エミリー・ロッダ

「リンの谷のローワン」シリーズの感想、紹介文を書いています。おく病で内気な少年ローワンが主人公のファンタジーです。エミリー・ロッダさんの「デルトラ・クエスト」についての感想・紹介文は別ページです。

「山椒のこつぶっこ」トップ読書ノート*外国児童文学>エミリー・ロッダ Emily Rodda



ローワンと魔法の地図

佐竹美保:絵 2000年 あすなろ書房 高学年から

ROWAN OF RIN 1993

ローワンが暮らすリンの村の川の水が、日に日に減っていきました。村をうるおす唯一の川がひからびてしまうと、家畜のバクシャーは死に、バクシャーにたよって生きてきた村の人たちの生活も成り立たなくなってしまいます。

川の水が減った原因は、川のみなもとの山にあると考えられました。村の人たちは、みなもとを調べ、川をもとにもどすために、危険な山に登ることを決めました。山はけわしく、頂には竜が住んでいるのにかかわらず。

山に行くことになったのは、勇敢なリンの人々のなかでも、最も強い人たちでした。体が大きくて、責任感の強いストロング・ジョン、勇気ある女性マーリー、強気な女の人ブロンデン、たくましいふたごの姉弟ヴァルとエリス、明るく機転がきくアランです。この一行に、おく病で内気な少年ローワンも加わることになったのです。ローワンは、日ごろ、バクシャーの世話をし、かわいがっていました。バクシャーを何とか救いたいと願っていたのです。また、山へ行く道すじが書かれた地図には魔法がかかっていて、ローワンが持ったときだけしか、見えるようにならなかったのです。

ローワンは、こわがりで力がない自分をはじています。母からは失望され、村のみんなからは、自分のおく病さをからかわれていると思いこんでいます。

一方、ストロング・ジョンたちは、力と勇気と自信に満ちあふれています。どんな困難に直面しても、力でねじふせていけそうです。

しかし、魔法の地図をローワンにわたした賢者シバは、ジョンに「山は強さを試しはしまい。山は強さをほろぼしてしまう」のだと言いました。こわがっているローワンのことを、「その子だけが分別を持っている」とも言いました。その時は、ジョンたちは、シバの話を笑って聞き流しました。

山頂への道のりはきびしいものでした。ローワンは、ジョンたちについて行くだけで必死でした。きりたったかげを登ることは、まだ序の口でした。何百万ものクモ、まぼろしを見せるぬまなどの困難が待ち受けていました。

困難なことが起きる前に、地図には、なぞめいた詩が浮かび上がり、それを切りぬける方法を示してくれました。けれども、旅の一行のみんなが、それを乗りこえられたわけではないのです。

山が与えた難関は、強さと力で解決できるものではありませんでした。旅の一行のひとりひとりの心の傷をえぐり、弱さをあばくものでした。強くて、弱点などないように見えたヴァルとエリス、ブロンデン、アラン、マーリーたちは次々に脱落していきます。彼らの強さは、自分の弱さをおおいかくすためのよろいでもあったのです。まさに強さをほろぼす結果となったのです。

ローワンは、ストロング・ジョンとともに、最後から二つ目の難関をこえました。ジョンはつかれはてていました。雪山で眠ろうとします。眠ることは、死につながります。泣きながらジョンを起こすローワンに、ジョンは言います。「怖がりながら、きみは山を登った。怖がりながら、きみは危険に立ち向かった。そして、怖がりながら先へと進むんだ。それが本当の勇気なんだよ、ローワン。怖がらないのは、おろか者だけさ」と。(p185より引用)

ローワンはジョンをささえ、はげましながら、竜の洞穴に到達します。日ごろ、勇敢で力が強いストロング・ジョンであっても、竜をたおすことはできませんでした。ジョンは、竜のしっぽで、おさえつけられてしまいました。

詩の一節「もっとも勇敢な心一つが進みゆく」の通りに、旅の目的をはたせるのは、ローワンただ一人になったのです。

(以下、ネタバレがはなはだしいので、ふせています。反転させてください。)ローワンは、竜ののどに骨がつかえているのを見つけます。バクシャーの心がわかるローワンです。竜の表情から、竜が苦しんでいるわけがわかったのです。ローワンは、竜の口のなかに首をつっこみ、骨をぬいてやります。

竜は、骨がささっていたために、何日も食べず、火をふいてもいませんでした。竜は、ストロング・ジョンをえものとしてねらいます。ローワンは、必死でジョンを守ろうとします。

ローワンは、地図に浮かび上がった詩を思い出します。詩の最後は、「家への思い一切を投げすてよ。その時こそ旅は終わる」となっていました。家への思い、それは、帰り道を示す磁石であり、地図であるのです。――地図なしに、ふたたび困難な道を通って帰ることができるのか。山頂で命を落とすことにならないのか。川の水をもどすことができないままに――そのような疑問がわいてきます。しかし、ローワンは、磁石と地図を竜に投げつけました。竜はあばれ、火をふきました。

その時、ローワンは、川がどのようにしてできたのかを、また、川の水が減ったわけを知ったのです。

ローワンとストロング・ジョンは、竜の火によってとけた氷や雪の水によって、あっという間に村に流されました。(ここまで)

村に帰り着いたジョンは、ローワンをたたえます。「小さくて弱い者が、本当はいちばん強くて勇敢だったんだ」と言って。(p212より引用)ローワンも、村のみんなも、本当の勇気について知りました。

以前のローワンは、自分を卑下していたために、みんなからあざけられていると思いこんでいました。母の愛も、ストロング・ジョンの思いやりも素直に受け止めることができませんでした。旅を終えて、ローワンは、自分のなかに勇気と強さをみつけ、母が自分を思う気持ちに気づいたのです。 05.2.13

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ローワンと黄金の谷の謎

佐竹美保:絵 2001年 あすなろ書房 高学年から

ROWAN AND THE TRAVELLERS 1994

「リンの谷のローワン」シリーズ2作目です。

ローワンは、おく臆病で内気な少年です。しかし、前作「ローワンと魔法の地図」のころより、たくましくなっています。魔の山に登る前のローワンは、自信がない子で、母からも、村の人たちからも、認められていないと思いこんでいました。本作「ローワンと黄金の谷の謎」では、「ぼくが英雄じゃないのは。自分でよくわかっています。でも、いざとなったら、恐怖に立ち向かうことだってできるんです」と、シバに向かって言えるほど強くなっています。

ローワンがシバのところに、花粉症の薬をもらいに行ったとき、シバから、不吉な予言の詞(し)を聞かされました。新たな敵の出現と、リンに災難がふりかかることを告げる内容でした。

予言は的中します。リンの谷の人たちが、次々に、深く眠りこんでしまったのです。畑や道にいても、眠気に勝てず、その場にたおれこんでしまいます。この眠りは、何者かの呪文かもしれないと、老女ランやリンの人たちは考えます。

その時、ちょうど、村には、「旅の人」が来ていました。「旅の人」たちは、遊びや音楽、踊りをひろうし、物語を聞かせながら、各地を旅していました。リンの人びとは、「旅の人」は呪術もつかう、と思っていました。

だから、リンの人びとを眠らせたのは「旅の人」で、その後ろには、昔からの強大な敵ゼバックがいると、リンの人たち――ローワンや、「旅の人」を父に持つアランでさえも、そう考えたのです。

リンの村の人たちは、いらいらし、口論し合っていました。アランが魔の山から持ち帰ったヤマイチゴを「旅の人」にうばわれないかと心配したり、「旅の人」はゼバックのスパイではないかと疑ったりしていました。以前から、リンの一部の人びとは、「旅の人」のことを偏見(へんけん)の目で見ていたようです。「旅の人」のことを役立たずの「無用者」と呼ぶ人すらいました。「旅の人」を敵と見なす人と、「旅の人」に理解をしめす人との間に対立が起こり、不信感がうずまいていました。

敵の正体もはっきりわからないまま、人びとは次々にたおれ、不安が広がっていきます。

ローワンは、村の人を救うために、「旅の人」に会いに行きます。彼らに、呪術をといてくれとたのむためでした。

しかし、リンの危機は、「旅の人」によるものではありませんでした。「旅の人」にも、リンの人びとが眠りこんだわけが、わからなかったのです。「旅の人」のリーダーであるオグデンは、リンを救うかぎは、黄金の谷にあると言います。黄金の谷は、アンリンの魔界を突破したところにあります。ローワンは、幼いころから、アンリンの魔界をおそれていましたが、オグデンの養女ジールとともに、黄金の谷に向かうことになりました。

黄金の谷は、いにしえの伝説の地でした。人びとは善良で、町は美しく、道には宝石がしきつめられ、家の前には、エメラルドの目をした金色のフクロウがいたそうです。黄金の谷は、「旅の人」が語りつぎ、さがし求めていた土地でもありました。

ローワンとジールは、ついに黄金の谷を見つけ出し、リンの村をおそった敵をほろぼす手がかりを得ます。

(以下、ネタばれをかくしています)ローワンとジールは、黄金の谷とアンリンの魔界は同じ所にあったのだ、ということに気づきます。黄金の谷がほろんだのは、巨大な食肉植物が生長しすぎたためでした。食肉植物は、谷の生きものを食べつくしてしまったのです。

リンの村の敵も、ゼバックではなく、食肉植物だったのです。それは、リンの人びとが、「旅の人」から隠そうとまでして執着したヤマイチゴでした。ヤマイチゴは、最初のうちは、「おいしい実、あまいかおり」という生きものをあざむく姿をしています。地中にしっかり根をはり、繁殖したところで、本来の食肉植物としてのおそろしい姿を現すのです。

ヤマイチゴを駆除するためには、ムヨウギクをせんじた汁が必要でした。役に立たない無用なものと思われており、ローワンの花粉症の原因になったムヨウギクです。それが、ヤマイチゴの脅威から村を守るために必要なものでした。ムヨウギクが、村を守る大切なよろいだったのです。(ここまで)

「無用者」と言われていた「旅の人」も、人びとの心をうるおし、楽しみをあたえてくれる人であり、いざ敵が出現すると、ともに戦う盟友だったのです。

ローワンとジールのコンビがかわいかったです。「やせっぽちのウサギ君」とあだなされる内気なローワン、背が高くきつい顔をした少女ジールという対照的なふたりです。アンリンの森で、ジールが触手にとらえられそうになった時、ローワンはかみついてジールを助けます。ローワンの、リンの村を守りたいという気持ち、ジールを救った優しさが、ローワンの勇気を引き出していることに、彼女は気づいたのかもしれません。  05.3.5

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ローワンと伝説の水晶

佐竹美保:絵 2002年 あすなろ書房 高学年から

ROWAN AND THE KEEPER OF THE CRYSTAL 1996

「リンの谷のローワン」シリーズ3作目です。

巻を重ねるごとに、このシリーズの世界観が明らかになってきます。

1巻では、リンの谷の人びとが、むかし、ゼバックの奴隷兵士だったこと、「旅の人」やマリスの民とともにゼバックと戦い、自由を手に入れたことが語られています。その名残か、リンの多くの人は、勇かんでたくましいのです。心身ともに強いこと――それが、リンの谷で価値あることとされているのです。

2巻には「旅の人」のことが描かれていました。「旅の人」の習慣、リンの人びととの関わりが読みとれます。リンの谷の人びとは、「旅の人」から多くの恩恵を受けていますが、彼らの訪れを迷惑に思う人、彼らに偏見を持つ人も多かったのです。しかし、ローワンと「旅の人」の活躍によって、敵の魔手から、リンの谷が救われました。その後は、リンの人びとの「旅の人」を見る目も変わったことでしょう。

1、2巻では、名前だけが登場していたマリスの民が、3巻の主要な登場人物となっています。海の近くに住むマリスの民は、三つの氏族から成ります。「水晶の司」が、叡智(えいち)と水晶の不思議な力で、マリスの民全体をたばねています。

マリスの民とリンの人びととは、交易だけで友好関係を築いたわけではありませんでした。300年前の対ゼバック戦争以来の盟友でした。ゼバックは、今なお、侵略の機会をうかがっていました。もしも、海のかなたから、ゼバックが攻めてくると、リンの人びととマリスの民は、共に戦うことになるのです。

そのマリスに危機が訪れます。マリスの人びとの知恵と知識の全てがつまった水晶玉の力が弱まったのです。水晶を守る役目をになった「水晶の司」が死にひんしていたからです。司が死ぬと、水晶は光を失い、マリスを守る力は弱まります。すると、ゼバックは絶好の侵攻の機会を得るのです。司が死ぬ前に、三つの氏族の中から、新しい司を選ばなければなりませんでした。

新しい司を選ぶ役目、それは、第三者であるリンの村の、ローワンの家系にゆだねられていました。今回の「選任役」となるのは、ローワンの母ジラーでした。ジラーに万一のことがあれば、長子であるローワンが後を引きつぐことになっていました。ジラーは、ローワンとジョンをともない、役目をはたすために、マリスの村に向かいました。

マリスの三つの氏族は、ねたみ合っていました。自分の氏族から「水晶の司」を出すために、選任役に関する情報を集め、陰謀をはりめぐらせていました。そのため、選任役は、つねに危険にさらされることになるのです。

ジラーは、「死の眠り」という毒を盛られ、命が危うい状態になりました。ジラーを一刻も早く救わなければならないのに、ローワンは、ジラーの代わりに、選任役となったのです。

夜明け前――つまり、今の水晶の司が死ぬ前に、毒消しを作り、新しい司を選ぶこと。ローワンはより困難だと思われる道を選択したのです。これは、ローワン自身が決定したことでした。

「ローワンと伝説の水晶」には、シバの詞(し)は登場しません。かわりに、水晶の力によって、毒消しの材料を手に入れる方法と、作り方が、詞の形でローワンに示されます。今回も、詞の謎を解きながら冒険することになります。

ローワンに、新しい水晶の司の、三人の候補者が同行します。強そうなフィクス族のシーボーン、落ち着いた女性アンブレー族のアーシャ、深い目をしたパンデリン族のドスです。

三人の中に、ジラーに毒を盛った人物がいるかもしれないのです。選任役について調べつくし、謀略にたけた候補者たち――ローワンは、ひとりひとりを疑います。だれを信じればいいのかわからないのです。

毒消しの材料を探すためには、三人の手助けが必要でした。みんなで謎を解き、危険を回避する方法を考えていくうちに、ローワンの疑いの心が晴れていきます。三人の長所や欠点も見えてきます。危険な目にあいながら、ローワンは、毒消しの材料を手に入れます。

(毒消しの材料と、「水晶の司」選定について、ネタばれをふくみますので、ふせています)ローワンたちは、ピラニアのような魚が住む池から、水をくみ、水中花をつみ取りました。凶暴な怪鳥の羽根を一枚得ました。これらを手に入れるために、シーボーンとローワンは、けがをおいました。最後の毒消しの材料を調達するのは、最も危険で困難なことでした。それは、大蛇の毒なのです。

大蛇は海に住んでいました。海で大蛇にあうと、まず、命はないと言われていました。それでも、生きのびた人もいました。昔、オリンは、大蛇から舟を転ぷくさせられ、逃げ着いた先で水晶を見つけたと、言い伝えられていました。パンデリン族のドスも、大蛇とまみえ、生きのびた者でした。

ローワンは、オリンと大蛇の言い伝えに矛盾点があることに気づきました。オリンが大蛇におそわれたとされる日、オリンは、島で、「死の眠り」の毒消しを作っていたはずなのです。すると、大蛇を見たのは海でなく、島ということになります。実際、大蛇は産卵のために島に上がってきたのです。

大蛇は危険でしたが、陸地では、海の中ほど自由に動けるわけではありません。ローワンは、大蛇の毒を採取しました。そして、毒消しを作り、母ジラーを救いました。

ローワンは、水晶の司にドスを指名します。全ての問題が解決したかのように見えました。

しかし、この物語には、二度、三度のどんでん返しが用意されていました。ドスがゼバックに洗脳されていたことがわかったのです。ゼバックは、新しい水晶の司をあやつり、侵略しやすく取りはからおうとしたのです。いったん、水晶の司の選定が行われると、他の候補に変更はできませんでした。ゼバックの艦隊は、すぐ近くまで迫っていました。

水晶の司となったドスは、海蛇をあやつることで、ゼバックを撃破しました。漁をさまたげ、航海の危険のもとになっている海蛇たちです。海蛇の卵を破壊し、駆除した方が、マリスの人びとの利益になりそうです。シーボーンは、そう考えました。しかし、海蛇は、マリスの民を守る役割を果たしていたのでした。一見、不要なもの、やっかいなものに見えても、視点を変えると、とても大切な役割を果たしている、なくてはならないものだ――このシリーズで、くり返し語られているテーマに思えます。(ここまで)

水晶には、マリスの知恵と知識、水晶の司となった人びとの思いがつまっていました。ゼバックの計画が破綻(はたん)した理由は、マリスのひとりの民をあやつることができても、水晶の力をも、あやつることがではなかったということでしょうか。水晶には、マリスの平和への願いがこめられていたのかもしれません。だから、新しい司が選定されると、マリスの民は、ふたたび団結したのでしょう。 05.3.19

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ローワンとゼバックの黒い影

ネタばれをかくしていませんので、ご注意下さい。

佐竹美保:絵 2002年 あすなろ書房 高学年から

ROWAN AND THE ZEBAK 1999

「リンの谷のローワン」シリーズ4作目です。

家畜バクシャーの世話をするローワンは、かつて、リンの人びとから、「役立たず」と言われ、さげすまれていました。リンの村を救う活躍をしてからは、人びとから尊敬されるようになりました。ローワンは、自信を取り戻し、ゆるぎない自分を確立したかのように見えます。

しかし、戦士の末裔(まつえい)である勇敢なリンの人びとの間にあって、ローワンは、他の人たちと自分との違いを痛いほど感じていました。バクシャー係としては、年がゆきすぎているし、リンの人びとにとって価値あることとされている強靱(きょうじん)な体力と勇気が欠けています。ローワンのような内気で弱い子どもは、リンの村ではめずらしかったのです。

リンの300年の歴史の中で、バクシャー係となった内気な人も、少数ながらいました。けれども、その人たちは、だれからも理解されず、結婚もせず、子も残さず、孤独な生涯を終えたというのです。

ローワンが感じている「ローワンらしさ」「村の人との違い」は、ローワンの生き方にも関わる問題だったのです。

ローワンの母ジラーと、ストロング・ジョンの結婚式で起きた事件が、ローワンの冒険の始まりであり、ローワンのアイデンティティに光を投げかけることになります。

結婚式のとちゅう、ローワンの妹のアナドが、ゼバックで飼われている翼竜グラックからさらわれ、海のかなたへと連れ去られたのです。ローワンは、不吉な前ぶれを感じていましたが、はなやかな結婚式で、そのことを口にできなかったのでした。

ローワンは、アナドを取り返しに、ゼバックの地にわたることを決意します。今回、ローワンの旅に同行したのは、ゼバックの血をひく「旅の人」ジール、「旅の人」の父、リン生まれの母を持つアラン、陸地を旅したマリスの民パーレンでした。シバは、彼らを、「半端者」と言ってあざけります。しかし、「半端者」として生きているのは、「賢い女」シバも同じでした。シバは、予言の詞(し)と、包みをローワンに与えます。シバなりの形で、ローワンの旅に同行することになったのです。

ゼバックの都は、大蛇の住む海のむこうにありました。海をわたっても、危険な生物イシュキンの巣がある荒れ地をこえなくてはなりませんでした。

ローワンたち5人には、それぞれ果たすべき役割がありました。海では、航海にたけたパーレンが舟をあやつり、荒れ地ではアランがみんなを元気づけました。シバは、包みの中に入れたメダルと、小枝を燃やした炎を媒介(ばいかい)にして、みんなに行く手を指し示しました。

ゼバックの都は、リンの村や、マリスの持つ、自然の豊かさや平和さとは、全く違った雰囲気を持つ都市でした。入る者をこばむ金属の城壁、地下迷路、整然と行進する衛兵たち、軍事訓練されるグラック、平民と奴隷が働く農園。ゼバックは、ひとりひとりの人間が大切にされない土地なのかもしれません。

この都で、ジールは、アナドを見つけるために芝居を打ちます。ジールにしかできない役割でした。

アナドは、「囲い地」と呼ばれる村にいました。そこがゼバックの牢獄なのです。

ローワンたちは、「囲い地」で、リンの村の起源を知りました。「囲い地」にいた奴隷のうち、勇敢で力がある者が、戦士として海をこえたのです。彼らは、ゼバックにそむき、リンの谷に定住しました。戦士に向いていないとされた、もの静かで優しい人たちは、ゼバックの地に残りました。ひとつの民が二つに分かたれたのです。

ゼバックに残った人たちで、今も生きのびていたのは、歴史を絵につづってきた家系の三人だけでした。勇敢な少年ノリス、ひかえ目な少女シャーラン、ふたりの祖父シエリーです。

ローワンたちは、アナドと、ゼバックに残った人たちと共に、グラックに乗ってリンの谷に帰ります。ローワンが果たすべき役割は、帰還の旅のなかにありました。バクシャー係のローワンには、動物の心がわかりました。グラックが長旅でつかれないよう、はげましたり、なだめたりしました。

ゼバックに残った人たちが、リンの谷に移住することで、分かたれた民がひとつになり、失われていた歴史の一部が取りもどされたのです。同時に、ローワンは、内気でおく病な子である自分の価値を見いだしたのかもしれません。

それは、ローワンに同行したジールや、アラン、パーレンにも言えることでした。「半端者」と言われ、他の人たちとは違う特質を持った人たちでしたが、その人でないと果たせない役割を持ち、ありのままの姿で、受け入れられるべき人たちでした。

(蛇足)「リンの谷のローワン」シリーズは好きですが、3巻と4巻で、ゼバックの軍隊が大敗するシーンと、シエリーが死ぬシーンだけは受け入れがたかったです…とくに後者は、ストーリー運びの都合で殺されたような気がしました。。 05.3.20

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ローワンと白い魔物

ネタばれをかくしていませんので、ご注意下さい。

佐竹美保:絵 2003年 あすなろ書房 高学年から

ROWAN OF THE BUKSHAH 2003

「リンの谷のローワン」シリーズ5作目です。

リンの村に、「凍れる時」が訪れ、春がめぐってこなくなりました。異常気象というより、氷河期の前兆のような寒波でした。

この問題を解決するために、ローワンが活躍することになります。臆病で内気、やせっぽちのウサギ君と呼ばれていたローワンですが、巻を重ねるごとに成長していきます。たくましく、度量が大きくなっています。

ローワンは、シバから予言の言葉を聞かされました。難解な詞(し)のようなシバの言葉から、村を救うかぎは「禁じられた山」にあることを知りました。

シバはローワンに、メダルを託しました。「わしがどんな思いでどんなことをしてきたか、今度はおまえが知る番じゃ」と言って。自分だけが、未来を見る能力を持つということ――それは、孤独と恐怖とに、常に向き合って生きるということでした

ローワンは、ノリス、シャーラン、ジールとともに、「禁じられた山」を登りました。四人には、この旅で果たす役割が決まっていました。

今度の旅には、言葉が浮かび上がる「魔法の地図」はありません。その代わり、メダルの力によって、ローワン自身が予言の詞を発するようになりました。

以前、「旅の人」の長オグデンは、はるかな昔、黄金の谷も「凍れる時」におそわれたこと、「禁じられた山」と折り合いをつけて、危機を乗り切ったことを語っていました。しかし、黄金の谷の人びとは、どのようにして折り合いをつけたのか、オグデンにもわかりませんでした。

手がかりとなる古文書や、知恵は、リンの村にも蓄積されていませんでした。大きな災厄(さいやく)がおそってきた時、または、危険に立ち向かわなければならないのに、先の見通しが全くたたず、危険を回避するための情報が何一つない時、どのように行動すればよいのでしょうか。

ローワンたちは、予言の詞を道しるべにしました。メダルの力による詞は信頼がおけるものでした。

現実の世界でも、昔は、自然災害等から身を守るために、予言を道しるべにして、進むべき道を決めることが多かったのかもしれません。今は、災害について科学で解明され、先人たちの知恵や歴史が残っているので、被害を防ぐ手だてや、解決の方法は、昔より楽に見つかります。

歴史や記録を持たないローワンたちは、詞とバクシャーの本能をたよりに、手探りで解決の方法をさぐり、危険な道のりを歩んで行きました。「禁じられた山」の厳しい自然、寒気をもたらす怪物アイス・クリーパー、不吉な前兆……絶望にうちひしがれそうになる自分と闘いながら進んだのです。

ローワンは、この旅で、みんなを導くリーダーの役を立派に果たしています。みんなを守るために予言をし、悪夢におののきながらもしっかり見すえ、くじけそうになる友をはげましました。

「禁じられた山」で、ローワンたちが見たのは、アイス・クリーパーの巣と、バクシャーが求めるものでした。リンの村の人たちは、バクシャーをさくで囲って飼っていました。それは、自然界の均衡を乱す行為でした。人間の都合と常識で、バクシャーの本能を押さえこもうとしたことが、リンの村の危機をまねきました。

バクシャーの跡をたどっていくことが、リンを救うことになったのです。「獣の賢さは、人間の思いをしのぐなり」というシバの言葉通りでした。

ローワンたちは、「禁じられた山」で、黄金の谷の人びととリンの村のつながり、リンの村の知られざる歴史をも見つけました。旅に同行したシャーランは、リンでのできごとを絹絵に描きました。

ローワンたち四人は、それぞれに大切な役割をになっていました。ノリスは、リンの人の勇かんさ、シャーランは、リンの人びとがゼバックの地においてきた芸術家としての気質を代表していました。リンの人びとの分かたれた性質をつなぐのがローワンであり、ジールは他民族の代表でした。「リンの谷のローワン」シリーズの世界の未知の部分が解明され、ひとつにまとまった観があります。

ローワンたちは、リンの谷の起源と歴史を、未来へとつなぐ役割をも果たしたのでしょう。 05.3.15

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ふしぎの国のレイチェル

訳:さくまゆみこ 絵:杉田比呂美 あすなろ書房 中学年から

Pigs Might Fly 1986

「ふしぎの国のレイチェル」は、「リンの谷のローワン」や「デルトラ・クエスト」とはちがい、ユーモアたっぷりで、ほのぼのとしたファンタジーです。

レイチェルは、かぜをひいてねていました。たいくつしきっていました。何かわくわくすることが起こらないかな、ぼうけんをしたいな、と思いました。

近所のかんばん屋のサンディーには、おもしろいことがたくさん起こるのです。レイチェルは、サンディーをうらやましく思いました。

おみまいに来たサンディーは、レイチェルにすてきな絵をプレゼントしました。空には、ぶたが飛び、レイチェルもユニコーンにまたがって飛んでいるのです。

その絵と同じことがレイチェルに起こりました。レイチェルは、ブタが空を飛ぶふしぎな世界にまよいこんだのです。

レイチェルは、白い家に住むイーニドというおばあさん、バートというおじいさんと出会いました。

ふたりは、少し変わっていました。イーニドは、かなりわすれっぽくて、レイチェルに同じことを何度も何度も質問しました。バートはとてもおこりっぽい人でした。

ふたりがかわっているのは、「ブタあらし」のせいだったのです。「ブタあらし」というのは、超常気象のことで、超常度数が高くなると、ブタが空にうきあがるというのです。「ブタあらし」がくると、人びとの性格がかわり、信じられない事件が次々に起きるそうなのです。また、ゆくえふめいになる人も多いのです。イーニドとバートのめいのグロリアも、五才のときにゆくえふめいとなりました。

だから、人びとは、「ブタあらし」の日には、外出をさけ、外の空気が家の中に入らないようにするそうです。「ブタあらし」の空気をたくさんすうと、性格がかわったり、ふしぎなことが起きすぎたりするからです。

こんなやっかいな「ブタあらし」ですが、人びとは、なくてはならないものだと考えていました。ふしぎなことがまったく起こらなかったら、つまらない生活になってしまうからです。だから、「ブタあらし」のふしぎな空気を少しためておくそうです。そして、つまらない日が続くと、ふしぎな空気を少し出すのです。

レイチェルは、ふしぎなできごとをあれほど望んでいたのに、家に帰ろうとしました。ふしぎな世界をぼうけんしたり、楽しんだりはしていませんでした。レイチェルは、家族のもとに帰りたかったのです。

レイチェルは、バートの助けをかりて、もとの世界に帰る方法をさがしました。バートのトラックに乗って、銀行の支配人、キャシー・ティタートン、図書館のクーリーさんをたずねて行きました。この人たちは、レイチェルと同じように、この世界にまよいこんだアリグザンダーという人を知っていたのです。

むかし、図書館で、アリグザンダーが読んだ本を、レイチェルも読みました。アリグザンダーは、子どもの歌の本を読んでいて、もとの世界に帰る方法を見つけたのだろう、とレイチェルは考えたからです。

もとの世界にもどる方法は、わらべうたにかくされていました。レイチェルはついに見つけたのです。

「ブタあらし」が強い日、レイチェルは、もとの世界の自分のベットにもどることができました。

レイチェルが帰った日、すてきな発見がふたつ、おみやげがひとつありました。(ネタばれをかくしています)発見1:イーニドとバートのめいが、ついにふたりのもとにもどったのです。それは、思いがけないぐうぜんのできごとがきっかけでした。「ブタあらし」の日だったから、こんなぐうぜんが起きたのかもしれません。

発見2:アリグザンダーは、サンディーのことだったのです。

おみやげ:「ブタあらし」の空気が入ったすいとうをレイチェルは持ち帰っていました。(ここまで) 05.5.14

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