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針穴写真11

接写とピンホール

ピンホール径を再考する

カメラとピンホール実験ピンホールの焦点距離?実写で確認


1.等倍に近い接写

 被写界深度の大きいことを利用して、虫の目写真のような大深度接写を針穴写真で実現することを考えてみる。ここで再び問題となるのは針穴写真1で取り上げたピンホールの適正径である。

 図1−1 ピンホールカメラの原理図(再掲載)

 針穴写真1では図1−1においてスポット径Sを求める(1-4)式を導き、さらに撮影距離が投影距離より十分に大きい(LM)として(1-5)式を得、これからピンホールの最適径を与える(1-6)式を求めた。





 一方 接写、とりわけ等倍に近い高倍率の接写では、LMであるため(1-5)式は成り立たない。ここでは(1-4)式を書き換えた(11-1)式から話を進めよう。



 この式の右辺第二項は回折による広がり径を、平行光を仮定して求めたものである。光源(被写体)が近くなればこの仮定は成り立たないため、この項も変化すると考えられるが、これを求めるのはかなり複雑な計算になりそうである。そこでやや大胆ではあるが、第二項の大きさは変わらないものと仮定して計算を進めてみる。
 (11-1)式のスポット径Sは右辺の第一項と第二項が等しいとき最小値をとり、そのときのD、すなわちピンホールの最適径は


となる。これは(1-6)式のDDとして、以下のように書くことができる。


 つまりLMを仮定して求めたこれまでのピンホール径に、を乗じた分だけ小さい値が接写におけるピンホールの適正径となる。

 さらに(11-2)式の結果を(11-1)式に代入してスポット径Sを求めると


となり、Sは撮影距離が無限遠の時のスポット径Sよりを乗じた分だけ大きくなることがわかる。これは接写においてフィルム上の解像度が低下することを意味しており、例えば等倍撮影(LM)ではスポット径SS倍になり、解像度は1/になることになる。

 この計算はあくまで(11-1)式右辺の回折項が変化しないと仮定した結果であるが、第二項(回折項)が変化したとしても、その変化が第一項に比べて小さいものであれば近似的に成り立つ可能性がある。以下実験によってその妥当性を評価してみる。




2.カメラとピンホール

 この種の実験には一眼レフを使うのが便利である。径の異なるピンホールを変えて撮影するため、カメラのボディキャップとMDF(2.5t)を使って図11−1のホルダーを製作した。使用したボディキャップはマルミ光機製のFDマウント用である。


 図11−1 ボディキャップを使ったピンホールホルダー

 各ピンホールは図11−2に示した形状の板に取り付け、ホルダーにセットする。


 図11−2 ピンホールを付ける板 2.5mm厚のMDFで製作

 準備したピンホールは径が0.20mm, 0.25mm, 0.31mm, 0.36mm, 0.46mmの5種類である。ピンホール径は針穴写真1で説明したようにイメージスキャナを使って測定したが、絶対値の誤差は±0.02mm程度と思われる。写真11−1に製作したホルダーとピンホールを示した。



写真11−1 製作したピンホールホルダーと5つのピンホール

 ホルダーとピンホールは50mmの接写リングを介してカメラのボディに取り付ける(写真11−2)。ボディのフランジバックを加えると投影距離Mは約100mmになる。



写真11−2 ホルダーとピンホールを接写リング(50mm)を介してカメラのボディに取り付ける




3.実験

 撮影倍率1:4(4分の1)と1:1(等倍)の二つの条件でテストチャートを撮影し、撮影像の解像度を評価してピンホールの適正径を求める。


3−1.撮影倍率1:4(4分の1)

 図11−3に示したパターンを240dpiでトランスペアランシー(透明フィルム)に印刷してテストチャートとする。最も細かい縞模様(ロンキールーリング)は30 lpiとなるが、これを倍率1:4(4分の1)で撮すと、フィルム上では120 lpiとなる。



 図11−3 使用したテストチャート 倍率1/4で掲載

 製作したテストチャートは写真11−3のようにライトボックスの上に置き、ピンホールを付けたカメラで撮影する。



写真11−3 ライトボックスの上に置いたテストチャート

 ここでは引き伸ばし機をコピースタンドの変わりに使用した。装置の図を図11−4に、撮影している様子を写真11−4に示した。なおボディはAV-1を使用し、AEモードで撮影したが、周囲は暗くしてファインダーから入る光による誤動作を防いでいる。

図11−4 撮影装置図 写真11−4 撮影している様子

 原稿(テストチャート)からピンホールまでの距離は実測で43cmであるが、撮影倍率はほぼ1:4(4分の1)と考えて良いだろう。実際に0.25mmのピンホールを使った撮影例を写真11−5に示す。残念ながらAV-1のAEはスローシャッターでは不安定で、露出はかなりばらついてしまった。



写真11−5 ピンホール(0.25mm)を使った撮影例(NEOPAN 400)

 撮影したネガはフィルムスキャナ(Nikon LS-1000 解像度1350dpi)で読み取りデジタルデータとした。さらに画像の明るさをグラフ化し、最大値Imaxと最小値Iminから以下のようにコントラストを求める。



 図11−5 コントラストの計算(ピンホール径0.25mm 60 lpi)

 それぞれの径のピンホールについて、撮影した各ピッチのグラフを図11−6に掲げる。ここでピッチには実測値を使い、最もピッチの大きな3.9 lpiについては、変化が少ないので省略した。

R 7.8 lpi 15.5 lpi 31 lpi 62 lpi 124 lpi
0.20
0.25
0.31
0.36
0.46

図11−6 各ピンホール径と縞ピッチにおける像のグラフ

 さらにグラフから求めたコントラストをピンホール径に対してプロットしたものを図11−7に掲げる。


 図11−7 ピンホール径とコントラストの関係

 124 lpiに注目すると図11−6、図11−7ともに0.36mmが最も好ましいことを示している。62 lpiでは0.25mmがベストであるが、フィルムの濃度が光の強度に比例しないことなどによる誤差を考慮すると0.25mmにピークがあるとは断言できない。基本的に最も厳しい124 lpiの結果を尊重し、62 lpiの結果も加味すると0.36mmより若干小さい値が最良といったところだろう。
 一方、投影距離(11-3)式からλ=550nm、M=100mmとして求めたDは0.37mm、さらにL=43cmとして求めたDは0.32mmとなる。これは実験の結果とおおむね一致するが、そもそもDDの違いが小さいため、どちらががより妥当であるか、この結果からは判断できない。



3−2.撮影倍率1:1(等倍)

 図11−3のパターンを1/4に縮小して印刷すると、通常のプリンターでは細かい縞がかすれてしまい好ましくない。そこで前の実験で使用したテストチャートを倍率1/4でミニコピーに撮影し、そのネガをテストチャートに使用することとした。



写真11−6 テストチャートを倍率1/4で撮影したネガ フィルムはミニコピー

 このテストチャートを使った撮影の様子を写真11−7に示す。等倍撮影なので撮影距離は先程の1/4程になるが、実測で10.5cmというところである。先のAV-1では露出のばらつきが大きかったので、今度はボディにFTbを使い、シャッター速度を変えて何枚か撮影して最も調子の良いネガを使うことにした。



写真11−7 撮影している様子

 実際の撮影例を写真11−8に示した。フィルム上の大きさは先程とあまり変わらない。



写真11−8 ピンホール(0.25mm)を使った撮影例(NEOPAN 400)

 先程と同様にそれぞれの径のピンホールについて、撮影した各ピッチのグラフを図11−9に掲げた。

R 8.4 lpi 16.8 lpi 33.5 lpi 67 lpi 134 lpi
0.20
0.25
0.31
0.36
0.46

図11−9 各ピンホール径と縞ピッチにおける像のグラフ

 さらにグラフから求めたコントラストをピンホール径に対してプロットしたものを図11−10に掲げる。


 図11−10 ピンホール径とコントラストの関係

 134 lpiの縞はほとんど見えなくなり、67 lpiを見るとピンホール径0.25mmが最も良い。図11−10から67 lpiのコントラストのピークは0.25mmよりやや大きいあたりと思われるが、(11-3)式からλ=550nmとして等倍撮影の最適径を求めると0.26mmになるから、これはかなり良く合っているといえる。
 また倍率1:4(4分の1)の時に比べて全体的に解像度が低下している点も、(11-4)式の予測する結果と良く一致している。
 (11-3)式や(11-4)式の妥当性をきちんと評価するには、さらに条件を変えて多くのデータを取らなければならないが、少なくとも、高倍率の接写においてピンホールの最適径が小さくなることや、解像度が低下することは間違いない。ベストとは言えないまでも、ベターな値を求める手段としては使えそうである。




4.ピンホールの焦点距離?

 ここでは(11-3)式の妥当性を仮定して、その意味を考えてみる。

 (11-3)式は以下のように変形することが出来る。


 ここでM0を(11-6)式のように定義すると(11-7)式が得られる。



 この式はまさに焦点距離M0のレンズの結像条件を表す式になっている。すなわち直径Dのピンホールは、あたかも焦点距離M0のレンズのように扱えるということになる。

 ピンホールとレンズの像を映す原理は全く異なるものであるが、これらの作用が偶然にも同じ形の式で表されるとはなんとも興味深い。

 もちろんこれは(11-3)式が妥当であると仮定した上での話である。




5.実写で確認

 最後に写真11−2の構成を使って大深度接写を行った結果を示しておく。ボディはFTbを使い、ピンホールの径Dと撮影像を写真11−9に掲げた。中央に写っている電池はピンホールから10cmの距離にあり、ほぼ等倍の接写になっている

D(mm)

t(sec)
撮影像
0.20

66
0.25

40
0.31

30
0.36

20
0.46

40

写真11−9 大深度接写をピンホール径を変えて比較した(NEOPAN 400) tは露出時間

 中央の電池に注目すると、ピンホール径Dが0.25mmが最もシャープに写っているが、バックの景色は0.31mmないし0.36mmが最もシャープに写っているように見える。これらはまるでレンズカメラを使い、0.25mmの写真ではピントを電池に合わせ、0.31mmや0.36mmの写真では遠景にピントを合わせて撮ったもののようである。

 以上のように原理が全く異なるピンホールにもレンズに似た性質があることがわかった。自然界には手段や手続きの違いを越えたルールが存在するようである。



等倍に近い接写カメラとピンホール実験ピンホールの焦点距離?

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