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針穴写真2

印画紙カメラ1

露出と現像

ISO感度に関する定説印画紙写真の問題点露出と現像印画紙でもフィルム現像の感覚で

1.印画紙を使うピンホールカメラ

 より高画質の針穴写真を撮るためにはフィルムサイズを大きくすればよいことは前回説明したとおりであるが、面積の大きなシートフィルムは高価な上に専用の暗室や特別な道具が無いと現像するのも困難である。これに対してモノクロ印画紙は安価で扱いやすく自家現像も難しくない。また35mmフィルムでは引伸機で拡大しなければ見やすいサイズのプリントが得られないのに対し、最初から大きなサイズで撮れる印画紙であればコンタクトでプリントが作れるため高価な引伸機が不要であるというメリットもある。
 印画紙を使う針穴写真の概要については、田所氏の著書や「林敏弘のモノクローム・フォト・ギャラリー」などをご覧いただきたい。ここでは印画紙を使って針穴写真を撮影する際最初につきあたる問題、露出と現像に関して考えてみる。


2.ISO感度に関する定説

 印画紙にはコントラストの強さによって1〜5号の区別があり、田所氏は著書で最軟調の1号を推奨しているが、すでに製造中止になっているようでFUJI、GEKKOともに入手は困難である。ここでは2号のGEKKO SP VR2を使うこととする。
 印画紙の箱を見るとISOspeed P640と書かれており、Pは1/1000を意味するから感度はISO0.64ということになるが、田所氏の著書によれば印画紙の感度はISO6相当であるという。田所氏はFUJIの印画紙を使用しているようなのでFUJIBROは感度が高いのかと調べてみると、P500と書かれておりGEKKOよりむしろ感度が低い。
 さらに針穴写真に関するウェブサイトを幾つか調べてみると、いずれも印画紙の感度はISO5ないし6であるとされており、どうやら針穴写真をする人々によればISO5〜6が常識であるらしい。
 奇妙なことであるが実際にISO6で露出を決めて撮影し、標準の印画紙現像(ゲッコール20℃,90秒)をしてみると写真2−1左のように一見良好なネガが得られ、さらにコンタクトをとれば同右のプリントが出来る。ではISOspeed P640の表示は間違いなのであろうか。

395 x 295 394 x 295

写真2−1 印画紙を使った針穴写真。撮影したネガ(左)とプリント(右)。
画面サイズ6.5cm×5cm,投影距離45mm,ピンホール径0.25mm,露出時間18秒


3.印画紙写真の問題点

 前回紹介した35mm一眼レフを使ったカメラで撮影した写真と先ほどの印画紙写真を比較してみる。35mmフィルムの方は画角が小さいため、写真2−2では印画紙写真の方をトリミングして画角を揃えてある。

371 x 243 371 x 243

写真2−2 35mmフィルム(左)と印画紙を使った針穴写真(右)の比較。
(左)投影距離45mm,ピンホール径0.25mm,露出時間2秒

 これを見ると印画紙の方は解像度が若干劣り、さらにコントラストが高いためハイライト(明るい部分)もシャドー(暗い部分)もともに見づらくなっている。
 同じ投影距離、ピンホール径であるにもかかわらず、フィルムに比べ印画紙で解像度が劣っている理由には、ネガからコンタクトを撮る際に若干ぼけることや、ベースが白い紙であるため光が紙で反射して広がることなどが考えられる。こういった画質の劣化はある程度やむを得ないものであるが、印画紙のサイズを大きくしてゆけば相対的に目立たなくなると思われるのでここでは特に問題視しないこととする。
 問題は高いコントラストの方で、これだけラティチュードが狭いと良い写真を撮れる条件がかなり限定される。田所氏が1号(最軟調)の印画紙を推奨している理由はここにあるが、入手困難では2号を使うしかない。調べてみると同じ印画紙でもより軟調に仕上げる軟調現像液があるとのことで、例えばコダックのセレクトールソフトがこれに当たる。これを使って現像したものを写真2−3(左)に示し、先ほどの標準現像液のもの同(右)と比較してみると、若干ではあるがハイライト部が見やすくなっており、ある程度の効果があることがわかる。

395 x 295 394 x 295

写真2−3 セレクトールソフトで現像したもの(左)と標準現像液で現像したもの(右)。

 若干改善するとはいえフィルムと比べるとなお硬調で問題の解決にはほど遠い。これが印画紙の限界と割り切るしかないのだろうか。


4.露出と現像

 一般にフィルム現像では露出を多くして現像を少なくすれば軟調になり、逆に露出を少なくして現像を多くすれば硬調に仕上がることが知られている。またフィルムの現像では時々刻々と濃度が変化する途中で現像を打ち切るため、液温や現像時間、攪拌条件などをきっちり管理しなければならない。
 一方印画紙の標準的な現像時間は20℃で90秒と短いが、液温や時間などの管理はフィルム現像ほど厳密でなくとも仕上がりに影響はない。これは像の濃度変化が大きい間に現像を切り上げるのではなく、濃度が安定し変化が少なくなったところ、すなわち濃度の飽和が始まるまで現像するためと思われるが、これはフィルム現像では現像過多に当たるから、このようにして現像される像が硬調になるのは至極当然である。つまり印画紙現像は、少ない露出と強力な現像で意図的にコントラストの高いプリントを作っていると考えることが出来る。
 そうであれば印画紙であっても十分な露出を与え、濃度が飽和する前の適当な時間で現像を停止すればフィルム並の軟調なネガが得られる可能性はある。針穴写真の定説ではISO5〜6として露出を決めていたが、ここでは箱の表示通りのISO0.64で露出を計算し、現像を制御して調子の良いネガを作ることを試みた。

4−1.使用したカメラ

 ここで使用したピンホールカメラを写真2−4(左)に示す。0.25mmのピンホールを4つ備え、カビネ大の印画紙に4つの像を投影する。実際に撮影した写真を写真2−4(右)に示した。このカメラで露出条件が等しい4枚の写真を撮り、それぞれ切り離して異なる条件で現像し比較する。


写真2−4 検討に使用したカメラ(左)と撮影した写真(右)


4−2.標準現像液ゲッコールの希釈現像

 標準現像液ゲッコールをそのまま使うのでは現像速度が速く、途中で現像を切り上げて濃度をコントロールすることは難しい。そこで現像液を希釈し、現像速度を下げて使うこととした。希釈率は10倍で、実際には保存液を20倍に希釈して使用液とする。
 露出はISO6で決めた値(18秒)を10倍し、180秒(=3分)とした。これでISO0.6相当の露出となる。さらに現像液の温度は20℃とし、現像時間を6〜9分の間で変えて比較した。結果のネガとプリントを写真2−5に示す。

現像時間 ネガ プリント
6分 395 x 295 395 x 295
7分 393 x 295 395 x 295
8分 395 x 295 395 x 295
9分 395 x 295 395 x 295

写真2−5 ゲッコール希釈現像における現像時間とネガ及びプリント。
コンタクト時の光量はそれぞれ調節してプリントの濃度を合わせた。

 標準現像に比べてハイライトの濃度が低く抑えられ、いずれのプリントもフィルムに近いレベルまで軟調になっている。また露出を増やしたおかげでシャドー部まで良く写っている。この結果では現像時間は7〜8分が適正と思われるが、これは攪拌の仕方によってもかなり異なるようである。頻繁に攪拌するほど現像時間は短く、仕上がりは硬調になる傾向があり、逆に攪拌が少ないと現像時間は長くさらに軟調になるが、現像むらを生じやすくなるためある程度は攪拌しなければならない。この辺の事情はまさにフィルム現像と同じである


4−3.セレクトールソフトの希釈現像

 同様の検討を軟調現像液セレクトールソフトについても行った。当初希釈倍率はゲッコールと同様の10倍で試してみたが、全体的に濃度が上がらず薄いネガになってしまうので5倍に変えて再度試みた。
 露出条件は先程と同じISO0.6相当である。希釈倍率5倍(保存液を10倍に希釈)のセレクトールソフトで液度は20℃とし、現像時間を3〜6分の間で変えて比較した結果を写真2−6に示す。

現像時間 ネガ プリント
3分 395 x 295 395 x 295
4分 395 x 295 395 x 295
5分 395 x 295 395 x 295
6分 395 x 295 395 x 295

写真2−6 セレクトールソフト希釈現像における現像時間とネガ及びプリント。
コンタクト時の光量は同様に調節して濃度を合わせた。

 先程より希釈倍率が小さい分現像速度は速いが、低い濃度で飽和してしまい10倍希釈のゲッコールより薄い。標準現像液が軟調の現像主薬メトールと硬調の現像主薬ハイドロキノンをブレンドして使っているのに対し、軟調現像液はメトールのみを使用しており、書物によればメトールのみでは濃度が上がりにくいとのことで、やむをえないのであろう。希釈ゲッコール以上に軟調になるが、ややしまりのない感じがする。



5.印画紙でもフィルム現像の感覚で

 印画紙でも十分な露出と希釈現像でフィルムに近い軟調なネガを得られることがわかった。希釈現像ではフィルム現像のように液温や現像時間、攪拌などをきちんと管理しなければならないが、印画紙ではセーフライトの下で現像の進行を観察することが出来る点では有利である。また通常の印画紙現像よりは遙かに現像むらが出やすいので注意しなければならない。
 ここではGEKKO SP VR2を使用したが、別の印画紙であれば現像時間や仕上がりも当然異なる。いずれにせよ本来の使用形態とは違う使い方をするわけであるから、これといった定跡があるわけではなく、手探りでよりよい方法を見つけてゆくしかないのだろう。


印画紙を使うピンホールカメラISO感度に関する定説印画紙写真の問題点露出と現像

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