電気信号(ディジタル、高周波)は伝送線路をどのように進むか

改定: 2008/1/20 (初出: 2006/2/20)  


このページでは電気信号がどのように伝わるかを説明しています。

ここで言う電気信号とは立ち上がり、下がり時間が数n秒以下で、同じレベル(HあるいはL)が続く時間がμ秒(10^-6)以下のディジタル信号のような信号です。このような電気信号は直流で説明されるような銅線の中を電子が流れるのとは異なるメカニズム・方法で線路を進みます。

筆者の経験ではプロの回路設計のベテランの方でもこの電気信号の伝わり方を、直流のイメージで把握されていることが少なくありませんでした。

交流(50Hzなど)を電気で扱う場合でも、実は線路の長さを無視して扱っています。50Hzの1周期で、日本列島の長さ程に波が進むため、普通に扱うm程度の長さの線路や回路では交流の波(電圧あるいは電流波形)が伝わる実際の様子を考慮せずとも実質的な差が出ないためです。

一方、数百MHzからGHzの高周波と聞くと一見高速な現象を扱っているように思えます。しかし、高周波のサイン波を回路に印加して回路内を信号が何千、何万回も往復した後の落ち着いた(定常的な)状態を見ている場合がほとんどです。高速デジタル信号は数十cmの線路を1-2回往復する数nsec以下の非常に短い時間の電気信号の波形を問題としており、通常の高周波の考え方、取り扱いでは正しくデジタルなどの電気信号の波形を把握することができません。

また、物理系では導体の表面の電荷が一様に落ち着いてからの場合を取り扱っていることがほとんどのようです。ここで問題としていますのは、導体表面の電荷の変化が導体(30cm程度の大きさの)に加えられてからnsec程度以下の間の過渡的な現象です。短時間(nsec〜psec)の間に導体表面で起こる電荷の変化は観測が簡単ではなく、実用面でもあまり扱われてきていませんでした。このため一般にはあまりとりあげられてこなかった対象のように思われます。

 

筆者の不勉強、勘違いで誤っている点がある恐れがあります。誤記の修正、あるいは説明をよりわかり易やすくするため今後も内容を特に明示なく手直しすることがあり得ます。本ページの内容を元にした結果、問題、損害が発生しましても筆者は責任を負うものではありません。内容はあくまで参考としてください。ご意見、ご要望、ご指摘をいただければありがたいです。あて先はページ末を参照ください

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目次 


●1. 電気信号と直流電流とは同じ伝わり方をするのか

 まず直流の電流について復習しておきます。銅線などの導体でつないで回路をつくる直流回路では、図1-1のように電流は上の線を左から右に進み、負荷(この場合抵抗)を通って下の線(面)を右から左に進むとされています。"直流"は電圧を加えられた導体の中を(普通の電線では1秒間にmm程度の)遅い速度で電子が途中で速度を変えずに移動する現象です。

ここでいう電子とは、導体の中にある自由電子ひとつずつでなく、ひとまとまりにして見た場合で、速度はそのまとまりとして見たものが移動する速度を指します。個々の電子は速いもの、遅いもの、内部の金属イオンにぶつかって反対向きに進むものなどさまざまです。なお、電流の方向は、電子が見つかる前に決められたため電子が実際に進む向きと逆に矢印で示されます(参考文献7 ←いろいろな場合の電子の速度についても説明しています)。


図1-1 直流電流の流れ方

次は電気信号です。何気なく普通に使われているICの信号です。以下の問いを考えて見てください。

 

問1 まずロジック回路で多く使われているHCMOSの場合を考えてみましょう。図1-2で示しますようにHCMOSのドライバー側はVccあるいはグランドへ切り替えているスイッチとして表されます。スイッチ部分に数十Ω程度の抵抗が直列に入っています。

一方右側のレシーバ入力は高いインピーダンス(抵抗の一種)です。直流では実質オープンですので図1-1のような直流電流は流れることができません。したがって図1-1のように、グランド側に右から左に戻るいわゆる"リターン電流"も流れないことになります。では信号は実際にはどのようにして伝わっているのでしょうか? 


図1-2 HCMOS回路の電流の流れ方は?

 

問2 図1-2でスイッチをグランド側から電源側にした後、そのまま続けると階段状に立ち上がり、その後ハイレベルが続くDC信号となります。しかし、ここでは現象を簡単にするため、スイッチを一瞬グランドからVccにつなぎ1nsecでまたグランドに戻す場合を考えます。この操作で1nsec幅のパルス波形が作られ、線路を伝わって行きます(スイッチは理想的なものでチャタリング(=複数回数on/offを繰り返す)は起きないとします。)。図1-3にパルス波形を示します。

電気信号は一般に知られているようにほぼ光速で伝わります。パルス幅を1nsec(10^-9sec)とすると通常のガラスエポキシ基板では1nsecで15cm程度進みますので図1-3ではIC間は約4*15=60cmとなります。この60cmの線路を4nsecで伝わることになります。一方、直流電流は上に述べましたように秒速mm程度ですから4nsecではnm(10^-9m)以下でほとんど動いていないことになります。

50Hzなどの交流では通常の回路規模の長さの線路は、回路図には線で示されていても、部品間がつながれていることを示すだけの、長さが無視された仮想的な記号と考えるべきでしょう。


図1-3 信号と"リターンの電流"を矢印で示した例

さて、パルスが伝わって行く様子を図で示す場合、図1-3のように信号線側に信号の進む向きの矢印、リターン側の線路にそれと反対向きの矢印で"電流"として表すことがあります。信号は4nsecで左から右に伝わります。リターン線側の矢印は左向きに書かれていますが信号の動作とあいません。この矢印は何を表しているのでしょうか

 

問3. 別の例です。図1-4はドライバがオープンドレインの場合です。DVIやHDMIなどディジタル映像信号はこの回路でHとL信号をペアにした線路(差動)で伝送しています。ここでは差動でなく片方の線路のみの場合で考えています。TTLオープンコレクタでも同様に考えることができます。左にあるドライバICは出力とグランド間にスイッチが入っている回路と考えることができます。スイッチが開放の状態からにショートに変化した時の信号の伝わり方を考えます。

図1-4には線路の右端にあるVccにつながれたプルアップ抵抗から電流が流れ下るように書かれています。しかし、ドライバのスイッチがグランド側に閉じることで信号伝送がスタートし左側から進んで4nsecの時間経ってはじめてスイッチが閉じられたという情報が抵抗のところに伝わるはずです(図1-3と同じ線路長60cmの基板とする)。

この図では信号の進む向きと"直流電流"の向きが逆になっています。正しい信号の伝わり方、直流電流の流れ方はどのように説明されるのでしょうか?


図1-4 オープンドレインの場合の電流の流れ方は?

 

図1-2から図1-4について明確な説明ができる方はこのページは読む必要がありません。少しでも???と思った方は以下を見てみてください。もっとも自分は明確にわかっていると誤った説明のままで理解されている確信犯の場合もありますが...。

なお、問いの回答のヒントは本文の最後にあります。(簡単に回答に飛べないようにリンクはしていません。あしからず)

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 (注. ここにありましたACの説明は補足2に移動しました)

 

4. 電子と電荷は同じとはかぎらない (改定2007/10/20)

普通の電線の中では自由電子と呼ばれる、金属の原子核に縛られていない電子があります(図4-1)。線路の端と端の間に電圧を加えると電圧に応じて電子は引きつけられます。しかし電子は互いにぶつかりあって勝手な方向に動いているため簡単には動けず普通の電線の中では数V程度の電圧が加えられた場合、1秒で数mm〜数cmという非常に遅い速度となっています。もっともこれは1つずつの電子でなくひとまとまりの電子の平均の速度です。


図4-1 金属の内部構造 (参考文献7)
(+の円は金属原子のイオン部分。周囲が自由電子の部分。
電子を粒で示していますがこれは原子構造レベルでは実態ではありません。
雲のようなものが実態に近いといわれます。)

図4-2のような線路でスイッチが閉じてから直流の状態(電子がゆっくり電流を運ぶ)になるまでは電子自体が移動するのではない、なにかが電気的な信号、エネルギーを伝えていることになります。


図4-2 線路の端で電源をonする

それは静電気で金属表面に現れる"電荷"と同じ性質の現象です。電磁気の本などで単に"電荷が移動する"という場合は電子など質量のある荷電粒子が実際に移動することを指すことが多いようです。重さのある電子自体は数V程度の電圧を加えただけでは光速で移動することは出来ません。導体表面を光の速度で移動する"電荷"は、電子の偏りのようなものが移動すると考えればよいでしょう。

注::電磁気学などで単に"電荷"という場合は実際に質量のある電子(の塊)などが移動する場合を指します.ここでの説明のように電気信号が導体表面に電荷として現れ、それが光の速度で移動する現象の場合の"電荷"は普通考慮されていないので注意が必要です。

 水面で考えれば電子は水の分子、金属表面を光速で進む電気信号は波にたとえることが出来ます。地震の津波は深さが4000mもある海ではジェット機並みの速度で伝わります(参考文献8)。もちろん水自体がそのような速さで移動するのでなく"波"が移動することは明白でしょう。このように波は物質自体の移動速度よりはるかに早く伝わることが出来ます。

電子を液体のようなものとして扱う考え方が最近のナノの世界のデバイスの取り扱いなどで行われるようになってきています(文献22)。ここで説明するように水のようなものと例えてもまったく的外れとはいえないでしょう。ただし電気信号の速度は金属外部の周囲の絶縁材の材質によって決まり金属の種類によらないので液体による説明は、あくまで電気信号が金属表面を光速で伝わるときの説明のひとつのイメージとしてとらえてください。

図4-3は流れと波の違いを示したものです。a)は蛇口が開けられていて水面に浮いたピンポン玉も一緒に流れ、あきらかに水が流れていることがわかります。一方b)は水が流れる蛇口のようなものはない水をはったプールや風呂桶のようなものです。この水面を板のようなもので動かすと波が伝わります。水は流れていないにかかわらず”波”は伝わることがわかります。またb)にしめしたピンポン玉の動きでわかるように、水の分子自体は波が進む方向に垂直の方向で上下しているだけで波が進む方向には動いて行きません。


図4-3 直流電流と電気信号の違いは流れと波の違いにたとえられる
流れa)は水そのものが移動するが、波b)では水は移動せず、

変化だけが移動する。
(参考文献7)

電気の場合、電気の"波"に相当する電気信号(μ秒程度以下の電気的変化)は導体の部分では"電気的な偏り"が伝え、その電気的な偏りは電子の平均移動速度よりはるかに速い速度で移動することができるとたとえることが出来ます。光速で移動する電気の"波"は非常に高速に変化するので金属などの導体の中にはあまり浸透できないということになります。このように高速な電気的変化が金属の表面付近しか通ることが出来ない現象を表皮効果といいます。高速な電気的変化はしたがってほとんど金属の表面部分のみで変化します(図4-4)。


図4-4 表皮効果 (参考文献7)

図4-4でわかるように、直流では線路の中を一様に電子が流れますが、60Hzの交流ではすでに表面から1cm程度しか電気的な変化は浸透しません。100MHzで10μ程度,1GHzでは数μしか浸透しません。もっともこの図で示す点線のδのところから金属中に一切電気変化が伝わらないのでなく、ほとんどの変化はこの付近までということです。電気変化の強さは表面から内部に向かって指数関数的に減って行きます。

なお、交流以上では直流のように電子が流れるのでないことを意識してここでは直流以外は電流でなく電気的な変化としました。交流の場合の電子の流れを準定常電流などと呼ぶこともあります。

 

電磁変化の振る舞いはマクスウエルの式で表され、電磁エネルギーの進む方向はポインティングの式で表されます。それらの式より誘電体の部分と導体(金属)の片方にでも損失がある場合、導体(金属)面の内部方向に一部電磁エネルギーが侵入します。これが表皮効果のマクスウエルの式による説明です(参考文献10)。導体外部から変化する電気信号が導体表面に到達し、表面のロスなどが有る場合に金属表面から電子の変動が金属内部に入ろうとしますが、内部にある電子の反発などで速い変化ほど内部には入りにくくなると考えられます。

 

さて、金属の場合ですが、原子レベルで電気信号が伝わる様子を考えて見ます。電子が引きつけられる(あるいは反発する)電気の力は非常に強く、電子では電子間に働く引力に対して電気の力はその10の40乗という大変な大きさです。スイッチをon/offするとそのとてつもなく大きな電気の力が働き、主導体(信号線路)側に、例えば+電荷が現れるとこれに伴って近傍の導体にそれに応じた-電荷が現れ、それらの間が電気力線で結ばれるということになります。-電荷が例えば銅などの金属の表面近くに現れると、+の電気をもつ金属元素の核を取り巻く電子が-電荷に反発して内部の原子核の+が少し現れた状態となり+電荷が見えるという仮説があります。(図4-5)。静電気の場合に金属表面にこのように電荷が現れる様子は文献24の図3.1などに示されています。


図4-5 金属間の電荷のイメージ
(注: 実際に観測されたものでなく古典電磁気論的な仮説です)

実際にはこの図4-5のように銅の原子間距離約0.2nm近くに金属同士が近ずくとトンネル電流など量子的な現象が起きます。また上下の電位差がある程度あると電子が飛び出したり場合により原子のイオン部分が飛び出す(放電)ことも起こります。ここではあくまで電子の偏りが光速で移動するイメージとしてとらえてください。実際の分子レベルの電気的な様子は量子論で扱う必要がありさらに現代物理でもその先の構造解明はまだの段階です。

 

図4-5の仮説では線路間の電位が変化して信号が伝わる様子はそれなりに説明ができるように思えます。しかし金属の表面の電位が変化しない(電位が変化しない)箇所でも高速な電流が流れる場合があります。図4-6は線路の端を短絡した金属製の伝送線路に電気信号を印加した様子を示します。もし図4-5のような電子の波が光速で進む電気信号を伝えるのであれば金属毎に変わる電子の物理特性が信号の伝わる速度に効いてくることになりますが、実際には電気信号の速度は金属の性質でなく周囲の絶縁部分の性質で決まります。したがって図4-5の仮説モデルは信号が進むときの単なるイメージと捕らえるべきでしょう。

 



図4-6 伝送線路の短絡部を電荷が進む様子(参考文献7)
(この図は筆者が独自に考案したものですが、その後似た図を文献11aに見つけました)

短絡端では線路間に電圧が発生しませんが"電流"は流れています。このときの"電流"は光の速さで進み、質量がある電子が動ける速度ではありません。あくまで"電荷"(一般の文献でいう荷電粒子の移動でなく波としての電気変化)が電流を運んでいます。

上側の線路を進んできた+電荷(電子そのものでない)と下側の線路を進んできた-電荷(電子そのものでない)とが線路の短絡端部で出会いその箇所では一時的に電荷量を打ち消しあって外から見ると電圧が発生していません。しかしその直後、+電荷は下の線路に、-電荷は上の線路にと互いにすり抜けたように反対側の線路にして現れ、線路を戻って行きます。

このことは水面を進む+の波と-の波がであったときは波が一瞬消えますがその後+の波と-の波は互いにすり抜けたように進んでいく様子にたとえることができるといえます(図4-7)。



図4-7 +の波と-の波がぶつかるときの波の様子

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5. 電気信号は線路の周囲の空間を伝わる (改定2007/10)

ロッドアンテナのように単に1本の線路が空間にある場合でも実用になっていることからわかるように、導体に電荷を与えるとその電気的な変化は導体の表面を高速に伝わって行きます。この時に電気的変化が金属表面を伝わって行く速度は光の速度です。電子には重さがあるので電子自体が光速で移動することは出来ないわけですからこの時に伝わる電気的変化とは電子が流れる電流とは異なるものです。

単に電気的な変化を伝えるというだけであればどんな形状の金属でも伝わるにはつたわりますが、線路を使って高速な電気信号を波形を保って伝えるにはその導体の近くに別の導体がないと難しくなります。

同軸線あるいはイーサネットや電話のツイスト線など、信号伝送用線路は必ず対になる導体を伴った線路となっていることからも推測できると思います。主な線路を通す信号が+の電荷であれば近傍に導体があればこれとペアになった-の電荷が伴ってあらわれます(図5-1,)。この説明は文献1をヒントにさせていただきました。信号の与え方や線路の構造によってはうまくペアになって現れない場合もありますがここでは両方の線路にちょうどペアになって現れる場合を考えます。


図5-1 細長い電極に電源をスイッチでつなぐ(on/off)様子
(参考文献7)

高速に変化する電気信号は電気的な変化自体が元になって光速で電磁場を進ませます。これはマクスウエルの式から導かれる現象です.図5-1のように導体の表面に変化する電荷を与えると近くの金属に対抗する電荷が現れます。これはコンデンサーと同じようなものと考えられます。コンデンサーでは電極の間にほとんどの電気エネルギーがあります。平行導体の場合も同様にほとんどの電気エネルギーは導体の中でなく導体の間にあります。このようにして主に導体の表面と周囲空間に、また導体の近傍に平行して導体がある場合は導体の表面間の空間を電気エネルギーは伝わって行きます。

導体間をほとんどの電気エネルギーが進むということは電磁気の基本式であるマクスウエルの式をまとめたマクスウエル(James C. Maxwell, 1831-1879)も明確なイメージを持っていなかったとされています(参考文献9)。マクスウエルの後継者の一人であるポインティグ(John H. Poynting, 1852 - 1914 ) という人が1885年に図5-2のような図を用いて、電気"信号"が空間を通ることを説明しています。図5-2でABは帯電したコンデンサーでCDは帯電していないコンデンサーです。2つの間をwireと示された線でつなぎます。するとABにあった電荷がCDに移動します。この時wireの"金属中"を電流が流れるのでなく2本のwireの間の空間を電荷をつないだ線(tube of electron force)が移動すると説明しています(参考文献4)。もっともそれを理論的に説明されたのは別の科学者で後になってからでした(参考文献11など)。


図5-2 Poyntingが示した電極間の電荷移動の説明図(参考文献4)
ポインティングの元の図は横からでわかりにくいので斜めの図を作りました。

 


図5-4 正しい電気信号の伝わり方

電源のそばにあるスイッチをオンすると番号を付けた順に電気力線が右側に進んでいきます。もしコンデンサの部分でうまくこの信号のエネルギーが吸収されれば電源に戻るものはありません。もしコンデンサの部分で信号のエネルギーが吸収できない場合は、上下の線を同じ方向で4→3→2→1と電気力線が電源側に戻って行きます。

なお図5-5のように2本の線路が線路間の距離よりもグランド面など金属面に近く配置されている場合は、線間でなく主に線路と近傍の金属面との間の空間を電気エネルギーが通って行くことになります。


図5-5 導体面に近く線路が置かれている場合
グランドプレーンと記した導体面はグランド電位でなくとも電源層でも線路の近傍にあれば

同様に伝わります。直流の動作は電気信号に比べると数桁遅いため高周波や高速信号では、

通常プレーンの
直流電圧を無視して考え、取り扱います。

図5-5の場合も数字を付けた矢印の順に進んで行きます。図5-5の同じ番号の矢印は同じ時間の状態を示しています。図5-5の場合でも2本の線の両側を左から右に同じ方向に信号が進んで行きます。また右側の電極板に到達した電気信号は、反射してもと来た線路を、両方の線路とも左側に向かって戻ります。電極板で信号がちょうど吸収される条件の場合は、1度左の電源から右に信号が行くと反射が起こらずそのままになります。

このように高速に変化する電気信号が線路を伝わって行く様子は直流電流(伝導電流)や図2-4 5-2の交流のモデルのように回路をつなぐ導体線路の中を電子が通る場合とはまったく流れ方が違います。交流回路の電流の考え方は50-60Hzが電力系などで広く使用されているためそれらを取り扱う(計算する)ために考えだされた一つの手段、モデルであって、電気信号の伝わり方としては、物理現象の実態を必ずしも正しく表していないと考えておくべきでしょう(参照: 補足2)。

 

さて、図5-6に示したように電子が銅線の中を移動する直流や50Hz程度の交流の場合でも線路の周囲に電界、磁界が広がっておりこれらを伴って「電気」は進んでいきます。

図5-6 単線の導体線路を「電子」が進む時の周囲の様子

電気回路の教育では普通、回路とそれをつなぐ電線の中のみを電流が流れ、それが電気現象の全てとするキルヒホッフの法則を用いて回路動作の計算をしています。回路シミュレータのSPICEなども基本的にはこのキルヒホッフの法則を元に計算しています。多くの電気回路エンジニアはこのためいつの間にか電気信号とそれに伴う電気的なものは全て金属線の中を通っているという頭になっています。キルヒホッフ自身は銅線の周囲に電気エネルギーが通ることは知っていたはずなのですが、直流や交流の計算には銅線の中のみを電気が通るとして計算式を立てても実質問題なく計算できるのでその考え方で法則を作ったと思われます。

図5-6は銅線の断面全体にわたって存在する、質量のある電荷自体(電子の塊)が毎秒数mm程度の速度で線路にそって連なって移動する時の電界と磁界の様子です。

図5-6で銅線が単に1本、空中に長く延びていて線路の先がどこにもつながっていない場合(ロッドアンテナのような場合)、線路の手前の端に電荷をスイッチなどで加えることを考えて見ます。その場合、線路が伸びて行った先から元の電源に戻ってきてつながる導体の経路がないので、直流や交流の電流は流れることは出来ません。言い換えると回路になっていない導体の導体の一部に電荷を単に加えただけでは質量のある電子自体が線路に沿って移動することは出来ません。

電荷を加えたときの金属表面の電荷の分布(言い換えれば電気信号)は光速で導体の表面を進み、導体が図5-6のような線路の場合は線路の表面に現れて光速で移動する"電荷"とその電荷から広がる電界と磁界の分布は図5-6と同じようになります。(ただし金属は損失(表面抵抗)が無いか非常に小さい場合です。銅のように抵抗が少ない場合は損失が無い場合とほぼ同じです。抵抗がある場合でも金属の周囲が真空(空気)の場合は信号が進む速度は光速のままで、振幅(電圧)が減ったり波形がなまったりするだけです。))(文献23) また、直流では線路の長さ方向に電荷が連なって全体が移動しますが、点の電荷を線路端に加えて"電荷"が線路表面を移動する場合は線路周囲に分布する電界、磁界の強度が少し異なってきます。

なお、テラヘルツという遠赤外線の電磁波が金属の単線に沿って導くことができるという発見が最近報告されています。線路の周りの空間を遠赤外線のエネルギーは通るわけですが、導体線がそのガイド役をはたしていることになります。このような現象はこれまで可能とは考えられてきていませんでした。この現象は「灯台もと暗し」といわれていますが、導体表面を"電荷"が光速で伝わる様子が深く検討されてこなかったひとつの証拠ともいえるでしょう。→竹内薫さんのサイエンスコラムのぺージ

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●6. 空間を伝わる電磁波の速度は空間の誘電率と透磁率で決まる

以上で高速に変化する電気信号は、導体の中でなく導体の表面の電位変化を伴いながら主に導体の周囲の空間を進むことがわかったと思います。実際、電気信号の速度は導体の周囲を取り囲む絶縁体の性質によって決まってきます。

電磁波(電波)は金属のない空気中を遠くまで進むことは我々の周囲で経験していることです。金属に沿って進む電気信号も電磁波の一形態でしかなく、空間を進む電磁波と線路に沿って進む電気信号は同じ速度で進みます。

液体や固体中を伝わる波(音波)は物質の比重ρと反発量Kによって速度vが決まります(式6-1)。

v=(K/ρ)^0.5       (式6-1)

電磁波が伝わる空間が空気の場合、物質中を伝わる波と同じように、電磁波の速度に影響を与える物理的性質があります。それは誘電率と透磁率 透磁化率と呼ばれます。これらは電気的な変化に対して空間が示す比重と反発量のようなものです。通常は扱いやすくするため、真空の誘電率ε0透磁率μ0を1とした時の比で比誘電率εrと比透磁率μrで表されます

真空の場合はμ=μ0, ε=ε0ですので光の速度cを示す式6-4が求められます(補足11)。真空との比で表した比誘電率εr比透磁率μrの物質中を進む電気信号の速度は式6-5で表されます(真空の速度に関する筆者の所感)。

c = (μ0*ε0)^-0.5   (式6-4)

v
r = c*rr)^-0.5   (式6-5)

式6-4で真空の誘電率と透磁率が0であれば、電磁波は無限の速さで伝わることになります。しかし実際には真空も有限の誘電率と透磁率を持っています。このことは、なにも無いことになっている真空も、電気変化に対して無ではない影響をおよぼしているという意味を含んでいます。この真空の性質の解明は現代物理のひとつの課題となっています。

 

図6-2のような形状で比誘電率εrと比透磁率μrの絶縁物質の中に置かれた導体の線路を進む電気信号の速度は式6-5と同じになります。導体の性質によって電気信号の速度が決まるわけでないので、抵抗0の超電導体でも速度は式6-5となります。なお線路に損失がある場合や形状に不連続がある場合には、導体の周囲の絶縁部の比誘電率εrと比透磁率μrが同じでも信号の波形がなまることがあります。


図6-2 伝送線路

 

電子の移動よりも電気信号が早く伝わることの説明としてトコロテン式に導体の中に詰まった電子の粒を例えば図6-3のように左端から1個押し込むと右端からすぐに押し出されるというモデルが使われることがあります。しかし実際には高速な電気信号(エネルギー)は導体の中でなく導体の外側を進み、導体の外側の材質の性質で速度が決まるのですから、このモデルでは電気信号の伝わり方について誤ったイメージを抱かせることになります。


図6-3 電気信号?伝播の押し出しモデル

(しかしこのモデルは電気信号を誤って理解する一原因となっている)

 

また、金属に沿って進む電気信号と電磁波が同じメカニズムで進むとなると、図6-3のような中空の金属パイプの中にも電気信号を通すことができるように思われます。しかし内径が数mm程度の細い金属パイプの中にMHzからGHz程度の電気信号を通すことはできません。信号の波長程度より小さな金属空間には電磁波はそのままでは入ることが難しくなるためです。しかし、パイプの中にパイプから絶縁された金属線が通っていると自由に入って通って行きます。そのような構造にして高周波が通りやすくした線を同軸ケーブルと呼びます。

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● 8. 電気信号が線路に沿って伝わるメカニズム (2007/10 改定)

ここまでの説明で高速な電気信号は導体の中でなく導体の表面と周囲(金属が並んで配置されている場合は金属間)を主に進むことがわかったと思います。次に、問2の図1-3のグランド側に信号の進む方向と反対に書かれた矢印について考えます。

・狭いパルスが線路を伝わるメカニズム  線路の先はオープン

導体の間を電気信号が進む様子を説明する方法として図8-1のような図が用いられることがあります。スイッチを一瞬オンした後すぐにオフする時の様子を示しています。このとき電源側の電流はどうなっているかが気になるところです。図8-1は線路の入り口部分で電源の+側と線路のホット間および電源のグランド側と線路のグランド間の電流を示したものです。

単発パルス(nsec以下程度の十分短いパルスとする)の場合、はじめに電流が線路に印加される時だけホット側とグランド側に電流がパルス幅の間だけ流れています。上下の線路の間の左端の部分は微小なコンデンサーとして考えることができ、このコンデンサーがパルスの時間の一瞬で充電されたと考えることが出来、線路と電源の負極間にも電流が流れると考えることが出来ます。その後、線路をパルスがほぼ光の速度で右側に進んで行ってしまうと電源部には電流が流れません。

図8-1 デジタル(パルス)波形伝送時の電源部の電流

高速に変化する電気信号が特性インピーダンスZ0の伝送線路に印加される時は伝送線路は純抵抗(Z0)として動作します(線路につなぐ部分のインダクタンスなどが無視できる場合)。電源の内部抵抗がR、電源電圧がV1であれば伝送線路に現れる電圧V0は V0 = V1 * Z0 /(R + Z0) となります。

 

・階段波形が線路を伝わるメカニズム  線路の先はオープン

次に、図8-1でスイッチがオンになった後、オフせずにそのままオンを続けた場合はどうなるでしょうか。はじめの電荷のペアは図8-1で示したパルスの場合と同じようにほぼ光速で線路を右側に進んでいきます。進んだ直後も続いて電源から電荷のペアーが線路に送り出されることになります。ちょうど並んだコンデンサーが左端から順じゅんに充電されていくと考えることができます。電源側から順次電荷が線路に広がって行くことになります(図8-2)。各電荷のペアが線路に出て行く(充電される)際は変化する電磁界として式6-4,6-5示すようにほぼ光の速度で伝わっていきます。


図8-2 階段波形を線路に加えた時の様子

この時、電源と線路の間の電流はどうなっているでしょうか。線路が次々に充電されている間は、電源から電荷が順次送り込まれています。図8-1のような狭いパルスが連続して印加されていると考えることができます。微小なパルスが続いているとするとパルス区間ごとに電源の+側から線路のホット間とそれとほぼ同時に線路のグランド側と電源のグランド側にパルス区間ごとに電流が流れます。

階段波形の場合でもパルスと同じように線路に電荷のペアーが送り込まれるタイミング毎に電源の+側とグランド側にほぼ同時に流れると考えることができます。先のほうに進んでいってしまった電荷のペアのところの部分的な"電流"の動きとは別個に、上側の線路に電源から電荷が送り込まれるごとに、線路の下側から電源に向けて"電荷"が移動して"電流"が流れることになります(図8-2A)。マイナスの電荷の移動の方向と電流の流れとが反対向きになっていますが正電荷の移動の方向を電流の向きと歴史的に規定されているので図8-2Aの電流の矢印の向きはあっています。

図8-2-A 階段波形印加時の電源部の電流

図8-2-Aの真中の図で、V1=1V, R1=50Ω,Z0=50Ωとすると、i = 1/(50+50) = 10mA が上下の電流計のところを流れることになります。この電流は小さいように見えますが線路の間の金属表面を光速で進む"電荷"を経由して流れる量としては困難な大きさです。金属表面を光速で移動する"電荷"は通常の金属の中を毎秒mm程度の速度で流れる電子自体が運ぶ電荷(定常電流と呼ばれています)とは性質が異なるものです。線路を右側に光速で進む"電荷"のペアは線路間の容量を左端から充電して行ってそのときに極板間表面に現れて進んで行く電荷の様子をあらわしているといったものです。

電源と線路の間に模式的に示した電流計に流れた電流は、したがって線路を光速で進む電荷に直接つながっているのでなく、線路の左端の部分の容量を充電する時に流れたもので上下の線路にそれぞれ示した電流計は各電荷ペアが線路に現れる時に同時に振れることになります(この電流計は仮想的なもので普通の電流計では現象が高速すぎて実際にはこの電流を計ることはできません)。細かく言えば線路の様子や電源との接続の仕方によりどちらかの電流計が一瞬早く"振れる"場合もありえますがいずれにせよ光速で起こる現象です。

線路上を光速で進む"電荷"ペアは電子がそのまま光速で移動しているわけでなく電子一つ一つは少ししか線路の方向に移動しませんが図4-3の波の高い部分が連続的に連なって進む津波のように(別途説明図を予定しています)、電荷が表面に現れた部分が全体として光の速度で線路の方向に移動するということになります。津波は普通の波(サイン波のように山と谷が交互に来る)と異なり、メートル程度の高さの水面がkmも続いて押し寄せてきます。先端波面部分が立ち上がった後の水面は外見上は特に波のように上下する変化は見られません。しかし同じ水面の高さで"波"が進んでいます。このため津波による破壊力は同じ高さで上下する普通の波よりはるかに大きいといわれます。

 

この部分をまとめると、

 

 

・階段波形が線路終端まで達した時の動作 線路の先はオープン/抵抗がつく場合

図8-2-B 階段波形印加時の線路端部の様子

「電気信号」が光速で線路の終端まできた時はどうなるのでしょうか。図8-2-Bにその部分の図を示しました。ここでは線路の特性ピーダンスZ0と等しい抵抗R2を線路終端につないでいます。別途より詳しく説明する予定ですが、Z0=R2の場合、この抵抗の部分で電気信号に伴って進んできた電荷の偏りは線路端でちょうど反射することなく吸収されて行き、熱に変わります。

線路には抵抗が無いのに線路端に抵抗をつけると反射が起きずちょうど吸収されるということはわかりにくいという人が多いようです。高周波回路では線路の端に50Ω抵抗をつけて反射がおきない状態(反射がどの程度あるかを見る定在波(SWR)メータなどでわかる)を基準に回路動作を見るので直感的にわかりやすいと思います。

デジタル回路のみの場合で実験するには74HC04の出力に2m程度の伝送線路(特性インピーダンスZ0=50Ωあるいは75Ωの同軸線あるいはZ0=約100Ωのツイストペア線など)をつなぎ、その線路の他方の先端に何もつけない場合と、Z0とほぼ同じ値の抵抗をつけて波形をオシロで見る実験をすると特性インピーダンスと抵抗の関係を体感することができます。

Z0=R2の場合には終端部で反射が起きず、したがって電源側にはこの部分で線路が終わっているという情報がいつまでも来ません。電源から見るとどこまでも特性インピーダンスZ0の線路が続いているのと同じ状態となるため、電源から図8-2-Aのようにいつまでも電荷が供給され続けられることになります。

電子自体が線路の金属内部を通って流れる"伝導電流"は毎秒mm程度あるいはそれ以下の遅い速度で流れます。伝導電流は電子が伝えますが線路全体にもともと自由電子がつまっているので、直流の電子の流れはいわば「ところてん」式に金属の内部を電子が伝わって流れるモデルに例えることが出来ます。しかしこのメカニズムのため、線路の左端の電子自体が右端に伝わるまでの時間(数十秒から数分)も待たないと伝導電流が流れる状態にならないということではありません。

負荷が純抵抗で線路とのつなぎ目などにインダクタンスや容量の成分が無い場合は電荷の偏り(Hレベル)が光の速度で線路端に到達した後、そのままHレベルが続き負荷(R2)に引く続き10mAが供給され続くことになります。ただし別途説明しますが特性インピーダンスZ0はμ秒程度以下の電気変化の場合に成り立っています。このため通常μ秒程度以上たってから定常電流(直流電流)が流れる状態(Z0が効かなくなり直流抵抗が少ない経路を通る)の流れ方や電圧配分になっていきます。

電流の流れは正電荷の移動方向と決められていますので、図8-1では上側の線路では"電流"は右の方向となり、下の線路では負電荷が右に進むため電流は左向きとなっていることで説明されます。この上下の線に書かれた反対方向を向いている電流のセットが光の速度で線路を右側に進んで行きます。

 

・階段波形が線路終端で反射した後の波形と動作 線路の先はオープン/抵抗がつく場合

さて、線路の端がオープンの場合、線路の端まで充電されると最終的には電荷の流れ込みが止まることになるわけですが、線路の端まで充電が(光の速度で)届いた時点では、電源側はそれを知ることができません。光の速さより早く電気的な変化を知ることはできないためです。線路の終端側がオープンの場合はいつ電荷の送り込みがとまるのでしょうか。

線路の端が開放になっている場合は線路端で信号が反射されます。反射された信号は行きと同じ時間かかって電源側に戻ります。このとき、線路の各点の電位ははじめの2倍になって戻って行きます。線路端に向かって進んでくる"電荷"(充電)と線路端から反射して戻ってくる"電荷"が重なるためです。反射してきた電気信号が電源まで戻ってきた時、電源側の内部抵抗Rと線路の特性インピーダンスZ0とが同じであると、戻ってきた信号成分はその抵抗に吸収され電源側で再び反射は起こりません。そして線路全体は行きの"電荷"の2倍の"電荷"(線路各点の電圧が2倍)となって線路の充電が終了することになります。

電源の内部抵抗Rが線路の特性インピーダンスZ0と異なっていると電源部(送端部)で再び電気信号は反射され、線路を何度も往復して反射の量に応じた充電を繰り返すことになります。内部抵抗Rが特性インピーダンスより低い場合は線路上の電荷を差し引く形になります。R=0の場合は同じ振幅で逆位相の反射波が戻って行くため線路の電圧は、電源電圧をV1とすると2*V1-V1=V1になって線路終端まで進んで行きます。ただし開放端まで進むとそれで終わりでなく、0V,V1とV2の値をとり、線路にロスがない場合は往復時間の周期でいつまでも繰り返すことになります。詳しくはPSPICEのTモデルなどで試してみるとわかます。(PSPICEによる伝線路上の波形解析は→Spice実践編など)

 

一方、最近の高速デジタル信号伝送では線路の終端(受け端)に伝送線路の特性インピーダンスZ0と同じ値の抵抗(ここではR2とする)をつけることが普通です。受け端にR2の抵抗がついていると特性インピーダンスZ0の線路を進んできた電気信号はそのまま終端抵抗に吸収されてしまい線路を戻る電気的な成分(反射)は発生しません。電源側には信号が線路の端に達したという情報はいつまでもこないまま線路に電荷を出し続けることになります。階段状波形のHの時間tの間は電荷が線路に印加され続けることになります。

もっともこの現象が成り立つのは通常の長さの線路では線路の特性インピーダンスが意味を持つマイクロ秒以下の短い時間の間です。その時間以降は伝送線路の特性インピーダンスが成立しないため直流電流がより流れやすい経路の方に電流経路が移って行きます。実際の高速デジタル伝送でも終端抵抗はコンデンサーを経由してつなぎ、直流分をカットしている場合があります。直流分は伝送線路よりも直流抵抗が低いところ(高速信号の経路として意図しているいないにかかわらず)を流れるためそれを防ぐ意図もあります。

 

図8-2の線路は図1-2のようにHCMOSの入力につながれた線路と同様に考えられますのでHCMOSなどの場合も信号が右側に達してしまうと(実際には上に記したメカニズムで送端に戻った後)線路には電流が流れないことになります。実際のHCMOSの回路では受け端、送り端で反射が起きるのでもう少し複雑な動きとなりますが、信号が到達後は基本的に電流が流れないことは同じです。

 

・高周波(サイン波)が線路を伝わるメカニズム

次に高周波信号の場合を考えて見ましょう。高周波の実務向け教科書としてわかり易いと言われるKrausの電磁気の本(参考文献13)では、高周波(準TEM波= quasi - transverse electromagnetic wave)の伝わり方の説明の図(文献13 figure3-6)で"電流"を示す矢印はサイン波の位相の180°ごとに進行方向と逆とに交互に向くようになっています。

図8-3はその図を参考に描いたマイクロストリップ線路を進む高周波準TEM波の様子です。高周波でもTEM波(プリント基板上のパターンの線路などの伝わり方である準TEM波も同様)で線路端で反射が生じない条件であれば、一様に線路を進んで行き、半周期ごとに信号が反対に進むということはありません。

 



図8-3 高周波サイン準TEM波がマイクストリップ線路を進む様子

(ある時間で固定して見た図。参照文献の図にあわせてHを使用)
しかし導体表面に書かれた"電流"i
示された矢印の実体は??

 

通常の回路では電気信号の速度に比べて電子は実質固定していると言えますから、導体表面で線路の方向に電気信号の速度で"電流"として動いている"もの"は存在しません。4章で、電子の雲の偏りが波として線路の方向に進んでいると説明しました。しかし導体表面に電荷が現れていることは導体間の電圧(電界)が強いことにしかつながりません。この矢印は表面電荷の大きさとは直接つながりません。

この"電流"は、階段形状の信号で"電荷"が津波のように線路の方向に伝わる場合と同じように、線路の進行方向にそって電荷量の多い少ないが無い場合でも、線路の方向に順次光速で電荷が伝わって行く状態と考えることが出来ます。金属表面の電荷分布に変化が現れずとも、ひとつの電荷に注目して見た時、その電荷の左右の電荷の状態(対抗する線路間の電位差)が同じ状態のままで各電荷が少しずつ線路の進行方向にずれることで"電流"が光速に"流れる"ことに結果的になる説明することが出来ます。図8-3の場合、正電荷の移動方向が電流の方向なので負電荷が金属線路表面を線路の右側に進んでいる部分では電流 i の矢印が左向きになっていることで説明がつきます。

図8-3で線路の上と下で矢印が逆になってはいますが、+電荷が表面に現れている面では矢印は右方向、-電荷が表面に現れている面では左方向矢印となっています。結局、線路の上下で共に電荷は線路の右方向に移動していることを意味します。結局、サイン波が線路を進む場合にも金属面上に現れる電荷は光速で金属表面を右方向に移動するということになります。ただし電流の矢印で表すとマイナス電荷が現れている面は電流(正電荷の移動方向が電流の方向と決められているため)の進行方向と逆向きの矢印になっているといえます。

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● 9. ディジタル回路パターンの反射

図5-1のような信号を通す線路の端まで電荷が到達するとその後はどうなるでしょうか。高周波信号伝送で使われる同軸ケーブルのような線路の場合、線路の特性を表すパラメータとして特性インピーダンスが用いられます。線路の端に特性インピーダンスと同じ抵抗を付けると線路の端で信号の反射が起きなくなります。

ディジタル回路基板では通常グランドや電源のベタ層の上に線路パターンが配置されます。このような基板のパターン線路でも高速信号を通す場合には線路の終端に抵抗を使うことが多くなります。しかし通常、測定器の校正に使うような非常に正確な抵抗は使いません。例えばLVDSの場合、線間の特性インピーダンスが100Ωの線路を使用しますが終端の線間に付ける抵抗は数%の精度であればOKです。

標準ディジタル回路(HCMOS)のDCでの入力抵抗(インピーダンス)は非常に高く、直流的に見れば図5-4のように信号線路の先にコンデンサーがついているようなものです。ディジタル信号は送り出し側から線路を充電して行って線路の端まで到達しそこで反射して元に戻って行きます。終端に抵抗を付けないHCMOSなど一般のディジタル回路の場合は送り側ICの内部抵抗が特性インピーダンスに近いと、負荷側で全反射して送り側に信号が戻ってきた時にIC内部抵抗Rで吸収され反射量が減るか反射しないのでリンギングは起こってもすぐ減衰するか受け側では起こらなくなります(図9-1)。


図9-1 CMOS入力でほぼ全反射してきた信号を

ドライバ側の抵抗で吸収する方法

(ドライバの外に抵抗を追加する場合もあります)

標準(HCMOS)ディジタル回路は一見、直流を扱っているように見えますが実質的には図5-4のように線路の先にコンデンサを付けた回路です。したがって信号の伝わり方は図2-4あるいは図C-35-3のように信号線を電流が流れて負荷まで行き、戻り線を通って送り出し側に電流が戻っていくということでは無く、図5-4のような電荷の動きになっています。

なお負荷側にはICパッケージのピンj部分の容量として5pF程度がグランドとの間に入っていますが、信号が負荷側に到達して初めて線路の終端に容量があることがわかるのであってドライバーから信号が送り出される時の波形は負荷についている容量あるいは終端がショート、オープンにかかわらず同じ波形で進んでいきます。

高周波回路(アナログ)を扱う場合、通常サイン波で連続的にドライバー側から信号を印加して、信号が何度も反射した後、定常的になった状態を取り扱っています。このため線路の終点にどのような負荷がついているかがわかって負荷と線路およびドライバーのインピーダンスを合成した状態を見ます。アナログ高周波で扱う定在波はこのように何度も光速で信号が線路を往復して行きと帰りの信号の合成された状態を見ているものです。定在波の現象が出ていても、電気信号は止まっているのでなく光速で線路を左右に行き来しているのは言うまでもありません。

一方、高速ディジタル信号の扱いでは、光速で信号が進む非常に短い時間での信号の様子を見ます。一般の基板パターンではnsecからそれ以下の時間です。その時間では、終端に何が着いているかを知る前に信号が線路に印加されて伝わって行きます。通常のディジタル回路では定在波などができる前に信号伝送は終わります。nsec程度の波形を見ることは現在でも数百万円もするかなり高価なオシロスコープを使う必要があります。これまでこのような高速波形をみることは困難でしたから、高周波(アナログ)の分野ではサイン波で連続的に印加した状態で遅い測定手段でも見ることができる定在波の大きさなどから回路のインピーダンスなどを測定していたわけです。

ところが高速ディジタル信号を相手にする場合でも、このように連続波を印加後しばらくたって定常的になった状態で求める電圧やインピーダンスの式をそのまま高速信号の電圧などにも当てはめて説明されていることがあります。積分の式から電圧やインピーダンスを算出している場合や定常状態から求めている場合は要注意です。いろいろ本を書かれている有名な著者の方でも誤って説明されていることがあります。

 

ディジタル回路の反射、リンギングについては参考文献7などを参照ください。また、別途説明ページを設ける予定です。

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●10. 問1-3の回答例 

このページのはじめの問1〜問3(図1-2〜図1-4)の答えはここまで読まれてわかりましたでしょうか? 一応回答例を示します。ただし筆者はこの回答に責任を持ちません。あくまで参考としてご自分で考えてみてください。参考文献7などを参照ください。

問1: 図5-4のように信号線路側に+電荷、リターン線路側に-電荷がペアーとなって光の速度で受信側に移動します。受信側ではそのままの極性で反射し線路を戻ります。電荷ペアがドライバー側にまで戻った時に線路の特性インピーダンスとドライバーの内部抵抗が同じであればその抵抗に吸収されて終わります。直流電流や交流電流は流れません。

なお、9で説明しましたように、電気信号が線路に初めて印加されたときは線路の向こう側に何がついているかわからず線路を進んでいきます。線路の特性インピーダンスとドライバー側の内部抵抗の比ではじめに線路を進んでいくときの信号の電圧が決まります。負荷に信号が到達するまでは負荷によって信号の振幅が決まらないことに留意してください。

問2: 8章参照ください。

問3: はじめの状態では線路はVccの電圧に充電されています。スイッチが開放からグランドにつながると線路が左(スイッチ部分)から順に光の速度でグランド電位に変わって行きます。受信部でVccにつられている抵抗が線路の特性インピーダンスと同じ(50Ωなど)であるとその抵抗に電気信号が吸収されて反射が発生せず終了します。さらにスイッチが閉じたままになっていると線路はそのままグランド電位のままになります。直流電流はその後、プルアップ抵抗を経由し、線路を経由し、ドライバのスイッチを経由してグランドに流れます。

もちろん電流の流れは電子の移動方向と逆に定義されていますから、実際に直流の速度(数mm/秒)で電子が移動するのは図1-3の→と逆方向です。直流の電子は金属導体の中をところてん式に図6-3のように流れます。

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(補足 2) AC(交流)回路の電流表現と電気信号が伝わる時の電流は違うもの

高周波と交流の伝わり方は考え方が異なります。最も大きな差は、高周波では1周期(あるいは1/4周期)の間に信号が伝わる距離を考えます。一方、交流では1周期の間に信号が伝わる距離を考えません。例えば50Hzの場合1/4波長は1500kmにもなりますので一般の回路のサイズでは線路長さを考える必要がないためです。交流では線路のはじめも途中も終わりも同じ電圧と考えます。

図2-1は交流回路の簡単な例です。図2-2はPSPICEで図2-1をシミュレーションした結果で電圧波形を表します。抵抗R1の両側では波形が異なっていますが、R1とコンデンサーC1の間は同じ電圧波形となりこの間をつないでいる線路は長さを無視しています。逆に言えば線路の途中で電圧が変化することはありません。線路のはじめも終わりも同時に電圧が上がったり下がったりします。



図2-1 交流の回路



図2-2 図2-1の波形

図2-3は図2-1の交流回路を時間の変化と共に詳しく見たものです。電源と1Ω間および1Ωとコンデンサの間のそれぞれ線路の電圧を示しています。各線路内での電位差はありません。長さのない線でつないだのと同じです。したがってこの線を電流がどう流れているか、ということもこの回路では表しているわけではありません。電気信号は光の速度の信号が伝わって行きますので図2-1で線路が仮に1mであったとして、それを伝わる時間tはt = 1/3*10^8 ≒ 3 nsecです。50Hzでは図2-2からわかるように、0度から90度まで位相が動く時間が5msecですから、3nsecはこれの百万分の1以下です。つまり交流回路ではこの面からも"線路"を電気が伝わる時間や伝わり方は問題にしていないことがわかります。



図2-3 交流回路の電圧の変化(位相で0°〜135°まで)

回路網に流れる電流の式を解くことで回路の動作を解析するのがキルヒホッフの法則です。この法則を交流回路にも適用して考えることが可能で、SPICEで普通の回路の計算はそのようにしています。SPICEでは電流は各回路部品の接続点に流れ込むか流れ出す量で表されます。この電流を回路図の線路に矢印で示すことがあります(図2-4)。しかし上の説明でわかりますようにその矢印は回路図に示された線路を進む電流や信号ではなく線路の端につながる部品に交流の周波数で見て各位相ごとに流れ込むあるいは流れ出す"電流"を示しています。

  

図2-4 交流回路で電流?を示す矢印

なお、SPICE系のシミュレータで伝送線路を扱う場合は伝送線路のモデルを使います。標準的に用意されているモデルは"T"です。TモデルはL, Cなどの合成でなく式で表され、入力から出力に信号が伝わる際の遅れ時間(あるいは線路長さ)と線路の特性インピーダンスを指定します(参考文献12)。

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(補足3) なぜ今頃電気信号の伝わり方が問題となっているのでしょうか

ポインティングはマクスウエルが使った変位電流という言葉は誤った電磁動作のイメージを与えるので良くないともいっています。すなわちマクスウエルの変位電流という説明では線路の部分では電流は線路の導体の中を流れてコンデンサーのようになった部分だけで初めて空間を経由して電流が流れるという誤ったイメージ(図C-3)を持たせてしまうといっています。


図C-3 変位電流の説明図 (交流は一応OK、しかし(高速)電気信号としては正しくない)

数十Hzの交流では位相が90度変わるには数百kmの長さの線路が必要です。このため通常のサイズの交流回路では図C-3のように線路の金属の中を電流が通ると考えても実態と実質差が出ません。しかしMHz以上の高周波や立ち上がり・下がり時間がマイクロ秒以下となる電気信号ではこの図は間違いというべきで、図5-4が正しい姿です。(電気の正しい姿が解明されて100年 200年、21世紀の今頃なぜ図C-3あるいは図1-1が高速電気信号の進み方として正しいと思う混乱が起きているのでしょうか?

最近まで電気回路を扱うエンジニアの多くは比較的遅い電気現象を取り扱っており、直流回路や交流回路のモデルで済んできました。一方、高周波の技術は特殊な分野とされ、はじめから同軸線路のような完全な伝送線路を使用しており現在ディジタル回路などで起こっている信号はどのように伝わるかという混乱は起こらなかったといえます。

ところが、従来高周波的な取り扱いが不要であったOPAMPなどで組むアナログ回路も数十MHzが扱えるようになり、またディジタル回路でも立ち上がり速度がnsecオーダーになってきました。つまりそれらの分野では扱う回路の大きさ(線路の長さ)と電磁変動の大きさ(信号の立ち上がり時間など変化する時間で電気信号が進む距離)が同じ程度になって来ています。そこで物理実体に目をつぶってきた一般の電気回路分野でも物理実態に即したモデルで信号を扱う必要が迫られて来ていると言えます。

19世紀末にマクスウエル、ヘビサイド、ヘルツ、ポインティングあるいはトムソンなどが模索した変化する電磁エネルギーの伝わり方を一般の電気回路エンジニアも復習することが必要になっていると思われます。大学での電磁気の教育でも数式を導くことにほとんどのエネルギーがさかれ、一方、学生側も試験の問題に回答することで手いっぱいのようですから電磁現象の実態の考察、理解があまりないまま電気回路エンジニアとして世の中に出る傾向があように思われます。参考::信号伝送の歴史

電磁現象の式で出てくるrotや∇(ナブラ)なども現象を数学的に裏ずけるための計算の手段でしかありません。数学的な証明の裏つけがあることは科学として不可欠のことですが現象の実態の理解の方が後回しでは本末?倒。ファインマンもマクスウエルの式の説明のところで、”言葉と数式とは同等、数式から言葉へと翻訳ができなければならない”と言っています。(参考文献6)

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(補足 5) 電波伝搬の姿

電磁波の伝播の説明についても下のような図E-2で説明されることがあります。図E-2では送信所のアンテナから送られてきた電波をアンテナで受信し、受信機のグランドが大地につながれて、大地を伝って送信アンテナまでリターン電流が戻って行くという説明です。図5-3の交流での電流の流れ方の説明図が電気の伝わり方として一般に使われていることが一因かもしれませんが、図E-2は間違いです。


図E-2アンテナで受けた放送波は大地を経由して
リターン電流が送信アンテナまで戻るのでしょうか?

電磁波は金属表面の電荷と離れて自らの動きで空中を飛んでいくものです。飛行機との交信図(E-3)や人工衛星など大地とは離れたところとの通信が現実に行われていることを考えても電磁波の受信にリターン電流の経路が必要ないことは言うまでもありません。さらに言えば太陽から届く光や赤外線も電磁波の一種で波長(周波数)が違うだけです。リターン経路が無ければ電気信号が伝わらないのであれば太陽からの光や熱も届かないことになります。

マクスウエルの後継者の一人であるポインティングは図E-2のように空間へ出て行く電磁波のリターン経路を説明していたようです。有名な先生の説明ですからいまでもこのような説明が残ってしまっているのかも知れません。

 


図E-3 空中に浮いた飛行機にも電磁波は届く

 

ところで、電荷と離れて空中を進んでいく電磁波が電波や光といいましたが、光にも電荷に束縛されたものがあり近接場光と呼ばれています。特殊な性質があることから最近実用化されています→(参考webpage: canonのページ)。

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(補足7)  CとLで線路上の信号をあらわす電信方程式にも問題がある

海底ケーブルで長距離の電信を送る仕事などで貢献したトムソン(ケルビン卿)はケーブルをコンデンサとしてとらえていました。このため速い変化の電気信号は長距離を送ると減衰すると説明していました(参考文献4)。一方、ヘビサイド(Oliver Heaviside, 1850-1925)、当時発表された電磁変化の動作を示すマクスウエルの式を研究し、線路を微小なコンデンサーCと微小なインダクタンスLを複数段重ねた(分布定数といいます)モデルで表しました(図3-1)。




図G-1 LとCで線路を表す分布定数回路

ここで次の式を見たくない人は→パス

線路の損失を考えない場合は、線路の単位長さ(m)あたりのインダクタンスをLとすると線路長さ凅の電圧低下-况は式1-1で表されます。また線路間の単位長さ(m)あたりの容量をCとすると線路長さ凅の電流損失-冓は式1-2が得られます。

-况 = L *凅 * di/dt  (式1-1)

-冓 = C * 凅 * dv/dt  (式1-2)

凅→dxとすると式1-3,1-4が得られます。

   (式1-3)

   (式1-4)

 

式1-3,1-4から電圧あるいは電流について式を整理すると電圧についても電流についても同じ係数(1/(L*C))を持つ式2-1と2-2が得られます。

   (式2-1)

     (式2-2)

式2-1あるいは式2-2の形の式は左辺が時間tについての2階微分、右辺が位置xについての2階微分の形になっています。この形の式は電気にかかわらず右辺の係数の1/2乗を速度(dx/dt)として伝わっていく波を示す波動方程式であることが知られています。式2-1では(1/L*C)^0.5を速度として電圧波形がx方向に進む波を示していることなります。

線路の損失を考慮する場合は図G-1の下のモデルで考えます。LとRは単位長さあたりのインダクタンスと抵抗分で、内部導体と外部導体の両方をまとめて一つずつのLとRで示しています。またCは導体間の単位長さあたりの容量、Gはその容量(絶縁材)の電流漏れに相当する単位長さあたりのコンダクタンス(抵抗の逆数)です。

損失がある場合の波動方程式の導出および損失項による波形ひずみと補正については以下を参照ください。

さてこのように伝送線路にかかわる工学的に必要な答えが計算でそれなりに求められるので、この式を説明する図G-1のような姿が実際の電気信号の伝わり方だと思っている人も多いようです。つまり、図G-1の入り口(図G-1の左側)に加えた電圧が原因になって直列のRとLに電流が流れ、電圧と電流によってエネルギが伝送されるという考え方です。

しかしそれは物理的実態ではありません。物理的には以下に示しますマクスウエルがまとめた電磁的法則(マクスエルの式)にしたがって、電荷の変化自体が原因となって伝わって行きます。電信方程式の問題点についてはここなども参考になります。

また電信方程式自体の問題ではないですが、図G-1の回路図は信号の入り口(図の左側)と出口(図の右側)のグランド側が同じ点になっています。実際の線路では"グランド"側も線路の長さ分、離れているわけですからこの点も誤解を生む面があります。

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(補足 8) 損失を考慮した電信方程式

損失がある伝送線路の単位長さあたりの構成を下図のように考えます。式1,式2と同様に線路の微小部分の電圧、電流を考え式10を得ます。

(d/dx)(v(x,t)) = -R*i(x,t) - L*(d/dt)(i(x,t))  (式10-1)

(d/dx)(i(x,t)) = -G*v(x,t) - C*(d/dt)(v(x,t))   (式10-2)

式10を変形する(2つの式からiを消去しvの式にする)と式6を得ます。L*G = C*Rとすると波形なまりにかかわる項が消えます。電線の途中にコイルを入れてこの関係が成り立つようにして損失による波形のなまりを防ぐ方法が音声信号を遠距離に送る線路に使われたそうです。しかし大きなコイルを入れると高い周波数を通せなくなるのでコイルを入れない方法がその後とられるようになりました。

d^2*v/dx^2 = -R*G*v + (L*G - C*R)*dv/dt  +L*C*dv^2/dt^2  (式11)

式6は損失分を含めた式ですが、損失を無視した場合は式7となります。

d^2*v/dt^2 = 1/(L*C)*dv^2/dx^2    (式12)

一般にd^2*u/dt^2 = c^2*du^2/dx^2 のような形をした2階の微分方程式はx方向にcの速度で進む波を表す波動方程式といわれます。マクスウエルの式から電気的な変化は波動方程式に従うことになるということから電気的な変化は波として伝わっていくと説明される場合も有ります。

線路にインダクタンスを追加することでロス、ひずみ分をキャンセルする方法はヘビサイドが考えた方法ですが特許はアメリカでとられ実用化されました。ただしその方法はある帯域の損失は減らせますが逆により高い周波数では信号が通らなくなったり信号が反射するなどの問題があり20世紀中頃にはインダクタンスを付加する方法は使われなくなりました。

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(補足 9) 電磁気学の完成度

電磁気(マクスウエルの古典電磁気)について大学(工学部の電気系学部生レベル)では完成されたものとして教えられています。しかし古典電磁気では説明できない現象がいろいろあります。

電気系では電磁気を電界と磁界に分けて取り扱う(しかもEとH)のが普通ですが、現在の物理では電磁波や電気現象を電場と磁場に分けないでそれらの実態とされている"電磁ポテンシャル"をベースに電場と磁場(EとB)を取り扱っています。電磁ポテンシャルを元にする考え方では荷電粒子から独立して電磁波が空間を進む場合は電気的変化(電磁ポテンシャルの変化)自体が電場と磁場を同時に発生させて空間を移動するということになります。

電磁ポテンシャルはマクスウエル自身があらわした式には使われているのですが(文献9)、当時考えられていた電磁波のメカニズム(エーテル論)から見ると単に計算のため使われた実態のないものであるとして、ヘビサイドとヘルツが削除してしまった経緯があります。現在でも通常マクスウエルの式といわれるものは電磁ポテンシャルを消した形で表されています。この式では変化する電場が磁場を作り出し変化する磁場が電場を作りそれらが連携して空間を移動するということになります。しかし現在の物理では磁場と電場は実態ではないという解釈であり、ヘビサイド-ヘルツのマクスウエルの式で全ての電磁現象を説明することはおかしいとされています。このあたりの事情は文献18などを参照してください。

また量子現象にかかわる電磁的な内容は普通電気系では扱っていません。量子論の扱いでは電磁波は波動と粒子の両面の性質をもった"光子"となります。 電子の量子論的な振る舞いについても電気系では通常扱っていません。たとえばブラウン管の表面に電子を当てると点が光りますがその直前は電子は広く空間に広がっているとされています(不確定性原理)。

なにもないはずの真空中を電磁波(光)は伝わって行きます。その速度を決める真空の誘電率や透磁率はかなりの大きさの値を持っています。最近の高速オシロスコープでは基板上30cm程度のパターンを進むパルス信号が少しずつ進む様子をはっきりみることができます。真空中の光速はその倍程度の速度にすぎませんから光速はかなり遅いという印象を受けます。

マクスウエルの時代は電磁波が真空中も伝わっていくとすれば何か媒介するものがあるはずでそれをエーテル(英語の発音ではイーサ。イーサネットはこのイーサから名つけられている)と呼びました。地球は宇宙空間を非常に速い速度で進んで太陽の周りを回っているので、そういうエーテルが真空中に存在するとすると、光を見る方向で光(電磁波)の速さが異なるはずとして実験がされました。しかし差がでなかったためエーテルは存在しないということになりました。

ところが真空は本当になにもないのかといえば、現代物理では真空に強いエネルギー(光など)を与えると物質と反物質(電子と陽電子など)が出てくる、逆に電子と陽電子などをぶつけると光(電磁波)を放出して真空になるとされています。大きなエネルギーを加えない場合でも真空ではマクロ的にこのような現象が常に起こっていて"場の揺らぎ"があるということもいわれています。なにもない真空を波が伝わることは現代物理ではこの場の揺らぎということで説明がされていますがまだ未完成とのことです(→参考文献17)。

 

ところで、われわれは3次元(時間を入れても4次元)しか認識できていませんが、宇宙はもっと高次元でできていることがほぼ間違いないと言われています。宇宙の形成過程で物質と反物質が消しあって残った差分がわれわれが見ている3次元(時間を入れて4次元)の宇宙ということです。大部分は別の上位次元(宇宙は10次元まであるという説もある)に押し込められているというイメージでとらえてよいと思います(参考文献15参考文献16など)。

卑近な話でたとえれば、複数階建てのビルでわれわれはある階、例えば2階のフロアーしか認識できない存在とします。上の階や下の階に何かがあってもその階からは見えないので存在がわかりません。仮に下の階や上の階に磁石やコイルがおかれていたとすると、電気的な現象をもつものを動かすと上下階から影響を受けることになります。しかしそのフロアーしか世界が認識できない生物からすればなにもないところを進んでいるはずなのになにか影響を受けて速く進めない現象を体験することになります。

またそのフロアーで大爆発を起こすと天井が破れ上階のものがそのフロアーに落ちてきて姿を現すという現象が、真空に巨大なエネルギーを与えると物質が現れるということのたとえとして使えるように思われます。

認識できない上位次元から3次元空間への干渉があるとすれば真空の誘電率や透磁率などもある程度の大きさがあると考えられ無くもないと言えます。次元が異なる世界からの干渉のため、電磁波の進行方向によらず同じ影響をうけるという説明がなりたつ可能性も否定できません。そのような"干渉"を説明できる数学があればこの問題に進展が期待できるかもしれません。これは凡夫である小生の思いつきのレベルです(2006/3/15)。 一応S仮説としておきます。

現代物理の最先端では、超次元の構造の理論的な解明の中で光(電磁波)が重要な役割をしてくるようです(参考文献16など)。

 

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(補足10) 定在波と電流 (準備中)

高周波の世界でよく問題とされる定在波の場合を考えて見ます。定在波はある周波数のサイン波が連続する高周波を伝送線路に印加した時に線路の端などで反射があると現れる現象です。線路の端から1/4波長の位置ごとに電圧が大きくなる腹や小さくなり節が現れ、波がとどまっているように見えることから定在波と呼ばれます。定在波は止まっているように見えますが電気信号自体は光の速度で線路を左右に行き来していることに変わりはありません。

図8-3のように反射がなく進むTEM波では、導体間の電位差が大きくなる時には導体上の電流も大きくなります。しかし定在波が大きく出ている時は、導体間の電圧が大きくなる波の腹の位置では導体面の"電流"は小さくなります。一方、定在波が出ている状態で波の節の部分では導体間の電圧は小さくなりますが導体面の"電流"は大きくなります。このように定在波が大きく出ている場合は電圧が小さいところで電流が大きく、図8-3の場合とは逆の関係になります。図8-3の場合は電気信号の速度で変化が進んで行きます。定在波の場合、位相の変化は印加された高周波の周波数で繰り返されます。



図8-4 定在波が出る場合は電圧最小点で電流最大となる

電圧が小さくなる節の部分では進む波の山と反射してきて戻る波の谷が合わさって打ち消している部分と考えられます。しかしこの部分で電流が大きくなって、しかも線路の方向を向く電流を示す矢印が大きく示されます。これはどのように考えればよいのでしょうか。伝送路の信号エネルギーは金属内部でなく金属間の空間を伝わると説明しました。定在波が出ている線路では図6-1の電磁波の図が向き合って進んでくることになります。節の部分ではEの矢印が反対方向を向いている場合です。したがってEは打ち消して0になります。しかし磁界をあらわすHの矢印は同じ方向となりますので強めあうことになります(図8-5)。



図8-5 定在波の電界最小点での電磁波ベクトル

線路の電荷とつながった線路を進む電磁波では、磁界の強さと導体の電流が関連します。したがって磁界が強い箇所では導体面の電流が大きいことになります。しかしこの部分で線路上では電荷は打ち消しあって現れません。電圧が打ち消しあっている部分では外見上電荷の偏りが見られません。電荷が現れない部分でも電荷の進行方向への少しずつのズレが"電流"を伝えると本文で説明しました。図8-5のように電界が打ち消しあって電荷が電圧として現れていない場合でも磁界が強め合っている場合でにはその部分で電荷の進行方向へのズレが大きく起きていると説明できます。

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(補足11) (準備中)

電磁現象の動作を記述するマクスウエルの式を簡単に言えば、真空中であっても変化する磁界(磁場)が変化する電界(電場)を作りさらにその逆もなりたつということです。マクスウエルの式は実際には3次元で表されますが、1次元だけの成分を取り出して磁界と電界について式6-2、6-3を得ます。これは補足7で示した電信方程式から信号の速度を求めた場合と同じように、速度が(1/μ*ε)^0.5の波を示す波動方程式です。ここでμとεは波が伝わる空間の透磁率および誘電率です。なお,物理系ではHの代わりにBを用います(H=B/μ)。電気系でもHとBは別のものなのでBを使うべきという考えもあります(参考文献14)。

  (式6-2)

   (式6-3)


図6-1 E, Hベクトルで示した電磁波の進行
(物理系ではEとBで表します)

(補足12) 4元電磁ポテンシャル (準備中)

現在の物理では磁場(磁界)と電場(磁界)は別々の実体ではなく、より根源的な共通の物理量(電磁ポテンシャル)の別の現れ方と解釈されています。

電気系では電界と磁界をべつのものとして取り扱って、変化する電界が変化する磁界を作るという解説をしている本が結構ありますが、物理系からはいつまで過去の誤った解釈で押し通しているのかと批判されています(文献18など)。変位電流は磁界を作らないとして説明がつくことは電磁波が発見される以前の1881年にすでに示されているということです(文献18)。電気系の説明としては変位電流が磁界を作るとして計算する方がわかりやすいことと、工学的にアンテナなどの設計が実際にそれで出来るからよいのではないかということのようです(文献1など)。

ファインマン物理学(文献6)では電磁ポテンシャルを基本にせずに磁場と電場を説明されています。ファンマンの講義を直接聴いた当時カリフォルニア大の助教授だった人が最近あらわした本で、なぜ量子電磁気学の権威であるファインマンが電磁ポテンシャルを基本にした説明をしないのかとその場で質問したと書いています(文献21)。まだ電磁ポテンシャルが実在するか実験による確認(日本人による電子顕微鏡を使用したAB効果の確認実験)がされていなかったころだったからかも知れません。その後

電磁ポテンシャルについて高校の数学の知識でもなんとかわかるように解説された本もあります(文献19など)。さらにわかりやすく解説されている本も出ています(文献20)。

ただしそれらの本は物理系の人が書いており、線路を伝わる電気信号について電気のエンジニアにもわかるような説明はされていないようです。なお、文献18には同軸線の信号の伝送について現在の物理でも矛盾のない形で信号の速度、特性インピーダンスなどについて説明がされています。

電子や素粒子の根源的な構造やわれわれが認識している3次元(時間を入れて4次元)空間の構造はまだ解明されていない状況ですがそれがこれらの混乱の一因のようにも思えます。

 


参考文献:

1) 後藤尚久,なっとくする電磁気学の質問55,2007, 講談社
 以前この位置に掲載していました「なっとくする電磁気学」を同じ著者が実質改定されたもの。

2) 吉田武,マクスウエル・場と粒子の舞踏 60小節の電磁気学素描,2000,共立出版
  できるだけ式を出した説明で(しかし見開き2ページで1テーマにまとめられている)、この本だけで電磁気関係の数式ほとんどが説明されている。独学で大学レベルの電磁気を学びたい人には参考になる。

3) 見城尚志,図解・わかる電気と電子,1999,講談社
  これを読むと波動方程式やシュレジンガーの式が難しくなく?見えるようになる。

4) O. Drrigol, Electrodynamics from Ampere to Einstein, 2000, Oxford university press (英語).
  筆者はフランス人で英語、ドイツ語も堪能で電磁気創生期の研究者の原論文、友人との書簡、日記およびさまざまな歴史研究の文献を見ておりいろいろな発見の経過などが詳しく書かれている。この本(オリジナルはフランス語)はスイスの物理学会から2000年に賞を得ている。

 日本語の本でも、原本(英、独、仏語など)を全て確認して電磁気と現代物理の歴史にそって書かれた
マクスウェルの渦・アインシュタインの時計―現代物理学の源流 (太田浩一,東大出版会,2005年)という本があります。Drrigolより詳しく調べられている面もあるようです。

6) R.P.Feynman外,宮島龍興訳,ファインマン物理学III 電磁気学,岩波書店.1969.

7) 志田,ディジタル・データ伝送技術入門,2006,CQ出版
 管理者が執筆しました。トランジスタ技術スペシャルのN0.93としてでました。出版社の編集意図もありシグナルインテグリティーの技術だけでなくディジタル伝送について伝送技術と電流モードディジタルICなど基礎から幅広く網羅しています。一般家庭用途の機器でもギガビット超のディジタル伝送が使えるように(安価、確実に)、これまでの通信伝送で考え出され実用化されてきた多くの技術・考えが取り込まれています。通信の技術などを幅広く網羅したのはこのためです。直流電流と電気信号の違い,カーボンナノチューブを使用したデバイスの技術や10Gビットで動作するロジック回路などについても紹介しています。

8) 小暮陽三,ゼロから学ぶ波動と振動,2005年,講談社.
 電磁気でない波動、振動について理解するための参考書

9) James Clerk Maxwell, A Treatise on Electricity & Magnetism Vol2, 3rd edition, 1891(1954, Dover publications. Inc)

  有名なマクスウエル(1831-1879)が書いた電磁気の本です。マクスウエルが書いたのは初版(first edition)で1873年出版。上記はJ.J.トムソンが1891年にまとめた第3版。現在でも第3版はリプリント版が1冊2000円程度で入手できます。Vol2は電磁気、Vol1は静電磁場。

有名なマクスウエルの式はヘビサイドとヘルツが"わかりやすく"手直ししたもので、この本では元のままのわかりにくい記号の式になっています。 実はヘビサイドとヘルツは現在の電磁気では電界や磁界よりも実態とされるもの(ベクトルポテンシャル)を消してしまっていたのです。当時の考え方ではエーテルというものが真空を含む空間に存在しそれが電気的変化を伝えると考えられており、ベクトルポテンシャルは単なる計算の手段であって消してもかまわないとされました。ベクトルポテンシャルが無い式で電磁波や電界、磁界の動作が多くの電磁気関係者にとって理解しやすくなったものの、現在の物理では誤った解釈とされる考え方がいまでも(特に電気系に)残る一因ともいわれています。

  電気と磁気の関係を数学的に表した本ですが、実験の重要性も強調されています。商用電源もない頃で、もちろんオシロスコープも無い時代に行われた電磁気の実験ですが多く紹介されています。マクスウエルの時代にオシロスコープのようなものがあれば、高速信号の伝わり方についてよりわかりやすい実験を示してもらえたように思われます。残念ながら、図示されている実験の図は数Hz程度の電気変化の範囲で、導体の"中"をゆっくり電流が進むとして書かれたものになっています。同軸線の図(Fig.26)も出てきますが内部導体と外部導体を進む電流が逆向きになる絵で書かれています。


  有名な電磁波の絵もあります(Fig.67)が、偏光物質(偏光フィルターのようなもの)を通過した、振動方向が一方向に偏波した光について示されたものです。マクスウエルが初版を書いた1873年には電磁波は発見されていなかったのですから無理もありません。ヘルツが電磁波を発見したのはマクスウエルの没後で1888年です。

10) J.D.ジャクソン, 電磁気学(上),原書第3版, 2002年, 吉岡書店.
 原書は Classical Electrodynamics  3rd ed. 1998 いわば「古典電磁力学」という題名。この本はかなり本格的な本なのでここで参照文献として示すのは場違いの面もありますが、米国の物理の大学院では教科書として広く使われている定評のある本ということで掲載。

 なお、表面抵抗が非常に小さい導体の線路に沿った電気信号(電磁波)の説明の部分では、導体表面を光速で流れる表面電流を計算する際に、導体表面の電荷は瞬時に移動するさとれており、電荷の移動についての具体的なメカニズムは言及されていません。

 この本は読むだけなら説明がくわしいのである程度の電磁気の知識があればそれなりに読み進められますが、米国の大学院ではこの本の各章の終わりについている多くの問題を解けないと卒業できないそうです。問題のヒントなどはついていません。米国の理系の大学や大学院では学年末毎の試験が厳しく、入学者数の半分以下しか卒業できないとのことです。大学に入ってさえしまえばほとんど勉強しなくても卒業できるどこかの国と比べればジャクソンの電磁気学の問題をこなす米国の院卒生との間に研究者としての力に大きな差がつくのは当然のように思われます。

 また日本で行われているような大学入試のための受験勉強と研究目的の勉強はかなり性格が異なります。受験勉強の場合はすでに回答がある問題をいかに短時間で答えあてができるかという能力を磨くことが主になりがちです。一方、研究の場合はなにも回答が用意されていない問題を自分で見つけだして、独自に科学的に解明して行ける力がつくような勉強が必要です。

11) P. C. Magnusson他, Transmission Lines and Wave Propagation, 4th edition, 2001, CRC Press.
 伝送線路の解析について書かれた本。専門家向け。

11a) S. Ramo 他,Fields and Waves in Communication Electronics, 1993, John Wiley & Sons Inc
 Ramo氏はこの本の初版が出た1960年代前にも1940年代の第二次世界大戦時の米国の電気信号伝送技術をベースにかかれた類書を著しており、線路を伝わる信号伝送では先駆的な文献といえます。1960年代の類書では、当時IBMの技術者が著した類本も有名で最近リプリントされています(別途紹介予定。)。

12) 遠坂、志田他、電子回路シミュレータSPICE実践編―フィルタの定数設計から伝送線路解析まで , 2004年, CQ出版社
    4章が伝送線路への応用です。管理者執筆担当章。

13) J.D.Kraus,他, Electromagnetics with Applications, 5th edition, 1999, McGraw-Hill.

14) 細野敏夫,メタ電磁気学,1999年,森北出版.

15) 竹内 薫, 次元の秘密[増補版],2005年,工学社

16) 竹内 薫, 超ひも理論とはなにか,2004年,講談社

17) 竹内 薫, 「場」とはなんだろう,2000年,講談社

18) 太田浩一,電磁気学の基礎 I, II,2007年,シュプリンガー・ジャパン

19) 砂川 重信, 電磁気学の考え方 (物理の考え方) 1993年,岩波書店
 ファイマン物理学の量子力学
の訳を担当された砂川先生(故人)の定評のある本。

20) 広江 克彦, 趣味で物理学 ,2007年,理工図書

21) C. Mead, Collective Electrodynamics: Quantum Foundations of Electromagnetism ,2002,MIT Press

22) G. Guiliani 他, Quantum Theory of The Electron Liquid, 2005, Cambridge University Press
  ナノスケールのデバイスでは電子のより的確なモデルが要請されていますが、この分野の説明は現在OPENとこの本の始めに書かれているようにまだまだ解明されていないということです。解説書でなく関係するいろいろな仮説や論文内容などの紹介といった感じです。こういう取り扱いも最近はあるということで掲載。

23) R. Collin, Field Theory of Guided Waves 2nd edition, 1991, Wiley interscience.
   The IEEE Press Series on Electromagnetic Wave Theory 叢書のひとつ。 Guided Waveという題名から導波管を主に取り扱っているような印象を受けますが、同軸線など一般の銅線を経由する高速信号も含められています。線路を伝わる電気信号も"WAVE"すなわち電磁波の波として取り扱っています。

24) 桂井誠,基礎電磁気学,2000,オーム社
  パーセル「バークレー物理学コース2 電磁気 上下」丸善,1989 と並んで図が多くわかりやすい電磁気学の入門書として大学電気系学部で参考書として紹介されている本です。

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