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連載第57回

府南部でも行政の透明性を求めて住民訴訟 木津川市住民

『ねっとわーく京都』2009年3月号掲載

中島 晃(弁護士)



1 不明朗な合併直前の無償譲渡


 2007年3月、京都府南部の木津町、加茂町、山城町の旧3町が合併して、新しく木津川市が誕生した。ところが、その合併4日前の3月8日、旧木津町は、近鉄から無償譲渡されていた木津川台の幼稚園用地約五千平方メートルを、同社に私立幼稚園誘致を条件に無償で返還する協定を結んでいた。この事実は、同年6月、木津川市議会で議員が質問で取り上げて、初めて明らかになった。


 この3町の合併にあたって、06年5月に調印された合併協定書では、「3町の所有する財産及び債権債務は、すべて新市が承継する」と定められており、いわゆる駆け込み事業を禁止して、3町が有していた財産は全て合併後の木津川市に引き継がれて、その管理や処分は新しく誕生した木津川市の市民の手に委ねられることになった。ところが、この合併協定書が調印されて9カ月が経過し、合併の直前になって、近鉄と旧木津町との間で幼稚園用地の無償譲渡の協定が締結されたのは、明らかに駆け込みによる財産の処分であり、合併協定書にも反する不明朗なものであった。


 木津川市の説明によると、旧木津町の木津川台地区は、計画人口8千5百人で、近鉄と近鉄不動産によって宅地開発されたが、この開発にあたって、92年3月、旧木津町に公立幼稚園用地を無償譲渡する覚書が取り交わされ、99年7月に同町に所有権が移った。しかし、その後、同町は財政的な理由から、公立幼稚園の開設は難しいと判断して、この幼稚園用地は活用されないままになってきた。ところが、住民からは幼稚園を新設してほしいとの要望もあることから、近鉄が5年以内に私立幼稚園を誘致することを条件に、この土地を同社に無償譲渡することにしたという。


2 何故、幼稚園用地だけが近鉄に返還されたのか


 木津川台開発にあたって、旧木津町が近鉄などから無償譲渡をうけたのは、幼稚園用地だけではない。このとき同時に、教育施設用地として、幼稚園用地の他に、公立中学校用地と公民館用地についても、旧木津町に無償譲渡されている。しかし、その後、公立中学校も公民館も建設されないまま、現在に至っている。


 もし、旧木津町が無償譲渡をうけた、教育施設が活用されていないというのであれば、中学校用地や公民館も全て近鉄に返還しなければならないことになる。そうすると、何故、幼稚園用地だけが近鉄に無償で返還されたのか。中学校用地や公民館用地はどうなるのか、という疑問が生じる。


 しかも、その後、この中学校用地については、学校法人同志社の設置する「同志社国際小学校」の用地に、木津川市が無償で提供する計画が浮上し、08年12月20日木津川市から同志社に無償譲渡するとの協定が締結された。このように、同じ学校用地でありながら、幼稚園用地については、一旦木津川市から近鉄に返還されたうえで、近鉄が民間幼稚園を誘致するのに対して、中学校用地については、木津川市から同志社に小学校開設のために無償で譲渡されるという方法がとられている。


 それなら何故、木津川市が民間幼稚園の開設者に直接譲渡せずに、一旦近鉄に無償で返還するという方法をとったのか、という疑問が生じる。


3 住民訴訟のなかで、次々と深まる疑惑


 このように木津川市が近鉄に幼稚園用地を無償譲渡したことには、さまざまな疑問があることから、木津川市長選挙にも立候補して、木津川市政を市民の立場から監視をしてきた田中康夫さんが、08年3月3日、幼稚園用地の所有権を木津川市に取り戻すことなどを求めて、住民監査請求を行った。


 これに対して、木津川市監査委員は、4月24日、田中さんの監査請求を棄却すると結論を下した。そこで、田中さんは、08年5月22日、木津川市が近鉄に対して、幼稚園用地の取り戻しを請求することなどを求めて、京都地裁に住民訴訟を提起した。


 ところで、この住民訴訟の審理を通して、以下のような事実が次々と判明し、幼稚園用地の無償譲渡に関する疑惑が一層深まることになった。


 第1に、近鉄は木津川市から無償譲渡をうけた幼稚園用地を、幼稚園の開設を予定している民間事業者に売却して、少なくとも8000万円の売買代金を取得していることが判明した。


 第2に、幼稚園用地として近鉄から民間事業者に売却されて土地が、その後2筆に分割されており、幼稚園の敷地になるのはそのうち約三千三百六十平方メートルだけであり、もう一方の土地が何に使用されるのか全く明らかになっていないということである。


 このように幼稚園用地の無償譲渡をめぐって、さまざまな疑惑が生じてきたことから、田中さんは住民訴訟を通して木津川市に対して、市民に真相を全て明らかにすることを求めて、一層取り組みを強めていく決意を固めている。



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