■頒布日・場所    : 2011/12/31 3日目・西め25a「寸劇屋」/25b「みそ屋本舗F」

■本文/表紙・漫画  : トウヤレイイチ / いずみやみその

■サイズ・頒布価格  : A5/72P 頒布価格未定

 

■サークル寸劇屋。冬コミの新刊は士郎×セイバーのラブコメデート本「鞘剣デイト」になります。

カーニバルファンタズム2巻が鞘剣的にご馳走ということで、鞘剣派のいずみやみそのさんと

合同誌として士郎×セイバーのラブい感じのデート本を出す事になりました。

Fate/Zeroで枯渇しがちな鞘剣・士剣を詰め込んだ士郎×セイバーづくしの一冊!

皆様のご来場をお待ちしております!

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■他、余裕があれば「魔法使いの夜」体験版の内容から、寸劇コピー本を小部数出す予定。

 

委託

サークル「硝子の月」主催の化物語合同誌「華物鏡-こよみカレイド-」にて、八九寺真宵を

題材とした短編「八九寺真宵と話しをしよう」を寄稿しました。こちらの合同誌も冬コミ三日目に

寸劇屋サークル内で委託頒布いたします。

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Sample


 

 今日の予定。

 セイバーとデートをしよう。

 

 

■■

 

 

 低い高さからの光に目を細める。

 傾きの浅いその陽射しは、朝日と呼ぶには少し遅い。

 冬木市新都――地方都市の中心であるこの一帯が、本格的に動いてゆく時間帯。とりわけ、交通網が集う歓楽街である駅前パークは、休日ということもあってか、徐々に人の賑わいを見せ始めていた。

 衛宮士郎も、そういった人々の一人だ。

 乾いた冬空の下、雑踏から少し外れた場所で佇んでいる。

 だが、その様子はどこか落ち着きが無い。やたらと肩を回したり。その場を左右に往復したり。なのに視線だけはしっかりと、駅前広場の一角にあるバスターミナルへ向けられていた。

 深山方面から、またバスが一台やって来る。休日出勤のサラリーマンや、買い物目当ての家族連れなどが乗客のほとんど。その中に、目当ての少女はいない――自然と吐息がこぼれ、肩肘の緊張がわずかながら抜けていく。

 なんというか、

 ……慣れないな、こういうの。

 背中の辺りがむず痒い。意味も無く赤茶けた髪を掻き乱したりしてしまう。

 だが、これが当たり前なのだ。普通の恋人同士というヤツは。

 そう考えると、道を行く男女の組み合わせが百戦錬磨の兵に見えてくる。どうしようもない緊張と、高揚と、衝動を、ずっしりと胸に抱えながら、どのようにして彼らは待ち合わせの時間を過ごしているのだろうか。

 次の深山町からのバスは十五分後。

 その手持ち無沙汰な時間を過ごすために、士郎はつい先刻まで記憶をさかのぼらせる。それは、いつもの面子である女性陣と、いつものように朝食を取っていた時の出来事で――

 

 

■■

 

 

 朝食は炊き込み御飯を中心としたメニューであった。白菜の浅漬け、ししゃも焼き物、小松菜と厚揚げの煮びたし、卵焼きといった料理が並んでいる。目を輝かせながら、それらを頬張る大河が、

「朝から炊き込みご飯だなんて豪勢ー! なになに!? 士郎、何かのお祝いでもあったの?」

「違う違う。この前、セイバーから圧力鍋をプレゼントしてもらったから、色々とレシピを試してるんだ」

「ほぉ―――」

「な、何ですか! 皆してその目はっ!?」

 口の端を緩めながらのジト目を向けられ、セイバーが慌てて抗議の声を上げる。

 いや、別にやましいことはしていないのだし、恥ずかしがることは無いと思うのだが。まあ、衛宮邸に集まる女衆がそれを許すとは考えられない。

「し、シロウにはいつもお世話になっていますし、少しでも負担を軽減できればというだけで……それに、その程度の気遣いは凛や桜たちだってやっていることではないですかっ」

「ほう。気遣いと言っておりますが、どうですか桜さん?」

「ええ、姉さん。あの圧力鍋のお値段……諭吉さん何人分のお気遣いだと思います?」

「ね、値段などは関係ありませんっ。大事なのは気持ちです、気持ち!」

「そうよねー、セイバーのあふれる衛宮くんへの気持ちは、お金なんかじゃとても換算できないレベルだものねー」

「でーすーかーらー!」

 などと、ぎゃあぎゃあ朝から騒がしい。隙を見せた瞬間にネタにされるという過酷でサバイバルな環境だが、これがいつも通りの衛宮邸である。

「おーい二人とも、あんましセイバーをからかうなよ」

「あら、セイバーだけ贔屓しちゃって。衛宮くんったら、独占欲?」

「む――、それはズルいー! お兄ちゃん、わたしも贔屓してー、甘やかしてー」

 横から入り込んでくるイリヤ。手元の皿には不自然に余ったししゃもが数匹。要するに苦手なこれらをどうにかしてほしい、という訳だ。曰く「卵がびっちり詰まってるのが気持ち悪い」とのこと。

 むう、ししゃもはそこが美味いのに。

「贔屓も甘やかしもしてません。だからイリヤも好き嫌いは無しの方向でな」

「えぇーっ」

 イリヤから非難の声が上がる。まあ、後ろに獲物のトレードを待ち構えた虎がいるので、残り物が出るような心配はないだろう。

 ひとまずそちらは置いておくとして、未だ四次元殺法姉妹に翻弄されているセイバーへと助け舟を出す。

「炊き込みご飯、お代わりいるか?」

「あっ、はい――是非とも。素晴らしい味です、シロウ。以前よりも、ご飯に味が染み込んでいるように感じました」

「だとしたら、セイバーにもらった圧力鍋のおかげかな」

「……むう。自分の差し出した贈り物で逆にもてなされるというのは、何とも微妙な気分ですね。何というか、結果的に自分本位になってしまったみたいで……」

「そうか? セイバーに美味しくご飯を食べてもらえると、俺は普通に嬉しいけれど」

「――ん」

 少し困ったように彼女の眉が曲がる。だが、それが本意ではない照れ隠しであることは、前髪に隠れた表情を見れば一目瞭然であった。

 と、いつの間にか周囲の騒がしさが鳴りを潜めている。

 嫌な予感をしつつ視線を向けた先には、女衆どもが口に手を翳して聞こえよがしに、

「うっわぁー、この鞘剣ども朝から見せ付けてくれやがりますよ? なんつーか、もう新婚夫婦の会話にしか聞こえないんだけど、わたし」

「奇遇ですね姉さん、わたしもです。朝の団欒とした食卓にデッドエンドシュートですよ、フフフ……」

「何かもう二人の共同作業的な雰囲気を放ってましたからね」

 いつの間にか、だんまりを決め込んでいたはずのライダーまで会話に入り込んできている。それを聞いた凛と桜の外道姉妹が「熱ッ、冬なのに超熱っ!」などと互いに襟元を扇いでいるが、あれに一言でも噛み付いたら負けというか完全に罠だ。罠。

 しかし、スルーを決め込むこちらに対し、満面の笑みを浮かべた冬木の虎が、

「それでそれで? 今日は休日だけど、ラブラブなセイバーちゃんと士郎は、やっぱりどこかに出かけたりするのかしら。お姉ちゃんにだけ教えてくれない? ――尾行するから!」

「――ら!? ら、らぶ……」

「親指立てながら何を言い出すか、このばかとらは……」

 顔を真っ赤にして絶句しているセイバー。一方のこちらとしては、ただただ呆れ果てることしか出来ない。

 尾行する、などと言われて素直に答える者などいないと思うが、それは答えが大河の期待通りだった場合である。なので、士郎はあえて正直に自分の予定を告げることにした。

「別にいつも通りだぞ。家事やって鍛錬して、まあ食事の買出しとか行ったり……」

「ふぅん……」

 何故か女衆からジト目が向けられた。

 思わず気圧されるこちらに対し、彼女らは顔を寄せ合い小さく囁き始めている。

「どうしてくれようかしら、あの朴念仁」

「おねーちゃんとしては説教モードに移行したいところだけど、……でもこれ逆に考えると、今日は出かけず自宅でセイバーちゃんといちゃいちゃします、って言ってるようなものじゃね?」

「うんうん。シロウとセイバーだもの。ほっといても、勝手に甘ったるい雰囲気を作り出すに決まってるわ」

「それはそれで傍迷惑な話ですねえ……、見せ付けられるこっちの身としては。もうラブホでやれよ、って感じです! ラブホで!」

「ストレートすぎます、サクラ……」

 …………。

 こいつらは衛宮士郎という人間を何だと思っているのだろう。

 見れば、セイバーも苦々しそうに眉根を寄せている。百戦錬磨の英霊というよりも、生真面目な女の子としての側面を強く感じさせる表情だ。そんなこちらの視線に気付いたのか、彼女の翡翠色の眸と目が合い、なんとなくお互いに溜息を揃えた。

 と、いつの間にか女衆が組んでいた円陣の中から、遠坂凛が前へと出てきて、

「――とりあえず師匠命令。士郎、セイバーとデートしなさい」

 などと、トンデモナイ発言を炸裂させた。

 発言の内容が理解出来なかったワケではない。むしろ理解出来たからこそ、意識は遠のき、思考は途切れ、最後に残った魂という根源に基づいた判断が、衛宮士郎の中に一つの言葉を生み出す。それは至極単純なもので、

「なんでさ?」

 うーん、と腕を組んで凛が首を捻る。

「いやほら、せっかくの休日でこんなに良い日和なんだから、普通の恋人同士だったらデートくらい出かけるでしょ? それなのに、二人揃って家で汗をかきながら硬い棒を握り合うだなんて、不健全にも程があると思うのっ!」

「語弊が! その発言、悪意に満ち溢れた語弊があるぞ!」

「そうかしら? そもそもセイバーみたいな恋人がいながら、デートの予定一つも立てない方が悪意あると思うわよ、わたし」

「うっ――」

 そこを突かれると、弱い。やや煽りが激しすぎる凛の発言内容はともかくとして、セイバーと恋人同士であるにも関わらず、デートという選択肢を頭の中からすっぽりと抜け落としていたのは事実なのだから。傍から見ていた女衆が苦言を呈してくるのも当然である。

 朴念仁――散々そう言われ続けてきたが、改めて自分がそういう人間なのだと実感した。

 とはいえ、

「遠坂。気を使ってくれたのは感謝してる。けどさ、この流れでデートしたら何か違うっていうか……」

「わたしに言われたからデートしてる、みたいに感じるってこと?」

「…………」

 不本意ながらその通りだ。我ながら奇妙かつ難儀な部分で頑固な性格をしていると思う。

 だが、凛からしてみればそんな弟子の性格などお見通しらしく、ふふん、とイタズラ好きの猫か小悪魔を思わせる笑みでこう言ってきた。

「じゃあ衛宮くんはセイバーとデートしたくないのね」

「――そんな事あるもんか。セイバーとデートしたいに決まってる」

「なっ、し、しろ……っ」

 脊髄反射の速度で士郎は言い返していた。その隣、セイバーが顔を真っ赤にして慌てふためく気配がある。おおぅ、と残された女性陣の方から、感嘆とも歓声とも言える熱っぽい声。

 羞恥を隠すために憮然とした顔になってしまう。それを平静でいると勘違いしたのか――恥ずかしさに眉尻を下げた困り顔で、セイバーが短く「シロウはズルいです」なんて口にする。こちらから言わせてもらえば、余裕なんて全然ありなどしないし、むしろ、セイバーの可愛さの方が反則級にズルいのではないだろうか。

 その証拠に。

 改めて士郎へと向き直ったセイバーが、頬を赤く染めながらも緩め、恥ずかしさと嬉しさが入り混じった笑みを浮かべ、

「――はい。私も、シロウとデートがしたい」

 告げられる。

 真っ直ぐとした言葉と視線は、士郎の気持ちに応えようという生真面目さの表れだ。ならば、こちらも彼女の気持ちと真摯に相対せねばなるまい。

「ん。じゃあ、一緒にデートに行くか。セイバー」

「ええ、そうしましょう。せっかくの休日ですから」

「ヒュ――ヒュ――――!!」

 絶妙なタイミングで女衆がぶち壊しに入ってきた。

「ほ、本当いきなりだよなお前らは!」

「いやほら。目の前でイチャつかれたら、そりゃ邪魔したくなるってもんでしょ?」

「ですよね! せっかくの休日に、こんな糖度高い光景を見せ付けられたらたまったもんじゃないですし! ぶっちゃけ、鬱陶しいコトこの上ないと言いますかっ!」

「ぶっちゃけすぎにも程があるだろ!」

 家主なのに邪魔者扱いされている気がするのだが、どうなのだろう。

 ともあれ、いつも通りという名目で暇を持て余していた休日に、はっきりとした方針が決まったのは確かなことだ。まだ目的地も何も決まってないのだが、それでも感情は急くように前を向いている。

 そんな期待はセイバーも一緒なのか、隠しようもないほど上ずった声で、生温かい視線を向ける他の女性たちへと言い返す。

「そうやって囃し立てていますが、こ、恋人同士が、で……デートに行くのは普通だというのは、凛たちが言った事ではないですかっ! そう、これは普通の事なのです、普通のっ! ですから、殊更に騒ぎ立てるような事でも――」

「それじゃあさ、セイバーちゃん。普通の恋人らしく、いつもとは趣向を変えてみない?」

「……は?」

 セイバーを硬直させる藤村大河の虎モード。両方の掌を重ねて身体ごとくねくねと動きながら、心底楽しそうな笑顔を向けている。断言しよう。あれはロクなことを考えていない、と。姉がこういう表情をした時は決まって被害が自分に及ぶのだ。それは長い付き合いの経験則から割り出された一種の未来予知と言ってもいい。

「んふふふ、あのね――」

 ニヤニヤ笑いの大河が言葉を続ける。それは士郎の予想した通りのものであり、そしてある意味では士郎も予想していなかったものであった。

 

 

■■

 

 

 かくして現在に到る。

 藤村大河の提案は、デートを二人の待ち合わせから始めてはどうか、というものだった。確かに一般的な恋人同士ならば経験していて然るべき事である。セイバーとは出逢った頃から一緒に暮らしていたので、そういった機会に恵まれなかったのは仕方があるまい。

 結果として自分は半ば強引に屋敷から追い出され、セイバーは残る女連中にデートの身支度を手伝ってもらっているというか何やら色々と仕込まれている模様。我らが騎士王様はその厚意にいたく感謝されたようだが、

 ……あいつら絶対に自分が楽しいからやってるだけだよな……。

 しかし、セイバーに色々と服を着せたりおめかしさせたい、という気持ちは解らなくもない。時々、彼女には何を着せても可愛らしく似合うのではないか、と思う事もある。

 

 どんな服装でデートに臨むのだろう。

 

 以前のざぶーんデートで着ていた服はこの時期では肌寒い。以外にも私服のままで自然体というのも十分ありえる話だ。しかし女衆は遠坂凛を始めとして悪魔的な思考を持つ連中ばかりだ、もしかしたら穂群原学園の制服を着させるという奇襲作戦を仕掛けてくるかもしれない。ヤバいな。そうなったら自分も全速力で制服へと着替えに戻らねばなるまい。いやまあ、搦め手だろうと真っ向勝負だろうと、どのみち衛宮士郎がセイバーのデート服を前に余裕でいられるワケなどないのだけれど。

 煩雑な思考で頭の中が埋め尽くされる。

 それに引っ張られて、身体がそわそわと勝手に動き始めた。加速度的に早くなる鼓動を抑え切れない。セイバーが来たらどうしよう。どんな顔をすればいいのだろう。

 ……うう、情けない

 セイバーの姿を見るまでもなく、女衆の奸計に翻弄されてしまうとは。

 と、項垂れかけたその時だ。

「うわ、もう来たのか。まだ心の準備が……」

 視界の先、バスターミナルに新たなバスが到着するのが見える。反射的に顔を上げ、姿勢を正す。つい先程とは別種の緊張がこちらの身体を駆け巡ってゆく。

 降車ドアから乗客が降りていく。それはやはり、休日出勤のサラリーマンだったり、家族連れだったり、一緒にデートにやって来たカップルだったり、士郎と同じように待ち合わせをしていた他の者だったり。

 後者の二組を見つつ、自分もあんな風だったのだろうか、自分もこれからあんな風になるのだろうか、などと思いを廻らせていると――

「――――」

 いた。

 乗客の一番最後、真打としてセイバーが出てくる。

 バスを降りると、彼女はすぐさまこちらを見つけ出した。凛々しかった表情がゆるやかに華やぐ。しかし、その足取りはいつもの落ち着いたもの――というよりは、どこかおずおずとしているように見えた。

 セイバーの頬は真っ赤だ。冬の寒さのせいだろうか。

 翡翠色の視線は、士郎の方を向いたり、逸らしたり。

 そして、そんな彼女の姿に、自分は見事なまでに見入ってしまっている。

 

 セイバーは新調したばかりの服で今日のデートに赴いていた。少なくとも士郎の前でお披露目された覚えはない。そういえば以前、女性陣全員で冬物の服を色々と買いに出かけていたが、その時に買ったものなのだろうか。

 上着は、首元を開けたデザインの白い編込みのニット。いつもお馴染みのまとめた髪型ではなく、リボンで可愛らしくポニーテールにしているからか、うなじから首筋のラインが美しく強調されていた。

 下半身は青いチェックのプリーツスカート。そして私服の時にも履いている黒のストッキングだ。女性らしい曲線を隠してしまった上着に対して、こちらは見事に脚のラインを明るく出している。スマートかつ華奢な脚線美は間違いなく女の子のものだ。

 それに加え、スカート下に重ねられている白いひらひら――ペチコートと言うらしい――が、さりげない可愛らしさを生み出している。

 セイバーがこちらへ一歩一歩近付いてくるたびに、ゆるやかに上下するスカートの裾と、その下にある白い布地、黒スト越しのふとももという三重層のコントラストに目が釘付けになってしまうのも仕方があるまい。いや、決してやましい気持ちなどではなく、純粋に可愛いと思ってですよ。スカートに頭突っ込んで黒ストに包まれたふとももすりすりしたいとか考えてませんから。ええ本当に。多分。きっと。おそらくは。

 まあともあれ。

 思考の赴くままに語ってしまったが。

 要約すればそれは「セイバーがやたらと可愛い」の一言に尽きるのだ。

 

「どうしたのですか、シロウ。呆けた顔をして?」

「ちっ、ちち違う違うっ、俺はただ純粋にセイバーが可愛いと思って――」

「ふぇ!?」

 間の抜けた声と同時に、目の前の少女が面食らった顔を真っ赤にさせる。そのまま真っ白な湯気が立ってしまいそうな程の勢いであった。

 というか、何か物凄い事を口走ってしまったように思えるのは気のせいだろうか。

 ……いやそれよりも、まずは――。

 パニック状態のセイバーに、普段の落ち着きを取り戻させるほうが先決だろう。

「な、ななっ、何を言い出すのですかシロウこんな公衆の面前でいきなりそのような事をだいたい私はシロウにそのように誉めてもらうほど可愛らしくなどはもしそうだとするのなら凛たちの尽力のおかげに他ならず――」

「あー、セイバー。とりあえずストップな。俺の方も不意打ちで驚かせて悪かった」

「い、いえ……すいません。私とした事が」

 己が不覚に歯噛みしつつ、セイバーが頭を下げる。

 反射的に謝罪の言葉を重ねようとするが、そうするとサラリーマンの挨拶みたいに延々と頭を下げる羽目になってしまう。せっかくのデートだというのに、そんな出だしはあんまりにもあんまり過ぎだ。

 故に、羞恥を意識させないよう、出来る限り平静を装うことに努めた。

「そ、その、フライングしちまったけど、改めて言うよ……うん、似合ってる。うん。うんうん……」

「ありがとうございます。手伝ってくれた皆に感謝しなくては」

「――うあ」

 安堵したようにはにかむセイバーに、ついさっき形成したばかりの平静が瓦解していくのを実感する。いかん。最初からこんな調子では、半日もしないうちに羞恥死という新しい死に方を披露してしまいかねない。

 だが、セイバーは早くもいつもの佇まいを取り戻しつつあり、

「どうしましたか、シロウ? 顔が随分と赤い。寒空の下、長時間お待たせしてしまったでしょうか」

「いや、そんなに――」

 待ってない、と言おうとして、それが無意味な取り繕いだと気付く。

「って、俺が出て行った時間知ってるんだよな。そういえば」

「む――、そうでした。では、やはり待たせてしまったようですね」

「体感としてはそうでもなかったかな。あー……セイバーが来るのを楽しみにしていたら、あっという間だった」

「そ、それは、女性として光栄と言いますか」

 柄にもなく格好付けてしまったが、そっぽを向いたままの台詞じゃ格好も付かない。

 顔の赤さを寒さのせいで誤魔化せる事が、せめてもの幸いか。それも外にいるわずかな間だけだが、それだけあれば十分だ。いざデートが本格的に始まってしまえば、恥ずかしさよりも、セイバーと一緒にいる楽しさの方が上回るに決まっているのだから。

 心の中で一つ頷く。

「それじゃあセイバー、どこか行きたい場所とかあるか? 何も決めないままに、アイツらから追い出されたからなあ」

「シロウ、それでしたら」

 と。

 彼女が下げていた小さなバッグから何かを取り出す。

 それは幾枚かのチケット券であり、大きさも、描かれたデザインもばらばらであった。中身も映画のチケットだったり、屋内型プールの入場券だったり、ヴェルデのビュッフェディナーの割引券だったりと一致していない。唯一共通している点といえば、それが二枚一組綴りとなったペア仕様という作りくらいだろうか。

「出掛けに凛や桜たちから頂いた物です。どうせシロウのことだから、ぶっつけ本番ではエスコートも満足に出来ないだろう、と……いえ、私は否定いたしましたっ。確かに色々と未熟であったり鈍感であったりするシロウですが、不測の事態にはしっかりと対応できる男子であると!」

「えーと、それ誉められてるの?」

「勿論です」

 だとしたら高い評価に感謝感激痛み入るところではあるが、

 ……その、何も考えてませんでしたっ。

 朴念仁ここに極まれり。

 どうやら骨の髄どころか脳の髄まで鈍感に出来ているらしい、衛宮士郎という人間は。というか、待ち合わせの緊張と高揚で、肝心な事がすっぽり抜けていたようだ。遠坂凛の十八番を奪ううっかりっぷりである。もしや、それを見越してのチケットなのだろうか。

 女衆の凄さとありがたさを感じる反面、少し恐怖を覚えたりもする。

「ま、まあ、折角みんなが用意してくれたチケットなんだし、ありがたく使わせてもらおう。そのお礼に、帰りには土産か何かを買ってくとしてさ」

「そうですね。では、二人でお土産になりそうなものも見て回るということで――」

 自然とデートの形が決まっていく。

 それが何だかこそばゆくも嬉しく感じるのは、まだまだセイバーとのデートに慣れていないからだろうか。何度と無く二人で出掛けはしたものの、この初々しい中学生みたいな感覚だけはどうにもならないような気がする。

 胸を緊張で高鳴らせながら、セイバーの手を握った。

 おずおずと、か細い指がこちらの五指を握り返す。そのおっかなびっくりという感じが、普段のセイバーらしかぬようでいて、どこかセイバーという女の子らしくも思えてしまう。

 冷たかった二人の掌が、たちどころに温かさを取り戻してゆく。

 

 ……さて、

 

「まずは何処に行こうか――?」

 

 

■新刊に続きます■


 

 

 

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