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笹下研究所・研究報告

レンズ板式立体写真の撮影法

インテグラルフォトグラフィの像反転問題を解決する

原理実験考察

1.はじめに

  凸レンズをシート状に多数並べたレンズシートを使って立体像を撮影・表示するインテグラルフォトグラフィ(以下IPと記す)は、すでに発明されてから百年を過ぎて未だに普及していない。
  レンズシートを使って立体像を表示する方法は合理的なもので、この点でIPを有望視する人は少なくない。IPの普及を妨げている問題はその撮影の難しさにあると考えられる。レンズシートを使った当初の撮影法では遠近の逆転する偽立体像となってしまい、そのままではリアルな立体像が得られないという問題である。
  かつてこの問題を解決するための研究が盛んに行われたこともあるようであるが、現在はコンピューターグラフィックス(以下CGと記す)によって必要な機能を備えた画像を自由に合成できるためか、撮影法に関する研究はめっきり減ってしまったようで、もっぱら表示法の研究ばかりが盛んに行われているようである。
  CGと写真は一部用途の重なる部分はあるが本質的には別ものである。CGは所詮上手に書いた絵にすぎず、真実を記録したものである写真に取って代わることはできない。この意味でやはり撮影法の研究は必要である。表示法の研究のみから得られるものは立体CGであって立体写真ではないのである。
  ここではIPの表示法を使って表示できる立体写真を、簡単に撮影する方法について研究した結果を報告する。

2.原理

Fig1   図1はピンホール板を使ったIPの撮影原理を説明する図である。被写体の像はピンホール板の各ピンホールによって、被写体と反対側に投影され撮影される。

図1 ピンホール板を使ったインテグラルフォトグラフィ     ・

Fig2   投影された各像は倒立像であり、図2のように凸レンズの列を前に置くことで立体像が再生されるが、よく知られるようにこのときの再生像は遠近が逆転した偽立体像となる。

図2 通常のインテグラルフォトグラフィで再生される立体像

Fig3   これに対しもし図1のピンホール板から被写体側に所定の距離をおいて投影面を設け、ここで投影像を撮影することができれば、この面での各像は正立像であるため図3に示すように図2と同じ装置で正しい立体像を再生することができる。

図3 立体感の正しい立体像が再生される様子を説明する図  ・

Fig4   図4は凸レンズ列を使った立体像撮影装置である。この装置では凸レンズ列の各凸レンズによる光学絞りの像が図1の各ピンホールに対応し、各ピンホールから被写体とは反対側の面に投影される像が、投影レンズによって撮影面に投影されることから、撮影される像はIP法の撮影像に等しいことが解る。

図4 インテグラルフォトグラフィと同等な立体像を撮影する装置

Fig5   一方図5は凹レンズ列を使った立体像撮影装置である。この装置でも凹レンズ列の各凹レンズによる光学絞りの像が図1の各ピンホールに対応するが、凸レンズの場合と異なり、各ピンホールより被写体側にある面に投影される像が投影レンズによって撮影面に投影される。このことから撮影される像は、図1の「立体感の正しい像の投影面」の像であることが解る。
  以上のことから凹レンズの並んだレンズシートを通して被写体を撮影すれば、IPの表示法で正しく表示できる立体像が撮影できることがわかった。

図5 レンズ板で正しく再生できる立体像を撮影する装置    ・

3.実験

Fig6   図6に装置の略図を示す。レンズシートの透過光をフィルムカメラで撮影する単純なもので集束レンズは省いた。集束レンズは視域の形状に影響するもので、必ずしも必要なものではない。
  撮影したフィルムはイメージスキャナで読みとり所定の倍率で印刷した。使用した装置と使用条件は以下の通りである。

  スキャナ: エプソンGT-8300UF 読み取り解像度1600dpi
  プリンタ: HPdeskjet5551 6色印刷

        図6 実際の実験装置の概略図

 

[実験1] ピッチの荒いハニカムレンズシートを使った立体写真

Photo1   秋月電子から購入したソーラーバッテリーに使われているハニカムレンズ(ピッチ約5mm)を型に使い、透明シリコン樹脂GM-7000で凹レンズシートを作成、これを使って図6の装置を組み立て立体写真を撮影した。
  使用カメラ: キヤノンFTb(35mm) → 写真1
  レンズ:   引き伸ばし用 ELニッコール50mmf4
  レンズシートとレンズの距離: L=220mm
  フィルム:  コニカ センチュリアスーパー100
  絞り:    f16
  露光時間:  1秒

写真1 キヤノンFTbを使った撮影装置   ・

Photo2

写真2 撮影した立体像、被写体は少女の人形

Photo3   撮影した撮影像を写真2に示す。
  またこれに撮影用の凹レンズシートを作る際、型に使ったハニカムレンズシートを重ねて立体像としたものを写真3に示した。なおレンズシートと撮影像の間は約12mmの間隔をおいている。

    写真3 写真2にハニカムレンズシートを重ねたもの

[実験2] ピッチの比較的細かいレンズシート光洋No.300を使った立体写真

Photo4   光洋製品No.300六辺形レンズシート(レンズ平均径2.2mm,134/吋2)を型に使い透明シリコン樹脂GM-7000で凹レンズシートを作成、実験1と同様に図6の装置を組み立て立体写真を撮影した。
  使用カメラ: PENTAX645 → 写真4
  レンズ:   引き伸ばし用 HANSA75mmf3.5
  レンズシートとレンズの距離: L=225mm
  フィルム:  フジカラー スーパーG100(ブロニー)
  絞り:    f22
  露光時間:  2秒

写真4 PENTAX645を使った撮影装置   ・

Photo5   撮影した撮影像にレンズシートを重ねたものを写真5に示す。

    写真5 撮影像にレンズシート光洋No.300を重ねたもの

4.考察

  実験1に使用したハニカムレンズの焦点距離は15mmであり、撮影像と約12mmの間隔をおいて重ねるときれいな像が見える。レンズ径が約5mmであることから視域角は±12度になる。このように視域が狭いと立体像としてはやや苦しい。またソーラーバッテリーという用途を考えればやむをえないが各レンズのレンズ形状も悪く不均一である。
  一方実験2で使用したレンズシートは視域がかなり広く±40度程はあるが画質はいまいちである。このレンズシート光洋No.300は円形のレンズがハニカム状に並んだものであり、レンズ間にできた僅かな隙間はレンズ作用を持っていない。これが画質を落とす原因の一つであると思われるが、その他にも視域を欲張ったことや厚さがやや厚すぎることなども原因となっている可能性がある。なにしろIPの実施例は少ないため、IPに適したレンズシートが如何なるものであるかすらよくわからない。

  図6の撮影装置において、カメラのピントはレンズシートの凹レンズ越しに見える被写体に合わせなければならない。実際には凹レンズの作用のためレンズシートよりやや被写体側にピントが合うようにすることになり、レンズシートからは外れるため各凹レンズの輪郭がぼけることになる。これがいわゆる干渉と呼ばれる現象であるが、写真2を見る限りf16の撮影では焦点深度が深いためほとんど問題にはならないことがわかる。
  もちろん絞りをより開いて撮影すればレンズ像の輪郭のぼけも大きくなるが、立体像ではある程度焦点深度の深い像を撮影することが望まれるため、実際にはできるだけ絞って撮影することになる。結論として本撮影法ではレンズ像の干渉問題は実質的に存在しないと考えて良い。

  レンズ板式立体写真の解像度はレンズのピッチで決まる、という説明がしばしば見られる。高画質を実現するためにはよりピッチの細かいレンズシートを使うことが必要であると考えられているようである。
  この考え方は必ずしも適当ではない。写真2を見れば解るように、ピッチの荒いレンズシートであってもピッチ以上に高い解像度を実現することができる。図7に表示装置の断面図を示すように、撮影された立体像の拡大像が結ばれる位置、すなわち
Num1 (Dはレンズシートの厚さ、fは各レンズの焦点距離)
だけレンチキュラーレンズ表面から奥に存在する被写体像については、各レンズ内の拡大像が隣り合うレンズの境界でずれることなくつながり、レンズのピッチよりも高い解像度で表示できるのである。

Fig7

図7 レンズシートを使って表示される様子

  被写体の位置がFから前後にずれれば各レンズ内の拡大像も隣り合うレンズの境界でずれる。このずれの大きさはレンズのピッチが大きいほど大きくなることから、レンズのピッチは立体像の深度を決めており、ピッチが細かいほど深度が深くなることが解る。このようにレンズのピッチは解像度と直接関係するのではなく、像の深度と関係しているのである。
  図7から容易に推測できるように、ピッチの荒いレンズシートを使用する立体写真では、被写体は表示面より一定の間隔を離して置かれることが好ましい。
  これに対しピッチの細かいレンズシートを使用する立体写真では、表示面に近い像もレンズピッチ以上にはぼけることはなく、他方フィルム解像度の限界により表示面から離れるほど像のぼけが大きくなるため、被写体は表示面(撮影面)に可能な限り接近して置かれることが好ましい。

  今回はフィルムカメラを用い、フィルムスキャンによってデジタルデータに変換した後画像をプリントアウトした。扱った画像の画素数は実験1で300万、実験2では850万程であるが、この程度の画素数であればデジタル一眼レフで直接デジタル画像として撮影することもできる。この場合にはフィルムスキャンに伴う画質劣化が無い分画質が改善し、感度が上がることによって露光時間が短くできて手持ち撮影が可能になるなどのメリットが期待できる。
  現時点ではデジタル一眼レフを購入する予算がないが、機会があればぜひ試みてみたい。

[特許出願済み]

はじめに原理実験

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