尊属殺事件(昭和44年最高裁)

尊属殺とは自分の尊属(つまり親や祖父母)を殺す罪であり、通常の殺人罪より重い刑(死刑または無期懲役しかない・・普通の殺人なら懲役10年くらいが一般的)が課されていました。尊属殺という刑は現在では廃止されましたが、その廃止のキッカケとなった重大な事件です。要するにこれほど可哀想な被害者を重く罰するのはおかしいとみんな考えたわけです。ちなみにこの事件がおきてから尊属殺の規定が廃止されるまでは10年ほどかかっています。検察がこの事件以降尊属殺の事件はただの殺人として取り扱うと決定したので別段問題になりませんでしたが、法律の条文から削除することに最後まで反対していたのが当時の与党であったJ党の議員さんたちだったのは言うまでもないでしょう。

事件の概要

加害者の女性を仮に哀子さん、被害者を鬼兵としておきましょう。哀子さんは鬼兵さんの実の娘でした。鬼兵さんは妻と哀子さんを含め6人の子供と暮らしていましたが、戦中戦後の混乱の中、商売もうまくいっていなかったようです。そんな暮らしに対する不満が爆発したのでしょうか。当時14歳だった哀子さんの寝室に忍び込み、強姦してしまいました。哀子さんは大変なショックを受けました。母親に相談しようとも思いましたが、なかなか言い出すことが出来ません。哀子さんが抵抗出来ないのをいいことに鬼兵はその後もたびたび哀子さんに関係を迫ります。一年ほどそれが続いた後にとうとう耐え切れなくなった哀子さんは母親に全て打ち明けました。母親は鬼兵を責め立てますが、それに対し鬼兵は逆上しました。曰く「お前などどこへでも行ってしまえばいい。俺は哀子と離れない!」そうして彼女に暴力を振るうようになりました。
母親はとうとう鬼兵との同居に耐えられなくなり、他の子供たちを連れて実家に帰りました。しかし鬼兵は哀子さんを連れて追ってきました。そして妻の実家においても哀子さんに性的関係を迫り続けました。それに驚いたのが妻の母親、すなわち鬼兵の義父です。たびたび乱行を止めるように注意しますが、意に介さないばかりかますます暴行は酷くなるばかりです。次第に親戚の誰もが鬼兵の相手をしないようになっていきました。その間も哀子さんは何度も鬼兵の下から逃げ出そうとしますが、そのたびに鬼兵に見つかり連れ戻されてしまいました。そして哀子さんが鬼兵に初めて襲われてから3年後、ついに哀子さんは鬼兵の子供を妊娠・出産してしまいました。哀子さんは子供のために鬼兵に逆らってはならないと思い、抵抗を断念しました。その後8年間で4人の子を出産しています。(但し後の2人は出産後1年ほどで死亡)周囲からは夫婦同然の暮らしをしていると見られていました。
翌年から子供に手がかからなくなった哀子さんは家計を支えるために働きに出ることになりました。当時哀子さんは25〜26歳です。まだまだ青春花盛りです。私だって人並みの幸せを掴みたいと考えたのも何の不思議もないでしょう。しかし私は父に犯された汚れた身の上。いつか光が差す日など来るのだろうか。。そんな中でお互いに憎からず思いあう男性が現れました。仮に正夫としておきましょうか。7つ年下の正夫と互いに気持ちを確かめ合ったとき哀子さんは29歳でした。
正夫さんは両親の反対にもめげず哀子さんとの結婚を切望しました。自分にはもはや幸せになることなど出来ないとあきらめかけていた哀子さんも、今こそ父との関係を断ち切り正夫との新しい生活を始めるべきだと思うようになりました。
哀子さんが鬼兵に嫁に貰ってくれる人が現れたら結婚しても良いかと切り出すと、鬼兵は「お前が幸せになれるなら嫁に行っても良い」と答えました。しかし哀子さんに意中の相手がいることを知ると鬼兵は態度を一変させます。お前の幸せを邪魔してやる、相手を殺してやるなどと言って暴れだしました。結婚の承諾を得られないことに絶望した哀子さんは家から逃げ出しましたが、すぐに捕まって連れ戻されてしまいました。哀子さんは家の中に監禁されたうえ、自らも仕事を休んだ鬼兵に犯され続けました。10日ほどそのような生活が続いた後に、鬼兵と哀子さんの間で口論になりました。「俺がこんなに苦労してお前を育ててきたのに、十何年間も俺を弄びやがって!」「3人の子供も始末してやるからお前を呪い殺してやる!」などと哀子さんに怒鳴り、両肩を掴んで襲い掛かってきました。哀子さんはこの苦難から脱出するのも正夫さんと結婚するためにも鬼兵がいては不可能だと考えもはや殺すしかないと思い立ちました。哀子さんは鬼兵の腕を振り解くと近くにあった鬼兵の股引を使って鬼兵の首を絞めて殺害しました。

コメント

あらためて読むと本当に酷い事件だと思います。長々と書きましたが、今回は脚色なしでほとんど判決文から引用したままです。ちなみに被告人は無罪となりました。
エロ漫画なんかでは近親相姦の結果ラブラブになることも珍しくないです。そんなのに影響されて近親相姦にロマンを抱いている人も多いですが、現実はこんなもんです。無茶苦茶嫌がられています。
「あう〜、わたし、お父さんに犯されちゃったよー。でも、でも、最初は嫌だったのに、なんかだんだんきもちよくなってきちゃった〜。あ〜ん、お父さ〜ん、もっと!もっとしてーー!!」っていう展開も中にはあるはずだと信じている人は死んだほうがいいと思います。だから僕も死んだほうがいいと思います。さようなら。
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