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笹下研究所・研究報告11

レンズ板式立体写真の撮影法(追加実験)

画質を重視したフォーマット

原理実験考察


1.はじめに

 第一報のレンズ板式立体写真では、使用する蝿の目レンズのピッチや視域が画質に大きな影響を与えるが、蝿の目レンズ自体が特殊な品で、希望する仕様の物を入手するのは極めて困難である。結局のところ入手可能な幾つかの蝿の目レンズで試すしかないが、ここではこれまで使用していない光洋の蝿の目レンズNo.360を使って第一報と同様の実験を行ったので、これについて報告する。



2.原理

 実験の概要は第一報と同じなので、ここでは説明を省略する。
 カタログによれば蝿の目レンズNo.360は、単レンズのレンズ径が1.0mm焦点距離が3.3mmであり、これから視域角は2×tan-1(0.5/3.3)=17.2°となる。第一報で使ったNo.300がレンズ径2.2mm、焦点距離3mm、視域角が2×tan-1(1.1/3)=40.3°であるから、レンズ径、視域角ともに半分以下ということになる。
 立体像のフォーマットについては、レンズ径も視域角も小さいほど画質は良くなると期待されるが、実際には撮影像の解像度や歪みによる影響も受けやすくなるので、やはり実験によって確かめる必要がある。




3.実験

 蝿の目レンズNo.360を型に使って、透明シリコン樹脂GM-7000で凹レンズの並んだ蝿の目レンズを製作し、これをフレームに入れて撮影用のレンズ板とした。枠のサイズは9cm×13cmである。



写真11−1 蝿の目レンズ光洋No.360(左)と、シリコン樹脂で作った凹レンズの蝿の目レンズ(右)


3−1.35mmフィルムカメラによる撮影

 まず35mmフィルムカメラを使って撮影を行った。使用したカメラはRICOH XR500で、TAMRON 35-70mm CF MACROを接写リング10mmを介して取り付けた(写真11−2)。

 

写真11−2 RICOH XR500 + 接写リング10mm + TAMRON 35-70mm CF MACRO

 出来れば高性能の単焦点レンズを使いたいところだが、残念ながら手持ちには適当なものがなく、所有するズームレンズの中で最もシャープな画が撮れると感じているものを使用することにした。ズームレンズはフレームを微調整できる点では便利である。
 カメラを取り付けた撮影装置の内部を写真11−3に掲げた。前面には写真11−1(右)のレンズ板をはめ込んであり、レンズ板から撮影レンズまでの距離は25cmほどになる。

 

写真11−3 撮影装置の内部

 写真11−4は撮影装置を斜め前方から見たものである。被写体は前面のレンズ板にできるだけ近づけて撮影する。

 

写真11−4 前から見た撮影装置

 まず解像度が高いモノクロフィルムを使ったの撮影例を写真11−5に示す。レンズのズーム位置は65mm付近である。

 

写真11−5 モノクロフィルム(NEOPAN 400)による撮影例(F22 , 1/8sec)

 撮影像はフィルムスキャナNikon LS-1000を使って読み取り(2700dpi)、プリンター(Canon PIXUS 900PD)で写真用紙に印刷した。印刷サイズはレンズピッチに合わせるように調整したが、745dpiで印刷して良い結果が得られた。
 No.360は厚さが1mm強で、焦点距離3mmに較べて薄いため、そのまま印撮像に重ねても立体像をうまく再生できない。ここでは1.4mm厚の透明アクリル板を挟んで重ねて立体像を表示した。これを上下左右にずらした四視点から見たものを写真11−6に掲げる。

左上から見たもの 右上から見たもの
左下から見たもの 右下から見たもの

写真11−6 撮影例にアクリル板1.4mmと蝿の目レンズNo.360を重ね、四つの視点から見た

 これらから視差のある立体像がきちんと再生されていることが確認できる。立体像の画質は第一報のNo.300を使ったものより明らかに良く、雲泥の差があるが、一方で視域が狭く、頭を動かすとすぐにサイドローブに切り替わってしまうという見づらさもある。この辺りのトレードオフが実用化の鍵となるだろう。
 ここでは1.4mmのアクリル板を挟んで蝿の目レンズを重ね、表示しているが、より遠く(奥)がシャープに見えるようにするには、この厚さを増せば若干の効果がある。立体像が表示面より奥に存在する場合には、全体の厚さを単レンズの焦点距離を超えて厚くすることはできないが、表示面から飛び出す像の場合には、原理的には単レンズの焦点距離より厚くすることになる。

 更にカラーネガフィルムを使った撮影例を写真11−7に掲げる。

 

写真11−7 カラーネガフィルム(ISO100)による撮影例(F22 , 1sec)

 先程と同様に撮影像を印刷し、アクリル板と蝿の目レンズNo.360を重ねたものが写真11−8である。粒子が大きい分、若干シャープさは劣るようであるが、そこそこの画質は維持できている。

 

写真11−8 撮影例にアクリル板1.4mmと蝿の目レンズNo.360を重ねた




3−2.デジタル一眼レフを使った撮影

 さらにデジタル一眼レフを使って同様の撮影を行った。使用したカメラは600万画素の*istDLで、レンズは同じくTAMRON 35-70mm CF MACROであるが、撮像素子が35mmフィルムの2/3ほどと小さいため、レンズのマクロ機能でちょうど良い画角の撮影が出来、接写リングは不要となった。

 

写真11−9 *istDL + TAMRON 35-70mm CF MACRO

 カメラをセットした撮影装置を写真11−10に示す。ズーム位置は50mmでちょうど良い画角となった。

 

写真11−10 *istDLを使った撮影装置

 実際の撮影例を写真11−11に掲げる。撮影は絞り優先AEで、被写界深度を深くとるため、絞り値はF22と最大にしている。

 

写真11−11 *istDLによる撮影例(F22 , Avモード)

 画像データは同様にCanon PIXUS 900PDで写真用紙に印刷したが、印刷サイズは600dpiとしてちょうどよくなった。フィルムカメラでは745dpiであったから、印刷画像の解像度は若干劣ることになる。これにアクリル板と蝿の目レンズNo.360を重ね、立体像を再生したものを写真11−12に示す。

 

写真11−12 撮影例にアクリル板1.4mmと蝿の目レンズNo.360を重ねた

 画像の解像度が低いせいか、シャープさは若干劣るように感じる。ただ写真11−11を拡大するとよく分かるのだが、デジタル画像にはフィルム特有の粒子ノイズが見られない。その点ではノイズの少ない綺麗な画像を期待できると言えるかもしれない。




4.考察

 小さい視域角を受け入れ、見やすさをある程度割り切ることが出来れば、現行の写真技術の範囲でも、そこそこの画質でレンズ板式立体写真を撮影出来ることが分かった。

 立体写真の画質はレンズピッチ、並び方、視域などのフォーマット、解像度、歪みなどの撮影画質、レンズ板、パララックスバリア、プロジェクションなどの表示方法で決まるが、レンズ板(蝿の目レンズ)を使って表示することを前提とすると、使用するレンズ板によってフォーマットが決まってしまうため自由度は小さい。研究においては何より入手可能なレンズ板が少ないことが問題で、もしレンズ板自体を設計できるのならば、六角形のレンズがハニカム状に並ぶ蝿の目レンズではなく、長方形のレンズが行列状に並び、横に大きく縦に小さい視域を持ったレンズ板を使うことで、画質と見やすさ(視域)の両立をねらう検討などもやってみたい。

 ここで撮影した立体像の画像データはyahoo!フォトに公開されており、自由にダウンロードすることができる。



[特許出願済み]

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