TSは反射プリズムの正対状態を視準した後、距離測定しなければならない。
反射プリズムは正対状態を視準できる構造でなければならない。

コーナーキューブの再帰反射の性質は誤測量を招く。

(株)坂井測量 加藤 捷保

 光波測距儀に反射プリズムを使用する仕組は、測量解説書に説かれていることですから、ここでは述べませんが、それらの解説書に欠けている事柄の補足と正しい使用方法を提案します。

[前提条件その1]

(1)屈折率とは、与えられたところの波長での屈折媒体中の光の速度に対する真空中の光の速度の比である。
(2)屈折率は媒体と波長の種類で相当に異なるが、一般に使用される光学ガラスの近赤外線での屈折率を1.50とする場合の計算値を述べる。
(3)ガラス媒体中は1.50倍の時間がかかるから、ガラスの厚み(長さ)の1.50倍の大気の中を通過したという事と同じであると定義する。これを光路長という。
(4)屈折率とは、屈折媒体の垂直軸に対して、入射角と屈折角の正弦比である。

[前提条件その2]

 光の速度と角度の二つの計算が絡み合います。
 反射プリズムとは、図1に示す直方体の一部を切り取った、コーナーキューブ(Corner Cube)という光学ガラス製品の測量向けの応用商品である。
 直角プリズムは平面上で、光を元の方向へ返す性質がある。
 二つの直角プリズムの併せ持つ、コーナーキューブは、立体上で、入射角度にかかわらず、光を元の方向へ戻す、再帰反射の性質がある。この性質を利用して、光軸調整の困難な実験、作業はもとより、日用雑貨品にも広く用いられています。
 コーナーキューブの品質は、三面の角度が90°で交差していることと表面滑らかさに依存しており、ガラスの厚みは再帰反射性能には影響しません。
 即ち、後述のα、β、hは再帰反射の性質には、影響しない。
 光波測距儀の反射鏡としてコーナーキューブを応用するときは、ガラスの厚み(h)の光路長を実寸にするため厳密な補正計算をしなければなりません。
 なぜなら、光の大気中の経路(往復)とガラス中の経路(往復)を測定していること、大気とガラスでは、光の速度が異なるから、長さの計測はそれぞれを計算した合計であるという前提があります。

 

 

[ミニプリズムを使用した事故]

 口径40ミリ以下の反射プリズムは、ミニプリズムと称して、境界点測量に必須の器具として普及しています。
 境界測量においては、TS(Total Station)観測の仰俯角が大きく、近距離の観測である場合、実長とデジタル表示の差が量、比率ともに大きいことが知られています。この誤差が比例拡大して、逆打ち(杭の測設)の際に、座標差と実長が大きく異なる過失事故が多数発生します。
 このような事故例が多いため、境界点測量には、光波測距儀は使用不許可と主張する測量家もいます。
 横浜市の測量作業仕様書では、「50メートル未満の距離はスチールテープを使用するように求めています」。また、「光波測距儀を使用する場合は、反射鏡が測定中心と一致しないことによる偏心量の補正をおろそかにしてはならない」と定めて補正式を示しています。(注1)
 あるメーカーでは、「仰俯角が大きく、正対できない場合も誤差が少ない」という、ミニプリズムを販売しています。(注2)
 いずれも、補正計算の与件量を測定しないと、誤測量がついて廻ります。

[ミニプリズムの寸法と光路長の計算]

2では、口径38ミリメートルのミニプリズムを例として、電卓の表示をフル桁で記載します。
 コーナーキューブは直角二等辺三角形と正三角形の面だから、
 a:b:c=1:√2/2:√3/√2である。したがって、
 α=35°15′51.8″
 β=54°44′8.2″
 高さh=28.5ミリメートルのコーナーキューブの寸法は、
 a=49.36344898
 b=34.90522849
 c=60.45763038
 d=69.81045835
 r=20.15254346 2r=40.30508692(内接円の直径)
図3では、P面でP1から入射して、経路L1、L2.L3.L4と内部を3回反射してから、P2で出射する。
 図4では、XY面の中間45°の断面図で平面に引きなおして、内部の光の経路を計算します。三次元の立体幾何はなじみが少ないので、この方法が分かりやすくなります。
 P面に垂直入射した場合の経路の計算
 @ではL2、L4が微小な距離とみなします。
 L3=b×1/cosα=42.74999916
 L1=L3×sin(β−α)=14.25000084
 L1+L2+L3+L4=57.00=2×28.50=2h
 A ではL2が微小な距離とみなします。
 B ではL2、L3が微小な距離とみなします。
 このとき、見かけの長さは、三次元の長さに等しいと見なします。
 @とAとBの何れの経路も高さhの2倍になる。

 

 図5スネルの屈折の法則
 図6では屈折入射した場合の径路を計算します。

 経路は垂直入射した長さより大きくなる。なぜならば、立体図形では、光は奥行きの方向になるから、図面の見え掛りの長さより大きい。前提条件その1Bの定 義により、経路に屈折率を掛けたものが、光路長である。

入射角i

屈折角r

1/cosα

2h×1/cosα×1.50

光路長×1/2

1.00

×28.50×1.00×1.50

42.75

0

10°

1.01

×28.50×1.01×1.50

43.03

0.28

30°

19°

1.06

×28.50×1.06×1.50

45.34

2.59

45°

28°

1.13

×28.50×1.13×1.50

48.47

5.72

60°

35°

1.22

×28.50×1.22×1.50

52.35

9.60

 光路長の2分の1をプリズム定数と呼び、測量に用いる反射装置の寸法になる。
 屈折入射のプリズム定数は、垂直入射の場合より大きくなる。
 計算例の垂直入射から30°傾いた屈折入射の場合において、プリズム定数は3ミリメートル大きくなる。
 限界の60°では入反射点の位置が望遠鏡十字線軸からの離れることが加わり、実長とデジタル表示の差が12ミリメートルとなる実例があります。

[結論と提案]
 以上の論証により、「屈折入射による再帰反射の性質は誤測量を招く」との、結論を得ました。
 P面に垂直入射のときの計測(斜距離)が最も短く、再現可能、実証可能である。
 垂直入射のみが、測量に応用できる状態となり得ます。
 光がP面に、垂直入射した状態を「TSと正対している」と定義にすることおよび、光軸調整の困難な測量作業では、長さの測定単位、ミリメートル未満の光路長 差が生じるところの許容入射角(正対誤差制限範囲)を制定することを提案します。
 計算では15°を超えると、1ミリメートルに影響しますが、後述の正対プリズム(商品名、英文名Formal Sitting Cube Reflector for Electro-Optical Tacheometer)では、5°を入射角の制限としてマークしています。(注3)
 光波測距儀の発信軸と受信軸は同一線の軸上にありませんから、図6の入射反射の位置と入射屈折角は狭い範囲となる機種があります。

[誤差もしくは誤測の事故がおきる理由その1]
 近距離の測定では、大きな入射角での受信が可能であることにより、誤測量が多発します。

[誤差もしくは誤測の事故がおきる理由その2]
 水中の小石が、浮き上がって見えるのは、屈折による虚像であって、実際の小石はさらに深いところあることは、常識である。これを知らないと溺れ死ぬことになるので、水遊びに興じる子供には「浮き上がった水底の虚像を見て、水深を判断してはいけない」としつけなければなりません。
 測量者には、「コーナーキューブの中のクロス(浮き上がった像)を視準して角度と距離を取得してはいけない」としつけなければなりません。
 光波測距儀は入射、反射角度の限界まで、デジタル表示します。
 正面から見て前に倒れているか、後へ倒れているかの傾斜角度の大小は判りません。円形ガラスの表面を視準して、正対(垂直入射)を確認できません。
 @光路長(デジタル表示)が大きく出る、A鉛直角を誤るという、二つの原因があることが、誤測を認識しにくく、しています。

[プリズム定数0の商品の構造]
 コーナーキューブをTSに正対させる条件で、TSと反射プリズム定数を0とセットした測量作業は分かり易くなります、また、水平距離一発ボタンを使う、逆打ち測設には正確無比の測定が可能となります。
 反射プリズムの定数0という商品は、計算例0°のP面から42ミリメートルずらした位置に、鉛直軸を取り付けています。初めに述べた、厳密な補正計算に替えて、コーナーキューブの仮想反射位置をずらすという、優れたアイデアは広く用いられています。
 写真1の正対プリズムは鉛直ポールとコーナーキューブの保持筒等で構成されています。
 鉛直ポールの気泡管の精度と筒のすべり面の隙間により、実用精度は影響されます。
 一般商品の手持ち気泡管の精度は30分程度ですから、sin30′=0.0087である。
 300×0.0087=2.61 地上高さ30センチで3ミリの水平位置誤差が生じることを知っておかなければなりません。

[正しい距離測定の提案]
 スチールテープは一直線に張り、傾斜補正をします。TSも一直線に測り、傾斜補正をしなければなりません。屈折しない光の経路に限り、スチールテープより高い精度の測量が可能となります。
 TSの水平距離ボタンは、「鉛直角観測が不要であるように、高度なコンピューター処理をしているのでありません」
 望遠鏡の傾きと反射光から、三角関数の電卓計算をしているにすぎません。
 光路長や屈折角を補正することはありません。
 測量専門書、技術講習会で述べられている次の例を取り上げます。
 光波測距の原理の解説に、大きい屈折角の入射反射の図6を示して、「プリズム面の多少の傾きは測量には差し支えない」と言い添えます。
 先に述べた事故の例にあるように、座標差と実長が一致しないという原因の一つが、「図示の程度の傾斜、屈折があっても、測量には差し支えない」とする指導教育、解釈にあるのではないでしょうか。
 コーナーキューブの優れた再帰反射の性質は、誤測を招くことがあると知っていただきたい。
 文中の定義、法則、数式は物理学書、工学入門書に平易に説かれている事柄であるので出典を省きます。

[正対させる技術の提案]
 写真1では、正対プリズムの尻マークをTSで視準して、望遠鏡を固定します。
 写真2では、前マークをTSに向けます。
 図7では、TSの十字線、前マーク、尻マークが一直線に並んだ状態を正対と定義(光波が垂直入射可能状態)します。この状態で長さ(斜距離)と鉛直角を取得します。

[追録]
 この論文を読んだ測量者の中で、なお、「TSのデジタル表示は、常に正しい」と主張される方は、つぎの実験を試みてください。
 @ 小さなペンライトを眉間に置く。
 A 腕を伸ばして、指先に反射プリズムを持つ。
 B これで、目から出た光線は、元の目に戻るという、再帰反射の実験装置ができました。
 C 反射プリズムを視線軸から傾けて、反射の限界にして、見えなくなる位置に置く。
 D 反射プリズムの前面の円板面で回転する。
 E 再び、再帰反射光が見える。
再帰反射が、実感できます。

(注1) 横浜市総務部道路調査課 道水路等境界測量委託仕様書(平成10年4月)
(注2) ライカジオジシステム社 アクセサリーカタログ(2001年版)
(注3) 正対プリズムは特許申請済み。