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笹下研究所

大深度接写撮影法

虫の目レンズを考える

原理実験考察

1.はじめに

Photo1   一般に接写は被写界深度が浅いという常識を覆した超深度接写レンズ(虫の目レンズ)が栗林慧氏によって製作され、同レンズによって撮影された写真集が発表されたのは2001年のことである。その後この虫の目レンズはマスコミでも取り上げられ注目されているが、同様のものがレンズメーカーによって製品化されたという話は聞かれない。
  超深度接写レンズによって撮影された迫力のある写真を見れば、自分も同じような写真を撮りたいと思う人は少なくないであろう。栗林氏は著書「栗林慧全仕事」の中で虫の目レンズの概要を記しており、専門メーカーであれば難しいことではないと思うのだが。

  ここでは被写界深度の大きな接写撮影をする方法について独自に検討した結果を報告する。
  右の写真は径15mmのアクリル球を接写したものであるが、球の外ではぼやけてほとんど見えない遠景の観覧車から近くの乾電池までが、アクリル球の中にはかなりはっきりと映っている。この原理を使って虫の目レンズを作ろうというのである。

写真1 アクリル球を接写した写真       ・

2.原理

  図1は小口径の対物レンズ(凸レンズ)と投影レンズからなる大深度接写レンズ系である。まず対物レンズによってレンズ間に被写体の倒立像が作られ、さらに投影レンズによって撮像面に正立像が形成される。ここで対物レンズには小口径かつ短焦点距離のものを使い、投影レンズには焦点距離が対物レンズの数倍以上あるもの使ってレンズ間距離Kを十分大きくとる。
Fig1

図1 大深度接写レンズ系

  対物レンズの焦点距離をfとすると、対物レンズから j=fK/(K−f) だけ離れた位置に j/K に縮小された投影レンズの像ができ、このレンズ系で撮影される像はこの投影レンズの縮小像によって撮影されるものと等価になる。このようにして小口径(瞳径)レンズで広角撮影をするという大深度撮影の条件が成り立つ。
  ピント調整は距離Kを変えて行っても良いし、距離Lを変えて行っても良い。投影レンズの焦点距離をFとすれば 1/F=1/c+1/L が成り立ち、図1のように撮像面が対物レンズより大きい場合には L>c として倒立像を拡大投影することになる。

3.実験

Photo2   35mm一眼レフカメラを使って図1の装置を組立てた。塩ビパイプと接写リングを組み合わせて鏡筒を作り、投影レンズには標準レンズ(50mm)をリバースして使い、対物レンズには直径10mmのアクリル球を使用した。
  L=300mmとし、Kは70mm前後で標準レンズのヘリコイドで可変し、ピントを合わせる。カメラの外観を写真2に示す。

  使用カメラ: ZENIT 122B
  対物レンズ: 10mmアクリル球
  投影レンズ: MC ZENITAR-K2 50mm/F2(リバースで使用)
  フィルム:  コニカ センチュリアスーパー100

写真2 大深度接写レンズを取り付けたカメラ      ・

  近くの被写体として単三乾電池を置き、遠景に観覧車が入るようにした写真を撮影した。投影レンズの絞りリングをF2とF16に合わせたものをそれぞれ写真3に示した。ISO 100のフィルムを使い晴天の屋外で撮影する場合、シャッター速度はそれぞれ1/125秒,1/30秒であった。

Photo3

写真3 大深度接写レンズで撮影した写真 (左)F2 1/125秒 (右)F16 1/30秒

4.考察

  虫の目レンズ並の被写界深度を実現するにはやはり絞りをF16程度に絞る必要がある。投影レンズの絞りをF16に合わせたときの実効F値は96となり、ピンホールレンズに近い値である。結局のところ画角を広げつつ絞りを小さく絞って被写界深度を稼ぐという、当たり前のことをしているわけである。
  栗林氏は著書の中で以下のように書いている。
 『 千葉大工学部応用物理学教室の田村稔教授が『コニカファミリー』誌に寄稿された「遠近感のあるマクロ写真」という小さな記事がたまたま目に止まった。・・・ (中略) ・・・ 田村教授は深度の深いピンホールカメラにレンズを組み合わせて、7枚の将棋駒が一列に並んだ奥行きのある写真を撮影しておられた。わたしはさっそく手紙を出してアドバイスを求めたが、実用化は難しいだろうというつれない返事であった。 』 栗林慧全仕事 P40
  田村教授の実験が如何なるものであったのかはわからないが、試しに0.8mmのピンホールとプラスチックレンズを組み合わせて写真4左のようなカメラを作り、撮影してみた。その結果は写真4右に示したが、歪みが少なく写真3より画質は上である。ISO 100のフィルムを使う時、晴天の屋外でのシャッター速度が1/15秒であるから、高感度フィルムを使えば手持ち撮影が十分可能である。ただしファインダーは絶望的に暗く、普通のレンズのように扱うことは困難である。
Photo4

写真4 ピンホールとプラスチックレンズを組み合わせたカメラ(左)とこれで撮影した写真(右)シャッター速度 1/15秒

  本報のように小口径の対物レンズを被写体に近づけて撮影する形態は栗林氏の虫の目レンズと共通するものであるが、虫などを接写する際には具合のよいものと思われる。実際晴天の屋外であればISO 100であっても1/30秒でシャッターが切れることから、ISO 400〜1600の高感度フィルムを使えば少々曇っていても撮影は可能で、決して使いやすいとは言えないが、良い写真を撮りたいという強い気持ちがあれば使いこなせないこともないだろう。
  本報の大深度接写レンズでは、一眼レフのファインダーで見る像が倒立像になるため、慣れないと使いこなすのが大変である。また今回はボールレンズのような大雑把なレンズを使ったため歪曲収差が大きく、特に周辺部は光線の屈折角が大きくなるため収差も大きい。画質のためには対物レンズの性能が最も重要であり、収差の少ないものを使えば画質は改善すると思われる。

[特許出願済み]

はじめに原理実験

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