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「暑い―」 「暑いよー」 「暑いんだよー」 「あーつーいーよー」 「あーつーいーよーおー」 「ああもうやかましい!」 ずべしとチョップを頭に叩き込む。 「痛い――――――――っっ」 嘘つけ。そんな強く叩いてないぞ。少なくとも唯子にダメージ深く行くほど叩いてない。 「酷いなあ、しんいちろの乱暴もの」 唇を尖らせる唯子。 「暑い暑い五月蝿いからだ」 聞かされてるこっちまで暑くなってくるじゃないか、鬱陶しい。 「だってぇ、暑いものはしょうがないじゃんかさー」 「それなら家に帰って愚痴ってくれ。どうして俺の部屋で唯子の愚痴を聞かされなければならないんだか、俺は不思議でならないっての」 「しんいちろが宿題見てくれるっていうから」 確かに最初はそうだった。でも……むかつく。 「俺より唯子の方が勉強出来るんじゃ、教えてやりたくてもどうにもならないじゃないか」 ったく、この難易度はお姉ちゃんの領域だぞ。 「うーん、ちょっと予想外だったねー」 嫌味か。 いや、唯子は嫌味じゃなくて言うから性質が悪いんだよな。 「とにかく、俺にはお手上げだから、お姉ちゃんにでも頼んでくれ」 お姉ちゃんは唯子が所属している護身道部の部長さんだ。 「ん、そだね。そーするよ」 にぱっと笑う唯子。まるでお日様のようだ。 「ああ、そうしてくれ」 にぱっとした笑いに暗黒のものを感じた。何か言うつもりだなこいつ。 「ついでにしんいちろの学業の遅れについても報告させてもらおっかにゃー♪って、 いったーいっ!」 予想通りにろくなこと言わなかったので、チョップを再度突き刺した。 ただ、今度は少し強めにいったので本当に痛かったかもしれない。でも唯子は頑丈だから、多少痛くしても何の問題もなし。 「うう、酷いよしんいちろ。今のはほんとに痛かったよ。星出た」 「こういう目に遭うとわかっていながら不穏当な発言をする唯子が悪いんだろ」 余計なことを言い過ぎるんだから。 「これに懲りたら変なことを俺の前で言わないように」 「ううっ、勝手だよしんいちろは。陰口言えば「陰口言うな」ってチョップしてくるし」 「ばれないように言うものだろ陰口ってのは」唯子のはバレバレなんだよな。自分で口滑らすもんだから。 「気をつけるよ、もう痛い目に遭いたくないもんねーだ」 舌を出す、本当にむかつくやつだな。段々俺まで暑く感じるようになってきた。怒りで。 「どうしてこんなに暑いのにエアコンつけないのさー!ぷんすか」 「7月の頭からエアコンに頼るわけにはいかないの」今からエアコン頼りにすると、夏を乗り切れない気がしてしょうがない。 「ぷー!」 何が「ぷー!」だ、言いたいのは俺の方だぞ、まったく。 「そんなに暑いのが嫌ならプールにでも行ってくればいいじゃないか」俺の家にいたってしょうがないだろうに。 「嫌だよー。プールなんか一人で行っても面白くもなんともないじゃんかさー!」 確かにそうだなあ。俺的に付き合いたいと思わないこともないけど、唯子と一緒だと目のやり場に困るんだよなあ、小鳥だとそれほど気にすることもないけど、唯子の場合はスタイルいい上、背もあるから目立つし、俺とのバランス的にも行きたいという気があまり起きない。 「だったら我慢しろ我慢。俺だって我慢してるんだし」 護身道をやっている人間が忍耐も養わんでどうするんだか。お姉ちゃんを見習えお姉ちゃんを。 あんなに落ち着いているじゃないか。 「もー!唯子怒っちゃうから!」 暑さにやられたのか、妙にぷりぷりしてるなこいつ。 少しガス抜きしてやっ他方がいいのかもしれない。 「あーはいはい。落ち着いて落ち着いて。そうだ、ジュースでも飲むか?」 「いらない」 む、拗ねてる。 「それより、しんいちろにお願いがある」 目が据わっているような。何だ一体。あまりにも唐突過ぎて腰が引けるぞ。 「何だよ。俺唯子を怒らすこと、した……か。いや悪かったよ。さっきは俺もちょっと苛々したし。でも唯子だって悪いんだぞ。俺の成績のことなんか持ち出してくるから」 「怒ってないよ!」 思いっきり怒ってるじゃないか。涙目になるぐらいに。 「わかったわかった。何だよお願いって」 本気で怒るとたまんないから、唯子の場合。落ち着かせよう。 「聞いたげるから、言ってみな」 すうっと、息を吸う唯子。しかし顔赤いな、そんなに暑いか?しょうがない、唯子のためにエアコンつけてやるか。 「唯子と暑さを共有して欲しい」 ……………………は? 何を言いたいのかわからない、と言おうとした瞬間、わかってしまった。 ベッドに押し倒されて、思いっきり口を塞がれてしまったから。 暑い。唯子の体が俺の上に覆い被さっている。 唯子の甘い匂いが鼻を擽って、真っ白になりそうになる。 身体が密着して、唯子の膨らみが押し当てられ、否応無しに緊張してしまう。 見開いた目で唯子を見る。唯子は目を閉じていた。でも、その表情で切羽詰った気持ちでいることがわかる。 「真一郎……」 ようやく解放された口。その俺の口を塞いでいた唯子の口から、囁くような唯子の声。 いつもの子供みたいな声じゃない、大人に近い、高校生の女の子の声。 「好き………」 そして再び俺の口を塞ぐ。今度はそれだけじゃなく、口の中まで塞いでくる。 唯子の気持ちを目一杯詰め込んだ舌が、俺を刺激する。 頭の中が唯子で一杯になる。一緒に遊んでいる姿が、お風呂に一緒に入った姿が、俺に笑顔を向けてくれてばかりいる思い出が。俺の中でいくつもいくつも蘇っていく。 同時に湧きあがってくる気持ち。 愛おしさ、喜び。 唯子はこんなに俺のことを好きでいてくれている。昔からずっと俺と一緒にいて、俺のそばにいて、ずっと俺を見ていてくれた。 好きでいてくれた。 俺も、俺だって。 ずっと一緒だった。唯子のことをずっと見ていた。 一緒にいて楽しい。嬉しい、昔から。そして、今も。 唯子の背中に手を回し、ぐっと強く抱きしめた。 俺の気持ちも舌に乗せて、唯子の気持ちと絡め合う。 2人で溶けていくかのように、真っ白になっていく。 背中に回した手が暑い。覆い被せられた身体が暑い。 今、間違いなく俺たちは暑さを共有していた。 「にゃ、にゃははははははは」 しばらくそうして、ようやく唇を離した唯子が照れくさそうに笑う。 「唯子、暑さにやられちゃったみたい。ごめんしんいちろ。唯子襲っちゃった」 俺が何も言わないのが不安なのか、唯子は積極的に言い訳している。 「本当にごめん、ごめんなさい……だから……唯子のこと、嫌いにならないで……」 そして、ついには泣き出してしまった。 まったく、いつまでたっても本当に子供なんだから、こいつは。 俺が何のために背中に回した手を外さないのか、わからないかなあ。 ぐいっと唯子の背中に回した手に力を入れて、唯子を抱き寄せる。 「ひっっ!?」引きつった声。脅えないでいいのに。 そして俺の口に近い場所に唯子の耳を持ってくる。 出来る限りの優しい声で言う。わかるだろ?いっつも聞かせてやってたから。俺がこういう喋り方をする時はどんな気持ちなのか、って。 「ばか唯子。暑くなった時、どうすれば気持ち良くなるか、教えてあげるよ それはね、思いっきり汗かくんだ。そしてシャワー浴びればすっごくすっきりする。 …………一緒に、思いっきり汗、かくか? 俺、唯子と一緒に、めちゃめちゃ汗かきたいんだけど……」 「んっくっっ……」 言い終えると同時に、今度は俺から口を塞ぐ。背中に回した手を唯子の頭に回し、唯子のさらさらな髪を指に絡ませながら、舌を絡ませた。 唯子は最初戸惑ってたけど、俺の背中に手を回し、俺と同じように舌を絡ませ………… こうして2人は回りも羨むような「暑々カップル」になりましたとさ。 「もーしんいちろってば。そういう時は「熱々カップル」って言うの!」 おしまい 2003・7・6UP あとがき; 土曜日に久慈光樹さんに「えっちものに期待」みたいなことを言われたので、少しツッコミ気味なものを予行演習的にソフトなものを一つ(爆)。 |