新推理・狭山事件1 殺害現場はどこか

            ー四本杉、西富源治方、真犯人X方(自宅又は仕事場)             

 

 

甲斐仁志 

 
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  論点整理表と14の新推理 

 

『狭山事件を推理する』HP復刻版

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冤罪考

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新推理・狭山事件

 はじめに

1 殺害現場はどこか

2 脅迫状の詩的表現技法
3 誕生祝いの最終食事
4 強姦か合意の性交か
5 単独犯か複数犯か
6 線状擦過傷の謎
7 虫害が示す犯行現場
8 背後からの腕締め
9 後頭部の傷は死後
10 合理的捜査か差別捜査か
11 「引っ掻き傷」の男
12 佐野屋から歩いて30分
13 強姦殺人か和姦殺人か

  14 真犯人への2つの道  

15 犯人仮説の無矛盾性

16 犯人は推理小説ファン

17 1/840万の強姦殺人仮説

18 「前の門」「少時様」と3裁判官  

19 棍棒は「つっかえ棒」

20 リヤカーで運んだ死体

21 「営利誘拐」の罪名外し

  22 吉展ちゃん事件の真似か

23 死体埋没時刻再考 

24 第3の木綿ロープ

25 どこに死体を埋めるか

26 玉石は塞ぎ石

27 犯行現場不在証明

28 誘拐・強姦は雨天決行?

29 張り込みを知る男

30 3人目の宛名

31 狭山目撃犬裁判

32 狭山湖4人組強盗事件

33 無秩序型か秩序型か

34 赤色粘土が示す犯行像

35 乳房の土

36 全足跡の追跡

37 犯人の移動経路

38 チョッキとスカートの付着物

39 自己主張する善枝さん像

40 スコップは偽物か偽装か 

41 ソネット形式と詩的漢字使い

  42 中・将田らの犯人像・犯行像

43 「人」表現は歌詞から?

44 「万葉仮名的当て字」の罠

45 「かい人21面相」を超える真犯人 

  46 脅迫状の12の偽装工作  

47 芭蕉と晶子と脅迫状

48 死にいく子に生死占って、通夜・溺死なしへ」

  49 最終目撃者の最終推理 

 

 

 


Geolog

ー推理・狭山事件ノートー

 

 

 

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甲斐 仁志

筆者自己紹介

 

 (1) 物的な裏付けのない殺害現場・四本杉

 石川さんの自白では、中畑善枝さんを殺害した現場は、死体発見現場近くの雑木林の四本杉の一番北側の杉の木のところとなっており、2審確定判決もそう認定している。

 

四本杉と死体発見現場

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  一方、善枝さんの後頭部には、長さ約1.3僉0.4mm幅の創傷があり、深さは帽状腱膜に達し、創底と創壁には「凝血」があり、裂創の下には「母指頭大の頭皮下出血斑」があったという。解剖した五十嵐医師は、これを生前の傷とし、「本人の後方転倒等の場合に鈍体(特に鈍状角稜を有するもの)との衝突等により生じたとみないしうる」としている。五十嵐医師は後ろから鈍体で殴った可能性を否定しているが、この点は、別の機会に検討したい。

 私は小学生の時に走っていてモルタル仕上げの調理室の角に頭をぶつけて1僂曚廟擇辰燭海箸ある。すぐに傷口を押さえたが、その時の出血は多くてシャツを汚し、壁や廊下にも血を付けてしまった。また、長男が幼児の時、溝に落ちてコンクリートの角で後頭部を切ったことがあったが、医者に運ぶまでの出血でタオルは血を吸って重くなってしまった。どちらも、2〜3針縫う傷であったが、頭を傷つけた場合の出血は手足を切った場合などと較べて、格段に多い。

 6月23日、石川さんが犯行現場の図面を書いた時、警察は直ちに現場を捜索し、善枝さんの「血痕」や「毛髪」、「鈍状角稜を有する鈍体」などの発見に全力を尽くし、もしそれらが現場にあれば検査・記録し、凶器となった石などを押収したはずである。

 

四本杉の根元とみられる捜査写真

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  普通なら、これで事件解決である。実際、捜査本部は6月21日の鞄の自白の際には、自白図面をえて、当日、直ちに2度にわたって現場を捜索し、鞄を発見したことになっている。

 ところが、この決定的に重要な殺害現場について、自白図面を書いた6月23日には行ったに違いない捜査報告書は隠され、何の物的な裏付けも提出されないままに、1・2審は石川さんに有罪判決を下した。

 しかしながら、上告審段階での証拠開示により、死体を一時、隠したとされる芋穴については7月4日にルミノール反応検査(血痕反応検査)が行われ、陰性であったことが明らかとなった。さらに、再審段階に入り、弁護団の元埼玉県警鑑識課員の松田技師に対する調査により、殺害現場においてルミノール反応検査を実施したが、陰性であったという新証言をえた。弁護団は直ちに証拠開示を請求したが、未開示のまま、第1次の再審請求は棄却された。

 

(2) 開示証拠により、犯行現場の確定判決は崩壊

 第3次再審請求に至り、2011年3月23日(水)に開催された再審弁護団と裁判官、検察官の3者協議の際、検察官はようやく3つの新証拠を開示した(『解放新聞』2011年4月4日号)。

 昭和60年2月25日付の担当検事が松田技師に聞いた電話聴取書は、松田技師は雑木林についてはルミノール反応検査をおこなった記憶がない、という内容。次に、その後の電話聴取では、2人の検察官の名前が書かれ「のちにやった、陰性だといっている」という走り書きがあり、今回、書面化されて出された。

 第2次再審段階では、担当検事が東京高検の公判部長に当てた報告書が提出され、松田技師に話を聞き、雑木林の松数本の根本から約1メートルの高さ、および根元の地面にルミノール試薬を噴霧した、という内容であった。

 これまで、検察側は1次・2次再審を通し、警察が殺害現場のルミノール反応検査を行い、その結果は陰性であったことを把握していたにも関わらず、証拠隠しを行っていたのである。村木事件における、大阪地検特捜部の前田元主任検事のフロッピーディスクの日付改竄後の特捜本部幹部と同等の証拠隠しの犯罪といわなければならない。

 被害者を「松の木」に縛り付け、「四本杉」の根本で後方に押し倒して強姦・殺害し、「芋穴」に隠した、という自白の流れの中で、「松の木」と「芋穴」には血痕はなかった。当然、「四本杉」の根本についてもルミノール反応検査が行われ、結果は陰性であったことが明らかである。

  さらに弁護団は、この雑木林に隣接した桑畑で、当日、同時刻に農薬散布を行っていたという小野木武さんの証言(「狭山事件を推理する 第3章 最終目撃者」参照)を提出している。

 

小野木さんの畑と自白の強姦・殺害現場「四本杉」

 

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  もし農作業者を犯人が見かけたなら、その目の前の雑木林で犯行を行うことはありない。また、善枝さんは助けを求め、逃げ出すであろう。一方、小野木さんは、善枝さんの悲鳴も、助けを呼ぶ声も聞いていない。

 

自白では松の木に被害者を縛り、右方の四本杉の根元で強姦・殺害したことになっている

(向こうの正面の畑で小野木さんは農作業し、その右手の道路に車を停めていた)

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 自白の要である殺害犯行現場に関する自白が嘘であることは明らかである。自白に依拠した確定判決の崩壊は明白であり、直ちに、再審開始が決定されるべきであろう。

 

(3) 犯行現場は屋内

 この事件で、被害者の死体は畑の真ん中の農道に埋められていた。

 「狭山事件を推理する 第11章 犯行時間」で明らかにしたように、死後8〜10時間以上仰向けにされていたことを示す背中の死斑、被害者が行方不明になった1日16時20分から翌2時50分にかけての激しい雨にもかかわらず荒縄と較べて衣服や靴はしめった程度であったこと、2日の2時30分〜3時頃に死体発見現場から北の方に向けて犬が次から次に吠えたという田辺ナミさんらの証言、2日朝に現場を目撃した佐々木要之助さんの「その土のところは平らになでてありました」「しろくかわきかかっていた」という供述などからみて、死体が現場に運ばれて埋められたのは、雨があがった2日の午前2時50分以降であり、犯行は雨のかからない屋内で行われ、その時刻まで雨がかからない場所に死体は8〜10時間以上、上向けに置かれていたことは確実である。

 さらに、雑木林でルミノール反応がでなかったことや、善枝さんの衣服、膝まで脱がされた綿のパンティや綿のソックス、靴など、どこにも雑木林特有の枯れた松葉や樹皮、木の葉などのかけらが付着していなかったこと、後手に縛られた善枝さんのむき出しの手や下肢、臀部など、どこにも地面にこすったような後がないことなどからみても、この雑木林での強姦・殺害自白は否定される。

 また善枝さんの傷からみて、後方転倒等の場合にぶつかったとしたらその「鈍体(特に鈍状角稜を有するもの)」は石の可能性が高いが、現場の写真を全て見るとともに雑木林にも何度か足を運んだが、林の中は腐葉土に覆われていて地表面には石は皆無であった。このあたりの畑や農道を見ても、厚い関東ローム層に覆われ、石を見つけることはできない。たまに掘り起こされた畑の中にあっても、手にもって握ると隠れてしまう位の小石で、仮に地面の上にあったとしても柔らかい腐葉土がクッションとなり、長さ約1.3僂發僚をつけることは考えにくい。

 善枝さんの後頭部の傷からみても、雑木林などでの屋外犯行はありえない。

 

(4) 西富源治さんの新築の家は犯行現場か?

 そこで、亀井トム氏の『狭山事件 第1集』『同 第2集』や伊吹隼人氏の『検証・狭山事件』に登場するのが、元中畑家の作男で、6日に自殺した西富源治さんの新築の家が殺害現場である、とする説である。

 亀井トム氏は善枝さんの兄の中畑賢一さんが主犯で、山田養豚場の長兄の虎蔵さんらと西富源治さんの4人共犯説、伊吹隼人氏は中畑家に恨みを持つ主犯が山田養豚場の虎蔵さんらを雇い、西富源治さんが犯行場所を提供し、善枝さんの同級生が誕生祝いに呼び出したというものである。

 しかしながら、この西富源治さん方犯行現場説は、物証を総合的に見ると、矛盾に満ちている。

 第1に、西富源治さんは容疑者として身辺捜査され、自殺後には自宅は家宅捜索されている。しかしながら、犯行の痕跡(血痕・毛髪など)は見つかっていない。

 第2に、建て込んだ新興住宅地の西富源治方の東・北・西には隣家に囲まれており、隣家の主婦の事件当日の証言も見られる。もし、西富さん方に男女が集まり、誕生祝いの食事をし、強姦に及ぼうとしたら、その騒ぎは近所の人に気付かれた可能性が高い。この最終食事については「新推理・狭山事件3 誕生祝いの最終食事」で詳しく述べたい。 

 第3に、当日は荒神様の祭りがあり、西富源治さん方の前の東西の道を通り、北へ向かう人も多かったと思われ、現に、西富源治さんの同僚が荒神様に行く際に西富さんの家を覗いたという供述がある。もし、善枝さんが第1ガードから荒神様、さらに西富さん方へ自転車で通ったなら、目撃者がいた公算が高い。もし西富源治さんや中学時代の同級生が誘い出したというなら、そのアベック姿は目立ったに違いない。

 第4に、西富源治さん方が強姦・殺害犯行現場だとすると、死体をそこから約400mも遠く離れた畑の中の農道まで運び、埋めなければならない理由がない。下の写真を見て頂ければわかるが、西富源治さん方の北側や東側、南側などは畑や雑木林である。それを飛び越えて、重い死体を約400mも抱えて死体発見現場まで運ばなければならない理由がない。

 

西富源治さん方と死体発見現場の位置関係(西から東方向)

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死体発見現場と西富源治さん方の位置関係(東から西方向)

 

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  第5に死体には下川昇一さん方から盗まれた荒縄や、出所不明の木綿ロープが付けられていたが、西富さん方から死体を運ぶなら、最長7mもの長い荒縄4本と木綿ロープを足首に付け、首に木綿ロープを付けなければならない理由がない。雨に濡れた荒縄は、重くて邪魔になるだけである。なお、荒縄を死体運搬に使ったという捜査本部の見方も見られるが、死体に荒縄が擦れてできる擦過傷などの痕跡は残されていない。

 また、新築したばかりの西富源治さん方の写真を見ると、まだ外には工事資材などが写っており、材木などを縛った荒縄や、家具や荷物運搬に使ったロープなどは多数あったはずであり、わざわざ下川昇一さん方の庭の境に張ってあった荒縄を、危険を冒して盗みに行く必要がない。

 第6に、西富源治さん方から東に向かう道の両側などには10数軒の民家があり、犬を飼っている家もあった。夜間に荒縄を盗みに往復し、複数の男が死体を抱えてその前の道を移動したなら、田辺ナミさんや加藤年子さん、下川昇一さんなどが深夜に聞いた犬たちの吠え声のように、人の動きにあわせて西富さん方から東、さらに南へと番犬が順に激しく吠えたはずである。

 田辺ナミさんは、夜の2時30分〜3時頃に家の東から北に向かって人が歩くのを追尾するように犬が順に吠えたと述べており、真犯人は犬に吠えられない方角(東)から死体を運び、埋めた後に北に向けて歩いている。西富さん方からの死体運びだし説は否定される。

 第7に、死体を埋めるには、西富さん方のスコップや下川昇一さんの家の南側の建築中の家、東中の工事現場などからスコップを盗み出して使えばよく、山田養豚場から飼料攪拌用のスコップを持ちだし、しかも現場近くにスコップを遺棄することは考えられない。

 なお、これまでこのスコップは警察のでっち上げという主張については、「推理・狭山事件40 スコップは偽物か偽装か」を参照されたい。

 第8に、佐野屋で警察官4人と民間人3人(吉沢健一先生を入れると4人)が犯人の声を聞いている。犯人を取り逃がした3日朝には、張り込み包囲網の中にあった山田養豚場に行き、犯人の声を聞いた警察官が似た声の人物を捜したはずである。もし真犯人が山田兄弟であれば、事件は3日午前中には解決したに違いない。

 

(5) 殺害現場は狭山湖の湖畔か?

 他の推理では、殿岡駿星氏の『狭山事件の真犯人』がある。兄の賢一さんが下校途中に善枝さんを車に載せ、狭山湖近くの車内かホテルでセックスした後、争いになって湖畔で殺害した、という推理である。

 伊吹隼人氏は亀井トム氏の4人共犯説から兄の賢一さんを外し、中畑家に恨みを持つ主犯Xと山田養豚場関係の1〜2人、西富源治さん、中学校時代の同級生を加えた複数犯説であるのに対し、殿岡駿星氏は、亀井説から山田養豚場の長兄と西富源治氏を外し、兄・賢一氏の単独犯行とした説である。

 しかしながら、佐野脇に現れた犯人の声を張り込んだ何人もの警察官が聞いており、賢一さんの単独犯行が見過ごされるということはありえない。筆跡についても、容易に対照できたはずである。私は賢一さんの手記を丹念に調べたが、筆跡に類似点・一致点はなかった。

 また、殿岡説ではドライブインかレストランで食事をしたことになっているが、小豆を含む赤飯などを出す店があったとは考えられない。また、顔写真とともに善枝さんが行方不明になったことが大々的に新聞・テレビで報道されてながら目撃者が名乗り出なかったことからみて、そのような外食は考えにくい。また、「きょうは私の誕生日で、家で赤飯を炊いて待っているから(産経新聞)」「早く帰ってお誕生日のお料理をつくらなくっちゃ」(週刊現代)と善枝さんが級友に告げていることからみても、外食は考えられない。

 さらに、もし狭山湖畔が犯行現場なら、脅迫状に「子供わ西武園の池の中に死出いる」(注:西武園の池=狭山湖)と書くことは心理的にみて考えにくい。「新推理・狭山事件32 狭山湖4人組強盗事件」で見るように、犯人は「狭山湖4人組車犯強盗事件」をヒントにして、自動車犯を偽装するために脅迫状に「西武園の池」を付け加えたものである。

 

(6) 犯行現場は真犯人Xの自宅か仕事場である

 人口3.5万人の当時の狭山市において、善枝さんが下校後、数人に目撃された後の足取りが不明で、誰かと食事をしてセックスし、言い争う声や悲鳴を聞かれることもなく殺害されたとなると、その場所は自ずと絞られてくる。

 同時代を人口40万人の地方都市で過ごした私の経験からしても、自宅や彼女の家で、家人や隣人の人目につかずにセックスするのは大変であった。当時、利用した経験はないが「ラブホテル」は駅前立地であり、車で行く郊外型となると殿岡説のように狭山湖畔となるのかも知れないが、フロントなどの人目を避けることはできなかったのであろう(大学時代にラブホの受付のバイトしていた友人の話である)。

 このような状況で目撃者がいないということは、最後に目撃された第1ガード−坂口自転車店から、善枝さん自身が人目を避けて真犯人X方かその仕事場を訪れた可能性が高い。殿岡説のように犯人の自動車に乗った、という可能性もないわけではないが、当時の自動車の普及状況からすると、かえって人目に付く可能性が高かったと思える。

 さらに、真犯人X方又はその仕事場は、人目があり、隣家の声が聞こえやすい建て込んだ市街地のアパートや西富源治さん方のような新興住宅地は考えにくい。農村地帯の雑木林に接した独立した借家や戸建て住宅で、独身か、共働きの妻が不在の核家族の男性(例えば、妻が里帰り、出張、入院など)に限られよう。しかも、善枝さんと顔見知りということになれば、善枝さんの家族と親しい男性(家に出入りしている兄や姉の友人・恋人など)か中学校時代の教師・同級生などに絞られる。

 善枝さんに暴行・抵抗傷がないことや、この事件の数々の偽装工作(脅迫状の万葉仮名的用法、死体埋没現場、荒縄・木綿ロープ、手拭・タオル、スコップ、足跡など)、善枝さんの手帳が未発見であることなどを考えると、真犯人Xは善枝さんと親しい男性に限られ、犯行現場はその自宅か仕事先しかありえない。

 110505→120209→0810→130817  甲斐仁志

 

 

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