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笹下研究所・研究報告9

角度反転プリズムを使った立体写真の撮影

プリズムを走査して撮影する

原理実験考察


1.はじめに

 第1報第2報第8報に紹介した立体像の撮影法では、撮影レンズによる像の歪みが画質の劣化に直結する。このため撮影レンズには特に歪みの少ないものを使わなければならず、さらに高画質を追求するなら撮影像に歪みの補正をかけることも考慮しなければならない。
 一方レンチキュラーレンズをフィルムに密着して撮影する方法ではこのような問題は生じない。ただしこの場合には像の凹凸が裏返る現象を防ぐために、何らかの対策を講じなければならない。ここではプリズムによる角度反転を利用してこの問題を解決する方法を検討した。
 このアイデアは独自に発想したものではあるが、三次元画像工学(大越孝敬/著 朝倉書店)P79〜82によれば、同様の手法がすでに浜崎氏らによって実証されているとのことである。ただ完全に同じというわけではなく、着眼点には微妙な違いがあるため、ここでは出来るだけ独自性を主張できるように実験を行った。


2.原理

 ダブプリズムによる角度反転を使った撮影装置の斜視図を図9−1に示す。図中には装置を構成する光学要素のみが示され、これらを収納する暗箱と露光を制御するシャッターは省略されている。実施に際してはスリットに近接してスリットを開閉するシャッターを設置するか、レンチキュラーレンズの前にフォーカルプレーンシャッターを設けて露光を制御する。



図9−1 立体像撮影装置(斜視図)

 撮影フィルムには、第1の凸レンズと一列に並んだダブプリズム、第2の凸レンズ、スリットとレンチキュラーレンズを通じてピント面の像が投影される。ここで第1の凸レンズと第2の凸レンズはダブプリズムの列から等しい距離に置かれ、両凸レンズの焦点距離f1およびf2は等しく(f1=f2)、撮影フィルムは第2の凸レンズからその焦点距離f2だけ離れて置かれている。ダブプリズムは断面が底角の等しい台形である角柱プリズムであり、像回転プリズムとして知られているが、一方の斜面に入射した光線が、その入射角を反転して他方の斜面から出射する性質を有する。
 図9−2は装置を上から見た平面図である。本装置では第一の凸レンズからその焦点距離f1だけ離れた位置に撮影枠が存在し、この撮影枠の前後の像が撮影フィルムに投影される。なお水平面内ではスリットは機能を有さないので点線で表した。



図9−2 立体像撮影装置(平面図)

 撮影枠の中心からaだけ離れた位置から発した光線は、第一の凸レンズを通って平行光となるが、反射面を平行にして一列に並んだダブプリズムの列によって角度が反転した平行光となり、第2の凸レンズによって撮影フィルム上の中心からaだけ離れた位置に収束される。
 このようにして撮影フィルム上にはピント面の正立等倍像が形成されるが、このとき個々のダブプリズムが十分小さく多数並んでいれば、ピント面から発した光線の角度α,βと撮影フィルムにとどく光線の角度α',β'の大きさはほぼ等しくなる。

 さらに図9−3に示すように、撮影フィルムにはレンチキュラーレンズの働きにより入射光の角度分布に相当する像が形成される。



図9−3 立体像撮影の原理説明図

 図9−4は本装置の側面図である。本装置の上下方向の機能はスリットを絞りとした通常の平面像の投影装置である。この例ではスリットが第2の凸レンズの撮影フィルム側に置かれているが、第2の凸レンズとダブプリズム列の間でも良いし第1の凸レンズとダブプリズム列の間でも良く、また第1の凸レンズのピント面側に置くことも可能である。水平スリットの位置は視点の位置を決めるもので、ピント面から見たスリットないしスリットの像が視点となって、平面像のパースペクティブ(遠近感)を決定する。



図9−4 立体像撮影装置(側面図)

 三次元画像工学に掲載されている浜崎氏らの装置との違いはこのスリットにある。浜崎氏らはダブプリズムに切り込みを入れ、それを絞りとすることで被写体側とフィルム側を完全な対称形にしている。レンズの収差による画質の劣化を最小とするためには、このような対称形を採ることが有利と思われるが、パースペクティブを調整できる点や作り易さでは、スリットを別に設置する方に利があると考えられる。

 このようにしてフィルム上には、縦方向に通常の平面像で、水平方向には位置と光線の角度分布を表す像が記録されるが、この像は図9−5のように撮影時に使用したのと同じレンチキュラーレンズを重ねることで立体像として再生できる。図9−2において角度α',β'は角度α,βの角度が反転されたものであるため、遠近感の逆転する問題は起こらず正しい立体像が再生されるわけである。



図9−5 撮影像を表示する装置

 以上等倍像を撮影する装置について説明したが、拡大・縮小撮影をするためには第1の凸レンズと第2の凸レンズの焦点距離を異なるものとすればよい。このとき撮影倍率は、両レンズの焦点距離の比f2/f1に等しくなる。

 図9−1の装置を組み立てるためには、棒状のダブプリズムを多数用意しなければならないが、あまり一般的でないプリズムを多数購入することはコスト的に困難である。そこで図9−6,7に示すプリズムを走査する装置を使って実験を行うこととした。



図9−6 実験装置(斜視図)




図9−7 実験装置(平面図)

 本装置は高価なダブプリズムの代わりに、比較的安価で入手が容易な直角プリズムを用い、この頂角の部分を一部覆ってダブプリズムと同等の機能を持たせ、これを矢印の方向に走査して露光する。なお直角プリズムは反射面を合わせて二つ使うことで対称性を確保し、スリットはプリズムの近くに置きプリズムと共に動かす。こうして図9−1のダブプリズム列の機能を一対のプリズムで代行させる訳である。

 この方法では短時間の露光が難しく、視点によって時間差のある像が見えることなどの欠点があるが、他方固定されたプリズム列による立体像が連続に近い離散的多視点像であるのに対し、プリズムを走査して露光するため完全な連続視点像になるという優れた特徴もある。



3.実験

 レンズには安価なフレネルレンズを使用し、さらにレンチキュラーレンズにはキャノンの「3Dフォトフレーム」(市販品)に付属のレンズを使うことで、同「3Dフォトフレーム」をそのまま表示装置に利用できるようにした。
 詳細は下記の通りである。

 制作した撮影装置の内部を写真9−1に、外観を写真9−2に示す。

 

写真9−1 製作した撮影装置の内部



写真9−2 製作した撮影装置の外観 前(左)と後(右)

 撮影では被写体の照明に電気スタンドを使い、プリズムの走査は手動で行った。プリズムを走査することはシャッターの機能を兼ねるが、走査時間が約1秒になるようにゆっくり動かしてちょうど良い露出になった。
 この装置を使った撮影例を写真9−3に示す。ネガからコンタクトで印画紙に焼き付けるだけで、レンズを重ねて表示可能な立体写真になる。

 

写真9−3 実際の撮影例

 撮影例を3Dフォトフレームに入れ、視点を変えて二枚の写真を撮影したものを写真9−4に掲げた。ちょうど裸眼立体視の平行法の配置になっている。


写真9−4 3Dフォトフレームに入れた撮影例 二視点から撮影

 この方法で作成した立体像は、視点移動によって見える画像が切れ目無く変化し、ホログラムに近い印象を与える。



4.考察

 レンチキュラーレンズをフィルムに密着させて撮影する光学系は、撮影−印刷の倍率調整が不要なことや、撮影レンズの歪み(デストーション)によるピッチのずれを生じない点で優れている。一方でこの方法は感光面積の大きいシートフィルムを使う場合に適用するには良いが、受光面積が小さいCCDなどの撮像素子に使用するのは技術的に難しいと思われる。

 厳密に言えば、本装置によって撮影される像は被写体の鏡像になっているが、これはネガポジ反転時など後工程で解消することが出来るので本質的な問題にはならない。

 写真9−3のプリントをスキャナ(EPSON GT-9700F解像度1200dpi)で読み取りデジタルデータとしたものを、yahoo!フォトに公開した。ダウンロードして1220dpi程(プリンターによっては若干調整が必要)で印刷すれば3Dフォトフレーム用の立体写真になるが、やはりオリジナルに比べると画質はかなり劣るようである。



[特許出願済み]

はじめに原理実験

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