絆〜キズナ〜  残された道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第壱話 「ありが とうございました」

きつい。
息苦しい。
地獄の監獄のような場所に僕はいる。
満員電車だ。
いわゆる通勤ラッシュというものに僕は巻き込まれていた。
ま、いつものことなのだが。
それにしても、息苦しい。
電車が駅に着きそうな時を見計らって僕はドアの前に移動した。

プシュゥゥゥゥ。

駅に着き、ドアが開く。
外から涼しい風が入ってきた。
心地良い風だ。
そう思ったのもつかの間。
すぐに駅にいた人達が電車に入ってくる。
僕は手すりをしっかりと掴み、人の流れに巻き込まれないよう踏ん張った。

プシュゥゥゥゥ。

ドアが閉まり、電車が動き出す。
また地獄の始まりだ。
僕はふと上を見上げた。
この電車が通る駅の名前が書いてある。
えっと僕の行く駅は・・・・。
あと六つ。
僕は溜め息をついた。
・・・・・長い。
がっくりとうなだれて下を向くと。
自分の目の前に小さな女の子が立っていた。
身長は150cmくらいだろうか。
彼女はその小さな体で必死に圧力に耐えていた。
もちろん人の圧力だ。
彼女は下を向き、鞄を両手で抱えている。
僕に何かできる事はないだろうか。
・・・・・・そうだ!
僕は彼女の所にスペースができるようドアに両手を伸ばして踏ん張った。
僕の体とドアの間にスペースができる。
これで少しは楽になるだろう。
だが僕にかかる圧力はより一層強くなった。

「く・・・・」

あまりの圧力に声が出てしまう。
その時だった。
彼女が何かに気づいたようにキョロキョロ辺りを見回す。
そして。
僕のほうを向いた。

「あ・・・・」

彼女は一瞬僕と目を合わせると、再び下を向いてしまった。
一瞬だったので顔をしっかり見る事はできなかった。
ちょっと残念。
しかしこの体勢。
周りから見れば彼女が僕のほうに体を預けているように見えるだろう。
おまけに彼女の髪からシャンプーのいい匂いがする。
心臓がバクバクいってる。
緊張している?
僕は再び通過駅の欄を見た。
あと五つ。
ってことはあと15分くらいずっとこのまま?
僕は心臓の鼓動がより早くなるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜〜」

僕は駅に着くと近くあったベンチに座り込んだ。
そこからもう学校までは5分程度だ。
時間はまだまだある。
僕は疲れを取るために腰かけていた。
しばらくすると目の前に人の気配がした。
顔を上げてみると・・・。

「あ・・・」

そこには女の子が立っていた。
目が合うと下を向いた。
モジモジしている。
しかし、10秒程たつと彼女は顔を上げた。

「あの・・・・」

柔らかな頬のライン。
綺麗な二重まぶた。
肩くらいまで伸びている髪。
すごく整った顔をしていた。
今まで会った女の子の中では最高だ。
相変わらず彼女は可愛らしくモジモジしている。
僕と目も合わせていない。

「さっきは・・・・その・・・ありがとうございます」

え、さっき?
この子に僕は何かお礼を言われるような事をしただろうか?

「その・・・電車の中で」

ああ。
思い出した。
さっき電車の中で僕の前にいた女の子だ。
スペース作ってあげたんだっけ。

「そんな・・・お礼を言われるような事してないよ」
「でも・・・本当にありがとうございました」

そう言うと彼女はペコリと頭を下げた。
ただの礼なのに何故か可愛らしく見える。
きっと可愛いからかな。
僕はそういう事だと納得した。

「私・・・藤咲雪(ふじさき ゆき)って言います。あの・・・あなたの名前は・・?」
「僕?僕は窪塚終(くぼづか しゅう)」
「窪塚さん・・・・」
「そう」
「あの・・・時間無いのでもう行きますね。窪塚さん、本当にありがとうございました」

彼女は礼をすると、走っていってしまった。
最初はおとなしい子かと思ったけど最後のほうでは結構明るい子になっていた。
きっと明るい子なんだな。
藤咲雪って言ったっけ。
やっぱ可愛い。
名前も可愛いし。
僕は彼女の事をしばらく考えていた。

キーンコーンカーンコーン・・・・。

「やべっ!遅刻遅刻!」

僕は学校に向かって走り始めた。

 

 

 

 

 

 

2001年 12月1日 晴れ

この日、僕達の運命の歯車がゆっくりと回り始めた・・・・。






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