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連載第45回

住民訴訟で京都市の財政が潤った場合の弁護士報酬の行方

『ねっとわーく京都』2008年2月号掲載

塩見 卓也(弁護士)




 このウォッチャーレポートを読んでいただいている読者の方ならご存じのとおり、「市民ウォッチャー・京都」は、これまで京都市や京都府の財政支出等に不審な点があった場合に、数々の住民監査請求の申立て、住民訴訟の提起を行ってきております。そして、最近では最高裁で京都市同和奨学金訴訟の勝訴を確定する判決を得るなど、住民訴訟に勝訴して、京都市の損害を回復させる判決も複数勝ち取ってきております。同和奨学金事件では、二〇〇〇万円あまりが京都市に返ることになっています。

 

 地方自治法242条の2第12項には、このように住民訴訟において住民側が勝訴した場合には、原告となった住民が地方公共団体に対し、相当と認められる金額の弁護士報酬費用を請求することができる旨が規定されています。これまでも、「市民ウォッチャー・京都」は、手がけた事件で勝訴が確定した場合に、この規定に基づいて京都市から弁護士報酬費用を受け取ってきています。

 

 ところで、これらは「市民ウォッチャー・京都」が手がけた事件ではないですが、近時、ポンポン山事件住民訴訟(約二六億円の勝訴判決。京都市は約八八〇〇万円を回収見込み)や、市原野ごみ処理施設談合事件住民訴訟(住民側勝訴判決確定により、川崎重工は京都市に約二四億円を支払った)のように、京都市に高額の金銭が返ってくることにつながる住民側勝訴判決の確定が続きました。

 

 それに対して、京都市は、住民訴訟の結果どんなに多くのお金が市に返ってきても、住民に対し一九〇万円までしか弁護士費用を支払わないという態度を示してきています。このような対応は、最近全国の多くの自治体でも見られるものです。

 

          ◆

 

 京都市は、一九〇万円までしか支払わないとする論拠として、勝訴で得られた利益が「算定不能」だからと主張します。

 

 通常、訴訟を起こす場合には、その請求する金額(訴額)に応じて、訴状に印紙を貼らなければなりません。訴額が大きくなると、この印紙代もかなりの負担となります。例を挙げれば、五〇〇〇万円の請求では、一七万円もの印紙代を支払わなければなりません。この原則をそのまま住民訴訟にあてはめたら、ポンポン山事件や市原野ごみ処理施設談合事件のような訴額が何十億となる事件では、住民は住民訴訟を起こすことが不可能となってしまいます。

 

 そこで、最高裁判決では、住民訴訟においては、訴額は「算定不能」であるとして、実際の請求が何十億もの支払いを求めるものであったとしても、訴額を一律に一六〇万円とみなすものとしています。この運用によって、住民は住民訴訟の提起に踏み切りやすくなっているのです。

 

 京都市をはじめとする行政側は、訴え提起の場面において訴額を「算定不能」とする最高裁判決を逆手にとって、住民訴訟は住民個人の利益を求めた訴訟ではないから、市に入った金額がはっきりしていても、住民訴訟勝訴判決による利益は「算定不能」であると主張しているのです。つまり、市に何十億というお金が返ってこようと、八〇〇万円が市に返還された場合と同じ扱いで、弁護士報酬費用を算定しているのです。

 

          ◆

 

 しかし、これからいくらの金銭が市に戻ってくることになるのかも分からない訴え提起の段階と、勝訴判決が確定し、それに基づき現実に金銭が市に戻ってきた段階では、場面が全然異なります。現実に金銭が戻ってきているのに「算定不能」というのは、いかにも変な理屈です。

 

 それに、現実の住民訴訟においては、行政は、結果的に違法であったと裁判所に認定されるような支出についても、懸命にそれが正当な支出であったと主張してきます。市原野の訴訟においても、京都市は、談合の結果一八億円以上もの損害を川崎重工から受けていたにもかかわらず、川崎重工の入札が適法であったと主張し続けていたのです。

 

 そのような中での実際の住民訴訟の継続は大変なものです。行政相手に行う裁判は、一年以内に終わるということはまれですし、行政の支出が違法なのか正当なのかを裏付ける資料は、そのほとんどが行政側にあり、住民側がその開示を求めてもすんなりとは開示してくれず、住民側の主張につき証拠をそろえて立証していくには多くの困難が伴うのです。

 

 そのような困難を乗り越え、ポンポン山事件では一二年以上、市原野ごみ処理施設談合事件では七年以上にわたり訴訟活動を続け、住民側は勝訴判決を勝ち取ったのです。これらの訴訟においては、一九〇万円の弁護士報酬では、実費にも満たない程の金額です。これっぽっちの費用しか出ないのであれば、今後、行政の違法支出を追及していこうという人は続かなくなります。その一方で、住民がこのように長期間頑張り続けてきたおかげで、訴訟で常に住民側と対立する主張を続けてきた京都市が、八八〇〇万円なり二四億円なりもの利益を得ているのです。このような不条理を許していいのでしょうか。行政側の対応の意図は、住民運動の弱体化にあるとしか考えられません。

 

 京都地裁の行政事件集中部である第三民事部は、現在この問題につき、宇治市住民訴訟弁護士報酬請求事件やポンポン山訴訟弁護士報酬請求事件において、住民訴訟に要した労力や出廷回数、訴訟期間などの事情を考慮し、現実に市に入った金額を十分に勘案して相当な弁護士報酬費用を算定する良い判決を出しております。それに対し、大阪高裁は、宇治市の事件につき「算定不能」として八〇〇万円を基準とする判断をしております。

 

 この問題は、まだ確定した最高裁判決が出ているところではなく、今後どうなるかは流動的です。住民訴訟によって不正な支出が是正される途が閉ざされることがないような判断が定着していくことが望まれます。



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