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■Information ・コミックマーケット81お疲れ様でした ・新刊は例年よりも多く刷りましたが、それでも八割近くを頒布出来、委託するにも中途半端といった具合。 イラストや漫画でご活躍頂いたいずみやさんと、来て頂いた皆様の尽力のおかげです。 本当にありがとうございました。また、今年も「まほよ」を初めとした作品で盛り上がっていこうと思います。
・THE INTERVIEWS[ザ・インタビューズ]始めてます。 ・「寸劇屋の中の人」という題名で、皆様のご質問に答えております。 ・真面目な質問がほとんどですが、ネタ系のご質問でも一生懸命答えますので。
2012/05/17 寸劇:225
今回は「魔法使いの夜」の寸劇となります。 ネタバレ満載ですので、プレイ後に読んでいただけることをご推奨いたします。
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学校からの帰り道、草十郎は物珍しい人影を見つけた。 頭の先からつま先まで真っ黒な出で立ちに身を包んだ姿は、合田教会が近いこの界隈では珍しくも無いのだが、よく見かける神父やシスターたちとは違い、その人物が纏う黒の色には気品と言うべき艶やかさが存在している。 ただその場に在るだけで、周囲の格調を一つも二つも跳ね上げるような。息を呑む美しさと、凛とした雰囲気を兼ね備えた人物――黒髪黒目、礼園女学院の漆黒の制服に身を包んだ、久遠寺有珠その人であった。 周囲からの目を惹く彼女の容姿は、逆に道行く人々を寄せ付けぬ結界となっている。その分、好奇の視線は二割三割増しといったところなのだが、それを気にするような少女ではない。 そして。 草十郎もまた、そんな周囲の視線を気にするような少年ではなかった。 そもそも有珠の美貌を前にして二の足を踏むような間柄でもないのだ。 「やあ有珠。奇遇だね、こんな場所で会うなんて。学校の帰りかい?」 「ええ。静希君も?」 短い返答と一瞥。 冷たくも思える態度だったが、草十郎にはそれで十分だったらしい。うん、と首肯して。 「バイトも無いから夕食の買出しも兼ねて」 「そう」 またも短い返事。 有珠の手には駅前の紅茶専門店の紙袋が下げられている。新しい茶葉でも購入したのだろう。 いつも姿を見せぬ帰り道で鉢合わせたのは、そういう偶然によるものらしい。 「――――」 おりしも、あたりを夕闇が被い始める刻限だ。 街並みに明かりが灯り始め、宵の空に浮かびかけていた星の輝きをかき消してゆく。それに取って代わる眩いネオンライトはさながら偽物の星々といったところか。 しかし小洒落たその景色は、寄り道がてらの散歩を少しでもすれば、たとえ恋人同士でなくともそういう気分を味わえるに違いない。少なくとも、そう錯覚してもおかしくない美しさがある。 が。 「蒼崎もお腹を空かせてるかもしれないし、早く帰ろうか」 「そうね。それがいいわ」 この二人。そんな雰囲気を微塵も味わおうともせず、さっさと帰路へと足を向けるのであった。 通い慣れた道を彩る輝きは、草十郎と有珠の足取りを止めるには至らない。それよりも今晩の夕食の方が気になる。そんな様子だ。 周囲の視線は相変わらず。 しかし、それを受け止める二人も相変わらずだった。有珠は慣れた風で気にも留めていないし、草十郎も草十郎で奇跡的な無頓着を発揮している。彼の方は、案外、都会とはこういうものか、などと納得しているのかもしれない。 きらびやかな世界から背を向け、遠ざかろうとした時―― ふと、草十郎が天を仰いだ。 「む……」 うっすらと藍色がかかった空が西日の橙を侵食している。ぽつぽつと輝きの強い星が自己を主張しているのを視界に納めるが、彼が気にかけているのはそこではない。 草十郎は傾けた首を戻すと、真面目な顔を有珠へと向けて、 「ちょっといいかな、有珠?」 「何かしら」 「うん。有珠はこの後、何か用事とかあるのか? 可及的速やかに屋敷でやらなきゃいけない事があるとか」 「……別に無いけれど。出来れば早く帰りたいとは思っているわ」 その返答に草十郎が軽く目を伏せる。 差し込んだ夕日と相まって、有珠から見ても眩さを感じさせる表情だった。だが当の本人である少年はそれを知り得ない。 ほどなくして、彼は再び切り出した。
――いきなり有珠の手を掴むという不意打ちを交えながら、
「よし。それじゃあこっちだ」 「――――、ふぇ?」 思わず、間の抜けた可愛らしい声。 それに微笑むこともせず、草十郎はぐいぐいと有珠を引っ張って雑踏の中へ踵を返していく。予想もしていなかった方向転換に反応を遅らせた少女は、なされるがままに少年の足跡をなぞることしか出来ない。 やがて小走りになった二人がたどり着いたのは、街の一角に店を構えたテナント式の喫茶店。 勝手知ったる我が家のように草十郎は店内へと入っていく。相変わらず手は握られたままなので、有珠もそれに従うしかない。だが、視線だけはしっかりとしたジト目でもって「いったいこれはどういう了見なのか、当然のことだけど納得のいく説明をしてくれるのでしょうね、静希君?」とばかりに自己を主張している。 「――――」 「怒っているのかい、有珠?」 しかし、この素直すぎる朴念仁には、内心の機微を察する能力というものが致命的なまでに欠けていた。 有珠は溜息を小さく零しながら、ジト目に込められていた言葉を改めて口にする。すると草十郎は「なんだそんなことか」なんて、この場にいた相手が青子だったら発狂しそうなセリフを言いながらも、その答えを告げぬまま窓の外へと目をやった。 「静希く――」 抗議の声を上げようとした、その時。
ざあ――、と。
橙色に染まっていた街並みが、激しい通り雨に見舞われた。 それを目の当たりにして、ようやく有珠は草十郎の意図を察する。というか、その光景を見ない限り分かる訳が無い。 「良かった。ギリギリセーフだ」 「……どうして分かったの、雨が降るって」 「ん。空を見ていたら何となく、雲の流れとか、風の感じとかで。山にいた頃はもっと早く察知できたりしたんだけど」 申し訳無さそうな顔をしているのは、この喫茶店まで走らせてしまったことへの申し訳なさからなのだろうか。 「そうならそうと説明してくれれば……ああ、そうしていたら間に合わなかったのね」 「ああ。もし急ぎの用件があるなら、雨の中を走るしか無かったけど」 「静希君の判断は間違って無かったわ。そうね、今日は傘も持っていなかったし」 「通り雨だから、少しすれば晴れると思う」 彼がそう言うのなら、まず間違いは無いのだろう。 店内は自分達と同じような雨宿り目当ての客でいっぱいになっている訳でもなく、かといって閑散という訳でもない客入りだった。とりあえず、座席には困らなくても済みそう。 ウェイトレスに案内されるがままに奥のテーブルへ。 向かい合って座る二人にメニューが手渡された。それを受け取る草十郎の仕草はやけに手馴れている。田舎者と馬鹿にしているワケではないのだが、こういう場所に通いなれた彼の姿というのが、有珠にはいまいちイメージし難いのだ。 「このお店によく来るの?」 「そうだね。頻繁にって程でもないけれど、割と顔を出している方じゃないかな」 「――ふうん」 意外な返答に少しだけ驚く。 少しだけこの喫茶店に興味が湧いてきた。彼が行き付けになるほどの魅力とは何なのだろう。よほど味が素晴らしいのか。それとも高水準のサービスが行き届いているのか。 若干の期待を含めながら思考していると――ふと、有珠の耳に甲高い声が飛び込んできた。 それは、どこか聞き慣れた響きでもあり。
「きゃー! 草十郎くん、こんな雨なのに来てくれたんだー! やだもう嬉しいっ! もしかしてもしかしなくても、おねーさん目当て、で、……」
従業員用のエプロンを着けた無駄に鬱陶しい事この上ない長髪の女性は、言うまでも無く周瀬律架その人であった。笑顔を満開に咲かせながら近寄ってきた彼女は、有珠の存在に気が付くと、 「おや、おやおやおやおや――? いつもお一人様の草十郎くんがアッちゃんを連れて来ているってことは……、はっ――! もしや! もしかしてもしかしなくてもっ!」 「違います」 「いやいや皆まで言うな!! そうかぁー。そりゃそうだよねー、二人とも若いとはいえ、もう立派な年頃になるもんねえー。うん、うんうん……!」 「…………」 何やら一人勝手に納得して頷きながら、 「アッちゃんもついに春が来たのねっ! おねーさん、何だか気分が良くなってきたから、二人にスペシャルメニューをご馳走しちゃう! もちろん奢りだから安心して! ささささ、奥の人目に付かない秘めやかな御席へどぞどぞー」 完全に律架のペースと知りつつも、あえて二人は誘われるがままにテーブルへと向かう。本来ならばスルーを決め込むのが対処としては一番なのだけれど、無視をしたら無視をしたで、このゴキゲン鳥が余計に厄介な事態を巻き起こすのは目に見えていたからだ。
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「へぇー。それで二人だけで夕食を済ませてきたんだ、夕食が出来るのをずっと一人で待っていた私を、頭の中から、キレイさっぱり忘れ去ったまま――」 帰宅した二人を待ち構えていたのは、微笑みを浮かべる蒼崎青子だった。 同じスマイルでも、先ほどまで目にしていた律架のものとはベクトルが真逆の方を向いている。 「すまなかった、蒼崎」 「あら? 別にアンタがそうやって謝る必要は無いと思うけれど」 「いや、その、せめて電話で遅れる旨を伝えておくべきだった」 「そうね。けど、私だって当番のアンタを待たずに、自分の分の夕食だけ作っちゃったし。その点に関しては、お相子ってトコじゃないかしら?」 確かに青子の言っている事は正論だ。正論だからこそ、草十郎を苦しげに呻かせる。 「それなら、どうして蒼崎は怒っているんだ?」 「べっつにぃー、私は最初から怒ってなんかいませんけどぉー」 「…………」 ここまで露骨にされれば、さすがの草十郎も嘘だと気付く。 案外、朴念仁の彼に気付かせるため、わざと大袈裟に振舞ったのかもしれない。 しかし。 「ほら、怒ってるじゃないか」 「――――」 気付いたからといって、それに配慮する機微を発揮できるかどうかは別なのである。ここ最近は空気を読めるようになったとはいえ、まだまだ草十郎が現代社会に馴染むのは時間がかかりそうだ。 それを青子も十分に心得ているからか、ぐっと言葉を飲み込んで無言を貫く。怒っていない。何一つ怒ってなどいない。 ただ、 『シャバ僧はまだまだッスねー。あれは、単にシャバ僧とアリスさんが学校帰りに二人きりでお茶してたのが面白くないだけッスから! ジブンもマイ天使のアリスさんが喫茶店デートで独り占めされてると思うと、SAN値ガリガリ削れて発狂寸前って感じッスけど、青子さんも怒ってるんじゃなくて同じように嫉とぐぷぇっ!?』 全自動妄言スピーカーと化した駒鳥に、問答無用で青子の魔弾が叩き付ける。 弾き飛ばされ、壁という壁を反射するその青い星。さながらブロック崩しかピンボールの球を思わせる姿であった。 ふん、と青子は明後日の方向へ首を逸らす。 これ以上は何も聞くな、という意思表示のつもりだったのだが、 「そんなに静希君とお茶がしたかったの、青子?」 「一人ぼっちは寂しいもんな」 「違うっ」 きっぱりと青子は否定する。しかし、この絶妙なコンビネーションの天然二人組はこういう場合に限って相手の話を聞いていないもので、 「分かった。それじゃあ、近いうちに蒼崎も誘うようにする」 「大丈夫よ。このくらいで目くじらを立てたりしないから、私は」 「だーかーらー!!」 こうして、その日の夜は更けていって。
とりあえず。 そういう事になった。
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そういう事が、どういう事なのかというと。 「……どーいう事なのよ、コレ」 「いや、そう言われても」 昨夜の公言通り、草十郎は件の喫茶店へと青子を連れてきた。行きつけの店だと伝えると、青子は意外そうに目を見開き、そしてウェイトレスに律架の姿を見つけると、さらにその表情を驚愕へと変化させた。もっとも、それは自堕落を満喫していた相手からしても同じことだろうけれど。 唯一、平然としているのは、この状況の原因ともいえる草十郎だけである。 青子と二人で座席に付き、一つのグラスに二本のストローが刺さった――いわゆる恋人ストローと呼ばれるものが施されたフルーツパンチを目の前に差し出されても尚、いつもの人畜無害そうな顔を崩しもしていない。 デザイングラスへ宝石のように散りばめられた数々の果物ですら、彼のその天然っぷりにどこか上滑りしてしまう。 とりあえず青子は視線を半目にして、 「何なの、この頭の悪いカップルが飲んでいそうなメニュー……あのバカ律架の悪巧み?」 「待て蒼崎、拳をポキポキ鳴らすのは早計過ぎる。いや、確かにこのメニューは律架さんに任されるがままに出されたものだけど、あの雨の日にこれを有珠と二人で飲んだのは事実だ」 「ふうん――、ん……え、ええっ!?」 「うん。不公平にならないように、蒼崎と一緒の今日も同じメニューをお願いしてもらったんだ」 「―――!」 反射的にカウンターを見やると、ヘラヘラ顔の律架がこちらへ向かって手を振っている。 全ての元凶は目の前の朴念仁ではなく、彼女なのだと青子は確信した。だがしかし、さすがに他の客がいる前でその身体を宙に舞わせる訳にもいかない。これでも、ご近所では頼れる優等生の生徒会長として通っているのだ。 そうなってくると、必然として非難の矛先は草十郎に向かってしまうもので、 「……草十郎はコレを出されて何とも思わなかったワケ?」 「そんなことないぞ。奢ってくれてありがたいと律架さんには感謝している」 「そうじゃなくて! もっとこう――」 「?」 小首を傾げる少年を前に、青子は冷静さを取り戻す。そうだ。こいつはこういう奴なのだ。あの遊園地で自分も大恥をかいたではないか。 「ていうか、有珠もコレ食べたの? それマジ?」 「マジだぞ」 などと、マジという言葉の意味も知らぬまま言い返す草十郎。 だが、そんな仔細はどうでもいい。青子に衝撃を与えたのは、有珠が仲睦まじい恋人同士のように、草十郎と二つのストローでフルーツパンチを飲み干したという事実だった。童話に出てくる魔女よりも魔女らしい彼女からは、まず浮かび上がらないほどに俗っぽい光景である。 ……いや、でも……あれでいて、あのコって少女趣味なのよね……。 むしろ、あれ故に、とでも言うべきだろうか。 現代社会においてメルヘンに近い、恋人ストローでジュースを飲み干すという行為。それは逆に言えば夢見る少女の有珠が求めていても何ら不思議なことでは無いのではないか。 「ちなみに。あの子、その時はどんな顔してたの?」 「別に、いつも通りだけど」 「――――」 反射的に青子は口元を押さえる。 いつもの淡々とした無表情で、恋人ストローを啜る有珠の姿が即座に想像できてしまったからだ。草十郎は気付いていないだろうが、おそらく彼女の内心は赤面一歩手前の羞恥心でいっぱいだったに違いない。 それでも。 平静を気取り続けた有珠のいじらしさ。 そのコトを思うと、自然と頬が緩んでしまうのは仕方が無いといえよう。 「……蒼崎も飲まないと」 「へ?」 ふと突っ伏しかけていた顔を上げると、眼前で恋人ストローに口をつけている草十郎。相変わらず何を考えているか分からない真面目顔で。 そこで青子は現状を再認識する。 「え、い、いやいやっ! 私は別にいいってば!」 「最初にあれだけ文句言ってて何を今さら……蒼崎だってコレを食べたくてあんなに怒ってたんじゃないのか?」 「はあ!? 違うし! だだだだ誰がバカップル御用達メニューなんて――って、元凶が何を笑ってるのよ律架!!」 百年の恋も冷めんばかりに吠え立てる青子であるが、幸か不幸か目の前にいる草十郎は、よしよしいつもの蒼崎だ、などと安堵する有様であった。 二人の間にある雰囲気は、テーブルの上にあるメニューのような甘ったるさとは程遠い。 「なんなのよ。まったく、これじゃ私一人が阿呆みたいじゃない……」 諦めとも悟りともとれる言葉。 しかし、それでも青子は親の仇を見るような視線でフルーツパンチを睨み、 「……ねえ。本気でコレを二人で飲むの? やっぱり……」 「そういう物言いは、何だか蒼崎らしくないと思うけど。まあ。その為に連れてきたから、――というか、そもそも俺一人だけだと、さすがにこの量は飲み干しきれない」 「…………」 犬耳でも生えていれば似合いそうな表情で訴えかける草十郎に、青子は軽く息を詰まらせる。自然体でこういう顔をするヤツなのだ、彼という少年は。 うっかり、その不機嫌さの意味を勘違いしてしまいそうになる。 理由は今しがた彼自身が口にしたばかりだというのに。 青子は周囲を見回し、他の客がこちらを注視していないことを確認すると、 「しゃーないわねー。まあ――どうせ律架の奢りなんだし、飲んでおかないと損よね! ほら、ちゃちゃっと飲むわよっ。こんなんに時間かけるワケにはいかないんだから!」 「むう」 「なによその不服そうな顔。わざわざアンタに付き合ってあげてるんでしょーが」 「…………」 何も言い返さず、草十郎はテーブル上で異質な存在感を放つジュースの攻略にかかる。どこか腑に落ちない表情のまま。 その反応は青子としても納得いかないものの、指摘するのが面倒になったのか、それとも自棄になったのか、彼に倣って恋人ストローへと口を付けた。 「――――」 「…………」 しばし。 黙々とした時間が過ぎる。 恋人ストローでジュースを啜る草十郎の表情は、いつもの平静そのものだった。対するこちらもいつも通りの平静を保てている――と思う、多分。 自信は無い。どれだけ自制心を働かせても、顔を近づけて見詰め合うままに同じジュースを飲むという行為は、やはり頬に熱を感じさせてしまうものであるから。こういう時、少年の鈍感さが羨ましくなる青子であった。 もっとも、その表情だけで彼の心情を決め付けることは出来ないのだけれど。 ……でも何か、私だけが損してるみたいじゃないっ……。 「うぐぐぐぐ――」 「目線が近くなっている状態で、そう睨まれるのは落ち着かないんだが」 「――――」 「黙って飲みます」 やっている事は恋人のそれだというのに、何とも色気のない二人であった。 行き場のない怒りと悔しさを持て余す青子と、それを目の当たりにして困る他無い草十郎という二人であるが、傍から見ればこれも恋人同士の仲睦まじい光景になるのだろうか。 そうこうしている間に、フルーツパンチも金魚鉢みたいなグラスの約半分程が飲み干される。 すると。どこからともなく――呼んでもいないのに――現れた律架が心底嬉しそうに、
「ねぇねぇ、アコちゃん今どんな気持ち? 草十郎くんと一緒に恋人ストローでジュース飲んで、しかも今まさに私が追い討ちとして甘々でラブーいパフェとか持ってきたけれど! ねぇ、今どんな気持ち? ねぇねぇってばぁー♪」
キャー、などという嬌声を上げ、冷やかし混じりに二人を恋人扱い。 他の客がいるので手も足も出せない青子へ、ここぞとばかりに無双の限りを尽くさんとしている。 一方の青子は、歯軋りするようにストローを噛み締めていた――かと思えば、そうでもなく。爽やかな炭酸飲料のような笑顔で律架を迎え入れ、 「ちょっと後で裏路地までね? 逃げたりしたら、どうなるか解ってると思うけど……解ってないなら物理的に解らせてあげるから。解ってても解らせるけれど」 ギャー、と悲鳴に変わった声が響き渡る。 行き過ぎた刹那主義の末路としては残念ではなく当然と言ったところか。 溜息をつきながら青子が視線を前へと戻すと、いつの間にか草十郎の頬を強張らせていた険が消えおり、 「うん。その方が蒼崎らしい」 「どーゆーコトよ。それ」 あんまりな言葉にジト目を向けながらも、彼の浮かべた微笑みにまんざらでもない青子であった。
■おしまい ・80年代でも恋人ストローって都市伝説とか古い恋人の慣習みたいな扱いなのだろうか。 ・あ、型月Fes当選しましたので楽しんできます。 ・今回もpixiv小説に掲載してみました。 >>http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1064183 一行感想板 禁無断転載 Mail:sfmww962@msn.com
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