小学 唱歌集 初編・第二編・第三編)



『小学唱歌集』全三編は文部省音楽取調掛(東京芸術大学の前身)によって編集され、 1882 4[注]から 1884 3月にかけて出版された、日本で初めての西洋式楽譜付きの唱歌集である。





  歌詞の例『あふげば尊し』



採用された曲の大部分は外国の曲である。 中には第十三番『見わたせば』(現行の『結んで開いて』)、第十七番『蝶々』、第十八番『うつくしき』(現行の『釣鐘草』)、第二十番『蛍』(現行の『蛍の光』)、第三十五番『霞か雲か』、第五十三番『あふげば尊し』、第五十六番『才女』(『アニーローリー』)、第七十八番『庭の千草』、第七十九番『忠臣』(『フアニタ』)など、現在でも良く歌われる曲が入っている。また第七十三番『誠は人の道』(モーツァルトの魔笛から)や八十九番『花鳥』(ウェルナーの『野ばら』)などの有名作曲家の作品もある。ただし、第二十三番『君が代』は現在のものではない。 この『小学唱歌集』は後の『尋常小学校唱歌』に受け継がれる。

以下に緒言と歌詞・楽譜を示した。基本的に作詞者・作曲者の名前は入っていないが、先人の研究で判明しているものは注記した。 読み下しに当たって、旧字体は新字体に、変体仮名は現行の標準書体に直した。複字の繰り返し記号は繰り返して表記した。緒言には句読点・濁点が無いが、読み易さを考えて適宜補なった。歌詞には部分的に振り仮名が付いているが、明らかなものは省略した。


[注] 初編の奥付けには明治十四年十一月 出版権届とあるのみで印刷日が入っていないが、文部省から内容に注文が出て、実際に印刷出版されたのは、伊沢修二の『音楽取調成績申報書』によると、明治十五年四月であった。 [伊沢修二(山住正己校注)『洋楽事始』(東洋文庫、平凡社、 1971 6月) p. 160, 山住正己『唱歌教育成立過程の研究』(東京大学出版会、 1967 3月) p. 100




「小学唱歌之略図」橋本 (楊洲) 周延 (ちかのぶ) 画 (1887年)

画面中央に『小学唱歌集』の初めの6曲の「かをれ」「春山」「あがれ」「いわへ」「千代に」「和歌の浦」の歌詞が見える。絵の描かれた当時、オルガンはまだ国産化されていないから、輸入ものである。




緒言

凡ソ教育ノ要ハ徳育智育体育ノ三者ニ在リ。而シテ小学ニ在リテハ最モ宜ク徳性ヲ涵養スルヲ以テ要トスベシ。今夫レ音楽ノ物タル性情ニ本ヅキ、人心ヲ正シ風化ヲ助クルノ妙用アリ。故ニ古ヨリ明君賢相特ニ之ヲ振興シ之ヲ家国ニ播サント欲セシ者和漢欧米ノ史冊歴々徴スベシ。曩ニ我政府ノ始テ学制ヲ頒ツニ方リテヤ已ニ唱歌ヲ普通学科中ニ掲ケテ一般必須ノ科タルヲ示シ、其教則綱領ヲ定ムルニ至テハ亦之ヲ小学各等科ニ加ヘテ其必ズ学バザル可カラザルヲ示セリ。然シテ之ヲ学校ニ実施スルニ及ンデハ必ズ歌曲其当ヲ得声音其正ヲ得テ能ク教育ノ真理ニ悖ラザルヲ要スレバ、此レ其事タル固ヨリ容易ニ挙行スベキニ非ズ。我省此ニ見ル所アリ。客年特ニ音楽取調掛ヲ設ケ、充ルニ本邦ノ学士音楽家等ヲ以テシ且ツ遠ク米国有名ノ音楽教師ヲ聘シ、百方討究論悉シ本邦固有ノ音律ニ基ヅキ彼長ヲ取リ我短ヲ補ヒ以テ我学校ニ適用スベキ者ヲ撰定セシム。爾後諸員ノ協力ニ頼リ稍ヤク数曲ヲ得、之ヲ東京師範学校及東京女子師範学校生徒并両校付属小学生徒ニ施シテ其適否ヲ試ミ、更ニ取捨選択シ得ル所ニ随テ之ヲ録シ、遂ニ歌曲数十ノ多キニ至レリ。爰ニ之ヲ剞劂ニ付シ名ケテ小学唱歌集ト云。是レ固ヨリ草創ニ属スルヲ以テ、或ハ未ダ完全ナラザル者アラント雖モ、庶幾クハ亦我教育進歩ノ一助ニ資スルニ足ラント云爾。

音楽取調掛長

明治十四年十一月                                伊沢修二 謹識




目次

唱歌集 初編

緒言

第一  かをれ
第二  春山
第三  あがれ
第四  いはへ
第五  千代に
第六  和歌の浦
第七  春は花見
第八  鴬
第九  野辺に
第十  春風
第十一 桜紅葉
第十二 花さく春
第十三 見わたせば
第十四 松の木蔭
第十五 春のやよひ
第十六 わが日の本
第十七 蝶々
第十八  うつくしき
第十九  閨の板戸
第二十  蛍
第二十一 若紫
第二十二 ねむれよ子
第二十三 君が代
第二十四 思ひいづれば
第二十五 薫りにしらるゝ
第二十六 隅田川
第二十七 富士山
第二十八 おぼろ
第二十九 雨露
第三十  玉の宮居
第三十一 大和撫子
第三十二 五常の歌
第三十三 五倫の歌

唱歌集 第二編

第三十四 鳥の声
第三十五 霞か雲か
第三十六 年たつけさ
第三十七 かすめる空
第三十八 燕
第三十九 鏡なす
第四十  岩もる水
第四十一 岸の桜
第四十二 遊猟
第四十三 みたにの奥
第四十四 皇御国
第四十五 栄行く御代
第四十六 五日の風
第四十七 天津日嗣
第四十八 太平の曲
第四十九 みてらの鐘の音

唱歌集 第三編

第五十  やよ御民
第五十一 春の夜
第五十二 なみ風
第五十三 あふげば尊し
第五十四 雲
第五十五 寧楽の都
第五十六 才女
第五十七 母のおもひ
第五十八 めぐれる車
第五十九 墳墓
第六十  秋の夕暮
第六十一 古戦場
第六十二 秋草
第六十三 富士筑波
第六十四 園生の梅
第六十五 橘
第六十六 四季の月
第六十七 白蓮白菊
第六十八 学び
第六十九 小枝
第七十  船子
第七十一 鷹狩
第七十二 小船
第七十三 誠は人の道
第七十四 千里のみち
第七十五 春の野
第七十六 瑞穂
第七十七 楽しわれ
第七十八 菊
第七十九 忠臣
第八十  千草の花
第八十一 きのふけふ
第八十二 頭の雪
第八十三 さけ花よ
第八十四 高嶺
第八十五 四の時
第八十六 花月
第八十七 治まる御代
第八十八 祝へ吾君を
第八十九 花鳥
第九十  心は玉
第九十一 招魂祭

参考




小学唱歌集 初編 1882 4月)



第一 かをれ
一 かをれ。にほへ。そのふのさくら。
二 とまれ。やどれ。ちぐさのほたる。
三 まねけ。なびけ。野はらのすゝき。
四 なけよ。たてよ。かは瀬のちどり。

稲垣千頴作詞[遠藤: 110][芸大: 95
曲は [Mason1 & 2]の No. 4: 'Lovely May, lovely May, Drives the chilling winds
away.'


メロディーは
01Kaore.mid




第二 春山
  はるやまに。たつかすみ。
  あきやまに。わたるきり。
  さくらにも。もみぢにも。
  きぬきする。こゝちして。

稲垣千頴作詞[遠藤: 110][芸大: 95
曲は [Mason1 & 2]の No. 8: 'Nature's fair and bright, Lovely to the sight.'


メロディーは
02Haruyama.mid



第三 あがれ
一 あがれ。あがれ。広野のひばり。
二 のぼれ。のぼれ。川瀬の若鮎(わかゆ)

稲垣千頴作詞[芸大:95
曲は [Mason1 & 2]の No. 11: 'Bells do ring, bells do ring, In the forest birds
do sing.'


メロディーは
03Agare.mid




第四 いはへ
一 いはへ。いはへ。きみが代いはへ。
二 しげれ。しげれ。ふたばの小松。

稲垣千頴作詞[遠藤: 110, 188][芸大: 95
曲は [Mason1 & 2]の No. 14: 'Sunshine bright, sunshine bright, Comes to fill
us with delight.'


メロディーは
04Iwae.mid



第五 千代に
一 ちよに。ちよに。千代ませきみは。
二 いませ。いませ。わが君ちよに。

稲垣千頴作詞、[遠藤:110188][芸大:95
曲は [Mason1 & 2]の No. 19: 'Fair Spring days, joyous days! Give for them to
God all praise.'


メロディーは
05Chiyoni.mid



第六 和歌の浦
  わかの浦わに。夕しほみちくれば。
  きしのむら鶴。あし辺に鳴わたる。

稲垣千頴作詞[遠藤:110][芸大:95
曲は [Mason1 & 2]の No. 21: 'The sun to cheer us brings the day, And blesses
with his setting ray.'


メロディーは
06WakanoUra.mid



第七 春は花見
一 はるは。はな見。
  みよし野。おむろ。
二 あきは。つきみ。
  さらしな。をぐら。

稲垣千頴作詞[遠藤:110][芸大:95
曲は [Mason1 & 2]の No. 24: 'Trust in God, trust in God, Who all blessings
pours abroad.'


メロディーは
07HaruwaHanami.mid




第八 鶯
一 うぐひす。きなけ。
  うめさく。そのに。
二 かりがね。わたれ。
  霧たつ。そらに。

稲垣千頴作詞[遠藤:110
曲は[Mason1 & 2]の No. 27: 'Let us sing a merry lay, Sing we ever, while we may.'


メロディーは
08Uguisu.mid



第九 野辺に
一 野辺に。なびく。ちぐさは。
  四方(よも)の。民の。まごゝろ。
二 はまに。あまる。まさごは。
  君が。みよの。かずなり。

稲垣千頴作詞、原曲は J.J. Schäublin "Kinderlieder für Schule und Haus"
(1886) 中の Hohmann 作曲 "Das schöne Welt" [遠藤: 110240][芸大:95
"National Music Charts" では [Mason1 & 2]の No. 26: 'See how the setting sun
fades in the west, See how the setting sun fades in the west.'


メロディーは
09Nobeni.mid




第十 春風
一 春風。そよふく。やよひのあした
  あき風。みにしむ。はつきのゆふべ。
二 弥生は。野山の。はなさくさかり。
  はつきは。みそらの。月すむ夜ごろ。

稲垣千頴作詞[遠藤:110
曲は [Mason1 & Mason2]の No. 39: 'Kind, protecting God in heaven, Goodness
from Thee ever flows; Thou hast sent me sweetest slumber, Strengthen'd me with
sweet repose.'


メロディーは
10Harukaze.mid



第十一 桜紅葉
一 春見に。ゆきませ。芳野の桜。
  あきみて。つげませ。龍田のもみぢ。
二 よし野は。さくらの。花さくみやま。
  たつたは。紅葉の。ちりしくながれ。

稲垣千頴作詞[遠藤:110
曲は[Mason1 & Mason2]の No. 41: 'Though my cot be poor and scanty, 'Tis
a happy home for me; I shall dwell in peace and plenty, If my soul contented be.'


メロディーは
11SakuraMomiji.mid




第十二 花さく春
一 花さく。はるの。あしたのけしき。
  かをる。雲の。たつこゝちして。
二 あき萩。をばな。はなさきみだれ。
  もとも。末も。露みちにけり。

稲垣千頴作詞[遠藤:110
曲は[Mason1 & Mason2]の No. 43: 'Birds that in th forest throng,
Song a joyful happy song;'


メロディーは
12HanasakuHaru.mid



第十三 見わたせば
一 見わたせば。あをやなぎ。花桜。
  こきまぜて。みやこには。
  みちもせに。春の錦をぞ。
  さほひめの。おりなして。
  ふるあめに。そめにける。
二 みわたせば。やまべには。
  をのへにも。ふもとにも。
  うすきこき。もみぢ葉の。
  あきの錦をぞ。たつたびめ。
  おりかけて。つゆ霜に。
  さらしける。

一番柴田清熙、二番稲垣千頴作詞[遠藤:110,208][芸大:95
この曲の由来は海老沢敏『むすんでひらいて考』(岩波書店、1986) に詳しい。
それによると、 J.-J. Rousseau (1712-1778) 作曲の幕間劇『村の占い師』
"Le Devin du Village" (1752 年初演、 1753 年出版 ) 中の舞曲「パントミム」
"Pantmime" に基づくロマンス「キュテラ島の森の茂みで」 "Dans les bosquets
des Cythère" (1775 ?)
を原曲として、 John Baptist Cramer (1771 1858) が作
曲した "Rousseau's Dream, An Air with Variations for the Piano Forte" (1812)
と考えられる。
賛美歌に初めて採用されたのは、 Thomas Walker "Walker's Companion
to Dr. Rippon's Tune Book" 4th ed. (1819)
265番チューン・ネーム
ROUSSEAU'S DREAM であり、その後 Lowell Mason "The Boston Handel
and Haydn Society Collection of Church Music" 2nd ed. (1823)
GREENVILLE
という現行のチューン・ネームになった。日本 では『聖書之抄書』 (1874) の第四
「キミノミチビキ」 (GREENVILLE) が初めてである。
表題を現行の『結んで開いて』にしたのは、お茶の水幼稚園で 1903 年 以後1909
の間と考えられる。
関連曲を集めたCDに『むすんでひらいての謎』(King Records: KICG 3077)がある。


以下でルソーの『パントミム』が聞ける:
J. J. Rousseau: Le Devin du Village - VIII/21 Pantomime et Récitatif/
Cantus Firmus Consort
http://www.youtube.com/watch?v=oQt8FLXINHo


『結んで開いて』のメロディーについては,エジソンによる演奏録音
(1889 3 月頃)がある:
Very Early Recorded Sound - Thomas Edison National Historical Park
"The Fifth Regiment March" performed by Issler's Orchestra
EDIS-SRP-0155-02.mp3

アメリカでは "Go Tell Aunt Rhody" となった.
歌唱は
Go Tell Aunt Rhody - Woody Guthrie
http://www.youtube.com/watch?v=c9Z5SWROv7Q

モルモン教会の賛美歌として歌われている:
Lord, Dismiss Us with Thy Blessing - Mormon Tabernacle Choir
http://www.youtube.com/watch?v=F3hHd9LBCRU

和訳は第 91 番「心に平和を」.

日本語歌唱は
むすんでひらいて 伴久美子・田端典子 ゆりかご会
http://www.youtube.com/watch?v=jBtKEDbcTBs




J.-J. Rousseau (1712 - 1778)




"Le Devin de Village" の楽譜の前に立つ 66 歳のルソー.[Michel Soëtard, "Rousseau" (Editions René Coeckelberghs, 1988)]



第十四 松の木蔭
一 松のこかげに。たちよれば。
  ちとせのみどりぞ。身にはしむ。
  梅がえかざしに。さしつれば。
  はるの雪こそ。ふりかゝれ。
二 うめのはながさ。さしつれば。
  かしらに春の。ゆきつもり。
  鶴のけごろも。かさぬれば。
  あきの霜こそ。身にはおけ。

原曲 "Trust in God"[芸大:95
曲は[Mason1 & Mason2]の No. 46 "Trust in God": 'Tho' I wander blindly,
Till in death I sleep, God the Lord will kindly Me in safety keep.')


メロディーは
14MatsunoKokage.mid




第十五 春のやよひ
一 春のやよひの。あけぼのに。
  四方のやまべを。見わたせば。
  はなざかりかも。しらくもの。
  かゝらぬみねこそ。なかりけれ。
二 はなたちばなも。にほふなり。
  軒のあやめも。かをるなり。
  ゆふぐれさまの。さみだれに。
  やまほとゝぎす。なのるなり。
三 秋のはじめに。なりぬれば。
  ことしもなかばは。すぎにけり。
  わがよふけゆく。月かげの。
  かたぶく見るこそ。あはれなれ。
四 冬の夜さむの。あさぼらけ。
  ちぎりし山路は。ゆきふかし。
  こゝろのあとは。つかねども。
  おもひやるこそ。あはれなれ。

原詞は慈鎮和尚の自家集『拾玉集』中の今様[遠藤:110][芸大:95
[金田一・安西:29
曲は賛美歌の "Happy Land". 主に日曜学校などで歌われてきた。元々インドの曲
と伝えられてきたが原曲は確認できない。賛美歌版の "Happy Land" Andrew
Young
作詞 (1838), Leonard P. Breedlove 編曲 (1850)によるとされているが,それ
より以前, John Boyden ed., "The Eastern harp, a collection of tunes and
hymns" (Boston: James M. Usher, 1848), pp. 126-7
Hindoostan Air として載って
いる。さらに,ほぼ同じ曲が R.A. Smith ed., "Select melodies, with appropriate
words, chiefly original collected and arranged" (Edinburgh: Robt. Purdie, 1827),
pp. 5-7: Hindoo Air, "Dancing Girl's Song" ('I have come from a happy land');
Thomas Whittemore ed., "Conference Hymns and Tunes" [first book] (Boston:
Thomas Whittemore, [1842], 1846), p. 58:
作曲者不詳 "ZION" ('I have look'd
round the verdant earth')
として載っている。未確認であるが,Wasson, "Hymntune
Index" (#14586: Indiana)
によると J. Ingalls ed., "The Christian Harmony"
(1805)
が初出とのこと。『讃美歌』(1954) 490 番:「あまつみくには」
[桜井1; 私信 2011. 6. 20

原歌詞は
There Is a Happy Land
http://www.cyberhymnal.org/htm/t/i/tishappy.htm

にある。midi
15HappyLand.mid




第十六 わが日の本
一 わがひのもとの。あさぼらけ。
  かすめる日かげ。あふぎみて。
  もろこし人も。高麗(こま)びとも。
  春たつけふをば。しりぬべし。
二 雲間にさけぶ。ほとゝぎす。
  かきねににほふ。うつぎばな。
  夏来にけりと。あめつちに。
  あらそひつぐる。花ととり。
三 きぬたのひゞき。身にしみて。
  とこよのかりも。わたるなり。
  やまともろこし。おしなべて。
  おなじあはれの。あきの風。
四 まどうつあられ。にはのしも。
  ふもとのおちば。みねのゆき。
  みやこのうちも。やまざとも。
  ひとつにさゆる。ふゆのそら。

曲は第十五番に同じ。ただし原曲冒頭の「ミーミレ」は歌詞に合わせて「ミミミレ」
に変更されている。




第十七 蝶々
一 てふてふてふてふ。菜の葉にとまれ。
  なのはにあいたら。桜にとまれ。
  さくらの花の。さかゆる御代に。
  とまれよあそべ。あそべよとまれ。
二 おきよおきよ。ねぐらのすゞめ。
  朝日のひかりの。さしこぬさきに。
  ねぐらをいでゝ。こずゑにとまり。
  あそべよすゞめ。うたへよすゞめ。

一番野村秋足、二番稲垣千頴作詞[遠藤: 120, 208]この後『幼稚園唱歌集』
1887 12月)に移された。この時ト長調に移調されている。
原曲は伊沢修二によるとスペイン民謡[遠藤 前掲書、芸大: 95]とされるが、
このスペイン民謡説は Lowell Mason らに起因する[桜井雅人「言語文化」
(一橋大学) 41 (2004)pp. 3-17. 「唱歌集の中の外国曲―『小学唱歌集』を中心
として (1)」]しかし本当は ドイツ民謡であるという[安田寛 『「唱歌」と
いう奇跡 十二の物語』(文春新書、文芸春秋、 2003 10月) p. 51

ドイツの原曲は 1710 年頃成立し、歌詞は Johann Gustav Gottlieb Büsching
(1783 - 1820) und Friedlich Heinrich von der Hagen (1780 - 1856)
作詞 (1807)
"Fahret hin, fahret hin", Hermann Adam von Kamp (1796 - 1867)
作詞 (1829/1818)
"Alles neu macht der Mai", Franz Wiedemann (1821 - 1882)
作詞 "Hänschen
klein ging allein"
などが有名。ちなみに "Hänschen klein ..." Lucia Popp が歌
CD ("Die shönsten deutschen Kinder-und Wiegenlieder" (Orfeo C078-831B)
収録されている。ただしこの CD の解説書にある作曲者名は誤っている。
アメリカでは表題 "Boat song" または "Lightly Row" で歌詞は 'Lightly row!
Lightly row! O'er the glassy waves we go, etc.'
として知られる。

曲は例えば
Hänschen klein
http://www.youtube.com/watch?v=yN_p3sqqYaY

日本語歌唱は
蝶々(唱歌)
http://www.youtube.com/watch?v=AnatrHxp1zE




第十八 うつくしき
一 うつくしき。わが子やいづこ。
  うつくしき。わがかみの子は。
  ゆみとりて。君のみさきに。
  いさみたちて。わかれゆきにけり。
二 うつくしき。わがこやいづこ。
  うつくしき。わがなかのこは。
  太刀帯て。君のみもとに。
  いさみたちて。わかれゆきにけり。
三 うつくしき。わがこやいづこ。
  うつくしき。わがすゑのこは。
  ほことりて。きみのみあとに。
  いさみたちて。わかれゆきにけり。

稲垣千頴詞、スコットランド民謡 "The blue bells of Scotland" [遠藤:112,209
[芸大:95
女優の Jordan (本名Dorothea Bland) 夫人 (1761 - 1816) がロンドンの Drury Lane
Theatre
1800 年直後に披露した。

歌詞は Mrs Anne Grant of Laggan (1755-1838; 旧姓 MacVicar)が書いた“Oh,
Where, Tell Me Where?”
の改作であるが、純粋の「スコットランド民謡」で はなく
て、旋律はイングランド起源と考えられている。実際John Greig, ed., "Scots
Minstrelsie: A National Monument of Scottish Song", Vol. 2 (Edinburgh: T.C. &
E.C. Jack, 1893), p. ix
注で“The air ... is possibly of English origin.”と言ってい
る。スコットランド曲とする James Johnson, "The Scots Musical Museum" Vol. I
(1853), pp. 566-67: No. 548 "The Blue Bells of Scotland"
は旋律が異なる [桜井:
私信 2011. 07. 10 ]


歌唱は
Charlie Zahm sings Bluebells of Scotland
http://www.youtube.com/watch?v=_p4p4_QHt5I


稲垣千頴 (?-1913. 2)



第十九 閨の板戸
  ねやのいたどの。あけゆく空に。
  あさ日のかげの。さしそめぬれば。
  ねぐらをいづる。百八十鳥(ももやそとり)は。
  霞のうちに。友よびかはし。
  夢みるてふも。とくおきいでゝ。
  むれつゝ花に。まひあそぶなり。
  あさいねする身の。そのおこたりを。
  いさむるさまなる。春のあけぼの。

稲垣千頴作詞。アメリカでは "Morning song" として知られる[遠藤:113,140

Mason1 & Mason2]に掲載 (Lowell Mason, "The Boston School Song Book",

(1840), p. 4 より転載)[桜井3


桜井雅人氏作成の midi 音源は

19MorningSong1840.mid




第二十 蛍
一 ほたるのひかり。まどのゆき。
  書(ふみ)よむつき日。かさねつゝ。
  いつしか年も。すぎのとを。
  あけてぞけさは。わかれゆく。
二 とまるもゆくも。かぎりとて。
  かたみにおもふちよろづの。
  こゝろのはしを。ひとことに。
  さきくとばかり。うたふなり。
三 つくしのきはみ。みちのおく。
  うみやまとほく。へだつとも。
  そのまごゝろは。へだてなく。
  ひとつにつくせ。くにのため。
四 千島のおくも。おきなはも。
  やしまのうちの。まもりなり。
  いたらんくにに。いさをしく。
  つとめよわがせ。つつがなく。

原詩は Robert Burns が古いスコットランド民謡から採取し改変を加え (1788),
James Johnson, "The Scots Musical Museum"
Vol. 5 (1796) "Auld lang
syne"
として発表した。 Burns の念頭にあったメロディーは古い形のものであったが,
George Thomson (1757- 1851) は新たに "Scots Musical Museum" Vol. 4 (1792)
中のカントリー・ダンスの曲 "O can ye labor lea, young man"をあてて, "Select
Collection of Original Scot(t)ish Airs for the Voice"
Vol. 2 (1799) に採録した。
James Dick, "Auld Lang Syne―Its Origin, Poetry, and Music"
日本初演は 1881 5 24日で(明治天皇の)皇后が東京女子師範学校(現在の
お茶の水大学)に行啓したとき,芝葛鎮らによって演奏された [中村理平『キリスト
教と日本の洋楽』(大空社, 1996 9月) pp. 208-211;  遠藤: 134
日本語の歌詞は東京日々新聞記事( 1881 7 15日) によると稲垣千頴作詞
[中村:446,448]  日本では卒業式に歌われる歌で,現在の題名は『蛍の光』。
英米圏では大晦日の夜半に歌われる。英国発の曲の中で一番良く知られた歌。
いろいろな音源を集めたCDとして『蛍の光のすべて』(King Records: KICG 3075)
ある。

以下で歌唱が聞ける:
Kenneth McKellar - Auld Lang Syne
20AuldLangSyne.mp3

日本語では
蛍の光(全番,レコード音源超音質)
http://www.youtube.com/watch?v=PUOLyGdyXgY




第二十一 若紫
一 わかむらさきの。めもはるかなる。武蔵野の。
  かすみのおく。わけつゝつむ。初若菜。
二 若菜はなにぞ。すゞしろすゞな。ほとけの座。
  はこべらせり。なづなに五行。なゝつなり。
三 なゝつの宝。それよりことに。得がたきは。
  雪消のひま。尋ねてつむ。わかななり。

稲垣千頴作詞、原曲は Hoffmann von Fallersleben 作詞、 Hans Georg Nägeli
(1773 - 1836)
作曲 "Das Veilchen" . [遠藤:118] [芸大:95

アメリカでは Lowell Mason, "The Hallelujah, New York: Mason Brother" (1854),
p. 59: "Charming Little Valley"; Philip, "Phillip's Day-School Singer for Public
and Private Schools" (Cincinnati: Wilson, Hinkle, 1870), p. 92
または Luther
Whiting Mason, "Primary or First Music Reader" (Boston: Ginn, Heath & Co.,
[1870], 1883, p. 74: "The Violet"; "A Service Book for Sunday Schools" (Boston:
Walker, Wise, and Company, 1863), p.54: "Quiet Valley"
など[桜井3

James R. Murray, "Pure Diamonds: A choice collection of new words and music
for the Sunday school, praise meetings, prayer meetings, and the social circle"
(Cleveland: S. Brainards' Sons, 1872) p. 9
F.A. Benson 作詞の別歌詞 'The
Sabbath Chime'
がある.[桜井雅人:私信 2011. 02. 18


"Charming Little Valley; Melody from the German," Arranged for the Piano Forte
by E.C.B. (Boston: G.P. Reed & Co., 1853)
から桜井雅人氏が作成したmidi 音源は
21CharmingLittleValley.mid



Hans Georg Nägeli (17731836)



第二十二 ねむれよ子
一 ねむれよ子。よくねるちごは。ちゝのみの
  父のおほせや。まもるらん。ねむれよ子。
二 ねむれよ子。よくねるちごは。はゝそばの。
  母のなさけや。したふらん。ねむれよこ。
三 ねむれよこ。よくねておきて。ちゝはゝの。
  かはらぬみ顔。をがみませ。ねむれよこ。

ドイツの子守歌で,Johann Friedrich Reichardt (1752-1814) 作曲(1781
"Schlaf, Kindlein, schlaf" . アメリカでは "Sleep, Baby, Sleep" として知られる
[桜井1

歌唱は
Klassische Kinderlieder mit Text - Teil 1
http://www.youtube.com/watch?v=X-me3Bq6fiY



第二十三 君が代
一 君が代は。ちよにやちよに。さゞれ
  いしの。巌となりて。こけのむす
  までうごきなく。常磐かきはに。
  かぎりもあらじ。
二 きみがよは。千尋の底の。さゞれ
  いしの鵜のゐる磯と。あらはるゝ
  まで。かぎりなき。みよの栄を。
  ほぎたてまつる。

一番は『古今集』「賀之部」読人知らず、二番は『今撰和歌集』源三位頼政詞、
最後の 3 句は稲垣千穎補詞、 Samuel Webbe, Sr. (1740 1816) 作曲 (1787)
"Glorious Apollo"
[遠藤:119,188][芸大:95][中村:461,462][桜井 1
現行の『君が代』とメロディーは異なることに注意。
この『君が代』以前に J.F. Fenton が儀式用に作った曲があるが,評判が悪くすぐ
廃止された。ちなみに現行の『君が代』の初出は 『保育唱歌』第十九番 であるが,
広く知られるようになったのは,文部省発行の『中等唱歌集』 (1889) 第一曲
に掲載されてからである。次いで 1893 年の『祝日大祭日唱歌』 の 第一曲 に準国歌
として選出され, 小学生も歌うようになった。その間の事情については『保育唱歌』の
「君が代撰譜の事情」 を参照されたい。
『君が代』の変遷を知るにはCD『君が代のすべて』(King Records: KICG 3074)
が便利。

音源は
23Kimigayo-Webbe-rev.mid
元歌"Glorious Apollo" の歌唱は以下で聞ける:
HGC and KGC alumni singing Glorious Apollo
http://www.youtube.com/watch?v=tpRzHxRmUeY



参考譜として Webbe 1787 年にロンドン・グリー・クラブのために作曲した
原曲を以下に示す[安田寛『「唱歌」という奇跡 十二の物語』(文春新書、
文芸春秋、 2003 10月) p. 101より]



第二十四 思ひいづれば
一 おもひいづれば。三年のむかし。
  わかれしその日。わがちゝはゝの。
  かしらなでつゝ。まさきくあれと。
  いひしおもわの。したはしきかな。
二 あしたになれば。かどおしひらき。
  日数よみつゝ。ちゝまちまさむ。
  わがおもひごは。ことなしはてゝ。
  はやいつしかも。かへり来なんと。
三 ゆふべになれば。床うちはらひ。
  およびをりつゝ。母まちまさん。
  わがおもひごは。事なしはてゝ。
  はやいつしかも。かへりこなんと。
四 あしたになれば。かどおしひらき。
  ゆふべになれば。とこうちはらひ。
  父まちまさん。母まちまさむ。
  はやく帰らん。もとの国べに。

稲垣千頴作詞、原詞はスコットランドの Robert Burns の詩 "Ye Banks and
Braes o' Bonnie Doon"
[遠藤:115][芸大:96
曲は James Miller Stephen Clarke の共作 (1788) Niel Gow
"Strathspey Reels" (1788) "Caledonian Hunt's Delight" として掲載された。
Robert Burns はこの旋律を利用して "Ye Banks and Braes o' Bonnie Doon" を書き、
James Johnson, ed., "The Scots Musical Museum" Vol. 4 (Edinburgh: Printed &
sold by Johnson & Co, 1792), no. 374
"The Banks o' Doon" という題で掲載され
た。「思ひいづれば」は 3 拍子で示されているが、原曲は6拍子である。
アメリカでは "Candler" という賛美歌になった[桜井2/ 私信: 2011. 07. 01


Jean Redpathによる歌唱は以下で聞ける:
24TheBanksODoon.mp3




第二十五 薫りにしらるゝ
一 かをりにしらるゝ。花さく御園。
  霞にかくるゝ。鳥なくはやし。
  君が代いはひて。幾春までも。
  かをれやかをれや。うたへやうたへ。
二 つきかげてりそふ。野中の清水。
  もみぢばにほへる。外山(とやま)のふもと。
  きみが代たえせず。いく秋までも。
  てらせやてらせや。にほへやにほへ。

里見義作詞、アメリカでは "OTTO" か[遠藤: 115,139][芸大: 96
原曲は Lowell Mason, "Carmina Sacra" (J.H. Wilkins & R.B. Carter, 1841)
p. 212
"OTTO" [Sweet the moments, rich in blessing, etc.]. メノー派のシェイ
プ・ノート歌集 "The Harmonia Sacra" 25th ed. (Good Books, 1993) p. 148 では
James Allen 作詞 "Divine compassion" として同じ歌詞で現在も歌われている.
作曲は William Cowper (1731 - 1800) としているが極めて疑わしい[桜井1, 3
その後、桜井氏から作曲者が判明したとの以下のお知らせをいただいた。
"The Hymnal of the Reformed Church in the United States" (Reformed Church,
Cleveland, 1890) p.48
によれば、チューン名 "OTTO"H.B. Oliphant 作曲。
この人の経歴は不明。ただし、 Hatfield, "The Church Hymn Book, With Tunes,
for the Worship of God" (1873) p. 498
では作曲者は Henry K. Oliver, (作曲年)
1840
とされている。 [桜井:私信 2010. 12. 13; 12. 22]情報をお寄せいただい
た氏に感謝する。


以下で歌唱が聞ける
Members of Pikes Mennonite Church and visiting singers celebrate Ascension
Day with singing from the Harmonia Sacra, first published by Joseph Funk in
1832 (from Digital Library of Appalachia)
25DivineCompassion.mp3



第二十六 隅田川
一 すみだがはらの。あさぼらけ。
  水のまにまに。ふねうけて。
  花にあそばむ。ちらぬまに。
二 隅田川原の。あきの夜は。
  水もみそらも。すみわたる。
  かぜのまにまに。ふねうけて。
  月にあそばん。夜もすがら。
三 すみだがはらの。ふゆのそら。
  よは白妙(しろたへ)に。うづもれて。
  木々のことごと。はなさきぬ。
  ゆきにあそばん。消ぬまに。

里見義詞、 米国では HAMBURG [遠藤:113, 139
現行の讃美歌142番「さかえの主イエスの」[中村:458
歌詞 'When I survey the wondrous cross' Isaac Watts (1674-1748) が作詞
(1707) これに Lowell Mason (1792-1872) が作曲 (1824) し,"The Boston Handel
and Haydn Society Collection of Church Music", 3rd ed. (1825)
に発表した。[桜井1

歌唱は
When I Survey The Wondrous Cross" - MS Baptist All-State Youth Choir &
Orchestra 2008
http://www.youtube.com/watch?v=nDWX_ysCH0Y



Lowell Mason (1792 - 1872)



第二十七 富士山
一 ふもとに雲ぞ。かゝりける。
  高嶺にゆきぞ。つもりたる。
  はだへは雪。ころもはくも。
  そのゆきくもを。よそひたる。
  ふじてふやまの。見わたしに。
  しくものもなし。にるもなし。
二 外国人(とつくにびと)も。あふぐなり。
  わがくに人も。ほこるなり。
  照る日のかげ。そらゆくつき。
  つきひとともに。かがやきて。
  冨士てふ山の。みわたしに。
  しくものもなし。にるもなし。

加部厳夫作詞、 Joseph Haydn の曲から Rev. John Bacchus Dykes (1823 -
1876)
が編曲した。表題「雨中の歌」 "Singing in the Rain" [遠藤:116
[芸大:96
別歌詞として "Brightly gleams our banner" [中村:445,448,462
原曲は Haydn の交響曲第 53 "L' Imperiale" 2 楽章 冒頭の旋律。
Dykes 編曲 (1868) の旋律名は St. ALBAN. このメロディーにはこの他
いろいろな歌詞が付けられている。 [桜井1


歌詞はと演奏は
Jesus, King of Glory
http://nethymnal.org/htm/j/k/jkinglor.htm



Franz Joseph Haydn (17321809)



第二十八 おぼろ
一 おぼろににほふ。夕づき夜。
  さかりににほふ。もゝさくら。
  のどかにて。のどけき御代の。楽しみは。
  花さくかげの。このまとゐ。
  このうたげ。
二 千草にすだく。むしの声。
  をぎの葉そよぐ。風のおと。
  身にしみて。眼にみる物も。きく物も。
  あはれをそふる。あきの夜や。
  つきのよや。

原曲 "Murmur gentle lyre" [芸大:96
1881715日 付け「東京日日新聞」によると,Friedlich Silcher (17891860)
作曲 "Night Song" で,夜色の荒涼たるを形状せりとある.[中村:445 - 447
Ch.E. Whiting, "Young People's Song Book" (Kessinger Publishing, 1892), p. 123
"The Heavens Are Breaking" として採録されており,作曲者は Silcher. [桜井私信:
2011. 01. 23


L.W. Mason, "Third Music Reader" ([1871], 1872) p. 23 にある"Murmur, Gentle Lyre"
による桜井雅人氏作成のmidi
28MurmurGentleLyre1871.mid




第二十九 雨露
一 雨露に。おほみやは。あれはてにけり。
  みめぐみに。民草(たみくさ)は。うるほひにけり。
  かくてこそ。今の世も。かまどのけぶり。
  み空にも。あまるまで。たちみちぬらめ。
二 飢ゑこゞえ。なきまどふ。民もやあると。
  身にかへて。かしこくもおもほすあまり。
  あられうつ。冬の夜に。ぬぎたまはせる。
  大御衣(おほみそ)の。あつきその。御こゝろあはれ。

シチリア民謡[遠藤:239][芸大:96
東京日々新聞記事 (1881 7 15 )で加藤厳夫作詞。シチリアのキャロル
"O Sactissima, O Purissima".現行の讃美歌 108 番「いざうたえ、いざいわえ、
うれしきこのよい、かみの子あらわれぬ、いざほめたたえよ」[中村:447

この歌の出自は謎に満ちている。
印刷の初出は "The European Magazine, and London Review" 22 (1792) pp. 385-
386 (London).

一方,このメロディーは Johann Gottfried von Herder1788 年イタリアに旅行
した際"An die Jungfrau Maria" ('O sanctissima! O piissima!') ,ただし 「シシリーの
船乗りの歌」として収集したとされている。歌詞が発表されたのは彼の死後 "Stimmen
der Völker in Liedern" ed. by Johann von Müller (Tübingen: J.G. Cotta'schen
Buchhandlung, 1807), pp. 175-176
においてだった。ところが不思議なことにイタリア
ではこの曲は発見されていない。
イギリスでは, 早くも 1794 年に, late Rev. James Merrick and the Rev. William
Dechair Tattersall, "Improved Psalmody" Vol. I (Rivingtens, & Leigh & Sotheby,1794),
p. 67: "The works of Creation prove the Being of God" (Sicilian Hymn) ('God the Heav'ns
aloud proclaim')
として 発表されている。
アメリカでは 1794 年の Ralph Shaw and Benjamin Carr, ed., "The Gentleman's
Amusement" (Philadelphia, 1794), 'Lord Dismiss Us with Thy Blessing'
がある。
この他にも色々な表題の歌詞 が作られた。
ドイツでは,このメロディーに対してワイマールの Johannes Daniel Falk (1768-
1826)
は新たに ドイツ語の歌詞 "O du fröhliche, O du selige, gnadenbringende
Weihnachtszeit" (1816)
を付け,ドイツでクリスマ}スの際広く歌われるようになった。
Beethoven の民謡編曲作品『諸国民の 12 の歌曲集』(1814-1815)WoO. 157, No. 4:
"O Sanctissima"
(伴奏付き) もある。
現在ではクリスマス・キャロルに準ずるものとして,英米独で広く歌われている。
旋律名は"SICILIAN MARINERS". [桜井1/ James J. Fuld, "The Book of World-
Famous Music"


歌唱は例えば
O du Frohliche - Vienna Boys' Choir
http://www.youtube.com/watch?v=AWkbIOtu8WU




第三十 玉の宮居
一 玉のみやゐは。あれはてゝ。
  雨さへ露さへ。いとしげゝれど。
  民のかまどの。にぎはひは。
  たつ烟(けぶり)にぞ。あらはれにける。
二 冬の夜さむの。月さえて。
  隙(ひま)もるかぜさへ。身をきるばかり。
  民をおもほす。みこゝろに。
  大御衣(おほみころも)や。ぬがせたまひし。

賛美歌 "Caledonia" からとされるが、拍子旋律リズムが異なる。
"Hey Tuttie Tattie" に由来する曲に基づく Lady Nairne (1776 - 1845) 作詞の
"The Land o' the Leal" によるものだろう[桜井2

歌唱は
Silly Wizard Live - Land O' The Leal
http://www.youtube.com/watch?v=aleyPzq_I8c




第三十一 大和撫子
一 やまとなでしこ。さまざまに。
  おのがむきむき。さきぬとも。
  おほしたてゝし。ちゝはゝの。
  庭のをしへに。たがふなよ。
二 野辺の千草の。いろいろに。
  おのがさまざま。さきぬとも。
  生(おほ)したてゝし。あめつちの。
  つゆのめぐみを。わするなよ。

一番は稲垣千頴、二番は里見義作詞、芝葛鎮作曲[遠藤:121,215
[芸大:96][中村:435

歌詞一番の誤植「底」を「庭」と訂正した。ご指摘戴いた岩辻賢一郎氏に感謝
する[2010. 11. 04 記]


メロディーは
31YamatoNadeshiko.mid



芝 葛鎮(ふじつね) (1848 –1918. 2)



第三十二 五常の歌
一 野辺のくさ木も。雨露の。
  めぐみにそだつ。さまみれば。
  仁てふものは。よのなかの。
  ひとのこゝろの。命なり。
二 飛騨の工(たくみ)が。うつ墨に。
  曲もなほる。さまみれば。
  義といふものは。世の中の。
  人のこゝろの。条理(すぢめ)なり。
三 成像(よそほひ)ほかに。あらはれて。
  謹慎(つゝしみ)みたる。さまみれば。
  礼てふものは。世の中の。
  ひとのこゝろの。掟なり。
四 神の蔵(かく)せる。秘事(ひめこと)も。
  さとり得らるゝ。さまみれば。
  智といふものは。世の中の。
  人のこゝろの。宝なり。
五 月日と共に。あめつちの。
  循環(めぐり)たがはぬ。さまみれば。
  信てふものは。世の中の。
  人のこゝろの守りなり。

稲垣千頴作詞、芝葛鎮作曲[遠藤:215][芸大:96
伊沢修二は稲垣千頴の詞を「仁義礼智は人の性、親義別序は人の倫、忠孝かけず
慈敬ある、人をぞ人といひつべき」とし、芝葛鎮作曲としている[遠藤: 135


メロディーは
32GojonoUta.mid




第三十三 五倫の歌
  父子親(しん)あり。君臣義あり。
  夫婦別あり。長幼序あり。
  朋友信あり。

詞は孟子『膝文公篇』より、Luther Whiting Mason 曲[遠藤:134215
[芸大:96


メロディーは
33GorinnoUta.mid



Luther Whiting Mason (1818. 4 –1897. 7)




小学唱歌集 第二編 18833月)




第三十四 鳥の声
一 鳥の声。木木(きぎ)の花。野辺にみちて。
  かすみけりな。のどかなる春の日や。
二 むしの声露のたま。野辺にみちて。
  ゆくもゆかれず。きよらなる月の夜や。

原曲ドイツ民謡 “Winter, ade!”[遠藤:210][芸大:96

おそらく[Mason1a: p.11]の "Winter, Adieu!" からであろう[桜井3


原歌詞は以下にある:

Winter ade!

http://ingeb.org/Lieder/winterad.html

音源は上記に置いてあるmidi

34Schatzchen1816.mid




第三十五 霞か雲か
一 かすみか雲か。はたゆきか。
  とばかりにほふ。その花ざかり。
  ももとりさへも。うたふなり。
二 かすみははなを。へだつれど。
  隔てぬ友と。きてみるばかり。
  うれしき事は。世にもなし。
三 かすみてそれと。みえねども。
  なく鶯に。さそはれつつも。
  いつしか来ぬる。はなのかげ。

加藤厳夫作詞、原曲 August Heinrich Hoffmann von Fallersleben (1798
1874) 作詞 “Frühlings Ankunft” [遠藤:211
ただしドイツ語タイトルは "Alle Vögel sind schon da" が普通。
アメリカでは "Spring song" ('All the birds are come again') [芸大:96
戦後の歌詞[かすみか雲かほのぼのと]は勝承夫による。


歌唱は
Alle Voegel sind schon da - Kindermusik
http://www.youtube.com/watch?v=vHC-Io6q3zg

日本語は
霞か雲か かすみか雲か はた雪か・・・杉並児童合唱団
http://www.youtube.com/watch?v=IDx1pxMkADI


第三十六 年たつけさ
一 としたつけさの。そのにぎはひは
  みやこもひなも。へだてなく。
  毬歌うたひつ。羽子つきかはしつ。
  こゝろごころに。うちつれだちて。
  かしこもこゝも。あそびゆくなり。
  都も鄙(ひな)も。あそぶなり。
二 のどけき春に。はやなりぬれば。
  わかきもおいも。わかちなく。
  さく花かざしつ。なく鳥きゝつゝ。
  こゝろごころに。うちつれだちて。
  やまべに野辺に。あそびゆくなり。
  山辺に野辺に。あそぶなり
三 ことしもいつか。なかばは過ぎて
  秋風さむく。身にぞしむ。
  すゞむし松虫。はたおる虫さへ
  われらもおいの。いたらぬさきに。
  学の道に。いそしまむ。
四 千代ながづきの。月たちぬれば。
  まがきのうちと。へだてなく。
  しら菊はなさき。紅葉(もみぢば)かゞやく。
  菊ともみぢを。かざしにさして。
  君が代いはへ。八千代もちよも。
  わが君いはへ。よろづ世も。

原曲は Martin Usteri (1763-1827)作詞 (1793), Hans Georg Nägeli (1773 - 1836)
作曲 (1795) "Freut euch des Lebens". アメリカでは "See where the rising Sun"
として知られる.[遠藤:211] [ 芸大:96]
現在の英語表題は "Life Let Us Cherish" が多い.[桜井3]
Isaak Hirzel (1756-1833) 作曲 (1793 年頃) 説もある.[桜井:私信 2013. 02. 05]


以下で楽しい歌唱が聞ける:
Maria & Margot Hellwig - Volkslieder-Medley
http://www.youtube.com/watch?v=qvGT90HpHTY



第三十七 かすめる空
一 かすめるそらに。雨ふれば。
  草木もともに。うるほひぬ。
  わらへるはな。にほへるやま。
  類なの。ながめかな。
二 山の端(は)はれて。つき清く。
  ちさとのくまも。かくれなし。
  きらめく露。なくなるむし。
  類(たぐひ)なの。秋の夜や。

Luther Whiting Mason "National Music Reader" 中の Schade 作曲 "The rain".
[
遠藤: 238] [芸大:96]
Lowell Mason, "The Boston School Song Book" ([1840], 1844) p. 20 Schade 作曲
"The Rain"[Mason2: p. 49] で採用.[桜井3]
原曲は Wilhelm Wedemann, "Hundert Gesänge der Unschuld, Tugend und
Freude: mit Begleitung des Klaviers", vol. 3 (Weimar: Bernhard Friedrich Voigt,
1863), pp. 66-67: I.G. Schade
作曲 "Der Regen" (歌詞:Seht, dort zieht der Regen
an den Bergen hin) (
ト長調).この曲の初出の歌集・年代および作曲者の経歴は不
.[桜井:私信 2013. 02. 05]


I.G. Schade 作曲の"Der Regen"
37 Der Regen.mid




第三十八 燕(つばめ)
一 こよやこよや。こよつばくらめ。
  おやもひなも。ひねもすかたり。
  たのしみし。その巣をいでゝ。
  とほき国辺に。たちわかるとも。
  帰り来よや。わがやどり。
  かへりこよや。つばくらめ。
二 来なけ来なけ。やまほとゝきす。
  われもひとも。夜はよもすがら。
  いねもせず。深山(みやま)をいでゝ。
  都のそらに。なけほとゝぎす。
  なのれなのれ。わがやどに。
  きなけきなけ。ほとゝぎす。


William B. Bradbury, ed., "Flora's Festival: A Musical Recreation for Schools,
Juvenile Singing Classes, etc." (New York: Ivison, Phinney & Co., [1847], 1863) pp.
16-17; "The Alpine Glee Singer" (New York: Newman & Ivison, [1850], 1852)
pp. 256-57
に掲載の (John Hill?) Hewitt 作曲 "Come, Come, Pretty Bird".[桜井:
私信 2011. 03. 07


桜井雅人氏作成の原曲の midi

38ComeComePrettyBird.mid




第三十九 鏡なす
一 かゞみなす。水もみどりの。かげ
  うつる。柳の糸の。枝をたれ。
  気霽 (きはれ)ては。風新柳(しんりう)の髪を梳(けづ)り。
  氷消ては。浪(なみ)旧苔の。髭を洗ふとかや。
  げにおもしろの。景色やな。
  げにおもしろの。けしきやな。
二 降る雪に。樵夫のみちも。うも
  れけり。みやまのおくの。夕まぐれ。
  かざせる笠には。影もなき。月をやどし。
  担へる柴には。かをらざる。花をたをるとかや。
  げにおもしろの。けしきやな。
  げにおもしろの。景色やな。

里見義作詞、芝葛鎮作曲[遠藤:114, 215] [芸大:96


音源は

39Kagaminasu-Dittrich.mid




第四十 岩もる水
  いはもる水も。松ふく風も。
  しらべをそふる。つま琴の音(ね)や。
  こゝろにかゝる。雲霧(くもきり)もなし。

原曲は "The Moon".[芸大:96]

J. Merling 作曲で [Mason2: p. 54]に掲載.[桜井1]

原曲は Jul[ius] Merling, "Theoretisch-praktischer Gesangs-Cursus", v. 3
(Magdeburg: Heinrichshofen, 1855), p. 8: "Der Mond" (
歌詞:Wallst dort leise,
lieber Mond)(
ニ長調,2部合唱).[桜井:私信 2013. 02. 05]


Dittrich 編曲の音源は

40IwamoruMizu-Dittrich.mid




第四十一 岸の桜
一 岸の桜の。はなさくさかりは。
  水のそこにも。白雲かゝれり。
  すみだの川の。かはのせくだし。
  漕やをぶね。花にうかれて。
  雲にさをさし。霞にながして。
  こぐや雲ゐに。かすみの海に。
二 秋のもなかの。さやけき月夜は。
  水のそこにも。白玉しづめり。
  隅田の川の。かはの瀬のぼし。
  こぐや小舟(をぶね)。つきにうかれて。
  棹のしづくの。光もさながら。
  真玉(またま)しら玉。しら玉またま。

Frédéric Bérat (1801 –1855) 作詞・作曲 "Ma Normandie" (1835 ?).
チャンネル諸島ジャージー島の代表的な民謡[桜井1

観光客が楽しげに歌っている:
Chant "Ma Normandie"
http://www.youtube.com/watch?v=KPYm3TB60EU



Frédéric Bérat (1801 –1855)



第四十二 遊猟
一 さながら山も。くづるばかりに。
  をのへにとよむ。矢玉のひゞき。
  神てふ虎も。てどりにしつゝ。
  いさみにいさむ。益荒雄(ますらを)の徒(とも)
二 葦毛の馬に。しづ鞍おきて。
  あづさの真弓。手にとりしばり。
  みかりたゝすは。ますらをなれや。
  美猟(みかり)たゝせる。そのいさましさ。

イングランド民謡 "The Lincolnshire Poacher". John Hullah, ed., "The Song Book"
(London: MacMillan, [1866], 1884), pp. 74-75: "The Lincolnshire Poacher"
からの
採用であろう。
原曲をドイツ民謡『矢車菊』 とする[金田一・安西: 41]のは誤りと思われる。
[桜井1

Peter Pears が歌うBenjamin Britten 編曲,ピアノ伴奏は
42TheLincolnshirePoacher-Pears&Britten.mp3





第四十三 みたにの奥
一 みたにのおくの。花鳥あはれ。
  うづまく雲の。かぐはしのよや。
  たのしき春に。あふさか山の。
  岩根によせて。君が代うたへ。
二 たり穂の稲の。ゆふ風あはれ。
  よせくる浪の。にぎはしのよや。
  ゆたけき秋に。あふさか山の。
  巌(いはほ)によせて。君が代いはへ。

里見義作詞[遠藤:237
原曲はスコットランド民謡で、James Johnson ed., "The Scots Musical Museum"
Vol. 2 (Edinburgh: Printed & sold by Johnson & Co, 1788), p. 129: No. 123 "The
Miller" ('O merry may the maid be')
として掲載された。John Glen, "Early Scottish
Melodies" (Edinburgh: J. & R. Glen, 1900), p. 101
によると,これが曲の初出版。
「みたにの奥」は Robert Chambers, ed., "The Songs of Scotland Prior to Burns"
(Edinburgh: W. & R. Chambers, [1862]), pp. 194-196
からの採用であろう。
現在ではこの旋律は Robert Burns の歌詞 "Mary Morison" で歌われている(元々
Burns の詩には違う曲が当てられていた)[桜井 2/ 私信: 2011. 07. 06

歌唱は
Mary Morison - Joann Gilmartin live performance
http://www.youtube.com/watch?v=XSjz0141gXg




第四十四 皇御国(すめらみくに)
一 すめらみくにの。ものゝふは。
  いかなる事をか。つとむべき。
  たゞ身にもてる。まごゝろを。
  君と親とに。つくすまで。
二 皇御国の。をのこらは。
  たわまずをれぬ。こゝろもて。
  世のなりはひを。つとめなし。
  くにと民とを。とますべし。

加藤司書徳成・加部厳夫作詞、伊沢修二作曲[遠藤:189,215
[金田一・安西:43
里見義作詞、伊沢修二作曲[芸大:96


音源は
44SumeraMikuni-Dittrich.mid




第四十五 栄行(さかゆ)く御代
一 さかゆく御代に。うまれしも。おもへば
  神の。めぐみなり。いざや児等。神の恵を。
  ゆめなわすれそ。ゆめなわすれそ。
  ゆめなわすれそ。時の間も。いざやこら。
  神の恵を。ゆめなわすれそ。ゆめなわすれそ。
  ゆめなわすれそ。ときのまも。
二 恵も深き。かみがきの。みまへの
  さかき。とりもちて。ちはやぶる。
  神の御前に。うたひまはまし。うたひまはまし。
  うたひまはまし。夜もすがら。ちはやぶる。
  神の御前に。うたひまはまし。うたひまはまし。
  うたひまはまし。よもすがら。

加部厳夫詞、John Reading1692年に作曲したと言われるポルトガルの聖歌
"Adeste, fideles, laeti triumphantes" [遠藤:116,189,211
「神の御子はこよいしもベツレヘムに生まれたもう」[芸大:96
遠藤説に関する修正:John Francis Wade (c17101786) "Cantus Diversi"
(1751)
に初出[中村: 453,461
ポルトガルの聖歌ではなく、Wade作曲[桜井 2][ Dom John Stephan, "Adeste
Fideles: A Study on Its Origin and Development" (1947)
http://www.hymnsandcarolsofchristmas.com/Hymns_and_Carols/Images/
Stephan/adeste_fideles_a_study_on_its_or.htm


あまりに有名な聖歌である。歌唱は例えば
ADESTE FIDELES - THE THREE TENORS
http://www.youtube.com/watch?v=DZKFU2Aq1oI




第四十六 五日の風
一 いつかの風も。とをかの雨も。
  時に順ふ。わがきみが世や。
  にしの国より。高麗百済より。
  よりくる人も。御代いはふなり。
二 豊葦原の。みづ穂のくには。
  ちよよろづ世も。うごきなき国。
  わが君が代に。千よよろづ代も。
  動きなき御代。いはへもろ人。

加部厳夫作詞、スコットランドのRobert Allan (17741841)作曲
[遠藤:114,189] [芸大:96
Allan 作曲とするのは誤りで、彼は歌詞の改作をした。原曲は "Haud Awa Frae Me
Donald"
または "Haud Awa, Bide Awa". "Thou Art Gane Awa". James
Johnson, "The Scots Musical Museum" (1853) Vol. 4, p.318: no. 338
も関連曲で、
古くは Henry Playford, "The Dancing-Master" (1657) "Welcom[e] home old
Rowley"
として掲載されていた。
曲はおそらくイングランド起源であろうが、William Dauney, "Ancient Scot[t]ish
Melodies" (1838); Reprint: (New York: AMS Press, 1973), p. 145
などを初めとして
一般にはスコットランド曲と考えられている。William Thomson, "Orpheus
Caledonius, or, A Collection of Scots Songs" Vol. 2 (London: Printed for the Author,
1733), no. 46
にも "Had away frae me, Donald" が収録されている。
本譜は Robert Chambers, ed., "The Songs of Scotland Prior to Burns" (Edinburgh:
W. & R. Chambers, [1862]), pp. 126-29
"Haud Awa', Bide Awa'!" または George
Alexander ed., "Maver's Collection of Genuine Scottish Melodies" (Glasgow: Robert
Maver, n.d. [1866 ?]), pp. 75-76: Robert Allan
作詞 "Haud Awa Frae Me Donald"
らか[桜井2/ 私信: 2011. 07. 06]


'Had Awa Frae Me, Donald' (arranged by Haydn)Lorna Anderson による歌唱は
46HadAwaFraeMeArrByHaydn-LornaAnderson.mp3
ディトリヒ編曲「五日の風」の録音は
46HaudAwa-Dittrich.mp3





第四十七 天津日嗣
一 あまつ日つぎの。みさかえは。
  あめつちの共(むた)。きはみなし。
  わがひのもとの。みひかりは。
  月日とゝもに。かゞやかん。
二 葦原の。ちいほあき。瑞穂
  のくには。日の御子の。
  きみとますべき。ところぞと。
  神のみよゝり。さだまれり。

音源は

47Amatsuhitsugi-Dittrich.mid




第四十八 太平の曲
一 ゆはづのさわぎ。飛火(とぶひ)のけぶり。
  いつしかたえて。をさまる御世は。
  あめつちさへも。とゞろくばかり。
  万代(よろづよ)までと。君が代いはへ。
二 たひらのみやこ。百敷(ももしき)の宮。
  みあとになして。むさしの国に。
  しづまりましぬ。年は三千(みち)とせ。
  代は百二十(ももはたち)。御功績(みいさを)あふげ。

曲は Oliver Wendell Holmes (1809 - 1894)作詞、 Matthias Keller (1813 - 1875)
作曲 "Angel of Peace" [遠藤:107,140,189][芸大:96][中村:456
原曲はKeller 作詞作曲のシート・ミュージック "The American Hymn" (Henry
Tolman & Co., 1866) ('Speed our republic O Father on high!')
で,しばしば "Keller's
American Hymn"
と呼ばれる。これにHolmes が別歌詞 (1869) "Hymn of Peace"
"The Poems of Oliver Wendell Holmes" (James R. Osgood & Company, 1878) New
revised ed. pp. 289-91
]を付けたが,これは歌詞冒頭から "Angel of Peace" とも呼
ばれている。小学唱歌集はこちらより採用されたと思 われる。原曲とリズムが一部
異なっているのは日本語歌詞に合わせた改変であろう[桜井3

ブラス・バンドの演奏は以下:
Keller's American Hymn by First Brigade Band
http://www.youtube.com/watch?v=-DZ8oyOUIcA




第四十九 みてらの鐘の音
一 みてらの鐘のね。月よりおつる。
  ふみよむ燈火(ともしび)。かすかになりて。
  一二三四五六七八。
二 月影かたぶき。霜さえわたり。
  ねよとの鐘のね。枕にひゞく。
  一二三四五六七八。
三 漁火(いさりび)しめりて。霜天にみち。
  姑蘇(こそ)城外なる。鐘かもきこゆ。
  一二三四五六七八。

里見義作詞[遠藤:216,237
"Hark! The distant clock"[芸大: 96

Mason1a: p. 39 ]に掲載[桜井3


輪唱版は
49cMiteranoKanenoNe.mid





小学唱歌集 第三編 1884 3月)


第五十 やよ御民
一 やよみたみ。稲をうゑ。井の
  水たゝへ。君が代は。腹つゞみ
二 やよ御民。萱をかり。わが
  家(や)をふきて。君 が代は。雨露
  しのぎ。世をわたれ。

アメリカでは Holty 作詞 "Summer joys are o'er". [遠藤:212] [芸大:96]

原曲は Ludwig Heinrich Christoph Hölty 作詞の "Winterlied" または "Der
Winter" (
歌詞:Keine Blumen blühn;/ Nur das Wintergrün).[桜井:私信 2019.
02. 05]


「やよ御民」とほぼ同じ Gottfried Wilhelm Fink, "Musikalischer Hausschatz
der Deutschen", (Leipzig: G. Mayer, 1845), p. 160: "Der Winter"
によるメロディーは
50DerWinter.mid




第五十一 春の夜
  かすみにきゆる。かりがね
  も。かすかにひゞく。笛の
  音も。をさまる御代の。
  しらべにて。たのしき
  はるの。ゆふぐれや。
  ともし火とりて。むかし
  のひとの。あそびし
  夜半(よは)も。かゝりけん。
  世はさまざまと。おもひし
  を。むかしもいまも。
  かくさきにほふ。
  はなにはそむく。
  人ぞなき。

Meta Orred (? - 1954) 作詞 (1874) Annie Fortescue Harrison (? - 1944)作曲
(1877) "In the Gloaming". [桜井 1

1871 (明治4) 年の北海道開拓使派遣の女子留学生であった山川捨松と津田梅子が
留学生活を終え,1882(明治15)11帰国した.帰国直後の 土曜日,二人は梅子
の父,津田仙 に連れられて,派遣当時の責任者だった黒田清隆の元に帰朝挨拶に訪
れた.その時,清隆の求めに応じて,捨松と梅子は "In the gloaming" "Jesus,
lover of my soul"
を英語で歌った.恐らく日本初演であろう. [津田梅子:ランマン
夫人宛私信: 寺沢竜『明治の女子留学生』(平凡社新書,2009)pp. 129-130]


お勧めの歌唱は
Evelyn Tubb sings "In the gloaming"
http://www.youtube.com/watch?v=fNqM9wt33VY




第五十二 なみ風
一 浪かぜさかまく。あをうな
  ばらに。暗路(やみぢ)をたどれる。
  ふれ人あはれ。やみ路を
  たどれる。船人あはれ。命と
  たのむは。棹かぢなれや。棹かぢなれや。
二 虎さへうそぶく。荒山中(あらやまなか)に。
  やみぢにまよへる。たび人
  あはれ。やみぢにまよへる。
  旅人あはれ。いのちとたのむは。
  ともし火なれや。ともし火なれや。


原曲はFriedrich von Flotow (1812-1883) の歌劇『マルタ』(1847年初演)のアリア
"Solo, Profugo, Rejetto" . これを編曲した賛美歌曲'Guide Me, O Thou Great Jehovah'
からと思われる。H. Millard, "Silver Threads of Song" (New York: S.T. Gordon & Son,
Pub., 1875) p. 116
に収録の楽譜は「なみ風」と 2か所のフェルマータも同じであるの
で、これが出典であろう。なお、H.W. Fairbank, "School Songs. Intermediate No. 1"
(Chicago: S.R. Winchell & Co., 1853) p. 21
にも別の歌詞 'Parting Song' として掲載
されている [桜井私信:2011. 02. 20

カルーソによる歌唱がある:
Flotow's Martha according to Caruso 1/3
http://www.youtube.com/watch?v=cXtGK9iHNNc

Dittrich編曲版は
52Namikaze-Dittrich.mid




第五十三 あふげば尊し
一 あふげばたふとし。わが師の恩。
  教の庭にも。はやいくとせ。
  おもへばいと疾(と)し。このとし月。
  今こそわかれめ。いざゝらば。
二 互にむつみし。日ごろの恩。
  わかるゝ後にも。やよわするな。
  身をたて名をあげ。やよはげめよ。
  いまこそわかれめ。いざゝらば。
三 朝ゆふなれにし。まなびの窓。
  ほたるのともし火。つむ白雪。
  わするゝまぞなき。ゆくとし月。
  今こそわかれめ。いざゝらば。

明治十六年七月十七日回議の書類(回第二十二号)によると、歌詞は里見義・
加部厳夫・大槻文彦の合議による制作 [伊沢修二(山住正己校注)『洋楽事始』
(東洋文庫、平凡社、 1971 6月) p. 344


桜井雅人氏が永年の懸案だった「あふげば尊し」の元歌を発見された。以下私信の要約:
Henry Southwick Perkins, "The Song Echo: A Collection of Copyright Songs, Duets,
Trios, and Sacred Pieces, Suitable for Public Schools, Juvenile Classes,
Seminaries, and the Home Circle" (New York: J.L. Peters, 1871), p. 141
に収録の
"Song for the Close of School"4部合唱)です。作詞は T.H. Brosnan 、作曲は H.N.D.
です。作曲者が何者なのかわかりません。「仰げば尊し」は明らかに卒業時の別れを題
材とした元歌を踏まえて作られています。今のところこの楽譜以外には見当たりませ んし、
The Song Echo の「はしがき」に "A large proportion of the music and words are new,
and published for the first time."
と書かれていますので、これが初出かもしれません。
[桜井私信:2011. 01. 16

早速,住田朋久氏より,作詞の T.H. Brosnan について情報を戴いた.
Timothy H. Brosnan (1838.12.3-1886.8.12). 1864年のNational Teachers' Association
のニュー・ヨーク州Ogdenburgでの会合の現地委員を務め,この会合のために"Welcome,
Friends"["Song Echo": p. 219]
を作曲した.後,The United States Life Insurance
Company of New York City
の会長を勤めた.1886814日のThe New York Times
訃報がある.墓はニュー・ヨーク州カナダ国境近くの町 Ogdenburg. 参考記事は
会合: The Illinois Teacher 10 (1864) 305.
http://ia700301.us.archive.org/11/items/illinoisteacher101864illi/
illinoisteacher101864illi.pdf

訃報: http://query.nytimes.com/mem/archive-free/pdf?res=FB0A12FE3A5410738
DDDAD0994D0405B8684F0D3

墓の写真: http://freepages.genealogy.rootsweb.ancestry.com/~stlawgen/
CEMETERY/Ogdensburgh/DCP_8824.JPG

[住田朋久 私信:2011. 01. 24

Timothy H. BrosnanUnion University (1860年の第3学期)の名簿 p. 33に載っており,住所は
Waddingtonとなっている.参照:
http://books.google.co.jp/books?id=YLDOAAAAMAAJ&pg=PA33&dq="Timothy+H.+Brosnan"
[
住田朋久 私信:2012. 02. 09]


原本は(画像をクリックすると大きくなる):

H.S. Perkins, "The Song Echo" (1871)
中表紙

序文


本文141ページの楽譜


元歌のmidi
53SongForTheCloseOfSchool-rev.mid

歌唱は
Albert Shiroma - Aogeba Toutoshi 仰げば尊し
http://www.youtube.com/watch?v=9-i6w9z80H4



原曲発見を報ずる『朝日新聞』 2011 1 24日夕刊.



第五十四 雲
一 瞬間(またゝくひま)には。やまをおほひ。
  うちみるひまにも。海をわたる。
  雲てふものこそ。くすしくありけれ。
  くもよくもよ。雨とも霧とも。みるまに
  変りて。あやしく奇きは。雲よ雲よ。
二 ゆふ日にいろどる。橋をわたし。
  みそらに声せぬ。浪をおこす。
  雲てふものこそ。奇しくありけれ。
  雲よ雲よ。なきかとおもへば。おほ空
  おほひて。あやしく奇(くし)きは。雲よ雲よ。

里見義詞、 "The Training School Song Book" 中の W. Sugden 作詞、 John W.
Callcott (1766
1821) 作曲 "The clouds that sail o’er hill and dale"
[遠藤: 212,237][芸大: 96
原曲は Charles Sackville, Earl of Dorset (1636-1706) 作詞,John Wall Callcott
作曲のグリー "The New Mariners" ('To all you ladies now at hand'). 歌詞は他に
W.E. Hickson 作詞, "The Might with the Right" ('May ev'ry year but draw more
near')
などがある.[桜井3


音源は

54TheMightWithTheRight1840.mid




第五十五 寧楽の都
一 奈良のみやこの。そのむかし。
  みやびつくして。宮びとの。
  遊びましけん。龍田川原の。紅葉(もみぢば)
  たつたがはらのもみぢば。今もにほふ。
  ちしほの色に。残るかたみは。
  千代もくちせず。今かいまかと。
  君をまつらん。その紅葉(もみぢ)
二 ふるきみやこの。そのむかし。
  桜かざして。おほきみの。
  あそびましけん。滋賀の
  花園。はなさき。しがの花
  ぞの。花さき。今もにほふ。
  色香をそへて。ゑめる姿は。
  ちよもかはらす。今やいまやと。
  行幸まつらん。その花は。

原曲は Robert Lowry (1826-99) 作詞・作曲(1864) "Beautiful Land of Rest" ('Jerusalem,
for ever bright')
で, William B. Bradbury, "The Golden Censer" (New York: Biglow
& Main, 1864), p. 104; "Happy Voices. New Hymns and Tunes" (New York: American
Tract Society, 1865) pp. 136-37; J.D. Bartley, "Songs for the School, Sacred and Secular"
(New York: A.S. Barnes, 1877), p. 50
などに収録されている.ただし初出の Bradbury 版や
Lowell Mason, "The American Tune Book" (Boston: O. Ditson, 1869) p. 354
ではコーラス
部分の旋律が異なる.[桜井:私信 2011. 02. 23/ 04. 20]


原曲の音源は
55BeautifulLand.mid




第五十六 才女
一 かきながせる。筆の
  あやに。そめしむらさき。
  世々あせず。ゆかりのいろ。
  ことばのはな。たぐひも
  あらじ。そのいさを。
二 まきあげたる。小簾(をす)
  ひまに。君のこゝろも。
  しら雪や。廬山の峯。
  遺愛のかね。めにみるごとき。
  その風情。

里見義作詞、 Lady John Douglas Scott(18101900) が作曲した
"Annie Laurie" [遠藤:212] [芸大:96
初出は "Vocal Melodies of Scotland" (1838) で、 Finlay Dun John Thomson
が編曲したもの。アウフタクトが日本で削除されたとの解説が氾濫していいるが、
「才女」はもともとアウフタクトの無かった初出版に基づいている [桜井2

歌唱は例えば
Annie Lawrie : Jean Redpath
http://www.youtube.com/watch?v=hK2NcsSLO60





第五十七 母のおもひ
一 はゝのおもひは。空にみち。
  ゆくへもしらず。はてもなし。
  つきの桂を。たをりてぞ。
  家の風をば。ふかせつる。
  あふげあふげ。母のみいさを。
二 母のなさけの。撫子よ。露
  なわすれそ。めぐみをば。
  家をうつすも。そだて草。
  機(はた)をきるさへ。教へぐさ。
  したへしたへ。母のなさけを。

Samuel Lover (1797 - 1868) (1839 "My Mother Dear".
Wm. B. Bradbury, "Musical Gems for School and Home" (New York: Newman &
Ivison, 1852), pp. 162-63; William B. Bradbury, "The Alpine Glee Singer"
(New York: Newman & Ivison, [1850], 1852), pp. 125-26
などに掲載 [桜井 1


ギター伴奏版の "My Mother Dear, Beautiful Ballad" (Louisville, KY: Peters,
Webb and Co., 1852)
から 桜井雅人氏作成のmidi音源は

57MyMotherDear1852.mid




第五十八 めぐれる車
一 めぐれる車。ながるゝ水。われらは
  いこへど。やむ間なし。
二 岩根をつたふ。しづくの水。積れば
  つひに。海となる。

J.J. Schäublin "Kinderlieder für Schule und Haus"(1886)中の
G.W. Fischer作曲「復活祭前聖金曜日に」[遠藤:240] [芸大:96

Christian Heinrich Hohmann, "Praktischer Lehrgang für den Gesang-Unterricht
in Volksschulen", Bd. 2 (Nördlingen: Druck und Verlag der C.H. Beck'schen Buch-
handlung, 1858) p. 44: No. 187: Justinus Kerner
作詞 G.W. Fischer 作曲の"Der
Wanderer in der Sägmühle".[
桜井雅人:私信 2012. 02. 14]


Dittrich 編曲の音源は
58MegureruKuruma-Dittrich.mid




第五十九 墳墓
一 松ふく風は。こゝろにしみて。
  おもへばあはれ。わがなき父の。
  奥津城(おくつき)どころ。
二 浅茅が露に。むしのねかれて。
  おもへばあはれ。わがなき母の。
  おくつきどころ。
三 苔むす墳(つか)は。文字さへ消えて。
  おもへばあはれ。いづれのひとの。
  なきあとなれや。


Christian Heinrich Hohmann, "Praktischer Lehrgang für den Gesang-Unterricht
in Volksschulen", Bd. 2 (Nördlingen: Druck und Verlag der C.H. Beck'schen Buch-
handlung, 1858) p. 43: No. 184: Johann von Salis-Seewis
作詞 (1783), 民謡の
"Das Grab".[桜井雅人:私信 2012. 02. 14]


Dittrich 編曲のmidi
59Funbo-Dittrich.mid



第六十 秋の夕暮
一 花や紅葉も。およぶものかは。
  浦のとまやの。秋のゆふぐれ。
二 こゝろなき身も。あはれしれとや。
  鴫(しぎ)たつ沢の。あきの夕暮。
三 あはれさびしや。色はなけれど。
  槙たつ山の。あきの夕ぐれ。


蒲生美津子氏によれば,南ドイツ民謡を元にBeethovenが創った変奏曲で,音楽講座
第一編:兼常清佐『音楽概論』(文藝春秋社, 19316月)pp. 59-60 に記載されて
いる. この『音楽概論』は蒲生美津子・土田英三郎・川上 央 編集 『兼常清佐 著作
集』(大空社,2008-9)第6巻に復刻がある.[長谷川由美子:私信 2011. 02. 19
原曲は"Sechs leichte Variationen über ein Schweizer Lied für Klavier" (WoO 64)
の第 3 変奏[長谷川由美子:私信 2011. 01. 24
元歌 はスイス歌謡の "Es hat e Buur es Töchterli" [桜井3


以下に元歌の楽譜と,掲載されているmidiがある:
Notenblatt Es hat e Buur es Töchterli - Das Alojado Lieder - Archiv
http://www.lieder-archiv.de/lieder/show_song.php?ix=300303

のスピーカー・マークをクリックすると以下の音源が聞ける:
60Es_hat_e_Buur.mid




第六十一 古戦場
  屍は朽て。骨となり。刃(やいば)はをれて。
  しもむすぶ。今はた靡く。旗薄(はたすゝき)
  皷のおとか。まつ風か。
二 人影みえず。風さむし。蓬はかれて。
  霜しろし。命を捨し。真荒雄(ますらを)が。
  その名は千代も。朽せじな。


Christian Heinrich Hohmann, "Praktischer Lehrgang für den Gesang-Unterricht
in Volksschulen", Bd. 2 (Nördlingen: Druck und Verlag der C.H. Beck'schen Buch-
handlung, 1858) p. 41: No. 176: Johann Samuel Patzke
作詞 Ch. H. Hohmann
曲の"Der junge Pilger".[桜井雅人:私信 2012. 02. 14]


音源は
61Kosenjo-Dittrich.mid




第六十二 秋艸(あきくさ)
一 さきのこりたる。あさがほや。
  命とたのむ。つゆも浅ぢの。
  あさがほや。
二 あや錦おる。はぎがはな。
  たまもいろなる。霜ぞこぼるゝ。
  萩がはな。
三 たれまねくらん。はなすゝき。
  風もふかぬに。露ぞみだるゝ。
  はなすゝき。


Christian Heinrich Hohmann, "Praktischer Lehrgang für den Gesang-Unterricht
in Volksschulen", Bd. 2 (Nördlingen: Druck und Verlag der C.H. Beck'schen Buch-
handlung, 1858) p. 42: No. 181: Hoffmann von Fallersleben
作詞, Ch. H. Hohmann
作曲の"Der Blümlein Antwort".[桜井雅人:私信 2012. 02. 14]


音源は
62Akikusa-Dittrich.mid




第六十三 富士筑波
一 駿河なる。ふじの高嶺を。
  あふぎても。動かぬ御代は。
  しられけり。
二 つくばねの。このもかの面(も)も。
  てらすなる。みよのひかりぞ。
  ありがたき。

原曲は俗曲「黒髪」[遠藤:215] [芸大:96


音源は
63Fuji-Tsukuba.mid




第六十四 園生(そのふ)の梅
一 そのふの梅の。追風に。わがすむ山も。
  春めきぬ。門田の雪も。むら消て。
  若菜つむべく。野はなりぬ。
二 弥生のそらに。野辺みれば。菫の
  花さく。山みれば。雪かあらぬか。そこ
  かしこ。桜の花も。さきそめぬ。

原曲は筝組唄[遠藤:215] [芸大:96


音源は
64SonounoUme.mid




第六十五 橘
一 ちゝの実の。父やもうゑし。
  なつかしき。かにこそにほへ。
  よにふるさとの。花の橘。
二 はゝそばの。母やもうゑし。
  したはしき。かをりぞすなる。
  しのぶの里の。花の橘。

『保育唱歌』第六十四番『花橘』より。山井基万曲。


音源は
65Tachibana-Dittrich.mid




第六十六 四季の月
一 さきにほふ。やまのさくらの。
  花のうへに。霞みていでし。
  はるのよの月。
二 雨すぎし。庭の草葉の。
  つゆのうへに。しばしはやどる。
  夏の夜の月。
三 みるひとの。こゝろこゝろに。
  まかせおきて。高嶺にすめる。
  あきのよの月。
四 水鳥の。声も身にしむ。
  いけの面(おも)に。さながらこほる。
  冬のよの月。

『保育唱歌』第七十番『山時鳥』より。東儀季芳曲。


メロディーは
66ShikinoTsuki.mid




第六十七 白蓮白菊
一 泥のうちより。ぬけいでゝ。濁りにしまぬ。
  はな蓮(はちす)。月のひかりか。ひるすごく。
  霜とさゆれば。夏さむし。乱るゝ露は。
  たまとみえ。かをれる風は。身にぞしむ。
  氷のすがた。雪のいろ。つゆなけがしそ。
  世のちりに。
二 草木もかれし園の中(うち)。雪にも色は。
  まさりぐさ。いたゞく霜は。身をよそひ
  さえゆく月は。香ににほふ。霜はくすりと。
  きくの水。梅はみさをの。おのがとも。
  暗の夜はさへ。てらすなり。東籬の
  もとに。書やみん。書やみん。

原曲は雅楽唱歌[遠藤:215] [芸大:97


メロディーは
67ByakurenShiragiku.mid




第六十八 学び
一 まなびはわが身の。光りとなり。
  富貴も。栄花も。こゝろのまゝ。
二 驕りはわが身の。仇とぞなる。
  努々(ゆめゆめ)ゆるすな。こゝろの駒。
三 学びはわが身の。ひかりなり。
  驕りはわが身の。仇とぞなる。


輪唱版は
68cManabi.mid




第六十九 小枝
一 さえだにやどれる。小鳥さへ。
  礼はしる。道をもならひし。
  その人を。わするなよ。
二 吾家にかひぬる。犬さへも。
  恩はしる。君にもつかふる。
  大丈夫(ますらを)よ。身をつくせ。

原曲は John Hullah, "The Grammar School Chorus" (Oliver Ditson & Co., 1866)
p. 59
にある Hullah 自身作曲の輪唱 "I will magnify Thee, O God" [安田寛,
『山口芸術短期大学紀要』第24 (1992) pp. 9-22:「洋楽移入期における唱歌
と賛美歌との関係」]


輪唱版は
69cSaeda.mid




第七十 船子
一 やよふな子。こげ船を。
  こげよこげよ。こげよこげよ。
  やよふな子。
二 しほみちて。風なぎぬ。
  こげよこげよ。こげよこげよ。
  やよふな子。

里見義作詞、原曲は E.O. Lyte 作曲 "Row your boat, Gently down the stream;
Merrily life is but a dream" (1881)
[遠藤:237 "Row, row, row your boat"
[芸大:97] [McCaskey ed., "Franklin Square Song Collection", (1881) p. 69
Nursery Rhyme の輪唱。

音源は例えば
Nursery Rhymes - Row, Row, Row Your Boat
http://www.youtube.com/watch?v=bYLKEePMvIU

輪唱のmidi
70RowYourBoat.mid




第七十一 鷹狩
一 しらふの鷹を。手にすゑもち。
  馬にまたがり。いさめる君。
  すはや狩場に。ゆけゆけゆけ。
二 雪は狩場に。ふれふれふれ。
  犬はかり場を。かれかれかれ。
  鳥ぞむれたつ。それそれそれ。


原曲は Henry Southwick Perkins, "The Song Echo: A Collection of Copyright Songs,
Duets, Trios, and Sacred Pieces, Suitable for Public Schools, Juvenile Classes,
Seminaries, and the Home Circle (J.L. Peters, 1871) p. 37: "The Hunters". [桜井
私信: 2011. 01. 16


輪唱版は
71cTakagari.mid




第七十二 小船(をぶね)
一 流るゝ水の。うへにもさく花。
  こゝろせよや。をぶね。
  底にもはなのかげ。
二 渕瀬もみえず。そらより散花(ちるはな)
  こゝろせよや。をぶね。
  袖にも花の浪。


Hermann Gottschewski 氏によれば、子どもの頃にドイツで "Sonne im Mai lockt
alle Vögel herbei"
として歌ったことがある。H.P. Gericke, H. Moser and A. Quellmaiz
ed., "Bruder Singer" (Bärenreiter-Verlag, 1974) p. 12
などに収録されているイギリスの
輪唱曲で、Kurt Sydow が作詞。イギリス曲の原題は不明 [桜井雅人:私信 2011. 04. 02]


輪唱版は
72cObune.mid




第七十三 誠は人の道
一 まことは人の。道ぞかし。つゆな
  そむきそ。其みちに。
二 こゝろは神の。たまものぞ。露な
  けがしそ。そのたまを。

里見義作詞、歌詞はドイツでは Ludwig Christoph Heinrich Holty作詞 "Der alte
Landmann an seinen Sohn" ('Üb' immer Treu und Redlichkeit')
など。 アメリカ
ではMrs. Shindler 作詞 "Truth and Honesty" [遠藤:140,237] [芸大:97]
「誠は人の道」の歌詞・編曲は "Truth and Honesty" を参照したと思われる.[桜井3]
原曲は Mozart 作曲オペラ『魔笛』 (1791) 中のパパゲーノのアリア「恋人か女房
か」 ('Ein Mädchen oder Weibchen')

オペラ『魔笛』のパリ公演(勿論ドイツ語で)から:
Detlef Roth performs "Ein Mädchen oder Weibchen"
http://www.youtube.com/watch?v=ExnOKlnlodY



Wolfgang Amadeus Mozart (1756 - 1791)
(1789
J. Lange )



第七十四 千里(ちさと)のみち
一 千里の道も。足もとよりぞ。始まれる。
  葉末の露も。積れば渕と。なるぞかし。
二 雲ゐる山も。塵ひぢよりぞ。なれりける。
  書(ふみ)よむ道も。ことわりのみは。ひとつなり。

里見義作詞 [遠藤:238] [芸大:96
原曲は "Sowing Flowers" [Mason1: p. 34; Mason2: p. 66]
更に古くはCharles Butler, "The Silver Bell, A New Singing Book for Schools,
Academies, Select Classes and the Social Circle" (New York: S.T. Gordon, 1869),
p. 24: "To the earth the seed I gave".
[桜井 3



音源は
74ChisatonoMichi-Dittrich.mid


第七十五 春の野
一 いつしか雪も。きえにけり。
  梅さく野辺に。いざゆかん。
二 みどりに草も。もえぬれば。
  わかなつむ子も。うちむれて。
三 柳のいとも。なびくなり。
  こゝろをのべに。あそばまし。

アメリカでは "Arrival of Spring".[遠藤: 240][芸大:97].
曲譜は [Mason1: p.40][Mason2: p. 95][桜井3]


原曲は,Hoffmann von Fallersleben, "37 Lieder für das junge Deutschland"
(Leipzig: W Engelmann, 1848), p. 1: "Der Frühring ist da!" [Der Frühling hat sich
eingestellt].

原曲を[遠藤:240][芸大:97] J.J. Schäublin "Kinderlieder für Schule und
Haus" (1886)
中の H. von Fallersleben 作詞,J.Fr. Reichardt 作曲 "Frühlingseinzug"
としているが,C.H. Hohmann, "Praktischer Lehrgang für den Gesang-Unterricht
in Volksschulen", Vol. 2 (C. H. Beck, 1852), p. 49: "Frühlings Ankunft" [
同歌詞]
よると作曲者は Johann Peter Abraham Schulz (1747-1800)である.同じ歌詞に対
するReichardt 作曲のメロディー (cf. http://ingeb.org/Lieder/derfruhl.html) は異な
. [桜井:私信 2011.11.04]


音源は
75HarunoNo-Dittrich.mid




第七十六 瑞穂
一 蒼生(あをひとぐさ)の。いのちの種と。
  かしこき神の。たまへるたねぞ。
二 採る手もたゆき。山田の早苗。
  ゆたけき秋の。たのみもしるし。
三 わづかにのこる。門田のいねを。
  苅るまで残れ。夕日のかげも。
四 ことしの稲の。初穂をとりて。
  新嘗(にひなへ)つかへ。神をぞまつる。

J.J. Schäublin "Kinderlieder für Schule und Haus"(1886) 中のドイツ民謡
「夕べの歌」 "The evening twilight" [遠藤:240] [芸大:97

Mason1: p. 30]にあり[桜井3


音源は
76Mizuho-Dittrich.mid


第七十七 楽しわれ
一 たのしわれ。まなびもをへ。
  日もくれぬ。あすもまた。
  朝とくより。学ばまし。かくて
  年月。たえせざらば。月の桂
  をも。われぞをるべき。
二 うれしわれ。ふみよみはて。
  ひもくれぬ。あすもまた。
  朝とくより。勉めまし。かくて
  とし月。撓まざらば。龍の腮(あぎと)
  なる。玉もとるべし。

里見義作詞[遠藤:238] 原曲 "Evening song" [芸大:97

Lowell Mason and G.J. Webb eds., "The Juvenile Singing School" (Boston: J.H.

Wilkins, & R.B. Carter, 1837) pp. 126-27 や[Mason2: pp. 50-51]にあり。後者

よりの採用であろう。作曲者は不明[桜井3


桜井雅人氏によって上記 Mason and Webb から作成されたmidi音源は

77EveningSong1837.mid




第七十八 菊
一 庭の千草も。むしのねも。
  かれてさびしく。なりにけり。
  あゝしらぎく。嗚呼白菊。
  ひとりおくれて。さきにけり。
二 露にたわむや。菊の花。
  しもにおごるや。きくの花。
  あゝあはれあはれ。あゝ白菊。
  人のみさをも。かくてこそ。

里見義作詞。現在は『庭の千草』として知られる.
原曲は J.P. McCaskey, "Franklin Square Song Collection" Vol. 1 (New York:
Harper & Brothers, 1881) p. 148: "The Last Rose of Summer".[
伊沢: 自筆草稿] [芸大:97]
原曲は中世末期のトロヴァドゥール音楽で Tibaut IV (1201 - 1253) 作曲の "In Excelsis
gloria"
であろう.[遠藤:212]
Friedrich von Flotow のオペラ『マルタ』("Martha, oder Der Markt zu Richmond")
主題動機となっている.[金田一・安西:53]

原詩はアイルランドの Thomas Moore (1779 1852) 1805年に作り,Sir John
Stevenson (1761 - 1833)
が編曲して "Irish Melodies" (1807−1834) の第五集 (1813)
に発表した.
Beethoven Byron の詩を用いて「二十のアイルランド 歌曲集」 "20 Irishe
Lieder mit Begleitung von Pianoforte, Violine und Violincello", WoO. 153 (1810

1813) の第六曲 William Smyth (1765-1849)作詞 ("Sad and luckless was the season")
に編曲.

メロディーは, "The Groves of Blarney" の改作. これは Alfred Milliken による
1796 年の作(あるいは,既存の曲の改作)とも言われている.[桜井 2]

ベートーヴェンは『20 のアイルランド歌曲集』(WoO 153) において, William Smyth
の歌詞で No. 6: "Sad and luckless was the season"を, Lord Byron の歌詞で No. 9:
"The kiss, dear, maid, thy lip has left"
を編曲した.後者の旋律は,ピアノとフルート
とヴァイオリンのための変奏曲 (op. 105, no. 4: Air ecossais) の主題でもある).[桜井: 私信
2012.10.20]


民謡風の 'The Groves of Blarney' は:
http://www.youtube.com/watch?v=zzaC37LfOZs

John Stevenson 編曲版を歌う John Elwes (ピアノ伴奏:Yoshio Watanabe) は:
'Tis Last Rose of Summer - John Elwes.mp3
オペラ『マルタ』第2幕で,アン女王に仕えるレイディー・ハリエット・ダラムがマルタ
と名乗り,農夫プランケットに女中として雇われる.プランケットの義兄弟ライオネル
の求めで歌う場面は,配役
レイディー・ハリエット・ダラム (またはマルタ):Anneliese Rothenberger,
ライオネル:Nikolai Gedda
Martha, "Letzte Rose - Sie lacht zu meinen Leiden" Rothenberger, Gedda
http://www.youtube.com/watch?v=R4SN7lPoAKg

アイルランドのスレイン城でのライヴは
Celtic Woman: The Last Rose Of Summer
http://www.youtube.com/watch?v=h-P15xujxoI

日本語版は
庭の千草_鮫島有美子
http://www.youtube.com/watch?v=eMNFw5-N3ng




John Stevenson (1761 - 1833).




第七十九 忠臣
一 嗚呼香ぐはし。楠(くす)の二本(ふたもと)。あゝ絶せじ。
  みなと川。浪の音も。身にぞしむ
  なる。其あはれ。その功績(いさを)。忠臣
  嗚呼忠臣。兄弟の人。忠臣あゝ
  忠臣。たぐひなや。
二 嗚呼かぐはし。花の二もと。あゝうるはし
  芳野やま。ちりはてゝ世にこそ残れ。
  そのうたと。そのまこと。忠臣
  あゝ忠臣。兄弟のひと。忠臣嗚呼
  忠臣。たぐひなや。

原曲はスペインの "Juanita" [遠藤:214
James Fuld, “Book of World Famous Music” p. 325 によると、 Caroline
Elizabeth Sarah Norton (1808 – 1877)
がヘンデルの「涙の流れるままに」
"Lascia ch'io pianga" (1711) を下敷きにして作った歌で、自身の "Songs of
Affection" (1853)
に収めたという [桜井 1

歌唱は
Jo Stafford & Gordon MacRae - Juanita
79Juanita.mp3




第八十 千草の花
一 千草の花は。露をそめ。野中の
  かげ。はかなきものか。よの中は。
二 錦をよそふ。萩の花。もみぢを
  さそふ。夜はの霜。夢野のあとゝ。
  消ゆかば。木枯ばかり。あれぬべし。
三 はかなきものを。誰めでん。きえゆく
  ものを。たれとはん。跡あるものは。筆
  の花。かをりをのこせ。後のよに。

原曲は "Autumn Song"[芸大:97

L.W. Mason, "Third Music Reader" (1871) p. 22 L.W. Mason, "National Music

Charts", 3rd series, (1872) p. 20 に収録されている。作詞・作曲者は不明 [桜井3


音源は
80ChigusanoHana-Dittrich.mid




第八十一 きのふけふ
一 きのふけふと。思ひしを。春は過て。
  夏来ぬ。雁はかへり。燕きぬ。君は
  ゆきて。かへらず。かへれかへれ。かへれとく。
  あはれあはれ。わが友。花は散りて。あと
  もなく。空しき枝に。風ふく。
二 松は常磐。竹は千代。人の世のみ。
  つねなし。雪にほゆる。薬さへ。人の
  世には。かひなし。かへれかへれ。かへれとく。
  あはれあはれ。わが友。君をおきて。友
  もなし。たちつゝゐつゝ。わがまつ。

原曲は James Johnson"The Scots Musical Museum" Vol. 1 (Edinburgh:
Printed & sold by Johnson & Co., 1787): No. 57 "Here Awa', There Awa'".
歌詞・
曲ともに先行する記録がいくつかある。後の Robert Burns の改作した歌詞
(1793): "Wandering Willie" ('Here awa, there awa, wandering Willie, Here awa,
there awa, haud awa hame!')
が知られている。 「きのふけふ」は John Hullah, ed.,
"The Song Book" (London: MacMillan, 1866) p. 155: "Here Awa, There Awa"
また
Robert Chambers, "The Songs of Scotland Prior to Burns, With the Tunes"
(Edinburgh: W. & R. Chambers, 1862), p. 413: "Wandering Willie"
からの採用と思
われる [桜井 2


Mae McKennaによる歌唱は
81WanderingWillie-MaeMcKenna.wma
Dittrich
編曲「きのふけふ」のmp3
81KinoKyo-Dittrich.mp3




第八十二 頭の雪
一 草木にのみと。おもひしを。春秋
  とほく。へだゝれば。隔てぬ君が。
  頭にも。ふりけるものか。雪と霜と。
二 面(おもは) のなみを。みあげて も。久しき
  としは。しられけり頭の雪の。光り
  にも。みえけるものを。高き齢(よはひ)

原曲は James Johnson, "The Scots Musical Museum" Vol. 3 (Edinburgh: Printed
and sold by Johnson & Co., 1790), p. 269: no. 260 Robert Burns
改作 "John
Anderson My Jo".
原詩は老境に入った夫婦の愛情を歌ったもので、「頭の雪」も
白髪を題材にしているという共通点がある。
「頭の雪」の旋律は終わりから2小節目に多くの版とは違った特徴があり、主旋律は
Madame Sainton, "A Complete Course of Practical Instruction in the Art of
Singing" (London: Boosey & Co., n.d.[1850's?]), pp. 168-70
とほぼ同じ.バーンズ
版の元歌は"The Merry Muses of Caledonia" (1779; Reprint. University of South
Carolina Press for the Thomas Cooper Library, 1999), pp. 53-55
所収の春歌であ
ろう.[桜井 2]


Helen McArthur による 'John Anderson, My Jo' の歌唱は:
82JohnAndersonMyJo-HelenMcArthur.mp3
Dittrich
編曲の「頭の雪」は:
82KashiranoYuki-Dittrich.mp3





第八十三 さけ花よ
一 さけ花よ。さくらの花よ。
  のどけき春の。さかりの時に。
  さけ花よ。桜のはなよ。
二 ふけかぜよ。春風ふけよ。
  さきたる花を。ちらさぬほどに。
  ふけ風よ。はるかぜふけよ。
三 なけ蛙(かはづ)。やよなけかはづ。
  すみゆく水の。にごらぬ御代に。
  なけかはづ。やよ鳴け蛙。
四 なけ鳥よ。うぐひすなけよ。
  さきたる花の。さかりの春に。
  なけとりよ。鶯なけよ。
五 やよ人よ。ひとひとうたへ。
  鶯かはづ。うたをぱうたふ。
  やよ人よ。ひとひとうたへ。

J.J. Schäublin "Kinderlieder für Schule und Haus"(1886) 中のドイツ民謡
「おゝ小花、匂ひ咲ける」[遠藤:240], ドイツ民謡[芸大:97
原曲はErnst Moritz Arndt (1769-1860) 作詞(1813), Friedrich Silcher
(1789 - 1860)
作曲(1830)"Juchhei, Blümelein" または "Frühling".
アメリカでは “Delights of Spring” [桜井 1


以下に音源がある:
Juchhei Blümelein! dufte und blühe!
http://marliss.ch/01bildlied/04_juch/04juch/juch04.htm

掲載のmidi
83JuchheiBlumelein.mid



Friedrich Silcher (1789 - 1860)



第八十四 高嶺
一 たかねをこえて。
  日はいでにけり。
  わがなすわざを。
  たすけむため
  に。日はいでに
  けり。
二 つき日のかげは。
  わが身のまもり。
  空しくなすな。
  しばしのひまも。
  つとめよはげめ。

Luther Whiting Mason "The National Hymn and Tune Book for Mixed Voices"
(1880) No. 8: Henri Abraham César Malan (1787 - 1864)
作曲の旋律名 "HENDON"
[遠藤: 239
Lowell Mason, "Carmina Sacra, or Boston Collection of Church Music" (1841)
p. 193
に編曲版(歌詞:To thy pastures, fair and large")を掲載し、それ以後多く
の賛美歌集に採用された。日本では 『讃美歌』 58 番「かみよ、みまえに」、 544
「あまつみたみも」;『讃美歌 2129番 「天のみ民も」など、さまざまな歌詞と
組み合わされた[桜井 2]

原曲は César Malan, "Soixante chants et chansons pieuses" (Genève, 1837), pp.
12-13: "Le Dimanche matin" ('Qu'aujourd'hui toute la terre );
"Recueil de cantiques pour les écoles du dimanche" (Genève: Émile Beroud Libraire-
Éditeur, 1864), pp. 86-87: "Qu'aujourd'hui toute la terre". [
桜井:私信 2012. 03. 10]


音源は例えば
Angels, Roll the Rock Away
http://nethymnal.org/htm/a/n/angelsro.htm

掲載のmidi
84HENDON.mid



Henri Abraham César Malan (1787 - 1864)



第八十五 四の時
  よつのとき。ながめぞ
  つきぬ。春ははな。
  おりなす錦。あきは
  月。ますみのかゞみ。
  なつごろも。かとりも
  すゞし。冬のあさけ
  雪もよし。ひとの
  世は。たのしきものか。
  神の恩。国のおん。
  君の恩。わするな人

Luther Mason "The School Hymn and Tune Book" 中のセオドール・パーカー
作詞 "Evening" [遠藤:239
原曲はLady Selina, Countess of Huntingdon 作詞(1707)、Thomas Van Dyke
Wiesenthal (1790-1833)
作曲の "Fading, Still Fading". シート・ミュージックでは
"Fading still fading, The last beam is shining"(1826) が最も古い。この曲は編曲
によって旋律にも相違があるが、「四の時」の編曲(3部合唱)は John Boyden,
"The Eastern Harp. A Collection of Tunes and Hymns" (Boston: 1848) pp. 150-51

所収の "The Last Beam" (ただし、変ホ長調)とほぼ同じである[桜井 1, 3


音源としては,米国カリフォルニア大学サン・ディエゴ校の
Cylinder Preservation and Digitization Project --- Fading, still fading (recorded:
1918)
に掲載された,シリンダー録音がある:
85Fading1918.mp3




第八十六 花月
一 花を見る時は。こゝろいとたのし。
  心たのしきは。花のめぐみなり。
二 月をみる時は。心しづかなり。
  こゝろ静けきは。月の恵なり。
三 よきをみて移り。悪をみてさけよ。
  朱(あけ)に交はれば。あかくなるといふ。

原曲アメリカの讃美歌[芸大:97
Margaret Mackay (1802 – 1887) 作詞 (1832) William B. Bradbury (1816 -
1868)
作曲 (1843) 旋律名 REST. 歌詞は "Asleep in Jesus! Blessed sleep".
現在の 米国でこの曲はあまり歌われていないが、19世紀には多くの賛美歌
集に載っている [桜井 1


歌唱は例えば
Asleep in Jesus - Jeremy Rule & Peter Rule (2010)
http://www.youtube.com/watch?v=Kx88oLzXyxM


録音は例えば
Asleep in Jesus
http://www.cyberhymnal.org/htm/a/s/asleepin.htm

に置いてあるmidi
86REST-Bradbury.mid




第八十七 治る御代
一 治る御代の。春の空。たゞよふ雲も。
  はれにけり。晴るゝみそらの。その
  雲は。めぐみの風に。はるゝなり。
二 治るみよの。春の風。千里(ちさと)の外に。
  みてるなり。みてるめぐみの。風に
  こそ。青人草(あをひとぐさ)は。さかゆらめ。

原曲は Lambillotte 作曲 "As the dewy shades of even".[ 芸大:97]
楽譜は Luther Whiting Mason, "National Music Charts", 3rd series (1872) p. 30
および "Third Music Reader", p. 48. 作曲は前者には "R.P. Lambillotte" と書か
れているが,"R.P." とは "Reverend Père" の意の肩書.グレゴリオ聖歌の研究史
に名を残した Louis Lambillotte (1796 - 1855).
賛美歌の旋律名としては, Theodore Seward and Chester G. Allen, eds., "The
Coronation; A New Collection of Music for Choirs and Singing Schools" (New York
& Chicago: Biglow & Main, 1872), p. 213: "Zion, dreary and in anguish" (
旋律名
"LAMBILLOTTE"); "The Lesser Hymnal" (New York: Nelson & Phillips, 1875),
p. 246: Lambillotte
作曲 "As the dewy shades of even" (旋律名 "PROTECTION")
などがある。
「治る御代」はW.S. Tilden, ed., "Choice Trios for the Female Voices" (Boston:
Oliver Ditson, 1873), p. 31: Lambillotte
作曲 "Softly Falling, Twilight Shadows"
(3
部合唱)とほぼ同じである[桜井 1/ 私信: 2011. 07. 09/2012. 03. 09]

原曲は Louis Lambillotte, "Chants a Marie", seconde partie (Paris: Poussielgue-
Rusand, Libraire, 1847), pp. 4-5: "Le Printemps".[
桜井:私信 2012. 03. 09]


原曲の歌詞とmidi
The Ames Hymn Collection from "Sunday School Hymn Book" (S.N.D., 1907)
http://users.stargate.net/~bmames/ht0451_.htm




第八十八 祝へ吾君を
一 祝へ吾君を。恵の重波(しきなみ)。やしまに
  あふれ。普ねき春風。草木もなびく。
  いはへいはへ。国の為。わが君を。
二 祝へ吾国を。瑞穂のおしねは。野もせ
  にみちて。しろかね黄金。花咲(はなさき)栄ゆ。
  いはへいはへ。君の為。わが国を。

原曲 "Song of the Fatherland" [芸大:97

原曲 "Song of the Fatherland" ['Fatherland, rest in God's own hand!'] John

Hullah, "The Grammar School Chorus" (Boston: Oliver Ditson & Co., 1866)

p. 180; L.W. Mason, "Third Music Reader"([1871], 1872) pp. 32-33; L.W. Mason,

"National Music Charts", 3rd series (1872) p. 26 などに掲載[桜井3


桜井雅人氏作成のDittrich 編曲版のmidi

88IwaeWagakimiwo-Dittrich.mid



第八十九 花鳥
一 山ぎはしらみて。雀はなきぬ。はや疾く
  おきいで。書(ふみ)よめわが子。書よめ吾子。
  ふみよむひまには。花鳥めでよ。
二 書よむひまには。花鳥めでよ。鳥なき
  花咲。たのしみつきず。楽みつきず。
  天地(あめつち)ひらけし。始もかくぞ。

里見義作詞、 J.J. Schäublin "Kinderlieder für Schule und Haus" (1886)
中の H. Werner 作曲「乙女と小バラ」"The wild rose" [遠藤:238][芸大:97
原詩は Göthe "Heidenröslein" [中村:614
種本は Luther Whiting Mason, "National Music Charts", 3rd series, (1872) p. 28:
"The Wild Rose"
[桜井3
現在の邦題は『野ばら』が普通。


歌唱は
Vienna Boys Choir - Heidenröslein
http://www.youtube.com/watch?v=TAy3g_YegqE


日本語版は
野ばら - 島田祐子
http://www.youtube.com/watch?v=CORcbhHXc1Q




Heinrich Werner (1800 - 1833)



第九十 心は玉
一 こゝろは玉なり。曇りもあらじ。
  よる昼勉めて。みがきに磨け。
二 蛍をあつめて。まなびし人も。
  ひかりは其まゝ。身にこそそはれ。
三 月影したひて。学びし人は。
  ひかりをうけえて。世をこそ照らせ。

Charles Aiken, Alfred Squire, J.P. Powell and Victor Williams, "The Young Singer's

Manual" (Cincinnati: Wilson, Hinkle & Co., 1866) p. 100 によると Friedrich Silcher

作曲 'Ever Flowing, Mighty Ocean'.[安田寛,『山口芸術短期大学紀要』 24 (1992)

pp. 9-22:「洋楽移入期における唱歌と賛美歌との関係」]

C.H. Bateman ed., "The Bible Class Magazine" vol. VI (London: Sunday School

Union, 1853) p. 164 に掲載されていて,From Soper's melodiesとある. [Mason3: p. 27]

からの採用[桜井:私信 2010. 5. 31/ 6. 1


Dittrich 編曲の音源は

90KokorowaTama-Dittrich.mid




第九十一 招魂祭
一 こゝに奠(まつ)る。君が霊(みたま)。蘭はくだけて。
  香(か)に匂ひ。骨は朽ちて。名をぞ残す。
  机代物。うけよ君。
二 此所にまつる。戦死の人。骨を砕くも。
  君が為。国のまもり。世々の鑑。
  光りたえせじ。そのひかり。


桜井雅人氏作成の Dittrich 編曲の midi

91Shokonsai-Dittrich.mid







参考



[芸大]:東京芸術大学百年史編集委員会編『東京芸術大学百年史 東京音楽学校篇 第一巻』
  (音楽之友社、 1987 10月)

[芸大 2]:東京芸術大学百年史編集委員会編『東京芸術大学百年史 演奏会篇 第一巻』
        (芸術研究振興財団、 1990 11月)

[遠藤]:遠藤宏『明治音楽史考』(有朋堂、 1948 4月)

[中村]:中村洪介『近代日本洋楽史序説』(東京書籍、 2003 3月) pp. 442465.

[金田一・安西]:金田一春彦、安西愛子『日本の唱歌 上』(講談社文庫、 1988 9月)

[桜井 1]: 桜井雅人『言語文化』(一橋大学) 41 (2004) pp. 3 –17; 42 (2005) pp. 3 – 13.
 「唱歌集中の外国曲 ―『小学唱歌集』を中心として (1), (2)

[桜井 2]:桜井雅人 『Caledonia No. 33 (2005) pp. 1 – 8.
       「『小学唱歌集』中のスコットランド曲」

[桜井 3]:桜井雅人 私信( 20099月−11月)

Mason1a]: Luther Whiting Mason, "National Music Charts (First Series)" (Boston: Ginn
          Brothers, 1872)

Mason1]: Luther Whiting Mason, "National Music Charts (Second Series)" (Boston: Ginn
          Brothers, 1872)

Mason2]: Luther Whiting Mason, "Second Music Reader" (Boston: Ginn Brothers, [1870], 1872)

Mason3]: Luther Whiting Mason, "Third Music Reader" (Boston: Ginn Brothers, [1871], 1872)

Dittrich]:東京芸術大学図書館蔵貴重資料データベース『音楽取調掛時代各種資料編』
        巻10 その他 1880-1888: pp. 67-101. Dittrich和声「文部省小学唱歌」



2009. 12: 注記を改訂増補し,新たに画像・音源を付けた.多数のコメントと資料・音源
     をお送りいただいた桜井雅人氏に深く感謝する.


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