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 <資料>
  チャップリンの大演説 (映画「独裁者」より)


 1940年10月、第二次大戦最中にアメリカで公開され大ヒットしたチャップリンの名作映画に「独裁者」がある。テーマはヒットラーとナチズムへの鋭い批判を含んだ風刺にある。チャップリンはヒットラーをもじった独裁者ヒンケルと、ユダヤ人の理髪店主という1人2役を演じている。
 
 ヒンケルが執務室で独りになって、地球の風船を手玉に取るシーンは特に有名だ。机の上にうつ伏せになった彼は、お尻で風船を突き上げて悦に入ったりする。
 その後、信頼していた側近のシュルツから、あまりに無謀な政策に反対され、裏切り者め! と腹を立てて追放してしまう。
 
 他国を侵略する野望を抱いて対抗している国の首相と会談する場面で、ヒンケルが「国境から軍隊を引き上げるなら、こちらも侵入しない条約に署名する」と要求すれば、相手の首相は「先に署名すれば軍隊を引き上げる」と反論し、「引き上げなければ署名しない」とヒンケルは言い返す。先に署名するか軍隊を引き上げるかで、双方が後へ引かず会談が決裂寸前になった時、ヒンケルの側近が「先に署名しなさい」と耳打ちすると、
「妥協すればいいと言うのか」とヒンケル。
「署名など紙切れに過ぎないから、相手が軍隊を引き上げた後から侵入すればいいのです」と側近が入れ知恵する。
 ヒンケルがその策を受け入れて先に署名し、首相と抱き合って和解するのだが、相手を牽制し合う会談のやりとりは、今のアメリカと北朝鮮の駆け引きをありありと連想させられる。
 
 以前に追放・逮捕されていた反逆者シュルツが、かつて前線で命を救ってくれた一兵士・ユダヤ人の床屋と一緒に軍服を盗んで収容所を脱出し、最期にヒンケルに変装した床屋が、広場に集まっている軍隊と大群衆を前に大演説をぶつ場面で映画「独裁者」はジ・エンドを迎える。
 最初の脚本には、この大演説は予定されていなかったが、最後にどうしても演説を入れたいというチャップリンの強い希望で、最初の筋書きを変更したといわれている。
 次に日本語版のビデオから、ユダヤ人の床屋、じつはチャップリン自らが語らずにいられなかった大演説のメモをそのままコピーしておきたい。

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 私は皇帝にはなりたくない。支配はしたくない。できれば援助したい。
 ユダヤ人も黒人も白人も、人類は互いにたすけ合うべきである──他人の幸福を念願として。
 お互いに憎み合ったりしてはならない。
 世界には全人類を養う富がある。
 人生は自由で楽しいはずであるのに、貪欲が人類を毒し、憎悪をもたらし、悲劇と流血を招いた。
 スピードも意思を通じさせず、機械は貧富の差をつくり、知識を得て人類は懐疑的になった。思想だけがあって感情がなく、人間性が失われた。知識より思いやりが必要である。思いやりがないと暴力だけが残る。
 飛行機とラジオは我々を接近させ、人類の良心に呼びかけて世界を一つにする力がある。私の声は全世界に伝わり、失意の人々にも届いている。これらの人々は罪なくして苦しんでいる。
 人々よ 失望してはならない。貪欲はやがて姿を消し、恐怖もやがて消え去り、独裁者は死に絶える。
 大衆は再び権力を取り戻し、自由は決して失われぬ!
 兵士諸君 犠牲になるな! 独裁者の犠牲になるな!
 彼らは諸君を欺き、犠牲を強いて家畜のように追い回している! 彼らは人間ではない! 心も頭も機械に等しい!
 諸君は機械ではない! 人間だ! 心に愛を抱いている。愛を知らぬ者だけが憎み合うのだ!
 独裁を排し、自由の為に戦え! “神の王国は人間の中にある”すべての人間の中に! 諸君の中に! 諸君は幸福を生み出す力を持っている。人生は美しく自由であり、すばらしいものだ! 諸君の力を民主主義の為に集結しよう! よき世界の為に戦おう!
 青年に希望を与え、老人に保障を与えよう! 独裁者も同じ約束をした。だが、彼らは約束を守らない! 彼らの野心を満たし、大衆を奴隷にした!
 戦おう 約束を果たす為に! 世界に自由をもたらし、国境を取り除き、貪欲と憎悪を追放しよう! 良識の為に戦おう!
 文化の進歩が全人類を幸福に導くように、兵士諸君 民主主義の為に団結しよう!
 
(恋人ハンナへの最後の呼びかけ)
 ハンナ、聞こえるかい? 元気をお出し。
 ごらん、暗い雲が消え去った。太陽が輝いている。明るい光が射し始めた。新しい世界が開けてきた。
 人類は貪欲と憎悪を克服したのだ。
 人間の魂は翼を与えられていた。やっと飛び始めた。虹の中に飛び始めた。希望に輝やく来に向かって! 輝かしい未来は君にも私にもやって来る。我々すべてに!
 ハンナ、元気をお出し!

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 ここで語られているチャップリンの理想は、70年近くを経た現在も未だ実現していないと言わざるを得ない。だからといって、貪欲と憎悪を追放しない限り真の平和は実現しないと叫ぶチャップリンの言葉が間違っているとは言えないだろう。
 独裁者が例外なく民主主義を嫌うことは確かである。(ところが金正日の北朝鮮が「民主主義人民共和国」を名乗っているのは、矛盾というよりは皮肉という他はない)
 しかし、貪欲や憎悪の本音を隠して、他国に武力で民主主義を強制することも間違っている。
 あれほど民主主義を理想としたチャップリンは、第二次大戦後、アメリカでアカ狩りの標的にされ、生涯アメリカの国籍を取得せずに世界市民の自覚を貫き通したのであった。 (2007.2.01記/文責・植田)


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