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  SUNGEKIYA-At random

 

 

 ■Information 


  ・ 2014/12/16 : 冬コミ情報を更新しました!

 

■10YearsAfter(C87新刊)

※告知ページできました、詳細・サンプルは上バナーからどうぞ。

・コミックマーケット87当選しました。スペースは3日目 西し11-a「寸劇屋」になります。

・夏コミ落ちたので参加は一年ぶりになりますが、新刊はFate十周年を記念して、士郎とセイバーの

 十年後を書いたアフター物な話を仕上げました。十年前、Fateが好きだった人、十年を経てもなお

 Fateが好きな人にも楽しめるような作品を目指しました。是非とも堪能していただければ幸いです。

・現状では委託の予定はありませんが、若干数余りましたらまた委託販売を考えたいと思います

 ので、その際はよろしくお願いいたします。

・サンプル(サイト)  >http://sungekiya-c87.tumblr.com/sample

・サンプル(pixiv小説)>http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4668378

 

 

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2014/12/16


寸劇:239

 

 十二月も二十日を過ぎ、いよいよ年末に向けての慌しさが増すという時期。衛宮士郎は世間の喧騒とは別に、ゆったりとした時間を過ごしていた。新都や商店街へ足を運べば、近付いてきたクリスマスに向けて激しい商戦が繰り広げられているだろうが、ここまではそういった浮き足立つ空気は届いてこない。
 代わりに聞こえてくるのは、厳粛なる音色だ。
 歌を先導する独特の響きはパイプオルガンのそれであり、視線を向けた先にある言峰教会から。そして、清らかな歌声がそれに続く。

 ――Silent night, holy night.
 ――All is calm, all is bright.

 空を仰ぐ。星が光るにはまだ早い時間帯だが、天気予報は当分の晴れ模様を伝えていた。ホワイトクリスマス、とはいかないまでも、聖夜は天候に恵まれそうだ。

 ――Round yon Virgin, Mother and Child.

 聖歌を唄っているのは地元有志の少年少女合唱団であろう。教会のボランティア活動の一環としてカレンが指導しており、各地の幼稚園や保育園に出向いて合唱を披露するという話だ。
 その話を本人から伺った時、遠坂やバゼットなんかは「またまたご冗談を、ははは」などと実に言い表すのに困る顔をしていたが、士郎としては別におかしな話でも無いと思うし、むしろ尊敬すべきことだと思う。地域へのふれあいと貢献、いいじゃないか。
 それは彼だけでなく、その傍らの少女もまた同意見であった。

 ――Holy infant so tender and mild,
 ――Sleep in heavenly peace,
 ――Sleep in heavenly peace.

「美しい歌声でしたね、シロウ。当日は駅前での街頭コンサートに参加するそうですよ?」
「へえ、そりゃ初耳だ。どっから知ったんだ? ……ああ、あのサッカーやってた子たちから」
 少女――セイバーは歌声に耳を傾けながら、事の次第を話してくれた。
 晴れ渡っているとはいえ、真冬の寒空の下、ましてや普段から人の入りが多いとは言い難い教会の広場は、士郎たち二人以外誰もおらず、閑散とした風景を展開している。
「そっか。知り合いもいるんだったら、当日は一緒に見に行ってみようか? 練習だけ聞いておいて、本番を聞かないのもあれだしな」
「そうですね、是非そうさせてもらいましょう。皆もきっと喜ぶと思います」
 肯定の返事を受け取り、ふと思い至る。
「―――――」
 ……う、うわっ。いつの間にかクリスマスデートの約束取り付けてますよ俺! しかもオーケーもらってる!
 すごい。何か俺スゴい。これじゃまるでイケメンかチャラ男みたいじゃないですか。いやセイバーは、そんな軽い尻軽男やら金ぴかやらに断じてやるわけにはいかないけれど、それが俺だった場合どうなんだろう。ナンパなチャラ坊な自分は想像出来ないけれど、セイバーに釣り合う程度には真面目でいたいなあ……って何考えているんだ俺は、まあ今日のところはとりあえず「やったよ! 切嗣爺さん!」と心の中で固く夜空に語りかけておくことにしよう。
「――シロウ、どうしたのですか。急に考え込んだりして?」
「え? あ、ああっ……ええと、そのな……」
 素直に頷いてこちらの言葉を待つセイバー。
 可愛らしく整った真顔を素直に向けてくる姿は、凛々しい顔立ちの子犬を見ているような気分になる。
 しかし、ほんわかしている余裕などない。先の思考の垂れ流しを言葉になど出来ようものか。
 とりあえず、もったいぶるようにベンチに背を預け、時間を少しでも稼ぐ。
「まあ大したこと考えていたわけじゃないんだけれど――」
 セイバーが興味津々とこちらを窺う。
 ベンチは二人掛けというほど小さくはなかったが、かといって距離を取って座る必要も無い。加えて真冬の寒空の真下、風通しの良い広場の一角、必然的に、肌を寄せ合うほど肩を並べて座っている俺たちだった。
 密着するほどの距離を改めて実感する。
 顔から湯気が吹き出たような気がした。十二月だから、きっと真っ白な蒸気みたいになっているかもしれない。うわそんな顔をセイバーに見られてたと思うともっと恥ずかしいっ、何この悪循環!
 幸いなことに、他には広場に誰もいなかったが、それでも恥ずかしいことには変わりない。
 ……なんだそりゃ。中学生でもあるまい。
 でも、と士郎は考えを繋げる。セイバー可愛いから仕方が無いよな。
「?」
 さて、どう答えたものか。
 いっそのこと、このまま誤魔化してしまおうか。
 そう思ってた矢先、教会から再び合唱団の歌声が届いてくるのを聞き――
「そうだ――その、セイバーって歌とか唄う?」
「うっ、うた……ですか?」
「そうそう。ほら丁度カレンとこで歌ってるだろ。ウチでセイバーが唄ってるような姿とか見たことないしさ。けれど一度や二度くらいはあるだろ?」
 言われて。
 セイバーは面食らったまま押し黙ってしまった。
「そのようなこと……急に言われましても困ります」
「まあ、俺も無理させようって気は無いさ。ただちょっと気になっただけだから」
 きっかけは咄嗟の言い訳だったが、セイバーの歌声を一度でいいから聞いてみたい、というのは紛れも無い士郎の本心だった。普段、話す声ですら凛としていて涼やかなのだ。彼女が歌を紡げば、果たしてどのような音色が響くのだろうか。
 興味は尽きない。
 けれど、決してそれを無理に頼むつもりはなかった。
「悪ぃ、変なこと聞いちまって」
「いえ。そのようなことはありません」
 ……でも困るって言ってた。
 さすがに、それを口に出すほど阿呆ではない。セイバーの揚げ足を取るために謝ったわけではないのだ。ただ、一言だけでも言っておかないと、彼女の気持ちに対して不義理をしている、そんな気がしてならなかった。きっと凛あたりに言わせれば「士郎って本っ当ーに不器用ねー」というところか、実際そういうことなのだろう。
 凍て付いた風が静かに頬を打つ。
 コートを深く羽織りなおそうと、袖口に指先を引っ掛けたところで、

「――Silent night, holy night.
 ――All is calm, all is bright.」

 不意の。通り抜けていった風よりも軽やかな歌声に、自分の耳を疑った。
「セ――、………」
 呼びかけ、止める。
 ここで声をかければ本当の阿呆になってしまう。
 士郎は身体から力が抜けていくのを感じ、その全部でセイバーの唄う歌を煌く陽射しと共に浴びる。
「――Round yon Virgin, Mother and Child.」
 見よう見まね――この場合は、聞きよう聞きまね、と言うべきか――兎に角、初めて唄うとは思えないほど流暢な歌詞の流れに、士郎は少なからず驚きを感じていた。
 その歌声は、想像していた通り、美しい。
 いや、想像とはまるっきり違っていたというか、むしろその歌声は想像以上だった。まるでその歌声そのものが、未だ見たことも聞いたことも無い楽器で奏でられている音色のようで、聞いていくうちに最初に感じていた驚きが安らぎに変わっていく。
 そういうところが、何だかセイバーらしいな、と思う。
「――Holy infant so tender and mild,
 ――Sleep in heavenly peace,
 ――Sleep in heavenly peace. 」
 真正面の広場を眺めたまま、歌声に耳を傾ける。
 だが、一番が終わり二番に差し掛かったところで、ふと、好奇心が鎌首をもたげた。胸の奥を小さく刺激。いったいセイバーはどんな顔をして唄っているんだろう。気になる。彼女のその姿を、一目だけでいいからこの眸に焼き付けておきたい。
 誘われるがまま、士郎は視線を広場からすぐ隣の少女へ。
「――ぅあ」
 言葉を失いかける。
 正面、セイバーがいる。予想通り聖歌を唄う姿があったが、同時に予想とは違った光景がこちらの視界一杯に広がっていた。
 彼女は、顔を士郎の方に向けて唄っていた。
 てっきり自分と同じように広場の方を向いているとばかり思っていた。横向きになっているのは、こちらに聞き易いようにしてくれたからなのか、それとも、ただ単に歌声が広がることを恥ずかしがってのことなのか。どちらの理由だったとしてもセイバーらしい。
「――――」
 最早、歌詞は全て終わっている。
 それも厭わぬ、とばかりにセイバーは声を響かす。
 真正面。祈るように両の掌を握り締めた彼女は、眸を閉じて少し上向きに顎を傾げる。
 美しい、と素直に思う一方、可愛い、とも思う。
 一致しそうで一致しない、矛盾しそうで矛盾しない、そんな感想をどうしても彼女からは抱いてしまう。その凛々しさから、目を見張るような清廉さを感じることもあるのだが、その清廉さが段々と一生懸命物事に取り組んでいる姿に見えて、セイバーみたいな可愛い女の子が何かに対し生真面目に打ち込んでいると思うと――一転、凛々しいはずの彼女が微笑ましく見えてくる。
 そんな時“ああ、やっぱりセイバーは女の子なんだなぁ”などと、当たり前の事を改めて実感するのだ。
「……うん、キレイだ」
「――っ、―――」
 顔を赤くして照れながらも、気分を良くしたのか、彼女は再び喉を震わせた。
 透き通るような真冬の青空を天に、士郎は午睡を噛み締めるようにゆったりとした気分でセイバーの歌に心を預ける。
 音色の高低、強弱に合わせて小ぶりの唇が小さく動く。すぐ近くにいるこちらの顔に、歌を乗せた吐息がかかる。少しだけ二人の前髪が揺れた。それは微かに温かく、雪を思わせる真白の色をしていた。
 ……ああ。
 いっそのこと唇を重ねてしまいたい。
 そう思いながらも、聖歌を謳い上げるセイバーの心地よさに、そうすることが出来ない士郎であった。
 参ったな、と視線を仰がせた。渇いた冬特有の空はやけに透き通っていて、青空がくっきりと映える。
 新都へ、大橋を越えて深山へと――彼女の歌声がどこまでも響いていくのではないか、と思う程に。


■■


 ふと視線を前に戻すと、すぐそこに見知った顔がいた。
 それは教会の主であるカレン・オルテンシアその人であり、修道服姿の彼女は、なぜか小さな旗を手に、聖歌隊の少年少女たちを先導している様子だ。
 ……これは。
 どう考えても嫌な予感しかしない!
「皆、御覧なさい」手を差し出し、告げる。「――これがクリスマス名物バカップルです」
「うわああああ―――っ! 何言ってんですかアンタ―――!?」
 おおおお、と、子供たちから喝采が上がる。
 興味津々。純粋な色の輝きを放っている彼ら彼女らの目はこう語っていた。「色を知る年齢か!」と。
 軽く冬木市の将来を不安にさせる子供たちだった。
「か、カレン!? いきなりどうしたのですかっ」
「いえ……人の教会の前で場を弁えずにイチャイチャと見せ付けてくれるので嫌がらせがしたくなっただけですので、二人はお気になさらずに……」
「少しは歯に衣着せよう、なっ!」
「それでは何ですか――貴方たちは、お互い付き合っていないとでも言うのですか?」
 冷ややかな視線を投げつける、カレン。
 そう言われてしまうと何も言い返せなくなり、士郎もセイバーも口の中に何かを溜め込むようにしながら、隣に視線をやったりやらなかったり。
「……う、うん。まあ、そんなことはないけど……」
「え、ええ……っ。つ、つぅ――、付き合っては、いますとも。……勿論っ」
 そして、ジト目のまま、カレンは掌を叩いて、ぱん、ぱんと渇いた音を鳴らしながら、
「――はーい、これがクリスマス名物のバカップルですよ」
「ちょおおぉ――!!」
 こうして、会話はふりだしに戻る。
 結局、話が終わるまで五回ほどループを繰り返しました。

 

 

■おしまい


・以前の同人誌からサルベージ。十二月なので十二月をネタにした話を。

・今回もpixiv小説に掲載してみました。 >>http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4670882


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