ホテリア創作話 短編集 「珈琲タイムに」   作者 : ゆきえ



「背中の出来事」

「今日は 早目に仕事がかたづきそうなんだ、ジニョンは どうかな?久しぶりに ちょっと 飲んでから 帰らないか?」
と、 ドンヒョクシからの電話。

誘ってくれた嬉しさから早めに着いてしまった、このカウンター

日常を 忘れさせてくれるような 淡い照明
耳からは 心安らぐ 音楽
グラスの中で揺れる氷の音と ささやくような 会話

ジニョンは 久しぶりに 落ち着いた気分で ドンヒョクシを 待っていた。


「待たせたね、ごめんよ。」

「大丈夫 今 来たところよ・・・。急に こんな 所で 飲もうってどうしたの?」

「・・・・・・・うん。君に聞いてもらいたい事があって。」

「何かしら、気になるわ」

「僕たちこのままじゃあ いけないと思って。いろいろ 僕なりに 考えたんだ。苦しいけど 君に伝えなければと 思って。

愛していたよ。出遭った頃は・・・それは 確かだった。あの頃の僕は 君を 必要としていた。心の底から 深く 、君のすべては 僕のすべてだった。」

「過去形? ・・・でも・・・何だというの?」

「ふと、気付くと 何もかもが 思い出になってしまってるんだ。愛していた君も 愛していた僕も。あの頃の情熱が 湧いてこない・・」

「・・・・・・このままでも 私はいいのに、十分なのに・・・
情熱は もう 充分よ 落ち着いた思い、それでも やっていけるわ」

「ああ、確かに このままでも やっていけるよ、そういう夫婦は いっぱい、いるから。でも 僕は たえられないんだ。熱い思いが 欲しい訳じゃない。愛情の形は 変わっていくものだと 僕も わかっている。でも あの頃の情熱を 感じられない今、愛とよべるのだらろうか?自分の気持ちを 見つめ直すと、このままでは やっていけない。君ならわかってくれるよね。」

「何を 理解しろと言うの?・・・・・貴方の愛のあり方と私の思いとが はぐれてしまったの?・・・・・・・・・別れるの、私達?」

「・・・・ごめん、かってな事はわかってる」

「謝らないで。お願いだから・・・もう ずいぶん考えたのね・・・・貴方なりに・・・」

「ごめんよ、僕が悪いんだ、ごめんよ」


ジニョンの手に涙が落ちた
愛の形は 留まってはいない・・・わかっている・・・・私達?


深い思いに、のめりこもうとしていた時・・

「ゴメン、ゴメンよジニョン、仕事の打ち合わせが 長引いてしまって」
あわてて 入り口から駆け込むように入ってきて  ドンヒョクが ジニョンの 横に座った。

ドンヒョクが 座ろうとすると 同時に ジニョンの背後の席で 別れを 告げた 二人が 別々に 席を たつ気配を 感じた。


泣き顔のジニョンを 観て ドンヒョクは びっくりしてしまった。

「遅れてきたからかい?それなら 本当にごめんよ」

そう 言われて あわてて ほほの 涙を ジニョンは ぬぐった。

「急に こんな所で 飲もおうって どうしたの?」
気持ちを立て直して ドンヒョクに聞いてみた。

「君に 聞いてもらたい事があったんっだ。」
ドンヒョは さりげなく言った。が ジニョンの頭の中で さっきの 会話が よみがえるのだった。

『-------あの頃の事が 思い出になってしまった。愛が 思い出に-------』

「昨夜 君が なにげなく、『ドンヒョクシは酔わないのね、あなたの 酔うところは 
見たことが ないわ』って、言っただろう?だから 今日は 僕は 安心して 君と 酔いたくなったんだ。」

「あの頃 僕は 君を 忘れようと マティーニを飲み 酔ってなにもかも 忘れたかった。でも ちっとも酔えない。
そして その時 レオに言ったことは。 僕の酔いは・・・・・そう。ジニョンという美酒。
僕は一生 君に酔っているだろうって。 
僕は お酒には 強いが ただ一つ 君には すぐに酔ってしまう。ジニョンに酔った僕を 君に見せたくって・・・・」
ドンヒョクの その 言葉に ジニョンもまた 酔いしれていた。

さっき 愛のこわれる 瞬間を 背中で感じていたジニョンが、今は 背中に回されたドンヒョクの手によって 愛を確かなものとして 感じている。
愛の形は 変わるもの・・・・熱い思いのままでは いられないもの・・・でも みんなが みんな そうだとは 言えないのかもしれない。
少なくても 私達は あきれるほど 思いを重ねていっているわ・・・
背中で こわれた あの愛は 酔いが覚めてしまったから?
それなら お願い 私達は このまま ずっと 酔っていたい・・・

私は あなたに 
あなたは 私に・・・・






「羊が 一匹、羊が二匹、羊が三匹・・・・・」

「ジニョン」

台所仕事をしている わたしに あなたが よびかけてた・・・

「はーい、何?」

これで 3回目よ・・・今回は 振向いただけの 私・・・


「ジニョン」 一回目 あなたの声に 私は 水道を 止め、 手を 拭き あなたの側に行って

「はい、 何かしら?」と 答えた。

「あっ、 いや、 君を 見ていたら つい 呼びたくなっただけだ、ごめんよ。」そういうあなたに わたしは 微笑んで おでこに kissして もどったわ。

「ジニョン」 二回目 あなたの声に 私は 水道を 止め、 手を 拭き 振向いて 

「はい、 何?」って、返事したわ。

「ううん なんでもないさ」ソファに座り 腰を まわして こちらを 見ているあなたに 

「そんな 格好を していたら、 体が いたくなっちゃうわよ。」と 言って、わたしは また 水道の栓を ひねった

「ジニョン」 三回目 あなたの声に 私は おかしくなって そのままで 返事をした。

「はーい 何?」

(今度、私の名前を 呼んでも もう 答えないわよ、ドンヒョクシ・・・・)

「ジニョン」 四回目 あなたは 後ろでに 腕を組み 私の側まで やって来た。名前を 呼びつつ  わたしのうなじに kissを した。

わたしは 体の中に 熱いものを感じて、 水道からでる 冷たい水を 両の手に かけ続けた・・・

「ジニョン」 五回目 あなたは 腕組をはずし 後ろからわたしを 抱きしめてきた。

「ドンヒョクシ あなたのシャツが 濡れるわ」そういうのが やっとの わたし・・・

「いいさ すぐ 脱ぐから・・・」

(えっ、私は まだ 仕事が 残ってるわ、)

「ジニョン」 六回目 あなたは わたしの耳元で 吐息と一緒に ささやき 私を 抱いていざなった・・・

(ドンヒョクシ、残った仕事は もう できないわ・・・)

「ジニョン」 七回目 あなたは わたしを ベッドに置いて 髪を優しくなでながら、 やさしく kissを 繰り返した

(わたしは 後 何回 数えられるかしら?・・・)

「ジニョン」 八回目 あなたが私の名を 呼ぶたび 私のこころと 身体の中に あなたが どんどん はいっていく・・・

「ジニョン」 あなたの ささやきは 荒い息づかいに変わり わたしは あなたに 身体をゆだね、遠のく意識の中で あなたを 求めつづけた・・・

「ジニョン」 ・・・・・

「ジニョン」 ・・・・・ こころも 身体も 陶酔しきったわたしには もう なにも わからない・・・






「コンサートは 肌で聞くもの」

「ジニョン、あさって、コンサートに行こう、あさってなら 夜あいているだろ?」

ホテルで ディナーショーを いつも 行っているので 取り立てて コンサートに行く事など 最近は なかった。

「学生の時 クラッシックのコンサートで 自分の身体の中に流れる血と 違うものを感じて その違和感に 何故が いつも 惹かれるんだ。」

(ドンヒョクシらしいわ) ジニョンは ドンヒョクが自分にないものに対して、気持ちが動く事を よく 感じていた


コンサート会場へは ギリギリで 間に合った。ドンヒョクの仕事の方が 手間取って、 ジニョンを 迎えに行くのが 遅れてしまった。

席につこうとして 少し ざわざわという気配を ジニョンは 感じていた。(いつもそうだわ)・・・

ドンヒョクを 見る女性は 遠慮をしらない。見とれるだけなら まだしも (私の値踏みまで するんですもの)

ドンヒョクの魅力は ジニョンの愛を 得てから 触ったら 切れてしまいそうな鋭さが薄れ、本来持って生まれた男としての美しさが 磨かれていった。 ジニョンにとって、 それは 嬉しくもあり 心配の種でもあり・・・

ドンヒョクも感じていた。彼女を 見る男達に 礼儀のあるものもいれば あからさまに その美しさに引かれ 上から下まで 見る者がいる。ドンヒョクは 彼女を エスコートしつつ、男の直感で そういう男たちを あの 鋭い視線で 射抜いてしまう

開演のベルが鳴った

指揮者のタクトが 降りるのと同時に ドンヒョクは おもむろに ジニョンの膝に置かれた手に 自分の手を重ねた。  (?ドンヒョクシ? ・・・構わないのだけれど・・・)

そっと ジニョンは 右手は 膝の上に 左手はドンヒョクの手と共に2人の間におきなおした。

しばらくは その 序章と同様に ジニョンの手を 優しく 握っているだけだった。

が 第2楽章 第3楽章と 音楽が展開すると同時に 自然に ドンヒョクは ジニョンの手をしっかり握り 指と指をからませた。彼は その音楽に 浸っていた。 それは からませたドンヒョクの 指から ジニョンの指に 伝わってくる物があった。

やがて ドンヒョクは ジニョンの手を 自分の膝に乗せて、まるで人の手など忘れてしまったかのごとく 指揮者の興が乗るのと同じように 指が 彼の内面を現していた。

ドンヒョクシ??  ジニョンは 横を 見た。が ドンヒョクは目を 閉じ その音楽に酔いしれていた。

ジニョンは 彼の膝の上の 自分の手だけが 壇上の音楽と ともに 漂っている感覚を 覚えた。

その 最終章にはいると ドンヒョクは また 2人の間に 手をおきなおし 緩やかに 穏やかに ドンヒョクの親指がずっと ジニョンの手の肌を なぞっていた。

(ドンヒョクシ やめて。身体が さっきから ほてってきているわ、あなたは 音楽に酔いしれながら その酔いを 電流のように 私に伝えてくるの やめてくれない? ・・・・音楽を楽しむどころじゃあ・・・)

そして・・・指揮者が タクトを おろした

ドンヒョクは しずかに ジニョンの手を 彼女の膝に置き そして 彼女を みつめた

手を握り締め 目で (いい音楽だったね)と 言っていた

(ええ、でも 私の耳は ボーっとして、私の指先だけが音楽に酔いしれていたの、)

ジニョンは みつめ返しながら そう 訴えた。

ドンヒョクが また ジニョンの膝に置いた左手を 握り返そうとした時、彼女は横を向き 彼にウィンクして 彼女の右手が 彼の右手を 拒絶した。

ドンヒョクは 何がおきたか わからないように ジニョンを 見つめ、(だめなの?)と 懇願した。

(ダメなの、音楽を 鑑賞できないの。あなたの 指は 私を 違う世界に連れて行ってしまうの)

ジニョンは 瞳に この思いを こめて ドンヒョクを 再び 見つめなおした。

が 再びドンヒョクが 今度は ジニョンに少し向き直り 両の手で ジニョンの 手を 握り締めた。

(このままでも いいだろ?)と みつめ 懇願された時は もう なにも 言い返せなかった・・・

(ドンヒョクシ、コンサートで 酔いしれるのは ホテルのすみで 一人でいる時にするわ。今日は あなたの 肌で 音楽を感じる事にするわね・・・・) そうして ジニョンは ドンヒョクの深い愛を 音楽とともに 感じ続けた。






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