『中等唱歌集』

東京音楽学校編纂(1889年12月)


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『中等唱歌集』表紙.

『中等唱歌集』(1889年)は尋常中学校生の教材として編集された.
もともと1872(明治5)年の『学制』で規定はされていたが,当時教材を用意する事ができなかった.宿題となっていた中学校の基本的な音楽教材がようやく整ったことになる.ただし,この頃には尋常中学校制度(標準的には満12歳から修学5年)も整備されてきたが,まだ唱歌を必修にしている所は少なく,最初の3年間の随意科としている所が多かったようである.

この唱歌集では複音唱歌が中心となっていいる.中でも『埴生の宿』(原曲 "Home, sweet home")は現在も同じ歌詞で愛唱されている.

『中等唱歌集』の原本に接するのは難しいため,その全貌を知っている人は少ないだろう.その不便を補うため,以下に歌詞・楽譜の全てを示す.

作詞者・作曲者の名前は原則として記載されていないが,先人の研究で判明しているものは付記した.



目次


第一   君が代
第二   紀元節
第三   天長節
第四   旭のはた
第五   三千余万
第六   矢玉は霰
第七   君が代の初春
第八   織なす錦
第九   御稜威の光
第十   御国の民
第十一  保昌(やすまさ)
第十二  凱旋
第十三  国旗
第十四  火砲(ほづつ)の雷
第十五  埴生の宿
第十六  身も世も忘れ
第十七  君は神
第十八  憲法発布の頌


参考



第一 君が代 (古今和歌集 読人不知作詞,奥 好義(よしいさ)作曲)
  君が代は,ちよにやちよに,さざれいしの,
  いはほとなりて,苔のむすまで.

[注] 初出は 『保育並ニ遊戯唱歌』第十九番
芝祐泰は1878年10月末作曲と推定している.作曲事情は『保育
並ニ遊戯唱歌』の 「君が代撰譜の事情」 を参照されたい.この後
1893年 8月(官報第三〇三七号) 『祝日大祭日唱歌』第一曲
に選出され国歌として扱われたが,正式に国歌として制定された
のは 1999年8月の事である.

音源は
Kimigayo
Kimigayo.mid



奥好議(よしいさ)(1858 - 1933. 3)


第二 紀元節 (高崎正風作詞,伊沢修二作曲)
一 雲に聳ゆる 高千穂の,
  高根おろしに,草も木も,
  なびきふしけん 大御世(おおみよ)を,
  あほぐけふこそ,たのしけれ.
二 海原なせる 埴安(はにやす)の,
  池のおもより 猶ひろき,
  めぐみの波に 浴みし世を,
  あふぐけふこそ,たのしけれ.
三 天つひつぎの 高みくら,
  千代よろづよに 動きなき,
  もとゐ定めし そのかみを,
  仰ぐけふこそ,たのしけれ.
四 空にかがやく 日のもとの,
  よろづの国に たぐひなき,
  国のみはしら たてし世を,
  仰ぐけふこそ,楽しけれ.

[注] この後1893年8月(官報第三〇三七号)の 『祝日大祭日唱歌』の第五曲
として採用された.


伊沢修二(1851−1917. 5)



第三 天長節 (高崎正風作詞,伊沢修二作曲)
一 天津日影は かはらねど,
  世のうき雲の ゆきかひに,
  晴れみくもりみ 定まらで,
  七ももとせに なりぬるを,
  いまはとおこる 時津風,
  よものむら雲 吹払ひ,
  豊栄(とよさか)のぼる 御(み)光を,
  仰ぐみよこそ 楽しけれ.
  君は,千代ませ,八千代ませ.
  君は,ちよませ,八千代ませ.
二 やまとにしきの うるはしき,
  色もいよいよ 匂ふべく,
  やまとだましひ たぐひなき,
  光ますます そひぬべく,
  ひらき給へる もろもろの,
  学びの道も なすわざも,
  ならびすすみて 月に日に,
  さかゆく御代こそ 楽しけれ.
  君は,千代ませ,八千代ませ.
  君は,千代ませ,八千代ませ.
三 よろづの国も へだてじと,
  みなとのとざし ひらきたる,
  八洲の海の 限りなく,
  広きみ心 したひつつ,
  大船(おほぶね)小舟(をぶね)くにつもの,
  つみてはこべば,としどしに,
  民の煙(けぶり)も 立ちそひて,
  にぎはふ御世こそ たのしけれ.
  君は,千代ませ,八千代ませ.
  君は,千代ませ,八千代ませ.
四 恵の露の かからずば,
  民草いかで さかゆべき.
  此(この)大御世(おほみよ)に うまれずば,
  このさち,いかで 得らるべき.
  玉の台(うてな)も,柴の戸も,
  わが大君(おほきみ)の万代を,
  祝ふさかづき とりどりに,
  うたふけふこそ たのしけれ.
  君は,千代ませ,八千代ませ.
  君は,千代ませ,八千代ませ.

[注] 作詞者・作曲者は遠藤宏『明治音楽史考』による.
この後1893年8月(官報第三〇三七号)の 『祝日大祭日唱歌』の第七曲
では曲譜はそのままで,詞は黒川真頼作に変更された.




第四 旭の旗 (ドイツ民謡)
一 旭のはたを,旭ぞてらす.
  いさみにいさみ,とくすすめ.
  旭のはたを,旭ぞてらす.
  いさみにいさみ,とくすすめ.
  トラララ ララララ,
  トラララ ラララ.
二 やだまのあめや,つるぎのひばな,
  おかしてゆくも,おもしろや.
  矢玉のあめや,剣のひばな,
  おかしてゆくも,おもしろや.
  トラララ ララララ,
  トラララ ラララ.
三 やまをもわしり,なみをもけたて,
  敵あるきはみ,せめつくせ.
  山をもわしり,波をもけたて,
  てきあるきはみ,せめつくせ.
  トラララ ララララ,
  トラララ ラララ.
四 けはしき山路,うづまくなみぢ,
  斃(たふ)るるところ,わがふんぼ.
  険しきやまぢ,うづまくなみぢ,
  たふるるところ,わが墳墓.
  トラララ ララララ,
  トラララ ラララ.
五 あなどりうけぬ わが国なるぞ.
  けがすな国を,わが国を.
  あなどりうけぬ わが国なるぞ.
  けがすな国を,わが国を.
  トラララ ララララ,
  トラララ ラララ.






[注] "Morgenlied der schmarzen Freischer".[長谷川由美子:
私信 2011. 05. 15]



第五 三千余万 (芝葛鎮(ふじつね)作曲)
一 三千余万,あにおとどもよ,
  まもりにまもれ,君が代を.
二 剣(つるぎ)にかわる,ほづつのひびき,
  むかへるてきを,うちはらへ.
三 鏡とするは,おほくのしょもつ,
  古今にわたり,てらしみよ.
四 玉にもまさる,こころのひかり.
  みがきにみがけ,たゆみなく.
五 三千余万,ちからをあはせ,
  まもりにまもれ,君が代を.

[注] 作曲者名は堀内敬三『音楽五十年史』(鱒書房,1942年
12月)p. 130による.


芝葛鎮(1848 - 1918. 2)



第六 矢玉は霰 (里見義作詞,伊澤修二作曲)
一 矢玉はあられと,ふるなかを,
  すすめよ,ますらを,おくるなよ.
  たとひいのちは,すつとても
  御国の民の ををしさを,
  見せよ,しめせや,そのををしさを.
二 暴風(あらち)はさわぎて,海くらし.
  おそへる敵は,おになりと,
  ほふりつくして,とつくにに,
  御国のたみの ををしさを,
  みせよ,しめせや,そのををしさを
三 数万(すまん)のつはもの,抜きつれて,
  きらめく稲妻,ときの声,
  人のおどろく いくさして,
  御国の民の ををしさを,
  みせよ,しめせや,そのををしさを.




第七 君が代の初春 (里見義作詞,米国曲)
一 君が代の 初春の,
  さかりに匂ふ 梅の花,
  いつしか色に あらはれて,
  かをれるものを,世の人よ.
二 君がよの 春くれば,
  梢にうつる うぐひすも,
  いつしか声に うちいでて,
  さへづるものを,世の人よ.

[注] 原曲は "Wake, wake the morning". 作詞者・作曲者は遠藤宏
『明治音楽史考』(友朋堂,1948年4月)による.
J.P. McCasky ed., "Franklin Square Song Collection" Vol. 1(Harper &
Brothers, 1881) p.133 [2].




第八 織なす錦 (二部合唱) (米国曲)
一 織成すにしき,さくらにすみれ,
  いばらにぼたん,春こそよけれ.
  鶯ひばり,こよこよこよと,
  ともよびかはし,さそへるものを,
  われらがともも,やなぎのかげに,
  あそびてうたへ,うたひてあそべ.
二 春風吹けば,みやまはわらひ,
  みぞれやゆきは,ゆめののかすみ.
  ももとりちどり,来よ来よ来よと,
  くるるもしらで,さへづるものを,
  我等が友も,やなぎのかげに,
  あそびてうたへ,うたひてあそべ.

[注] 原曲はアメリカの作詞作曲者不明のミンストレル・ソング
"Rosa Lee, or, Don't Be Foolish Joe!"["Music of the Ethiopian
Serenaders" (Firth and Hall, New York, 1847) ][1]

歌詞とmidiは
Minstrel Songs, Old and New
http://www.pdmusic.org/minstrel.html
の"Rosa Lee, or Don't Be Foolish Joe!"の項にある.音声は
a08RosaLee.mid




第九 御稜威(みいつ)の光 (三部合唱) (Mozart 作曲)
  ああ明治の御世や,ああひかりの世や,
  いかにかくこそ,かがやきぬらめ.
  みくさのたから,世々につたはりきて,
  あめつちひろく,みいつのひかりを,
  はなちますらん.

[注] 原曲はMozart(1751-1829)作曲オペラ『魔笛』"Die Zauberflöte"
(1791年ウィーンで初演)第二幕第21曲の三人の童子の三重唱
「やがて夜があければ」 'Bald prangt, den Morgen
zu verkuenden' から採った.

Kathleen Battle 扮するパミーナと3人の童子の歌唱(ライブ)が
以下で見られる:
Kathleen Battle/3 Boys-Bald prangt, den Morgen, etc. (live)
http://www.youtube.com/watch?v=aFxTbwK7I8s&feature=related


Wolfgang Amadeus Mozart (1756.1 - 1791.12)


第十 御国の民 (三部合唱) (Philip Phile 作曲)
一 御国の民よ,わがはらからよ,
  国の為つくせ,君のためつくせ,
  家のため身の為,つくせよつくせ.
  矢玉ふるなかも,おそれずすすめ,
  太刀うつ下も,ひるまずすすめ.
  旭のはたの ひるがへるところは,
  これ我国ぞ, みなわが国ぞ.
二 御国の民よ,わが同胞よ,
  つつのおとひびき,ときの声きこゆ,
  君の為こころを,つくせよつくせ.
  かばねつむ山も,ふみこえすすめ,
  ちしほの川も,をどりてすすめ.
  旭の旗の ひるがへるところは,
  これ我国ぞ, みなわが国ぞ.
三 御国の民よ,わがはらからよ,
  暴風ふきまきて,敵の旗なびく,
  国の為わが身を,つくせよつくせ.
  こほりたる海も,いきまきわたり,
  砂漠のなかも,いとはずすすめ.
  旭のはたの ひるがへるところは,
  これわが国ぞ,みなわが国ぞ.

[注] 原曲は Joseph Hopkinson 作詞(1798),Philip Phile(=Pfeil)
作曲 (1793) "Hail Columbia"で1890年代まで事実上の国歌と見な
された.ちなみに現行の国歌"The Star Spangled Banner" は
1931年に制定された.
Matthew C. Perry 提督が開国を要求する Filmore 大統領の国書
を手渡すため,江戸に向かう初めての航海の途上,1853年5月沖
縄那覇に立ち寄り,6月首里城を訪問した.その入城の時 "Hail
Columbia" が演奏された[土屋喬雄,玉城 肇 訳『ペルリ提督 日
本遠征記』全四冊(二)(岩波文庫,1948年10月)p. 91].ちなみ
に,嘉永 6 年 6 月(1853 年 7 月)国書手交のため江戸湾久里浜
に上陸した時は "Yankee Doodle" [ 『明治唱歌』第二集第十四
「慈愛の笑顔」]が演奏されたという.
次いで日米通商条約締結のための訪問では,嘉永 7 年 3 月 3 日
(1854 年 3 月 31 日) 神奈川横浜村(現在の横浜市)に上陸した
時,軍楽隊によって "Hail Columbia"が演奏されたという[笠原潔
『黒船来航と音楽』(吉川弘文館,2001)pp. 23-24]

録音は
Hail Columbia
http://www.youtube.com/watch?v=VZ1wBkEn6tc



第十一 保昌(やすまさ) (三部合唱) (Mozart 作曲)
  尾花かれふす 冬の野辺,
  ララ ラララ ララララ ララララ,
  保昌,笛をふきすまし,
  ララ ラララ ララララ ララララ,
  月かげすごく,よるももなか,
  つるぎもこしに かまへたれど,
  うちかちがたき, 笛の音(ね)のみに,
  胆(たん)をうばはれつつ,つけゆく賊も,
  めぐみのきぬに,ふたたびあせを ながしけるぞ.
  尾花かれふす 冬の野辺,
  ララ ラララ ララララ ララララ,
  やすまさ,ふえをふきすまし,
  ララ ラララ ララララ ララララ.

[注] 保昌とは平安朝中期の貴族,藤原保昌(天徳2年〜長元
9年)の事.藤原道長の信任厚く道長四天王の一人で,豪勇の
人として知られた.和泉式部の再婚の相手としても知られ,歌
人でもあった.十月の夜,京都の大路を独り笛を吹きながら行
くところを,大盗賊袴垂がねらって衣を奪おうとするが,少しも
動ずるところなく,袴垂を諭し綿衣を与えるという話 (『今昔物
語』巻二十五,『宇治拾遺物語』巻二) に基づく詞.
曲は Mozart 作曲オペラ『魔笛』"Die Zauberflöte" 第一幕終
りの第8曲,モノスタトスらがパパゲーノの鈴に合わせて踊る
「きれいな音だ 'Das klinget so herrlich'」より採った.

映像は
Das Klinget so Herrlich (Die Zauberflöte)
http://www.youtube.com/watch?v=mRqdOsuqVcI




第十二 凱旋 (三部合唱) (Handel 作曲)
一 わが将軍きたる,白馬にまたがりて,
  いさをは,はたのひかりにかがやきて,
  凱歌に天地(てんち)とどろきわたる.
二 我勇士きたる,かたなを手にとりて,
  兜のほしには,勇気の光りを放ちつつ,
  我勇士きたる,見よ我勇士を.
三 嗚呼わが三軍,隊伍堂々かへりくる,
  大砲(おほづつ)こづつに,国のちからをしめしつつ,
  わが兵士きたる,見よ我兵士を.

[注]  Handel (1685-1759) 作曲オラトリオ『ユダス・マカベウス』
"Judas Maccbaeus" (1747年ロンドンで初演)より.

音源は
George Frideric Handel - Judas Maccabaeus, HWV 63 - See
the conqu'ring hero comes!
http://www.youtube.com/watch?v=fF9jGNvbWbM


George Frederick Handel
(Georg Friedlich Händel)
(1685.2 - 1759.4)



第十三 国旗 (Adam Geibel 作曲)(三部合唱)
一 御国の旗こそ,旭のかげ,
  かがやきわたらぬ 国やはある.
  軍(いくさ)の場(には)にも, 大昭代(おほみよ)にも,
  いやましひかれり,旭のはた.
  あはれ,はれ,日のはた,わが日の旗,
  六大洲(ろくだいしう)中,てらせ日のはた.
二 御国を守れる つはものども,
  朝日にまばゆき さくらの花,
  ちりてもかをりは,いやますらを.
  ゆめゆめけがすな 朝日のはた.
  あはれ,はれ,日のはた,我日のはた,
  六大洲中,照らせ日のはた.
三 日出る国なる,わが日の本,
  稜威(みいつ)は,あめつち さかゆく国.
  あふげや,のぞめや,あさひのはた.
  ちかひてまもれや,朝日のはた.
  あはれ,はれ,日のはた,我日の旗,
  六大洲中,照らせ日のはた.

[注] J.P. McCaskey, "Franklin Square Song Collection" Vol. 1
(New York: Harper & Brothers, 1881) p. 117: John J. Hood 作詞 
Adam Geibel 作曲 "Freedom's Flag" (4部合唱).[長谷川由美子:
私信 2011. 05. 15]
"Songs of the Psi Upsilon Fraternity" (Executive Coucil of the
Psi Upsilon Fraternity, New York, 1891) の索引 p. 244 によると,
作曲年は1876 年.[桜井雅人: 私信 2011. 05. 29]


第十四 火砲(ほづつ)の雷(らい) (三部合唱) (里見義作詞, ドイツ曲)
一 火砲(ほづつ)の雷(らい)なり,矢玉の雨ふる,
  筑紫の海辺を,たれかはまもれる.
  おそるな国民(くにたみ),おそるな国民,
  日本男児(やまとだんじ)まもれり,日本男児まもれり.
二 我兵十万,忠勇無比なり,
  心を一つに,せとぐちまもれり.
  おそるな国民,おそるな国民,
  日本男児まもれり,日本男児まもれり.
三 矢玉はつくとも,刀はをるとも,
  生血(いきち)のあるまは,敵をばとほさじ.
  おそるな国民,おそるな国民,
  日本男児まもれり,日本男児まもれり.
四 雲霧をさまり,日の旗かがやく,
  かためよまもれよ,ながとのせとぐち.
  おそるな国民,おそるな国民,
  日本男児守れり,日本男児まもれり.

[注] 遠藤宏『明治音楽史考』(有朋堂,1948 年 4 月) p. 219 によれば,
「火砲の雷の邦語作歌者は恐らく里見義ではなからうかと思ふ。」とある.
ドイツのかつての準国歌 Karl Wilhelm 作曲『ラインの守り』
"Die Wacht am Rhein".

演奏は例えば
Heino - Die Wacht Am Rhein
http://www.youtube.com/watch?v=1kaAbKvkt8I

旋律は Yale 大学のカレッジソング(Henry Durand 作詞 (1881) "Bright
College Years" = "Dear Old Yale")に採用された:
Bright College Years - Yale Glee Club 2009
http://www.youtube.com/watch?v=IIAX1jguJDM

同志社のカレッジ・ソング (William M. Vories (1880 - 1964) 作詞 (1908))
は Yale 経由であろう:
同志社カレッジソング(栄光館にて・アルママータ5th)
http://www.youtube.com/watch?v=I3jHCiqsmKE



第十五 埴生の宿 (四部合唱) (里見義作詞,Bishop 作曲)
一 埴生の宿も,わが宿,
  玉のよそひ,うらやまじ.
  のどかなりや,春のそら,
  花はあるじ,鳥は友.
  おお わがやどよ,たのしとも,たのもしや.
二 ふみよむ窓も,わがまど,
  瑠璃の床(ゆか)も,うらやまじ.
  きよらなりや,秋の夜半(よは),
  月はあるじ,むしは友.
  おお わが窓よ,たのしとも,たのもしや.

[注] 原曲はアメリカのJohn Howerd Payne(1791−1852)作詞,
Henry Bishop(1786−1855)作曲 "Home, sweet home". 原詩の訳で,
訳詩第一号と言える[金田一京介・安西愛子共編『日本の唱歌(上)』
(講談社文庫,1977年10月)p. 85]
メロディーはこれより少し前,大和田建樹・奥好義共編『明治唱歌』
第三集(中央堂,1889年6月)の大和田建樹 作詞「千代の声」 に採用
されている.

Samuel Wells Williams (1812-1884), (ed. by Frederick Wells Williams),
"A Journal of the Perry Expedition to Japan (1853 - 1854)" (1910), p.158
によると, 1854年4月4日 (火曜日,安政元年3月7日) ペリー艦隊の「サラ
トガ」(艦長アダムズ) が横浜を出港するとき,「ミシシッピ」の楽隊が
"Home, Sweet Home"を演奏した.日本国内で初演と言えよう.[桜井私信:
2013. 06. 06]

歌唱は
Nellie Melba.HOME SWEET HOME.City Road,London.1905
http://www.youtube.com/watch?v=BLL7WAtVq4A


Henry Rowly Bishop (1786.11 - 1855.4)


第十六 身も世も忘れ (四部合唱) (ドイツ学生歌)
一 身も世も忘れ,よるひるつとめ,
  よるひるはげめ,
  年月(としつき)つめば,心のつきは,
  わが身にそひて,国をもてらす.
  つとめよ,はげめ.
二 流るるごとく,うき世はかはり,
  にごれる水も,つひにはすめる.
  空なるほしも,くもらばくもれ,
  はるればひかる.
  のぞめや,あふげ.
三 くるしむなかに,楽しみきたる,
  しんくをしのび,楽しくくらせ.
  世界にしるること,成しはてて,
  名をなせ,をのこ.
  いさめよ,すすめ.

[注] 原曲はドイツの学生歌 "Gaudeamus Igitur".
J.P. McCasky ed., "Franklin Square Song Collection", no. 6 (1889)
p. 63 に収録されている[2]

音源は
Studentenlieder - Gaudeamus Igitur
http://www.youtube.com/watch?v=dlq3867YR20




第十七 君は神 (四部合唱) (里見義作詞,Beethoven 作曲)
一 きみは神,あらひと神,
  あめつちしろしめす,
  大君が御稜威(みいつ),
  あふぎたふとめ,みなひと.
  つきひも,君が光となる,
  実(げ)にげにいとかしこや.
  海のごとく,陸(をか)のごとく,
  千代ませ我君, 八千代もいませや.
二 八隅(やすみ)しし,我君こそ,
  あまてる神のすゑ,
  みしるしの,八咫のかがみ,
  をろがめ もろびと.
  剣の光り,かがやく玉,
  実にげに,いとかしこや.
  みてる月,照る日のかげ,
  いやましかがやけ,かはらずかがやけ.

[注] 原曲は Beethoven (1770-1827) 作曲 "Die Ehre Gottes
aus der Natur" Op. 48 (1803) No. 4.

録音は
Maigesang/ Die Ehre Gottes aus der Natur−Theo Adam
http://www.youtube.com/watch?v=0Szs5qAezMY


Ludwig van Beethoven (1770.12 - 1827.3)



第十八 憲法発布の頌 (Rudolf Dittrich 作曲)(四部合唱)
  大和の御民よ,我国民(くにたみ)よ,
  いはへや いはへや,この大御代を.
  めぐみの春風,しずかにわたり,
  かがやく みいつは,あさひのごとく,
  八洲の内外を,くまなくてらす.

  丑どし二月の十一日に,
  しきたまはせたる 大憲法(おほみのり)こそ,
  ためし しられぬ たまものなれや,
  われらが孫子(まごこ)の みたからなれや.

  来たれや つどへや,我がはらからよ,
  つどひて 祝へや,いざもろともに,
  明治の帝の,千代よろづ代を,
  ほぎたてまつれや,あめつちさへも,
  とどろくばかりに,ほぎたてまつれ.

[注] 遠藤宏『明治音楽史考』(有朋堂,1948年 4月)p. 251 によれば,
作曲者は Rudolf Dittrich.[長谷川由美子: 私信 2011. 05. 15]





以上(2006年1月)


 2007年1月:歌詞を原本通りに直した.

参考

[1] 桜井雅人,『「旅泊」その他: 外国曲からの唱歌四曲』,一橋論叢 134 (2005) 319-333.
[2] 桜井雅人,私信 (2009年9月).


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