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ステレオ写真3

プリズムフィルターを使った接写A(原理編)

概要撮影トーインと焦点距離

1.プリズムフィルターを使ったステレオ写真

 プリズムの形状をしたフィルターをレンズの前に取り付けステレオ写真を撮る方法は古くからあるようで、「ステレオワールド」に紹介されている。(ステレオ写真自体一般的とは言えないが)この方法はあまり一般的ではないようで、実施する人は少ないようである。
 用途が接写に限られるとはいえ、簡単にステレオ写真を撮ることが出来るのであるからこの方法も一度検討しておく必要があろう。現在容易に入手可能なプリズムフィルターは2セクション(マルミ)とバリミラージュ(ケンコー)の二種である。ここではこれらを使ったステレオ写真の撮影法を紹介する。
 2セクションについては「Mr.Ri Homepage 」に、バリミラージュについては「立体写真を撮ろう」 に使用例が記載されている。以前は他にもあったように記憶するが、改めて探したところこの二つしか見つけられなかった。とにかく参考になる情報は少ないので、これらも一度ご覧いただきたい。


2.概要

2−1.ステレオ写真が撮れる理由

 下図のようにカメラレンズの前にプリズムを置くと、稜線を挟む二つの斜面を通る光はそれぞれ反対の方向に屈折してレンズに入り、フィルム上に左右に分かれた像を作る。このとき被写体側からプリズムを通してカメラを見ると、点線で書かれたような左右に分かれた二つのレンズ像が見えるが、フィルム上に並ぶ二つの像は、それぞれこれら二つのレンズ像の位置から撮影した二視点の像に他ならない。


図3−1 プリズムフィルターでステレオ写真を撮る原理図

 従ってこのときのステレオベースはレンズ像の間隔に等しくなるが、これは主にレンズからプリズムまでの距離で決まり、この距離を大きくとるほどステレオベースも広がる。ただあまり欲張ると周辺がケラレてしまうため、径が50mm前後のプリズムフィルターを使う場合にはせいぜい20mm程度が限界である。ステレオ写真の好ましい撮影距離はステレオベースの30倍程であるから、この手法が適用できるのは接写に限られるのである。
 フィルム上には左右の視点像が倒立して、かつ左右も逆転して形成されるため、これを180度回転して正立像とすれば平行法の配置、すなわち右目像が右、左目像が左に並んだステレオ写真となる。


2−2.設計の勘所

 この方法によって実用的なステレオ写真を撮るためには、まずカメラの画角をプリズムフィルターに合わせなければならない。図3−2に示す通り画角がプリズムフィルターによって決まる所定の値に等しいとき、撮影されるステレオ写真は同じ向きに並んだ二台のカメラで撮影するのと同等な、平行な視線の二視点像となり、それより画角が大きいと視点が外を向いた二視点像、逆に小さいとトーインした二視点像になる。

カメラの画角が大きいと
外を向いた二視点像になる
カメラの画角が所定の値で
平行な二視点像になる
カメラの画角が小さいと
トーインした二視点像になる

図3−2 カメラの画角と撮影される左右像の性質。

 ここで平行な二視点像を与える画角は図3−3に示すように、プリズムによって平行光線が曲げられる角度をとすると(3-4)式で与えられる。2セクションやバリミラージュ(2面)ではおおよそtan=0.1であり、このときレンズとフィルムの距離fは(3-2)式で与えられ、w=36mm(35mmフィルム1コマの横幅)から90mmとなる。


図3−3 ステレオ写真を撮るために必要な条件の検討。

 実際には、
     
  1. 平行な二視点像より、若干トーインして撮影した方が左右像の撮影範囲が重なって好ましい。  
  2. 左右像の境界にオーバーラップする領域ができるため、これをトリミングして削らなければならない。
などの理由でfは(3-2)式よりやや大きいことが望ましく、適正値は100mm以上になると思われる。
 fが100mmであるためには、使用するレンズの焦点距離はこれより小さい値である必要がある。例えば撮影距離(被写体までの距離)が50cmであれば焦点距離が83mmのレンズを使えば良い。さらに適正なトーイン量や左右像のオーバーラップの程度が撮影条件によっても異なることを考慮すれば、80〜100mmをズーム可能なズームレンズを使用するのが良いだろう。


2−3.2セクションとバリミラージュ

 使用するプリズムフィルター、2セクションとバリミラージュを写真3−1に示す。いずれも多重像を作って撮影するためのもので、ステレオ写真の撮影を意図したものではない。2セクションはフィルター径55mmのものを、バリミラージュは49mmのものを使用した。

2セクション バリミラージュ

写真3−1 2セクション(マルミ光機)とバリミラージュ(ケンコー)

 2セクションは単一のプリズムで、前述した条件のみで使用するのであればこちらの方が安価であるし使いやすい。一方、バリミラージュは二枚のプリズムがそれぞれ回転できるように重ねられているもので、二枚を平行に揃えて使うことで2セクションと同等の機能を発揮する。



写真3−2 分解したバリミラージュ。

 バリミラージュの二枚のプリズムは写真3−2のように簡単に分解することが出来、これを単独で使うことも可能である。このようにプリズムを一枚で使う場合にはtan=0.05となり、組み合わせて使用するズームレンズは170〜200mmをズーム範囲に含むものが適している。
 なおバリミラージュでは図3−4左のようにプリズムが重なっているが、ここでは右のように両方の稜線が内側に向き合うように並べ替えて使っている。

図3−4 バリミラージュの使用法。

 この図のようにバリミラージュはプリズムを平行にしても稜線が重ならないように作ってあり、結果として幅dの境界領域が出来る。このストライプ状の領域がもう一つの弱い像を作り邪魔になるのであるが、稜線を向き合うように並べ替えてこの像を少しでも減らそうと考えたのである。
 ただ並べ替える効果がどれ程であるかは定かでないし、図3−4左のままでも同様にステレオ写真が撮れることはまちがいないので、面倒であればそのまま使ってもかまわないだろう。


2−4.トリミングで仕上げる

 撮影した写真は前回までに説明したとおりトリミングして枠を整え、平行法ないし交差法の配置に並べて作品とする。このときオーバーラップして二重像となった部分もカットする。
 実際に撮影した写真では、二つの像が図3−5のように斜めに配置したものになることがある。もちろんプリズムが傾いた状態で撮影したためだが、これもトリミングで修正できる。一見して傾きが分からない場合でも、よく見ると左右像が上下にずれていることは良くある。上下の修正は必要なものと考えておいた方がよいだろう。

図3−5 プリズムの傾きもトリミングして修正する。


3.撮影

 撮影に使ったカメラはCANON FTb、レンズはSIGMA ZOOM- 1:4.5 100〜200mmである。このレンズにはマクロ機能があり100mmで50cm程度までの接写ができる。200mmでは最短撮影距離が1m程で、やや不満はあるがバリミラージュのプリズム一枚使いも試すことが出来る。

3−1. 2セクション

 すでに記したとおり使用するレンズは80〜100mmをズーム可能であることが望ましいが、手持ちのマクロレンズにはこの条件を満たすものがない。そのためやや厳しいのであるが100mmの近辺で良い写真が撮れることを期待してSIGMA ZOOM- を使ってみた。カメラにレンズと2セクションを取り付けたを様子を写真3−3に示す。

撮影に使用したカメラ 2セクションを取り付けた様子

写真3−3 2セクションを使った撮影装置

 実際に撮影した写真を写真3−4に示した。レンズのズーム位置は100mmで、1:4.5のマクロポジションにセットし、絞りはF22である。接写では被写界深度が浅くなるため出来るだけ絞って撮るのが良いが、これは左右像のオーバーラップを少なくするためにも好ましい。ここではF22まで絞ったため、ISO200のフィルムでもシャッター速度が1/15〜1/30秒と遅くなってしまった。できればISO800程度の高感度フィルムを使って手ぶれの心配を解消するのがよいだろう。



写真3−4 2セクションを使って撮影した写真。

 撮影の際は2セクションの稜線が真っ直ぐ立つようにしなければならないが、多くのズームレンズはピントリングを回転させるとフィルターまで回ってしまうため、いちいち合わせ直さなければならず面倒である。この対策としては、あらかじめピントリングの位置を決めておき、カメラの寄り引きでピントを合わせるようにすると良い。
 写真3−4からトリミングして左右像を作り、平行法の配置で並べたものが写真3−5である。焦点距離が100mmと長めであるためトーインが強くなりすぎるのではないかと心配したが、幸運にも程良くトーインした良い写真が撮れた。


写真3−5 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。


 この写真を見ると奥行き感も程良くまずまずの条件で撮影できているようであるが、ステレオベースはどれ程になっているのだろうか。ステレオベースを正確に測定するのは面倒であるが、おおよその値を知るのであれば難しくはない。撮影条件を吟味するためならそれで十分だろう。
 写真3−3のカメラを被写体の側から見ると、レンズの中に二つの瞳が横に並んで見える(写真3−6)。これら二つの瞳の間隔がステレオベースに他ならない。



写真3−6 被写体側から見るとレンズの瞳が二つ並んで見える。

 この写真から瞳の間隔とフィルターの直径を測り、フィルターの径が55mmであることから比例計算した瞳の間隔、すなわちステレオベースは17mmとなった。ただこれには遠近の倍率変化による誤差があるため、実際はもう少し大きな値であると考えられる。

 もう一つ測定法を紹介しておく。下図左に示すような測定用マスクを作り、これを同右のように2セクションを取り外したレンズに取り付ける(2セクションを付けたままその上に付けても良い)。

ステレオベース測定用マスク マスクをレンズに取り付けた様子

図3−6 ステレオベースの簡易測定

 この状態で写真を撮ると図3−7左のように二本の黒い影が写った写真となる。ここで黒い陰の間隔tが20mmであることを利用して画面の幅wを求めれば、これが2セクションの位置での撮影(フィルム)枠の幅wになる(図3−7右)。左右像の中心間の距離はw/2であるから、もし図3−3のように左右像の視線が平行であればw/2がステレオベースに等しくなる訳である。
マスク付けて撮った写真 2セクション位置のフィルム枠

図3−7 プリズムフィルターの位置でのフィルム枠のサイズからステレオベースを計算する。

 実際に図3−7左から求めてみるとw=28mmとなり、w/2=14mmとなる。これは先程求めた17mmより明らかに小さいから、実際には図3−2右のように、かなりトーインした撮影であることが分かる。焦点距離が100mmと長めのレンズを使ったのであるから当然といえるが、これで写真3−4のようなちょうど良いステレオ写真が撮れるのであるから、接写ではかなり積極的にトーインを効かす必要があることがわかる。

 ステレオベースがおおよそ17mmであれば、理想とされる撮影距離はその30倍の510mmとなり、レンズの最短撮影距離とほぼ一致する。写真3−4はおおよそこの距離で撮影したものであるから、奥行き感が程良く感じられるステレオ写真となった訳である。


3−2. バリミラージュ

 2セクションの代わりにバリミラージュを使って同様の撮影を行った。バリミラージュをレンズの先端に付けた様子を写真3−7に示す。ここでは55mm→49mmのステップダウンリングを使ってフィルター径を変換し、49mm径のバリミラージュを取り付けている。写真からは分からないが、バリミラージュの二枚のプリズムは稜線が平行になるように側面をセロテープで固定してある。

 
写真3−7 バリミラージュを取り付けた様子

 実際に撮影した写真を写真3−8に示した。撮影条件は先程と同様である。
 バリミラージュでは図3−4で説明した幅dの境界領域のため、真ん中に細長い第三の像がオーバーラップする。このため2セクションより余計に削ってトリミングしなければならない。



写真3−8 バリミラージュを使って撮影した写真。

 写真3−8からトリミングして作成した左右像が写真3−9である。トーインがうまく調整されかつ絞り込んで撮影したものであれば、第三の像があってもトリミングは比較的少なくて済み、バリミラージュでも十分に良いステレオ写真が撮れるようである。


写真3−9 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。

 なおレンズのズーム位置は先程と同じなので、ステレオベースもトーインの程度も同じと考えて良い。


3−3.バリミラージュ(1/2):プリズム一枚使い

 バリミラージュを写真3−2のように分解し、その一方を使って撮影するためには、写真3−10左のようにズーム位置をテレ側にして使えば良い。ここでは同右のように写真3−2左側のパーツを取り付けたが、右側のパーツでもよくフィルター径は同じである。

撮影に使用したカメラ バリミラージュ(1/2)を取り付けた様子

写真3−10 バリミラージュ(1/2)を使った撮影装置

 ズーム位置を190mmあたりに合わせて撮影したものを写真3−11に示した。この写真の撮影距離は1m程で、焦点距離が倍でも最短撮影距離も倍になるため撮影倍率は先程と変わらない。その他の撮影条件はこれまでと同じである。



写真3−11 バリミラージュ(1/2)で撮影した写真。

 さらにトリミングして仕上げたものが写真3−12である。撮影距離が1mと長いため、視差が少なくなり奥行き感が不足するのではないかと心配したが、予想に反してまずまずの写真になった。


写真3−12 トリミングして並べた二枚の写真(平行法の配置)。

 図3−7の方法でw/2を測定したところ約17mmとなり、トーインを考慮するとステレオベースは20mm前後になると思われる。これから理想的な撮影距離も600mmと長くなるため、実際の撮影距離が1mであっても奥行きの不足を特に感じない写真が撮れたものと思われる。
 SIGMA ZOOM-は古いレンズで銅鏡が長く、さらに焦点距離が190mmの時は100mm時より3cmほど長くなって18cm近くになる。このように銅鏡の長いレンズではレンズの中心からフィルターまでの距離が長く、ステレオベースが大きくなる傾向があるのではないかと考えられる。


4.トーインと焦点距離

 今回は100〜200mmのズームレンズで焦点距離を100mmに合わせてまずまずの写真が撮れたが、だからといって100mmのマクロレンズであればどれでも使えると言うことにはならない。特にマクロポジションでは同じ焦点距離でも画角には違いがあるようで、レンズによってトーインの程度が異なるためである。
 図3−8にトーインと撮影像の関係を示した。

トーインが不足している
(焦点距離が短すぎる)
トーインはちょうど良い
(焦点距離は適正)
トーインが強すぎる
(焦点距離が長すぎる)

図3−8 トーインの過不足と写真の関係。

 トーインが少ない場合には左のように被写体の二つの像が中央に寄って写る。レンズの焦点距離が短いとこのようになり、ズームレンズであれば焦点距離を長い方に調整すればよい。
 焦点距離が適正になれば中央のように二つの像が左右の枠の中心に位置するようになる。この時はほどよくトーインした撮影になっていると言うことである。
 さらに焦点距離を伸ばしてゆくと過度にトーインした撮影になり、右のように二つの像が離れて外側に偏った写真となる。焦点距離100mmのレンズではこのような写真になることが多いが、実際にはレンズの個性や撮影距離などによっても異なり、今回のように程良くトーインした写真になることもあるのである。

 以上説明した手法は、適当なズーム範囲とマクロ機能を有するレンズと、一眼レフカメラであれば幅広く適用できるものである。次回は具体的な事例を挙げて説明することとする。

プリズムフィルターを使ったステレオ写真概要撮影

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