総合推理・狭山事件5 教師か詩人か?

 
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 これまでの検討で、善枝さんを誕生祝いの食事で呼び出し、性交した上で殺害した真犯人は、最初から善枝さん殺害を狙い、綿密な犯行計画を立て、脅迫状を用意していたことを明らかにしてきた。

 さらに真犯人を絞り込んでいきたい。

 

1 最終食事と性交・殺害・強迫状訂正から絞り込まれる犯人像

 「総合推理・狭山事件」の4回の検討で明らかとなった犯人像は次のとおりである。

 

 |羈愡代に善枝さんと親しくなれる機会のあった人物である。

◆‥時では珍しい「手づくりの誕生祝いの食事」の文化を持っていた。

 赤飯を炊くとともに、当時は珍しいトマトを料理に使うという、和洋の料理の経験・文化があった。

ぁ仝綰悵未任寮交からみて、事務所や屋外、浴室などでの性交など、性経験が豊かであるとともに、善枝さんに対して支配的な関係にあった人物である。

ァ|算間で被害者を失神させる、柔道やレスリングなどの「裸締め(スリーパーホールド)」の経験があった。

Α)年筆又はペンによる筆記に馴れており、犯行現場には万年筆又はペン・インク瓶があった。

А〜瓜泙気鵑鮖Δ気覆い函⊃箸稜北任鮠靴人物であった。

─〕虜枩源Δ兄件と吉展ちゃん事件を組み合わせて、独創的で緻密な犯行計画を立て、脅迫状を書くことのできる人物であった。

 夜間、死体を遠くに運んで深く埋め、警官が張り込んでいることを知りながら10分近くも佐野屋で姉とやりとりした行動からみて、犯人はリスクを冒して冷静に行動できる度胸と体力のある人生経験豊かな人物である。

 親しい高校生を殺害するとともに、被差別部落民、特に山田養豚場関係者に悪意を持ち、身代わり犯人に仕立て上げることを躊躇しない冷酷な人物である。

 

 この10の犯人像からみて、犯人は善枝さんの身近な親しい人物で、西洋文化を身につけ、単身生活で料理に馴れており、性交体験が豊富で、柔道などのスポーツ体験があり、万年筆・ペンを普段に使う仕事につき、社会的地位がある、という人物像が浮かび上がってくる。

 石川さんなど山田養豚場関係の若者は、 銑の全てに該当しないことは明らかである。

 実家から離れて暮らしたことがなく、誕生祝いの料理づくりの発想などなく、料理経験や性経験、危機を乗り越える人生経験などの乏しい同級生や農家の青年などもまた、

この 銑には符合しない。

 善枝さんの中学校時代の生活圏から考えて、犯人は善枝さんとの日常的な接触があった、中学校の教師、兄の賢一さんの同級生、姉の恋人(後の婚約者)や友人などの年上の男性に絞られる。

 

2 脅迫状から絞り込まれる犯人像

 善枝さんの行動と死体、犯行計画と犯人の行動分析から、さらに具体的に犯人像を絞り込むことができる手掛かりは脅迫状である。

 

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 この脅迫状について、2審寺尾判決は「『りぼん』その他の補助手段を借りれば、本件の脅迫文自体、ごくありふれた構文のものであるだけに、作成が困難であるとは認められない」としている。

 しかしながらが、私が長年、多くの大卒の研究員の計画書を手直して赤を入れ、文章作成を指導してきた経験に照らして、例え、手本になる計画書類があったからといって、すぐさままともな計画書が書けるようになることは絶対にあり得ないと断言できる。少なくとも5〜10年、毎日、文章を書き、チェックを受けていないと、まともな計画書作成などは無理である。

 少女漫画を手本にし、吉展ちゃん事件の犯人の脅迫電話をテレビやラジオで聞いたからといって、普段、毎日のように文章を書いていない人物が、このような脅迫状を作成することは絶対に無理である。

 この脅迫状について、狭山弁護団は当時の石川さんにはこのような脅迫状は書けなかった、という国語学や教育者、書道家、教育学者、句読法研究者など、多数の専門家の鑑定書・意見書を提出してきたが、脅迫状から真犯人像を推定する、という作業については行っていない。これまで、このテーマに正面から取り組んだのは亀井トム氏だけであった。

 私は、亀井トム氏の『狭山事件 第1集』を参考に、前著『狭山事件を推理する』の「第6章 情報過剰性」「第7章 脅迫状」「第16章 前の門」「第17章 脅迫状の作成」や、「新推理・狭山事件2 脅迫状の詩的表現技法」、「真犯人仮説・狭山事件」などで次のような犯人像を明らかにしてきた。

 

  惷眛鷭祝円』は「会計に縁がある」用法である(亀井トム氏)。

◆ 愍時様』を斜め2重線で見え消しにしているのは、「会計帳簿の抹消の仕方」(同)である。

 犯人は、英語・理科の教師、理系の技術者、経理事務職(亀井氏)など、毎日のように横書きの文を書く機会があった人物である。

ぁゞ芝状の「結起承転」型の文章からみて、犯人は記者や編集者、報告・発表機会の多い会社員・教師などに絞られる(これは私の記者、会社員としての30年あまりの経験に基づいている)。

ァ 峪Δ后廚鬘議未蠅琉曚覆詆集修能颪い討い襪海箸らみて、表現力が豊かであり、文章を推敲する訓練を行い、身につけている。

Αヾ訴検Ω妬犬覆匹痢愍時(しばし)』の用法を知っている(松本健男弁護士)。

А 嵋葉仮名的漢字用法」(大野晋氏:学習院大教授)を知っている。

─ ̄兒蹐痢屐―(マル・ダッシュ)」「―(ダッシュ)」の句読法(大類雅敏鑑定人)に親しんでいる。

 犯人は「行分け」「連」「体言止め」「擬人法」「対句」「倒置法」「反復法」「呼びかけ」「省略」「押韻」と、12の詩的表現技法のうち、10の詩的表現技法を駆使しており、詩作経験の豊かな人物である(東日本部落解放研究所狭山部会HP『冤罪・狭山事件研究』の「無実の証明11 脅迫状に見られる詩的表現技法の分析」参照)。

 

表 脅迫状に見られる詩的表現技法

詩の手法

脅迫状の例(1例のみ選んで掲載)

1 行分け

行分けを行う。

友だちが車出いくからその人にわたせ- 

時が一分出もをくれたら 子供の命がないとおもい。-

2 連

何行かで内容上のまとまりを作り、一連とする

くりか江す 刑札にはなすな。

気んじょの人にもはなすな 子ども死出死まう

3 体言止め

文末を名詞で止める

小供は死。

4 比喩

他の何かに言い換える  

 

5 擬人法 

人間のように言い表す

時が一分でもをくれたら

6 対句

対立する言葉や似た言葉などを並べる

もし車出いツた友だちが〜か江て気名かツたら、〜。

もし車出いツた友だちが〜か江て気たら、〜。

7 倒置法

強調点を先にもってくる

金二十万円女の人がもツて

8 反復法

同じ言葉や表現を反復

刑札にはなすな。気んじょの人にもはなすな

9 呼びかけ 

呼びかける表現を使用

少時 このかみにツツんでこい

10 省略

あるべき言葉をわざと省く

 子供の命がほ知かたら(「子供の命がおしくて、子供を返して欲しかったら」を省略)

11 押韻 

行頭、行末を同音にする

刑札にはなすな。気んじょの人にもはなすな

12 連用形止め 

 用言(動詞・形容詞等)の連用形で文を止める

 

注:「脅迫状に見られる詩的表現技法の分析」の「表 脅迫状と被害者兄の手記に見られる詩的表現例」を筆者が要約した。12の技法の分類はHP『中学受験(中学入試)専門 国語プロ家庭教師』による。

 

 犯人は「殺す」の脅迫に、直接話法は「ころしてヤる」だけで、他は「命がない」「小供は死」「死出いる」「死出死まう」という第三者的表現(間接話法)を使っており、小説などの創作経験がある人物である。

 

 ここでも、石川さんなど山田養豚場関係の若者は、 銑の全てに該当しないことが明らかである。

 犯人は日常的に横書きの文章を書く仕事に従事し、あるいは従事したことがあり、詩作経験豊かな人物である。

 

3.犯人は「気んじょの人」か?

 前著『狭山事件を推理する』を書いた時、私は中学時代の善枝さんの生活圏から考えて、犯人は中学校教師か、近所に住む兄や姉の友人・恋人で上田家にしばしば出入りしていた人物ではないか、という仮説を立てていた。

 善枝さんの自転車が誰にも目撃されずに自宅の納屋に返されていたこと、脅迫状に書かれた「気んじょの人にもはなすな」という誘拐事件には珍しい表記(過去に脅迫状で『他人又は察に知らせたら・・・』と指示したのは、沖縄の金城事件だけで、主犯は被害者方と親しい元中学校英語教師であった)、兄賢一さんの「犯人たるおまえに」の手記の内容などから、「第19章 黙劇者」を書いた時、犯人は被害者方の「気んじょ」の「賢一さんか登美恵さんの関係者」と想定していた。

 特に、姉の登美恵さんが自殺した時に婚約者の柳沢初男さん(米軍基地に勤務し、賢一さんの同級生で数軒先に妹が嫁いでいる)が通夜にも葬式にも呼ばれていないことから、「賢一さんか登美恵さんの関係者」に絞り込んでいた。

 しかしながら、脅迫状には次のような偽装工作が行われていた。

(1) 「友だちが車出いく」

 この偽装工作は見事に成功し、40名の張り込み警察官は遠巻きに幹線道路沿いに分散させられ、佐野屋脇にはわずか4名(実質2名)しか張り込まず、犯人を取り逃がした。

(2) 万葉仮名的漢字用法や片仮名表記など

 犯人の作文能力は非常に高いにも関わらず、脅迫状の漢字・仮名表記を低く見せる偽装工作に成功しており、捜査本部は「小学生くらい」「小学校卒業ていど」「学校にもほとんどいったことがない男」が脅迫状を書いたと推測し、捜査を山田養豚場に出入りする被差別部落関係者に絞った。

(3) 「1時かんご」と「30分たてば」

 犯人は「子供わ1時かんごに車出ぶじにとどける」と書き、佐野屋脇では「30分たてばかえらなくちゃならない」と言い残し、佐野屋から歩いてちょうど30分の被差別部落に捜査の目を向ける偽装工作を行っている。

(4) 「少時様」と「気んじょの人にもはなすな」

 封筒の最初の宛名の「前の門」のある「少時様」は、善枝さんの通学路に面し、被差別部落の外れにあった江畑昭司さん方に絞られる。犯人は脅迫状に「気んじょの人にもはなすな」と書くことにより、この被差別部落内に犯人がいると警察に信じ込ませる偽装工作を行っていた。

 私は、前著『狭山事件を推理する』を書いた時には、この最後の「気んじょの人にもはなすな」を、「犯人は上田家近所の人物で、上田家から善枝さんの捜索などを頼まれると困る人物」と見ていたのであるが、この(1)〜(4)の緻密に計算された偽装工作からみて、犯人は逆に「気んじょ」にはいない、と考えを変更するに至っている。

 そうすると、自殺した姉の登美恵さんの恋人(後の婚約者)など周辺の人物は消え、中学校教師か詩人であった兄の賢治さんの詩の仲間に犯人は絞られてくる。

 

4 他の状況証拠からの犯人像

 さらに、前著『狭山事件を推理する』やHP「新推理・狭山事件」「真犯人仮説・狭山事件」で明らかにした犯人像は次のとおりである。

 

 .好檗璽張泪鵑派生徒会長を務め、気が強い善枝さんが強くあこがれる人物であり、スポーツマンでリーダーシップのある人物である可能性が高い。

◆_反佑いない住宅、あるいは、人の出入りのない事務所など、簡単な料理ができる犯行現場が用意できる人物である。

 深夜に死体を被差別部落近くに運び、1mも深く埋めるなど、恐怖心に勝ち、計画どおりに犯行を行う強い意志と実行力を持った人物である。

ぁヾ蕕硫爾縫咼法璽襪寮擇戝爾鮹屬い禿擇あたらないようにし、タオルで目隠しして顔を保護し、死体をすぐに発見される人通りの多い農道に埋めていることからみて、犯人は通夜・葬儀において、善枝さんの死顔を見る可能性が高い人物である。

ァ〜瓜泙気鵑瞭上に玉石を置いていることからみて、魂の昇天を願う信仰心のある、一定の年齢の人物である。

Α“反佑亘拊罎PTA会長で防犯協会長であった牧田秀雄さん(佐野屋で登美恵さんに付き添った)か牧田さんに相談された善枝さんの中学校の担任の吉沢健一さん(佐野屋に張り込んだ)、上田さん一家などから、警察の張り込み体制を知っていた公算が大きい。

А〆缶邁囲討波反佑脇亡することも、声を震わせることもなく、「警察に話したな。そこに2人いるじゃねえか」などと10分近くも冷静沈着に行動・発言している。人生の修羅場を何度も経験しているか、武道などで胆力を鍛えている人物の可能性が高い。

─‥時の新聞記事によれば、佐野屋脇での犯人の声について、「犯人は中年男」「25〜35歳くらい」という判断をほとんどの人が示している。

 犬をてなづけて山田養豚場からスコップを盗み出して死体発見現場近くに遺棄していることや、職人タビの足跡を佐野屋脇や死体発見現場近くに残していること、身分証明書や脅迫状、自転車、スコップなどにはっきりとした指紋を残していないことからみて、犯人は推理小説や警察小説に親しみ、ヒントをえていた可能性がある。

 若い善枝さんを冷酷にも殺し、さらに被差別部落の人たちに罪をかぶせようとしたことからみて、犯人は自己の仕事や地位などを守るだけでなく、家族を守ろうという強い意識を持った人物の可能性が高い。

 真犯人は筆跡や音声、血液型などを調べられる捜査圏外の人物の可能性が高い。何度も取り調べられている山田養豚場関係者や自殺した西富源治さん、登美恵さんの婚約者の柳沢初男さんではありえない。

 善枝さんの担任教師であった吉沢健一さんが、2日に勇敢にも現場に張り込んだことは、吉沢さんに思い当たる真犯人がいた可能性がある。さらに、2審裁判の最終段階になって善枝さんを第2ガード下で目撃したことを明らかにしたのは、その人物に対して抱いていた疑惑の念が強くなっていた可能性がある。

 

5 最終推理

 現在、私は狭山事件の真犯人は「姉・登美恵さんの恋人(後の婚約者)や友人」の可能性はむしろ少なく、「中学校の教師」「兄の賢一さんの詩仲間」に絞られる、と考えている。

 期待して読んでいただいた読者のみなさんには申し訳ないが、これが私の現在の結論である。決め手となる対照筆跡が入手出来ない限り、現時点のデータではこれが限界である。

 しかしながら、石川さんの再審開始には、これで十分であると考える。20数年前の親友からの依頼には、これで応えることができたと確信している。

 裁判員裁判時代を迎え、いつまでも再審を裁判官任せにすることは許されない。しかしながら、再審裁判制度改革がすぐには実現されるとは思えない。とするなら、多くの国民の皆さんに裁判員になっていただき、この事件・裁判に対して評決を行っていただき、その世論で現在の裁判所に働きかける以外にありえない。

 皆さんのご判断を仰ぎたい。

 

 

                  2013年1月15日(130120修正) 甲斐仁志Yahoo!アバター


 

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