クマ研総会において、大学院2年間で行った研究の報告をおこなった。修士論文を提出してから数ヶ月経っていたので、細かい部分などは思い出しながらの発表だった。
内容については前号(「通信」No.39)で発表要旨として掲載させていただいたが、2006・2007年に設置した自動撮影装置(センサーカメラ)に写ったクマの行動季節と時間帯のまとめである。
植物園では、初夏7月から8月のはじめにかけての出没が多くなる。日中の人の往来が多いバリアフリーの木道では人を避けてか深夜に出没し、一方、草木が生い茂って
いて見通しがわるく、野鳥観察の最盛期を除くと人がそれほど行き来しない外周の散策路(高台園地〜鏡池・隋神門に続く道)では早朝や夕方の出没がみられ、場所により
出没の時間帯が異なっているということがわかった。
鳥によっては初夏まで繁殖期があるものもいるが、そういった鳥目当てで来るバードウォッチャーの早朝の観察は、クマに対する注意が必要であろう。出没の季節頻度
や場所による出没時間帯などを把握しておけば、観光客は注意して散策することができ、場合によってはそうした時間を避けることもできる。また、管理者は出没時期の見
回り強化や散策路の制限をするなどの対策も取れるのではないだろうか。
<6月、7月に園内で採取したツキノワグマの糞の内容物分析>
出没の多い7月には、ミズバショウの群生しているところでクマ糞を見つけることが出来た。それら発見した糞をメッシュサイズの異なるふるいの上で水洗いし、メッシュ
上に残った内容物を同定をした。分析した糞は、2006年に見つけたうちの9つのみであったが、7月の糞からはミズバショウの種がみられ、ほぼ100%に近いミズバショウの糞
もあった。6月の糞からは蟻や木片などが見られた。
これまで植物園ではクマはヒメザゼンソウを食べに訪れるといわれていたが、これに加えミズバショウの実も食べにやって来ていることもわかった。戸隠森林植物園は広
域に湿地が広がりミズバショウが多く見られる観光地としても有名である。この植物が実を落とす頃7月から8月にかけてクマが頻繁に植物園に出没するということが新たに
言える。もし7月頃この植物園を訪れる機会があったら、ミズバショウがクマによって踏み倒されているところを入念に見ていただき、黒い塊(糞)を見つけて双眼鏡などで
内容物を除いてみてもらいたい。ミズバショウの種が混ざっているのを発見できるかもしれない。
<植物園のミズバショウの生活史>
園内のミズバショウの群生域に数箇所の調査枠を設置し、花期、実の落果時期をみてみた。すると実の落果は7月初め頃からはじまり中旬にはピークとなる。この落果の
ピーク時期と10日間ほどずれてクマの出没ピークが見られた。これらからは、ミズバショウの落果はクマによるものではなく自然落果であり、クマは落果した後やそのさらに
後のトロッとゼリー状になったミズバショウの実を採食していることが考えられる。ミズバショウだけで考えてみると、植物園のミズバショウの実が落果し始めたら3週間ほ
どはクマの出没に注意したほうがよい。
総会では以上のような内容をお話させていただいた。まだ十分に調査されていない場所である為、分からないことだらけでもある。今年もセンサーカメラ調査は継続して
行う予定である。これに加え遺伝子レベルの研究も加わることとなっている。これらに期待し、植物園のクマのさらに詳しい生態解明と、観光地利用とクマ問題についても
関係者と議論を進めていけたらと思う。