ウクレレ研究室   

 1 箱鳴りの追及                   HOME

前書き

    ウクレレの解説で、「箱鳴りのする良く鳴るウクレレ」、という文言を良く目にします。

    「箱鳴り」はウクレレを弾いてみて、胴の振動でなんとなく実感していますが、ウクレレを何本か作製するうちに同じ材質で作ったのに、この「箱鳴り」感がそれぞれに異なっていることに気がつきました。

     良く鳴るウクレレの胴は良く振動して音も大きくガンガン鳴るし、音の伸びや残響感が良く、弾いていてとても楽しくなるのです。
    一方「箱鳴り」感が今ひとつのウクレレは音の大きさや、伸びが今ひとつで、音がスッと消えていくような違和感を感じます。

    このへんの音色については「好みの問題」というのも大きいのでしょうが、あまり音の伸びないのが「ウクレレ特有の音」だ! としてしまうと、ここで話は終わってしまいます。


    果たしてこれは、いかなる理由によるものなのか?ウクレレ製作者としては、安定して、鳴りの良いウクレレを作りたい!!

    まだキット製作の段階ですが、将来鳴りの良い完全オリジナルをウクレレを製作する為のテックニックの一つを確立したい、との探究心が頭をもたげるのであります。

     そこで今回は、ウクレレの音の大きさ「箱鳴り」のするウクレレについて研究してみたいと思います。

     

1−1 箱鳴りとは

    ウクレレやギターなど共鳴胴を持つ楽器は共鳴胴の複雑な構造により、弦の振動を共鳴させ増幅しています。

    楽器に限らず、開口部を持つ箱には、最低共鳴周波数なるものが存在します。これはヘルムホルツ共鳴箱の理論により箱の体積、開口部の面積、音速により算出することが出来ます。
     この理論はオーディオのスピーカボックスの設計などに使われているようですが、私は専門ではないので結論だけ使います。
     これによると、箱の体積が大きい方が最低共鳴周波数は低くなり、同じ体積では開口部の面積が小さい方が最低共鳴周波数は低くなります。
    この最低共鳴周波数で箱は、最も大きく振動します。これが箱鳴りの状態です。

    これによると、共鳴箱の最低共鳴周波数よりも低い周波数の音は、その共鳴箱では共鳴しないということになります。


     さて、ウクレレではどうでしょうか、スタンダードウクレレの最低共鳴周波数はほぼCに合わされている様です。スタンダードウクレレはLowG調弦は別として、もっとも低い音が3弦のCとなっていますので、すべての音を共鳴させるために共鳴胴の最低共鳴周波数をCに設定しているとすれば理論に合致していると言えます。

     ではLowG調弦の場合Cよりも低い音は、胴の共鳴が得られず弦の振動そのもので鳴っていることになります。LowG調弦をしたときの違和感は、巻き線だからということだけでなく、胴の最低共鳴周波数も多分に影響しているものと考えられます。
    人は、音の周波数が高くなると早く減衰し、低くなるにしたがって長く大きく振動するという事を、経験的に認識していますので、より大きく響くであろうはずの低音がそうでもない事に違和感を感じるのではないでしょうか。

     こういったことから「箱鳴りのするウクレレ」とはスタンダードウクレレの場合、最も低いC音で胴が最も振動するウクレレではないかということになります。
    逆に言うと、同じ材質なのに鳴りの悪いウクレレは最低共鳴周波数がC音よりも高くなっているのではないだろうかと考えられます。

    これらを検証するためにウクレレの共鳴胴の周波数解析を試みてみました。

     

1−2 音階と周波数について

    周波数解析に先立ち、音階は音の高低を示すものですので、CDEFGABCにはそれぞれ固有の周波数が定められています。

    Aの音は440Hzと定められています。また1オクターブ上のAは2倍の周波数の880Hzと言うことになっています。

    この1オクターブの間を半分、半分、半分 という具合に12分割して音階を決めています(平均律と言います)

    これによるとそれぞれの音の周波数は

             f= 2^(N/12)* 基準周波数             (Nは基準周波数から幾つ目の音かということです)

    で求められ、ウクレレ胴の最低共鳴周波数として求める C音は 261.63Hzということになります。

     

1−3 ウクレレの最低共鳴周波数測定

    まずはウクレレの最低共鳴周波数を測定します。ここでスペアナやFFTアナライザなんかを持ち出すところなのですが、最近はパソコンの音声入力を解析するソフトが、しかもフリーウェアであるのですね。かつて高価なFFTアナライザを取り合いしていたことが懐かしく思われます。 

      WaveSpectra ソフトはこちらのサイトから頂きました

     さて、ウクレレの最低共鳴周波数は、パソコンマイクの前でウクレレのブリッジ部分をコンコンとたたいて測定します。すると共鳴周波数部分にピークが出ますので最も低い周波数のピークで知ることが出来ます。まずは手元で最も良く鳴る全音の1号機を測ってみます。

    sa1.jpg

                     図 1 全音1 最低共鳴周波数

     図1が全音1号機の共鳴胴の周波数解析の結果です。258.4Hzのところにピークが出ています。これが最低共鳴周波数となります。C音261.63Hzとほぼ同じ周波数が最低共鳴周波数になっていますので、まさに箱鳴りの状態である事がうなずけます。

     次にYAMAHAのYUK−100を測定してみますこちらも良く鳴るウクレレです

    YUK.jpg

                  図 2 YAMAHA YUK−100最低共鳴周波数

    これもほぼC音の262.4Hzに最低共鳴周波数があります。

    さて問題はここからです、全音の3号機の鳴りがいまひとつというか、1号機がものすごく鳴るので、同じ材質ならもっとなるだろうと欲が出たとか何とかいった事がそもそもこの研究のきっかけだったのですが、3号機を測定してみます。

    sa3.jpg

                    図 3 全音 3号機 最低共鳴周波数

    測定結果から 案の定というか、最低共鳴周波数は271.9Hzであり、C音よりも10Hzも高くなっています。この状態ではC音が共鳴せず違和感を感じることもうなずけます。

     

1−4 箱鳴りを得る

    図3より 全音3号機では箱鳴りが得られていないことが分ります。箱鳴りを得る手っ取り早い方法は、3弦を271.9Hzに合わせてみることです。

    3弦をC音261.6Hz付近に合わせた場合と、271.9Hz付近に合わせた場合の3弦の開放弦の音を聞いてみましょう

         ○ 3弦を 261.6Hz付近に合わせた場合          Wav FILE 1

         ○ 3弦を 271.9Hz付近にあわせた場合         Wav FILE 2

     サウンド編集ソフトの波形の切り取り貼り付けのしかたが分りませんでしたので当面音だけですが、Wavファイルを取り込んで波形を表示させ比較すると、3弦を271.9Hz付近に合わせた方が音の減衰の仕方が滑らかになっていることが分ります。

     (御願い サウンド編集ソフト SoundEnginまたはTWE の Wav波形をWebページへの貼り付け方をご存知の方ご教授頂けたら、大変嬉しいのですが、よろしくお願いいたします Mail

    3弦を271.9Hz付近に合わせて弾いてみると確かに「箱鳴り」感が増して音の伸びが良くなっているように感じます。
    これで、スタンダードウクレレの場合3弦の開放弦の音を、ウクレレの共鳴胴の最低共鳴周波数に合わせれば、「箱鳴り」が得られることが実証されたわけです。
    しかし、C音を271.9Hzに合わせる事は、音楽的に問題がありますので、「箱鳴り」のするウクレレを製作もしくは、「箱鳴り」のするウクレレに改良(改造)するには、ウクレレ共鳴胴の最低周波数を261.6Hz付近に持っていく 設計、もしくは変更を加えなければならない!!ということになります。

     

1−5 箱鳴りのするウクレレに改造する。

    ウクレレの共鳴胴の最低共鳴周波数を変えるには、ヘルムホルツの共鳴箱の理論により、箱の体積、もしくは開口部の面積を変えてやれば良いのです。

     すでに出来上がってしまったウクレレの体積を変えることはまず不可能なので、開口部の面積を変えてやります。最低共鳴周波数を高めるためにはサウンドホールを削ってゆけばよいのですが、全音3号機の場合最低共鳴周波数を下げなければなりません、つまりサウンドホールを小さくする。ちょっと困りました。

    hall.jpg

     

     キットのウクレレではすでにサウンドホールが開けられているので、穴を小さくするには何か貼り付けなければなりません。
    なるたけ目立たないようにするために透明な薄いプラスティック板を同心円状に切り取りサウンドホールの内側に貼り付けました。遠目にはほとんど気になりません。

    この状態でスペアナで測定しながら、プラスティック板を少しずつ削り、最低共鳴周波数を261.6Hzより少し低めに合わせ込んでいくのです。

     

     

    kaizou.jpg

                             図4 改造後の3号機 最低共鳴周波数

     最低共鳴周波数が258.4Hzになったところで、3弦の開放(261Hz)を聞いてみましょう。

        ○ 改造後 の3号機  第3弦開放(261Hz)の音        Wav File

     こちらのWav波形を見てみると、滑らかに減衰していく特性が得られていることが分りました。

    これで、箱鳴りのするうくれれの完成です。

     

1−6 考察

     これらの、測定結果より箱鳴りのするウクレレを作製するためには、スタンダードウクレレにおいては、共鳴胴の最低共鳴周波数がC音(261.63Hz)付近になる様に設計すれば、安定して鳴りの良いウクレレを製作出来るといったウクレレ製作上の一つの方法を確立出来たように思います。

     今回の測定では、表板の厚みを変えずに、最も良く鳴る状態を探るものでした。
    表板の厚さを変えれば、表板の振動の振幅は当然に変化すると考えられますので、これを薄くすれば、音が大きくなるだろうと予測できます。
     しかし、表板を薄くしても、共鳴胴の最低共鳴周波数がC音よりもあまりに高くなっているウクレレでは、思ったような効果が得られない、と理解すれば良いのだと思います。

     また、最低共鳴周波数をピタリ261.63Hzに合わせた場合、「箱鳴り」感が強すぎてボンボン響くと感じるかも知れません、これを少しはずす意味でちょっと低めに設定しています。

    この最低共鳴周波数をC音より上にずらすか下にずらすか また、ずらす量はどのくらいが良いのかなどや、コード弾きまたはソロにはどちらが向いているのか、といった点に関しては、弾き手の好みに左右される部分と考えられます。

     ただ、下の方へずらす方が音の伸びは良くなるようでコード弾きには向いているように感じました。また最低共鳴周波数は温度によっても変化しますのでぴったり合わせることはあまり重要ではない様に思います。

     これからの課題としては、良く鳴る胴が完成したので、次は音質について、表板の材質が異なれば音質は当然変わってくることは容易に理解できますが、表板を変えずに更に良い音質を引き出す方法など探ってみたいと思います。

     

1−7 あとがき

     良く鳴るウクレレの製作は、サウンドホールは少し小さめに開けて調整しながら大きくしていくという方法が良さそうです。

    最近作製した全音のキットの最低共鳴周波数が高くなっている原因については、サウンドホールの大きさは以前のものとほぼ同じなので、容積が小さくなっているのでは?と思い比較してみると以前のものよりも、横板の幅が少し狭くなっているようです。

     また、形状による鳴りを追及するためにあまり横板を削ってしまうと、容積が小さくなるために最低共鳴周波数を大きくはずしてしまい、思いのほか効果が得られない結果に終わってしまう可能性があると思います。

     さて、お手持ちのウクレレで確かめてみたい場合ですが、サウンドホールを小さくする場合では、厚紙などを両面テープで貼り付けて様子をみればれば良いので、問題ありませんが、サウンドホールを削る場合は個人の責任で御願い致します。

     ちなみに、ウクレレの最低共鳴周波数をC音に合わせておけば、チューニングメーターや、音叉なしでボディをコンコンたたきながらチューニングするなんて恐ろしいことが出来るようになるかもしれません。

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