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針穴写真10/ステレオ写真15

ファントグラム

直接撮影を試みる

カメラと撮影方法撮影例ファントグラムの条件


1.ファントグラムとは

 実のところファントグラムの定義をきちんと理解しているか否か自信はないが、「飛び出すアナグリフの作り方」などを読んでみて判断すると、以下のようなものと考えられる。

 ファントグラムはアナグリフの一種で、図15−1のごとく水平に置いて斜めから観察したとき、プリント面から飛び出す立体像があたかも面上に存在するがごとく見えるものである。


図15−1 ファントグラムの説明図

 ファントグラムは通常CGによって作られるか、「飛び出すアナグリフの作り方」のようにステレオ写真をレタッチソフトなどで加工して作成されるようであるが、ここでは針穴写真の特徴を生かして直接撮影することを試みる。



2.カメラと撮影方法

 針穴写真7に示したように、ピンホールカメラはレンズの焦点距離に縛られることがないのでフィルム面の配置の自由度が高い。これを利用してファントグラムを直接撮影するカメラを作ってみた。図15−2にその構造を示す。
 フィルムはその面を水平下向きに置かれ、斜め下の位置に並んだ二つのピンホールによって左右像が斜めに投影されてフィルムに記録される。ピンホールとフィルムの間にはマスクを置かれ二つの像が重なるのを防いでいるが、すでに前々回で説明したとおりこのマスクはピンホールに近い位置に置かれなければならない。


図15−2 ファントグラム撮影用ピンホールカメラの構造

 このカメラは図15−3のように被写体の斜め上方に置いて撮影する。ピンホールカメラはフィルム面と平行な面を歪まずに一定の倍率で写す性質を持つから、被写体の置かれた水平面が歪まずに同じ倍率で撮影できることになる。従って図15−3で撮影された左右像を赤とシアンに色づけし、地面が視差なく重なるように合わせればこれがファントグラムになるというわけである。


図15−3 図15−2のカメラを使ったファントグラムの撮影

 実際に制作したカメラを写真15−1に示す。フィルムは9cm×13cmの印画紙を使い、像の中心から印画紙面に垂直な方向に45mm離れ、水平に50mmずれた位置にピンホールが取り付けられている。本カメラは三脚に取り付けて撮影するため、取り付けネジを底面に付けてある(写真15−1左)。使用時は同図右のように置かれるが、この状態でフィルム(印画紙)面は水平になる。なおピンホールの間隔(ステレオベース)は60mmである。


写真15−1 制作したカメラ 二つのピンホールと三脚取り付けネジ(左)と撮影時の置き方(右)

 本カメラによる撮影の様子を写真15−2に示した。ステレオベースが60mmであるので、撮影距離をその30倍である1.8mに近づけるように心がけたが、後に説明する通りこれは間違いであった。

 


写真15−2 三脚に固定して撮影する様子

 三脚に固定されたカメラを写真15−3に示すが、フィルム面が水平ないし地面に平行になるように気を配らなければならない。



写真15−3 三脚に取り付けられたカメラ



3.撮影例

 実際の撮影例を写真15−4に掲げる。



写真15−4 撮影例1 露出10分, ネガ・ポジともにゲッコーVR2, ネガ現像:D-76 (1:3希釈), ポジ現像:セレクトールソフト

 これからアナグリフを作る訳であるが、この時地面(ここでは落ち葉)の像がずれずに重なるようにしなければならない。こうすることでプリント面の位置が地面と一致し、被写体(遊具)が上に飛び出て見えるようになる。出来上がったアナグリフ(ファントグラム)を写真15−5に掲げたが、アナグリフの製作には「STEREOeYe」さんのAnaglyph Maker ver1.08を使用した。



写真15−5 撮影例1から作ったアナグリフ(ファントグラム)

 ファントグラムをディスプレイ上で見るのは困難である。原則的には紙にプリントし、水平な面に置いてアナグリフ用のめがねを付けて見なければならない。実際に写真15−5をはがき大に印刷し観察してみると、確かに遊具が飛び出して見えるのであるがどうもリアルには見えない。念のためもう一つ撮影例を見てみよう。

 

写真15−6 撮影例2 露出10分, ネガ・ポジともにゲッコーVR2, ネガ現像:D-76 (1:3希釈), ポジ現像:セレクトールソフト

 撮影例2は水飲み場を写したものである。これからアナグリフ(ファントグラム)を作ったものを写真15−7に掲げる。

 


写真15−7 撮影例2から作ったアナグリフ(ファントグラム)

 これを先ほど同様はがき大にプリントし、アナグリフ用のめがねで観察してみると先ほどの撮影例1以上に不自然さを強く感じる。どうやらファントグラムを少し甘く見ていたようである。



4.ファントグラムの条件

 撮影例の問題を考察し、ファントグラムに必要な条件を考えてみよう。

● パースペクティブ

 写真には遠くのものが小さく、近くのものが大きく見える遠近法的な遠近感(パースペクティブ)が存在する。パースペクティブの付き方は撮影時の画角によって決まり、画角が大きい(広角)写真では遠近による大小差が大きく、反対に画角が小さい(望遠)写真では遠近による大小差は小さくなる。従って図15−4に示すように所定の画角で撮影した写真は、図15−5左のように撮影時と同じ視野角になるような大きさにプリントして観察しなければパースペクティブが正しく再現されず、例えば同図右のように小さなサイズで観察するのでは遠近の大小差が大きく付きすぎるのである。


図15−4 撮影時の画角



図15−5 観察時の画角 撮影時と同じ画角で見る場合(左)と縮小した画角で見る場合(右)

 このようなパースペクティブの重要性は「立体写真事始め」(写真工業05年4月号)の中で島和也氏が指摘している。この記事は大変参考になるのでぜひ一読されることをお勧めする。

 ファントグラムでは像の位置がプリント面より観察者に近い位置にあるので、プリント面より奥に像が存在するのが一般的である通常のステレオ写真に比べてパースペクティブに敏感である。実際、撮影例2をはがきサイズに印刷したものを立体視すると、本来図15−6左のような形に見えなければならない水飲み場が、あたかも同図右のような頭でっかちであるように見える(感じる)。これははがきサイズの写真を見たときの視野に対して、撮影時の画角が大きく、より近くに位置する上部が大きく写りすぎているためと考えられる。


図15−6 水飲み場の元々の形(左)と立体視で感じる形状(右)

 ファントグラムでは通常のステレオ写真以上にリアリティが重要になる。最初からプリントサイズに合わせた画角で写真を撮影し、想定する観察条件でパースペクティブが一致するようにしなければならなかったのである。

● 視差(ステレオベース)

 ファントグラムでは視差の整合性についても厳密さが要求される。このために撮影時のステレオベースを想定する観察条件に合わせて決めなければならない。撮影距離の30ないし50倍などというアバウトなルールに頼ってはいけないのである。

 ステレオ写真において遠近の基準面はプリント面(表示面)であり、左右像のずれ、すなわち視差はプリント面からの距離を表している。図15−7に示すように通常のステレオ写真ではプリント面(表示面)は視線に垂直であるため、視差の大きさの差異は像の全体的な遠近の違いとして捉えられる。このためステレオベースの違いで視差の付き方が違っても、単にスケールの違いとして認識され直ちに歪みとは認識されない。ステレオベースの小さな写真を「こびとの目で見た写真」と形容したり、逆にステレオベースの大きな写真を「巨人の目で見た写真」などと言ったりするのはこのためである。



図15−7 通常のステレオ写真では 視差の大小は像との距離感に影響する

 一方ファントグラムでは遠近の基準となるプリント面が視線に対して斜めに置かれているため、視差の大小はスケールの違いでは済まされず像の歪みとして認識される。
 このことを撮影例2の水飲み場を例に取り、図15−8によって説明する。水飲み場の根本の部分は地面の高さにあり、観察時は常にプリント面の高さに見えるのに対し、水飲み場の上部は視差の付き方によって見える位置が異なり、撮影例2のように視差が小さい場合には本来の位置より低く見え、かつ斜めに傾いたように見える。逆に視差が大きければ本来の位置より高く、観測者に近い方向に突き出すように傾いて見えるはずである。


図15−8 ファントグラムでは 視差が像の歪みに直結する

 これがやっかいなところで、観察者に不自然さを感じさせないリアルな像を見せるためには、視差をきちんと合わせなければならず、撮影時のステレオベースもアバウトではなく、厳密に決めなければならないのである。
 以上説明したパースペクティブ、視差はともにプリントサイズや観察距離と密接に関係している。例えば撮影例1,2をA4サイズに印刷し、はがきサイズのプリントと見比べてみると若干ではあるが不自然さが軽減されたように感じるが、これはパースペクティブの整合性が改善され、視差も大きくなって適正な大きさに近づいたためと考えられる。撮影条件から考えると全紙大ほどに拡大印刷し、1m強離れて観察すればかなりリアルなファントグラムになると考えられるが、これはあまり現実的でない。まずプリントサイズと観察条件(観察距離)を決め、これに合ったパースペクティブと視差になるようカメラと撮影条件を選択するのが本筋だろう。

 ファントグラムは想像した以上にチャレンジングなテーマで、満足できる作品を得るのは思いの外難しい。さらなる検討はまた機会を見つけて改めて行うこととして、今回はその難しさを実感できたことで良しとすることとする。


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