from 平成1年12月号 別冊「サライ」より

本多京子著

うどんの栄養学
月見で「元気」一杯

喉ごしの滑らかなうどんは、少々調子が悪い時でも抵抗なく口に入るありがたい存在。
薬味や具を上手に組み合わせれば、寒い時期を元気に過ごすエネルギーとなってくれる!

うどんは健康的なエネルギー源

 うどんに含まれる主な栄養素といえば糖質です。うどん100グラム中に含まれる糖質は57グラムと、半分以上が糖質で占められています。
”太るから”といって、糖質主体の食品のご飯やパン、麺類などの主食を一切摂らないで痩せようとする人がいます。確かに、糖質を摂らなければ、余分な脂肪が増えることもなく、スマートでいられます。でも、こうした食生活を続けていると、脳のガソリンにあたるブドウ糖が不足して、頭の働きも鈍くなります。
 また、糖質から作られたブドウ糖はグリコーゲンとなって肝臓に蓄えられていますが、糖質を摂らないでいると、これまで蓄えてきたグリコーゲンが分解されてブドウ糖になり、エネルギー源として利用されてしまいます。グリコーゲンが少なくなった肝臓では、解毒作用が低下し、有害物質の処理ができにくくなりますから、お酒に弱くなったり、肌荒れがひどくなるといった症状も出てきます。
 同じ糖質でも、砂糖とうどんの澱粉とでは、体内でのエネルギー代謝のスピードが異なります。疲れた時に甘いものが食べたくなるのは、身体が要求しているからだといわれます。これは、砂糖を含んだものは短時間に分解されてブドウ糖になり、すぐにガソリンとして使われるからです。
 でも、甘いものでエネルギーを補給するのは、紙を燃やすのと同じで、パッと燃えて長続きしません。そして、いったん上昇した血中のブドウ糖の濃度は、しばらくするとその反動でガクンと下がり、逆に正常値よりかなり低くなってしまい、いわゆる”低血糖状態”を起こします。
 一方のうどんに含まれる澱粉は、ゆっくりと分解されてブドウ糖になるため、砂糖に比べて血糖値の上昇が穏やかで、持続性があるのが特徴です。ですから、健康のためには、一日の摂取エネルギーの五五〜六〇%を米やうどんなどの穀物から摂った方が良いとされています。

卵や油揚げと一緒に食べれば効果的

 一日の摂取量があらゆる食品の中で最も多い穀物から、私達は糖質ばかりでなく、かなりの蛋白質も摂取しています。うどんは、小麦粉の蛋白質「グルテン」の含有量が比較的多い中力粉で作られていて、茹でたうどん一〇〇グラム中の蛋白質は二.五グラムと、白米で炊いたご飯とほぼ同じです。
 でも、うどんとご飯を比べた場合、蛋白質の含有量は同じでも、その質に違いがあります。蛋白質は、二〇数種類のアミノ酸が結合することによって作られていますが、このアミノ酸には、人間の体内で合成されるものとされないものとがあります。このうち、体内で合成出来ないものを”必須アミノ酸”と呼び、これらは食品から摂取しなければなりません。必須アミノ酸には、リジン、トリプトファン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、バリンなどの種類がありますが、このうち一種類が欠けただけでも、人間の身体を作る体タンパクが合成出来ず、蛋白質としての価値はゼロになってしまいます。
 私達にとって最も理想的なアミノ酸バランスに対して、その食品に含まれるアミノ酸がどのような割合になっているかを表すのが、”アミノ酸スコア”と呼ばれるもので、うどんは一〇〇点満点中四一点しかありません。一方ご飯(白米)は六五点と、うどんをしのいでいます。これは、うどんの原料となる小麦粉に、リジンというアミノ酸が少ないためです。学校給食用のパンにリジンが添加されたことがありましたが、これは小麦粉の栄養価を高めようとするための手立てだったのです。
 うどんもパンと同じ小麦粉で作られているので、大切なのが他の食品との組み合わせです。この点を考慮すると、うどんをより健康的に食べるには、大豆製品、肉類、魚介類、卵などの”蛋白質食品”と組み合わせて摂ることが必要なのです。こうしてみると、大豆タンパクが摂れるきつねうどんや、卵入りの月見うどんは、理にかなった組み合わせといえます。

薄い色の関西出汁ほど塩が強い

 うどんといえば、”東の濃口、西の淡口”といわれるように、かけ汁を作るのに関東では濃口醤油を使い、関西では淡口醤油を使います。真っ黒で、いかにも塩気が強そうな濃口と、すっきりとすんだ色調の淡口醤油では、塩分にも違いがあります。
 実は見かけとは逆に、塩分は淡口の方がやや多いのです。大さじ一杯の塩分量を比べると、濃口は二.五グラム、一方、淡口は二.八グラムと約一割多くなっています。さらに色の淡い白醤油となると、二.九グラムといっそう多くなります。
 もともと、麺類には塩分が添加されています。これは、味を付けるためというより、麺類の製造上不可欠だからです。小麦粉はただ水を加えて捏ねるより、塩を加えて捏ねる方が麺のコシが強くなります。また、小麦タンパクのグルテンがよく絡み合うようになるため、細く切った時もちぎれにくくなるのです。そのため、かけうどん、きつねうどん、月見うどん、天ぷらうどんなどを食べると、どれも一食あたり約五グラムの塩分を摂ることになります。健康のために摂ってよい食塩の量は、一日一〇グラム以下とされていますから、これだけで目安量の半分を摂ってしまうことになります。
 気になる塩分を少しでも減らすには、山かけうどんのように芋類と一緒に摂るのも手です。芋類に多く含まれるカリウムには、塩分中の余分なナトリウムを体外に排泄させる作用があるからです。カリウムは水に溶けやすく、調理による損失も大きいのですが、山芋なら生食出来るので、カリウムをそのまま摂取出来るのが特徴です。また、食後にリンゴやミカンなどを食べるのもおすすめ出来ます。果物にはカリウムが多く、生食しますから、調理による損失がないからです。
 ネギ、七味、ゴマ、大根おろし、柚子、海苔など、うどんに添えられる薬味は、どれも健康増進に役立つ成分を含んでいます。ネギのツーンとした辛味成分のアリル化合物は疲労回復の強い味方ですし、七味唐辛子の辛味成分のカプサイシンは血の巡りをよくして、身体を温めます。
 これからは、いよいよ本格的な風邪のシーズンです。人は平均して年に六度、風邪を引くと言われますが、万病のもとといわれる風邪を撃退するには、まずは身体を温めること、アツアツのうどんにたっぷりのネギをのせ、七味唐辛子を振りかければ、まさに風邪撃退のメニューになります。
 ここに卵を落として食べれば、蛋白質の体温上昇作用も加わり、さらに効果的です。大根おろしの辛味成分も身体を温めますから、おろしうどんも良いでしょう。ゴマや柚子、海苔などコクや香りのある薬味をたっぷり添えれば、うどんのかけつゆやつけ汁を薄味にしても美味しく食べられますから、減塩にもつながります。

具だくさんのうどんは理想食

 ほうとうやけんちんなどのように具だくさんなら、栄養バランスも優等生です。
 寒い季節のごちそうといえば鍋料理。鶏肉にカボチャ、にんじん、大根を始め、様々な野菜と油揚げを加え、味噌仕立てにしたほうとう、根菜と豆腐を煮込んだけんちんうどんなどは、栄養バランスもよく健康的な一品です。たっぷりの野菜を煮込んで一緒に戴くので、ビタミンやミネラル、食物繊維もしっかり摂れます。
 カボチャやにんじん、青菜など色の濃い緑黄色野菜に含まれているカロチンは、体内でビタミンAに変わり、喉や鼻の粘膜をしっとりさせて、風邪やインフルエンザのウィルスが侵入するのを防ぎます。冬の風邪の原因となるウィルスは、寒さと乾燥が大好きです。喉や鼻の粘膜が乾燥してかさついたり、低温が続いたりすると、体内に侵入して猛威をふるいます。
 寒さに向かう冬至にカボチャを食べるのは、カロチンの多いカボチャを食べて冬を元気に過ごすための先人の知恵でもあったのです。また、このカボチャや、ほうれん草や小松菜といった青菜は、一霜ごとに甘さが増し、ビタミンや鉄分などの栄養成分の含有量が高くなるといわれます。これらの野菜には、血行促進作用のあるビタミンEも多く含まれています。うどんと一緒に煮込むことで、野菜のかさが減り、たくさんの量が摂れるのも嬉しいことです。フーフー言いながら食べれば、湯気が喉をしっとりさせ、身体も芯から温まります。
 ほうとうを始め、味噌仕立ての煮込みうどんは美味しいばかりでなく、最近の研究では、味噌の原料である大豆に含まれるイソフラボンには、骨を丈夫にしたり、更年期の諸症状を軽減したりする働きのあることが分かってきました。味噌にはコレステロール低下作用のある大豆サポニンやレシチンも含まれていますから、健康を気遣う人には大いにお勧め出来ます。具だくさんの味噌煮込みうどんなら、寒い冬もきっと元気に過ごせるでしょう。

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