『仕立て屋の恋』 監督 パトリス・ルコント 1989年


孤独の中に見出す光


  さえない孤独な中年男が、若くて美しい女に恋をしたらどうなるか。そんな問いに対して痛いほど現実を突きつけるこの映画は、夢や希望など少しも与えてはくれない。しかし、人生という果てしない孤独の中で、恋という光を見出し、その喜びを感じ、生きていることの幸せを実感した主人公に、われわれはいつのまにか自分自身の姿を重ね合わせることになる。  

  仕立て屋の中年男イールは、その非社交的な性格と青白い無表情な相貌により、近隣の住人に嫌われている。相手にしてくれるものといえば、同じアパートに住む幼い少女と、仕事場に飼っているハムスターたちだけである。

  そんな彼にも毎日欠かさずに行っている秘密の楽しみがある。隣のアパートに引っ越してきたアリスという女性の部屋を覗くことだ。部屋の電気をつけない彼はこれまでアリスに存在を気づかれることもなく、彼女の私生活を観察してきた。が、ある晩、一瞬の雷光によってイールは自分の存在をアリスに知られてしまう。  

  物語は、ある女性の殺人事件と絡んで進行していく。執拗にイールにつきまとう刑事。あの晩以降、彼に積極的に接近を図るアリス。イールははじめ、彼女の大胆な行動に戸惑いを感じる。アリスに男がいることを知っていたからだ。しかし、イールは徐々に心を開いていく。そして、秘めていた想いを彼女に告白するのだが。

  この孤独な中年男イールの想いに共感し、彼女とうまくいけばなどと淡い期待を持てば、ラストに突きつけられる真実に、女のしたたかさと男の単純さを痛いほど思い知らされる。しかし、だからといって救いがないわけではない。すべてを知ったとき、アリスに対してイールが言った言葉、

  「君は喜びをくれた」

この一言で納得ができるのである。そう、イールは幸せを感じていたのだ。生きる喜びをはじめて感じていたのだ。そして、それをくれたのはほかでもない彼女、アリスだったのである。  

  全編にわたって流れるマイケル・ナイマンの音楽も、孤独と悲しみに包まれていて、イールの人生そのものをあらわしているようだ。特に、イールがアリスの部屋を覗くときにかける曲は、しばらく耳から離れることはないだろう。


text by 山崎慎介

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