正倉院の楽器



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正倉院は世界に誇る古代楽器の宝庫である.宝物は聖武天皇が崩御した後,765年(天平勝宝8年6月)に光明皇后が天皇遺愛の品を納めたことに端を発する.これらの品は藤原仲麻呂・藤原永手・巨万福信・賀茂角之・葛木戸主が連署した『国家珍宝帳』(765年,天平勝宝8年6月)に記録されている.ここでは正倉院の楽器を紹介 する.




図1a.中央下方に正倉院.
後方の大きな建物は東大寺大仏殿.




図1b.正倉院正倉
間口33 m,奥行き 9.4 m,床下 2.7 m,高さ 14 m という巨大な高床式木造倉庫であ る.左右の部分はそれぞれ南倉と北倉,内部も含めて校倉造り,中央部分は板倉造り 中倉となっている.正確な創建年は不明だが,8 世紀中ごろと考えられる.



弦楽器は現存する世界唯一の五弦琵琶を初めとし,四弦琵琶,四弦阮咸(げんかん),七弦琴(きん),十二弦新羅琴,六弦和琴(わごん),大破した竪型ハープの箜篌(くご)があり,この他に箏に似た二十四弦瑟(しつ)の残欠がある.弦は全て絹糸であった.
五弦の琵琶はインドに起こり,中央アジア天山南路(西域北道)のほぼ中央で栄えたキジル(亀茲)国,現在のクチャ(庫車)を経由し,北魏に入り,唐代に完成したが,その後廃絶した.弦門が屈曲せず,頸がまっすぐである.インドでは爪弾きされたというが,日本では撥を用いる.首体部は紫檀,腹板は沢栗製.長さ 108.1 cm.


図2a.螺鈿紫檀五弦
琵琶(表)

図2b.螺鈿紫檀五弦
琵琶(裏)

図2c.螺鈿紫檀五弦
琵琶表捍撥




図2d.螺鈿紫檀五弦琵琶復元模造品



図2e.螺鈿紫檀五弦琵琶表(部分)
当時の日本で知られていなかった
ラクダが描かれている.胡人が弾く
のは首の曲がった四弦琵琶.

図2f.螺鈿紫檀五弦琵琶
の切手






図2g.雲崗第12窟前室北壁の伎楽飛天
(5世紀)
吉永邦治『飛天の道』 (小学館, 2000) より
五弦の琵琶を奏でる伎楽飛天がいる.


図2h.敦煌莫高窟
第220号窟壁画
(初唐7世紀)
別冊『太陽』日本のこころ143「正倉院の世界」より
五弦琵琶を奏でる伎楽飛天.この琵琶は首が折れている.

図2i.クチャ郊外のキジル石窟
第8号窟壁画
(7世紀)
別冊『太陽』日本のこころ143「正倉院の世界」より
赤色の五弦琵琶を奏でる伎楽飛天.



四弦琵琶はペルシャに起源がある.正倉院に5面伝わる.加えてバンジョー様の阮咸が2面残る.


図3a.楓蘇芳染螺鈿
琵琶 (表)


図3b.楓蘇芳染螺鈿
琵琶 (裏)


図3c.楓蘇芳染螺鈿琵琶表
捍撥(騎象奏楽図)




図3d.楓蘇芳染螺鈿琵琶


図3e.楓蘇芳染螺鈿琵琶表捍撥(部分)
象に乗り,腰鼓,横笛,尺八を合奏している.




図4a.木画紫檀琵琶(表)
長さ 98.7 cm.

図4b.木画紫檀琵琶(裏)


図4c.木画紫檀琵琶表
捍撥(狩猟宴楽図)



図4d.木画紫檀琵琶表捍撥(部分)
獲物で宴会.琵琶を弾じ楽しむ.
手前に人物は胡弓だろうか.




図5a. 紫檀木画槽琵琶
(表)



図5b.紫檀木画槽琵琶
(裏)



図5c.紫檀木画槽琵琶表捍撥
下部左は風景を賞でる二人の仙人か.




図6a.螺鈿紫檀琵琶(裏)

図6b.螺鈿紫檀琵琶(表)



図6c.紅牙撥鏤(こうげばちるの)撥
象牙を紅染めし模様を彫ってある.
左の螺鈿紫檀琵琶に付属.




図7a. 紫檀槽琵琶(表)
腹板は沢栗製.長さ 102.0 cm.

図7b.紫檀槽琵琶(裏)
最もシンプル.


図7c.紫檀槽琵琶
表捍撥
マガモを襲うハヤブサ.

図7d.紫檀槽琵琶
捍撥(模写)





図8a.螺鈿紫檀阮咸(表)
柱(じ)が多く,撥を使わず,指弾していたらしい.密閉胴.

図8b.螺鈿紫檀阮咸(裏)




図8c.螺鈿紫檀阮咸(表捍撥部分)
何やら琵琶を弾いているようだ.





図8d.螺鈿紫檀阮咸(げんかん)




図9a.桑木阮咸(表)
長さ 102.8 cm.


図9b.桑木阮咸(裏)
中央部に東大寺の刻銘がある.

図9c.桑木阮咸表捍撥部分
(樹下囲碁図)





図9d.桑木阮咸復元模造品


図9e.桑木阮咸表捍撥(部分)
碁を楽しむ仙人たちが描かれている.





この他の弦楽器には,琴(きん)1 面の他,箏,新羅琴(伽耶琴),和琴(わごん),アッシリア起源ハープの箜篌(くご)などがある.


図10a.金銀平文琴(ひょうもんきん)(表)

図10b.金銀平文琴(裏)
桐材で7弦.長さ114.5 cm.日本の所謂琴(こと)とは異なり,琴柱(ことじ)が無く,左手で押さえて音程を調節する.
本品は814(弘仁5)年嵯峨天皇の借り出したものの代納品.裏面に 乙亥年(735(唐の開元23)年)の記銘あり.



図10c.金銀平文琴(表部分)
阮咸と琴を弾じ,酒を飲む仙人が描かれている.




図11a.新羅琴(しらぎのこと)

図11b.新羅琴(裏)
12弦で肩に掛け演奏する.桐製.全長 158.2 cm.朝鮮半島では伽耶琴と言う.本品は823年(弘仁14年2月)嵯峨天皇が借り出し,同年4月返納された代替品.



図11c.新羅琴の琴柱(ことじ)
金泥絵が描かれているのが珍しい.

図11d.新羅琴の琴(表部分)





図12.桧和琴(わごん)
我国固有の楽器で6弦.桧材で長さ156.0 cm.裏に「東大寺」の銘あり.




図13a.箏(そう)残欠
13弦.復元長190.4 cm.後世のように桐の一木造りでなく,種々の材を使用し,内部に補強の支持材が入っている.




図14.螺鈿槽箜篌(くご)(明治時代の復元)
百済琴(くだらごと)とも呼ばれる.アッシリア起源の竪琴で23 弦,西洋ではハープとなった.縦の響板は桐製.総高 148.5 cm.



管楽器類は横笛4管と尺八8管の他,笙・竿(う),中国南部起源のパンパイプ,簫(しょう)が伝わる.


図15a.彫石横笛(おうてき)
蛇紋岩製で7穴.長さ37.1 cm.



図15b.牙(げ)横笛
象牙製.長さ 32.4 cm.




図16a.刻彫尺八
唐式の6穴.マダケ製.長さ43.7 cm.



図16b.牙尺八
現存唯一の象牙製.長さ 35.2 cm.




図17.呉竹笙と竿(う)
笙は長さ 53 cm.「う」は長さ 79 cm で,笙より1オクターブ低い音を出す.共に 17 管.中国南部に起源を持つアジア独特の楽器.




図18.甘竹簫(しょう)(復元模造)
簫はパン・パイプの一種で,秦時代には存在していた,南アジア起源の古い楽器. 幅31.0 cm.



打楽器はインド発祥の磁鼓 1 口,漆鼓 22 口他がある.


図19.三彩鼓胴



この他,法隆寺には二鼓(にこ)や三鼓(さんこ)などが伝わっている.


図20a.三鼓(奈良時代)

図20b.二鼓(奈良時代)



正倉院に収められた鏡に演奏風景が描かれている.


図21.金銀山水八卦背八角鏡(部分)
仙人が音楽を楽しんでいる.径 47.7 cm.



唐の人々が音楽を楽しんだ様子が唐三彩俑として残されている.


図22a.三彩駱駝載楽俑
西安市西郊出土
陜西省歴博蔵

図22b. 左から歌手,続いて拍板,横笛,
琵琶を演奏する楽人.


図22c. 左から笙,箜篌,縦笛,排簫を演
奏する楽人.



(2009年11月)


[参考] 関根真隆『新編名宝日本の美術 正倉院』(小学館,1990年7月)
     奈良国立博物館編『正倉院展目録』(奈良国立博物館,1988年,1990年,1991年)
     北啓太監修 別冊「太陽」日本のこころ143『正倉院の世界』(平凡社,2006年10月)

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