MBAで何を学ぶのか

はじめに

自分が新卒で就職したころは、MBAという言葉は目新しい略語でした。MBAがMaster of Business Administration: 経営学修士を意味することを知っている人の割合もそう多くはなく、中身に至ってはあまり知られていなかったように思います。個人的にMBAというものに直に接したのは、就職活動中に会った、外資系半導体メーカのリクルーターのひとが持っていたのが初めてだったと思います。たぶん、その人に会う前にもMBAとうのはなんかすごい学位で、取るのはごっつう大変とという認識も持っていたと思います。でも、実際に勉強し始めると、大げさに考えていたなと思うこともあります。自分の経験に基づいて、MBAとはなんぞや?について自分の見解を述べてみたいと思います。

MBA programの構成

いままで他のprogramについて見聞きしてきた情報にも基づいて、MBAに関して一般的と認識していることを述べていますが、ここで書くことは現在自分が在籍している大学のカリキュラムの影響を大きく受けることは避けがたい事をお含み置き下さい。自分が在籍するMcMaster UniversityのMBA programは国内では、ある程度の地位を持っており、他の大学のMBA programと較べて内容が大きく劣ったものではない筈ですので、大きな誤解を与えることはないと信じています。でも、認識間違いをしていれば、その点を指摘頂ければ幸いです。

北米の大学では通常、MBAを取るためには2年かかります。ただ、日本と違い、夏休み明けの9月に1学期が始まり4月末に2学期が修了するので、2年目の夏休みは除外して考えるべきでしょうから、実質的には1年と8ヶ月が標準です。学期(term)は日本の大学と同様、前期・後期があり、それぞれおよそ4ヶ月です。北米の大学では、科目をcourseと呼びます。courseでは通常、週に180分の授業を受けます。そして、登録するのは5courses/termがMBAに限らず北米の大学では一般的です。従って、授業に出るべき時間はそう多いわけではありません。

MBA programでは、1年目にcore courseと呼ばれる、courseを取るのが普通です。日本の大学で言うところの必修科目とみてよいでしょう。core courseの名前はあまり大学間で違いはありません。対象はあくまで同じBusinessで、基礎を身につけるのが目的ですから、そう違うわけにもいきません。以下のような名前のcourseが、1年目のcoreに用意されている筈です。

日本語に置き換えてみましょう

これらは日本の大学の経営学部や経営学科のカリキュラムをみれば出てきます。何が違うのでしょうか?きっちり勉強するということだと思います。日本の大学にはゼミがあると思います。勉強しないと言われる日本の大学生も、ゼミではしっかり勉強したという人は多いと思います。逆に言えば、ゼミ以外は流すのがありがちな姿ではないでしょうか。これは講義をしている教授に対しても言える面があります。したがって同じ題材を勉強しても、身に付いているものが違うということになってきます。勿論、卒論を書くために、専門書や学術論文をきっちり読んで勉強した、という場合は日本の経営学部或いは経営学科で勉強した人の方が当該分野に関しては詳しいでしょう。ただ、ビジネスの現場においては複数の分野にまたがった問題が出てくるのが普通です。マーケティングの仕事に携わっても、会計や生産管理の知識が求められる場面に遭遇します。ビジネスでは狭く深くよりも、広くある程度深くが求められ、core courseがその広くある程度深くを作ることを担っています。

大抵、どこの大学でもMBA programは忙しくて大変ということなっています。一つのcourseを通じて、典型的な日本の経営学部の学生がゼミで学ぶのと同じ程度に学ぶというのが、わかりやすさと妥当性が妥協できる表現ではないかと思います。実のところ、ゼミというのを経験したことがないので、いい加減な見積もりですが、ゼミを5つ抱える学生生活とすれば、忙しさもある程度想像が出来るのではないでしょうか。たぶん、それよりも忙しいというMBA programもあるでしょう。どこまで、突っ込んで勉強するかは、学校によって違いが出てくるようです。

2年目の内容でprogram毎の特色が出てきます。2年かけて経営全般を勉強し、広くより深く勉強するのという方針のprogramもあれば、2年目に勉強する内容を特定の分野に集中させることが可能なようにcourseを多く提供し、専攻とよべるようにしているprogramもあります。MBA programも学生獲得のため競争をしていますので、programの差別化がしやすいので後者の形式のprogramのほうが多数派だと思います。MBA取得者の知識は、広くある程度深く、そして特定の分野に詳しくということになります。代表的な専攻分野には以下の分野が挙げられます。

MBAで学ぶこと - 日本の経営学部との対比において

日本の経営学部で勉強すると確かに、経営学に関する知識を得る機会はありました。ただ、それを使ってなにか問題を解くのに使うといった機会は殆ど与えられません。これは試験の設問に顕著です。「経営戦略とは何か」こういった設問が出されます。学生は、教授が講義で板書した内容や教科書に書いてある定義や事例を書き連ねることになります。確かに、大学の先生はそういった問題に取り組んでいて、過去の成果を研究した上で、自身の見解を論文として発表することで学問に貢献する訳ですので、そういった質問に興味が出るのは仕方ないでしょう。そして、教科書の内容を書き換えるほど画期的なら、大学の外でも興味がもたれるでしょう。でもこのような教科書を書き換えるための勉強は、研究者や博士課程の学生が行うべきものです。

自然科学系の分野の試験では、教科書の知識そのものを聞いてくることは希です(覚えるべき知識が膨大な医学系は例外かも知れません)。知識を覚えて、答案に書いても点数はくれません。知識を使って、問題を解いて点数が貰えます。勿論、問題の質が人文科学や社会科学と違うのは事実です。答に正解があります。従って、知識の使い方の妥当性が答えの正誤で判断できます。人文社会科学の分野では、問題には正解がないことが珍しくありません。にもかかわらず、日本の経営学の分野でも日本の大学の試験は、答えに焦点が当てれられていたように思います。この結果、設問が正しい答えを出せるタイプの問題になりがちです。知識そのものを問う或いは、講義で教授が結論まで講義したものを問うといったことになります。前者が学部の低学年で多く、後者が高学年の科目で増えます。後者の場合、答えは一つでありませんが、教授が授業中に示したもの以外の結論を、それと同程度の水準の議論で展開することは学部学生にとっては極めて困難です。従って、賢い学生は教授の示した道をたどります。

試験で経営戦略とはなにか?と聞く先生は、たぶん講義を通じてこれを説明しておられたのでしょう。これをなぞればテストでは簡単によい成績が修められることでしょう。そして、教授はよい成績を修めた学生の答案をみて、この学生は私の講義を良く理解していると思うわけです。しかし、その学生は、理解はしていても、現実の問題に経営戦略を当てはめることを経験していません。理解していれば、あてはめるのは簡単でしょうか?数学が難しいと思う人は少なくないはずです。学年が進むにつれ、解けない問題が増えてきます。理解したことの、問題へのあてはめ方が分からなくなってくるからです。そのような状態でも、正解答案を読めば理解できることは多いはずです。理解の範囲と運用の範囲の違いが観察されています。これは問題が高度になればなるほど、乖離が顕著になっていきます。だからこそ、この差を埋める努力、即ち問題を読み、考え、答えを導き出すことを繰り返すことが必要なのです。(頭のとてもいい人はこれをすっ飛ばせるんですよね、羨ましい)これを通じて、理解していることの適用出来る範囲が拡大してきます。理解を深めるという表現も可能でしょう。これは、社会科学にも成り立つことだと思います。経営学は応用指向の強い学問です。にもかかわらず、それを勉強した学生が、運用技術の訓練が不十分だと、社会に出てから「役に立たない勉強」をしたと言われることになってしまいます。日本で、商・経営学部が決して高い評価を得ていないことはこのあたりにあるのではないでしょうか。

社会科学の成果はそれが用いられ、有効性を示さないものは淘汰されてきています。従って、生き残った成果を理解し、運用できるようになることに意義があります。大学で実地に社会科学の知識を運用するのは困難ですが、人間には論理があります。これを基盤として知識を運用し、その能力で評価を受ることが可能です。教授は学生が知識を論理の枠内で正しく運用しているかどうかに注意を払うのです。論理に基づいた知識の運用能力を訓練するのが大学教育だと理解しています。学部の間は既存の論理を用いる訓練をしますので、結論に新規性は求められないでしょう。従ってpaperでは結論が重要なのではありません。しかし、そこに至る過程は重要です。この技術を習得し修士、博士と進むにつれ、結論に独自性を持つようになってきます。日本の大学教育、特に社会科学系学部で論理の運用能力の獲得に十分な配慮がなされていたでしょうか。はなはだ不安です。

MBAは詰まるところ、博士課程との対比で言うならば、学部教育と同じです。MBAでは既存の知識の運用訓練に終始します。Thesis workを課すMBA programはごく少数です。多くの他の学問分野の修士課程が、thesis workを課し、学部と博士課程の橋渡し的役割を担うのに対して、対照的です。これは、実社会が経営学を実践できる人を強く求めている事に対応した結果、独自の役割を修士課程教育が担うことになったものと理解しています。

ビジネスの現場でいつも経験のあることが出来るはずもありません。未経験に挑戦しなければなりません。その場合、闇雲に取り組まず、理論基づいた知識を直面している問題にあてはめ検討することで、より効果的な問題への取り組み方法を見つけることが可能になり得ます。そうすることで、失敗する可能性を減らすことが出来る筈です。勿論、理論が示す方法が成功を約束するものではありません。社会科学の理論は、たとえそれが確立された理論であろうとも、現実をすべて上手く説明するわけではありません。だからこそ、その限界が見通せるように、経験による補完が重要と理解しています。

term paperを書くのに苦労していて、こんな事に思考が逃避してしまいました。ここらで、本来するべきことに戻ります。それにしても、どやってこの理論とやらを使えっちゅうねん。ああ、頭痛っ。