国立市の高層マンション訴訟で
「不当マンションの一部取り壊し」を命じる、
画期的な判決が下りました。

いまや全国的に続出している高層マンション紛争で、
「住民側」にとっての光明を示す、重要な判決です。

“街並みの景観”“街としての資産”とを、
高層マンション建築業者から守るうえでの大きな前進だと思います。

全国的なニュースとして、多くの新聞、テレビで報道されましたが、
2002年12月18日(水)および12月19日(木)の
朝日新聞に掲載された一連の関連記事を以下に掲げます。


2002年11月18日(水)朝日新聞夕刊 第1面

(記事全文)

国立の高層マンション訴訟
20メートル超の部分撤去命令 〜 地裁判決 景観利益認める

 

 東京都国立市の「大学通り」沿いに建設された高層マンションが「建築基準法に違反する建物で、景観権を侵害する」として周辺住民ら50人が、マンション4棟を建築した明和地所(同渋谷区)や入居者113人などを相手に、高さ20メートルを超える部分の撤去を求めた訴訟の判決が18日、東京地裁であった。宮岡章裁判長は「特定地域で独特の街並みが形成された場合、その景観利益は法的保護に値する」と述べ、大学通りに面する1棟について、7階以上にあたる高さ20メートルを超える部分の撤去を命じた。

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 景勝地などで眺望の利益を認めた判決は過去にもあるが、都市景観の利益を理由に建物の撤去を命じた判決は初めて。

 このマンションは「クリオレミントンヴィレッジ国立」。14階建てで、高さ約44メートル。JR国立駅からのびる「大学通り」に面している。昨年3月の提訴時には建築中だったが、すでに完成。今年2月に総戸数343戸のうち、209戸が分譲された。

 ただ明和地所によると、撤去を命じられた棟は賃貸用で、現在入居者2世帯だけ。うち1部屋が撤去対象の7階以上にある。

 建築計画が99年に持ち上がった時点で反対運動が起こり、00年1月には高さを20メートルに制限する市条例が成立。その条例の規制が及ぶかどうかと、景観保全が権利として認められるのかが争点となった。

 判決はまず、どんな景観が法的保護に値するかを検討。「ある地域の住民らが相互理解と結束のもとに一定の自己規制を長時間続けた結果独特の都市景観が形成され、広く一般社会からも良好な景観と認められて付加価値が生まれた場合には、地権者に法的な景観利益が発生する」との一般判断を示した。そのうえで、国立市の大学通りの景観について「広い直線道路が続き、建物が並木の高さの20メートルを超えない良好な都市景観が形成されている」と認定した。

 さらに、明和地所側が地権者らとの協議をせずに建築を強行した点を重視。「社会的使命を忘れて自己の利益の追求のみに走った」と厳しく批判し、景観利益を守ろうとする住民の受忍限度(我慢の限界)を超えた建築物で、不法行為が成立すると判断。マンション近くの3人の住民の景観利益を侵害すると結論づけた。明和地所に対し、撤去するまでこの3人に毎月1万円と、弁護士費用900万円の支払いを命じた。

 ただ判決は、景観権の成立までは認めなかった。また、条例施行時点ですでに建築中だったことから、建築基準法には違反しないと指摘した。

(写真キャプション)大学通り(手前)に面するマンションの高さ20メートルを超える部分の撤去が命じられた。

 


同11月18日(水)朝日新聞夕刊 社会面

(記事全文)

国立マンション訴訟
「一部撤去」喜び・驚き 〜 原告「景観保護、鮮明に」 業者反発「実効力は…」

 

 「20メートルを超える部分の撤去を命じる」………裁判長が主文を読み上げると傍聴席から拍手が起こった。18日の東京地裁判決は、景観保護運動を続けた住民側の主張をいれ、東京都国立市の「大学通り」沿いに建設されたマンションの高層部分の撤去を命じた。一方、マンション業者は「実効力があるのか…」と猛反発している。

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 判決を受け、原告と弁護団は記者会見し、「勇気ある判決」と繰り返した。

 河東宗文弁護士は「景観権までは認められなかったが、景観は保護に値する利益だとはっきり言ってもらった。また、景観受忍限度論の中に位置づけた」と判決の画期性を指摘した。

 後藤邦春弁護士も「景観が一朝一夕になったものでないことを重視してもらった。長年にわたる住民の努力や熱い気持ちを理解してもらえた」と話した。裁判所の現地調査も高く評価した。

 原告で「東京海上跡地から大学通りの環境を考える会」代表は「判決を聞いて、司法の存在がかくも強くありがたいものだと感じた。判決でも糾弾されたが、開発業者は私企業のソロバン勘定だけではなくて、周囲のことも考えるべきだ」と話した。

 マンション付近は18日朝、散歩する人や買い物に向かう自転車に乗った女性らがいる程度で、ふだんと同じ風景だった。

 マンションに住む30代の男性は「下半分は残るわけだから、痛み分けといったところでしょうか。いずれにせよ、裁判であれ、和解であれ、早く決着がついてほしい」と話した。男性の住む棟は撤去対象ではないが、撤去される可能性があると思って7階より下の部屋を購入したという。

 問題となったマンションはJR国立駅前の大学通りにある。27年、一橋大(当時東京商科大)の都心からの移転にともなって大学通りの原型はできた。82年には都の「新東京百景」に選ばれた。

 当初、マンション訴訟の原告団幹事を務めていた国立市の上原公子市長は「判決文をすべて読んでいないが、景観についての法的利益が認められたということで画期的な判決と思う。日本でもようやく景観が重要だと言うことが裁判で認知されたのかな、という気がする」とコメントした。

 ある大手不動産会社の担当者は「建設に理解を得るのは当然だが、建てたものを一部撤去するなんて不可能だ」と話す。マンションはすでに完成、入居者もいる。この担当者は「判決にどの程度実効力があるのか…」と首をひねる。

 別の不動産関係者は「今まで高い建物がなかったというだけえで、高い建物を建てるなというのはおかしい。判決で国立の地価が暴落するんじゃないか」と皮肉る。

 大手マンション業者の担当者も「地域の『景観利益』というのは新しい概念。業界にとっても画期的内容」と驚きを隠さない。ただ、「一部の地元住民の景観論争にとどまらず、行政が条例を定めた。それを無視した点に問題があった。計画後でも業者側に変更する努力が必要だったのでは」と、国立のケースは特異例との見方を示した。

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 予期せぬ判決だ。

 明和地所の話 予期せぬ判決だ。判決文を十分検討し、今後の対応を決めたい。

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 (写真キャプション)マンション訴訟に勝訴し、記者会見する住民側代表=18日午前、東京霞ヶ関で

《解説》

地域と「共生」 業者に求める

 国立市のマンションの高層部分の撤去を命じた18日の東京地裁判決は、都市景観について、景観で得られる利益に私法上の権利地域住民に認めた初の司法判断となった。開発業者が住民との協議を十分に行わなかったことに厳しい目を向けており、今後の開発では、地域との「共生」という視点が強く求められる

 判決は、都市景観が自然的景観と違い、地域住民が結束して自己犠牲と努力を払って形成されるものだ、と指摘。マンションが建つ「大学通り」の景観形成にあたって、並木の高さの約20メートルを超えない土地利用を約70年以上も続けてきた歴史を重視した。

 一方で判決は、こうした具体的な努力に基づかない「抽象的な環境権や景観権は直ちに法律上の権利として認められない」との留保もつけた。

 国内では「景観法」の制定に向けた議論は始まったばかりだ。景観問題に詳しい北原啓司・弘前大助教授は「今後、検討される景観法は、景観を育てるという視点から市民参加型の法制度とすべきだ」と話している。(大島大輔)

 

翌11月19日(木)朝日新聞朝刊 社説欄

(社説全文)

街並みは公共財産だ

 

 東京近郊のJR国立駅からまっすぐ南に延びる1.2キロの道路は「大学通り」と呼ばれ、171本の桜と117本のイチョウが植えられている。
 樹高が20メートルほどにそろえられた並木道である。景観の美しさから「市民の財産」という超えも聞かれる。
 その通りに面して建てられた高層マンションをめぐって住民が起こした裁判で、東京地裁は、高さ20メートルを超える部分を撤去するよう業者に命じた。14階建てマンションのうち7階以上が対象となる。

 ながい年月を掛けて培ってきた景観を守りたい地域住民と、土地を少しでも生かしたいマンション業者の争いだ。当方の利害や価値観がぶつかりあった時に、どう考えるかが問われる裁判だった。
 判決は、
景観を守るために業者のもつ財産権を制限し、建物の撤去を命じることもあり得るという判断を示した。

 その論理はこうだ。
 住民達が犠牲を払って続けた努力の結果、街のたたずまいが評価され、それによって土地の価値が上がることがある。
 その場合、住民は景観を守る義務を負うとともに、
ほかの人にも守るよう求める「景観利益」を持つ。それが侵害されれば、賠償を求めることができる。

 これまでは街並みの美しさが壊されても、対抗する手だてが不十分だった。「景観利益」という新しい考え方で司法救済に道を開いたものとして評価したい。

 国立の大学通りでは、20メートルを超える建物を建てないよう営々と住民は努めてきた。70年代前半には、通りにかけられた歩道橋が美観を損なうとして、住民が撤去を求める裁判を起こしたこともあった。
 ところが業者は、住民や行政と十分協議をせずにマンション建設を強行した面がある。それでいて、自ら
街並みの美しさ買い手にアピールしたのである。
 「社会的使命を忘れて、自己の利益追求のみには知る行為」と判決が批判するのもうなずける。だからこそ、撤去という異例の結論が導かれたのだろう。

 判決について、景観保護を重く見るあまり業者の財産権を侵している、という意見もあるだろう。前から済んでいる人々の既得権を優先したとの批判も予想される。
 
しかし、判決から読みとるべきは、街づくりの大切さではないか。

 欧州では、多くの都市で建物の高さや建築様式、色合いなどを揃えている。それが整然とした美しい街並みにつながる。私たちも見習いたいものである。

 今回の判決を機に、住む地域を公共の財産として考えよう。住民や行政、議会が一緒になって街づくりのルールを話し合い、みんなで尊重していく気風を作ることにつなげていきたいものだ。
 国立の住民舘が地道に続けてきた努力はそのよい手本である。


翌11月19日(木)朝日新聞朝刊 総合欄

(記事文 一部抜粋)

国立マンション訴訟
高層人気 地域と摩擦 〜 規制緩和も一因に

 

 入居済みの14階建てマンションの7階以上の部分を撤去する………東京都国立市に建設されたマンションの訴訟で、東京地裁は18日、衝撃的な判断を示した。街並みの景観日当たり圧迫感………。高層マンション建設を巡る不動産業者と地域住民のトラブルは、各地で絶えない。判決の波紋が広がった。

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 「こんな判決が出るとは夢にも思わなかった」。被告である明和地所の社員はこう言った。判決後、同社の株価は一気に値を下げた。全日終値の856円から100円下げてストップ安。756円は年初来の最安値だ。

 国土交通省によると01年度の分譲マンションの新築着工戸数は約22万戸で3年連続の増加だ。
 不動産経済研究所によると、今年1年の首都圏のマンション販売は約8万7千戸と予想され、過去3番目の大量供給だ。03年も8万6500戸の供給が見込まれていて、20階以上の超高層と300戸を超える大規模が売れ筋だ。高さに関する既成が一部緩和されるとともに、都心部に工場跡や社宅後など広い土地が売りに出たことが高層化を後押しした。

 一方で、売れ筋マンションは「高い壁のようになり威圧感がある」「高層で景観を悪化させる」と住民との紛争も多い。不動産会社の担当者によると、地域住民の対策は「最も気を使う」という。ただ「建築基準法などの法律をクリアしている場合、話し合いといっても限度がある」といい、計画よりも階数を少なくするなどした上で、建設する場合もある。

 大手不動産会社など240社が加盟する不動産協会は「大変驚いている。今後の事業活動に安心して取り組めないことにもなりかねず、非常に危惧している」とコメントした。


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