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笹下研究所・研究報告7

多視点像による立体写真の撮影と表示

相補的なレンズシートを使う

原理実験考察


1.はじめに

 前報までのレンズ板式立体写真は、原理的に大きな情報量を必要とすることや深度の深い像を得ることが難しい点など、特に動画に適用するには難しい点が多い。これに対して多視点像による立体写真は、フリップ現象などがあって見え方が不自然になるなど欠点はあるものの、技術的には容易で実現性が高いと思われる。
 今回は多視点像型の立体写真を容易に実施する手法を検討した。具体的には一台のカメラで多視点像を撮影し、撮影した多視点像をそのまま使って立体像を表示することである。


2.原理

 撮影装置の光学系を図7−1に示す。本装置では凹レンズが縦横に並んだレンズシートと凸レンズを通して被写体を撮影する。



図7−1 多視点像撮影装置(斜視図)

 側面から見た平面図(図7−2)を用いてこの機能を説明する。凸レンズの焦点距離をFとすると、カメラは凸レンズからF<Aである距離Aだけ離れた位置に置かれている。



図7−2 多視点像撮影装置(平面図)

 このときレンズシートの各凹レンズの中心を通ってカメラのレンズに至る光線は、


である距離Bだけ被写体側に離れた位置の一点で交わる。このことから各凹レンズを通して撮影される像は、この位置に撮影枠を持つ、各凹レンズによるカメラレンズの像を視点とした像であることが解る。

 結果としてカメラで撮影される像は行列状に並んだ多視点像となるが、このとき隣り合う像が平行法で立体視できる関係、すなわち右側にある像を右目で捉え、左側にある像を左目で捉えた時に正しい立体感が得られるように並んでいる。

 このことは後に説明する表示装置で表示するために重要である。逆に凸レンズを並べてフィルム上に多視点像を写す方法では、隣り合う像が交差法の関係、すなわち右目像が左側に、左目像が右側に並ぶ多視点像になり、そのままでは後の表示装置で表示することができない。

 図7−3に表示装置の光学系を示す。本装置では上記の撮影装置で撮影された多視点像の前に、各視点像と一対一に対応する凸レンズが並んだレンズシートを置き、各視点像が重なるように凸レンズ上に投影する。



図7−3 多視点像を立体像として表示する装置(斜視図)

 図7−4の平面図を用いて機能を説明する。スクリーンとなる凸レンズには各視点像がD/C倍に拡大されて投影されるが、このとき多視点像のピッチがレンズシートのレンズのピッチの1+C/D倍であれば、各像は完全に重なって投影される。



図7−4 多視点像を立体像として表示する装置(平面図)

 当然のことながらレンズシートの各凸レンズの焦点距離をfとすると以下の式が成り立たなければならない。


 一方スクリーンの凸レンズの焦点距離をGとするとG<Dであり、凸レンズから下記の式で表される距離Eだけ離れた位置にレンズシートの像が形成される。


 観察者の目をこの距離に置くとき、レンズシート像のピッチWが左右の目の間隔より小さければ、必然的に左右の目に異なる視点の像が捉えられることになり立体視が実現される。観察者が距離Eの前後にずれれば、位置によっては隣り合う視点像が混じって見えることがあり、図のように視点像の数が少ない場合には大きな問題となるが、視点像の数を数十〜数百と増やしていけば隣り合う視点像の違いが少なくなるため、混じってもあまり不自然に感じることがなくなると思われる。

 本表示装置では横の視点移動だけでなく、縦の視点移動に対しても像が切り替わり、より完全な立体表示に近いものになる。さらにレンズシートの像には切れ目がないため、この幅の内では像の見えなくなる位置が存在しない。



3.実験

 3行5列の15視点像と左右2視点像を撮影・表示する実験を行った。
 カメラには一眼レフカメラを使い、35mmカラーフィルムに撮影した後、フィルムをイメージスキャナで読みとりカラープリンタで印刷した。
 使用した機器と共通する条件は表7−1の通りである。

表7−1 共通データ

カメラ ZENIT 122B、50mm標準レンズ+接写リング
フィルム コニカカラー ISO100
絞り f16
露光時間 1秒
スキャナ エプソンGT-8300UF 読み取り解像度1600dpi
プリンタ HPdeskjet5551 4色印刷

3−1.3行5列多視点立体写真

撮影

 図7−1および図7−2の構成において、以下の通り装置を組み立て撮影した。

 

写真7−1 3行5列多視点カメラ

 撮影像を写真7−2に示す。

 

写真7−2 3行5列多視点像の撮影例

表示

 図7−3および図7−4の構成において、以下の通り装置を組み立て撮影像を表示した。



写真7−3 表示装置

 表示面に映った像を写真7−4に示す。



写真7−4 表示面


3−2.左右2視点立体写真

撮影

 図7−1および図7−2の構成において、以下の通り装置を組み立て撮影した。



写真7−5 左右視点カメラ


撮影像を写真7−6に示す。



写真7−6 左右視点像の撮影例


表示

 図7−3および図7−4の構成において、以下の通り装置を組み立て撮影像を表示した。



写真7−7 表示装置


表示面に映った像を写真7−8に示す。



写真7−8 表示面




4.考察

 3行5列多視点立体写真では上下左右に見る位置を移動すると像が切り替わることが確認できた。また予測通りではあるが、隣り合う像が混じって見える現象も多く見られ、見た目の印象を損なってる。さらにレンズ数を増やして実験してみる必要があると思われる。
 使用したレンズの質(収差)が良くないためか像の鮮明度は低い。特にレンズシートにはフレネルレンズではなく、普通の球面レンズを並べたものを使うべきであると思われる。

 左右2視点立体写真では観察位置を変えることはできないが、3行5列多視点立体写真より像自体の鮮明度が高いためか自然な立体感を感じる質の高い像を見ることができた。本装置では表示枠とピント面が一致しているため、目に特別な疲れを感じるようなこともない。

 撮影装置においてカメラにビデオカメラを使い、撮影像をビデオモニタの表示面に映して表示装置を作れば動画を撮影・表示できる立体テレビとなる。多視点像の数はメディアの情報量によって加減すれば良いから、この意味で応用範囲の広い手法であるといえる。



[特許出願済み]

はじめに原理実験

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