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手延べ素麺の製造におけるイタギ複合工程の回数の差異による
手延べ素麺の食味食感・品質に及ぼす影響

この研究は1990年頃に行ったものである。九州で始まった機械化の波でしたが、小豆島でも機械化が進み生産量の増加と共に素麺のだぶつきが顕著になり、生産調整がやむなくなった時期でした。機械化は生産量の増加だけではなく品質の低下もまた招いたのです。そういう中で販売を進めるために他産地との差別化が謳われ、多種多様な麺が全国的に生産され始めた頃でもありました。
私自身、香川県発酵食品試験場主催の手延べ素麺研究会に入っていましたので、勉強する機会に恵まれておりました。生産調整であった夏期休業の時には毎日弁当持参で試験場の図書館に通っておりました。いくつかの製粉会社、図書館、中でも香川県食品試験場顧問でおられた多田先生には何度もお伺いしてお話を聞かせて頂いたり、研究の小麦粉の分析資料の手配までしていただきました。
そして私の研究テーマを研究会で話したところ「お手伝いしましょう。一切試験での料金はかかりません。コンピューターを使っての試験はできないでしょうから、それは私がやってあげます。その代わり論文を書かせてください。」といって自分の研究テーマのようにやってくれたのが研究会の柴崎先生でした。私は機械化の中でいかに「美味しい素麺」を作れるか、どのような小麦粉がこれからの素麺に合うのかが小豆島手延べ素麺を伸ばしていく課題だと思っていましたので、論文を書いたり本を書いたりすることが目的ではなかったので彼にやってくれるようにお願いしました。
ですからこの論文は柴崎先生の試験発表です。
もうすでに15年以上の歳月がたってしまったわけですが、HPという媒体を使ってお伝えすることができるようになりました。ご協力をいただいた柴崎先生、多田先生、日東製粉、日清製粉、安田製粉、発酵食品試験場、食品試験場、研究会のメンバーに感謝致します。

毎日の作業の中で考え、資料に目を通すうちに、「麺のコシはデンプンの粘りが大事。硬さとコシを同じにしたらあかん。」という讃岐うどんの考え方に共感した。
じゃあ、素麺ではどうすればいいのか。
「いたぎ工程の複合回数の変化による品質の違い。」と「小麦粉の品質による違い。」に思い至りました。

いたぎ工程の複合回数の変化による品質の違いは、複合1回、2回、3回で行った。
(0回と3回以上は経験上ダメだと判断できたのでしなかった。)

小麦粉の品質による違いは、
1,当時使っていた手延べ用小麦粉。
2,最高級うどん用小麦粉
(研究発表では1の結果のみです。2,については多田先生に試験をお願いし、官能試験を小豆島手延素麺組合の職員の皆様にお願いをしました。)

「白*粉を原料とする手延べ素麺の食味」 多田正敏
食品試験場

官能試験については1,色 2,表面のなめらかさ 3,弾力 4,硬さ 5,なめらかさ 6,粘りについて7段階で評価していただきました。そのときに「では、食べてどれが1番美味しかったですか?」という最後の質問にははっきりとした傾向が出ました。
 官能試験の評価基準(茹で時間3分)
項目 表面 弾力 硬さ 滑らかさ 粘り
黄褐色 荒れている 小さい 柔らかい ざらざら 小さい
普通 普通 普通 普通 普通 普通
白い 滑らか 大きい 硬い つるつる 大きい

複合回数 表面 弾力 硬さ 滑らかさ 粘り 一番美味しかったものは?
4.55 3.63 4.44 5.22 3.77 4.16 4名
3.72 4.05 4.33 4.22 4.05 4.33 12名
3.94 4.44 4.44 3.54 4.5 4.11 2名
計18名

官能試験の評価基準に慣れていなかったためであろうと思われる検査結果が出ているところもあるのですが、「食べてどれが1番美味しかったのですか?」という問いにははっきりと答えが出たのではないかと思っています。

色度  この小麦粉は最高級小麦粉で灰分も低く、多田先生も白すぎると評価されています
     のでこの数字は参考にできない。
表面  複合回数が増えると共に滑らかになっていっているということですね。
弾力  それほど変わらないという評価です。
硬さ   タンパク質の量も少なく、多田先生の評価では柔らかく歯ごたえに欠けたとある。
     複合回数が増えるほど柔らかくなるという評価はどうだろう。
滑らかさ  複合回数が増えると共に滑らかになっていっているということですね。
粘り   それほど変わらないという評価です。

多田先生の評価は茹で時間3分半でのもの。私が行ったものは3分でのもの。なので、この小麦粉の性質から言って茹で時間は少し多めではなかったかと思っている。なぜ3分にしたかというと、「手延べ用小麦粉で作った素麺の官能検査」で3分の茹で時間で行っているためである。
家庭では2分前後の茹で時間であるため「白*粉」で製麺した官能試験も茹で時間2分くらいにすれば評価が変わったかも知れない。


生産者、販売業者にしても消費者にしても品質、食感は第1のファクターです。
官能試験を通して分かったことは「複合の回数」では複合2回がどの種類の小麦粉でも好まれた。
小麦粉の種類では最高級うどん用小麦粉を使ったものといえども食感はよくはなかった。

このことは素麺の「細さ」「コシ」「硬さ」の食感がうどんのそれとは違うことを示唆した。
近年自由な立場になったので小麦粉をいろいろブレンドして官能試験をしています。
製粉会社からうどん用小麦粉として販売されている国産小麦とASWをブレンドすることによってよりよい食味食感と風味を得られることが分かった。
小麦粉についてはより突っ込んだ研究が欲しいと思うが、小麦のデータを見ても実際の作業性と食感とは違う場合もあり、データそのものもバラバラだったりします。よってこの分野では官能試験によるのみである。
私の研究テーマを基に試験研究をしていただきました。
手延べ素麺への複合回数の影響 柴崎博行
香川県発酵食品試験場発表論文
私たちが手延べ素麺を製造するにあたっては、「麺の本質は生麺である。」ということを念頭に置かなければならない。その上に素麺はその細さ故に硬さも求められているわけだから原料の小麦粉から製造方法及び貯蔵まで細心の心遣いが大切です。
テクスチャー(しゃきしゃき、しこしこ、もちもち、つるつる感)を手延べ素麺ならではの好ましいものにするために、今後私たち製造者は研究者による多くの文献に当たり、科学的考察と経験と勘とを基に製造し、製粉会社、研究期間とも密接にしてデータをとるなどをしなければならない。
近年麺の研究が多くの研究者によって諸分野にわたってなされておりますが、手延べ素麺の製造技術が経験と勘に頼るところが多いのと製造するには大きな設備がいることから、これまであまり研究もされず、また若干の誤解もあるように思われます。
麺の品質に関わる諸条件は加水混合(混練あるいは混捏)工程〜乾燥工程、貯蔵条件までどれ一つをとっても大事で手を抜けず、さらに小麦粉の性質、気温、湿度、加水量、加塩量、等々の要因がありますので一概には言えませんが、イタギ複合工程が麺質に及ぼす影響は少なからぬものがあると考えられ、多くの研究者による科学的考察を参考にしながら試験を行いたいと思います。

果たしてこれまで定説のように言われていた加水混合(混練あるいは混捏)し熟成(放置)すればグルテンの網目状構造ができるのか。タンパク質の性質にも関係するが、グルテンの引っ付き合う性質(SS結合)が直鎖状であるため、いわゆる網目状構造が生地を放置することによって形成されるとは思われない。放置することによってタンパク質分子の中に充分に水分が浸透してSS結合が多くなされる。これを作業工程中に網目状に展開させる、つまりはSS結合によるグルテン繊維を細かく展開し、繊維の間にデンプン粒子を一つ一つ抱え込むようにすることではなかろうかと思われる。
手延べ素麺製造ではイタギ複合工程であり、掛け機のヨリ掛けが主にこれにあたるものであると思われる。
SS結合が多くなされることとしっかりとした網目状構造を作ることとは別のことと思われます。うどんを鋳物、素麺を鋼と言った人がいましたが、まさにその通りだと思います。
食味食感は小麦粉の質に大いに影響されますが、製造工程中の複合もそうであり、その複合回数を何度行えば食味食感、品質がよいのかがこの試験の求めているところです。


試験

二日工程におけるイタギ複合工程の回数の差異による麺の粘弾性と食味食感の違いを見るために加水量加塩量を一定にし、小麦粉は1社にして行いました。

加水量 = 約49%
加塩量 = 6.4%(1.6kg/袋25kg)
小麦粉 = 日東製粉(赤七福神)
つぶし = 約18〜19%
室 温 = 18℃


イタギ複合工程

複合1回 
厚さ10cm弱まで足踏みの後10cmくらいの幅に切る→圧延→複合→圧延→圧延→丸棒状に出す。
複合2回
厚さ10cm弱まで足踏みの後10cmくらいの幅に切る→圧延→複合→複合→圧延→圧延→丸棒状に出す。
複合3回
厚さ10cm弱まで足踏みの後10cmくらいの幅に切る→圧延→複合→複合→圧延→複合→圧延→圧延→丸棒状に出す。


複合1回
イタギ工程が済んでもまだザラッとしている。
自動巻工程が済めば変わりなく思われた。ところが翌朝箸さばきをしてハタ付けをし縦箸を入れてみるとザラッとした感がある。
イタギ工程が済んでもザラッとしている原因として考えられるのは、
@、複合1回ではグルテンの網目状構造やその結びつく性質が直鎖状に近いためか、あるいは加水混合工程でグルテンが痛んだり団子状になり修復されず不十分なままにデンプン粒子を細かく掴んでいないためであると思われる。
A、圧延の時ロール加圧の力が小さかった。

複合2回、複合3回
複合2回をした時点で生地はツルッとする。同3回も同じである。
ハタ付け後の縦箸も(他の熟成の要因もあるが)ツルッとしている。
@、グルテン網目状構造が複合1回の2倍、4倍に細かくなりデンプン粒子をしっかり細かく覆っている。
A、2回目の圧延ロール圧が大きかった。このとき脱気もさらに強く行われる。
以下の写真は柴崎氏による