアにある連邦海軍基地の制圧作戦に2機が投入された記録が残っている。
 この時、バックアップとしてMSM-01水中型ザクが3機、MSM-02コングが1機投入されており、ゴッグA型の戦闘を補佐していた。これが事実上の、ゴッグ初の実戦参加記録ということになる。

 MSM-03Bゴッグ

 MSM-03Aゴッグのテストから得られたデータを元に修正を加え、さらに改良した正式生産型がB型である。本格的な実戦型水中用MSとしては、このB型が初である。MSM-01水中型ザクMSM-02コング、ゴッグA型を経たゴッグB型は、さらに洗練された一つの「完成形」だと言えるだろう。

 B型の基本性能はA型に準じるが、A型でのデータ収集で判明した各種要素を盛り込んで改善された。ジェネレーター出力は廃熱処理の問題もあってプロト機よりも低く押さえられているが、メガ粒子砲の射撃は問題なく行うことが可能であった。
 これによって上陸時の活動時間がプロト機よりも向上したが、やはり奇襲攻撃後の撤退に余裕を持たせる程度のものでしかなかったようである。

 メガ粒子砲はA型同様、腹部に二門装備され、上陸時の敵掃討、あるいは退却時の攻撃に使用される。メガ粒子砲は偏向式で、射撃角度が変えられるようになっている。唯一の欠点は水中では拡散率が高く、使用が不可能なことにあるがアイアンネイルや魚雷などの武装で代用するため、問題とはされなかった。
 腹部外側にそれぞれ一門づつ、計二門の魚雷発射口が設けられており、一発づつ、対艦用魚雷を搭載している。

 A型と違う点は外装の設計が整理され、より堅牢になっているのと、腕部に多重関節機構が本格採用され、水中航行時には腕部を縮めて肩アーマーに収納するという一種の可変システムが採用されたことにある。A型での稼動テストで腕部アイアンネイルの形状や腕部ユニットそのものが水の抵抗を発生させ、ステルス性を失わせるという結果を受けて肩部アーマーに腕部全体を収納させるために腕部そのものを伸縮自在な機構としたのだ。
 後発機であるMSM-04アッガイ、MSM-07ズゴックも同様の多重関節機構を採用し、アイアンネイルやバイスクロウと共にジオン製水陸両用MSの特徴的な構造として確立した。
 
 A型から採用された斬撃武装アイアンネイルは伸縮自在な腕部と相俟って、敵潜水艦外殻や水上艦船底部を穿ち、沈没させるなど、通商破壊作戦においてその威力を発揮した武装の一つとなり、ローテク兵器であった。

 そして、B型最大の特徴が対機雷用兵器「フリージヤード」を初めて装備したことである。このフリージヤードはゴッグ頭部先端にある発射口から射出され、水中に投入されると同時にゲル化して機体全体を包み込んで機雷の接触を防ぐというもので、一種のゲル化装甲である。海上や海中に敷設、浮遊してゴッグ潜水部隊の行く手を阻む磁気機雷は全てこのゲルに絡め取られ、無力化されるのだ。
 微小な衝撃で機雷が爆発したとしてもゲルで衝撃が半減され、ゴッグ本体にはダメージを及ばせないなどの効果もあり、ゲル装甲としての役割を果たした。また、機雷を無力化するだけではなく、ゲル化剤にはステルス材が混入されており、これによってソナーに映りにくくなるなど上陸用の特殊兵器としてその威力が期待されていた。

 だが、フリージヤード展開時にはゲルを取り込まないためにハイドロジェット・エンジンを停止させる必要があり、あくまで歩行が可能な水深の低い海岸や湾内での上陸準備における機雷の排除や軍港の湾内に張り巡らされたソナー類の無力化などに重点を置いた兵器であった。従って、フリージヤード展開時は海底を歩いて移動するという形が取られる。
 上陸時には機雷が絡んだゲル装甲を除去剤で取り除かなければならないなどの煩雑な面もあったが、ステルス性を向上させ、ゴッグ潜水部隊の後に続く友軍上陸艇や潜水艦の安全確保におおいに役立ったと言えるだろう。ゴッグにはフリージヤードを除去するための除去薬剤も搭載され、上陸時に機体頭部に設置された噴出口から薬剤を流してフリージヤードを化学的に分解させる。粘度は保たれているため、絡まった機雷を反応させることなく除去することが可能だ。

 しかし、ゴッグそのものが対機雷対策として厚い耐圧モノコック装甲を有するため、フリージヤード未展開時でも充分に防ぐことも可能ではあった。後のC型ではフリージヤードの搭載は廃止され、フリージヤードそのものが廃れていったようだ。

 こうして、ゴッグB型は占領後のカリフォルニア・ベースにおいて量産が開始され、グラナダにあるジオン公国軍工廠でもカリフォルニア・ベース工廠を補佐する形で生産が始まった。ロールアウトしたB型は順次、ジオン軍潜水艦隊のユーコン級/マッドアングラー級潜水艦に配備され、海洋上での通商破壊作戦や上陸作戦の補佐、連邦海軍基地への限定的な奇襲作戦に投入された。

 ゴッグは水陸両用MSとしては高水準の性能を持つ機体であったが、メガ粒子砲搭載や重装甲化など、機構そのものが複雑化したために生産コストが高騰し、MS-06ザクIIのように大量に生産することはできないという欠点を持っていた。地球での戦場が拡大していくに従って、潜水部隊も新設されていく中でゴッグの量産が追いつかないという状況が続いた。また、水陸両用MSに機種転換するための訓練用機の必要性も出てきた。
 ゴッグB型の生産がおぼつかないことに業を煮やしたキシリア・ザビ少将はジオニック社に、ゴッグよりも低いコストで量産可能な水陸両用MSの機体を依頼した。それがMSM-04アッガイなのである。

 従って、ゴッグ系MSはその生産数が少なく、MSM-07ズゴックの就役やオデッサ戦後の戦況の悪化もあって20機程度で生産は終了した。後に発展強化型であるC型の開発・生産も行われたが、大戦末期だったこともありC型の生産台数は更に少ない。

 投入当初は上陸作戦や奇襲作戦に高い威力を発揮し、水中では機雷を寄せ付けないなど、連邦海軍の潜水部隊を梃子摺らせる程の無敵を誇ったゴッグも連邦軍のMS本格投入もあって序々に損耗数が多くなった。上陸時に待ち伏せを受け、RX-77D量産型ガンキャノンやRGM-79ジムの集中砲火を浴びて撃破されたり、水陸両用MSの天敵であるドン・エスカルゴ対潜哨戒機による対MSM用機雷の大量投下によって、無防備な水中航行時に撃沈されることもしばしばであった。

 いくらゴッグが堅い装甲を持っていても、ビーム兵器を標準装備する連邦軍のガンキャノン系やジム系MSにかなうはずもなく、フリージヤードの使用が不可能である水中潜行時は機雷の大量投下による大爆発に耐えることはできなかった。
 連邦軍も大戦末期に高性能火薬と金属破片を詰め込んだMS用機雷を開発・投入したことも、ゴッグ系MSの損耗率が向上した一因であると言えるだろう。

 大戦後、連邦軍は水中用MS開発に熱心ではなく、ゴッグよりも性能的に劣るMSM-01水中型ザクやMSM-06マリン・ザクなどの機体を改修して、場当たり的に採用したこともあり、ゴッグの系譜は末期に生産されたC型を最後に大戦終結と共に一旦は断たれることになる。

 MSM-03Cハイゴッグ(MSM-09)

 MSM-03Bゴッグの再設計機。大戦後期にペズン計画とセットで立案された「機種統合計画」の一環として、多機種化したMSの規格統一を図り、運用コスト削減を図るべく改修が施されたのがC型、俗にハイゴッグと呼ばれる機体である。制式採用後、新たにMSM-09ナンバーが与えられており、MSM-03Cナンバーはツイマッド社内で通用していたものである。

 C型は同様に機種統合計画で改修されたMSM-07Eズゴック“エクスペリメント”と違い、全面的な再設計が施され外見はB型と共通した構造はほとんど見られず、全くの新規開発機といっていい程の内容となった。当初、ツイマッド社のゴッグ開発スタッフがゴッグの後継機プランとして構想を練っていたものを流用したものであり、新規開発機の範疇に当てはまる機体と言えるだろう。

 しかし、全く別機種とも言えるC型は実際にはジェネレーター、廃熱システムのほとんどはB型と共用しており、ゴッグ系バリエーション機の一つであることが覗える。また一方ではコクピット規格、フレキジブル・アーム、推進システムはズゴックと共通した構造を持っており、コスト削減を図っている。MSMとしての進化度としてはゴッグ系とズゴック系の中間的な機種とも言える。

 C型はモノコック装甲が全面的に再設計され、装甲材質も従来の超高張力鋼からチタン合金・セラミック複合材に変更された。装甲材質の変更と同時に、外装の再設計がセットで行われたものと思われる。
 連邦軍MSとの遭遇戦が頻発していた大戦末期には、対MS戦を考慮していなかったジオン軍MSの防御力強化や対MS格闘戦能力を付加させるために装甲材質を超高張力鋼からチタン合金へと仕様変更する試みがなされ、C型にも同様の試みがなされたようだ。

 ゴッグは連邦軍MSが出現する以前に設計・開発された機体であるため、アイアンネイルによる対MS格闘戦能力こそ高かったものの、基本的には対MS戦を考慮に入れていない設計であった。ゴッグの売りの一つである堅い装甲もMSが携行する大口径のマシンガンやキャノン砲、及びビーム兵器の連続したダメージに耐える程のものではなく、重装甲を過信したパイロットが連邦軍MSとの戦闘で撃破されることも多かった。
 フリージヤードシステムを搭載し、機雷や格闘戦には強いゴッグであったが、陸戦でのMSの大口径実弾兵器やビーム兵器にはいとも簡単に撃破されてしまう場合があまりにも多かったのである。ゴッグが誇るメガ粒子砲で敵MSを圧倒することも可能ではあったが、冷却システムの問題もあり地上で撃てる回数は限られ、必ずしも連邦軍MSに対するアドバンテージとはなり得なかった。C型の装甲がチタン合金系に強化されたのも、そういった時代背景があったのである。

 また、C型ではB型の弱点であった廃熱システムの改良が行われ、空冷/水冷式のハイブリッドラジエーターを搭載した。今までのゴッグは奇襲戦のみに用途を限定したため、水冷式に依存したが故の陸戦時の短い活動時間でも充分にその威力を発揮したが、奇襲作戦終了後、水中へ戻る途中で敵MS部隊と遭遇し、足止めを受けてジェネレーターがオーバーヒートした結果、システムがダウンし、隙を突かれて撃破、あるいは捕獲されるなどの重大な欠陥が指摘されたためである。
 これはゴッグそのものが持つ欠陥ではなく、連邦軍がMSを配備しはじめたために起こった事故であり、本来の奇襲作戦オンリーで使用する場合には問題はなかった。しかし連邦軍がMSを本格的に配備し、MS同士の集団戦闘が主流となるとゴッグの設計思想は時代遅れになった言えるだろう。

 そのため、後発機であるMSM-07ズゴックから採用された空冷/水冷式のハイブリッド型のラジエーターを採用し陸戦時の冷却率を安定させる試みがなされた。これによって陸戦時でもビーム兵器のある程度の連続使用が可能となり、生残性も大幅に向上した。

 主力武装であるメガ粒子砲は腹部から両腕部先端に移され、よりフレキジブルな射撃角を得ることが可能となった。B型のメガ粒子砲は偏向式で、機体の位置を移動させなくてもある程度の射撃角を可変させることができたが、それにも限界があった。
 従来のB型のメガ粒子砲の場合、偏向型でも基本的に使用時には標的に向けて本体前面を向けなければならないことも多かったため、高い火力と裏腹にパイロットの評判はあまりよくなく、上陸時の敵部隊掃討に用途が限定されてしまっていた。

 しかし、MSM-04Bアッガイから腕部にビーム砲を内装する形が取られ、以降のMSM-07ズゴックでも腕部にビーム砲を内蔵させる形が主流となっていた。ゴッグ開発スタッフもジオニック社製MSM-04アッガイ、MIP社製MSM-07ズゴックの腕部内蔵方式を参考にしてC型では同様に腕部に内蔵させ、ビームライフルに近い取りまわしか可能なように設計変更を加えたのである。

 併せて、ジェネレーターからの電力供給を補佐する形でEキャップシステムが内蔵され、ジェネレーターやラジエーターの負担をできるだけ押さえられている。Eキャップ技術はライバルであったジオニック社に遅れをとっていたツイマッド社であったが、マ・クベ大佐の機種統合計画による半ば強制的な技術提携もあって、軍経由でジオニック側の先端技術を入手することができた。これはツイマッド社にとって僥倖であったと言えるだろう。

 伸縮自在なフレキジブル・アームは延長時には本体全長よりも長く伸びるように改良された。これによって格闘戦能力が強化された。熟練パイロットが搭乗した場合、フレキジブル・アームを鞭代わりに振るい、敵の軍事施設を薙ぎ払うように破壊することも可能である。ちなみに本体全長に匹敵する長さを持つフレキジブル・アームは同様の機構を持つMSM-08ゾゴックの構造が参考にされたようである。
 水中航行時にはB型同様、肩アーマーに収納されるがC型ではさらに肩アーマーそのものを折り畳む機構が追加され、水の抵抗をより減少させることに成功している。

 腕部にはビーム砲が内装されたため、斬撃武装であるアイアンネイルからバイスクロウに変更された。C型のバイスクロウには関節が設けられ、アッガイやズゴックのものに比べるとアイアンネイルとの中間的な構造を持ち、ある程度の作業性が付与された。コンテナを持ち上げ、移動させる程度の作業であれば簡単に行え、敵MSとの戦闘では長く伸びるフレキジブル・アームと併用して目標を薙ぎ払い、敵MSや戦闘車輛を掴んで放り投げるなどの格闘戦闘が可能となった。

 一方、B型から装備されていた特殊武装フリージヤードは廃止された。機雷程度の爆発であれば充分に耐えられるためで、追加装備でフリージヤードを装填した特殊弾頭を小型魚雷射出口から射出する方式に変更されている。
 頭部下、両枠に二基づつ、合計四基の小型魚雷射出口が設置され、水中航行時の魚雷発射が可能となった。B型では腹部のメガ粒子砲の脇に設置されたため、魚雷発射時には機体の姿勢を変更しなければならず、この点でもC型は根本的な改良が行われた。
 
 追加武装として腕部に装着する大型ハンド・ミサイルがある。奇襲作戦用の装備で、MS携行用としてはかなり大型である。水中航行時にはカバーに覆われ、発射時にカバーが外れ、弾頭が発射される。ハンド・ミサイルは大型弾頭型の他に水中発射型(魚雷型と対空型)や、フリージヤード撒布型、ミノフスキー粒子撒布型などいくつかのバリエーションが考案されていた。

 強化されたモノコック装甲、冷却システムと対象的にバックパックは小型化された上に航行距離が短くなった。長距離航行時には増加バックパックを別途装備する方式が取られ、B型の長い航行距離能力を省略した代わりに本体重量の軽量化にも成功した。
 全長もB型が重MS程の規模を持つのに対し、C型は全体的に小型化され16mと小ぶりになっている。ゴッグを始点に重MS化していった水陸両用MSの流れに対する反省から、C型では徹底した小型化と軽量化が施されたのである。

 C型は連邦軍MS出現後の、B型のウィークポイントを徹底的に改修した機体だと言えるだろう。後発のズゴックが上陸後の対MS戦闘を意識した格闘戦重視の機体、先発のゴッグが上陸時の奇襲作戦や揚陸部隊のサポート、水中でのゲリラ戦闘を重視した機体であり、同じ水陸両用MSでありながらその用途は全く違っていたが、連邦軍MSの出現により奇襲戦重視のゴッグの設計思想は旧式化し、ゴッグそのものにもズゴックの高い格闘戦能力と汎用性が求められた。
 ゴッグの名を冠せられながら、全くの別機種となったC型はジオンで最初に水陸両用機を開発したツイマッド社の意地とも言える機体であったと言えよう。

 C型は0079年11月末に数機がカリフォルニア・ベースにてロールアウトし、海軍部隊に配備されたが、その直後に連邦軍によるカリフォルニア・ベース奪回作戦が開始され、基地が陥落したために生産は中断された。
 かろうじて実戦部隊に確保されたC型は、従来B型と同様、奇襲作戦に投入されていたが、そのほとんどが撤退時の殿軍的な投入だったことは否めない。0079年12月の南極基地襲撃作戦ではグラナダからの指令を受けて連邦軍の新型MSを奪取、あるいは破壊すべく送り込まれたジオン軍の特殊部隊「サイプロクス隊」にC型が配備され、ズゴックE型と共に投入されたが作戦は失敗し、この時にC型1機が連邦軍MSの攻撃によって撃破された。徹底的に改良されたC型も、連邦軍のMS実用化のスピードに抗うことは不可能であったようだ。

 大戦後、地下に潜ったジオン軍残党の潜水艦隊の一部にC型が配備され、戦後のゲリラ戦などで使用されていたようだがC型以降、ゴッグ系MSの開発は中断された。ただし完成したC型のうち、少なくとも1機が撤退するジオン軍部隊によって宇宙に運び出され、更にアクシズに渡った。アクシズに持ち込まれたC型は、AMX-109カプールの開発母体となったと言われている。
 
 AMX-109カプール

 アクシズ/ネオ・ジオンが地球侵攻作戦のために開発した水陸両用MS。MSM-03Cハイゴッグを開発母体とし、水中戦能力を向上させた機体で、ジオンでは最後となる水陸両用・可潜型MSである。

 一年戦争終結後、アステロイド・ベルトにある小惑星中継基地「アクシズ」に逃亡したジオン軍残党は、逃亡者たちのリーダーであったマハラジャ・カーン提督の死去と共に再び地球圏への帰還と連邦との再戦に向けて戦力を蓄えつつあった。
 その一環としてMSの新規開発が開始され、大戦中に開発された機体群の発展型を中心に様々な機体が生み出されていた。主力機そのものには、アクシズの限られた生産力を考慮して生産性の高いガザ系TMSが制式採用されていたが、地球圏への帰還後に勃発するであろう連邦軍との武力衝突と、それに続く地球降下作戦へ向けて陸戦重視の機体の開発も着々と進んでいた。
 地球圏への帰還後は月面やコロニーの工業施設を接収し、あるいはソロモンやア・バオア・クーなどの要塞奪回などでアクシズの工業力を向上できると考えられていたため、これらの機体は旧ジオン系MSの発展型で占められていた。AMX-109カプールはそのうちの一機種であり、水中戦闘用と制海権奪取を目的として考案されたプランである。

 地球へ侵攻する場合、降下する部隊のほとんどが地球の表面の1/3を占める広い海洋上に着水するために、着水地点での安全確保が重要視されていた。HLVによる衛星軌道上⇔地上を往復して侵攻部隊を送り込んでいた前大戦時と違い、今回の降下作戦ではミノフスキー・クラフトによる大気圏内航行が可能な万能艦艇を多数降下させるため、陸上より敵部隊の存在が少ない海洋上で降下部隊を集結させ、陸地へ侵攻する方法が取られることが決定していた。
 その露払いをし、集結地点の海域に潜む危険を取り除くのがカプールの主任務なのである。

 大気圏再突入終了後、母艦から出撃したカプールはサポート機であるAMX-003Mガザ・マリナーと共に海洋上に一早く着水し、集結地点海域の安全を図る。連邦軍やカラバの潜水部隊が潜んでいた場合は母艦からの援護を受けつつ交戦し、これを撃滅する。これがプールの基本的な運用方法である。

 カプールはムーバブル・フレームやガンダリウムγ合金などの新技術を取り入れたため、機体を大型化、重MS化させることなく、機体構造の堅牢性を向上させることに成功している。ゴッグ系MSMは潜水時の浸水や水圧対策のために機体構造を強化した結果、機体そのものが大型化するなどの弊害を抱えていたが、カプールでは七年間のテクノロジーの進歩によってそれを見事解決したのだ。

 機体構造は小型化しつつ堅牢性を高めるために完全な球形となった。球形構造はガンダリウムγ合金の二重装甲を持ち、潜水能力が大幅に向上した。水圧による浸水や機体破損は水陸両用MSの解決すべき課題の一つだが、二重装甲化によって潜水能力と防御力を同時に強化させることが可能となった。

 ゴッグ以来の多重関節構造の四肢は健在で、ムーバブル・フレームやガンダリウムγ合金の採用でより頑強となり信頼性が高まった。そして、腕部には斬撃武装であるバイスクロウを装備する。このバイスクロウはハイゴッグと同様、関節を持つタイプでガンダリウム合金の削り出しで作られている。
 カプールのバイスクロウはハイゴッグのものと比べると作業性こそ低いが、ガンダリウム合金の量産素材であれば一撃で切り裂く威力を持つ。敵潜水艦の外壁を突き破り、撃沈させる他に連邦軍が装備しているであろう水陸両用MSとの格闘戦用武装として使用が想定されていた。
 
 機体中央の開閉部には合計八門の小型魚雷発射口を備え、機体腹部にメガ粒子砲を一門、頭頂部にも可動式のビーム・ガンを三門装備するなど、小型ながらも重武装を誇り、その火力は侮れない。

 そして、カプール最大の特徴としてゴッグ系から受け継いだ水中航行形態を持つことである。ただし腕部を肩アーマーに収納して、前方に頭部を向けて航行形態に入るゴッグ系と違い、カプールの場合は魚雷発射口がある機体中央の開閉部を閉じ、両腕を球形の機体内部に収納し、両足を折り畳んで球状の可変形態となって水中航行を行うことができる点にある。球状に近い可変形態となるため、潜水能力と水中航行能力そのものが大幅に向上した。
 また、この形態のまま浮上し、水上をホバリング移動することも可能で、水中、海上の機動力はゴッグやズゴック系よりも格段に高くなっている。

 こうして、水陸両用MSとしては高いポテンシャルを持つに至ったカプールは0087年末に試作機がロールアウトしたが、アクシズは海洋コロニーを保有しておらず、肝心の実用化テストを行うことができなかった。そのカプールが実地テストの機会に恵まれたのはまさに第一次ネオ・ジオン抗争時の地球降下作戦時で、数機の試作機が地球へ降ろされた。

 カプールは当初の目的であった地球降下作戦そのものに投入することはできなかったが、グリプス抗争で痛手を蒙っていた地球連邦軍は表立ってネオ・ジオン軍の降下艦隊に対して迎撃することすらできず、ネオ・ジオンは少ない戦力で地上の連邦軍基地を襲撃、制圧せしめることができた。
 カプールで構成された先遣MS部隊による海上での橋頭堡、部隊集結地点の確保を行わずともネオ・ジオンは一時的にも地球上の要所を制圧することができたのである。

 連邦政府首都が置かれていたアフリカ・セネガル共和国の首都ダカールの無血占領に成功し、主だった戦闘が終息に向かっていくと、カプールの出番はなくなりつつあった。量産化計画もサイド3譲渡などの政治的取引がスムーズに進んだため、大幅に縮小されたのだ。
 しかし、地上に持ち込まれたカプールの先行試作機はテストを終えると、一部の機体が実戦配備に移された。連邦軍そのものはネオ・ジオンと交戦することを政府議会から厳しく禁じられていたが、連邦正規軍の指揮権から独立していたカラバやガンダム・チームとの交戦が激化していたためで、カラバ海軍によるネオ・ジオン艦やそれを支援するジオン軍残党の潜水部隊への襲撃事件も多発していたためである。

 敵対するカラバ海軍はAE社製の水陸両用TMS、MSK-005Mメタス・マリナーを主力機とし、ユーコン級潜水艦「アトランティス」を旗艦とする潜水艦隊を編成、ネオ・ジオンの指揮下に入った旧ジオン軍戦略諜報潜水部隊の残党と激戦を繰り広げていたことで知られているが、グリプス抗争時からティターンズ海軍と激戦を繰り広げていたカラバ海軍はカラバ軍事部門の中では最も戦意の高い部隊の一つであり、自然の海を知らない将兵の多いネオ・ジオン軍にとって脅威となりつつあった。
 ネオ・ジオン軍は連邦軍から接収したRMS-192Mザク・マリナーやカプール同様、降下作戦での投入が予定されていたAMX-003Mガザ・マリナーと共に試作機段階であったカプールを投入し、カラバ海軍との戦闘に従事させたのである。

 しかし、テストのみで終了したカプールは主だった戦果を残すことなく、ガンダム・チームや歴戦のカラバ海軍部隊によって撃破されていった。そもそもカプールは宇宙上で海を知らない技術者によって理論値のみで設計された機体で、降下作戦後にテストを行っていたこともあり、現場のパイロットからは高い信頼を得ることができなかったことや、肝心の連邦海軍が主だった抵抗を行わず、降下作戦もほぼスムーズに進んだことも、高いポテンシャルを活かすことができず、不必要とされた一因であったのかも知れない。
 
 そして、主戦場が宇宙に移ると、カプールの開発・生産は放棄され、開発そのものが中断された。カプールは戦争に間に合わなかった機体である以前に、当時の政治的・軍事的背景を鑑みた上で、必ずしも必要である機体とは言えなかったのだ。
 
 ネオ・ジオンはその後、カプールに続く水陸両用MSを開発することなく、ジオン軍最後のMSMとなってしまった。

 RMS-153オクトーズ◆

 グリプス抗争中、ティターンズ陣営下の地球連邦軍が開発した水陸両用MSで、水陸両用MSのテストモデルとして大戦中に試作されたMSM-02コングを開発母体としている。

 大戦後は水中でのMS同士による戦闘がほとんど発生しなかったこともあり、水陸両用機特有の高い維持費や低い互換性を嫌い、連邦軍は水陸両用MSの新規開発には熱心ではなく、大戦後にジオン公国軍から接収したMSM-01水中型ザクやMSM-06マリン・ザクをベースにRMS-188MDザクダイバーRMS-192Mザク・マリナーを開発し、海軍部隊に配備するのみに留まっていた。

 ザクダイバーやザク・マリナーなどのMS-06系を始祖とする機体はゴッグ/ズゴック系に比べて水中航行能力や運動性が低いものの、維持費が安上がりで済むことが好まれ、主として浅い海域や海底油田の水中警備、湾内での封鎖作戦、機雷の敷設と撤去、水没したMSや艦船のサルベージ作業などの補佐的な任務に使用されていた。

 しかし、ザク・マリナー系MSは前大戦時に開発・製造された機体をベースに改修を施しており、0087年頃になると老朽化が目立ち始めていた。おりしも同年3月にはエゥーゴとティターンズとの対立が表面化し、両者による武力抗争が激化すれば地上の連邦軍部隊をも巻き込む可能性もあり、早急な対策に迫られることになった。

 一方で連邦海軍の古参兵たちの中には新参者のティターンズが連邦軍内で勢力を増すことに反発し、部隊単位でカラバに参加する者も多かった。そのカラバ海軍も装備そのものは母体となった連邦海軍と同様だが、これらに加えて旧ジオン軍残党から接収したMSM-03ゴッグやMSM-07ズゴックなどの旧式機をリニア・シート化するなどのマイナーチェンジを施して実戦投入したため、火力の弱く、旧式化しつつあったザク・マリナーのみでは到底太刀打ち出来なかったのである。
 カラバが確保・保有していた旧ジオン製MSMは決してその数は少なかったものの、これらのMSMを積極的に投入してティターンズ海軍を翻弄し続けたためにこれらの機体を大幅に上回る水陸両用MSの開発を行わなければならない状況に陥ったのである。
 
 だが、過去七年間、連邦軍は水陸両用MSの開発を怠り、基礎研究しか行わなかった。元々、ジオン軍が保有していたMSM自体の配備数が少なく、戦争終結時、機密保持のために潜水部隊に配備されていたゴッグやズゴックといった機体の大半が戦闘データと共に海洋投棄され、連邦軍が無事な形で捕獲できた機体はごく僅かで、連邦軍は詳細な運用データの入手に失敗していた。
 また、戦後の掃討戦ではドン・エスカルゴ対潜哨戒機とRMA-151マリンドック、ユーコン級潜水艦のコンビネーションによる対潜作戦が重視され、水陸両用MS同士による戦闘はほとんど発生しなかったことも水陸両用MSに対する認識の低さに繋がっていた。

 連邦海軍が航空機を投入した対潜作戦に自信を持っていたことや、コストだけ高く、汎用性の低い水中型MSを開発するよりも現用機とのパーツ共用が可能なMS-06M系列の機体を進んで採用した方が低いコストで運用できるなどの利点があり、連邦軍の水陸両用MS離れを象徴する一因であったと言えよう。

 だが、ここにきて敵対勢力である叛乱軍カラバが廃物利用的ではあったがMSMを積極的に運用し、ゲリラ戦を仕掛けてきたことにティターンズ海軍は新たに対応に迫られ、早急に新型機を開発する必要に迫られたのである。
 カラバ海軍の主力機はゴッグやズゴック、あるいはアッガイなどの「旧式機」であったが、グリプス抗争当時、これらの水陸両用機を超える新型機が存在しなかったためにティターンズ海軍は多大な損害を蒙ることになる。海洋上で最強と言われていた潜水MA、マリンドックでさえもこれらの機体によるゲリラ戦によって失われ、もはや損害を無視できない状況にあった。

 そこで、ティターンズはカラバの旧式MSMに対抗するために急遽、新型水陸両用MSの開発を行うことを決定し、ティターンズの重要拠点の一つ、ニューギニア基地工廠において新型機開発が開始されたのである。
 ティターンズ海軍部隊からの要望としてカラバ海軍の水陸両用機に対抗できるように火力が高く、なおかつ上陸戦時にも高いポテンシャルを持つ機体であることが条件とされた。

 開発のためのサンプルが少ない中、唯一、連邦軍が運用データを含めて完全な形で接収に成功した機体があった。MSM-02コングである。コングは水陸両用MSとしては発展途上の機体だったが、少ないデータの中でコングをうまく利用するしか手立てはなかった。
 コングをベースに、残されていた水中型機のデータ、または現用であるザク・マリナーの運用データを元に、ニューギニア基地工廠にて開発された機体がRMS-153オクトーズなのである。
 
 オクトーズはコングの設計を色濃く残すMSだが、ムーバブル・フレームとガンダリウムγ合金製装甲を採用し、機体そのものの堅牢性を高めており、潜水性能は大幅に向上した。特に超高張力鋼やチタン合金・セラミック複合材などの旧式の材質を使用していた従来の機体に比べると、耐久性は断然高まっているといえるだろう。

 エンジンはハイドロジェット・エンジンの他に、陸戦時にはホバーやジャンプによる移動が可能なように脚部に熱核ロケットエンジンを内装した。水中航行時には背部のハイドロジェット・エンジンを利用し、上陸時にはロケットエンジンを使用する形をとるが、ロケットエンジン噴射口はソール部裏とふくらはぎ部アーマーに内蔵され、水中での活動時は全て閉鎖される。

 ハイドロジェット・エンジンのノズルは可変式で、機体正面を向いた形で水中を航行することも可能である。背部のエンジン・ユニットはザク・マリナーより小型化されており、排除機構は廃止された。陸戦後の水中への撤収を考慮したもので、上戦時にデットウェイトとならないように軽量化されている。
 エンジン・ユニット中央にはボール型の浮きがついた潜望鏡を内装し、水上偵察に用いられる。600m長のケーブルを持つため、深水域から潜望鏡を使用することが可能となった。
 
 冷却システムは水冷/空冷のハイブリッド式で、陸上での長時間作戦行動も可能である。ジェネレーター出力は2350kwと、水冷式ラジエーターを採用しているためか当時の第二世代型MSの中では高出力を誇るが、陸戦時にはジェネレーターのオーバーヒートを防ぐために1690kwに出力が限定され、最大出力の2350kwは水中活動時や上陸時間もない時のスペックである。

 頭部モジュールはモノアイ式とジオン系の色が強い設計となった。機体フォルムもモノコック式の装甲構造を持ち、曲面主体の装甲はコングや水中型ザクをはじめとするジオン系水陸両用MSの黎明機に開発された機体を始祖としていることが覗える。
 水中航行時には頭部の半分を胴体側に収納可能で、水中航行能力の水の抵抗を減らすための努力が見られる。

 また、オクトーズの腕部ユニットは従来の水陸両用MSのようにバイスクロウやビーム砲などの固定武装や、伸縮自在なフレキジブル・アームを持たず、ポピュラーなマニュピレーター式となった。
 武装は携行式で、水中での射撃が可能な特殊ビームライフルとサブロック・ガンを装備する。ビームライフルはRX-178ガンダムMkIIのものを改良したタイプで、水中射撃時には高い火力を維持することが可能となっている。
 機体側の固定武装は頭部60mmバルカン二門と、両腕部に装着したマグネット・ハーケンのみであり、水中航行を優先させたために武装を全て固定式にしたジオン製水中機と大きく構成が異なるのが特徴的である。連邦軍のMS技師は人型と汎用性に拘る傾向にあり、汎用MS(この場合陸戦型MS)としても使えるように一般型MSの設計を引きずる部分が多く見られる。

 これはオクトーズに通常型の腕部機構が採用されたのも、水中での作業性やパーツ共用度を重視したもので連邦軍内での水陸両用MSに対する認識がジオン軍と大きく異なっていることの証左とも言えるだろう。また、近年のEパックシステムの普及やジェネレーターの性能向上に伴うビームライフルの高性能化などによって水中でも火力を落とさずにビームを撃てるまでに技術が進歩したことも挙げられる。

 コスト削減のために腕部の伸縮機構はなく、機体フォルムが曲面主体でありながらも人型に近いため、水中航行性能では従来のゴッグ/ズゴック系に比べると劣るが、潜水性能では遜色はなく、ザク・マリナーとザク・ダイバーの機種統合を意識した設計となっている。将来的には連邦海軍に配備されているザク系ベースの旧式機は全て、このオクトーズに総替えされる予定であった。
 
 オクトーズは0087年10月、ニューギニア基地兵器工廠において先行量産機がロールアウトし、テストの結果、連邦海軍への制式採用が決定した。水中での航行性能や運動性よりも高い作業性や潜水能力が重視された上での制式採用であった。連邦海軍の新たな戦力となったオクトーズは旧式化著しいザクダイバーとザク・マリナーに代わる新型水陸両用機として期待がかけられていたのである。

 だが、同基地にてロールアウトしていたRMS-154バーザムの量産が優先されたこともあり、オクトーズの生産は遅れ、実戦配備も遅々として進まなかった。ティターンズ上層部がエゥーゴ討伐のために宇宙上の戦力の拡充を優先させ、海上戦力が軽視しがちだったのもオクトーズの生産・配備が遅れた一因であり、これは連邦軍が水陸両用MSの開発に熱心ではないという体質そのものからくるものであった。
 
 ロールアウトした機体はまずはティターンズ海軍に優先して配備され、北海油田や太平洋などの海上の要所に配備されたが、100機ほどが生産されたところでダカール宣言による政変が起こり、オクトーズの生産も一時棚上げとなってしまった。また、主な生産拠点であったニューギニア基地兵器工廠がカラバ空軍による度重なる爆撃を受け、生産施設に甚大な被害が及んでいたことも、生産を停滞させるのに拍車をかけた。
 結局、連邦軍独自の開発による初の水陸両用MSとして期待がかけられていたオクトーズはダカール宣言がきっかけで生産は中止され、ごく少数のみで配備は終了した。

 さらにカラバ海軍にてAE社製MSK-005Mメタス・マリナーが導入されると、エゥーゴ指導下となった連邦海軍でも後追いの形で同機の制式採用が決定され、ティターンズ陣営時代で開発されたオクトーズは海軍の主力機から一転して、不採用となってしまう。
 メタス・マリナーが従来のザク・マリナーだけではなく、マリン・ドックなどの攻撃型潜水MAの機種統合を視野に入れた機体として連邦軍上層部の注目を集めていたために、コングやザク・マリナーの設計を受け継ぎ、可潜MSとしてはメタス・マリナーに比べて可変機構も持たない平凡な機体となったオクトーズに勝ち目はなかったのだ。

 ちなみにオクトーズ初の実戦参加は0087年12月のニューギニア基地制圧作戦時で、ニューギニア基地を制圧するカラバ主力部隊の上陸支援のために海軍所属の10機が派遣され、閉鎖された軍港に敷設された機雷の除去やカラバの工作員チームの上陸のサポートを行った。
 当初はカラバ海軍に対抗するために開発されたオクトーズであったが、初の作戦投入はかつての敵であったカラバ海軍部隊の支援と、ニューギニア基地に立てこもる旧ティターンズ残党の討伐であったことは大きな皮肉だったと言えるだろう。

 その後、オクトーズは海軍に納入された90機余りが旧式化したザク・マリナー/ザク・ダイバーと代替し、機種統一が図られた後は沿岸警備や機雷の撤去、水没したMSなどのサルベージ作業などの任務に従事している。多機能なメタス・マリナーに比べて地味なオクトーズであるが、サルベージ作業ではその作業性が高く評価されている。