
| 電子配置と軌道 | 軌道の形 | 軌道の諸性質とルール | 軌道を考慮した電子配置 | 化学結合の実態と分子のできる理由 |
これまでの説明から、電子の収容されるところは電子殻と呼ばれ、K,L,M殻…といった種類があるといってきました。
しかしながら、それぞれの電子殻の中にもさらに収容される場所があることがわかっています。イメージするならば
電子殻(k,L,M殻など)をマンションの階数とし、それそれの階にいくつかの部屋があると思ってください。

さて、電子殻マンションは電子の収容定員(入居者数)が決まっています。1階(K殻)ならば2人(電子が2個)、2階(L殻)ならば
8人(電子が8個)…といったように。
上の図のようなマンションだと、定員に見合ったような部屋数になっていないので、ここで一度マンションを改築しましょう。
電子の定員にあったマンションに改築工事をすると下図のようなマンションが出来上がります。

このマンションは階数が上がることに部屋数が増えていきます。なぜなら、電子殻の電子収容数が2,8,18,32…と増えていっ
たように、その定数に対応するためです。
また、気付いたと思いますが、それぞれの部屋は一様ではなくて、部屋タイプがわかれています。実際のマンションでも似た
ようなことがありまよね。
部屋のタイプは、sタイプ、pタイプ、dタイプ,fタイプ…といったものが用意されていて、それぞれ特定の形をしています。また
タイプによって値段(エネルギー)が違います。まさに現実のマンションと同じです。
これから、この「部屋」のことを「軌道」と呼ぶことにします。つまり、電子殻のそれぞれは特定の軌道(orbital)を持っているわ
けです。したがって“電子が電子殻に収容されている”というのは、“電子が電子殻の中の軌道に入っている”と言い換えるこ
とができます。
マンションのそれぞれの階には部屋がある ⇔ 電子殻は軌道をもっている
また、電子がこの軌道(部屋)に入るにはいくつかのルールがあります。まず一番基本的で最も大事なことは、
☆1つの軌道(部屋)には、最高2個の電子が入ることができる
ということです。
現実にも似たようなことがあります。マンションやアパートの家賃が高いので、2人で住めば各自安く上がるというやつと同じ
です(いわゆる割り勘)。上の図をみてもわかるように、K殻(1階)はs軌道(sタイプの部屋)が1つしかありません。1つの軌道に
は最大2つの電子が入れるので…という原理からK殻の収容電子数が2なのは合点がいくのではないでしょうか。
同様に、L殻、M殻も上図を参考にしてみると、
電子殻 |
軌道 |
合計電子数 |
||
s(1部屋) |
p(3部屋) |
d(5部屋) |
||
L殻 |
1部屋×電子2個 |
3部屋×電子2個 |
- |
2+6=8 |
M殻 |
1部屋×電子2個 |
3部屋×電子2個 |
5部屋×電子2個 |
2+6+10=18 |
上の表の計算結果を見れば、なぜL殻の最大電子収容数が8なのか、なぜM殻では18なのか…ということにスッキリくるの
ではないでしょうか?
軌道はs,p,d,fなどのタイプに分かれていることを説明しましたが、それぞれの軌道には形があります。タイプによって部屋の
形が異なるマンションと同じです。
マンションの部屋は設計士やデザイナーが考えますが、化学の世界では“量子力学”というデザイナーがそれを担当してい
ます。
では、その量子力学デザイナーが設計した軌道の形を見ていくことにしましょう。
〔s軌道〕
一言でいえばs軌道の形は“方向性のない球状”です。下図を見てください

つまり球状の部屋に、電子が存在しているわけです。電子は高速でまわっているので、この球状のどこに電子がいるのかは
わかりません。
〔p軌道〕
p軌道は“亜鈴(アレイ)形”です。いわゆる鉄アレイの形に似ているからです。
p軌道は1つの電子殻に3つ用意されているのがわかっています(上図を参考)が、これはp軌道に“方向性がある”からです。

上図のようにx軸、y軸、z軸方向にp軌道は存在し、それぞれをpx,py,pz軌道と呼んで区別しています。区別はしますが、それ
ぞれの軌道のエネルギー(部屋の値段)は同じです。
〔d軌道〕
d軌道では部屋数が多くなるので、形も複雑になってきます。4つ葉クローバーや…なんとも言い難い形が出現します。
有機化学系では主にs.p軌道しか使わないので、d軌道に関連性はないですが、無機化学ではこの存在を知っておくほうが
良いかもしれません。
もちろん方向性はありますが、かなり複雑でコメントし辛いです、ハイ…。
分子の形を考える上では、この軌道の形がかなり関連してくるので、まずはs軌道とp軌道をしっかりと覚えておいてください
。
これまでは電子殻をK殻、L殻…という言い方をしてきましたが、マンションの例で言ったように電子殻は階数に相当します。
そこで、ここからは階数で呼ぶことにします。
例えば、K殻ならば「1階」に相当するので「1」、あとは段階的になるので、L殻が「2」、M殻が「3」…といった具合になります。
またこのルールを使えば、K殻のs軌道を「1s」と表示することが可能です。
この表示方法で新しく表にまとめると…
電子殻 |
軌 道 |
電子数の計算 |
収容電子数 |
N(4) |
4s 4p 4d 4f | 1×2=2 3×2=6 5×2=10 7×2=14 |
32 |
M(3) |
3s 3p 3d | 1×2=2 3×2=6 5×2=10 |
18 |
L(2) |
2s 2p | 1×2=2 |
8 |
K(1) |
1s | 1×2=2 |
2 |
のようになりますね。ずいぶんと見やすくなります。この表示法に慣れてもらった後は、具体的な軌道の性質と電子が入ると
きのルールを覚えてもらいます。
【Section1】で1つの大事なルールを紹介しましたが、そのほかにもあと2つ重要な規則があります。
(1)積み上げ原理(Aufbau principle)
電子はエネルギーの低い軌道から順番に収容されます。例えるなら家賃の安い部屋から入っていくようなものです。
軌道のエネルギー(部屋の家賃)の順番は、必ずしも電子殻の順番通りではありません。そこで、まずはエネルギーの低い
順番をつくる方法から紹介します。
@まずは下図のような図を自分で書きます。

A次に、その表に左上45°に向いた矢印を書き加えます(下図参考)

B矢印の順番通りに、並べていけば軌道のエネルギーが低い順番になります。これが積み上げの原理です。
1s→2s→2p→3s→3p→4s→3d→4p→5s→…
またBの結果から、最も注意すべきは、3dより4sのほうがエネルギーが低いことです。つまりM殻のd軌道よりもN殻の
s軌道のほうに電子が優先的に入るということです。この現象が起こるのが、ちょうどK,Ca原子です。Ca原子以降は遷移元
素がはじまるのですが…なぜ遷移になるのかはこの4s→3dが鍵を握っています。このタネあかしは後々にやるとして、エネ
ルギーと軌道のイメージは次の図ようになります。

(2)パウリの排他原理(Pauli exclusion principle)
1つの軌道に入ることのできる電子の数は最大2個までで、同じ軌道に入る場合には、電子は必ずその電子スピンの向きを
逆にして入る(下図)というルールです。

最大2個までということはすでに述べてましたが、電子がスピン(回転運動)していることは初めて聞いたのではないでしょう
か?電子は原子核の周りを回りながら自身も回転しているのです。ちょうど地球が太陽の周りを公転しながら、自転もしてい
る…というのに似ています。とりあえず簡単に知っておけばよいことは、同じ軌道内に同じ向きのスピンをもった電子は
存在しないということです。これがパウリの排他原理です。
また、上図の様子を簡略化したものがよく使われるので、そちらも載せておきます(下図)。

(3)フントの規則(Hunt's rule)
エネルギーの等しい軌道に電子が収容されるときには、それらの軌道がすべて満たされるまで1個ずつ電子が入るというル
ールです。
わかりよくするために、例としてp軌道に3個の電子が入るときのことを考えます。
p軌道に3個の電子が入るときは次のようなケースが考えられます。
a) px軌道に2個、py軌道に1個、pz軌道に0個
b) px軌道に1個、py軌道に1個、pz軌道に1個
という場合です。a)とb)でエネルギーが低くて済むのはb)になります。ちょうど、空き部屋が多いときは、部屋を1人で使うほう
がホッとできる(エネルギーが低い)といった感じです。

前項では3つの重要な規則を見ていきました。すべての原子はこれらの規則に必ず従うことになります。
では、このルールに従った各原子の電子配置を見ていきましょう。
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
|
H |
He |
Li |
Be |
B |
C |
N |
O |
F |
Ne |
|
3d |
||||||||||
4s |
||||||||||
3p |
||||||||||
3s |
||||||||||
2p |
||||||||||
2s |
||||||||||
1s |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
|
Na |
Mg |
Al |
Si |
P |
S |
Cl |
Ar |
K |
Ca |
|
3d |
||||||||||
4s |
||||||||||
3p |
||||||||||
3s |
||||||||||
2p |
||||||||||
2s |
||||||||||
1s |
電子軌道に注目しながら水素分子(H2)を例にして、共有結合のでき方を詳しく見てみましょう。
球状のs軌道に1個の電子を持つ水素原子どうしが接近すると、正電荷を持つ一方の原子核と、負電荷をもつ相手の電子と
の間に静電気力が働くようになります(下図)。

その結果、電子は両方の核によって引きつけられ、全体のエネルギーは安定化します。

ある距離よりも接近すると、今度は原子核の正電荷どうしの反発が起こってエネルギーは不安定化します。この様子を図示
したのが下図ですが、この図で最もエネルギーが低くなるときの距離(r0)が、水素分子におけるH-H間の結合距離にあたり
ます。
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2個の水素原子が接近すると二つの軌道(原子軌道)に重なりが生じます。さらに近づいて水素分子(H2)を形成する距離にな
ると、この球形の原子軌道が1つになるため、新しいH-H軌道が生じます。このように原子軌道どうしが重なることによって
分子軌道がつくられます。

しかしながら、ここで気をつけなければならないのは、2つの原子軌道からは必ず2つの分子軌道が作られるというルールが
存在することです。まずは下の図を見てください。

2つの原子軌道からできる分子軌道は、結合性分子軌道そして反結合性分子軌道と呼ばれる2種類が存在します。結合性
分子軌道では、軌道のエネルギーが安定化しているため(エネルギーが低いため)に原子どうしの結合が形成されています
。つまり共有結合しているわけです。
しかし、もう一方の反結合性分子軌道では、軌道のエネルギーが高くなっているために原子どうしの結合は不安定化し、分
子は形成されません(分子が不安定さに耐え切れず崩壊する)。
そのことを踏まえて、水素分子の分子軌道を考えると下の図のようになります。

水素原子は原子番号が1なので、s軌道に1つ電子を持っています。水素原子がさらに別の水素原子と衝突すると、新たに
2つの分子軌道をつくります。両者の電子は合計2つなので、これらの電子は分子軌道のうち、より安定な結合性軌道にすべ
て入ることになります。反結合性軌道には電子は入りません。したがって、水素原子は2つ結合して安定になれるので、共有
結合により水素分子をつくるのです。これが水素原子が原子のままで自然界に存在しない理由でもあります。
さらに、もう一つヘリウムの例を考えてみましょう。
ヘリウムは原子番号が2なので、s軌道に2つの電子を持っています。これらが衝突し反応が起こると、合計4つの電子は結
合性軌道に2つ、反結合性軌道に2つ入ることになります。反結合性軌道に電子が入ると、分子は不安定になり崩壊します。
つまりこれは、ヘリウムが分子になれないことを意味しています。

ヘリウムは希ガスで、しかも原子のまま存在できる単原子分子と呼ばれる元素でした。なぜそんな芸当ができるのか…そ
の答えが「分子にすると反結合性軌道に電子が入り、分子は崩壊するから」なのです。このように原子が集合して分子にな
ったり、化学結合が生じるという現象は、分子にしたときに結合性軌道に電子が存在し、反結合性軌道には電子がないから
なのです。