“The Fierce Battle”
─ 611年〜713年





エヴェリーナ・ミュンスター「今回の授業範囲では、新羅による朝鮮半島の統一と渤海の建国までを扱うわ。でも、その前に新入生の紹介があるわ」
フィアーテ・V・S・B「この人数で新入生か?」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「賑やか……というよりも、台詞を書くのが大変になりそうね……」
エヴェリーナ・ミュンスター「それじゃ、入ってね」

  ガラガラッ

ウァール・グレアウェムト「ウァール・グレアウェムトだ。名前が読みにくいのなら、名字のほうを呼んでもらっても構わん。ちょっと毒舌が入るので、日本の国籍を持ちながら、どの国旗に敬礼すべきか勘違いしてる連中には、結構耳が痛いことをバンバン言うかもしれんぞ」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「ああ、その心配は多分無いわ。このコンテンツを読む人って、その辺はちゃんと弁えている人が多いから」
ウァール・グレアウェムト「なるほどな……。今回の授業では、隣の瑠華と一緒に留学ということでこのクラスに入ってきたので、今後ともよろしく頼むぞ」
奈津嬉「は〜い」
アークス・アルクスト「こちらこそ、よろしくお願いします」
水薙瑠華「水薙瑠華です。趣味でコスプレをしている女の子です。どうかよろしくお願いします〜」
カオス・コントン「おおっ、よろしくお願いします〜♪ 可愛い子が入って来て、俺達も楽しいですよぉ〜♪」
水薙瑠華「あ、ありがとうございます♪ でも、授業中のナンパはお断りですからね〜♪」
ウァール・グレアウェムト「とりあえず、何が起こるかは説明する必要も無いな?」【剣の柄に手をかけている】
カオス・コントン「ぐっ……いきなり厳しいっすねぃ……」


  〜6〜 隋による高句麗遠征

刀和祥子「では、新人2人も加えて、改めて新羅による朝鮮統一の記録を追っ掛けて行きたいと思います。ただし、最初に取り上げなければならないのは隋と高句麗の戦いなんです」
ウァール・グレアウェムト「煬帝による高句麗遠征だったな?」
刀和祥子「それもあるのですが、高句麗遠征を実行したのは煬帝だけじゃないのです」
ヴェルナ・H・エイザー「え?」
空有紗「実は、文帝が598年に高句麗遠征を実施して失敗してるんですよねぇ。他にも、唐が太宗の時代に高句麗遠征を行って、こっちも失敗しています」
カオス・コントン「文帝……って、隋の建国者でしたよねぇ」
エヴェリーナ・ミュンスター「そうね。煬帝のほうが大掛かりで回数も多かったから、高句麗遠征って聞くと煬帝のほうが出易いんだけどね」
空有紗「じゃあ、煬帝による高句麗遠征の記録を大雑把に説明しますねぇ。といっても、戦場の地図も無い、簡単な説明なんですけど」
奈津嬉【無言でメモを取っている】
空有紗「煬帝による1回目の高句麗遠征が実施されたのは611年のこと。この時に動員された兵力は110万人以上と言われてます」
水薙瑠華「えっ!? 100万人もいたんですかぁ!?」
ウァール・グレアウェムト「いくらなんでも、それは誇張が混ざってないか?」
刀和祥子「軍事物資の輸送に従事する人間も含めて考えると、数百万人の軍隊……人口が膨れ上がった現代社会でもなかなかお目に掛かれないですよね。誇張が入っていると考えるのが自然ですよね……」
アークス・アルクスト「でも、高句麗の人達はこの大軍をどうやって打ち破ったんですか?」
空有紗「隋の大軍は水陸の両面から高句麗への侵攻を行ったんですけど、水陸両軍の連携が取れていなかったんですねぇ。水軍のほうは順調に勝ち進んでいたんですけど、隋の水軍を率いていた来護児が、『諸軍と合流するまで待つべきだ』という副官の進言を無視し、独断で平壌まで攻め上がっちゃったんです。で、平壌までやってきた来護児の軍勢約4万人は、高句麗側の準備した伏兵に完膚なきまでに叩きのめされてしまいます」
カオス・コントン「あちゃあ……」
レキリス・キャソル「南宋の歴史家・袁枢が書いた『通鑑紀事本末』によると、隋軍が伏兵に対処できなかったのは、兵士達が略奪に走っていたところを襲われたとのことにございます」
鞍馬彰吾「…………高句麗側の計略にはまったのでしょうか?」
ウァール・グレアウェムト「おそらくな。それにしても、戦いが終わらぬうちに略奪に走るとは、少々見苦しいものがあるぞ」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「そういや、陸軍のほうはどうなったの?」
空有紗「こちらも高句麗の計略に引っ掛かって大敗を喫してしまったんですよねぇ〜」
奈津嬉「何をしたのですか?」
空有紗偽の降伏を行ったんです」
フィアーテ・V・S・B「おい」
空有紗「平壌の近くまで隋の大軍がやって来たところで、高句麗で防衛線を指揮していた乙支文徳という大臣が、隋に対して『このまま退却したなら、高元(当時の高句麗王だった嬰陽王)を煬帝のもとへ出頭させます』と降伏してきたんです」
ヴェルナ・H・エイザー「見え透いた嘘じゃないですか……」
空有紗「でも、兵士が疲弊しきっていてこれ以上戦える状態じゃないと判断した隋軍は、このかなり怪しげな降伏の話を真に受け、退却を始めちゃったんですよねえ。あとは、士気も萎え萎えになった撤退中の隋軍に高句麗軍が襲い掛かるだけでした。隋軍は退却しつつ応戦するのですが、薩水という場所でついに壊滅的な敗北を喫してしまいました。朝鮮や韓国の人々はこの戦いのことを『薩水大捷』と呼んでます」
アークス・アルクスト「隋軍が蒙った被害はどのくらいなのですか?」
空有紗「『通鑑紀事本末』によると、直接高句麗への攻撃に加わったと思われる隋軍305000人のうち、生きて戻れたのは2700……出撃時の兵士数に誇張が存在するのではないかという疑いを考慮しても、この損耗率は尋常じゃないですねぇ〜」
奈津嬉「なーむー」
レキリス・キャソル「ちょっと話が脇道に逸れるのですが……」
エヴェリーナ・ミュンスター「何かしら?」
レキリス・キャソル「Googleで『薩水大捷』をキーワードにして検索を行いましたところ、こんな記事が見つかりましてございます」

キム・ジャンフン、「薩水大捷」コンサート開催へ

 歌手のキム・ジャンフンが高句麗史を守るために立ち上がる。

 キム・ジャンフンは中国の高句麗史歪曲に抗議して18日、ソウル市内の延世(ヨンセ)大学露天劇場でコンサート「薩水大捷」を開催する。中国の歪曲された歴史意識を糾弾するために歌で対抗する。

 キム・ジャンフンは「私ができる最大の武器である公演を通じて国民の愛国心を高め、先祖たちの偉大さと大切な歴史を再確認したい」と意気込みを語った。

 公演は「薩水大捷」というタイトルに相応しい内容と形式で行われる。

 まず公演会場の入口には高句麗の偉大さを現した8メートルの大型ロボットの造形物を展示する。座席も「薩水席」、「帰州席」などと名づけた。公演ポスターには鎧を着たキム・ジャンフンが写っている。今回の公演のためにキム・ジャンフンは明洞(ミョンドン)をはじめソウル市内で鎧を着てプロモーション活動も行った。

 超大型の噴水やシンクロナイズドダンサーチームのパフォーマンス、ウォータースクリーンなど、水を連想させる舞台装置も披露する予定だ。

 キム・ジャンフンが直接演出も手がけるなど、見所満載の超大型コンサートになる見込みだ。

出典:スポーツ朝鮮2004年9月1日付記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2004/09/01/20040901000023.html

水薙瑠華「鎧のコスプレですかぁ……重たそうですねぇ……」
カオス・コントン「こんな大げさなことをしないと愛国心が保てないなんて、韓国の中の人も──」

  すぱーんっ

鞍馬彰吾「そんなものいるわけないでしょうが」
カオス・コントン「ううっ……せめて最後まで言わせてくれたっていいじゃないですか〜」
ウァール・グレアウェムト「…………で、話を煬帝のことに戻したいのだが、普通だったらここで高句麗征服を諦めるものじゃないのか?」
刀和祥子「そうなんですけど……煬帝は翌612年には2回目の高句麗遠征を実行に移したんですよ。こちらも失敗してしまいましたが」
フィアーテ・V・S・B「懲りない奴だな……」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「今度はどうして失敗したの?」
刀和祥子「隋軍の兵站責任者だった楊玄感が、本国で反乱を起こしたんです」
ヴェルナ・H・エイザー「それって、一発で隋軍が瓦解しちゃうじゃないですかぁ……」
刀和祥子「反乱軍の首謀者だった楊玄感にあまり人望が無かったこともあり、煬帝はこの反乱を鎮圧することに成功します。そうしたら、煬帝は再度高句麗への遠征を命じたのです。これが614年のことでしたね」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「本当に懲りないわね……」
カオス・コントン「これで国を滅ぼさないほうが不思議ですねぃ……」
ウァール・グレアウェムト「ひょっとして……この煬帝という人間、アホなのか?」
エヴェリーナ・ミュンスター「アホかどうかは微妙なところね。煬帝はかなりの文才があったと伝えられているし、隋を滅ぼして中華文明圏の覇者となった唐の時代に、不当に貶められた可能性もあるわね。ただ、猜疑心が強く、部下に対して『朕は諫言が嫌いだ』と発言したことが『通鑑紀事本末』に記されているところを考えると、暴君としての素質は十分にあったんじゃないかしら?」
水薙瑠華「その3回目の遠征が失敗した理由って何なんですか?」
刀和祥子高句麗が降伏したんですよ。でも、高句麗は降伏後に隋へ入朝しませんでした
グレイシア・ネウ・カーネリアス「つまり……」
ヴェルナ・H・エイザー端から降伏する気は更々無かった……」
カオス・コントン「うーん……なかなかやりますねぃ……」
レキリス・キャソル「韓国の国史教科書では、一連の高句麗の戦いを『百済、新羅まで保護する民族守護の意義をもった』と表現しております。高句麗の人々がそこまで考えていたとは考えにくいものがありますが……」


  〜7〜 政変と戦乱の嵐

アークス・アルクスト「この後はどうなったんですか?」
刀和祥子「煬帝は618年に暗殺され、隋はその翌年(619年)に滅亡します。隋の後に成立した唐は、律令制度の立て直しや郡県制の復活、三省六部の設置など内政に力を注いでいきました。特に、第2代皇帝である李世民こと太宗(在位626〜649)の時代は『貞観の治』と呼ばれ、後世から高い評価を受けることになります」
ウァール・グレアウェムト「しかし、そんな名君がどうして高句麗遠征なんかを?」
刀和祥子「正確な資料が見つからなかったので憶測になるのですが、理由は隋の煬帝が実施した高句麗遠征とさほど変わらないと思います」
グレイシア・ネウ・カーネリアス自国の安全保障と、中華文明圏全体の宗主国としての権威の誇示……かしら?」
刀和祥子「そうですね。で、唐が再び高句麗を狙い始めているということを知った高句麗は、当時の高句麗の高官だった泉(淵)蓋蘇文の指揮の下、長城の建設を行うなど戦いの準備を着々と進めていきます」
カオス・コントン「そして、今度は唐と高句麗の一大決戦──」
刀和祥子「カオスさん、それはまだ早いです。唐と高句麗の決戦が行われる前に、朝鮮半島全体で大きな事件が相次いで発生します。その説明を先にしないといけません」
カオス・コントン「え? 何ですかそれは?」
ボルジア家の端役「朝鮮半島の各国で相次いで政変が発生した」
アークス・アルクスト「えっ!?」
奈津嬉「こんな時期にクーデターですか?」
ボルジア家の端役「とりあえず、国別に説明するぞ。最初に大きな動きが見られたのは百済だ。641年に百済王に即位した義慈王(在位:641〜660)は、即位後に反対派の貴族を追放し、自分の下に権力を集中させるという大々的な政治改革を断行した。これを『クーデター』と呼ぶべきかどうかは怪しいのだが、これまでの百済が内紛続きでまとまっていなかったことを考えると、十分大きな変化であると言えるだろう」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「うんうん……」
ボルジア家の端役「次に動きが見られたのは高句麗だ。こっちは正真正銘のクーデターだぞ。642年に、泉蓋蘇文が高句麗王だった栄留王(在位618〜642)と栄留王の側近だった貴族達多数を殺害、栄留王の甥だった宝蔵王(在位642〜668)を即位させ、高句麗の実権を完全に掌握することに成功する」
ウァール・グレアウェムト「王殺しか……なかなか大それたことをやるな」
フィアーテ・V・S・B「この泉蓋蘇文って男がクーデターを起こした原因は何なんだ?」
ボルジア家の端役泉蓋蘇文は唐との徹底交戦を主張していたが、栄留王とその側近達は唐に対して恭順する意図を持っていた。この外交戦略の見解の相違が原因だな。歴史では泉蓋蘇文によるクーデターが成功し、高句麗が主戦派一色に染まることになるのだが、栄留王のほうも泉蓋蘇文の暗殺を企図していたそうだ」
アークス・アルクスト「『殺られる前に殺ってしまえ』ということですか?」
ボルジア家の端役「まあ、そういうことだな。この泉蓋蘇文によるクーデターとほぼ同時期に、百済が新羅に対して侵攻を開始する。この時、新羅王だった善徳女王(在位632〜647)は、王族の1人で真興王の曾孫である金春秋を外交使節として高句麗に派遣するのだが、高句麗は金春秋を逮捕・投獄してしまう」
鞍馬彰吾「新羅の人々は黙っていないでしょうね……」
ボルジア家の端役「そうだな。後に金春秋は高句麗から脱出し祖国への帰還を果たすのだが、この一件があったせいで、新羅と高句麗も決定的に対立するようになる」
刀和祥子「ここで、当時の朝鮮半島を巡る外交関係を軽く整理しておきましょうね」

  日本・百済・高句麗 vs 新羅・唐

エヴェリーナ・ミュンスター「ただし、それぞれの陣営内の同盟関係も一枚岩というわけではないの。643年には、新羅で唐帰順派が倒されるという政変も発生したし」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「え? 『唐帰順派』? どういうことなの?」
刀和祥子「善徳女王が唐に対して援軍要請を出した際、唐側が『善徳女王を退位させ、唐の王族を新羅王に即位させろ』と要求したんです。唐帰順派の人達は、この提案に乗ろうとしたんです。643年の政変によって、この唐の提案は水に流されてしまいましたけどね」
ヴェルナ・H・エイザー「王の首を替えろってのは無茶苦茶な要求ですねぇ……。これで、新羅と唐の同盟も御破算になるんじゃないですかぁ?」
刀和祥子「そういうわけではなかったようですね。唐による高句麗遠征は645年に行われるのですが、この時新羅は唐からの要請を受けて高句麗への攻撃に参加しています。しかし、この時の唐による高句麗遠征は、高句麗の実質的な最高指導者だった泉蓋蘇文によって阻まれています。援軍を出した新羅も背後を百済に攻められるなど、苦しい展開を強いられました」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「なかなか決着がつかないのね……」


  〜8〜 新羅による朝鮮半島統一

刀和祥子「さて、ここまでの戦いで高句麗征服が難しいと分かった唐は、戦い方をがらりと変えてきます」
水薙瑠華「戦い方を変える……って、どうしたんですか?」
刀和祥子「同盟国だった新羅と共同で、先に百済を滅ぼすことにしたんです」
フィアーテ・V・S・B「ノリとしては『敵の味方は敵』といったところか」
刀和祥子「そして、660年7月、唐・新羅両国の連合軍によって百済の首都が陥落し、この時を以って百済は滅亡とされます。捕まった義慈王は唐に送られ、そのまま祖国に帰ること無く洛陽で没しています」
奈津嬉「なーむー」
刀和祥子「ちなみに、この時の新羅国王は、以前高句麗を訪れた際に危うく殺されそうになった金春秋こと武烈王(在位:654〜661)です。この金春秋という人は、王に即位する前には高句麗だけでなく日本や中国に滞在して外交活動を行っていました。『武烈王』という名前が付いていますけど、文官や外交官としての活躍のほうが目覚しいという印象がありますね」
カオス・コントン「どうして百済はあっさりと滅んでしまったのですか? 高句麗と比べて、潰れるのが早過ぎるっすよ」
エヴェリーナ・ミュンスター「まあ、百済と唐の間では国力に差があり過ぎたから仕方無いわね。それに、義慈王は泉蓋蘇文のようにずば抜けた能力の持ち主だったわけではないしね。歴代の百済王と比較すれば、まだ有能なほうだったとは思うけど」
カオス・コントン「うーん……やっぱり、相手が悪過ぎたっすねぇ……」
刀和祥子「百済が滅亡したことにより、唐と新羅は朝鮮半島の南西部を支配することとなりました。ただ、唐・新羅による旧百済支配は思うようには進みません。旧百済領で百済の遺臣達が抵抗を続けていたからです。そして、遺臣達は日本に対し、百済再興の為に軍勢を派遣するよう使者を出しました。当時日本を支配していた斉明天皇と中大兄皇子──後の天智天皇、そして中臣鎌足はこの要請を受け入れ、旧百済への援軍派遣を決定します」
フィアーテ・V・S・B「再興……って、新しい百済国王は誰にするんだ?」
エヴェリーナ・ミュンスター「631年から、日本には百済の王子・豊璋がずっと滞在していたの。留学なのか人質なのか、その実態は良く分からないけどね。それはともかく、百済再興に必要となる新国王の候補者はちゃんといたのよ」
フィアーテ・V・S・B「なるほどな」
空有紗「援軍が出るまでにはもうちょっと時間があったんですよねぇ。661年7月に斉明天皇が崩御するというアクシデントもありましたし」
鞍馬彰吾「前途多難ですね……」
空有紗「日本軍の派兵に先立ち、662年に百済に戻った豊璋は百済王への即位を宣言し、旧百済領での抵抗運動を活性化させました。んで、663年になってから、兵員を整えた日本軍が百済へ向かいます。これを迎撃するのは唐と新羅の連合軍。戦場の舞台は朝鮮半島西岸にある錦江(クムガン)の河口──この場所は、日本側の資料では白村江と呼ばれてるんですよ」
ボルジア家の端役「韓国の国史教科書には『白村江』という地名は出なかったけどな」
空有紗「そして、663年8月29日、日本と唐・新羅の連合軍がついに戦火を交えます!」
カオス・コントン「おおっ、一大決戦ですか。これは燃えるじゃないですかっ!」
奈津嬉「この戦いの結果は?」
空有紗結果は唐・新羅連合軍の勝ちだったんですよねぇ。再興された百済はその年のうちに潰されちゃいましたし」
アークス・アルクスト「あらら…………」
フィアーテ・V・S・B「日本側には勝算はあったのか?」
空有紗「この白村江の戦いって実は海戦だったんですよ。だから、陸の上で唐や新羅の軍勢とまともに勝負するのと比べれば、まだ勝算はあったんでしょうねぇ。でも、このテキストの作者はどっちにしろ百済再興は失敗していたはずだと考えてますよ」
水薙瑠華「どうしてなんですか?」
空有紗「ぶっちゃけたことを言ってしまうと、豊璋は義慈王よりも能力が低かったんじゃないかってことですね」
ウァール・グレアウェムト「確か、朝鮮半島に戻って百済再興運動を指揮している際、再興運動の中心人物であり、日本への救援要請を出した鬼室福信を、『謀反の疑いあり』という理由で殺してしまっていたな
カオス・コントン「うわぁ……ちょっとダメっぽいっすねぇ……」

刀和祥子「話を戻しますけど、百済を潰した唐・新羅連合軍が高句麗を滅亡させたのは668年のことです」
奈津嬉「はふう……長い戦いの記録でしたね……」
刀和祥子「666年に泉蓋蘇文が亡くなった後、高句麗ではその後継者争いが発生してしまいました。結局、唐と新羅にその内部対立を突かれることになったのです。逆に言うと、泉蓋蘇文の存命中は、唐と新羅は高句麗を落とすことができなかったわけですから、彼の存在の大きさというものが少しは窺い知れると思います」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「これで新羅による朝鮮統一は実現されたの?」
刀和祥子「いえ、まだ続きがあります。今度は、新羅と唐の対決が始まったんですよ」
フィアーテ・V・S・B「おい」
カオス・コントン「せんせー、まだ終わらないんすかぁ?」
刀和祥子「まだ続くんですよ、残念ながら。……ちなみに、この対決の原因は2つ挙げられます。第1に、唐が百済の旧領などに都護府をいくつも設置し、朝鮮半島への政治的介入を強めたこと
カオス・コントン「ふんふん……なるほどなるほど……」
鞍馬彰吾「新羅の人達は黙ってはいなかったでしょうね」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「もう1つは何なの?」
刀和祥子「新羅が高句麗遺臣による反乱を援助したこと」
アークス・アルクスト「やる気満々だな……」
刀和祥子「ええ。この高句麗遺臣の反乱が引金となって唐と新羅が始められたわけですが、今回の戦いでは、高句麗及び百済の人々は新羅の側に立って戦いを繰り広げました。この戦いが終結したのは676年大同江の河口と元山湾を結ぶラインが唐と新羅の国境線となり、分裂状態が続いていた朝鮮半島がはじめて統一されました
エヴェリーナ・ミュンスター「でも、平壌を含む旧高句麗領の大半は唐の支配下に組み込まれたままになったのよね。しかも、この地域は少しだけ後の時代になると、新羅とは別の独立国に支配されることになるの」
カオス・コントン「そいつは大変ですねぃ……」


  〜9〜 渤海の成立

鞍馬彰吾「そういえば、高句麗の遺民のうち、反乱に参加しなかった人々はどうなったのですか?」
エヴェリーナ・ミュンスター「高句麗を滅亡させた唐は、高句麗の遺民を営州──今の遼寧省朝陽へ強制移住させたの。その中には、高句麗の領地内で生活する靺鞨[まっかつ]というツングース系の人々も混ざっていたわね。彼らは営州に流されてからはずっとその地で暮らしていたんだけど、696年になって彼らの生活を一変させる事件が発生するのよ」
フィアーテ・V・S・B「ほう……」
エヴェリーナ・ミュンスター「696年、営州に留められていた契丹族が反乱を起こしたの。普通なら、契丹族と一緒になって反乱を煽ろうとするところなんだろうけど、この時靺鞨族を率いていた乞乞仲象[こつこつちゅうしょう]という人は『今こそ自立の好機』と判断すると、契丹族の反乱に加わることはせずに、一族と高句麗遺民を率いて営州から逃げ出したの。彼らが向かった先は、靺鞨族の故郷である牡丹江の上流域。乞乞仲象はこの地で、周の支配から抜け出した新しい勢力を作ろうと考え出していたのよ」
ヴェルナ・H・エイザー「野心的な夢ですぇ……って、あれぇ?」
水薙瑠華「どうしたんですか?」
ヴェルナ・H・エイザー『周』って……紀元前に存在した周王朝のことじゃないですよねぇ?」
エヴェリーナ・ミュンスター「ええ、違うわね。当時の中国を支配していたのは武則天──世間一般には則天武后という名前で知られている女帝で、事件当時の国号は『唐』ではなく『周』だったのよ」
カオス・コントン「おおっ、ついに女帝ですかっ! ひょっとして、とっても萌えるお嬢さんだったんじゃないですか?」
刀和祥子「武則天は624年生まれですから、営州で契丹族による反乱が起きた時には72歳でしたけど?」
カオス・コントン「…………し、失礼しました〜っ」【すごすご】
エヴェリーナ・ミュンスター「で、話を戻すけど、則天武后はこの事態に対して直ちに討伐軍を派遣したの。乞乞仲象をはじめとする靺鞨族の指導者数名はこの時に殺されたけど、靺鞨族と高句麗の遺民達は乞乞仲象の息子だった大祚栄の下で抵抗を続け、698年には故郷である東牟山で震国の建国を宣言したの」
グレイシア・ネウ・カーネリアス「高句麗の後を継ぐ国が出現したというわけね」
エヴェリーナ・ミュンスター「そうね。それから約15年間、震国は周・唐との戦いを続けながら勢力を拡大し、713年には唐への入朝と引き換えに、国として認められたわ。この時、大祚栄は『渤海郡王』に冊封され、『震』という国の名前も『渤海』に改められるのよ」
ウァール・グレアウェムト「国としては認められたのはいいが、現状では唐の冊封体制の下に組み込まれているのだろう?」
エヴェリーナ・ミュンスター「確かにそうね。少し後の時代になると、渤海は中国からの自立傾向を強めていくんだけど、それについては次回に話したほうが良さそうね」



エヴェリーナ・ミュンスター「ちょっと長くなったけど、朝鮮の先史時代から新羅による朝鮮統一までの話はこれでお終い。次の授業からは、新羅及び渤海の内政から高麗時代までを扱うことにするわ」

ボルジア家の端役「ようやく俺の出番か?」

エヴェリーナ・ミュンスター「そうね。新羅・渤海・高麗という3つの国の政治体制に関する話もしなきゃならないからね。ちょっと退屈かもしれないけど……」

ボルジア家の端役「大丈夫だ。眠った奴を見つけたら体育倉庫に連れ込むだけだ」

グレイシア・ネウ・カーネリアス(……体罰?)
ボルジア家の端役「何か言ったか?」

グレイシア・ネウ・カーネリアス「いーえ、何にも言ってませーん」【首をプルプル横に振る】




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