平成23年(コ)第11号
懲戒請求者 黒 薮 哲 哉
対象弁護士 喜 田 村 洋 一
準備書面(4)
2011年(平成23年)12月8日
黒薮哲哉
1、はじめに
本準備書面(4)は、懲戒対象弁護士から提出された準備書面(1)に対する反論である。まず、最初に対象弁護士側が執筆した準備書面全体を通じて、論理の破綻がみられるので、この点を指摘し、次に個々の主張に対する反論を行う。
2、準備書面(1)に見る論理の破たん
対象弁護士の準備書面(1)には、論理に著しい矛盾が生じている。
対象弁護士は、名誉毀損裁判2(読売VS新潮社+黒薮)で懲戒請求者が敗訴したにもかかわらず、みずからのウエブサイト「メディア黒書」で、判決を厳しく批判したことを指摘して、次のように批判している。
「なお、懲戒請求者は、名誉棄損裁判2の判決の後、反省の態度を見せないことは言うまでもなく、驚くべきことに公然と裁判所批判を行っている。」
この文脈からすると、裁判所の判決は尊重されるべき絶対的なものであって、それを公然と批判することは「驚くべきこと」に値するという意味になる。
しかし、一般の人々が絶対に持ちえない人を裁く特権を国家から与えられた者が表明した見解(判決)に対して、異議を申し立てる権限がないとすれば、大変なことになる。判決の批判は違法行為ではないことは言うまでない。
事実、対象弁護士も、準備書面(1)の「第2」で約30ページに渡って本件著作権裁判の判決を厳しく批判している。たとえば、本件催告書の作成者を懲戒対象弁護士か彼の事務所スタッフである可能性が高いと判断した判決を、「本件著作権訴訟判決の判断は誤ったものである」と記述している。
さらに「メールデータに関して、本件著作権訴訟の担当裁判官の感覚は、弁護士や企業の法務室とは乖離があることは否めず、実態に即した判断をしているとは言えない」とまで断言している。
ちなみに対象弁護士の論法に即して、対象弁護士の態度を評価するならば、次のようになる。
「なお、対象弁護士は、著作権裁判の判決の後、反省の態度を見せないことは言うまでもなく、驚くべきことに公然と裁判所批判を行っている。」
念を押すまでもなく、本件著作権裁判の判決は、最高裁も認定(甲18号証)している。従って、最高裁の判決が誤りであると立証できるだけの記述内容が準備書面(1)にあるかどうかを、以下慎重に検証する。
3、著作権裁判に至る事実経緯についての反論
3−1)真村裁判の事実経過[9ページ]
対象弁護士は、真村訴訟(前訴)の原告である真村久三氏に対して、読売が新聞販売店契約の更新を拒絶した理由を次のように述べている。更新拒絶の理由を、営業区の一部譲渡を真村氏が断ったこと等が原因であると、懲戒請求者が主張したことに対する反論である。
「(略)西部本社が『改廃』すなわち真村との新聞販売店契約の更新拒絶をしたのは、区域の一部譲渡、あるいは『癒着した有力店主』などが原因ではなく、真村が販売店契約上の報告義務に違反し、西部本社に対して、新聞の実配数(読者に対して配達している部数)の虚偽報告をしていたなど、信頼関係を破壊する行動があったと考えたためである。」
しかし、真村訴訟の福岡高裁判決は、新聞販売店契約の更新拒否の理由について次のように認定している。対象弁護士の上記記述とは大きく異なる。
「一審被告(読売)の本件新聞販売店契約の更新拒絶は、ある意味では一審原告真村が、広川店の区域分割の申し入れを断ったことに対する意趣返しの面があり(同一審原告が分割に応じていれば、契約更新をしていたと思われる。)、また、同分割申入れの背景に○○[黒薮注:有力店主]らと○○[黒薮注:販売局員]とが意志を通じた策動の如きものが窺われることを考慮すると、一審被告の更新拒絶に正当な事由があるとはいい難い。」
準備書面(1)で対象弁護士が主張する真村氏の解任理由は、対象弁護士の主観であり、客観的事実ではない。高裁判決が認定した上記記述が客観的な事件の背景である。
3−2)懲戒請求者の「問い合わせに」ついて[10ページ]
対象弁護士は、懲戒請求者が本件催告書の公開を23日付けの「新聞販売黒書」で告知した点を捉えて、懲戒請求者が最初から「問題を解決するという意思が」全くなかったがゆえに江崎法務室長は、懲戒請求者が送付した3通のメールに回答しなかったと主張している。
しかし、懲戒請求者が電話で江崎氏に対して回答を求めたところ、「22日の午後9時までに回答する」と回答していながら、実際には回答しなかったから、23日付けの「新聞販売黒書」で本件催告書の公開を告知したのである。
3−3)除斥期間について[11ページ]
これについては、懲戒請求者の準備書面(3)で主張した通りである。除斥期間の期限は、本件著作権裁判の判決が最高裁で確定した2010年2月(甲18号証)であるから、除斥期間を過ぎていない。
3−4)本件催告書の中身:デッドコピーについて[13ページ]
対象弁護士は、懲戒請求者が本件回答書の全文を「新聞販売黒書(現:メディア黒書)」に掲載した行為がデッドーコピーに該当すると主張し、それを根拠に本件催告書における催告(懲戒請求者は「怪文書」、「恫喝文書」と主張している。)の正当性を主張した。
これに対して懲戒請求者は、準備書面(2)で、デットコピーは報道目的で普通に行われている行為であることを指摘し、辻本清美議員のホームページ
( http://www.kiyomi.gr.jp/2004/jimukyoku.htm)を具体例としてあげた。
そこには対象弁護士のクライアントである辻本氏が巻き込まれた公設秘書の給与流用をめぐる事件に関連して毎日新聞が掲載した社説に対する質問状が掲載されている。
さらにこの質問に対する毎日からの回答の全文が掲載されている。しかも、毎日からの回答文の宛名は、次のようになっている。
「辻元清美前衆院議員代理人弁護士 喜田村 洋一様」
懲戒請求者に対しては、デッドコピーの違法性を主張していながら、みずからはデッドコピーを行っているのだ。
この件に関して対象弁護士は、準備書面(1)で次のように反論している。
「まず、対象弁護士がしたと主張されるデッドコピーについて、実際には辻本清美氏がホームページに掲載したものであり、対象弁護士の名前が表示されているのは、掲載された『回答』の宛先としてであって、懲戒請求者が述べるように辻本氏との『連名』で紹介したものではない(懲戒請求者のこのような誤導を厭わない姿勢が、ジャーナリストとしての資質を疑わせることは明らかである)。」
しかし、クライアントの辻本氏が勝手に「回答」のデットコピーを掲載したのであれば、デットコピーが違法であると主張する対象弁護士はなぜそれを削除させなかったのか疑問だ。クライアントである辻本氏にアドバイスするのが自然ではないか?デットコピーは報道目的でごく普通に行われている行為という認識が対象弁護士にあったから注意しなかったのではないか?
さらにデッドコピーについて言及すれば、懲戒請求者が準備書面(2)で述べたように、読売新聞紙上でもデットコピーは観察できる。(甲15号証)これについて対象弁護士はどう釈明するのだろうか。
3−5)回答書が著作物という暴論 (14ページ)
本件回答書は、本件著作権裁判の発端になった文書である。読売の江崎法務室長が、江上武幸弁護士からの問い合わせに対して回答した次の文書である。
「前略
読売新聞西部本社法務室長の江崎徹志です。
2007年(平成19年)12月17日付け内容証明郵便の件で、訪店について回答いたします。
当社販売局として、通常の訪店です。
以上、ご連絡申し上げます。よろしくお願いいたします。」
この文書を懲戒請求者が「新聞販売黒書」に掲載したところ、江崎名義の本件催告書がメールで懲戒請求者のもとへ送付されたのである。本件催告書の内容は、上に引用した文書(回答書)が著作物に該当するので削除せよというものだった。
ちなみに著作権法では著作物を、次のように定義している。
「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」
懲戒請求者は、このような著作権法の定義に回答書がまったく該当しないと判断した。しかし、江崎名義の本件催告書は催告に従わなければ、法的手段も辞さない旨をほのめかしていた。このような状況から、懲戒請求者は本件回答書を「怪文書」、あるいは「恫喝文書」とみなして、「新聞販売黒書」に掲載した。
これに対して対象弁護士は、準備書面(1)で、「懲戒請求者は、本件回答書が著作物と評価される余地がないかのように主張しているが、これも誤りである」と前置きして、判例を紹介している。
まず、文書が短いものであっても、著作物性が認められた判例をあげている。具体的には、語呂合わせ、交通標語などに著作物性を認めた例である。
しかし、語呂合わせや交通標語に著作物に該当するものがあるのは、むしろ当たり前である。語呂合わせや交通標語には、いわゆるひな型が存在しないから、創作力がなければ、書けないからだ。定形化された文章とは、明らかに性質が異なる。
さらに対象弁護士は、「東京高判平成14年10月29日・最高裁ホームページ「(別冊ジュリスト179号「メディア判例百選」)から、次の記述を引用している。(注:公式のタイトルは「インターネット上の書込みの無断転載」)
「著作物性が認められるための創作性の要件は厳格に解釈すべきではなく、むしろ、表現者の個性が何らかの形で発揮されていれば足りるという程度に、緩やかに解釈し、具体的な著作物性の判断に当たっては、決り文句による時候のあいさつなど、創作性がないことが明らかである場合を除いては、著作物性を認める方向で判断するのが相当である」
「創作性が低いものについては、複製行為と評価できるのはいわばデッドコピーについてのみであって、少し表現が変えられれば、もはや複製評価とは評価できない場合がある、というように、創作性の程度を表現者以外の者の行為に対する評価の要素の一つとして考えるのが相当である」
この判例を根拠にして、対象弁護士は準備書面(1)で次のように主張している。
「このような見地に立ち、本件回答書も、「(黒薮注:決り文句による)時候のあいさつなど、創作性がないことが明らかである場合」にあたらず、著作物性が認められ、懲戒請求者がしたようなデットコピーに対しては著作権法上の保護を受け得ると考えることも不合理ではなく、そのように第三者に対して主張することが、相当な範囲を逸脱したものであるとは到底評価し得ない。」
つまり対象弁護士は、本件回答書が「時候のあいさつなど、創作性がないことが明らかである場合」に該当しないので、「著作物性を認める方向で判断するのが相当」であり、事実、著作物性が認められるので、デッドコピーは違法だと主張しているのだ。
そこで本件回答書に、「決り文句による時候のあいさつ」のレベルを超えた表現が存在するのかどうかを検証してみる。まず、冒頭からの3行。
「前略
読売新聞西部本社法務室長の江崎徹志です。
2007年(平成19年)12月17日付け内容証明郵便の件で、訪店について回答いたします。」
これは明らかに「時候のあいさつ」のレベルを超える表現ではない。ビジネス文書の決り文句である。次に順序は逆になるが、末尾の文を引用する。
「以上、ご連絡申し上げます。よろしくお願いいたします。」
これも「時候のあいさつ」レベルを超える表現ではない。やはりビジネス文書の決り文句である。さて、本件回答書の本文は、次のように記述されている。
「当社販売局として、通常の訪店です。」
さて、この文章は著作物の要件である創作性があるだろうか?恐らく創作性があると判断する人はだれもいない。第一、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」のどこに属するのだろうか?。どれにも該当しない。
ちなみに本件回答書のような定型化された文章に著作物性があると判断した場合、社会全体にどのような不都合が生じるのだろうか。これについては、対象弁護士が引用した「インターネット上の書込みの無断転載」の判例が参考になる。
「ある表現の著作物性を認めるということは、それが著作権法による保護を受ける限度においては、表現者にその表現の独占を許すことになるから、表現者以外の者の表現の自由に対する配慮が必要となることはもちろんである。」
「当社販売局として、通常の訪店です。」という表現を著作権法で保護するならば、全国の新聞社販売局員はこの表現を使えないことになる。
結論として対象弁護士が紹介した判例等と、本件回答書を同列に考えることはできない。異質のものである。
本件回答書に著作物性は全くない。もし、このような文書を著作物として認定するのであれば、著作権法で定めた著作物の定義が無用になる。もちろん表現の自由が脅かされることは言うまでもない。
結論として、本件催告書の中で、本件回答書の著作物性を理由に削除を求めた催告は、常識の範囲を逸脱している。
3−6)本件催告書の著作物性について[17ページ]
対象弁護士は本件著作権仮処分で東京地裁が、江崎氏の主張を認めて、本件催告書を「新聞販売黒書」から削除するように命じたことを根拠に、「知的財産部の裁判官がいったんは上記のように著作物性を認める判断をしていることは、十分に考慮されるべきである」と主張する。
これに対する懲戒請求者の反論は、すでに準備書面(2)で述べた通りである。仮処分は、緊急性を要する場合などに、仮の判決を下し、本裁で十分に時間をかけて事案を検証するのが、司法制度の仕組みである。そして仮処分で江崎氏を勝訴させた東京地裁が、本裁では、懲戒請求者を勝訴させたのであるから、東京地裁の公式の判断は、本件催告書に著作物性はないというものである。
さらに仮処分で江崎氏を勝訴させた裁判官・佐野は、本訴でも、裁判官を務めている事実も、参考までに付け加えておく。
3−7)催告書の表現[17ページ]
懲戒請求者は準備書面(2)で、対象弁護士が本件催告書の簡潔性を理由に著作物性を主張していることに反論して、不要なことを書かないビジネス文書と、作家・志賀直哉の文体などに見られる詩的な表現を伴った簡潔性は別である主張した。東京地裁の判決も「相手方に説明する必要のない事柄については、適宜省略するのが通常」として著作物性を否認する判断を示した。
これに対して、対象弁護士は準備書面(1)で次のように反論している。
「しかし、弁明書での主張は、単に本件催告書の簡潔性を述べるのではなく、催告書の目的との関係で必要な事項を取捨選択して表現を創作したことを、著作物性と判断した根拠として述べるものであり、懲戒請求者の主張は前提が誤っている。」
引用文によると、対象弁護士は、本件催告書を作成するにあたって、「必要な事項を取捨選択して表現を創作した」と主張している。これは具体的に何を意味するのか、曖昧な印象を受けるが文字通りに解釈すれば、「必要な情報だけを本件催告書に取捨選択して入れる事」=「創作性」ということになる。
端的に言えば、「取捨選択」=「創作性」ということになる。
東京地裁の判決にある「相手方に説明する必要のない事柄については、適宜省略するのが通常」という文章の意味は、言葉を換えれば、「取捨選択」=「創作性」にはなり得ないという事である。
対象弁護士は、「必要な事項を取捨選択」することが創作性であると主張するのであれば、本件催告書のどこに「必要な事項を取捨選択」したことで生まれた創作性が生じているのかを明らかにすべきだろう。
3−8)著作権法第1条につて [18ページ]
懲戒請求者は、著作権法第1条で、著作権法の目的を「文化の発展に寄与すること」と定めていることを理由に、「怪文書」であり「恫喝文書」である本件催告書が保護対象にはならないと主張した。これに対して対象弁護士は、「懲戒請求者が主張する著作権法の解釈は独自のものに過ぎない」と反論している。
ちなみに第1条は次の通りである。
「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。 」
この程度の平坦な文章に独自の「解釈」など存在する余地はない。また、法律の条項がどうにでも解釈できるのであれば、法律が用を足さないことは言うまでもない。
さらに対象弁護士は、本件回答書を「新聞販売黒書」で公表することは「取引・交渉に多大な支障を来す行為」であるから、催告書を送付して削除を求めたのであって、「怪文書」にはあたらないと主張する。
これも抽象的な主張で、「新聞販売黒書」で本件回答書を公表することで、具体的にどのような「取引・交渉に多大な支障を来す」のかを記述すべきだろう。懲戒請求者が機密に関する文書を曝露したというのであれば、なんらかの取引や交渉に影響を及ぼす可能性はあるが、「販売局として通常の訪店です」
程度の内容の公表が、取引や交渉に支障を来すとは常識的には考えられない。
また、もし本件回答書が「取引・交渉に多大な支障を来す」のであれば、なぜ、本件著作権裁判で、催告書のみ削除を求め、回答書については裁判の争点からはずしたのか、理由を示すべきだろう。江崎氏の本人尋問調書によれば、「弁護士(対象弁護士)さんのご判断(17ページ)」ということだが、対象弁護士が回答書が著作物に該当しないことを知っていたから裁判の争点から外したのではないだろうか?
3−9)誰が本件催告書を作成したのか?[19ページ]
本件催告書の本当の作成者は、対象弁護士か彼の事務所スタッフの可能性が極めて高いと認定した本件著作権裁判の判決に対して、対象弁護士は真っ向からそれを否定している。そして作成者は、本件催告書の名義どおり江崎法務室長だと主張する。
その根拠のひとつとしているのは、本件催告書の「作成にあたっては、著作権法の専門的な知識までは必要とせず、民事的な紛争において権利侵害をしている相手方に要求ないし警告をする場合には、どのような内容を記載すべきであるかの知識で足りるのであり、法務室長としての経験を持った江崎法務室長に可能なレベル」であるという主張である。
しかし、江崎氏は平成20年1月28日に行われた本人尋問で、原告代理人(対象弁護士)から「著作権法を読んで理解できましたか」と質問されて次のように回答している。
「書いてあることは字面としては分かりましたがけれども、深く分かったわけではないと思います」
著作権法を十分に理解していないわけだから、常識的に考えれば、著作権に関する催告書を作成する際には、なんらかの参考書の類に助けを求めるはずだ。ところが本人尋問調書を読む限りでは、参考書に掲載されている文例も過去に法務室で作成した催告書の文例も参考にすることなく、本件催告書を作成したことになっている。
具体的にそれを示す証言を紹介しよう。
裁判官:あなたがいる法務室では、催告書を作成するというのはよくあるんですか。
江崎:頻度と言われるとそれほどありませんけれども、あります。
裁判官:あなた自身は、作成したことはこれまでこれ1件(本件催告書)だけということですか。
江崎:そうですね。2007年の5月に(法務室長に)なったので、それから12月なので私としては1件です。
裁判官:あなたの部下たちはよく作成しているということですか。
江崎:頻度の問題であるとどういう頻度をおっしゃっているかだけれども、部下が作成することはあります。
裁判官:その作成したものはパソコン内にファイルとして残っているということなんですが、この催告書を作成する際、それは参考にされたんですか。
江崎:それはしていません。
裁判官:部屋に文例集とかそういうのはないわけですか。
江崎:当時は文例集みたいのは、催告書みたいのはなかったと思います。
裁判官:あなたの部下たちは自分で考えて作成しているわけですか。
江崎:そうだと思います。
本人尋問調書からは次のような事実が読みとれる。
1、江崎氏は数冊の法律書を読破しているが、みずから認めるように、著作権 法は深く理解していない。
2、江崎氏が法務室長になったのは5月で、本件催告書問題が発生したのは 12月である。本件催告書は、江崎氏が法務室長になって初めて作成した
催告書である。
3、その催告書を作成するにあたっては、過去の文例集は参考にしていない。
常識的に考えて、著作権法を十分に理解していない法律の素人が初めて催告書を作成するに当たり、過去の文例を一切参考にしないで、著作権に関する本件催告書のような専門レベルの法文書を書くのは不可能だ。
3−10)思考展開と記述[20ページ]
懲戒請求者は、準備書面(2)の中で、江崎氏には本件催告書を作成するために必要な著作権法の知識に乏しく、本件著作権裁判の判決が認定したように、本当の作成者は対象弁護士か彼の事務所スタッフの可能性が高いという主張を展開した。
その根拠のひとつとして、対象弁護士が弁明書に記述した次の文章を引用した。本件催告書を作成する際に、作成者がたどった考察の軌跡を記した記述である。
「具体的な民事上の救済方法や刑事告訴等に触れる選択肢もあったが、抽象的な記述に止めた。任意の遂行を実現するためには、この程度の記載が適正であると判断した」
このような思考展開は、著作権法の知識に乏しい者には出来ないというのが懲戒請求者の見解である。
これに対して対象弁護士は、準備書面(1)の中で、判断主体が江崎法務室長であったことは認めたが、「著作権法の専門的な知識までは必要としない内容である」と反論している。
著作権法の知識に乏しい者が、「具体的な民事上の救済方法や刑事告訴等に触れる選択肢もあったが、抽象的な記述に止めた。任意の遂行を実現するためには、この程度の記載が適正である」といった考察を展開できるのか疑問が残る。
ちなみに江崎氏の著作権法に関する知識はどの程度だったのだろうか?
江崎氏は、本人尋問の中でも、原告代理人である対象弁護士から「著作権法を読んで理解できましたか」と質問されて、「書いてあることは字面としては分かりましたがけれども、深く分かったわけではないと思います」と答え、著作権法の知識に乏しいことを認めている。しかも、法務室には、文例集などもなかったという。(本人尋問調書・裁判管・佐野からの質問の回答28ページ)
こうした状況の下で、たとえば本件催告書に見られる次のような表現は可能だろうか。
「上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり未公表の著作物ですので、これを公表する権利は、著作者である私が専有しています。(著作権法18条1項)」
「このような違法行為に対して、著作権者である私は、差し止め請求権を有しています(同法121条1項)ので」
常識的に考えれば、著作権法に通じた者でなければ、展開できない思考内容である。裁判所もそのように判断したからこそ、江崎氏の主張を退けたのである。
3−11)「専有」「著作権者」という表現[23ページ]
さらに対象弁護士は、本件催告書の中で江崎氏が「専有」「著作権者」といった専門用語を使っていることについても不自然さはないと主張している。
しかし、これらの用語を使用した理由を裁判官・佐野から質問されて、江崎氏は曖昧な回答に終始している。これらの言葉がみずからの思考の中から選択した「自分の言葉」であれば、たとえ我田引水であっても、それなりの理由を説明できるはずなのだが。
ところが裁判官・佐野から「専有」を使った理由を質問されて江崎氏は、
「以前見た本でそういう言葉があったんではないかと思います。具体的には覚えていません、どういう形だか」
と、答えている。
一般論になるが、本件催告書の文脈であれば、素人は「専有」の代わりに、「独占」を使うのが普通だ。
さらに「著作権者」という言葉を使った理由については、次のように答えている。
「そうですね、ちょっと今言われて違うというのが分かりました」
「著作権者」が江崎氏の「自分の言葉」であれば、「専有」同様に、たとえ専門家から見れば失当な説明であっても、自分なりに根拠は説明できるはずだ。
本件催告書は、文章心理学の観点からしても、江崎氏が自分で書いたものとは思えない。
3−12)「著作物の定義」について[24ページ]
対象弁護士は、江崎氏が考える著作物の概念は誤ったものではないと主張する。その根拠として次のように述べている。
「本件催告書の創作性がある部分を(黒薮注:本人尋問で被告側弁護士から)問われ、『全体を、こういう文章に作ろうといって私が考えて作ったんで、それで創作性があると思います』と、述べており、その著作物性や創作性の概念の理解は、誤ったものとは言えない。」
これは主観と実在を区別しない暴論である。「思うこと(主観)」と実在すること(実在)はまったく別である。両者を明確に区別しなければならない。
「全体を、こういう文章に作ろう」と考えた結果、具体的に本件催告書のどの部分に創作性が現れたのかを示して、それに創作性があるのかどうかを判断するのが常識である。
3−13)創作的表現に関する質問について[25ページ]
対象弁護士は、本件著作権裁判の判決を批判して次のように述べている。
「江崎法務室長が『具体的な創作表現を指摘でき』なかったことを『不自然』と述べて、同人の作成者に関する主張を排斥する根拠の1つとしているが(一審判決31頁)、そもそも江崎法務室長に創作的表現に関する質問をして答えさせること自体に意味がなく、またこれを作成者に関する認定根拠に挙げた判決も不合理と言わざるを得ない。」
それゆえにたとえ江崎法務室長が創作表現の箇所を指摘できなったとしても、それをもって「同人が本件催告書を作成したことを否定する根拠とすることも誤りである」と主張する。
しかし、本件催告書には、著作権法の知識がなければ、成立しえない表現が含まれている。たとえば次の箇所である。
「上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり、未発表の著作物ですので、これを公表する権利は、著作者である私が専有しています(著作権法18条1項)」
著作者人格権に基づいた主張であるが、短い文章の中にも豊かな法知識が現れている。とすれば、みずから著作物であると主張している本件催告書のどこに創作性があるのかといった初歩的な質問に応えられないはずがない。
催告書に現れた豊かな法知識と、本人尋問で明らかになった著作物に関する主観的な主張のギャップはあまりにも大きく、不自然という以外にない。
3−14)ワープロソフト名とメールの不存在について[26ページ]
対象弁護士は、江崎氏が本件催告書を作成した際に使ったワープロソフトを忘れていたり、メールデータを有していない理由について、「江崎法務室長にとっても、対象弁護士にとっても、その業務の性質上、裁判事件に関与することは、一般人と異なり、特別なことではない」と、述べている。特別なことではないがゆえに、注意が散漫になり、誤って破棄したと言いたいようだ。
しかし、江崎氏が本件催告書を作成してから、東京地裁に仮処分を申し立てるまでの日数は、数日である。さらに本裁に入るまでの期間も約2カ月である。事件の舞台が裁判所になっているにもかかわらず、原告本人が裁判の勝敗にかかわる重要な紙面を破棄したという主張は不自然きわまる。常識的にはありえない。
訴因の発生から提訴まで数年を経ているというようなケースは別として、本件著作権裁判の場合、訴因の発生から仮処分の申し立てまでは数日である。しかも、仮処分を申し立てた時点から、本裁になる高い可能性があった。と、すれば関連するデータを2重にも3重にも保管しておくのがむしろ自然だ。
懲戒対象弁護士についても、同じことが言える。クライアントである江崎氏の勝敗にかかわる重要書類を、裁判の進行中に代理人弁護士が紛失することなどは通常はあり得ない。
3−15)代理人催告書について[27ページ]
代理人催告書とは、対象弁護士がマイニュースジャパンの渡邉正裕編集長に送りつけた催告書である。その催告書と本件催告書の書式から構成、文体にいたるまで極めて類似している事実がある。
本件著作権裁判の判決は、それを本件催告書の作成者が対象弁護士か、彼の事務所スタッフと認定するひとつの根拠としている。
これに対して対象弁護士は、弁明書の中で次のように弁解した。
「『同じ相手には同じ書面で対応している』、すなわち、代理人催告書の宛先会社(黒薮注:マイニュースジャパン)が中立の立場でなく、懲戒請求者と共同歩調をとる「同じ相手」であることを対象弁護士が認識していることを示すために、同じ構成にしたものに過ぎない。」
対象弁護士は江崎氏が作成したと主張している本件催告書の形式をまねて代理人催告書を作成し、それにより懲戒請求者とマイニュースジャパンが「同じ相手」であることを知らせようとしたというのだ。
著作権裁判に関する記事をマイニュースジャパンが掲載するなど、対立構造が明らかになっているのに、何が目的で「同じ相手」であることを改めて知らせようとしたのかは不明だ。このような主張自体が不自然だ。
懲戒請求者は、「同じ相手」であることを知らせることが目的でれば、対象弁護士の名前で催告書を出すよりも、係争中の江崎氏の代理人として催告書を送付するのが自然ではないかと主張した。
これに対して懲戒弁護士は、弁明書の主張を繰り返した後、準備書面(1)で次にように述べている。
「代理人催告書は、申立書や準備書面が対象弁護士の著作物であることを根拠として抗議をするものであるから、対象弁護士自身が名義人となることは当然であり、懲戒請求者がいうように江崎法務室長の代理人として送付することはあり得ない。」
つまり自分の名前で代理人催告書をマイニュースジャパンに送りつけたのは、「申立書や準備書面が対象弁護士の著作物であることを根拠として抗議」したからだと言うのだ。と、すれば江崎氏が作成したと主張している本件催告書の形式をまねる必然性はますますなくなる。
それに「同じ相手には同じ書面で対応している」ことが、相手(マイニュースジャパンと懲戒請求者)に対して、対立の構図を認識されるという考えも、飛躍がある。江崎氏の代理人である対象弁護士が、江崎氏が起こしている係争事件にかかわるマイニュースジャパンの報道に
抗議してきた事実だけで、十分に伝わるはずだ。
文章の形式により、相手に意図を伝える行為は、暗号は別として、達意を目的とする書面ではありえない。事後にとってつけた詭弁にほからない。
3−16)「請求書」と代理人催告書[28ページ]
ここで言う「請求書」とは、対象弁護士がマイニュースジャパンの渡邉正裕編集長に送りつけた書面である。これはマイニュースジャパンが掲載したある記事の情報源を開示するように請求したものである。
懲戒請求者はこの請求書と、本件催告書や代理人催告書の形式が類似していることを理由に、対象弁護士が共通の作成者である可能性を指摘した。懲戒請求者の準備書面(1)からその部分を引用してみよう。
「なお、懲戒対象弁護士は約5年前の2006年9月15日にもマイニュースジャパンに「請求書」(甲14号証)を送付している。この文書の書式は、本件催告書や代理人催告書と同様に1行20行で入力され、文末が「不一」になっている。
また、「不一」の次の行、日付を記した部分のレイアウト(段落・スペースの設定)や住所・氏名を記した部分のレイアウトも全く同じだ。3通とも懲戒対象弁護士が作成した可能性が極めて強い。
「請求書」という文書の性質上、文章構成は催告書とは若干異なるが、冒頭に請求対象となる書類がネットに掲載されている事実を伝え、それが法的な観点からどのような違法行為であるかを指摘し、最後に請求内容を突き付けるという形は共通している。
文章のトーン、リズム、あるいはメリハリはそっくりで、文章鑑定をするまでもなく、同一の人物が執筆したものであることは、容易に推測できる。
代理人催告書の書式は、弁明書が主張するように、「同じ相手には同じ書面で対応している」ことを示すために本件催告書をモデルとした結果ではなくて、懲戒対象弁護士が業務の中で日常的に使っているものであると考えることで、説明がつく。」
これに対して対象弁護士は、懲戒請求者が指摘した形式は、「催告書や請求書では当たり前に用いられるもので、執筆者を特定できるような特徴ではない」と反論している。
しかし、不特定多数の中から、一人の執筆者を特定することは難しいとしても、すでに存在している代理人催告書と本件催告書、それに本件請求書を比較するなかで、著しい共通点があるか否かの判断は容易だ。
たとえば、3つの書面ではいずれも、「冠略」「不一」などが使われている。「冠略」「不一」といった言葉は、決り文句とはいえ、他にも類似した言葉が多数存在するなかで、これらの2つの言葉を組み合わせて使う例は限定される。
偶然にこのような言葉の選択になった可能性もあるが、少なくとも3通の書面がいずれも対象弁護士の手でかかれた可能性を否定する要素は存在しない。
3−17)作成者を特定する必要があるとの主張について[29ページ]
弁明書は、「対象弁護士の依頼者たる西部本社や江崎法務室長において重要なのは、交渉の妨げとなる文書掲載を取り止めさせることであり、これを申し入れる催告書の作成者が誰であるかを対外的に確定させることではない」と言う。つまり本件催告書の作成者を偽る必然性は元々存在しないという主張である。
しかし、作成者を偽った理由は推測し得る。本件催告書の内容が、本件回答書が著作物であると強弁するなど、「怪文書」の類であることを考慮したとき、それを読売の代理人である対象弁護士の名前で送付すれば、メディア企業の信頼が失墜することにもなりかねない。それゆえに江崎氏氏の個人名義になった可能性がある。
もっとも、これは推測にすぎないが、少なくとも「作成者を偽る必要性など全くなかった」とする対象弁護士の主張は失当である。理由は十分に推測し得る。
ちなみに知的財産高裁は、本件催告書が「江崎名義」になった背景について次のように述べている。
「原告は、原告が自ら執筆していないのに、あえて事実と異なる主張をして、争点を増やす動機は存在しないと主張する。しかし、読売新聞西部本社又は原告代理人が被告に対して訴えを提起した際に生じる影響等を考慮して、原告が本件催告書を作成したこととして訴えを提起することに、動機がないわけではない。」
少なくとも「動機」があったことを認定している。
さらに補足しておくが、本件催告書の「作成者が誰であるかを対外的に確定させること」が重要でないのであれば、なぜ、江崎氏は著作者人格権を理由に本件催告書の削除を求めたのか、わけが分からない。
3−18)「動機」に関する判示と懲戒請求者の主張(恫喝目的)について[30ページ]
対象弁護士は、知的財産高裁判決の次の部分の解釈について反論している。
「原告は、原告が自ら執筆していないのに、あえて事実と異なる主張をして、争点を増やす動機は存在しないと主張する。しかし、読売新聞西部本社又は原告代理人が被告に対して訴えを提起した際に生じる影響等を考慮して、原告が本件催告書を作成したこととして訴えを提起することに、動機がないわけではない。」
懲戒請求者は「動機」とは具体的には、巨大メディアが裁判を悪用して言論弾圧を断行した場合のイメージダウンを回避することであると主張した。一方、対象弁護士は、「『動機』の内容は全く示しておらす不合理である」と主張する。対象弁護士の準備書面(1)は、次のように言う。
「懲戒請求者の主張は、本件著作権訴訟判決の判示を全く離れて、言論弾圧があったとの懲戒請求者の独自の解釈を展開するものに過ぎない」
なお、懲戒弁護士が準備書面(1)で行った高裁判決の引用には、誤読の原因となる重大な引用のミスがある。準備書面(1)は、
「訴えを提起した際に生じる影響等を考慮して、原告が本件催告書を作成したことに、動機がないわけではない」(30頁20行目)
と、なっているが、原文は次の通りである。
「訴えを提起した際に生じる影響等を考慮して、原告が本件催告書を作成したこととして訴えを提起することに、動機がないわけではない」
言論弾圧の主張については、「甲5号証」で詳しく展開しているので、ここでは繰り返さない。ただ、一般論として次の点を加筆しておきたい。
対象弁護士は、「懲戒請求者は、『口封じ裁判』が社会問題になっているとまで述べるが、そのような事実は一切なく、違法な名誉毀損等の言論が行われた場合に相応の法的手段がとられているというに過ぎない」と言うが、「口封じ裁判」は、武富士がフリーライターらに対して提起した高額訴訟をはじめとして、大きな社会問題になっている。
対象弁護士自身も、ジャーナリスト・西岡研介氏に対するJR東日本による「50件訴訟」の西岡側代理人を務めており、口封じ裁判が流行しているこを認識しているはずだ。
「訴訟ビジネス」という言葉も生まれている。弁護活動をビジネスとして割り切り、金さえ払ってもらえれば、だれの裁判でも引き受ける実態のことである。その背景には、弁護士の増加があると言われている。高額訴訟が多発していることは、周知の事実である。
3−19)本件著作権訴訟判決の判示と懲戒手続きにおける事実認定の関係[32ページ]
対象弁護士は、立証事項について次のように述べている。
「弁明書において述べたとおり、本件著作権訴訟判決の判示は、あくまで「本件催告書の作成者が江崎法務室長である」旨の立証事項が認定されなかったものであり、対象弁護士(あるいはその事務所の者)が作成した可能性が高いとの判示は、その事実認定中の理由づけに過ぎないのであり、立証事項が「対象弁護士が本件催告書を作成した」という事実であれば、認定されなかった可能性がある。」
この主張を裏付けるために対象弁護士は、セクハラ事件の判例を持ち出している。(この判例については、対象弁護士の準備書面(1)を読んだだけでは全体像がよく見えないので、明言は避けるが、少なくとも次の事は言える)。
対象弁護士は、「対象弁護士(あるいはその事務所の者)が作成した可能性が高いとの判示は、その事実認定中の理由づけに過ぎない」というが、このような論理は詭弁にほかならない。事実認定そのものが、なんらかの事実に基づいて行うのが前提であるから、理由がないのに事実だけが認定されることはありえない。
そして本件著作権裁判の場合、その理由とは、知的財産高裁の判示によると次のような認定事項である。
「すなわち、@原告の著作権法や法的紛争の解決に関する知識経験の程度、A読売新聞西部本社と販売経営者との法的紛争の重要性に関する同社の認識の程度等、B原告及び原告代理人のいずれからも、本件催告書作成過程を示す客観的なデータは提出されていないこと等に照らすならば、本件催告書は、原告から相談を受けた、原告代理人事務所において、本件催告書を作成し、そのデータをメールに添付する方法により、原告に送信し、これを受信した原告が、被告に対して送信したものと認定することによって、辻褄が合うといえる。」
明確に「・・・と認定することによって、辻褄が合うといえる。」と述べている。
さらに対象弁護士が引き合いに出している判例と本件著作権裁判を同列に考えることはできない。本件著作権裁判では、本来の著作権裁判の争点である著作物性などを検証する以前の問題がある。つまり江崎氏に提訴の権利がないのに、対象弁護士と協力して提訴に及んだことが問題になったのである。懲戒請求者はこの点を大きな理由として懲戒請求を行っているのである。
事実、本件著作権裁判の東京地裁判決は、上記の理由で江崎氏の訴えを「門前払い」した上で、次のように判示している。
「前記1のとおり、本件催告書を作成したのは原告ではないと認められるが、事案に鑑み、仮に、本件催告書を作成したのが原告であるとした場合、本件催告書が創作的な表現といえるか否かについても、検討する。」
本来であれば、著作権裁判の本題である創作性の検証に入るまでもなく「ルール違反」で敗訴になるが、参考までに創作性について判示したのである。その意味では、対象弁護士が引き合いに出した裁判とは、判決の性質がまったく異なる。
催告書の作成者を偽ってまで提訴に及んだ前代未聞の行為が、厳しく断罪されないのであれば、司法界の秩序は崩壊する。
3−20)江崎法務室長を申立人・原告としたことも根拠があること[33ページ]
対象弁護士は、「そもそも『作成者』が誰であるかという問題自体、必ずしも懲戒請求者が述べるような一義的なものではない」と言う。
しかし、著作者が誰であるかという問題を曖昧にするのであれば、著作者の権利は保護できなくなる。著作権法の存在意義がなくなりかねない。それに対象弁護士らは、著作者人格権による保護を求めて、本件裁判を提起したのであるから、それ自体、著作者が誰であるかの検証を求めていることになる。
3−21)黙示的な権利譲渡について[34ページ]
これについては反論は、甲20号証「平成21年(ワ)第4076号,第5524号 損害賠償請求事件」の準備書面(7)に譲る。
3−22)利害侵害がなかったことについて[34ページ]
まず、この項目に関して最初に指摘しておきたい事は、対象弁護士が客観的な事実を正確に把握していない点である。対象弁護士は準備書面(1)で懲戒請求者が江崎氏に対して本件催告書の内容に関する「問い合わせメールをした直後から本件サイト上で本件催告書の公開を予告していた」と述べている。
具体的にメールとは、次のものを指す。
1、2007年12月22日 9:34分
2、2007年12月22日 18:33分
本件催告書を懲戒請求者が受け取ったのは、21日の18時26分である。対象弁護士が言う「問い合わせメールをした直後」とは、これらのメールを指しているものと思われるが、いずれのメールも、本件催告書の公開を予告する記述は存在しない。
公開を予告したのは、これらのメールに対する電話での催促にもかかわらず江崎氏が回答を拒否した後の12月23日である。予告前に江崎氏に対して回答を催促して、それでもなお回答しなかったために、公表を予告したのである。
何を根拠に懲戒請求者が「問い合わせメールをした直後から本件サイト上で本件催告書の公開を予告していた」と記してるのか不明だ。正しくは、問い合わせメールに対する江崎氏からの無回答を確認した後、本件サイト上で本件催告書の公開を予告したのである。
さらに対象弁護士は、「本件催告書が届いたことを『報道』したいのであれば、その内容を必要な範囲で紹介したり、あるいは裏づけが必要であれば本件催告書が届いた事実自体を示す程度に一部のみの掲載をすれば足りるのであり、全文をそのままデッドコピーの方法で掲載する必要はない」と自論を展開している。
どのような報道が最適かの判断は個人差があり、それについての基準を司法の場で主張すること自体が、言論・表現の自由という観点からすれば不適切であることを断った上で、参考までに次のことを申し上げたい。
対象弁護士は、「裏づけが必要であれば本件催告書が届いた事実自体を示す程度に一部のみの掲載をすれば足りる」と言うが、これは掲載スペースに著しい制限がある紙メディアについての一般論である。
しかし、ネットの場合はスペースに制限がない。従って可能であれば、なるべく豊富な裏付け資料を公開するのが常識になっている。それがネットメディアの強みであり、特徴にほかならない。懲戒請求者は、当たりまえの原則に従ったに過ぎない。
3−23)排斥期間について[35ページ]
排斥期間については、懲戒請求者の準備書面(3)と甲18号証を参考にされたい。結論を言えば、排斥期間は過ぎていない。
4、言論弾圧との主張[42ページ]
この項目についての反論は、懲戒請求者が名誉棄損裁判2で、東京高裁へ提出した控訴理由書(19甲号証)を参考にされたい。
ただ、「(3)懲戒請求者の主張に対する反論」(42ページ)については、特に重要な点なので懲戒請求者の考えを述べる。まず、対象弁護士の主張を引用してみよう。
「ア、訴訟を選択する合理的必要性について
懲戒請求者は、読者の多い報道機関であれば、言論によって対抗すべきと考えているようである。しかし、その根拠が不明である。報道機関が言論によって対抗することも、訴訟によって対抗することも、権利として保障されており、自由である。懲戒請求者の主張は、報道機関の裁判を受ける権利を否定するに等しく、独自の見解であり、かつ、暴論である。
名誉棄損裁判2が懲戒請求者の記事の違法性を認めたように、違法な言論に対して、訴訟で対抗することは、明らかに合理性がある。懲戒請求者の主張は、反論にも値しない、荒唐無稽な主張と言わざるを得ない。
イ、裁判で抑圧する戦略が存在すること
裁判で相手方を抑圧する戦略があるか否かという点を措いても、懲戒請求者が言及する訴訟は、本件とは全く関係のない訴訟のことであり、そのような無関係な訴訟の存在から、懲戒請求者に対して提起した訴訟の目的を推認するというのは、乱暴な議論である。」
書面の構成上ここでは、まず、(イ)について、次に(ア)について懲戒請求者の主張を展開する。
●対象弁護士の主張(イ)について
(イ)の記述は、懲戒請求者の準備書面(2)にある次の記述に対する反論だと思われる。
「(B)多発する『口封じ裁判』
懲戒請求者は、ひとつには訴権の濫用、あるいはSLAPPという新しい大問題を喚起するために本件懲戒請求を提起した。近年、『口封じ』目的ではないかと推測される訴訟が多発している。
周知となっている例としては、訴訟そのものを違法とした武富士裁判がある。メディアによる武富士批判を封じ込めるために、武富士を取材対象にしていたフリーライターを次々と裁判にかけた事件である。たとえば三宅勝久氏は、1億円を請求された。結果は武富士の敗訴だった。
その後もJR総連などが西岡研介氏に対して50件の裁判を起こした事件、月刊誌『サイゾー』にコメントを出したジャーナリスト烏賀陽弘道氏だけを被告にし、版元は訴外として、5000万円を請求したオリコン訴訟などが起きている。
読売が懲戒請求者に対して起こした一連の高額訴訟は、このような流れの延長線上にある。裁判を悪用した『口封じ』が広がる中で起きたのである。
しかも、懲戒請求者が巻き込まれた訴訟は、武富士のようにメディアを持たない一般企業による提訴ではなくて、1000万部のメディア企業による提訴である。巨大メディアが『口封じ裁判』を断行したところに深い病理があるのだ。と、なれば懲戒請求を通じて、懲戒対象弁護士の責任を追及するのは当然だ。
法律家から六法全書を奪い取れば、仕事が出来なくなるように、出版人から言論を奪えば、仕事が出来なくなる。それを認識しているはずの巨大メディア企業が、裁判で言論・表現の自由を封じ込めようとした事実は重い。」
対象弁護士は、「懲戒請求者が言及する訴訟は、本件とは全く関係のない訴訟」と主張するが、懲戒請求者は武富士裁判、JR総連裁判、それにオリコン訴訟などをSLAPPだと考えている。SLAPPが存在することは、懲戒弁護士も認識していると推測される。
と、いうのも懲戒弁護士は、SLAPPの概念が存在する米国の司法界の状況に通じている上に、SLAPPの典型であるJR総連裁判の被告代理人を務めているからだ。SLAPPについて知らないとは、およそ考えられない。
●対象弁護士の主張(ア)について
確かに言論機関も裁判を受ける権利は有している。しかし、懲戒請求者はこの権利の有無を論じているわけではない。
巨大メディアが個人のブログを相手に総計で約8000万円にもなる高額訴訟を起こす必然的な理由はなく、SLAPPが「流行」している状況の下で、対象弁護士らもSLAPPを選択した可能性が高いと主張しているのである。訴権の濫用についての主張であって、メディア企業が訴権を有するか否かを論じているのではない。ここでも対象弁護士は、文脈を読み違えている。
よほど言論活動のレベルが低いメディア企業は別として、標準的な能力を有する読売新聞社が、あえて裁判を選択した理由を考察する時、SLAPPを選択した可能性が高いと主張しているのである。
さらに次のことも強調しておきたい。言論機関が裁判を受ける権利を有していることは事実である。しかし、対象弁護士らのように、本件催告書の名義人を偽って訴訟を提起する権利はないはずだ。
5、結論
最後に本件懲戒請求の趣旨を繰り返し強調しておきたい。
懲戒請求者は、対象弁護士が本件催告者の作成者を偽り、著作権の保護の対象とはなり得ない文書を著作物であると強弁し、訴訟行為等に及んだ事などを弁護士倫理違背であると主張して本件懲戒請求を行っているものである。
弁護士としてあるまじき行為を認定した本件著作権裁判の判決が最高裁で確定したのを受けて本件懲戒請求を申し立てたのである。
かりにこのような行為が黙認され、放置されるのなら、司法の秩序は崩壊する。
さらに弁護士の養成には、研修期間中の給与などが国費から支出されていた事実に鑑みても、不正行為を行った弁護士に対して、厳しい処分が課せられることは議論の余地がない。