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山村暮鳥 詩一覧

『山村暮鳥全集』第1巻、第2巻、第4巻(筑摩書房、1989-90年)による。題名と冒頭を示した。「草稿詩篇」に分類されているものは割愛している。
・なお全集では、暮鳥の詩に見られる仮名遣いの混用(「やう」と「よう」が同じ詩集で混在していたり、「たうもろこし」が「とうもろこし」と書かれているなど)について、「作者の表現意識の現われ」とし、旧仮名に統一するなどの処置を行っていない。例えば「父上のおん手の詩」(『風は草木にささやいた』所収)の冒頭が「さうだ」ではなく「そうだ」になっているのは、上述の理由による。
・一部を除き、旧字体、異字体は新字体に置き換えた。
・フリガナは《》でくくった。管理人の判断で加えた箇所もある。
・「くの字点」は斜体で示した。下線部は傍点つき。


初稿本『三人の処女』(未刊)

汝の声より
春(ゆるくながれる雪解けの)
INITIALに就て(Sは庭の花壇にふりそそぐ烟の如き雨ならず、)
雨と其他
  I 劇場にて(銀鼠《ぎんねず》色はかはたれのいろ。)
  II 夕(わが眼、女のまぶたのさみしさにえ堪へで)
  III 榲■の匂ひ、死(とり散らされし机の上の榲■《まるめろ》より……) ※「■」は「きへん」に孛。
蜥蜴《かなへび》(五郎《ごろ》爺さんは死にました。)
顫律(がた馬車の/赤い喇叭にだまされて)


生物(すべてのものは労苦する――)
黄(この唇のさみしさは)
雪の翌日(煙突からのぼる淡い浅黄のけむりのゆく方《へ》よ……)
五月の詩(やはらかくして幅広き日光を吸ふ)
微風(鉄橋の下をくぐつて柳の河岸《かし》、)
黄い月(おぼろ夜の/水のぬるみに擽《こそぐ》られて)
落日と雲雀(空では雲雀が鳴いてゐる。)
彼方より(かなたより、鐘のひびきの淡青き「滅び」はひかり、)
午睡(正午《まひる》過ぎたり……窓の外、)
猫(夏の日中《ひなか》を猫がゆく。)
記憶(ひとり、ただ独り/真昼、)
三味線と雨と蟋蟀(ふり灑《そそ》ぐ夜の雨、)
夏の歌(白壁の昼の/ひかりに)

LA BONNE CHANSON
LA BONNE CHANSON
  I 影(葬送《とむらひ》の鉦《かね》が鳴ります。)
  II LONGING(黒光りの線が一条《ひとすぢ》、)
  III 睡眠の時(月光の銀が樹立《こだち》のうへに散り、)
  IV 別離(この恋には百日紅《さるすべり》も咲きますまい。)

噴水
猫と霊魂(われは女の唇と等しく、)
病女とコスモスと(やはらかに疲れくづれる頬の色、)

凋落の時
私の希望は……(昼が斜になつて来て、)
秋の歌
  I 遠景(見よ、白楊の地にひく影を。)
  II 恋(漣《さざなみ》さへも立たない海……)
  III 蟋蟀(黒襦子のえりの手ざはり、)
  IV 秋の歌(――暗くなつた。/性急《きぜは》しい風がふく。)
  V 水色の暗示(空の正午《まひる》に月をみる時。)

鸚哥小曲
印象
  I 途上所見(汽車みちを/ゆく年増《としま》、)
  II 朝(日本橋。/朝の電車のガラス戸に)
  III 鶏頭(踏切の/旗ふり娘、恥かしや。)
  IV 反抗(ちりん、りん、りん鳴る鈴《べる》の)
  V とんぼ(黒い服着て辻に立つ、)
仙人掌《しやぼてん》の花(梨の樹のかげにかくれた、なつかしい寡婦《やもめ》をおもふ。)
海岸にて(巌《いは》の上に、女が赤い紐をわすれた。)
罪(人形の母様の)
風物(ペンキ家《や》の前の日向葵《ひまはり》。/黄金色《きんいろ》のその大輪は/女の背丈《たけ》より、/さらにさらに高かつた。) ※「日向葵」は原文ママ。
月見草(夢になく花、/月見草、)
低唱(美しい物が砕ける……)

感触と写生
感触と写生(十月。/街《ちまた》は家毎に霧の淡さよ、)
街上(午後の窓。/其処に愛嬌をふりまく)
蠅(うれはしい空の模様、)
月の出(河岸《かし》の/柳に、/月が出た。)
病床のS――のためとして(鉛のごとくに重く、)
ひなげし(虞美人草《ひなげし》のはかなさは)
午後(少年が二人、/短艇《ヨツト》に三角形の軽き帆をあげ、)
雨(鞭つやうな雨がふる。)
秋意(洋館のしづかな庭のコスモスが)
河岸(河岸《かし》の二階の障子に映つた女のかげ画!)
冬と春(陽炎《かげらふ》が、かうして揺れる。)
金雀花(わが罅多き脳盤はけむりの如く)
悲しき賜物
  I やつこ凧(ても麗《うらら》かなはるの空、)
  II 六月(赤き夕日は窓にすべり、)
  III 南風(夏は彼女のながく垂れた髪に流れ、)
  IV 市街の白楊(たそがれ近く、/まだ灯《ひ》のともらぬ)
  V 秋の庭園(庭に射すつかれた夕日の肌触り、)
  VI 冬(BULLよ。/汝の声は将に入らんとする落日を黄に、)
  VII 断章(暗くなるのを/私は、螽斯《こほろぎ》の音《ね》に知る。)
  VIII 放浪の時(濁りながらも、水はしづかに流れるものを……)

えぴろぐ
祈祷(憐恤《あはれみ》ふかき眼をもつて、我が、嫉妬につかれしアルテミスよ!)

『三人の処女』新声社、1913年

SAGESSE
 I 創造の悲哀

独唱(かはたれの/そらの眺望《ながめ》の)
黒き猫(つくづくと芝生は悩み、)
河岸(いりひの疲れ……)
心(稗《ひえ》をぬかずば農人よ)
とかげ(走る蜥蜴《とかげ》の/紫と金……夢のILLUSI榲ON.)
沈思と榲■《まるめろ》(かろくとぢたる眼瞼《まぶた》よ、) ※「■」は「きへん」に孛。
沼(やまのうへにふるきぬまあり、)
IDEAL(空よ、時雨《しぐれ》のつかれに)

 II 性欲と霊智
冬の辞(かはたれのどよめきが生む)
孤独と執着(われは、その壁の色を)
途上所見(うす靄のなやみの)
冬(わがかなしみは故もなし。)
眺望(わが夢は/かきはりの昼のごとし、)

 III 声
人生(榲■《まるめろ》は霊的に微温し、) ※「■」は「きへん」に孛。
勤行夜牀章(Gよ、自鳴鐘《とけい》は六を打つた。)
猫(罪は無けれど猫、)
BEAUTY(感電した空の沈黙、)
愛(憂鬱よ、その美しさに自《おのづか》ら惑ふ、)
力(われは力なり。)


明石町のシヅヱ様に(わが美しき感覚は)
光(びんつけ油の匂ひ、)

ほろびゆくもの
えぴそおど(ぶすぶすと希望《のぞみ》のほめき、)
かほ(としよりのかほをみるは)
騒擾(その曲線を見よ、)
AT HER GRAVE(樹の上の/鴉《からす》、鳴かず、)
冬の歌(ふゆのひのなごりの)
雪(ぺらぺらと/枯草は小さいうれしさに燃え、)
春(ゆるく流れる雪解けの)
水辺にて
  I 水かげろふの歌(雲を見たまへ。/あはれ、心のかげひなたを)
  II 譬喩(ころころ柳、猫柳……)
三人の処女(指をつたふてびおろんに流れよる)

理性の廃園
ECSTASY(三味線は、憎《にくら》し、)
墓碑に(雛罌粟《ひなげし》の/さくをも待たで、)
氈《かも》の上の哀歌(真白き君が蹠《あなうら》に)
SONATA(彩《いろど》れる夢の悲しさよ。)
SILHOUETTES(わが霊の如き、緑玉よ)
悲痛を論ず(遠ければ彼方《あちら》の空、)
愛惜と悲哀(月の冷酷、月のなぐさめ、)
夜――夏のRYTHME(ただれたる真夏の光、)
黒いもの(見よ、おそろしい「時」の前兆《しるし》に)
すけつち(まひるの夢をあざける)


小曲(秋の日ざしのしづかなる)
NOCTURN(海の如く/海よりも瞳は青し。)
銘(世に、いやし難きは蟋蟀のかなしみなれ、)
木犀(木犀の花のかをりに咽ぶ……)
蟋蟀其他(ほんにいとしや、/それやこれやも女ゆゑ)
憧憬(例へば尼の、としわかく、)

かげ
L'ETE(はれた蒼穹《そら》より/ふる芳香《におひ》、)
無常と月光(ひなげしの花は悲し。)
影のELEGIE(やはらかさよ、/ふめばくづれる沙《すな》の上、)
桔梗と蜩(にしきゑのうみのいろよりかなしきは)
哀悼(しきりに芳香《におひ》の)
賜物(いとしや、/肌のなめらかなる)
廃園辞(秋草は紫苑《しをん》と芒《すすき》と……)
卓上(ひえびえとこつぷの陰影《かげ》、)
賦(秋の日は瑪瑙の如し、)
雨(昼の殊更、/さらさらと)

風景
風景(蜩《かなかな》は、雨の如し)
午後(いばらのはなのかなしみ……)
秋の日の事実
  I 噴水(――譬喩《たとへ》は、悲し。/秋の日の、)
  II 所現(その眼にとめた/空は余《あまり》に悲しかろ、)
  III 屋根の草(青い心にかがやくものは屋根の草、)
  IV 不可解(ながれ行く――/雲はかなしや――)


『聖三稜玻璃』にんぎよ詩社、1915年

(こゝは天上で/粉雪がふつてゐる……) ※序文。

囈語(窃盗金魚/強盗喇叭)
大宣辞(かみげはりがね/ぷらちなのてをあはせ)
曲線(みなそこの/ひるすぎ)
手(みきはしろがね/ちる葉のきん)
だんす(あらし/あらし/しだれやなぎに光あれ)
図案(みなそこに壺あり)
妄語(びおろんの胴の空間)
烙印(あをぞらに/銀魚をはなち)
愛に就て(瞳《め》は金貨/足あと銀貨)
青空に(青空に/魚ら泳げり。)
À FUTUR(まつてゐるのは誰。) 
楽園(寂光さんさん/泥まみれ豚)
発作(なにかながれる/めをとぢてみよ)
曼陀羅(このみ/きにうれ)
かなしさに(かなしさに/なみだかき垂れ)
岬(岬の光り/岬のしたにむらがる魚ら)
十月(銀魚はつらつ)
印象(むぎのはたけのおそろしさ……)
持戒(草木を/信念すれば)
光(かみのけに/ぞつくり麦穂)
気稟(鴉は/木に眠り)
模様(かくぜん/めぢの外)
銘に(廃園の/一木一草)
くれがた(くれがたのおそろしさ)
さりゆてゑしよん(純銀霜月の/光にびしよ濡れ)
鑿心抄(秋ふかみ/さみしらに)
肉(癩病める冬の夜天)
昼(としよりのゐねむり)
汝に(大空/純銀/船孕み)
燐素(指を切る/飛行機)
午後(さめかけた黄《きいろ》い花かんざしを)
風景(いちめんのなのはな)
誘惑(ほのかなる月の触手)
冬(ふところに電流を仕掛け)
いのり(つりばりぞそらよりたれつ)


『風は草木にささやいた』白日社、1918年

人間の勝利(人間はみな苦んでゐる)

  I
穀物の種子(と或る町の/街角で)
彼等は善い友達である(結氷したやうな冬の空)
父上のおん手の詩(そうだ/父の手は手といふよりも)
或る朝の詩(冬も十二月となれば)
曲つた木(うすぐらい険悪な雲がみえると)
ランプ(野中にさみしい一けん家)
夜の詩(あかんぼを寝かしつける)
遥にこの大都会を感ずる(この麦畑の畦のほそみち)
何処へ行くのか(またしても/ごうと鳴る風)
梢には小鳥の巣がある(なにを言ふのだ)
春(どこかで紙鳶《たこ》のうなりがする)

  II
万物節(雨あがり/しつとりしめり)
種子はさへづる(種子《たね》はさへづる)
或る雨後のあしたの詩(よひとよ細い雨がふり)
十字街の詩(ここは都会の大十字街)
ポプラの詩(すんなりと正しくのび)
風の方向がかはつた(どこからともなく/とんできた一はのつばめ)
翼(よろこびは翼のようなものだ)
針(子どもの寝てゐるかたはらで)
としよつた農夫は斯う言つた(あの頃からみればなにもかもがらりとかはつた)
よい日の詩(どこをみても木木の芽は赤らみ)
朝朝のスープ(其頃の自分はよほど衰弱してゐた)
或る時(よろこびはまづ葱や葉つぱの揺れるところからはじまつて)

  III
其処に何がある(足もとの地面をみつめてかんがへてばかりゐる)
憂鬱な大起重機の詩(ぐつと空中に突きだした)
耳をもつ者に聞かせる詩(これが神の意志だ)
人間に与へる詩(そこに太い根がある)
わすれられてゐるものについて(君達はひつ提げてゐる)
寝てゐる人間について(みろ/何といふ立派な骨格だ)
子どもは泣く(子どもはさかんに泣く)

  IV
人間の午後(まだそこで/わめきうめいてゐるのか)
雨の詩(ひろい街なかをとつとつと)
荷車の詩(日向に一台の荷車がある)
歓楽の詩(ひまはりはぐるぐるめぐる)
海の詩(どんよりとした海の感情)
ザボンの詩(おそろしい嵐の日だ)
此処で人間は大きくなるのだ(とつとつと脈うつ大地)
郊外にて(赭土の瘠せた山ぎはの畑地で)
波だてる麦畑の詩(わたしらを囲繞《とりま》くひろびろとした此の麦畑から)
刈りとられる麦麦の詩(ああ何といふ美しさだ)
都会にての詩(都会はまるで海のやうだ)
大鉞(てうてうときをうてば)
一本のゴールデン・バツト(一本の雑草はわたしをなぐさめる)
記憶について(ぽんぽんとつめでひき)
収穫の時(黄金色に熟れた麦麦)
くだもの(まつ赤なくだもの)

  V
キリストに与へる詩(キリストよ/こんなことはあへてめづらしくもないのだが)
或る淫売婦におくる詩(女よ/おんみは此の世のはてに立つてゐる)
溺死者の妻におくる詩(おんなのかなしみは大きい)
大きな腕の詩(どこにか大きな腕がある)
先駆者の詩(此の道をゆけ/此のおそろしい嵐の道を)

  VI
秋ぐち(さみしい妻子をひきつれて)
此の世界のはじめもこんなであつたか(うすむらさきのもやのはれゆく)
ひとりごと(一日中のはげしい労働によつて)
新聞紙の詩(けふ此頃の新聞紙をみろ)
汽車の詩(信号機《シグナル》がかたりと下りた)
都会の詩(煤烟はうつくしい)
都会の詩(けむりの渦巻く)
握手(どうしたといふのだ)
故郷にかへつた時(これではない/こんなものではない)

  VII
自分はさみしく考へてゐる(ひとびとを喜ばすのは善いことである)
蝗(くるしみはうつくしい)
愛の力(穀物に重い穂首をたれさせる愛のちからは大きい)
人間の神(手に大鍬をつつぱつて)
秋のよろこびの詩(青竹が納屋の天上の梁にしばりつけられると)
草の葉つぱの詩(晩秋の黄金色のひかりを浴びて)
或る風景(みろ/大暴風の蹶ちらした世界を) ※『万物節』所収の「悲壮な風景」と大部分同一。最後が「おお此の蒼空!」
雪ふり虫(いちはやく/こどもはみつけた)
冬近く(お前の目はふかい)
蟋蟀(記憶せよ/あの夜のことを)
或る日の詩(草の葉つぱがゆれてゐる)
或る日の詩(ひとりは寂しい)
記憶の樹木(樹木がすんなりと二本三本)
山(と或るカフヱに飛びこんで)
道(道は自分の前にはない)
初冬の詩(そろそろ都会がうつくしくなる)
路上所見(大道なかをあばれてくる風)
友におくる(友よ/その足の腫物をいたはれ)
悪い風(街角で私は/悪い風に遭つた)
雪の詩(ちらちらと落ちてきた)

  VIII
世界の黎明をみる者におくる詩(鶏の声にめざめた君達だ)
自分はこの黎明を感じてゐる(自分は感じてゐる)
偉大なもの(偉大なものは砲弾ではない)
強者の詩(人間の此上もなきかなしみは)
病める者へ贈物としての詩(林檎より美しいもの)
或る日曜日の詩(雪を純白《まつしろ》にいただいた遠方の山山をみつめてゐると)
朝の詩(しののめのお濠端に立ち)
大風の詩(けふもけふとて/大風は朝からふいた) ※『万物節』所収の「大風の詩」と同一。
農夫の詩(おいらをまつてる/あの山かげへ)
人間の詩(ぼくは人間が好きだ)
妊婦を頌する詩(生みのくるしみ/此のくるしみのために)
妹におくる(枯葉の舌からぞつくりと青い芽をだしてゐるみづくさ)
十字架(十字架のおもさは歯をたて)
鞴祭の詩(自分の意志はあかあかと)
鴉祭の詩(大鴉/藁とぼろとでこしらへた鴉)
貧者の詩(みよ、そのぼろを)
単純な朝餐《あさげ》(スープと麺麭/そして僅かな野菜)

  IX
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる(すつきりとした蒼天)
雨は一粒一粒ものがたる(一日はとつぷりくれて)
麦畑(此のみどり/ああ此のみどり)
朝(雨戸をがらり引きあけると)
人間苦(何方をむいてみても)
わたしたちの小さな畑のこと(すこし強い雨でもふりだすと)
一日のはじめに於て(みろ/太陽はいま世界のはてから上るところだ)
自分達の仕事(自分達の仕事/それは一つの巣をつくるやうなものだ)
消息(はつなつの木木の梢をわたる風だ)
感謝(なんといふはやいことだ)
労働者の詩(ひさしぶりで雨がやんだ)
老漁夫の詩(人間をみた/それを自分は此のとしよつた一人の漁夫にみた)
驟雨の詩(何だらう/あれは/さあさあと)
苦悩者(何をしてきた/何をしてきたかと自分を責める)
朝あけ(朝だ/朝霧の中の畑だ)

  X
生みのくるしみの頌栄(くるしいか/くるしからう)
あかんぼ(暴風《あらし》はさつた)
風景(何がなくてもいい)
疾風の詩(あらゆるものをけちらし)
友におくる詩(何も言ふことはありません)
自分はいまこそ言はう(なんであんなにいそぐのだらう)
歩行(天上で/まづ太陽がそれをみてゐる)
家族(わたしの家は庭一ぱいの雑草だ)
薄暮の祈り(此のすわり/此の静かさよ)

後より来る者におくる(子ども等よ/いまは頭も白髪《しらが》となり)


『梢の巣にて』叢文閣、1921年

ふるさと(枯木が四五本たつてゐるそのあひだから)
自分は光をにぎつてゐる(自分は光をにぎつてゐる)
鉄瓶は蚯蚓のやうにうたつてゐる(うすぐらいでんとうがひとつ)
春(はるがきた/はるがきた)
春(なぎさで網を引いてゐる)
ひるめしどき(麦の穂のかげにかくれた)
じやがいも(夏の日はかんかん照り)
此の道のつきたところで(寂しいほそみち/畑中のみち)
詩人・山村暮鳥氏(自分はいまびやうきで)
海辺にて(美と健康との/偉大な海よ)
山上にて(自分は山上の湖がすきだ)
星(わたしは天《そら》をながめてゐた)
聖母子涅槃像(ごろりと家畜のやうにころがつて)
船にて(暗礁のある/こゝは岬のほとりだ)
万物節(大地はいふ/「わしは拒まない)
大地の子(大地の声にはどつしりとした重みがある)
蟻をみて(赤銅のやうな秋の日のことは) 
鴉にかたる(からりと晴れた朝だ)
あらしを讃へる(あらしだ/あらしだ/たいへんなあらしだ)
一本の木がある(一本の木がある/曲りくねつた木だ)
木(一本すんなりと立つた木がある)
朝(菜つ葉をみよ/あさつゆに)
農夫(なんとなく空は険悪で) ※途中までは『万物節』所収の「ある農夫に就て」と同一。最後の文が「いまもかく」。
かほ(よるもひるもたえず)
地を嗣ぐもの(みちばたであそんでゐた)
おくりもの(どんなところへでも)
ある時(藪の中で/桔槹《はねつるべ》が)
ある時(あんまり風がひどいので)
ある時(ひさしぶりで/雨がやみ)
ある時(わたしはうやうやしく)
ある時(鳶が大きな輪をかいてみせた)
ある時(ぎゆう、ばりばり/おやいゝ音だな)
ある時(ないてゐるのは/きりぎりす)
ある時(一ぴきの/麦藁とんぼをおつかけてきて)
ある時(そらが/屋根の上で)
ある時(おまへはびんぼうだな)
ある時(じめじめと/雨がふるふる)
ある時(こんなに海が荒れてゐるので)
ある時(友はいま遠い北海道からかへつたばかり)
ある時(都会の雑音がきこえる)
断章1(どんなにくるしくつても生きねばならない)
断章2(友よ/断間なくふりかゝるくるしみの中でも)
断章3(おゝ、内なるもの)
断章4(おまへは世の中へでてもつと世間をみて来なければならない)
断章5(愛にもえて/おそろしい獣になるとき)
断章6(人間が悪魔なんだ)
断章7(いのちのあるもの!)
断章8(おゝ神様!/此の目をあけてください)
断章9(神が人間をつくつたか)
断章10(蠅/蠅)
断章11(世界はまつたく)
断章12(自分のそれで釘附けられる)
断章13(虱よ/虱よ)
断章14(怒つた顔のうつくしさ!)
断章15(泣け、なけ/大声をはりあげてなけ)
断章16(風がふくので/そよそよと揺れる草です)
断章17(草木をわたる秋風と)
断章18(竹やぶの椿は火のやうに真赤だ)
断章19(おゝ人間/汝、小さいぞ)
断章20(畔径でぱつたりであつたよぼよぼのとしよりの)
断章21(一本の樹のそばをとほりすぎただけで)
断章22(わしは愛されるのはくるしい)
断章23(打て!/それは自分を強くするばかりだ)
真実に生きようとするもの(妻よ/お前はジアン・フランソワ・ミレーを知つてゐるだらう)
荘厳なる苦悩者の頌栄(神様/神様/けふといふけふこそはおもひきつて)


『万物の世界』(童謡集)真珠書房、1922年

雪(きれいな/きれいな/雪だこと)
昔語り(むかし、むかしの/そのむかし) ※初出時、黒沢若菜の曲譜も掲載。
鼠の唄(ちョろちョろと/でてきた)
雛鶏《ひよこ》のうた(ぴよぴよ/ひよこ)
鶯と雲雀《ひばり》(うぐひす、かごの中)
山径にて (1)(目白が松葉でめをついて)
目白頬白(目白頬白/なかよくあそべ)
鳥刺し(とりさしさん/とりさしさん)
鶸《ひわ》の子(山奥で/ついーん、ついーんと)
藪《やぶ》にて(雨がふつたら/どうしませう)
田圃《たんぼ》にて(たあんき、ぽーんき/たんころりん) ※初出時、本居長世の曲譜も掲載。童謡集『よしきり』に収録。
春(のろいな/のろいな/なのはなの) ※初出時、牛山允の曲譜も掲載。山田耕筰によって編曲された曲譜が童謡集『よしきり』に収録。
鳶《とび》の歌(とんび/ぴいひよろ/輪をかいてみせろ)
天まで(ふうわり/ふうわり/ゴム風船が)
豚の仔(ぶう/ぶう/豚の仔)
動物園にて(鰌《どぜう》もらつたおや鶴は)
石臼の唄(すずめが一は/のきにきて)
おなじく(むかし、むかし/あるとこに)
おや雀(おや雀/おや雀/もう日が暮れる)
牛の角(くろ牛/あめ牛)
天の鳥(むぎのはたけに/巣が一つ)
病める鶏(こッこ、鶏/こッこともいはず)
お庭にて(よちよちとあるいていつて)
森のまひる(めじろ/ピンチロリ)
谺《こだま》(おひるだよう/おひるだよう)
ポチの仔《こ》(納屋《なや》の中から/でてきた)
蜘蛛《くも》の歌(じめじめと/雨がふる、ふる)
雨の歌(雨がふる/雨がふる/さびしい雨滴《あまだれ》でも聴かうか)
雲雀《ひばり》(麦畑《むぎばた》のうへの/あをぞら)
山径にて (2)(雨ふり花がさいてゐる)
蝸牛《かたつむり》の歌(焼けるぞ/こげるぞ)
日盛り(ばつた/ぱたぱた)
午後(とおんぼ/とんぼ)
くさばな(みつけた/みつけた/狐の提灯《ちやうちん》)
おなじく(洋館の窓の/くさばな)
鴉《からす》の歌(からす/からす/はやいな)
朝 (1)(つうばめ/ぺえちやくちや)
朝 (2)(あかちやんぽんぽ)
蝉(わたしの掌《て》には/河がある)
鰹《かつを》釣り(父《とう》よ/おいらも)
海辺にて(浪よ/浪、浪/ここまでおいで)
ある午後(鴉《からす》、鴉/たァかいな)
わたしは見た(わたしはみた/ちらとみた)
葉つぱの踊り(そよかぜに/葉つぱの踊り)
蟻の行列(蟻の行列/ヱツサツサ)
とんぼ(とんぼ/とんぼ/きをつけろ)
おなじく(とんぼ/とんぼ/とまれ)
虫々に(麦つけ/米つけ) ※初出時、牛山允の曲譜も掲載。
とんぼ釣り(草の葉にとまつた/とんぼ)
はねつるべ(おらが背戸《せど》のはねつるべ)
雀(竹やぶの/竹やぶの/雀もやつぱり)
冬(ふゆのこ/かぜのこ)
雪虫(雪虫/雪虫/さーむいな)
雪虫の唄(わたしや雪虫) ※初出時、牛山允の曲譜も掲載。ただし、初出時の題は「雪虫の歌」。
紙鳶《たこ》の唄(さむいさむいかぜがふく)
おなじく(ぐんぐんうなつて)
おなじく(凧《たこ》、凧/あがれ)
風の日のこと(あめやの爺さん/チンカララ/風のふくひも)
雀の子(ちいちく/ちいちく/雀)
毬《まり》うた (1)(小雨《こさめ》ちらちら/傘さしておいで)
おなじく(媼《ば》ッぱさん/どこへ行《ゆ》く)
夕ぐれ(大綿/小わた)
わすれんぼ(小父《をぢ》さん、ほんとに/わすれんぼ)
雪がふつたら(雪がふつたら/雪だるま)
ある時(大寒《おほさむ》/小寒《こさむ》/山から鴉《からす》がないてきた)
ある朝(ピンチン/カラコロ/ピンチロリ)
栗鼠《りす》のうた(大寒《おほさむ》/小《こ》さむ/霰《あられ》がふつてきた)
種子《たね》の唄(どこにおちても俺等《わしら》は生《は》える)
鐘《かね》撞《つ》き爺《ぢい》さん(鐘撞き爺さん/よい爺さん)
森のクリスマス(ほう、ほう、ほう/クリスマス)


『雲』イデア書院、1925年

春の河(たつぷりと/春の河は/ながれてゐるのか)
おなじく(春の、田舎の/大きな河をみるよろこび)
おなじく(たつぷりと/春は/小さな川々まで)
蝶々(ふかい/ふかい/なんともいへず)
おなじく(青空たかく/たかく)
野良道(こちらむけ/娘達)
おなじく(野良道で/農婦と農婦とゆきあつて)
おなじく(そこらに/みそさざいのような)
おなじく(ぽつかりと童子は)
雲(丘の上で/としよりと)
おなじく(おうい雲よ/ゆうゆうと)
ある時(雲もまた自分のようだ)
こども(山には躑躅が/さいてゐるから)
おなじく(おや、こどもの声がする)
おなじく(ぼさぼさの/生籬の上である)
おなじく(千草《ちぐさ》の嘘つきさん)
おなじく(とろとろと瞳々《めゝ》)
おなじく(まづしさのなかで/生ひそだつもの)
おなじく(こどもよ、こどもよ)
おなじく(まんまろく/まんまろく)
おなじく(こどもはいふ/たくさん頭顱《あたま》を)
おなじく(篠竹一本つつたてて)
おなじく(こどもが/なき、なき/かへつてきたよ)
馬(たつぷりと/水をたたへた)
おなじく(馬が水にたつてゐる)
おなじく(だあれもゐない/馬が)
ゆふがた(馬よ/そんなおほきななりをして)
朝顔(瞬間とは/かふもたふといものであらうか)
おなじく(芭蕉はともかくも)
おなじく(まんづ、まんづ/この餓鬼奴《がきめ》はどうしたもんだべ)
驟雨(沼の上を/驟雨がとほる)
おなじく(驟雨は/ぐつしよりとぬらした)
病床の詩(朝である/一つ一つの水玉が)
おなじく(よくよくみると/その瞳《め》の中には)
おなじく(ああ、もつたいなし/もつたいなし/けさもまた粥をいただき)
おなじく(ああ、もつたいなし/もつたいなし/森閑として)
おなじく(ああ、もつたいなし/かうして生きてゐることの)
おなじく(ああ、もつたいなし/もつたいなし/蟋蟀《きりぎりす》よ)
おなじく(ああ、もつたいなし/もつたいなし/かうして)
おなじく(ああ、もつたいなし/もつたいなし/妻よ)
月(ほつかりと/月がでた)
おなじく(脚《あし》もとも/あたまのうへも)
おなじく(一ところ明るいのは)
おなじく(靄深いから/とほいような)
おなじく(竹林の/ふかい夜霧だ)
おなじく(月の光にほけたのか)
おなじく(こしまき一つで)
おなじく(月の夜をしよんぼりと)
おなじく(漁師三人/三体仏)
おなじく(くれがたの庭掃除)
西瓜の詩(農家のまひるは/ひつそりと)
おなじく(座敷のまんなかに)
おなじく(かうして一しよに)
おなじく(どうも不思議で/たまらない)
おなじく(みんな/あつまれ/あつまれ/西瓜をまんなかにして)
おなじく(みんな/あつまれ/あつまれ/そしてぐるりと)
飴売爺(あめうり爺さん/ちんから/ちんから)
おなじく(朝はやくから/ちんから/ちんから)
おなじく(あめうり爺さん/あんたはわたしが)
おなじく(じいつと鉦を聴きながら)
二たび病床にて(わたしが病んで/ねてゐると/木の葉がひらり)
おなじく(わたしが病んで/ねてゐると/蜻蛉《とんぼ》がきてはのぞいてみた)
おなじく(蠅もたくさん)
椎の葉(自分は森に/この一枚の木の葉を)
ある時(どこだらう/蟇《ひき》ででもあるかな)
ほそぼそと(ほそぼそと/松の梢にかかるもの)
こんな老木になつても(こんな老木になつても)
梅(ほのかな/深い宵闇である)
おなじく(おい、そつと/そつと)
おなじく(大竹藪の真昼は)
山径にて(善い季節になつたので)
ある時(まあ、まあ/どこまで深い靄だらう)
ある時(麦の畝々までが)
ある時(うす濁つたけむりではあるが) ※『万物節』所収の「うす濁つたけむり」とほぼ同一。「青天をめがけて」と「けむりにも心があるのか」の間に改行がない。
桜(さくらだといふ/春だといふ)
おなじく(馬鹿にならねば)
お爺さん(満開の桃の小枝を)
ある時(あらしだ/あらしだ/花よ、みんな蝶々にでもなつて)
ある時(自分はきいた/朝霧の中で)
ある時(朝靄の中で/ゆきあつたのは)
ある時(松ばやしのうへは)
朝(なんといふ麗かな朝だらうよ)
藤の花(ながながと藤の花が)
ある時(ぱらぱらと/雨が三粒)
ある時(木蓮の花が/ぽたりとおちた)
ある時(ほのぼのと/どこまで明るい海だらう)
野糞先生(かうもりが一本)
手(しつかりと/にぎつてゐた手を)
ほうほう鳥(やつぱりほんとうの)
まつぼつくり(山のおみやげ/まつぼつくり)
読経(くさつぱらで/野良犬に)
蚊柱(蚊柱よ/蚊柱よ)
ある時(また蜩《ひぐらし》のなく頃となつた)
ある時(松の葉がこぼれてゐる)
ある時(くもの巣に/松の落葉が)
ある時(とうもろこしの花が/つまらなさうにさいてゐる/あはははは)
ある時(宗教などといふものは)
ある時(うつとりと/野糞をたれながら)
ある時(こどもたちを/叱りつけてでもゐるのだらう)
ある時(まづしさを/よろこべ/よろこべ)
ある時(その声でしみじみ)
ある時(まよなか/尿《せうべん》に立つておもつたこと)
ふるさと(淙々として/天《あま》の川がながれてゐる)
いつとしもなく(いつとしもなく/めつきりと)
ある時(沼の真菰の/冬枯れである)
りんご(両手をどんなに/大きく大きく)
赤い林檎(林檎をしみじみみてゐると)
おなじく(ほら、ころがつた)
おなじく(おや、おや/ほんとにころげでた)
おなじく(林檎はどこにおかれても)
おなじく(娘達よ/さあ、にらめつこをしてごらん)
おなじく(くちつけ/くちつけ/林檎をおそれろ)
おなじく(こどもよ/こどもよ/赤い林檎をたべたら)
おなじく(どうしたらこれが憎めるか)
おなじく(林檎はびくともしやしない)
おなじく(ふみつぶされたら)
おなじく(こどもはいふ/赤い林檎のゆめをみたと)
おなじく(りんごあげよう/転がせ)
おなじく(さびしい林檎と/遊んでおやり)
おなじく(林檎といつしよに/ねんねしたからだよ)
店頭にて(おう、おう、おう/ならんだ/ならんだ)
おなじく(銭で売買されるには)
おなじく(いいお天気ですなあ/とまた/しばらくでしたなあ/おや、どこだらう)


『よしきり』(童謡集)イデア書院、1925年

葭切鳥《よしきり》(よしきり/こきり/葭《よし》がゆれても) ※羽田松雄旋律、山田耕筰編曲による曲譜がこの本に収録。
お月さん(お月さん/傘さした)
麦つき(こつとん/こつとん/むぎつきだ)
椿と鶯(しろつばき/べにつばき)
蚯蚓《みゝず》と雛鶏《ひよこ》(蚯蚓を一ぴきみつけて)
港の唄(みなとの/はるのよ)
雀の学校(椿の/椿の/木の下は)
筏《いかだ》乗り(やまの/やまの/おくやまの)
葱《ねぎ》のぼんぼ(葱のぼんぼは/葱の花)
森の機織《はたお》り(森のはたおり/とんからり)
渡船場《とせんば》にて(渡し場のふねは)
蚤《のみ》の兵隊(赤い服着た/槍騎兵《やりきへい》)
渚《なぎさ》(千鳥《ちどり》のあしあと/小さいな) ※梁田貞作曲による曲譜がこの本に収録。
機虫(葉つぱのかげであそんでた)
狐の提灯(狐の提灯/ふうら ふら)
■《かや》釣り草(■《かや》をつりましよ) ※「■」は「巾+廚」。
鎌切虫(かまきり/かんま)
山の雨のうた(ぱらら/ぱら、ぱら/なんの音)
星(すずめの/おやどに/ひがついた)
稲《いね》かけ(いねかけ/ゆツさ ゆさ)
百舌鳥(鵙《もず》や/きいり きり)
笹の葉(笹の葉/さら さら/さみしいな)
ものぐさ鶩《あひる》(ふゆの/ひなたの/かはばたで)
榧《かや》の実(ぽたりと一つおつこつた)
仔馬(ひんひん/おうまの/馬の市/雪どけ/どろみち/馬ばかり)


『月夜の牡丹』紅玉堂書店、1926年

序詩(とろとろと/とろけるように) 

李の花
李の花(ぽつぽつと/また)
ある時(ふなばらを/まつ青にぬりたてられて)
ある時(若布《わかめ》売の/背中に)
ある時(かへるでも/とびこんだのか)
おなじく(まつくらな/ほんとにまつくらな)
ある時(まつ黒い/春の土から)
ある時(穀物の種子はいふ)
ある時(どんよりと/花ぐもりである)
ある時(花もまた/おもふぞんぶん)
ある時(どうせ死ぬなら)
ある時(さくらよ/さくらよ/生きてるうちに)
ある時(満開のさくらを一夜)
花咲爺さん(花咲爺さん/どこにゐる)
ある時(もんぐら、もんぐら)
おなじく(どこかに/みそさざいのような)
おなじく(こそこそと/つれだつて)

月夜の牡丹
蟻(このたくさんの/蟻、蟻、蟻)
ある時(えんとつから/けむりがでてゐる)
月夜の牡丹(ぼたんだ/ぼたんだ/月夜の牡丹だ)
ぼたんの教へ(ぼたん/ぼたん/どこまで)
ある時(ぼたんよ/ぼたんよ/どこまで深い昼だらう)
おなじく(ぼたん/一輪)
おなじく(これは一輪の牡丹である)
とほりあめ(ぼたんには/かかるな)
地震(地震だ/地震だ)
仙人掌をみて(これは/これは/ほんとに田舎娘の)
ある時(なんの花かと/とはれたら)
おなじく(鼻づらをつきだして)
おなじく(遠天の/雲霧なれば)
おなじく(朝、起きてみたら)
おなじく(すくすくと/一心にのびる筍)
おなじく(一本二本三本と)
おなじく(どんな不思議なことか)
むぎかり(百姓夫婦は麦刈り)
ある時(一きは明るい)
おなじく(するすると/野蒜はのびた)

ある時
ある時(あさぎり/あさぎり/あさはやく)
おなじく(わびしさに/触れあふ)
おなじく(たそがれると/それをしつてゐて)
おなじく(自分はきいた/朝霧の中で)
おなじく(ぐつたりと野蒜が一茎)
おなじく(雨ではないよ)
おなじく(あれ、あれ/雀つ子もいつしよで)
ある時(ほのぼのと/靄の朝は)
おなじく(朝釣りは/一尾でいい)
ある時(しののめ/渚に)
おなじく(浪どんど/浪どんど)
おなじく(しつとりと/ぬれた渚)
おなじく(なぎさのすなは)
おなじく(水をのみにきて)
おなじく(一塊りの夕立雲)
おなじく(竹林の上を/さわさわと)
おなじく(野蒜/ひよろひよろ)
おなじく(朝顔のつぼみも/そのふくらみに)
朝顔(あさがほは/口を漱いでみる花だ)
おなじく(一輪の朝顔よ/ここに)
おなじく(一りんの/朝顔に/かすかな呼吸のような風……)
おなじく(朝でもいい/まひるでもいい)
おなじく(ぱら ぱら/ぱら ぱら/わたしのかほへも)
おなじく(あたまのうへは/とつても澄んだ蒼空である)
とんぼ(一ばんぢう/自分は小さな蜻蛉であつた)
ある時(蜻蛉のはうでは)
おなじく(千草はほんとに)
おなじく(千草はなんでも知つてゐる)

月の匂ひ
ある時(蟷螂《かまきり》の子どもが)
とうもろこし畑にて(とうもろこしの花が/つまらなさうにさいてゐる/砂つぽ畠の)
おなじく(まづしい一家族の)
おなじく(森ふかく/きえいる草の)
おなじく(妻よ/こんな朝である)
おなじく(まあ、この蜻蛉は)
落日の頃(蜻蛉よ/機虫よ)
ある時(遠い遠い/むかしの日よ)
おなじく(竹藪のうへに/ぽつかりと月がでた)
おなじく(いい月だ/路傍でたつてゐる石まで)
おなじく(蝉もまた/閑寂をこのむものか)
おなじく(松にも/椎にも)
ある時(ないてゐるのは/松の梢のてつぺんだ)
おなじく(昼だのに/月がでてゐる)
昼(なにはなくとも松風)
ある時(家のまはりを/ぐるぐると)
おなじく(ああ、もつたいなし/もつたいなし/この掌《て》はどちらにあはせたものか)
おなじく(芭蕉よ/あんまり幽かな)
おなじく(大きな沼だ/そのまんなかに)
おなじく(とうちやん/とうちやん)
ある時(木の葉がむしられてゐる)
おなじく(こどもでも/さがしまはつてゐるんぢや)
おなじく(怒るだけおこつてしまつて)
おなじく(静かな晩秋である)
おなじく(おや、いつのまにか/自分のこころも)
おなじく(くさむらで啼く虫々は)
昼(とろとろと/ねむたいのは)

名刺
名刺(おとづれてきたのは/風か)
ある時(遠天の鳶よ/もうそこまできてゐる)
おなじく(ほほづき/ほほづき)
おなじく(鬼灯よ/干柿よ)
おなじく(もすこしだ/もすこしだ)
おなじく(まづしさを/きよくせよ)
おなじく(娘よ/うんと力を入れて)
おなじく(どこの家にも/灯が)
おなじく(路傍のはきだめで)
おなじく(二人で言つて/みべえよ)
おなじく(これはまたあまりに平凡な)
おなじく(おう、なんといふ/瘠せさらぼいた影法師だらう)
おなじく(烏がないてゐる/声を嗄らしてないてゐる)
おなじく(まあ、この大雪)
おなじく(大雪にふさはしい)
おなじく(雀がこどもに/いろはにほへとでも)
おなじく(鯨が汐を/ある晩、たかだかと)
おなじく(鋏に/小さな鈴がついてゐて)
おなじく(あのうみは/だれの海なの)
ある時(糸は一線《ひとすぢ》/ただ、ひとすぢに)
おなじく(燐寸箱のように小さな家だ) ※「ように」ママ。
おなじく(辻の地蔵尊)
おなじく(おや、これはおどろいた)
おなじく(生籬のうへに/ごろんと首が一つ)
読後(手洟はひるな)
ある時(万人を愛すといふか)
おなじく(いつ花をひらき)
おなじく(過ぎさつてしまつた日を)
おなじく(はてしらぬ/蒼空に)

日向の林檎
ある時(いいお天気ですなあ/これは/これは)
おなじく(いいお天気ですなあ/と、またしばらくでしたなあ/たしかに鼻さきだとおもつた)
おなじく(いいお天気ですなあ/とでもいひたげな)
おなじく(ぽつかりと/月がでた/屋根にだれかあがつてゐる)
おなじく(ぽつかりと/月がでた/隣りの屋根にも)
おなじく(小さな赤い粒々である)
おなじく(冬のよふけは/凄いほど静穏だ) ※『土の精神』所収の「雪」と大部分同一。最後は「まるで大きな牡丹でもさいてるようにおもへた」
おなじく(春のよふけは/気味悪いほど静穏《しづか》だ)
くちぶえ(くちぶえを/くちぶえをふいたところで)
ある時(大木の幹をなでつつ)
おなじく(雨は一粒一粒)
おなじく(しみじみと/氷の中でめざめるのは)
おなじく(自分はみた――/遠い)
おなじく(なんでもしつてゐるくせに)
おなじく(たふとさはこの重みにあれ!)
おなじく(おう、これは/これは自分の心などより)
おなじく(林檎のような/さびしがりはあるまい――)
おなじく(こどもは林檎が好きだから)
おなじく(林檎よ/こどもに食べられろ)
おなじく(りんごはいい/ましてや)
おなじく(どれもこれも/一ようにまつ赤であつた)
おなじく(りんごはいい/たべなくつていい)
おなじく(まつ赤な林檎をみてゐると)
おなじく(美しいものは/みんな食べてしまふがいい)
巻末の詩(さて、さて林檎よ)


『土の精神』素人社書屋、1929年

縞鯛の唄(折角釣つてはみたものの)
永遠の子どもに就て(おお お前は/お前はどこにねむつてゐたのか)
郊外小景(とほくとほく/天《そら》のはてにみえる)
朝餉の食卓(ぜいたくのかぎりをつくしたものではないか)
遠いふるさと(遠いふるさとの)
凡人唱誦(はるだ/はるだ/そしてあさだ)
妻と語る(そのぬひばりを針坊主に刺して)
雷雨の時(遠くからごろごろと)
蟹(自分はそのとき一ぴきの蟹であつた)
鶏(朝からの糠雨は)
家常茶飯詩(よあけは/遠い天《そら》のはてより)
虱捕り(虱とはどんなものか)
聖母子図(日あたりで/うれしさうな)
紙鳶(紙鳶はみんな)
一鉢の花(自分は一鉢の花を買つた)
春(と或る洋品店の)
春(はるだ/はるだ/なんといつても)
ある時(ふじ子よ/生きてゐるといふことは)
父に書きおくる(父よ、こんやは節分で)
ゆふがた(ゆふがた/庭さきを掃除してゐると)
鱚に(日あたりに/頭だけずらりと列べ)
自分はようく知つてゐる(自分はようく知つてゐる)
時計(ちろちろと/ランプはうすぐらく)
黒い土(ふかいふかい松林の中に)
雪景(雪/雪はうつくしい)
虹(虹を/一ばんさきにみつけたのは)
星を聴く(頭痛がするからと)
麦畠にて(自分は郊外の)
母(国から母がでかけてきた)
星天に讃す(まいばん、まいばん)
田園風景(石つころを噛み噛み)
庭の一隅(庭のひあたりはいい)
春(酒樽おや樽、おほきいな)
雪について(朝/おきてみたら)
雪景(しとしとと雪のふるなか)
冬(冬のよふけは/凄いほど静穏《しづか》だ) ※『月夜の牡丹』所収の「おなじく(冬のよふけは)」と大部分同一。最後は「なんといつてもこの寒気だもの」。
鴉(鴉がないてゐる)
走馬燈《まはりどうろう》(ぐるぐる/ぐるぐる/ぐるぐる/ぐるぐる)
雪(雪、雪、雪/貧乏人を泣かせるのなんか)
飛行機(千草は五つ)


『万物節』厚生閣、1940年

  1
騒擾(大旋風に捲きあげられた)
雪のリタニイ(ちらちらと春の雪)
くちをとぢ……(くちをとぢ/めをみはれ)
首を吊るなら此の木でだ(わたしのすきな巴旦杏の木)
陸稲畠を……(陸稲《をかぼ》畠をはしる電線)
無題(自分はこれまで)
喫茶の詩(時計がないから)
くちぶえ(ひさしぶりで風がなぎ)
こどもの詩(みちばたであそんでゐた)
無題(ちらほらと桜がさいた)
無題(はげしく雨がふつてゐた)
ある農夫に就て(なんとなく空は険悪で) ※途中までは『梢の巣にて』所収の「農夫」と同一。最後の文が「自分の頭には角が生えた」
うす濁つたけむり(うす濁つたけむりではあるが) ※『雲』所収の「ある時(うす濁つた)」とほぼ同一。「青天をめがけて」と「けむりにも心があるのか」の間に改行がある。
遠望(あれ、あれ/お家がみえる)
万人を……(万人をひとりで病まう)
りんごよ……(りんごよ/りんごよ/りんごよ)
どこかに自分を……(どこかに自分を/凝視《みつめ》てゐる目がある)
あんまり幽かな……(あんまり幽かな/真昼だから)
海はひえびえと……(海はひえびえと/鴎や千鳥をひきつれて)
憎悪のなかにも……(憎悪のなかにも愛がある)
雨ではない……(雨ではない/雨ではない)
とほく……(とほく/とほく/曲りくねつてながれてゐる)
それは誰のものでもない……(それは誰のものでもない/それは万人のものだ)
遠天の……(遠天の/小さな月に)
風景(ゆふがたの/ゐどのまはりには)
丘の上では……(丘の上では/百姓のおかみさんたちが)
あの盥舟を……(あの盥舟をごらんなさい)
冬(河原の水は浅いけれど)

  2
友よ……(友よ/自分はなんと言はう)
或る日曜日の詩(けふは何といふ日であらう)
いのちのみちを……(いのちのみちをここまで)
眼でみたのでは……(眼でみたのでは/なんでもない)
わたしの涅槃に就て(ごろりと横に)
秋ぐちは……(秋ぐちは/とかく荒ツぽい海)
なぎさで網を引いてゐる(なぎさで網を引いてゐる)
ぶうう……(ぶうう/ぶう/ぶう)
冬の着物(二百十日の近づくやうな)
身自らにおくるの詩(くるしみぬいたとうぬぼれてはならない)

  3
わたしは祈る(釣竿は細くさみしく)
雪(冬は深くなつた)
なにもかもこれからだ(窓窓からながれ込む冷つこい新鮮な空気)
先駆者(うす暗い街裏の)
パン(わたしのパンには)
山の麓をゆく汽車(のろのろと汽車がゆく)
掟(ながらくやんでゐたおぢいさんはもう目がみえず)
帽子をとれ(そのふるぼけた帽子をとれ)
何もかも真実である(此の穀物畠の上をはしる電線)
悲壮な風景(みろ/大暴風の蹶ちらした世界を) ※『風は草木にささやいた』所収の「或る風景」と大部分同一。最後が「あかんぼの目のやうな此の空!」
蛙の詩(お杉山から日がでた)

  4
自分の詩(飯がすむと/すぐ食卓は机になる)
いのちのあるもの(いのちのあるもの)
ある日の詩(ひさしぶりで肉を買ひました)
黎明の詩(まだうすくらい街道を)
夕の詩(とつぷりとひがくれてから)
椿(竹やぶの椿は火のやうに真赤だ)
窓にて(うらの窓から見ると)
春(ほんのりとかすみをこめて)
万物節(なんでもかでも)
太陽の詩(薔薇色の黎明)
蜀黍畑がある(蜀黍畑《もろこしばたけ》がある)
笊には米が一ぱいある(笊《ざる》には米が一ぱいある)
日光の詩(おお此のしみじみとした貧しさ)
朝(朝露の/ささげ畑をとほつたら)
この鴉を見ろ(とつぷりと日はくれて)
大光明頌栄(ひかりよ/ひかりよ)
雄渾なる山嶺(山、それは力だ)
日本(日本、うつくしい国だ)
陸橋の上にて(あけがたの/此処は大都会の入り口)
小曲(日あたりにひきずりだした蒲団は)
一枚の櫛(子どもらと茱萸《ぐみ》採《と》りにゆき)
雑草(ひにち/まいにち)
冬(冬がきた/つめたくなつた)
蚊(自分は自分をみた)
青い天(庭さきに立つてゐる)
風景(畑の陸稲《をかぼ》を、もろこしを)
大風の詩(けふもけふとて) ※『風は草木にささやいた』所収の「大風の詩」と同一。
真言(秋の日の/しろがねの)
芽(をかのはたけの)
かなしさに(いつぽん銀の神経)


『春の海のうた』(童謡集)教文館、1941年

春の海のうた(さしたり/ひいたり)
麦搗き唄(あめのふるひは/麦でも)
(おぢいさんてば)(おぢいさんてば/禿顱《はげあたま》)
雪虫の唄(どんより/雪空/ピアノの音《ね》……)
(霰《あられ》)(霰、ぱらぱら/屋根を打つ)
燕の唄(きり/きり/つばめ)
驟雨(蟹であつたら/にはか雨)
(とんぼ)(とんぼ/とんぼ/たかいな)
おはじき(はるのよの/あねといもうと)
鈴蘭の唄(すずらん/すずらん/鈴鳴らせ)
(大寒小寒《おほさむこさむ》)(大寒小寒/あられのお祭りだ)
木苺(木苺、ふうらふら)
渡り鳥(わたりどり/わたりどり/どこからきたか)
鯉のぼり(五月の/そらの/鯉のぼり)
■鼠の唄(もんぐら/もんぐら/もぐらもち) ※「■」は「鼠」+「晏」。
(つばめ)(つばめ/つばめ/ぺえちやくちや)
朝(うちの鶏《にはとり》/こけこつこ)
星祭(さらさら/たてた/笹竹に)
海景(沖を/おほきな汽船が)
(裸んぼ)(裸んぼ、くろんぼ/長《なげ》え竿もつて)
鱸舟(灘《なだ》の/ささぶね/鱸舟《すずきぶね》)
天を眺めて(お月さん/かくれんぼ)
(蝶々よ蜻蛉《とんぼ》よ)(蝶々よ/蜻蛉よ/くものすに)
萱草(萱草《かやぐさ》すうい すい)
西瓜畑にて(西瓜畑の/天気雨)
雪のあした(小《こ》がらの/笹鳴き)
(どこかのをばさん)(どこかの/をばさん/落葉《おちば》かき)
雪の歌(ユーキヤ コンコン/オーサム コサム)
影法師(かげんぼふし/こぼふし)
指のうづまき(十の指には/十の渦)
(時雨)(からす/からす/巣にかへれ)
(からす)(鴉《からす》/鴉/寒くはないか)
山と山(あつちの/お山は/白い山)
椎の実(椎の実、ひとつ/椎の実、ふたつ)
(ちやうちん)(やみよの/ちやうちん)
とらんぷ(雪の夜の/トランプは)
冬の木木(ふゆが/きたとて/木は裸)
初燕(燕、燕/そのこゑだ)
落葉《おちば》(おちば/ひら ひら)
(麦の穂)(麦の穂/すいすい)
冬のよあけ(ことことと/よあけのあまどを)
(千鳥)(千鳥ちりぢり/けふもまだ)
手ぶくろ(あたしの/手套《てぶくろ》)
鬼灯《ほほづき》(鬼灯や/檐端《のきば》で)
籾磨り(籾磨《もみす》り/ごろごろ)


『黒鳥集』昭森社、1960年
※生前に編集され、イデア書院から1924年に出版される予定だった。

I 黒鳥集

  1
光明頌栄(主は讃むべきかな)
ほんねん(しんじつひとりのきみゆゑ)
母と子(まことせいれいにかんじ)
なやみに就て(腫物さんらん)

  2
雪 其他(ほのかににほへ肉の花)
らんぷ(いのりにぬれし面《かほ》をあげて)
りたにい (1)(闇が踊つてゐる)
りたにい (2)(空よ。聖霊のやうな力を……)
小曲(まだらに残る遠山の)
小曲(青いともしびがちらついてゐる)
春(Fさん、お月様はさみしかろ)
空(あまりに大なる悲しみなれば)
ゆらぐもの(ふるさとの/あをぞらの)
造り花(めぐみの花/不義の花)
いのり(としよりのいのりは銀《しろがね》の滴り)
雪(あやしさは雪とふり)
微風(停車場のべんちにもたれ) ※拾遺詩篇の「微風」と大部分同一。最後が「おそろしいものがくるのか」。
悲曲 (其一)(麦の圃《はたけ》をとほつたら)
悲曲 (其二)(せめて敬虔なる径をふみ)
悲曲 (其三)(かすかなるもの/雨のあし)
幸福(よもすがらきみとねむりて)
窓(ふたりのうへにひらかれし)
いきもの(わがかなしみは/やみのかなしみ)
沈黙(沈黙は闇の花)

  3
はつ夏(馬鈴薯《じやがいも》にましろな花)
花(くちつけをもとめてあれば)
ある時(音楽よ、ねむりよ)
なつのまひるを雪がふる(のどを鳴らして眠る猫)

  4
秋意(白い手をかくしてまどからのぞいてゐる)
印象(山窪のはたけの小麦は)
雨(菎蒻の菜圃《はたけ》にしのぶ雨のさざめき)
昼の月(あきのあをそら沼にあり)

  5
黒(まことは消ゆる霜にして)
冬のはじめ(いのちをもとめ/いのちをたづねゆく心)
ゆふべ(神無月、靄のかたびら)
ある時(かなしき一の真実をかたらむ)
心(けふもけふとてとりかはす)
鳥(黒き鳥、冬のたましひ)
地上(彼ははたけの陸穂を刈り)
薔薇(かなしみの薔薇よ)
小景(かすかなる冬をしり)
ある時(まどろみに、まどろみに)
智慧の木(マリヤよ/うらのはたけの智慧の木は)

  6
内心(礼拝せよ/われらは影の中、その影を)
なつのあしたを(なつのあしたを雪ぞふる)
壺(壺はさんらん/壺はかなしや)
蔓(ひとすぢのつるをたぐる)
かぜ(しろがねのかぜすぐ)
人魚の歌(にんぎよはよるのとこにあり)

  7
発心(聡明八面/感触千手)
真実に(真実一ねん/びんづるの赤禿げ頭蓋《あたま》)
秘唱(いのりは髪を乱せども)
信楽(くれなやむ/冬のはじまり)
ひかり(月おち/くだけ)
冬くれば(雪をふらす/わが指)
ある時(キリストの/あたまのひかり)

  8
模造真珠(主よ/僕《しもべ》は黄銅悲性の香炉を)
落日のころ(畑の陸穂を/もろこしを)
新生(天をつき刺す/麦の芽)
種子(農夫としより/たねは一粒)
小曲(とをのをゆびにななつのめ)
芽(をとめごの/かくしどころのけほどに)
静物(ふかさにそこのない)
印象(たにがはにぎんのあゆ)
みらくる(まきたばこ/けむりを立て)
よふけ(まふゆまよなか/にくしんをつらぬく)
大韮露章(ここは天上で/粉雪がふつてゐる)
蜀黍畑にて(なんとなくしきりに)
あるひとに(あなたのうつくしいてはかなしんでゐる)

  9
秋の日のこと (1)(こつそりと/長い着物をきた陰影が)
秋の日のこと (2)(風は吐息か/きびの葉かげに)
岬の上にて(めのなかのしののめ)
薄暮(大キナ芭蕉ノ葉ノウヘニ)
創世の銘(ひるすぎの/きび畑)

  10
竹やぶ(竹やぶ/るりの竹光り)
雪景(山はぷりずむ/山山山)
雪景(直線曲線/雪雪雪)
雪景(まよなか/地上一面白金光)
雪後(雪の山山/山と山とのあひだにおいてきらめくは)
断崖(かけわたす/つりばし)
天景(しづけさに/いろづく麦ぼ)
わたしはたねをにぎつてゐた(わたしはたねをにぎつてゐた)
夕ぐれ(わかきほとけら/木を揺れば)
静物(あかくぬりたる/ぼんのほとり)

II 古代希臘抒情小曲集
ある童子にとて(何といふきやしやな腿だろ)
師走の頃(師走、雨もつおもい雲)
おらんだ芹にて(此の額《ひたひ》、このめの上を)
スメルディスにささげて(かぐはしき花をおんみは剪《はさ》んですてた)
ある時(いまはしも都城《みやこ》を繞る墻壁は)
つはもの(なみだもつ鎗の穂尖)
つはもの(たたかひの真面《まとも》に立つは)
つはもの(あれうまにつないだ戦車)
つはもの(たれもかも楯もつものは)
つはもの(首のぼんのくどを刺しつらぬいて)
戯語(アレキシスの禿げ頭)
花環のうた(男子《をのこ》といふ男子のつむりは飾られました)
どんな恋でも(どんな恋でも胡麻塩髯みたら)
ひつじぐさ(ひつじぐさ/その花をかざりにあんで)
としはとつても(としはとつても/わしや女子《をなご》)
泥酔者の歌(泥酔《よひどれ》者のわしの頼みぢや一生の)
さかづきの歌(なみなみと注いだ盃)
大杯の歌(をなご、しなよくつぎ廻る)
頌歌(うつくしい恋であるなら)
恋ゆゑに(リウカスの岩が懸崖《がけ》からおつこちるやうに)
恋の辞(ヱロスは鍜工《かぬち》が大好きぢや)
骰子の歌(骰子《さい》は/狂気か)
水をもてこい(水をもてこい/酒をもてこい)
恋の仕返し(煙によう似たうはさは天空《そら》に)
葦(わたしや魂消て楯なげだした)
踊り(月もまんまる、そなたの踊り)
つばめ(かはいや燕、そのこゑを)
沼にて(みづにかくれた藻草の上を)
ある時(タルゲリアスは仰《おつしや》います)
サリシアにて(収穫《とりいれ》のはつものをささげてあれば)
いたづらもの(門衛《かどもり》とつれだつて)
洗濯女(わしは河からあがつてきた)
偽瞞者(みさげはてたるいつはりものよ)
いまとなつては(いまとなつては/わしの心も)
いくさ好きなら(いくさずきなら/いくさもよかろ)
ある時(なぜに、そんなに)
ある時(ペルサアシオンは銀光り)
ある時(枕はづしてよう寝る人にや)
ある時(こんな苦労をのがれるためぢや)
ある時(濡衣を着せられたばかりか)
ある時(スパルタの処女《をなご》のやうに)
上衣(ディセリスが鋏で断つた)
鏡をのぞいて(いまのいままで/うつくしい濃い鳶色の)
銘に(おそろしい勇者のアガソンは)
輓歌(あのスラシアンのをなごをば


拾遺詩篇

播種者(縹渺千里風たつや)
わが霊(わが霊《たま》いつしか小暗き胸の――)
死(夜一夜のたくみなる)
栄華(「星照らぬ宵はあれど)
白樫よ(樹々の如、/花はもたねど)
おとづれ(電車の街《ちまた》をわかき配達夫、)
画(画師《ゑし》なれば画をかく業《わざ》ぞ)
壁(蔓蔦《つるづた》の一縷《ひとすぢ》、)
秋(小春日和の/手をとつた)
白鴎(潮みち来る。/わが船は錨を捲きぬ。)
春(野を見よ。/風の温かき戦《そよ》ぎに触れて)
虫(いづこより、いづこへ――)
管のよろこび(杼をなげよ。/しづかに鳥籠《うや》の金糸雀《かなりや》の)
秋のやうな笛の音(何処《どこ》だらう、しきりに)
月下にありて(秋なり。/ああ此の月下にありては)
傘(熱い日だ、あつい日だ、)
無限に(一人が淋しい、/いやだ。)
犬(痩せさらばひし赤の犬、)
角伏せて(銅《あかゞね》の雲《くも》燬《や》けて)
草の上(測候台の/白の旗)
自然主義(跣足《はだし》がわるい?)
細烟《さいゝん》の君に(夕焼け。/黒い砂の山。)
朝(朝はやく、/聖餐に行くので、一人、)
右とひだりへ(爺さんが、びつくりして)
霧雨?(「そこの洋刀《ないふ》を見せてくれ、)
炉の鍋の雑魚煮えたてり(炉の鍋の雑魚《ざこ》煮えたてり。)
窓(壁を破ぶれ、/窓にしろ)
夢(栓をねぢれ、/ねぢれば出る。)
ひろい野へ(あれ! 紙鳶《たこ》が、/糸を切つて、)
山蔭《やまかげ》へ(あゝ、落ちる、/日が落ちる。)
生れつきの盲者(「さめよ」、――/「キリストの聖名《みな》により、)
束縛(道側《みちばた》の樹に、/くゝられた女の躰《み》。)
若い芸術家へ(死人と火と、/狗《いぬ》と妊婦と、)
絶叫(石を打て、/油をながせ)
直言(敢てする、/此の直言を怒り給ふな、)
馬ならば(ああ生《せい》の糸、/引いてあきる。)
機屋の窓で(「稼ぐね、/誰のだね?」)
釘(金槌の音がする。)
新印象詩(道側《みちばた》の石を蹴ると、)
途上(橇が行く。――/僕の前に、)
灰をかぶる火(火が消えさうになる、)
若い人の談話(某所《あるところ》に女があつた。)
春(紅い頬《ほ》をよせて眠つてる。)
橇(路もない、/ひろい野を、)
石(石が、怒つて、/飛んで来た。)
朝(雪が降つてる。――/何処《どこ》かで小鳥が、)
永劫不可解の疑問(「母ちやん、坊は何処から産れたの?」)
新印象詩(風でも吹くと、/一体それは君の新造語かね。)
春(小雨、斜に……。/かりそめの)
―――に(青空に/雲が無いなら。)
暁(白い頸と頬《ほ》。/黒い毛髪《かみ》。)
青日(静かな昼だ。/窓から町がよく見える。)
頭 一(雨が洩る。/空から屋根へ、――)
  二(快楽《けらく》に飽《う》んで、)
  三(青空から石が落ちて、)
  四(いかに北国《ほくこく》でも)
雪が吹く(雪が吹く。/子供が行く、)
黒猫(或朝、早く起きた。)
春(障子の隙から、/樹の間から、)
四月(山から、/里へ、――)
読書(読書して居た。――)
夢からさめて(宛然《ちやうど》、柔い肌でも冷るやうな、)
臨月(いくら飲んでも、/いくら食つても飽かぬ、)
男(或日、魔術を見に行つた。)
午睡より覚めて(ツト眼がさめた。)
月夜(杉山から。/月が出た。)
落日に立つて(軽さうに走ると見ればギヤマンの)
昼(窓を開けて、/春の日と、)
春(紅《あか》い提灯が向ふから一つサツサと来る。)
蝸牛(角を出せ!/蝸牛《かたつむり》、角を出せ!)
朝(あれ、聴きたまへ!/天門近く雲雀《ひばり》が鳴いて居る。――) ※副題「(シンベリンより)」。原詩はシヱクスピーアによる。
悲愁のきはみの詩(弔鐘《かね》撞き出せ!) ※原詩はヒイリツプ・シドニイによる。
自画像(糧《かて》に飽くべくあまりに貧しく、) ※原詩はトマス・グレエによる。
「若き悲劇」より(わが墳墓の上に) ※原詩はフレツチヤーによる。
日車(噫! 日車《ひぐるま》よ!) ※副題「(「経験の歌」より)」。原詩はウイリアム・ブレークによる。
神へ(神よ! 感謝す!/我は感謝す!)
朝餐(珈琲の青いかをりと、)
夏(モスリンの単衣《ひとへ》を透いて見える)
私が臨終もかくの如くに(ランプは眠るやうに消える。)
燕(燕が電車にとまつて)
つろいか(三頭馬車《つろいか》に鞭あげろ!)
恋(白紙とインキ。)
斑鳩(斑鳩《いかるが》が鳴いてゐる。)
智慧の紐(「あゝ、じれつたい。」)
嚏(嚏《くさめ》!/つゞけて三ツの嚏、)
The Kiss(或日、二人で丘にのぼつた。)
赤い笛の音(草原《くさはら》に山羊が遊んでる。)
コツプの罅(綺麗な食卓の上に水の無い)
海を見る(海を見る、二人で海に…………)
悲恋(眼をとぢて此の籤を引きたまへ。)
新妻に(私は雲のやうに、)
頬よ(灯《ひ》がきえたら泣くだらう。――)
敵(「静寂」は無相の相、)
慾(ラムネを呼べばひざらしの)
子守唄(盲目《めくら》の婆さんが嬰児《あかんぼ》を、)
雫(風がソヨソヨ吹くと、)
雲雀(製糸場の煙突からのぼる煤煙《けむり》は)
頬よ(ひえてはほてり………又、)
朝曇り(青い船がつかれて入つた。)
眼から(悔しい涙も眼から出る。)
棺(一人は「死んだ」と言ふた。)
秋風(秋風が吹きそめた。)
「ウオーヅウオース」のやうに(大きな樫の樹の下《もと》に、)
わたしの詩(私の詩は/焼けたゞれた日の視線から。)
赤い螽斯《こほろぎ》(銀笛《ぎんてき》は泣くやうな――)
落日(落日を見よ!/海を焼き)
「ラザレフスキイ」のやうに(潮曇る海の空と――)
悲恋(疱丁とりて割けば、)
トンネルにて(トンネル出れば海も見えやう。)
プラツトホームにて(秋らしい風が吹く……)
瞳に(我れから、われを、)
傘(青ざめた頬を見よ!)
火(丘の上に燃える、/火を見よ!)
悲曲を聴いて(けだるさうな雨蛙!)
花壇より(花壇にまよふその色より………)
朝顔(日のあゆみ蹌踉《さうらう》と!)
月光(月光に見ゆる斑点。)
雲見る瞳(雲見る瞳。/君を恋ふ瞳のひかりが流るれば、)
秋(女/夜になると、冷たい壁の記憶のやぶれ目から螽斯《こほろぎ》が金《きん》の音《ね》をひきますの。)
秋なれば((曇色《どんしよく》のつかれ泣き))
に(螽斯《こほろぎ》の歌がほそる。)
古駅より
  響と光(小鳥等、空を騒がしく、)
  秋(遠くで鈴の音《おと》がする。)
  青き恋(哀愁は風なき森の夜の如し。)
  窓(秋らしき風の湾頭、)
蛇(女が白い蛇を見てゐる。)
秋風(秋風がひろき野をゆく、)
――――――に(糸くづの紅きが悲し。)
枯蘆がさらさら鳴る(枯蘆がさらさら鳴る。)
ねがはくは(ねがはくは燭剪《はさみ》をたまへ。)
弔歌(山風が北から吹けば庭の木の葉が)
鋤よ(鋤《すき》よ!/鋤よ!/汝は芋の穴を掘るべく?)
断章(樹の幹により、)
いとしき妻の悩み(梢に赤らむ林檎の如く、)
旅館の女の悲歌(わかい、旅館の女が)
恋(哀愁は風なき森の夜のやうだ。)
冬鳥(おもひでの「青き帯」より………。)
若い会話(石炭が冷たい暖炉で燻《くすぶ》つてゐる。)
赤き床(しづかに、絶息する如くランプは消え、どよめる夜は敷石《ペエブメント》に沈み、)
女の心より(空に立つ丘の煙りよ。)
新婦の如く粧ひ(しづかに、夜は新婦《ぶらいど》の如く粧ひ)
プラツトホームにて(雨が煙《けぶ》つてゐる、縷《いと》のやうな雨が)
Sの唇の如く(我はまた市街に出《いで》て、花を見)
秋風の悲しき弾奏(秋風よ、わが師のためにその弾奏の手を止め。)
月夜(おもひ悩む逍遥の砂の上、)
午後のほゝ笑み(黒煙を吐き、まさに運転をはじめんとする)
冬(露西亜《ろしや》パンの赤き車、十字の角を右に折れ)
Mといふ謎の君に(山に住み、私を思ふと言ふMよ。)
冬(感冒の熱と色に眼を病む)
時雨(疲れ喘ぎ、怖ろしき野獣の馳り去るのを見てあり)
瞳(海岸に、うちよる波の柔かさ)
花のうれひ(夢のやうな雨が煙る。)
柳のほとり(柳のほとり。/白壁………)
燕(紙片を撚《よ》りたはぶれに)
涙にあまる思ひより(頬痩せ、青白き我が悲哀のBRIDEよ、)
窓(夕《ゆふべ》の街《ちまた》を/violonは濃霧よりながれて罅《ひゞ》多き)
曙光(ああ、曙光……。/街上に消え残り、瞼《まばた》く霧の如き電燈)
五月のあゆみ(海青く、/野の草青く。)
黄蝶(花曇り…………/みよ雑沓をのがれさまよふ蝶は黄なり)
夏蜜柑(なつかしき昼の雨なり。)
自然心理の描写
  一、推移(暗き、青白き月の巓《いたゞき》より、) ※「ニ」以降は「自然の心理」という題で発表されているようである。下を参照。
悲愁と夢と(繊弱《かよわ》くしてはかない)
昼(こゝちよき丘の洋館、)
四月の一夜(電燈を消し、)
水盤にうかぶ金魚の追憶(女よ。汝《おまへ》は雑草に交つて匂ふ罌粟《けし》の如く、)
自然の心理
  二、IN BED(ひそやかにかくれて忍ぶ、)
  三、睡眠の時(刺すが如き、/「ヘリオトロオプ」の花の光り、)
  四、時計台と追憶(醜き女と離縁《てをき》る如きよろこびに、)
  五、暴風の後(金の指輪の光をみたまへ、)
蝶と昼の神経(洋傘《パラソル》の女が二人、)
夜店(此処ばかりが街のやうな夜店の前、)
春と若き人々の思想(幼児の如き瞳よ!)
微睡
  一、疲労(軽《かろ》いあかるい風と日曜、)
  二、夢と詩作(喧噪《さわ》がしき街《ちまた》の中央に我家《わがいへ》あり。)
落日と女(髪は柔かにみだれ、)
憐憫(柳の並木。/水のほとり。)
海の音楽(春、五月/高原の処女《をとめ》を訪へり。)
■■■■■に(冷やかに月の光の柔かく)
楽慾(片頬《かたほ》の赤き凹《くぼ》みの微笑よりこぼれて愁ひふくむは紅茶の色なり。)
自画像
  一、燕の歌(発車の後のしづけさよ、)
  二、郊外より(将に太陽の我が瞳より離れんとするがゆゑに、)
心と空気(睡眠の不足に吸はれ匂ひゆたかに)
線条(慈姑《くわゐ》に花が白く咲き、)
疲労(明日《あす》もかうした嫌《いや》な日でせう?)
薄暮の時(薄暮《たそがれ》は辻のPOSTにせまり、)
夕祷(睡眠《ねむり》にみちびく夕《ゆふべ》の祈祷《いのり》……。)
朝鮮へ(あれ、朝顔のしぼんだまま籬《まがき》に枯れてゆくこころを。)
春(春よ。私は雨あがりの庭園に)
黎明の歌(楊枝《やうじ》をくはへて出てきた酒屋の亭主)
途上所見(つきあたりの白壁《しろかべ》。)
秋の態度(くれがてにさまよふ雲よ。)
秋の歌
  一、雁(槻《つき》の大樹《おほき》に悲しみがある。)
  二、秋と暗示(空の模様……/女よ。)
  三、雛妓《おしやく》(黒塗の赤い緒のちひさな木履《げた》に、)  
記憶より(にぎやかな勧工場《くわんこうば》を出《いで》て、)
告別(我は芸術の空を恋へり。)
嗟嘆(落日《ゆふひ》は悲し。/窓に、)
十月の感触(黄をちらす木の葉のかゞやき、)
秋の歌
  萌黄色の誘惑(白い毛布に包まれた)
九月の平安(黄ばみゆく丘の鐘楽《しようがく》に悲みあり。)
涕泣(雨の間《ま》をいつかしら、)
木枯の記事(銀杏《いてふ》がかなしい葉を散らす。)
音信(十月のおとづれ。)
秋意
  海へ(海へ逃げやう?)
春へ(その日暮しは気楽だわ。)
笛(明礬色《みやうばんいろ》の悲しい空気よ!)
影(閉塞された夏の思想。)
冬(鴉――。/大会堂《キヤセドラル》の門前に埋葬式の掲示。)
地上の事(鉄工場《てつこうぢやう》の響が悲しい心の扉《と》を叩く。)
途上所見(満潮《あげしほ》と月の光りと、)
法話と恋(落日《ゆふひ》の前をすぎてゆく運命がある。)
墓(たましひの墓を掘らんか。)
夕焼(人よ。/芒穂《すゝきほ》の上の煙突を――)
影(さあ。いつもの場所《ところ》へ寐にゆきませう。)
奇蹟(雨戸をひく時。)
暗い心(暗い心――/音のない夜である。)
私の希望は……
  II(吹かない風にも/ぱらぱらと)
朝顔の歌(あれ、朝顔のしぼんだまま籬《まがき》に枯れてゆくものを。)
春のたより
蘖《ひこばえ》(雨の後! 青い悩みと)
赤と青(一つの蜻蛉《とんぼ》は赤。)
ゆふかぜ(かなしい女の眼の色は)
赤(はつ恋は/帯に短かし、)
押し花(銀笛の音《ね》よりもはかない)
五月(躑躅の花のかなしさは)
酔後と蛙(夜明の蛙の嘘らしさ……)
蜩の歌(蜩《かなかな》のその音《ね》のうちの)
蛍(闇の夜の/蛍の光り。)
夕月(お梅ちやんに聞けば)
Fに(ペンキ家の前の日向葵。黄金色《きんいろ》のその大輪は女の背丈より、更に高い。) ※「日向葵」は原文ママ。
さふらんの色素(おらんだの古代模様と見るなら)
九月の歌(S――先生!)
操(三味線を指でおさへた)
秋(なみだぐむ心の秋は)
花火(まつ暗な空に/美しいやら、)
くちぶえ(気まぐれに吹いてもねえ。)
嘲(そうして夏は日向葵の花にすがつて死ぬのです。) ※「日向葵」は原文ママ。
蝉(かなかなの尿《ゆばり》して立つその時は)
泣きながら眠つた女よ(赤い寝床《べつと》はふつくらと……)
南国景物詩
  赤い玉(軽薄な東京の女のパラソルのその柄のほそさ、)
  雨(粉のやうな雨がふります。)
  昆虫とインキ壺(あゝ、何をたづねて私のかなしい心でも。)
  懊悩(うす紫の雨の唄。)
  凪(田甫《たんぼ》の罅《ひゞ》には。)
  鸚哥(さわがしい鸚哥《いんこ》の嫉妬――)
  春感(彼方《あちら》、此方《こちら》からおちあふ雑閙《ざつたふ》の、)
光(くさの実のかぜをまつぞえ。)
春の雨(水《み》の面《も》にうつるともしびの)
帯(「草花を好む」といへば)
蟾蜍《ひきがへる》(ふと、さめぎはの寂しさに)
男釣り(指先のさみしさ……)
春と生物(くちやかましい百舌鳥《もず》のはや起き、)
所現《しよげん》(青い壁の上。そうして光。)
鸚哥小曲(日曜日。/教会堂にもゆかないで、)
夜の伴奏(夜は夜とて銀ねずみ、)
小曲(わが東京にかへり来し)
青(たまゆらの夜のかがやき、)
雨のTONE(見よ、をんなの胸の乱れぬほどに)
夜楽(青いVEILをかけた月、)
燕子花(消えやらぬ肌のにほひは)
夜曲(やすらかにこそ疲れより、黄《きいろ》の月も)
風に傷める葦の葉の小曲
  III(わが這ふ影はるり色の)
ねこ(わが幼稚園の褓姆《せんせい》はひとりもの、)
滅び行くREVERIE D'AUTOMNE(そは、殊更にうつくしけれ)
いのち(あやしさは雪となり、)
朝(かなしみはうつくしや)
匂ひ(すぎゆくものを心とし、)
赤(とぼとぼとたどる山みち、)
月光(月光は古沼の辺《ほとり》にさきし)
芸術(七月ごろの/くちつけの)
酒辞(美のりきゆ、愛のきゆらそお、)
窓辺にて(青白い、冷い/私の掌《てのひら》の上に)
秘密(さわがしきなみをきらひ、)
泥酔歌(あるとなき硝子杯《コツプ》の罅、)
原色に就て(われは黒、/にがき果実《このみ》の汁なれ。)
雪 其他
  IV(わが悲しき陶器よ、)
夜(Gよ。青いともしびがちらつく。)
声(音無きともしび、音無き闇、)
春(しづかな鐘が鳴る。)
季節の歌(此世の暗さに/髪は折々、夢を引く。)
闇(夜が忍び足して過ぎたのは)
ゆらぐもの(触角にゆらぐものあり、)
雨(なつかしき雨をふるさとにおもひやれば)
みじかきもの
  III(つばきのはなの/かなしさよ、)
  V(天鵞絨《びろうど》の感覚にこもり)
まんどりん(世界は一のまんどりん、)
微風(停車場のべんちに凭れ、) ※『黒鳥集』所収の「微風」と大部分同一。最後が「おそろしきものや来るらし。」
踊り(燕の声、銀のしづくの光、)
CLASSIQUE(君がやさしき言葉には)
そろ(わが額《ぬか》の胡弓ぞうめく、)
石炭(石炭、石炭、闇の花、)
感覚 (其一)(音楽よ、ねむりよ、)
理解(そらのひばりはうたつてゐる、)
伴奏(猫よ。猫よ。/しづかにつもる雪の上に、)
水辺にて(うなじよ、力なく垂れて)
煙れる言葉(銀《しろがね》の雨はふる)
小曲(なみだ堪へし壺みれば)
おなじく (其二)(たましひよ、/朝《あした》の風を求めてきた、)
妻に――(われはなみだを君に求め、)
夏の歌(お白粉《しろい》の、臙膩《べに》の、はげし面《おもて》よ……)
素描三つ(鬱憂の、霊の花よ)
秋の歌(秋の日の汗ばめる君が青空の瞳に)
まどろみ(女よ。海はひとみの底にして!)
立秋(「まだ、なかなか暑いね」)
街上(なつのまひるを光に酔《ゑ》ひ、)
所現(沼のさかしき釣人に)
人間(われは故なきに傷き)
こほろぎ(草の葉にいのちの揺ぎ)
模様(きのふは雪とよろこびにふり)
そぷらの(月のひかりは草を匍《はらば》ひ、)
りんご(憐憫《あはれみ》はこほろぎの声にあり、)
梟の歌(ものゆはぬ、人形、)
冬(雨にはかへらぬ希望《のぞみ》がある、)
智慧(微睡なるらむ、わびしけれ、)
内部(指の上にみえざるものあり、)
ひまはり(あをじろく病みふす力、)
沈黙
  2(何をか昼の月は知る)
醗酵(彼等は粘土をいぢくつてゐる。)
樹木((あきかぜに心は揺れ、)
理性の廃園(そはさて理性の廃園は)
風景(心のとびらをひらく愛、)
のくたあん(やみで、煙草《たばこ》の火が光る。)
冬 其他((絶望と自由と、一切《すべて》のざんげ))
瞑想(丘の上をながめよ、)
やまざとのよあけ(うるめる瞳《め》に山なみ、)
犬に(おい、ジヨン! 何が見える?)
風景(夢は五と三に、)
おなじく(冬はいつでも真裸《すつぱだか》、)
垂直に(冬の挨拶ぞよみ返る、風景に)
街上(ぶツこはれた馬車が)
印象(お前の闇の中心では)
月光(切株に/いのちの芽ばえ)
宝石(記憶で光つてゐる)
現実の上に(もつと、悲痛な冬、)
凧(凧があがつた/高く、低く。)
見えざる触手(冬の遠山《とほやま》は紫水晶の彫刻、)
挿話(この智慧をうつくしき果実《このみ》となして)
時代(荊棘《いばら》もて冠を編まむ。)
プリズム(生れでて見ろ、光を、)
林檎(梢なる一の瞳、林檎、形となりし無知の思想よ。)
春(煤煙にくすぶらされて、)
視線(金属の中にある)
薔薇(薔薇には叡智がある)
逕(しろがねの壺に逕《みち》あり、)
樹立あり(こだちあり、/ひるのまぼろし。)
私ではない(私ではない、お前でもない、)
地上一心信経(ふらすこの中にあり、)
肖像(頭は純金、/心は玻璃、)
異象(形ある風をみよ、)
草の中にて(草の中に埋れた)
感覚(痛みある闇の耳、薔薇よ)
礼拝(黎明にひざまづき)
小曲(やれ、心の羽ばたき)
内心(おもひでの中に畑《はた》あり、)
正午(かなしき獣《けもの》、眠れる獣、)
麦畑にて(麦畑、/彼方《かなた》の丘、)
病める魚(病める魚、/翼ある小児、)
非行(ぎやまんの木をみよ、海の底)
瞳のおく(瞳のおくの菜園よりたそがれ湧きいでわきいでてともしびを生む)
おちぼ(わが畑にめぐみの落穂)
耶蘇(耶蘇は父をもたず、)
虫道(巣を作る鴉、終日《ひねもす》、)
静物(このみは上にあり、)
相(右の手には紅《くれなゐ》に燃ゆる林檎、)
ある時(刻々に近づく唇)
友に(けふはみどりに匂ふ夢)
野は(野はほのほ/瞳はほのほ)
韮露辞(肉体の秋のはじめに湧く)
聡明を頌す(いのちは額の髪に揺れ)
畑(真実一念、/畑に玉蜀黍《もろこし》はみのり)
すてふだ(どこから来たのか。)
肉体頌(麦の畑にうづくまり、)
無限(どこかで鶫《つぐみ》が鳴く、)
銘(かなしみは夢を孕《はら》めり。)
地上悲頌(穂をめぐる農夫)
玉(よみがへる秋の日の)
わだつみに(わだつみにえいゑんあり)
秘唱(すべてさめたり、/つつしみて落穂あつめん。)
白金悲光(真実一念/ひまはり垂《た》れたり)
肉楽(霊性噴水、/天《そら》さんらん、)
創世悲銘(魚の淫乱、/魚の真実、)
盗人(いちりんの/くさばな盗めば)
落葉辞(空蒼み/哀傷かぎりなし、)
至楽(酒をもて/空を洗はん、)
真実(真実ひとすぢ/たちのぼる香炉のけむり、)
持戒(瞳は盲ひ、/根のひかり)
冬なれば(雪をふらす/わが指、)
箴言(この薔薇は誰にもみせてはいけません)
鑿心抄
  2(草木走り、/草木かゞやき)
智慧(種子は純金/小さき壺のかなしみ)
せらふ秘誦(愛をのけろ、こは紫紺の真昼)
撰まれたる人に(その疾患は愛より)
智慧(赤い覆面、小さな智慧の)
小曲(渠、屋上園の)
冬日宝冠章(瞳は放蕩もの、)
感覚(秋刀魚美女)
玉(その中心は純金で)
冬(冬はさみしや/沼の魚、)
奇術(闇の着るは/びろおど
現身(光の芽、/紫の雪をふらしめ、)
形(翼ひつかけ/ぶらさがり)
意匠に就て(たくらめる初冬の手の上に)
礼物(まふゆ、/晶玉のそらをつき切る)
虱(土あたま、/かみげ枯草、)
消息(これがまことの声の芽だ、)
椿(けれどおしやれなしろつばき、)
母胎にて(かゞやき輝くその絶頂はどうなるのか、それがおそろしい。)
要素(麝香連理草をゆびさきに)
罪(三稜玻璃《ぷりずむ》の中の光線)
詩術(剥製の音楽、/まぼろしの彫刻、)
発心(胴体ばかりのをんなが)
憐素(狂人のぷらちなの手は語るらく)
おなじく(狂人の青空色の瞳《め》の白く)
騒擾(まだ音楽には芬香《にほひ》がある)
私は分析する(私は分析する、たばこのけむりの精神を、)
その皮を剥がして(その皮を剥がして、ふかく)
夜景(窓を象徴せよ)
おなじく(電線の心的曲折、)
おなじく(なんにもない空間で)
おなじく(どこかで/ほしのにほひがする、)
煉金術(にくたいのといきをきざみ)
所現(まどは歪める三角形)
憑かれたる風景(まこと、愛のために)
瞳に(だんだんなにかがみえてくる)
めのないひと(めのないひと/凪ぎたる手のひと)
玻璃もざいく(しろがねの瞳に/よみがへる月、)
午後三時(谿間の病める光線)
生理的の風景(「泥豚のあたまが光つてゐる)
庭園(庭園には沼がある)
昼(きびばたけ/きびのほの) ※「小曲(きびばたけ)」と大部分同一。最後が「みたされた」。
影(音のない花火が)
実体(空中の楼閣で)
雪(まひるなか/めに見えぬ雪がふり)
卓上(巣をうしなつた愛の)
冬の辞《ことば》(金貨は憂鬱性)
小曲(きびばたけ/黍《きび》のほの) ※「昼(きびばたけ)」と大部分同一。最後が「(月の寡婦《やもめ》のひとりごと)」。
じゆびれえしよん(泥酔せる聖なる大章魚《おほたこ》)
網を投げる人(わたしはひねもす/あみをなげる)
創世(つちのはは/ははのはらから)
新らしき物のみかたの詩的説明(馬車はさみしさに)
おなじく(あをぞらのさみしさ/真昼)
或る女性に(わたしの銀河はわたしの指を流れてゐる。)
はつふゆ(はつふゆ/はつふゆのしづかさは)
静物(壺の中には/蛇と虱と蜥と蛆と……)
貧賤抄(こがらし/こがらし/ひかりきらめくめ)
感覚(ゆび/百本二百本三百本)
雀ひもじさに(雀ひもじさに/笹の葉かげの雪をたべ)
素描(はるきたり/もゆるわかくさ)
或る一の音響の物的作用(或る一の音響の物的作用/かすかなる悲哀の反射)
鴉(鴉ひもじさに/ゆきを食べ)
春(天鵞絨の服身にまとひ)
早春(わたしの手はまだ銀のやうに冷たい)
昼(病める月/うれしさに)
海辺にて(あかつきのみぎはに)
卓上みらくる(護謨樹直立)
独語(ふねありや/ふねなし)
奇蹟(一羽のことりの卵を)
蹄のある椅子(一人は膝の上に/壺を両手で支えてゐる)
瞳(馬は考へてゐる)
犬(としよつた一人は)
箱の中にゐる人(箱の中にゐる人は)
二人の影(女は立つてゐる/男も立つてゐる)
手に就て(手は千本/わたしは迷つてゐる)
水甕(水甕の上には)
現実(草の中を一頭の豚)
墾求(静かな瓜畑)
秋意(わが霊魂よ、蠅、)
おなじく(まひるの愛は銀細工の花)
卓上にて(あたまに数限り無く)
海浜にて(いま沖を颱風がすぎて行く)
地上(まつぴるま/金属的な蟋蟀)
雨(新暦七月の街上)
弓射る人(ねらひをこめて)
孤独(第一の目はとぢ)
一生(にんげんは片盲《かため》である)
虱(渠、虱は知らなかつた)
自らに言ふ(ボチオ、雨がぽつぽつ……)
夏の雪(ゆきからす/樹は)
肉体の反射(さみしさのきはみにありてひたすらに雪を期待す)
秋の日のこと(秋意)(をんなのめまんまろく)
暮鳥は言ふ(わたしは/こんがらかつた曲線)
描写(みたまへ/ハアモニカの中からさ迷ひ)
或る時(何たる暗さぞ/深き穴の底なるか)
断崖の上にて(自分等、自分と妻と子とは)
冬近く(遠方の/どこかの山で)
渚にて(うちよせる漣に)
友に贈る(深山《みやま》の奥のべに雀)
手(赭土色の手ぶくろの中にわが友の手はある)
幻想の都会(いましがた遠方をはしり過ぎたのは汽車だ)
雪を待つてゐる時(田圃の中に大きな赤塗のタンク)
銀貨(わたしの拳は石つころのやうに固く凍えて)
冬の朝(ぞつくり青々と畑の麦は芽をだした)
時計(空を過ぎゆくのは風である)
晩餐(よるになると/ランプの下の食卓に)
自分に就て(自分はながい間)
而も君達はめぐまれてゐる(地べたはかんかんと凍り)
二つの力(なんといふ残酷なことだ)
私もしらない(なんにもしらないのは木の根だ)
荘厳な労働者(ひろい草つぱらの真ん中で)
冬(丘の麦畑はみどりの波を打つて)
罎の脈搏(何もかもわすれて波波と)
友だち(すこし頸を斜に曲げてふりかへり)
施物(おれはびんぼうだ)
万物節(蟻もでてこい)
春(わたしの生れた国は雪国で)
靴の中にある足(肥え太つたからだのやうにむくむくともりあがつた土)
時は過ぎて行く(遠方のどこかの町が焼けるのだ)
雪の屋根(夜はしいんとふけた)
黒い馬(どこかで呼んでゐるやうな細い幽かな声がした)
君も聞いたか(君もきいたか/梢をわたる人間の声を)
遠山にはまだ雪がある(遠山にはまだ雪がある)
どこかの山腹の一本道をあるいてゐる(どこかの山腹の一本道を自分はあるいてゐる)
善い木(キリストよ/すべて善い木はよい実をむすぶと君は言ふ)
よく似た人(或る日/わたしがレストラントの高い窓から)
○(ヴヱルハーレンの熱)
瓦斯タンク(すべての崇高《けだか》さに於て)
果物(まツ赤なくだもの/いつくしみそだてた太陽のいとし児)
情慾からの美に就て(ゆすぶつてゐるそよ風)
水辺にて(こどもは水を泳ぐ)
朝かぜ(吐息のやうな朝風が街をとほつたのだらう)
人間であることを思へ(いくら考へたつてどうなるものか)
金属と蟋蟀(何がなくともいい)
此の眺望は生きてゐる(此処からみると/市街は大きな瘡蓋のやうだ)
女性(女性は本質的に蛙である。)
太陽が見てゐる(其処此処に大きな工場ができ)
力の詩(一つのことを/世界のはてまで追ひつめてはじめて知つた)
手(どんよりと重い雪空)
木と木(赤禿げ山のてつぺんで)
此の人を見よ(おんみは感じてゐたか)
○(きみが出獄の日は何といふ世界的な天気であるぞ!)
風景(これはばら撒きしたやうな空一ぱいの星だ)
晩餐(はつなつの/道頓堀のにぎやかさ)
大暴風の詩(みちばたで/草の葉つぱのそよいでゐるのを)
林檎の詩(さあ、踏潰してみろ)
禿顱の円光(老爺は海のなつかしさに)
無題(座敷のまんなかには)

〜第四巻分〜
ワイリー姫に(Keats)(きませ、いざとく、セオルギナよ) ※キーツの詩の翻訳。
雨(朝曇りしきりに額《ぬか》の)
魂のふたつに(見よ、よろこびの玉溶けて)
琴かけて人を待たばや(琴かけて人を待たばや、/玉鬘)
林檎の頬もかゞやけり(林檎の頬もかゞやけり。/魂もにほへり。)
熱祷(鴿《はと》病めり。/我が鴿やめり。)
胡弓のうめき(蒸暑く苦しき日なり、)
燕(ツバクラメ/皐月のあゆみ)
人が真珠と問ふたらば(人が真珠と問ふたらば/私しや黙つて) ※ロバアト・ハアリツクの詩の翻訳。
故アルバアタス、マアトン卿夫人に(卿、まづ逝《さ》りぬ。) ※ヘンリイ・ウオツトンの詩の翻訳。
山の彼方より(月に沈んだ海の響が)
南の都会より(浴場はすでに好く準備し、)
微睡
  三、昼(微風あり。/丘の上、/測候台の旗赤く、)
  四、若き情調と緑と(あゝ紅茶の色のうつくしさに、)
心の内と外との対話(庭園の柳は女の眸をほそめ、軟かな)
話題(広い野と、野はうら若い女の如く)
夏の歌(ええ、私、/その虞美人草《ひなげし》を記憶します。)
虎や横町(南瓜《かぼちや》よ! 蔓に花がさき、)
三十前後の男女の対話(凋落から、/あれ、なだらかな傾斜の上に平安と)
夏の別離(お墓には百日紅《ひやくじつかう》が咲きました?)
光(お前等の窓の外にも雑草《くさ》が)
夜の匂ひ(硝子窓《まど》の外では雪がふる。) ※「硝子窓」を「まど」と読む。
匂ひ(九月のおとづれ、)
春の歌(―――雨後。/鶸《ひわ》がきて鳴いた梢で光る露!)
愛(純白《ましろ》なるをんなの腕《かひな》、)
黄なるSYMPHONY(橋を打ちわたりて四輪車は)
印象(空はほどよき赤もて繍《す》かれつ、)
樹木((あきかぜに心は揺れ、/帆布のごとく言葉をはらむ))
秘密(わが園に一つさみしい花、)
装飾(梢のさきは/月に触れ、)
雪は何をささやいたか(をかの麦畑は青青と)
暴風雨の中にて(海岸にでてみると)
聖誕日の詩(どんなところへでも)
喫茶のとき(そとでは雨がふつてゐる)
燕の詩(つばめ/つばめ/うまれたさとがこひしい)
妻に語る(自分もたうとう四十になつた)
燦爛たるもの(まいばん、まいばん/くもつてさへゐなければ)


童謡(民謡その他)拾遺

童謡詩(けふも頬白《ほほじろ》と/チルチル/ミチル)
童謡詩(麦を刈れ/麦を)
薄暮《くれがた》(鬼灯《ほゝづき》ちやうちんぶうらぶら)
連枷《からさを》の音にあはせて(とんとん/それ、打て)
おもひで(汐がれた/浜の/草にも)
鰹ばな(浜の/まひるの/鰹ばな)
閑古鳥(かツこう/かツこう/閑古鳥)
紙鳶《たこ》のうなり(紙鳶のうなりに/うかびくるふるさと)
復活節(燕よ、燕よ/またきたか)
蛆蛍(逢ひにきたのか/ぴつかり、ぴつかり)
春(ひんひん/おうまの/馬の市/雪どけ/どろみち/あぶないぞ)
磯浜(水がぬるめば/雑魚《ざつこ》もはねる)
馬鈴薯《じやがいも》の唄(庭頭《にはさき》の/どてしたを)
朝の月(朝の畑に/お月さん)
鬼灯(冬の日向で/ぶうらぶらしてる)
拾つた小石(くやしまぎれに/ひろつちやみたが)
新築落成式の歌(鳥海《てうかい》の峰いや峻《たか》く)
初雪の唄(チユ チユク/チウ チユク/竹藪で)
燕の唄(海の彼方のこひしさに)
新磯ぶし(汐がれ浜だと/いはれて鳴くか)
天の掬紫に(千鳥ちりりり/なにゆゑに)
燦爛たるもの(まけ、まけ、/まくことに生きよう)
ふるさと(ふるさとの/ふるさとの/たよりには)

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