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ある病院の一室。気の狂った笑いがこだました。 壁、天井、窓の縁に扉。すべてが白に彩られた病室。 清楚感漂う奇麗な病室に気の狂った笑いがこだました。 「へへ、ふへへ。ぐっふっふ。あははははは!」 ベットは計四つ。テレビが置かれていないこの部屋には、 一つだけラジオが置かれていた。白い世界に木製のそれが良く映える。 流れる音楽はクラシック。流暢なモーツアルトの調べに、 気の狂った笑いがこだまする。 窓は二重窓。外からも中からも音が漏れることはない。 「ひゃひゃひゃ。」 見開かれ、今にも眼球がこぼれそうな勢いで笑う男。 見つめる白い天井と壁に、彼は一体何を見い出しているのか。 例えばここで彼の口を塞ぐとしよう。きっと彼は内側からの衝動に 耐えきる事なく破裂するのではないだろうか。それほど狂っている。 静かに病室の扉が開いた。少し桃色にちかいがあくまで白色の服。 入室してきた女は静かにカートを押し進めた。 「お、美人さんの登場だぁ。いいねぇいいねぇ、ここは天国だ。 ベット付きで三食飯あり。おまけに美人さんが世話をしてくれる。 う〜ん、まさに天国。でも俺だけ天国にいるのは申し訳ねぇ。 美人さん、何時でも俺が天国に送ってさしあげるぜ。ひっ、ひひ。」 女は動じない。表情も変わらない。針をパックから取り出すと、 慣れた手つきで注射器を準備する。 「薬の時間です。腕を出してください。」 初めて口を開いた彼女の顔に表情は、ない。舐め回すような視線を 受け流し、注射を行う。男の腕から血がにじむ。 「またか。少しは口を慎めないのかね。レディに対して失礼ではないか。」 落ち着き始めた男を非難する様に、もう一人の男が口を開いた。 「そうだなぁ。いつもの事とはいえ、彼の好色には呆れてしまうよ。」 そこまでの会話ではじめて振り返る女。かすかに表情に笑いが浮かぶ。 「いえ、慣れてますから。」 「君も大変だねぇ。それはそうと、また先日○○○社の株が落ちてきたよ。」 「困ったねぇ。この不況はどこまで続くのかねぇ。」 女は複雑な表情でそれを聞く。狂った男は眠りについている。 「今日もお疲れさまだ、一枝さん。」 「正直、彼女は頑張っているよ。なぁ、そうおもわないか。」 「そうだな。まったく、えらい事だ。」 「ありがとうございます。」 そうして彼女は注射器を片付け、カートを押した。 「帰るのかい。ご苦労さま。」 「ありがとう。でも一さん。」 「何だい。」 「一人二役の会話、止めないと何時までたっても退院できませんよ。」 「いいのさ。なんて言ったって、ここは天国なんだから。」 「それには私も同感だ、一。」 「そうおもうだろう、二。」 女は複雑な表情を浮かべた。一礼してカートを押す。男は手を振って答えた。 「そうここは天国だ。」 男の声がこだまする。白い病室にこだまする。白く、奇麗な病室で、酷く、 乾いた、男の言葉がこだまする。静かに余韻を残し、白い言葉は静かに姿を消したのだった。 |