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笹下研究所・研究報告12

レンチキュラー立体写真の撮影法(追加実験)

レンズピッチ、視域角と画質の関係

原理実験考察


1.はじめに

 第二報ではピッチの異なる二種類のレンチキュラーレンズ(5.6 lpi , 40 lpi)を使って、レンチキュラー立体写真の撮影実験を行った。その後、更に異なる二種類のレンチキュラーレンズ(20 lpi , 30 lpi)を入手したので、それらを使って比較実験を行い、ピッチと画質の関係を調べた。



2.原理

 レンズ板式立体写真では図12−1に示すように、レンズピッチで並ぶ点Pから見た像を撮影する。この小さな単位像には、異なる距離(奥行き)a〜cにある角被写体の像が、点Pを視点とした倍率で撮影される。



図12−1 凹レンズを使った撮影での奥行きと倍率の関係

 凹レンズの焦点距離を−f1とすると、凹レンズ面から点Pまでの距離はほぼf1に等しくなるから、点Pから奥行き方向に距離rだけ離れた被写体の撮影倍率は、レンズピッチを基準にして f1/r となることが分かる。
 この撮影像に(凸)レンズ板を重ね、立体像を表示する様子を図12−2に示す。立体像の奥行きを正しく再生するためには、レンズ板の厚さdはnf1(nはレンズ板の屈折率)に等しくすればよい。また単レンズの焦点距離をf2とすると、レンズ面より奥にある像を表示するためにはf2 > dとする。



図12−2 (凸)レンズ板によって形成される立体像

 図のように撮影された立体画像はレンズによって拡大されて見えるが、その倍率は f2/(f2−d ) となる。先程の撮影倍率にこの倍率をかけると、最終的な表示(再生)倍率となるが、これが1に等しいとき、すなわち

の奥行きにある被写体の立体像は正しい倍率で再生されることになる。これを満たす距離を図12−1、図12−2中のbで示している。
 さらに図12−2から分かるように、(12-1)式より近い(浅い)位置aの被写体は表示倍率が1より大きく、(12-1)式より遠い(深い)位置cの被写体は表示倍率が1より小さくなる。この結果レンチキュラー写真において、それぞれの位置にある被写体がどのように見えるかを、円形を例にとって図12−3に示した。蝿の目レンズを使った立体写真では、この現象が二次元的に現れることになる。



図12−3 被写体の位置と円形像の見え方(レンチキュラー写真)

 上図の表示図形においてレンチキュラーレンズのピッチが小さくなるほど、また視域角が小さいほどaやcの輪郭に見られるギザギザが小さく目立たなくなり、綺麗に見える奥行きが広くなる。つまりレンズピッチや視域角によって立体像の深度が決まるのである。

 以上の議論から分かるように、レンズ板の厚さdあるいは焦点距離f2は、主な被写体の位置rから(12-1)式を満たすように決めなければならない。ところが一般に市販されているレンチキュラーレンズでは d=f2 となっていることが多いようで、被写体の位置(深さ)に関わらず図12−4のように見えることが多い。



図12−4 d=f2であるレンチキュラーレンズでの像の見え方

 これは市販のレンチキュラー写真のほとんどが、多視点像から合成する簡易的な方法で作られたもので、各視点像が二重像を作らず切り替わるようにする必要があるためと思われる。このような d=f2 のレンチキュラーレンズを使う場合には、像の解像度は単純にレンズピッチと等しくなり、像の位置(深さ)とは関係なくなる。



3.実験

 20 lpi , 30 lpiのレンチキュラーレンズは有限会社アートナウより購入したもので、これに第二報で使った 40 lpi を加えた三種類のレンチキュラーレンズを使用して実験を行った。それぞれの仕様を表12−1に示す。

表12−1 使用したレンチキュラーレンズの仕様
(20 lpi , 30 lpiはカタログ値、40 lpiの厚さと視域角は実測値)

レンズピッチ(lpi) 20 30 40
厚さ(mm) 2.16 1.32 1.6
視域角(度) 47 49 34

 これらからそれぞれ透明シリコン樹脂GM-7000でメス型をとって、シリンドリカル凹レンズの並んだレンチキュラーレンズを制作し、それらを使って立体写真を撮影した。使用したカメラは*istDL + TAMRON 35-70mm CF MACROで、前報3−2の撮影装置を(レンズ板を除いて)そのまま利用した。画像サイズは9cm×13cmとなる。

20 lpi のレンチキュラー立体写真

 撮影した立体写真を写真12−1に示す。20 lpiでは細画像の幅が大きいので解像度には余裕がある。

 

写真12−1 20 lpi のレンチキュラー立体写真(*istDL , F22 , Avモード)

 撮影画像は600dpiのデータとして写真用紙に印刷した。プリンターはCanon PIXUS 900PDである。これにレンチキュラーレンズを重ね、立体像を表示したものを写真12−2に示す。

 

写真12−2 撮影像にレンチキュラーレンズ(20 lpi)を重ねて立体像を表示

 見た目に明瞭さがある一方、レンズ像の不連続が目立っている。実際、この画像の各レンズの像のつながり方を見ると、エッジラインが逆傾斜になって鋸状になっているのがわかる。この様子を図12−3や図12−4にならって円形像で示すと図12−5のようになる。



図12−5 d>f2であるレンチキュラーレンズでの像の見え方


 この図はd>f2である場合に、各シリンドリカルレンズによる像の左右が逆転する現象を表している。
 被写体が表示面より前にある、いわゆる飛び出す像の場合には、撮影時に像の反転が起きるため、d>f2として表示する際に再度反転して正しい像となる(エッジは図12−3のようになる)が、表示面より奥にある被写体の像は反転像にならないため、図12−5のようなエッジが現れて好ましくない。レンチキュラーレンズ自体は恐らく d=f2 となるように作られているものと思うが、ここでは撮影像をレンチキュラーレンズに接着しているわけではないので、若干の隙間が開いてd>f2となったものと推測される。



30 lpi のレンチキュラー立体写真

 撮影した立体写真を写真12−3に示す。細画像の幅は20 lpiの2/3になるが、まだそこそこディテールが確認できる。

 

写真12−3 30 lpi のレンチキュラー立体写真(*istDL , F22 , Avモード)

 撮影画像は593dpiのデータとして写真用紙に印刷した。これにレンチキュラーレンズを重ね、立体像を表示したものを写真12−4に示す。

 

写真12−4 撮影像にレンチキュラーレンズ(30 lpi)を重ねて立体像を表示

 20 lpiの場合(写真12−2)と同様に図12−5のようなエッジラインが見られ、レンチキュラーレンズの設計はやはり d=f2 となっていると思われる。このようなレンチキュラーレンズでは【2.原理】で説明した表示メカニズムは働かず、水平解像度は基本的にレンズピッチに等しくなる。
 ピッチが細かくなった分、エッジラインのギザギザも小さくなって目立たなくなっているが、一方で明瞭さが20 lpiより劣るように感じるのは、細画像の幅が小さくなって解像度に余裕がなくなり、歪みの影響なども現れやすくなってきたためかと思われる。



40 lpi のレンチキュラー立体写真

 撮影した立体写真を写真12−5に示す。細画像の幅は20 lpiの半分になり、解像度の点では厳しくなっている。

 

写真12−5 40 lpi のレンチキュラー立体写真(*istDL , F22 , Avモード)

 撮影画像は598dpiのデータとして写真用紙に印刷し、これにレンチキュラーレンズを重ね、立体像を表示したものを写真12−6に示した。

 

写真12−6 撮影像にレンチキュラーレンズ(40 lpi)を重ねて立体像を表示

 三つの中で最も綺麗な立体像になっている。20 lpiや30 lpiに見られたエッジラインはやはり存在するようであるが、よく見ないと分からない程度に目立たなくなった。これはピッチが細かくなったことに加え、視域角が小さくなったことも効いていると思われる。



4.考察

 限られた情報量で立体像を撮影・表示する場合、完全な立体像を目指すのでは高画質の立体像を実現することは困難で、実際には何らかの不完全性を割り切って受け入れることになる。

 現在多く行われている方法は、複数視点の像を撮影し、これらが見る位置によって切り替わるように合成画像を作るものであるが、これは表示像の画質を確保しつつ、視点移動に伴う像の不連続性を甘受するものといえる。この場合一つのレンズが一画素ライン(画素)になるため、使用するレンチキュラーレンズ(蝿の目レンズ)は d=f2 を満足し、かつ十分ピッチの細かいものを使わなければならない。

 一方、インテグラルフォトグラフィの考え方に基づき、並んだ小レンズで縮小像を作って撮影し、撮影された各縮小像を同じく並んだレンズで拡大して立体像を表示する方法では、所定の深さ(距離)にピント面を持ち、その前後に有限の深度を持つ像を表示することになる。この像には前述した視点移動に伴う不連続性はほとんどないが、引き替えに像の深度が浅くなるというデメリットを受け入れることになる。ここで使用するレンチキュラーレンズ(蝿の目レンズ)は、そのピッチが表示画素より粗い物でよく、表示面より奥にピント面を置く場合には d<f2 、表示面より手前ピント面を置く場合には d>f2 とする。

 市販のレンチキュラーレンズの多くは前者の立体写真を想定し d=f2 となっているようであるので、特に d<f2 のレンチキュラーレンズが必要となる後者の実験を行うことは、残念ながら難しい。

 ここで撮影した立体像の画像データはyahoo!フォトに公開されており、自由にダウンロードする事が出来る。



[特許出願済み]

はじめに原理実験

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